• 検索結果がありません。

鎌 田 彰仁

N/A
N/A
Protected

Academic year: 2021

シェア "鎌 田 彰仁"

Copied!
23
0
0

読み込み中.... (全文を見る)

全文

(1)

鎌 田 彰仁

はじめに

近年,円高・貿易摩擦という経済状況の中で,外資系企業の対日進出意欲は 急速な高まりを見せている.とくに1980年以降は,外国為替及び外国貿易管理 法の改正により外資の対日進出が「原則自由化」されたこともあり,外資の

「日本」認識が変化し,並行して進出形態や在日活動も積極化し,日本法人の 重要性も増してきている.今日では,日本は外資にとり単に収益的市場である だけでなく,世界企業として発展するには日本にプレゼンスを有することが不 可欠とまで言われている.この意味で,外資系企業による日本市場参入戦略は

「転換期」を迎えている.

実際,近年では有力外資系企業を中心に,世界市場と成熟化・高度化する日 本市場とを有機的に結合する経営戦略が始動を開始している.外資の対日進出 の急増とか,在日活動の積極化という現象を支えている,新たな対日経営戦略 とはなにか.また,外資の経営戦略の変化が,事業活動の上にどのように反映 されているのか.本稿は,変化する経営戦略と事業活動の分析を通して,転換 期における在日外資系企業の動向をあきらかにすることを課題としている.

そこで以下では,外資の対日進出の推移と現状を概観した上で,近年の対日 経営戦略の変化と事業展開の特徴を分析し,転換の内容,と方向を解明する.こ れを踏まえて,転換の主体となる外資系企業(日本法人)の組織特性と事業活 動上の問題点とを,経営の成功要件の視点より分析してみることにしたい.

1 対日進出の推移と経営動向 1 対日進出の推移

(2)

q)対日直接投資の推移

戦後,政府は日本経済の自立化に寄与する優良外資の選別導入を狙いに,ユ9 49年に外為法を,翌50年には外資法を制定した.この法制下で,50年代には,

欧米諸国からの技術導入による基幹産業の育成を主眼に,優良外資の選別導入 がはかられた.しかし,この時期の対日進出の形態は,主に技術の現物供与に 対する株式の取得という形式での合弁事業が中心で,日本側の要請に外資が応 えるという事例が大半であった.50年代末から60年代にかけては,外資法の制 約を受けない円会社が多数設立されたり,高度成長を背景に合弁企業の設立が 活発化してくる.

70年代になると,資本自由化にともなう制限措置の緩和を背景に外資の対日 直接投資が本格化し,とくに80年の外為法改正以降は,急速に拡大してきてい る.大蔵省統計でみると(図1),70年代以降,石油危機など世界経済の変化

図1 対日直接投資等の推移

(百万ドル)      (件)

1,500

700

認 L400 口認可・届出額

1,300

一新設企業件数

600

可 L200

1,100 500

900 400

届 lll

出 :ll

300

400 200

額  300

200 100 100

0

56  66  68  70  72  74  76  78  80  82  84  86 o

50616769717375777981838587(年)

資料:大蔵省

高P:50年は50−−55年,56年は56−−60年,61年は61−−65年の累計

にともなう破行性はあるが,対日直接投資は順調に推移し,87年度までに累計 で約85億ドルに達している.これを76年から85年までの10年間でみると,76年一

(3)

80年が約15億ドルに対して,81年一85年は約33億ドルと倍増しており,80年以 降急激に増加している.さらに,86年(約7.5億ドル),87年(約14.5億ドル)

も引き続き増加を続けており,円高という逆風にも関わらず,外資の対日直接 投資は依然として活発である.

また外資系企業の新設件数も,1970年代後半は累計で1452社であるのが,80 年以降は急激に増加し,81年から85年では累計で2678社を数えている.86年,

87年の両年度は,いずれも前年比で減少に転じてはいるが,それでも年間600 件を超える企業の新規進出が続いている.

(2)対日直接投資の内訳

次に対日直接投資の累計(50−87年度)をみると,地域別では(表1),ア 表1 対日直接投資の内訳(1950−1987年度累計)

地  域  別 業  種  別

北   米 4137(48.9) 製  造  業 5804(68.5)

アメリカ 4010(47.4) 化  学 1916(22.6)

カナダ 127(1.5) 機  械 2176(25.7)

欧   州 2022(23.9) 石  油 650(7.7)

427(5.0)

スイス 565(6.7) 食  品 169(2.0)

イギリス 402(4.7)

ガラス・ゴム・紡績

212(2.5)

西ドイツ 347(4.1) その他 254(3.0)

オランダ 259(3.1)

フランス 164(1.9) 運輸・通信業 ll2(L3)

その他 285(3.4) 建築・不動産業 75(0.9)

日   本

1347(ユ5.9)

商事貿易業 1138(13.5)

香   港 317(3.7) サービス業 393(4。6)

そ の 他 638(7.5) その他業種 937(11.1)

合   計

8461(100.0)

合    計

8459(100.0)

資料:大蔵省

注1:単位は百万ドル/(%)

注2:日本は外資比率50%以上の在日外資系企業による投資を指す

メリカを中心とする北米が5割弱(47.4%)で首位を占めている.次いで,ス イス,イギリス,西ドイツ,オランダ,フランスを中心とする欧州が23.9%を

(4)

占める.欧米諸国以外では,香港が3.7%と比較的多いほか,在日外資系企業 による再投資額が15.9%を占め,欧州に準ずる投資規模に達している点が注目 される.さらに80年以降は,香港,台湾などアジア系企業の対日投資も活発化 してきている.

また業種別では(表1),製造業での投資累計が68.6%,非製造業が31.4%

を占めている.製造業の占める比率が圧倒的に高いが,中でも機械が25.7%,

化学が22.6%で,両業種で製造業全体の約7割(70.4%),全業種の約5割(48.3

%)を占めている.非製造業部門では,代表的業種である商事貿易業(13.5%)

の投資が中心であるが,ディレギュレーション(規制緩和)の進展を背景にサー ビス業も4.6%と少なくない.

最近の投資動向をみると(通産省[18]:516−9),81年から83年には化学が 全業種の30%超の投資を,84年から85年には機械が同様の水準で推移している 点が注目される.これは,日本産業のハイテク化にともなう化学工業のファイ ン化,機械工業のメカトロ化への対応を反映したものである.また日本経済のソ フト化・サービス化とか,規制緩和の進展などを背景に,84年には,サービス業 による投資が全業種の10.8%,その他業種が22.3%と大幅にシェアを高めてい る.製造業にくわえて,非製造業の対日直接投資も次第に活発化してきている.

(3)在日外資系企業の進出年次別比率

このように,外資の対日直接投資行動は日本の産業構造の転換や経済社会環 境の変化と対応しながら推移している.ちなみに,外資の対日進出の推移を進 出年次を指標として見てみると(表2),1970年以前に進出した企業が26.2%,

表2 進出年次別企業数比率(%)

1970年以前 1970−79年 1980−87年 全  業  種

26.2 47.0 26.8

製  造  業

34.5 43.2 22.3

(製造 業) (30.9) (45.2) (23.9)

商    業

23.2 48.8 28.0

サービス業

12.0 44.3 43.7

その他業種

21.5 51.0 27.5

出所:東洋経済新報社『外資系企業総覧』各年版より作成 注:(製造業)は石油を除く製造業の比率

(5)

1970年代が47.0%,1980年以降が26.8%となる.これを業種別にみると,70年 以前の進出企業は製造業(34.5%)が中心であるが,70年代になると商業(48.

8%)やその他業種(51.0%)の比率が高まり,80年以降はサービス業の進出 が急増している.外資の対日進出にも,工業化から脱工業化への変化が読み取

れる.

1970年以前の外資進出は,主に化学・機械を中心に,合弁事業による基幹産 業の育成を目的とする日本側の要請に応えるものが中心であった.これが70年 代に入ると,製造業では準メジャーズの進出は続くが,石油危機など世界経済 の変化により,メジャーズによる在日活動の拠点設置と本格的な参入は中断さ れる.しかし,石油危機以後の日本経済の急速な回復にくわえて,資本自由化 の進展により外資の参入条件が段階的に緩和されてきたことなどから,商業,

その他業種の進出が活発化してくる.

さらに80年以降は,80年の法改正にともなう新規事業機会の可能性や日本産 業のハイテク化,ソフト化・サービス化の進行,日本市場の規模拡大などを背 景に,サービス業の対日進出が活発化してくる.この時期は,金融やコンピュー

タ販売,医薬品販売など,最先端産業に属する分野が中心となる.サービス分 野自由化に対応した外資の対日進出が80年代の特徴である.また80年代にはサー ビス業を中心とする新規進出だけでなく,既進出企業による拠点再編の動きも 積極化してくる.

2 在日外資系企業の経営動向

(1)企業数

通産省の外資系企業動向調査によれば(通産省[2]),集計企業1108社の国 籍は,北米企が45.3%を占めて最も多く,次いで欧州系41.2%,アジア系9.6%,

その他4.0%と分布している.北米系ではアメリカが44.0%,また欧州系では 西ドイツが10.4%,イギリスが6.8%,スイスが6.5%,フランスが5.2%で,全 体としては,アメリカが全国籍の4割超を占めて他国を圧倒している.アジア 系企業に関しては,アジア全体の39.6%を香港国籍の企業が占めている.

これを業種別にみると,製造業が49.4%,商業が38.0%,サービス業が9.8%,

その他業種が2.8%となる.製造業が全体の約5割を占めているが,国籍別に みると,北米系では59.0%,欧州系でも48.5%であるのに対して,アジア系で

(6)

は20.8%にすぎない.反対に商業は,アジア系が69.8%と突出しており,北米系 では28.3%,欧州系でも40.1%にとどまる.欧米系とアジア系を比較すると,

欧米系企業は製造業の比重が高いが,アジア系企業は商業に偏重しているのが 特徴である.

また外資比率別の構成比は,外資比率100%の完全子会社企業が47.9%,外 資主導型合弁企業(同50%超一100%未満)が21.9%,対等合弁企業(同50%)

が30.1%である.全体の5割弱が完全子会社企業で占められているが,商業で は55.6%,サービス業では50.5%,その他業種では54.8%が完全子会社企業で ある.しかし,製造業でも完全子会社企業の比率が44.1%に達している.趨勢 としては,近年,経営の支配権に対する外資の関心が強まり,完全子会社企業 が増加する傾向にある.

(2)従業員数

次に,従業員数を見てみよう.集計企業全体の従業員数は約15万5000人で,

全法人企業の従業員数に占める比率は0.5%である.これを地域別にみると,

北米系企業が11万4000人(73.5%),欧州系企業が3万5000人(22.6%)で,

北米系企業の従業員数が突出している.業種別では,製造業が12万3000人(79.

4%),商業が2万3000人(14.8%),サービス業が8000人(5.2%)で,全従業 員の8割が製造業で占められている.近年,非製造業の対日進出が活発化して いるが,進出企業の経営規模は中小が多数であることから,製造業と比較する と雇用吸収力は小さい.

また,親会社から派遣されている外国人の比率は,常勤役員で18.9%,管理 者では2.4%である.上級職ほど外国人比率が高いという傾向はあるが,管理 職はもとより,経営幹部層でも日本人が相当数登用されている.

(3)売上高と利益率

売上高を見ると,1987年度の在日外資系企業の売上高は10兆4205億円で,全 法人企業の売上高の0.9%を占める.地域別の比率は,北米系が65.2%,欧州 系が29.6%,アジア系が3.4%で,北米系企業が全売上高の6割強を占めてい

る.業種別では,製造業が70.6%で最も多く,次いで商業が27.9%,サービス 業が1.2%という構成である.製造業が全売上高の約7割を占めるが,内訳を 見ると,石油が全体の36。7%を占めて最も多く,次いで電気機械21.5%,化学

(7)

12.5%と続いている.石油,電気機械,化学の三業種で,製造業の全売上高の 約7割(70.7%)を占める.とくに石油の売上高は,全法人企業の売上高の約 3割(27.6%)にも達しており,外資系企業が国内市場において非常に高いシェ アを占めている.

また売上高経常利益率は6,1%で,全法人企業の2.5%を大幅に超過しており,

外資系企業は日本企業と比較すると収益性の高い経営を展開している.しかも,

利益率の推移をみると,近年,全法人企業が横ばいで推移しているのに比して,

外資系企業の利益率は年ごとに上昇している.さらに業種別に見ても,製造業 の利益率が6.9%(全法人企業3.7%),商業が4.0%(同1.2%),サービス業で は9.5%(同3.2%)にも達し,全業種とも外資系企業の収益性が日本企業を凌 駕している.とくに,商業,サービス業は,日本企業と比較すると高収益を上

げている.

(4)研究開発状況

最後に,対日R&D投資の動向を見てみよう.通産省の調査によれば,集計 企業全体の研究開発費は804億円(製造業650億円)で,対前年度比では18.4%

増(同12.5%増)となり,対日R&D投資の活発化が認められる.また,集計 企業における研究所数(125箇所→137箇所),並びに研究員数(5192人→5521 人)も,前年度より増加している.製造業を中心に,日本を単に市場としてだ けでなく,研究開発拠点としても評価する外資が増えてきている.

∬ 経営戦略と事業展開

1 進出形態の変化と既存拠点の再編

(1)外資比率100%子会社の増加

近年では,日本の市場規模が予想以上に膨張してきたことを背景に,外資の 新規進出あるいは既進出企業による既存拠点の再編などが相次いでいる.

外資系企業の対日進出の形態としては,基本的には,①日本企業との合弁,

②代理店を通じての販売,③100%出資の子会社設立という,三形態が挙げら れる.これを外資の進出過程と関連させるならば,まず情報収集拠点として駐 在員事務所を開設し,次に日本企業と提携して生産拠点(合弁企業)か,販売

(8)

拠点(代理店)を構築する.この経験を通じて市場構造や消費者特性などを理 解すると,次には日本企業との提携を解消し,100%出資の子会社を設立する.

さらに,日本市場の重要性や戦略的意義が評価されると,研究開発拠点まで設 ける段階に移行していく.

これに準拠するならば,外資の対日進出の三形態は並列的ではなく,基本的 には,駐在員事務所→合弁・代理店→100%出資子会社→研究開発拠点開発と,

段階的に進行するものと捉えられる.近年の外資系企業をめぐる動向を見ると,

前述したように,日本の市場規模が予想以上に膨張してきたことなどを背景に,

既進出企業が従来の合弁・代理店方式を解消し,新規に全額出資子会社方式に より生産・販売拠点を再構築する事例が増えている.また,1980年以降,外資 系企業の新設件数が急増しているが,業種的には資本装備率の低い金融・証券 業,サービス業などが中心であることも,外貨比率100%の子会社増加を増幅 する要因として機能している.

全額出資子会社方式では,とくに新規進出企業の場合には,外国人派遣社員 の経費,人材確保,事務所開設,販売網やアフターケア体制の確立などを含む イニシャル・コストの負担は大きい.しかし本国本社から見れば,親会社の経 営理念を浸透させ,自社製品や自社技術の優位性を打ち出し,投資効果を確実 にして高収益を実現することができる.リスクは高いが,自社の日本市場での 優位性を確保し,成功を十分に享受できる.このような理由から,全額出資子 会社方式を選択する企業が増加してきている.

(2)生産・販売拠点の再編

また全額出資子会社方式の増加に並行して,既進出外資系企業では,生産・

販売拠点再編の動きが積極化している(週刊東洋経済[16]).

合弁方式の場合,合弁相手となる日本企業の経営資源を内部化できる利点は あるが,反面提携先企業と経営目標を長期間共有することは困難でもある.さ

らに経営の主導権を掌握できない場合には,事業が成功すれば,合弁企業が競 争相手に転化する危険もある.また代理店方式では,不慣れな日本㎡場で一定 の販売実績を上げたり,市場での経験を蓄積できる利点はあるが,自社製品の 販売を排他的に優先させることは難しい.さらに,事業所向けで,技術力が要 求される製品を販売する場合には,顧客に対して十分な技術サービスを提供す ることも困難となる.

(9)

こうした理由の上に,日本市場の規模拡大という環境的要因が加わり,BM Wジャパンなど欧米自動車製造メーカーの動きに代表されるように,在日活動 の生産・販売拠点を再編する動きが活発化している.この拠点再編の動きが,

サービス業を中心とする新規進出の急増と重なり,外資比率100%の全額出資 子会社の増加を招いている.

(3)研究開発機能の強化

外資比率100%の全額出資子会社の増加,既進出外資系企業による生産・販 売拠点の再編にくわえて,日本での研究開発機能の拡充強化に取り組む外資が 増加しているのも,近年の特徴である.通産省の調査でも,研究開発費の増額,

研究所の新設,研究員の増員などをはかる外資系企業が増加傾向にあることが 実証されている.

研究開発機能強化の中核は化学や機械の分野である(日本経済新聞[7]).

これら業界では,日本は単に市場として量的に魅力あるだけでなく,経営戦略 の上から質的にも重要であるとの認識が定着してきている.すなわち,先端技 術産業が成長し,激烈な開発競争を繰り広げている日本の技術力を取り込み,

日本での成果を世界市場で積極的に活かすとの狙いである.この典型は,日本 をハイテク発信地として位置づけ,国内に研究開発センターを新設したイース

トマン・コダック社である.

最近ではコダック社のほか,西ドイッのヘキスト社(大手総合化学会社),

イギリスのアイ・シー・アイ・ジャパン(大手化学会社),アメリカのディジ タル・イクイップメント社(DEC),日本テキサス・インスッルメンッ(大手半 導体製造会社)なども,日本国内の研究開発機能の拡充強化に乗り出してきて いる.全般に,日本を米国,欧州と並ぶ重要な研究開発拠点として位置づけ,

対日R&D投資を積極化させている企業が増加してきており,この点も最近の 外資をめぐる動向として注目される.

2 経営戦略の強化と背景

(1) 「日本」認識の変化

以上のように,外資比率100%の全額出資子会社の増加とか,既進出外資系 企業による生産・販売拠点の再編,さらには日本国内の研究開発機能の強化な

(10)

ど,近年の外資系企業の経営活動は従来とは質的に異なる展開をみせている.

このことは,1960年代後半から資本自由化にともなう制限措置の緩和に負う ところが大きい.しかし,実質的には,GNPで世界全体の1割を占め,人口 で米国の約2分の1を占める日本の市場規模や高度な技術力,勤勉な労働力の 存在,さらにアジア地域への貿易拠点としての優位性,これらの結果としての 高い投資効率などへの評価によるところが大きい.日本は売上と利益を拡大す る機会の存在としてだけでなく,世界的な事業展開に占める戦略的重要性の観 点からも,高く評価されはじめている.

ちなみに,外資の対日進出動機の変遷を時系列でみると(豊島[14]:15−6),

対日進出の最大動機は当然「日本市場の成長性」にあるが,これに対する回答 率は,石油危機を経て,80年度調査では低下している.このことは,外貨サイ

ドから見て日本市場の魅力が低下したというよりは,全体として進出動機が多 様化してきたことによる.すなわち,近年では単に市場の魅力だけでなく,

「日本の高い技術水準」に対する評価が向上してきている.また生産拠点再編 の動きなどにより「原料調達上の利点」が,さらに金融緩和を背景に「豊富な 資金」に対する評価なども見直されてきている.

(2)経営戦略の強化と背景

このように,近年では外資の「日本」を評価する視点が変化し,対日戦略を より強化する企業が次第に増えてきている.この最大の原因は,世界的に見て 市場が成熟化している中で,日本市場が依然として成長と拡大を持続している

ことにある.このため,世界的視野から見れば,日本市場に対する関心がより 強まる客観的状況が存在する.これが,外資の対日戦略強化を支えている第一 の,そして最も基本的な要因である.

この上で,第二の要因として,外資の市場・顧客志向の強化を挙げることが できる.外資が日本で成功を収めるには,日本の市場・顧客の個性的な要求に 適合した商品・製品の供給とか,独自の販売網の確立,さらには適切なアフター サービスを実施できる体制の整備などが要件となるが,従来と比較すると,こ れに対する外資の理解と対応が次第に変化してきている.近年,日本の生産拠 点・販売拠点を再編したり,研究開発機能を強化・拡充する外資が増加してい るのも,市場・顧客志向を強化して日本市場の深耕をはかることが狙いにある.

しかし,外資系企業の対日戦略の強化の要因は,単に市場に対する関心によ

(11)

るだけではない.俗に,「日本で開発したものなら世界でも売れる」(デュポン 社幹部)とまで言われているように,市場・顧客志向の強化が「自社商品の市 場競争力を全世界的に高めるのに役立つ」(野村総合研究所[20]:4)との 認識も定着してきている.これが,対日戦略強化に係わる第三の要因である.

このことは,日本が外資の国際経営戦略上の重要拠点として組み込まれたこと を意味するが,世界的に見て市場が成熟化(飽和化)し,世界市場での国際企 業相互の競争が厳しくなるほど,この要因が外資系企業に対して持つ意味は案 外に大きい.

(3)ディレギュレーション

さらに,以上の諸要因に加えて第四には,1980年代における外資の新規進出 を支える要因として,政府によるディレギュレーション(規制緩和)の進展が 挙げられる(経済企画庁[11]).これより,外貨の参入条件が改善され,新規 の事業機会の可能性も拡大してきた.これに対応して80年代には,前述したよ うに,金融・保険情報通信,運輸・観光,専門サービスなどサービス産業を 中心に,外貨の新規参入が相次いでいる.経済社会の急速な変化や通商環境の 変化を背景に,サービス貿易に対する重要性が次第に増してきており,今後と もサービス分野では一層の自由化が予想されている.このため,日本経済の国 際化,ソフト化・サービス化の進展,並びに世界全体のサービス貿易の拡大と いう環境変化を背景にして,さ一ビス系業種を中心とする外資系企業の対日進 出か続くものと予想される.

以上述べた,近年の外資系企業における対日戦略強化の背景と要因を整理す ると図2のごとくとなる.

(12)

図2 対日経営戦略強化の背景と要因

背景   要 因  [ヨコ

市場規模の拡大     日本市場への関心増大

世界市場の飽和化

顧客ニーズの高度化    顧客対応による競争力強化

対日経営戦略 経済のソフト化    ユーザーサポートの重要化 強  化

規制緩和の進行     新規事業機会の可能性

注:野村総合研究所〔20〕を参考に作成

3 事業展開の方向と内容

q)流通・販売体制の再編:自動車

ところで,対日経営戦略の変化とともに,日本市場における外資の事業活動 も従来とは異なる方向で,新たな展開をみせている.

第一の方向は,欧米自動車メーカーに代表されるもので,流通・販売体制

(国内販売拠点)の再編強化という動きである(樋田[8]:267−310,Weeks

[13]:26−9,週刊東洋経済[6]:26−4).例えば西ドイツのBMW社は,

1980年,同社が攻略すべき世界市場を欧州,米国並びに日本に三分割し,従来 輸入代理店に依存していた日本市場に関しては,現地法人を設立して直接統括 するとの決定を下した.BMW社では,この決定に基づいて,翌81年,外資系

(13)

自動車メーカーでは初の外資比率100%の日本法人,BMWジャパンを設立し

ている.

日本法人設立の最大の狙いは,円高で日本市場での競争力が増大したのを背 景に,販売力が低下してきた日本市場を深耕することにある.そこでBMWジャ パンが最初に着手したのが,流通の整備・強化,具体的には,BMW社の専売 ディーラー(代理店)網の整備である.現在(1988年)同社には,乗用車に関

して直営店が全国に7店,代理店が約90店配置されているが,代理店の大部分 がBMW車だけを扱う専売店で構成されている.しかも同社では,これら専売 店の多くを新車の販売だけでなく,維持・修理,そして中古車までを手掛ける

フルパックディーラーとして配置している.これにより,「顧客の面倒を最後 までみる」という体制を敷くことが可能となる.

さらに,従来外車販売のネックとされてきたサービス工場の建設や部品の供 給体制に関しても,84年に総合サービスセンター(千葉県)を設立するなどし

て,迅速供給体制を確立している.BMW社に続いて,ボルボ社(スウェーデ ン),メルセデス・ベンツ社(西ドイツ)も日本法人を設立しているが(両社 とも86年),両社ともBMW社と同様,狙いは専売体制を含む販売網の強化と アフターサービス網の充実にある.

(2)市場・顧客志向の強化:機械

第二は,製造業を中心とする市場・顧客志向の強化という方向である.ここ では,世界市場の約3割を占め,米国に次ぐ世界第二の市場を形成している半 導体製造装置の分野を例にして,外資の動きを取り上げてみよう(野村総合研 究所[20]:5−8).

半導体製造装置は,過去は外資が独占状態を続けてきた分野であるが,近年 の日本市場でのシェアは20%前後と大きく後退している.当初,販売・サービ ス会社として事業を開始した米国のアプライド・マテリアルズ社も例外ではな く,顧客ニーズに対する対応やユーザーサポートの面で限界があり,日本での 売上は次第に落ち込んできた.このため同社は,ハイテク化の進展により質量 両面で重要性を増した日本市場を背景に,1979年,生産拠点化を目的とする外 資比率100%の日本法人,アプライド・マテリアルズ・ジャパン(AMJ)を 設立し,市場・顧客志向を強化している.さらに83年には,日本での開発・生 産拠点化を目的とするテクノロジーセンターを千葉県に開設し,在日活動拠点

(14)

の強化・拡充に乗り出している.

AMJ社の狙いは,先端技術製品の開発に意欲的で,製造装置の安全運転技 術(プロセス技術)にまで及ぶ「高度で」「厳しい」要求を課す日本の先進半 導体メーカーに密着することで,自社の開発力を高め,加速する技術陳腐化に 対応していくことにある.くわえて,最先端市場でのAMJの経験は,全AM Tグループの経営資源としても蓄積され,世界市場での競争力の強化にもつな がる.この意味で,半導体製造装置の分野では,日本は単に市場規模としてだ けでなく,品質・技術など質的な面から見ても,世界最大の戦略市場に変容し てきている.

(3)国際的市場開発の推進:化学

日本は,市場規模の点だけでなく,R&Dの拠点としても重要である.この ような日本再認識に基づき,日本での事業拡大をはかるとどうじに,対日R&

D投資を積極化させているのがデュポン社である.同社は,83年,従来の在日 活動の2拠点(デュポン・ファーイースト日本支社,デュポン・ジャパン)を 統合し,新たにデュポン・ジャパンを発足させるとともに,デュポン・三共医 薬をはじめとする合弁会社を相次いで新設し,日本での事業活動を拡大してき

ている.

しかし,同社の日本における事業拡大は,単に日本市場でのシェア拡大が目 的なのではなく,世界的な視野から見て日本の国際企業との取引(国内および 海外生産拠点への製品提供)が国際戦略の上で重要と判断し,「日本を舞台と

して国際的市場開発を行う」(塚本[19]:90)ことを最終的な目的としてい る.この背景には,日本の技術力の高さにくわえて,提供する素材に高度で厳 しい要求を課す日本市場は,「今後のデュポンの国際的な新事業の開発には不 可欠のテスト・グランド」(塚本[19]:90)との認識がはたらいている.

このため同社は,86年,技術サービスと応用研究(電子産業が主な対象)を 目的にした研究所(デュポン・ジャパン中央研究所)を設立している.これに より同社では,国内での技術サービスの効率化(設備の集約化)をはかると同 時に,日本の顧客と直接結びつくことにより,応用技術力を高め,国内・海外 を含めた日本企業の生産拠点に自社製品を供給する体制を整えようとしている.

くわえて同社は,日本の顧客の厳しい要求をクリアーした製品は全世界で通用 するというメリットを享受することも出来る.この意味で,同研究所設立の最

(15)

大の狙いは,国際戦略上の一環として,「デュポンの基礎技術と日本の応用研 究力との強力な繋ぎをする」(塚本[19]:91)ことにある.

(4)新たな事業機会の追求:金融・保険

80年代には,政府による規制緩和と日本経済のストック増大を背景に,金融・

証券分野を中心に対日進出や拠点拡大の動きが急増し,新たな事業機会の追求 が盛んである(野村総合研究所[20]:14−5).

しかし,在日外国銀行は資金調達コストが嵩む反面,資金運用先の開拓が遅 れ,業績的には停滞気味である.くわえて規制緩和は,外国銀行には特権略奪

(インパクトローンの独占的供与)として機能することから,外銀を取り巻く 経営環境は極めて厳しい.これを打開するため外国銀行は,収益性の高いディー リング業務を拡大すると同時に,証券業務への本格的な進出を企画している.

また85年には,外国銀行の信託参入が実現し,国際的な資産運用のノウハウを 武器に,日本バンカース・トラスト信託ほか数社が年金受託の実績を上げてい

る.

東京資本市場の成長を背景に急増している外国証券の分野では,1986年に,

大手外国証券会社6社(メリルリンチ,モルガン・スタンレー,ゴールドマン・

サックス,ジャーディン・フレミング,ヴィッカーズ・ダ・コスタ,S・G・

ウォーバーグ)が東証会員券を取得し,東京資本市場での地位を確立している.

会員6社は,国際分散投資ノウハウ,新商品開発力,豊富な海外情報などを国 内の機関投資家にアピールし,事業拡大をすすめていくものと予想される.

また外国生保は,古くからガン保険(アメリカン・ファミリー),最近では 変額保険(エクイタブル生命保険)に代表されるように,常に日本の生命保険 業界における新商品開発の担い手として活動してきた.外国生保にとり,高齢 化が進行する日本市場は極めて有望な市場であることから,商品開発力,資産 運用力をフルに発揮し,消費者ニーズに対応した新型保険の開発が期待されて

いる.

皿 経営組織と事業活動上の課題 1 経営組織の構造と特性

(16)

(D本社統制型組織構造

外資系企業が海外に進出する当初は,輸出やライセンス協定の管理,海外関 連企業との窓口として,国際部門を設置するのが一般的である(ゼノブ[15]).

しかし,国際ビジネスの拡大に対応して,当初製品部門に並行して設置され た国際部門も,進出地域の地理的特牲とか,製品別事業部門に対応して,また は両者の組合せに重点を置いて,機能的に分化し,独立性を強めてくる.図3

図3 世界市場を対象とした製品単位組織

CEO

スタッフ

製品A担当 製品B担当 製品C担当 製品D担当

米国 欧州

アジア アジア

米国 米国

アジア 米国 アジア

担当

担当

担当

担当 担当

担当 担当 担当 担当

出所:ゼノフ〔15〕

は,欧米系企業(石油を除く製造業が中心)に比較的多く見られるもので,世 界市場を対象とした製品別事業部門制により国際的事業活動を統括している事 例である,これは,「製品」別の縦割概念に基づく組織構成であり,単一製品 の生産,R&D,マーケティング活動の全過程は1人の総責任者により統括さ れるべきである,とするシステムである.

これに対して,単一あるいは限定された製品を生産している企業(石油精製 業や鉱業など)では,「機能」別の横割概念に基づく機能経営組織が採用され ている.これは,製品ではなく,出荷,深鉱,マーケティング活動など,各経 営機能相互の調整に焦点を合わせたシステムである.もちろん機能経営組織の 場合でも,生産品目の増加により事業分野が拡大してくると,経営管理上の理 由から製品別事業部門が設けられたり,地域担当制などが導入されてくる.

(17)

しかし,世界市場を対象とした「製品」単位組織の場合でも,また「機能」

経営組織の場合でも,海外子会社における事業活動の大枠は,本社=国際部門

→海外事業部(海外地域統括本社)→海外子会社という階層型組織構造を通し て統制されている.この点で,外資系企業の海外子会社は理念型としては,本 国本社を頂点とするセントラル・コントロールシステムによりマネージメント されている.

(2) トップダウン型意思決定

このように,外資系企業では「統制的」機能を中心に組織が組立られている.

この組織特性ゆえに,組織命令系統も責任と権限を明確化した縦割型が支配的 となり,経営上の意思決定もトップダウン方式が基本となる.

外資系企業における経営・人事問題に係わる最終決定権限の所在に関する労 働省の調査結果によれば(労働省[12]:20−1),労働条件や人事(経営陣・

経営幹部層を除く)に関する事項では「全面的に日本側の決定に委ねられてい る」とする企業が比較的多く,日本法人に対する権限の委譲がすすんでいる.

しかし,経営に関係する事項では事情は異なり,とくに年間事業計画に関して 見れば,「全面的に日本側の決定に委ねられている」とする企業は全体の26。7

%にすぎない.単独で事業活動を統制(コントロール)する権限を付与されて いる日本法人は極めて少ない.このほか,月間・四半期等の事業計画,会社組 織機構の新設改廃,要員計画など,経営に直接関係する諸事項はどれもほぼ同 様で,「両者の合議による」とする企業が4割超を占めている.外資系企業社 員の間でも,「予算をはじめ最終決定権が海外本社にあり日本で決められない ことも多い」とか,「外資は政策面においてはトップダウン方式で下からの意 見は余り政策に反映されない」など,組織の統制的性格を指摘する意見が存在

する.

労働条件や人事は現地化されても,経営に直接関係する事項は,本社=国際 部門→海外事業部(海外地域統括本社)→海外子会社という縦割の組織命令系 統を通じて統制されており,調整を要する場合は合議となるが,「最終的(実 質的)」にはトップダウンで決定されるのが通例である.とくに経営の中核と なる年間事業計画は,「合議」を必要とする企業が多数を占めており,外国法 人の支店や外資比率100%の日本法人では,「両者の合議による」とする企業が

7割弱にも達している(労働省[12]:20−1).

(18)

(3)利益志向と配当重視

このように,経営に直接関係する年間事業計画等の諸事項は,労働条件や人 事と比較すると,親会社による統制が強力に作用する分野である.しかも,経 営に直接関係する事業計画等の評価は,主に財務機能を通じて査定されている.

このため海外子会社は,とくに流動性資産を安全に,そして収益性を高く管理 することを要求される.さらに,これに日本市場での市場占有率をくわえた諸 要素が,親会社における日本法人の事業活動に対する評価とその判断材料,す

なわち統制の対象(最重要事項)となる.

通産省の外資系企業対日進出成功事例(日本法人対象)によれば(通産省

[5]),親会社における日本法人の事業活動に対する評価とその判断材料に関 しては,「マーケットシェアと利益率の両方」(米国・機械),あるいは「市場 占有率,利益率,予算に対する成績」(英国・医薬品)が中心であり,しかも その「要求水準は高い」(西独・化学)とされている.もとより欧米系企業で は,日本企業と比較すると利益志向が強く,投資に対する利回り,利益率,配 当などを重視することから,利益額や利益率が評価の基準となるのが通例であ る.しかし,日本企業は,市場占有率に対する志向が強いことから,日本市場 では外資系企業の場合でも,利益率にくわえて,市場占有率も評価基準として 採用されることが多い.

このように,親会社による日本法人に対する統制の対象(最重要事項)は利 益率と市場占有率であり,親会社の掲げる目標数値の達成率が業績評価の基準

となる.日本法人の事業活動の大枠は,基本的には,この意味での統制(利益 志向)と評価(実績主義)のシステムによりコントロールされている.さらに,

利益処分における内部留保率と配当性向を全法人企業と比較すると,外資系企 業は利益の68.6%を配当に回しているのに比して,日本企業は反対に68.9%を 内部留保に繰り入れている(通産省[2]:2).外資系企業が株主に対する 配当を重視するのに対して,日本企業は組織の継続性を重視して内部留保に充 当するという,経営方針の相違も影響している.

2 事業活動上の問題点と課題

(1)自国中心主義

ところで,外資系企業は海外での事業活動を展開する場合,過度に自国中心

(19)

的な判断や行動をとる傾向がある.とくに本国や日本以外の国で成功を収めた 企業は,自社の製品や商品に絶対的な自信を抱いているため,本国市場での成 功戦略や日本以外での参入戦略が日本でも適用できるとおもいがちである(ゼ ノブ[15]:299).くわえて従来は,日本市場の潜在的需要や戦略的意義を過 少評価していたことから,最終消費者とも直接接触しない傾向が見られた(ラ クトリン[1]:13).このため,「日本の」顧客・消費者の要望に製品・商品 を合わせる姿勢に欠けたり,日本人の消費行動を見誤り,市場で失敗する企業 も少なくない.例えば「パンパース」の日本発売で当初成功したP&Gが,日 本の主婦の品質・機能に対する高度な要求を見誤り大打撃を受けたのは,失敗 の代表的な事例とされている(日経産業新聞[4]).

もちろん,家庭用一般消費財の分野でも,日本市場で成功を収めた企業も存 在する.例えばJ&J(ベビーローション)やリーチ(歯ブラシ)は,日本の 消費者の感性や要望に対応して製品に改良を加えた結果,現在では市場の20一 30%を占拠している.また食品の分野でも,ネッスルは,86年から,インスタ ントコーヒー「ネスカフェ」の輸入販売を開始したが,この時点から同社は他 国で販売するネスカフェとは差別化された,日本人向けにブレンドした製品を 導入している.さらに日本マクドナルドは,米国マクドナルドが勧めた郊外立 地を否定して繁華街(銀座)から進出し,日本人の消費行動に合わせた立地戦 略で成功を収めた.またルイ・ヴィトンは,直営店方式による販売方法,OL や女子大生でも手が届く5−8万円前後の商品構成を中心とする販売戦略で,

同社の商品を20代女性の人気商品に仕立てることに成功している.

外資系企業が日本で成功を収めるには,日本市場に適合した製品・商品の供 給,独自の流通チャンネルの確立,並びにアフターサービス体制の整備が要件 として挙げられる.この要件自体は,あらゆる事業活動に共通する成功要因で もあるが,これを「日本」市場で具体化するには,まず自国中心主義の成功戦 略を相対化することが必要である.換言すれば,「西洋文化の固定観念を抜き        ㌧

獅驕v(P&G)ことが課題となる.この課題を「経営の日本化」と呼ぶなら ば,前節で述べたような生産・販売拠点再編という経営戦略展開は,この意味 での日本化を強く意識したものでもある.

(2)コミュニケーション・ギャップ

さて,経営の日本化を推進し,日本で成功を収めるには,まず「本国本社の

(20)

考え方を変えさせなければならない」(ネッスル).しかし,これには親会社と 日本法人との間のコミュニケーションに関わる,外資系企業に特有の問題が存 在する.すなわち,外資系企業が日本での成功を目標に経営の日本化を推進す るには,製品の品質や技術力の高さにくわえて,国際戦略上の観点から,国際 的な経営・組織の経験やノウハウを合理的に活用することが重要となる.それ には,単純な現地中心主義では不十分だし,本社中心主義(自国中心主義)で は機動性に欠ける.このため,親会社と日本法人との間で,様々な水準におい て,組織的なコミュニケーションをはかる必要がある.

しかし,労働省の調査によれば(労働省[12]:26−8),人事・労働関係 の問題点として,「海外の出資企業との意思疎通が不十分」とする回答が第2 位を占めている.またサービス業を対象とした調査では,「業務に支障なく日 本語を話すスタッフはいない」とする外資系企業が44.7%を占めており,日本 における事業展開の上で障害の一要因とされている(経済企画庁[ll]:84).

さらに,対日進出の失敗原因として,しばしば親会社と日本法人との間のコミュ ニケーション・ギャップが指摘されるが,成功している企業の場合でも,程度 の差はあれ,「海外本社とのコミュニケーション・ギャップは存在する」(西独・

化学)のが通例でもある(通産省[5])

ただし同社の場合は,対日進出初期に来日したドイツ人社長が努力して日本 法人を軌道に乗せ,本社副社長に昇格したこともあり,「本社のアジア・太平 洋地域ヘッドの下に日本語のわかる人間が配置されている」こと.並びに「年 1回のトップ・マネジメント会議,リージョナル会議の他に,日本トップだけ は週に1度本社ヘッドとのホットラインで連絡を取り合う」ことなどにより,

「他外資と比べれば[コミュニケーション・ギャップは]少ない」とされてい る.また別の成功企業(米国・機械)では,全社的なコミュニケーションをは かるため,「年数回,各国の経営者を日本に招待し,日本市場の実情を理解し てもらい,各国経営者のメンタリティを変える」よう努力している.同時に,

日本法人の地位向上もあるが,「経営者会議と株主会議の両会議に参加し,日 本の意見が尊重されるように体制づくり」にも腐心している.

親会社と日本法人との間のコミュニケーション・ギャップを解消するには,

単なる統制的機能に基づく組織を機動性に富んだ組織へと進化させていくこと が必要である(日本経済新聞[3]).このためには,組織構造の改革が重要と なるが,差し当たりは本国本社と日本法人との間の意思疎通を媒介するノウハ

(21)

ウの開発と,その担い手となる日本人経営幹部の存在,そしてかれらを登用す る本国本社の度量が課題となる(根本[10]).富士ゼロックスやモービル石油 はじめ,成功企業各社に共通するのは,親会社と日本法人との間を媒介する日 本人経営幹部の存在である(人材の日本化)・

(3)販売実績至上主義

ところで,先に外資系企業は利益志向が強いと述べたが,日本市場では損益 分岐点に到達するのに約4年,全企業の平均利益水準を確保するまでには約7 年を要するとされている(在日米国商工会議所[21]:19).このデータに準 拠すれば,進出後数年間は,日本市場に多額の資金を投資することが必要で,

市場での競争力を維持して利益を上げるまでには,さらに数年の問は,企業が 内部調達できる資金以上の投資が必要となる.これは,「四半期末ごとの業績 動向に敏感な外国企業にとっては,根気のいるやり方」(ラクトリン [1])で

もある.

とくに進出初期の段階では,利益率や市場占有率という目標に過度に囚われ,

しかも株主を意識して短期間で目標を達成しようとする.このため,「販売実 績」至上主義とでも呼べる経営姿勢に傾斜しがちとなる(ゼノブ[15]:299).

しかし,外資系企業に限らず日本企業も同様であるが,新規参入企業で,市場 での地位や評価が確立されていない場合には,取引関係を結ぶまでに相当の時 問を要する.この間,新規に市場を開拓するための先行投資が必要となるが,

その数年間で撤退を余儀無くされる企業も少なくない.通産省の外資系企業動 向調査から推計すると(表3),1976−79年の間に353社,1980−86年の間に32 9社,合計すると約10年間で682社が日本市場から撤退している模様である.し

表3 撤退企業の在日年数別比率(1975−77年)

27−30 21−18 17−13 14−10 11−7 8−4 5−1 2−0(年)

2.4 一 0.6 6.5

12.4 29.0 32.0 14.8(%)

出所:通産省産業政策局『第15回 外資系企業動向調査』の数値を集計により延長し て作成

かも,年間169社という大量の撤退企業が発生した1975−77年を例にとると,

在日2年未満の企業が14.8%,1−5年が32.0%,4−8年が29.0%で,同期 間に撤退した企業の7割強(75.8%)が在日8年以内の企業で占められている.

(22)

撤退企業の大部分が,平均利益水準に到達する7−8年以内に撤退している.

このように,日本市場に参入したが,利益を上げるまでに到らず,短期間で 撤退する外資も少なくない.このデータに準拠する限りでは,「事業環境が悪 化したり,収益性がないと判断したばあい,… 外資は日本から撤退するの ではないか」(在日米国商工会議所[21]:18)という,日本人の外資系企業 に対する不安イメージも,あながち根拠のないことではない.もちろん現在で は,外資の日本認識や経営姿勢も変化しており,「日本は忍耐すれば投資から の膨大な見返りを期待できる市場」(コダック)であるとか,「長期的な視点で マーケットを開拓する」(BMW・ジャパン)ことが大切とする外資が増えて いる.日本IBMは例外としても,外資が日本で,とくに独力で成功を収める には,資本はじめ経営資源の長期的投入も重要な課題となる.

以上,外資系企業の組織特性並びに事業活動上の問題点と課題を整理すると 表4のごとくとなる.

表4 経営組織と事業活動上の課題

組 織 特 性 問 題 点 課     題

(1)本社統制型組織構造 自国中心主義 自国中心主義的な成功戦略の相対化

(2)トップダウン型意思決定方式

コミュニケーション・ギャップ 機動的組織・日本人経営幹部の登用

(3)利益志向・配当重視 販売実績至上主義 経営資源の長期的投入 おわりに

外資系企業が日本で成功を収めるには経営戦略の再構築が不可欠である.こ のような認識は,本稿で述べてきたように,すでに有力外資を中心に定着して きており,事業活動の上にも反映されている.しかし,大量観察的に見れば,

外資系企業が日本市場で成功するのは依然として容易ではない.経営戦略を成 功させるには,経営・組織面の問題だけでなく,雇用・人事面の裏付けも必要 となる.すなわち,人材の確保と強化,これによる組織の活性化が,経営戦略 の成功を左右する「もうひつの」要因として挙げられる.本稿では,経営・組 織面に対象を限定して分析をすすめてきたが,雇用・人事面の問題と合わせて はじめて,「転換期」の外資の動向をトータルに捉えることができる.それゆ え外資系企業に特有の労働市場の構造や雇用・人事面に関する諸問題などは,

経営・組織面に関わる実証研究を:通じた得た仮説(本稿で提示した論点)の検 証と合わせて,今後の課題としたい.

(23)

参考文献・資料

[1]マイケル・J・ラクトリン「外資系企業の日本市場参入戦略」『NOMURA SEA RCH』1989年4月号

[2]通産省産業政策局『第22回 外資系企業動向調査の概要』,1989年4月

[3]日本経済新聞(花田)「多国籍化進む日本企業 本社中心主義から脱皮を」,198 9年4月3日付け

[4]日経産業新聞「ワタシ達はこうして日本で成功しました」,1989年4月19日付け

[5]通産省産業政策局『在日外資系企業の成功事例に関する調査研究について』,1989年5月

[6]週刊東洋経済「在日外資の日本市場密着作戦」,1989年5月27日号

[7]日本経済新聞「外資系メーカー日本の研究機能強化」,1989年9月18日付

[8]桶田篤編『外資企業インジャパン』同文館,1988年

[9]桶田篤編『外資企業インジャパンPART 2』同文館,1988年

[10]根本孝『外資系企業の人的資源管理』創成社,1988年

[11]経済企画庁(日本総合研究所)『サービス分野自由化の現状と国際比較に関する調 査報告書』,1988年3月

[12]労働省『外資系企業の労使関係等実態調査結果報告書』,1988年5月

[13]Weeks「高級車だから売れる一勢いづいた欧米自動車メーカー」,1988年6月号

[14ユ豊島俊弘「積極化する外資の活動と国際化の将来」『化学経済』1988年8月号

[15]デービット・B・ゼノブ「国際ビジネス・マネジメント」(ジャーメイン編『経営 学講座』)TBSブリタニカ,1987年

[16]週刊東洋経済「外大侵攻 主戦場での市場深耕に躍起」1987年10月31日号

[17]ロバート・C・クリストファー(徳山訳)『日本で勝てれば世界で勝てる一アメ リカ企業の対日戦略』講談社,1986年

[18]通産省産業政策局「対日進出外資の最新動向を探る」『外資系企業総覧(1987年版)』

東洋経済新報社,1986年

[19]塚本朗「日本におけるデュポンの活動」『化学と工業』,1986年6月号

[20]野村総合研究所「外資系企業の対日進出」『NRI Search』,1986年12月号

[21]在日米国商工会議所「外資系企業リクルートガイド」(発行年不明)

(本稿の執筆にあたっては,在日外資系企業労使関係研究会(日本労働研究機構)での 討議,および調査・資料等を参考にした.同研究会座長の諏訪康雄法政大学教授,日本 労働研究機構労使関係・労働法制研究担当事務局に誌上を借りてお礼申し上げたい).

参照

関連したドキュメント

当第1四半期連結累計期間におけるわが国経済は、製造業において、資源価格の上昇に伴う原材料コストの増加

【資料出所及び離職率の集計の考え方】

等に出資を行っているか? ・株式の保有については、公開株式については5%以上、未公開株

新設される危険物の規制に関する規則第 39 条の 3 の 2 には「ガソリンを販売するために容器に詰め 替えること」が規定されています。しかし、令和元年

・条例第 37 条・第 62 条において、軽微なものなど規則で定める変更については、届出が不要とされ、その具 体的な要件が規則に定められている(規則第

( (再輸出貨物の用途外使用等の届出) )の規定による届出又は同令第 38 条( (再輸 出免税貨物の亡失又は滅却の場合の準用規定)

 学年進行による差異については「全てに出席」および「出席重視派」は数ポイント以内の変動で

この延期措置により、 PM 排出規制のなかった 1993 (平成 5 )年以前に製造され、当 初 2003 (平成 15