1997年、98年の大手金融機関の破綻後、銀行経営はかなり変化しているよ うに思われる。その変化を銀行の財務諸表の変化に注目しながら概観し、こ れに伴う銀行の抱えるリスクの変化を考察する。まず1節では伝統的な業務 である預金、貸出に関する全般的な概況を述べる。2節では貸出に関する変 化を詳細に示す。3節は新たな金融規制のもとでの今後の銀行経営について 述べる。
1.預金、貸出全般に関する概況
1‐1 預金の概況
平成8年度決算(平成9年〈1997年〉3月31日現在)以降の単体ベースに おける全国銀行の年度決算における貸借対照表によれば、銀行は資金調達の 7割前後を預金に依存している(図1)。
預金残高は、不良債権により銀行への信頼性が低下し、特に1997年、1998 年には大手金融機関までもが破綻したこともあって一時落ち込むが、その後 増加している。(図2)
預金の内訳であるが、要求払い預金の割合は1998年には3割弱で定期性預
1 9 9 0年代後半以降の銀行経営の変化
有 岡 律 子*
*福岡大学経済学部
−325−
( 1 )
0.8
預金 譲渡性預金 債券 資本勘定
1997 1998 1999 2000 2001 2002 2003 2004 2005 2006 2007
0.7
0.6
0.5
0.4
0.3
0.2
0.1
0
金の半分以下であったが、2002年3月には定期性預金とほぼ同程度の5割弱 にまで増加し、そして2003年3月には定期性預金を上回っている(図3)。 これはペイオフ解禁の影響があると思われる。わが国には、金融機関が預金 等の払戻しができなくなった場合などに、預金者等を保護し、また資金決済 の確保を図ることによって信用秩序の維持を図ろうとする預金保険制度1が 設けられている。金融機関は定期的に預金保険機構に保険料を支払い、この 原資をもとに金融機関が有事のときに対応がとられるが、その方法として
①預金保険機構から預金者に直接保険金が支払われる場合と②当該金融機関 の預金が譲渡された先に対して預金保険機構から資金が援助され、間接的に
1金融庁http://www.fsa.go.jp/、預金保険機構http://www.dic.go.jp/など参照 図1 銀行の資金調達内訳
(資料)全国銀行協会「全国銀行財務諸表分析」より作成。毎年3月期の数字である。
−326−
( 2 )
5,800,000 億円
1998年3月 5,600,000
5,400,000
5,200,000
5,000,000
4,800,000
4,600,000
4,400,000
1999年3月2000年3月2001年3月2002年3月2003年3月2004年3月2005年3月2006年3月2007年3月
払い戻しが保証される場合がある。保護される預金等の保護の範囲について は、金融機関が多額の不良債権を抱え、信用不安を醸成しやすい金融環境に あったことなどから、1996年に全額保護の特例措置、即ちペイオフ2の凍結 が採られたが、2002年4月に一部解禁された。定期預金等について、預金者 への払い戻しの保証は1人あたり1金融機関につき預金元本1000万円とその 利息を上限とし,超過分については破綻金融機関の財政状況に応じることに なったことから、定期性預金から全額保護が続く要求払い預金へのシフトが 生じたものであろう。2005年4月には普通預金,当座預金,別段預金につい てもペイオフが解禁されたが、同時に、多くの銀行が全額保護の決済用預金3
2外貨預金、金融債、譲渡性預金等は預金保護の対象外である。
図2 全国銀行預金残高
(資料)全国銀行協会「全国銀行財務諸表分析」より作成。毎年3月期の数字である。
1990年代後半以降の銀行経営の変化(有岡) −327−
( 3 )
要求払い預金 定期性預金 その他の預金 2007
2006 2005 2004 2003 2002 2001 2000 1999 1998
0% 20% 40% 60% 80% 100%
預金種類別期末構成比
を設けたため、要求払い預金の割合はいっそう高まっている。これにより、
預金は短期化している。
1‐2 貸出等の概況
平成8年度決算(平成9年〈1997年〉3月31日現在)以降の単体ベースに おける全国銀行の貸借対照表によれば、代表的な資金運用手段は貸出、およ
3「無利息、要求払い、決済サービスを提供できること」という3要件を満た す預金である。2005年4月2日付けの日本経済新聞朝刊によれば、2005年4 月1日の金融庁の調査発表によると、全国の銀行や信用金庫、信用組合など 618金融機関の97%が導入済みであった。銀行の導入割合は、2004年末は47.2
%であったが、ペイオフ全面解禁にあわせて95.5%(126行)にまで増加し ている。
図3 預金種類別期末残高構成比
(資料)全国銀行協会「全国銀行財務諸表分析」より作成。毎年3月期の数字である。
−328−
( 4 )
億円
1998年3月 6,000,000
5,000,000
4,000,000
3,000,000
2,000,000
1,000,000
0
1999年3月2000年3月2001年3月2002年3月2003年3月2004年3月2005年3月2006年3月2007年3月
び有価証券である。貸出金残高は2005年3月期までは減少しているものの、
その後増加に転じている(図4)。この間、問題となっていた不良債権の処 理が進められ、リスク管理債権残高およびその割合は減少している(表1)。 図5は銀行の資産総額に占める貸出金および有価証券の金額の割合の推移を 示したもので、毎年両者の合計で8割前後を占めている。
1997年3月期において運用の7割近くを占めていた貸出は低下傾向にあり、
2007年3月期でやや回復傾向にあるものの6割を下回っている。代わってこ の間、有価証券の占める割合が増加している。この背景として、いくつかの 要因がある。
第1に、不良債権の存在と銀行の自己資本比率規制である。銀行の自己資 本比率は、資産あるいは抱えるリスクに見合った金額に対して自己資本(あ るいはそれに準ずるもの)をどの程度保有しているか示すものを基本とする。
図4 全国銀行貸出残高
(資料)全国銀行協会「全国銀行財務諸表分析」より作成。
1990年代後半以降の銀行経営の変化(有岡) −329−
( 5 )
0.7
0.6
0.5
0.4
0.3
0.2
0.1
0
貸出 有価証券
1997 1998 1999 2000 2001 2002 2003 2004 2005 2006 2007 表1 リスク管理債権の残高状況
リスク管理債権(億円) 貸出し総額比率(%)
2001 300,241 6.33 2002 398,380 8.73 2003 342,267 7.78 2004 240,340 5.69 2005 170,740 4.12 2006 129,614 3.03 2007 116,264 2.67
(資料)全国銀行協会「全国銀行決算発表」より作成。リス ク管理債権とは、破綻先債権額、延滞債権額、3カ月以上延 滞債権額、貸出条件緩和債権額をいう。毎年3月期末時点の 値である。
図5 資金運用内訳
(資料)全国銀行協会「全国銀行財務諸表分析」より作成。毎年3月期の数字である。
−330−
( 6 )
資産総額は各資産のリスクを考慮して計算されるが、リスクが高いと思われ る資産ほどウェイトが高く設定されている。発生した不良債権の処理は自己 資本の低下を伴うことから、自己資本比率維持のため、リスク・ウェイトが 高い貸出を減らし、リスク・ウェイトの低い国債を増やしたものと考えられ る4。
第2に、日本銀行の金融調節方針の変化である。金融調節の目標は、1990 年代半ばまでは公定歩合を一定水準とすることにおかれていたが、その後無 担保コールレート(オーバーナイトもの)を一定水準にすることとなった。
1999年3月以降、コールレートがほとんどゼロ%に抑えられるゼロ金利政策 が採られ、一時的に2000年8月に0.25%に引き上げる解除がなされたものの、
ITバブル崩壊等により2001年2月に0.15%に引き下げられ、そのあと2006 年7月にゼロ金利が解除されるまでほとんど0%であった。
金融緩和の効果拡大のためにさらに2001年3月19日から2006年3月にかけ ては日本銀行当座預金残高を一定水準に保とうとするいわゆる量的緩和が実 施された。
保有有価証券の内訳(図6)を見ると、1997年3月期においては2割程度 の国債が2004年3月期では50%となっている。ゼロ金利の継続で供給された 資金は運用先が少なく、国債に向けられたものと思われる。
第3に、会計制度の変更である。2000年4月1日以降開始する事業年度か ら金融商品に関する時価会計が適用された。これにより、有価証券のうち市 場性がある「売却目的のもの」および株式持ち合いなどによる「その他の有 価証券」については時価で評価しなければならなくなった。持ち合い株式が 多い銀行は株価下落時には多額の損失を計上することになり,自己資本比率
4いわゆる「貸し渋り」の発生である。Ito, T. and Sasaki, Y., 2002. “Impacts of the Basel Capital Standard on Japanese banks’ behavior.”J. Japanese Int. Economies 16, pp.372‐397. 参照
1990年代後半以降の銀行経営の変化(有岡) −331−
( 7 )
国債 地方債 社債 株式 その他 2007
2006 2005 2004 2003 2002 2001 2000 1999 1998
0% 20% 40% 60% 80% 100%
図6 有価証券期末構成比
(資料)全国銀行協会「全国銀行財務諸表分析」より作成。毎年3月期の数字である。
−332−
( 8 )
1995 1996 1997 1998 1999 2000 2001 2002 2003 2004 2005 2006 25,000.00
20,000.00
15,000.00
10,000.00
5,000.00
0.00 円
は低下する。銀行への影響の大きさを考慮して、銀行の「その他の有価証 券」への適用は2002年3月期からとなったが、このころ、日経平均株価は下 落しており(図7)、銀行は持ち合い株式の売却を進めた結果、株式保有比 率が低下したものと思われる。
ただ、ここ2、3年は株価回復、M&A防衛などで持ち合い傾向が増加傾 向にあることから、株式保有率が上昇傾向に転じている。
1‐3 預金と貸出等の関係
預金と貸出等の関係を示すのが図8である。これによれば預貸率は低下し、
図7 日経平均株価
(資料)日本経済新聞社「日経平均株価」。毎年末終値。
1990年代後半以降の銀行経営の変化(有岡) −333−
( 9 )
預 貸 率 預 証 率 1.000
0.900 0.800 0.700 0.600 0.500 0.400 0.300 0.200 0.100 0.000
1997 1998 1999 2000 2001 2002 2003 2004 2005 2006 2007
逆に預証率は増加している。
これにより、銀行のリスクは、主に預金と貸出のバランスを考えていると きと異なってくる。すなわち、銀行は最終的貸し手と最終的借手の資金融通 の仲介機関としての役割を担っており、最終的貸し手の預金に関する短期志 向と最終的借手の貸出に関する長期志向という期間に関するミスマッチを調 整しているが、この過程で発生する金利変動のリスクの程度が小さくなって いる可能性がある。預証率の増加は、証券が短期運用であれば、短期調達、
短期運用となり、前より負担リスクは小さいことを意味する。
前述の通り、預金は要求払い預金の増加で短期化が進んでいる。ただ、運 用面においては、国債の保有割合が増加しているため、期間のミスマッチか ら生ずる金利リスクを回避できてはいない。さらに、ここ2、3年は株式保 有率が上昇傾向に転じていることから国債保有時に比べて今後はより大きな
図8 預貸率と預証率の推移
(資料)全国銀行協会「全国銀行財務諸表分析」より作成。毎年3月期の数字である。
−334−
( 10 )
市場リスクにさらされることになる。
次に、損益計算書から貸出・預金業務等に伴う収益についての概況を述べ る。まず、貸出利鞘5であるが、1998年3月期以降2005年3月期までは増加 している。これは、リストラ等の促進(表2)による経費率の改善に加え、
先に述べた低金利政策、そしてペイオフ解禁に伴う定期性預金から要求払い 預金へのシフトにより、預金債券等利回りが抑えられていることによる。そ の後減少に転じているが、2006年は貸し出し利回りが抑えられたこと、2007 年は経費率およびゼロ金利解除に伴う預金債券等利回りの増加のためである。
それに比べて総資金利鞘6は小さい(図9)。
ところで、このような貸出他に伴う資金運用により発生する利益が銀行の 利益に占める割合は、どうなっているのだろうか。経常利益は経常収益から 経常費用を差し引いたものであるが、経常収益の主要項目は資金運用収益、
5貸出金利回りから預金債券調達原価率を差し引いたものである。預金債券調 達原価率は預金債券等利回りに人件費率や物件比率等から構成される経費率 を加えたものである。
6資金運用利回りから資金調達原価を差し引いたものである。貸出利鞘にコー ル市場等での純利回り、および有価証券利回りを加えたものとなっている。
表2 全国銀行店舗数、役員数、職員数の推移 店舗数 役員数 職員数 2001 15,315 2,088 352,805 2002 14,952 1,907 332,730 2003 14,415 1,819 321,181 2004 14,060 1,737 302,028 2005 13,823 1,718 288,032 2006 13,617 1,700 282,638 2007 13,522 1,745 282,101
(資料)全国銀行協会「全国銀行財務諸表分析」より 作成。
1990年代後半以降の銀行経営の変化(有岡) −335−
( 11 )
貸出利鞘 総資金利鞘
1998年 1999年 2000年 2001年 2002年 2003年 2004年 2005年 2006年 2007年 0.80
% 0.70 0.60 0.50 0.40 0.30 0.20 0.10 0.00
役務取引等収益、特定取引収益、その他業務収益、その他経常収益等、信託 報酬である。一方、経常費用は主に資金調達費用、役務取引等費用、特定取 引費用、その他業務費用、営業経費、その他経常費用等からなる。経常収益 の上位2つを占める資金運用収益と役務取引等収益の割合の推移より、収益 ベースでは為替関連業務や投信・保険の販売、シンジケート・ローン等にお ける手数料収入などの役務取引等収益の伸びが見てとれる。これは銀行業務 が従来の預金貸出し等による資金運用だけでなく、新たな業務にも力を入れ ていることを示す(図10)。
次に、収益から費用を差し引いた利益ベースにおける上述の2つの業務、
すなわち、資金運用および役務取引等をみると、各業務からの利益は以下の ように示される。
資金運用益=資金運用収益−資金運用費用
役務取引等利益=役務取引等収益−役務取引等費用
資金運用益は下落傾向、役務取引等利益は増加傾向にある(図11)。資金運 用益に対する役務取引等利益の割合は1997年3月には1割程度に過ぎなかっ
図9 貸出利鞘および総資金利鞘
(資料)全国銀行協会「全国銀行財務諸表分析」より作成。毎年3月期の数字である。
−336−
( 12 )
資金運用 収益 役務取引 等収益
1998 1999 2000 2001 2002 2003 2004 2005 2006 2007 70.0
60.0 50.0 40.0 30.0 20.0 10.0 0.0
%
1997 12,000,000
資金運用 益 役務取引 利益
1998 1999 2000 2001 2002 2003 2004 2005 2006 2007 10,000,000
8,000,000
6,000,000
4,000,000
2,000,000
0 百万円
図10 主要経常収益項目構成比
(資料)全国銀行協会「全国銀行財務諸表分析」より作成。毎年3月期の数字である。
図11 銀行利益主要項目
(資料)全国銀行協会「全国銀行財務諸表分析」より作成。毎年3月期の数字である。
1990年代後半以降の銀行経営の変化(有岡) −337−
( 13 )
0.30
0.25
0.20
0.15
0.10
0.05
0
2000 2001 2002 2003 2004 2005 2006 2007
1999
1998
1997
たが、その後増加し、2002年3月には2割となっている。その後いったんは 下落するものの、増加傾向に転じ、2007年3月には26%となっている。預金・
貸出等による資金運用業務の相対的低下がみてとれる(図12)。
2.貸出市場の変化
2‐1 貸出担保の変化
貸出金の担保内訳7をみると、1992年以降、無担保貸出の割合が約60%か ら80%へと増加している。これはひとつには情報技術の高まりにより、貸出 のリスク管理能力が高まったことが要因であろう。有担保融資の7、8割を
7有担保融資として不動産・財団抵当、有価証券担保融資、その他担保融資が、
無担保融資として信用、保証がある。
図12 役務取引等利益/資金運用益
(資料)全国銀行協会「全国銀行財務諸表分析」より作成。毎年3月期の数字である。
−338−
( 14 )
不動産・財団抵当 有価証券担保 その他担保(a)
保証 信用 2006
2005 2004 2003 2002 2001 2000 1999 1998 1997 1996 1995 1994 1993 1992
0% 20% 40% 60% 80% 100%
貸出担保
不動産担保融資が占めている状態に大きな変化はないものの、貸出全体では その割合は28%から17%へと下落している。不動産価格の低下で担保余力が 低下したことや企業が利益捻出のため不動産の処分を進めたことが要因と思 われる。無担保のみならず、無保証の融資の拡大も注目すべき点である(図 13)。
また、動産譲渡登記制度、債権譲渡登記制度の整備が進んだことも受け、
動産、売掛金といった流動資産を担保とするあらたな融資形態がみられる。
このような融資は商工中金8、日本政策投資銀行といった政府系金融機関に
8例えば、平成17年7月に勝沼醸造株式会社にワインを担保として2000万円、
平成18年3月に肥育豚などを担保に有限会社十和田湖高原ファームへ極度額 2億円の融資が、平成19年8月にはゆば製品等を担保として日光ゆば製造株 式会社へ1000万円の融資が行われている。そのほか、商工中金は焼酎、昆布・
煮干・海藻類製品、かまぼこ、タレ、野菜、牛、日本酒など様々な動産を担 保とする融資を手がけている。
図13 貸出担保
(資料)日本銀行「預金・貸出関連統計」の貸出金の担保内訳より作成。
1990年代後半以降の銀行経営の変化(有岡) −339−
( 15 )
よる実施が早かったが、大手金融機関の取り組みも増えている。全国銀行協 会が平成19年7月13日に発表した「個人保証に過度に依存しない融資の取り 組み状況にかかるアンケート結果9」によれば、中小企業基本法に定める「中 小企業」を対象としたアンケート調査で、動産・債権譲渡担保融資は以下の 通りである。
表3 中小企業向け動産・債権譲渡担保融資件数および残高
(平成18年度下期末係数。残高:百万円、件数:件)
都銀・信託その他
〈有効集計52行〉
地方銀行
〈有効集計63行〉
第2地方銀行
〈有効集計46行〉
残高 295,540 件数 771
残高 23,101 件数 1,029
残高 6,578 件数 593
(注)リース債権およびクレジット債権を担保とする融資は除く。残高は 銀行と顧客の間の直接の貸出契約ベース。
(資料)全国銀行協会http://www.zenginkyo.or.jp/news/entryitems/news190713.pdf より抜粋
2007年7月17日付けの日本経済新聞によれば、金融庁の調査により、地域 金融機関が2007年3月までの1年間に実施した動産担保融資は153件、131億 円である。前年は27件で、金額的には3分の1程度となっている。
また、平成13年12月に創設された金融機関の中小企業者向け売掛債権担保 融資への信用保証協会による保証制度の利用実績は年々増加している(図 14)ことから、売掛債権担保融資が増加していることがわかる。
不動産担保融資においては、銀行は不動産を担保とすることで貸出の信用 リスクを軽減し、代わりに、不動産価格の変動による市場リスクに置き換え ていたものと考えられる。しかし、無担保融資の拡大は前とその他の条件が 同じであれば信用リスクの増大を意味する。さらに、不動産融資から動産な どへの融資の転換は、動産の評価の困難性に加え、陳腐化しやすく短期での
9平成19年3月26日に金融庁は「再チャレンジ支援総合プラン」に盛り込まれ た施策実施のため金融機関にアンケート実施、公表等を要請した。
−340−
( 16 )
件数 金額 45,000
40,000 35,000 30,000 25,000 20,000 15,000 10,000 5,000 0
12,000 10,000 8,000 6,000 4,000 2,000 0
2001年12月 2002年3月 2002年6月 2002年9月 2002年12月 2003年3月 2003年6月 2003年9月 2003年12月 2004年3月 2004年6月 2004年9月 2004年12月 2005年3月 2005年6月 2005年9月 2005年12月
億円 件数
価格変動が大きいと思われることから、不動産価格の変動に伴うリスクより 大きなリスクにさらされる可能性がある。それゆえ、運転資金の手当てといっ た短期の融資に限定されやすく、長期の融資に不向きとされている。
2‐2 貸出先の変化 2‐2‐1 貸出業種の変化
日本銀行「預金・貸出関連統計」の貸出先別貸出金によれば、1970年には 45%近くあった製造業向け貸出の割合は15%未満に低下している。1997年以 降に限っていえば、1997年に比べて製造業向け融資の割合は低下しており、
非製造業のうち、不動産業、運輸・通信業への貸出割合は伸びている(図15)。
2‐2‐2 個人向け貸出の増加
2000年10月からの貸出金の末残によれば、個人向け貸出金割合の増加がみ てとれる(図16)。
個人向け融資の拡大の背景のひとつに、大手金融機関が消費者金融との提 図14 中小企業者向け売掛債権担保融資残高
(資料)中小企業庁http://www.chusho.meti.go.jp/kinyu/urikake_index.htmをもとに作成。
1990年代後半以降の銀行経営の変化(有岡) −341−
( 17 )
製造業 うち建設業
うち電気・ガス・熱供給・
水道業 うち運輸・通信業 うち卸売・小売業、飲食店 うち卸売業
うち小売業 うち金融・保険業 うち不動産業 うちサービス業 0.16
0.14 0.12 0.10 0.08 0.06 0.04 0.02 0
1997 1998 1999 2000 2001 2002 2003 2004 2005 2006 2007
法人 地方公共団体 個人 0.9
0.8 0.7 0.6 0.5 0.4 0.3 0.2 0.1 0
2000.11 2001.11 2002.11 2003.11 2004.11 2005.11 2006.11 2007.11 図15 業種別貸出残高
(資料)日本銀行「預金・貸出関連統計」の貸出先別貸出金(業種別〈主要〉)国内銀行より作成。
図16 貸出先別貸出金残高
(資料)日本銀行「預金・貸出関連統計」の国内銀行(銀行勘定、信託勘定、海外店勘定合計)
の貸出金先別貸出金より作成。
−342−
( 18 )
携を積極的に進めてきた10ことがある。銀行には個人向け貸付の回収ノウハ ウの習得・蓄積に加えて、高い貸出利息の顧客の獲得が見込まれるといった メリットがあり、消費者金融側は銀行の信用を利用した良質な顧客の獲得と いったメリットが見込まれたためである。しかし、2006年12月に貸金業者の 資格や利用者一人当たりの貸出総量、貸出金利に関する取り決めなどを定め た貸金業法改正法が成立した。これにより、いわゆるグレーゾーン金利11の 撤廃で貸出金利の上限が下げられた消費者金融が過払い利息の返還を求めら れると、銀行は備えとして系列消費者金融関連の引当金を積み増す必要に迫 られた。この結果、平成19年(2007年)3月決算の銀行業績は悪化すること となった。このようななか、銀行は消費者金融との関係のあり方を見直し始 めた12。さらには、利用者一人当たりの借り入れ可能額に上限を設ける総量 規制が2007年末から前倒しで実施されることとなった13ことで、消費者金融 などの業績の悪化が予想されることから、銀行はさらなる戦略の見直しに迫 られている。
2‐2‐3 中小企業向け融資の比重の高まり
規模別の企業向け貸出をみると、貸出額は1994年に比べて全体の貸出総額 の減少に伴い、各規模とも金額は減少している(図17)。割合で見ると、中 小企業向けは大手金融機関の破綻が相次いだ1997年、1998年直後は銀行の貸
10例えば旧三和銀行(UFJ銀行を経て現東京三菱UFJ銀行)はモビットと、三 井住友銀行はプロミスと、三菱銀行(現東京三菱UFJ銀行)はアコムと関 係を強めた。
11出資法の上限金利は29.2%であり、利息制限法の上限金利は15〜20%であり、
両者の間がグレーゾーン金利である。消費者金融業者は貸出金利として、グ レーゾーン金利を利用していたが、出資法の上限金利を20%に引き下げると する貸金業法が2006年に成立し、2009年末までに実施することとなった。
12例えば2007年2月23日、三井住友銀行はプロミスとの提携を見直すとした。
132007年8月22日付け 日本経済新聞朝刊による。
1990年代後半以降の銀行経営の変化(有岡) −343−
( 19 )
大企業 中堅企業 中小企業 4,500,000
2006 2004 2002 2000 1998 1996 1994 4,000,000 3,500,000 3,000,000 2,500,000 2,000,000 1,500,000 1,000,000 500,000 0 億円
し渋りの影響からかその割合は低下しているものの、中小企業においては依 然として間接金融は重要であることから中小企業向け融資の促進策の整備も 進んだこともあり、増加傾向にあるのが特徴的である(図18)。
2‐2‐4 海外向け貸出の増加
不良債権処理が一段落した2003年頃から、銀行は再び国際業務に目を向け 始めた。現地に進出する日本企業や現地の有力企業向けに邦銀は国際与信残 高を拡大している(図19)。特に、BRICsに代表される新興地域における人 口増加に伴う経済成長に対応し、融資の拡大はめざましい(図20)。
ただ、この海外融資の拡大により、銀行は以前より、為替リスクや現地の 政情変化に伴うリスク、法制度の違いに伴うリスクなどに直面することにな る。
図17 企業規模別貸出金残高
(資料)日本銀行「預金・貸出関連統計」の貸出金先別貸出金(企業規模別)国内銀行より作成。
−344−
( 20 )
中小 中堅 大 0.8
0.7 0.8 0.5 0.4 0.3 0.2 0.1 0
1994 1995 1996 1997 1998 1999 2000 2001 2002 2003 2004 2005 2006
2,000,000
1998年6月末 1,800,000 1,600,000 1,400,000 1,200,000 1,000,000 800,000 600,000 400,000 200,000 0
1999年6月末2000年6月末2001年6月末2002年6月末2003年6月末2004年6月末2005年6月末2006年6月末2007年6月末 百万米ドル
図18 企業規模別貸出金残高構成比
(資料)日本銀行「預金・貸出関連統計」の貸出金先別貸出金(企業規模別)国内銀行より作成。
図19 邦銀の国際与信残高
(資料)日本銀行の国際与信統計(日本分集計結果)/所在地ベース合計(クロスボーダー 与信および外貨建て現地向け与信残高)より作成。
1990年代後半以降の銀行経営の変化(有岡) −345−
( 21 )
45,000
1998年6月末 40,000 35,000 30,000 25,000 20,000 15,000 10,000 5,000 0
1999年6月末2000年6月末2001年6月末2002年6月末2003年6月末2004年6月末2005年6月末2006年6月末2007年6月末 百万米ドル
2‐3 貸出形態の変化
シンジケート・ローンの増加
シンジケート・ローンとは、複数の金融機関が協調してシンジケート団を 組成し、一つの契約書をもとに同一条件で融資を行うものである。企業にとっ ては、調達手段の多様化、事務コストの削減、資金調達の安定化などのメ リットがあり、また、銀行にとってはアレンジャーやエージェント14になれ ば手数料収入を得るなどのメリットがあるため、その組成数、組成金額、お よび残高は増加している(図21、図22)15。
14アレンジャーとは幹事金融機関であり、エージェントとは期間中の事務代行 者である。兼任が多い。
152007年は第3四半期末時点で、組成件数葉2,382件、組成金額は207,673億円 となっている。
図20 邦銀のBRICs向け与信残高
(資料)日本銀行の国際与信統計(日本分集計結果)/所在地ベース合計(クロスボーダー 与信および外貨建て現地向け与信残高)より作成。
−346−
( 22 )
組成金額 組成件数 300,000
250,000 200,000 150,000 100,000 50,000 0
4,000 組成金額
〈億円〉
シンジケートローン 組成件数
3,000 2,000 1,000 0 2003 2004 2005
年
2006
2004年9月 2004年11月 2005年1月 2005年3月 2005年5月 2005年7月 2005年9月 2005年11月 2006年1月 2006年3月 2006年5月 2006年7月 2006年9月 2006年11月 2007年1月 2007年3月 2007年5月 2007年7月 2007年9月
600,000
0 500,000 400,000 300,000 200,000 100,000 億円
図21 シンジケートローン組成件数および組成金額
(資料)日本銀行「貸出債権市場取引動向」より作成。
図22 シンジケート・ローン残高
(資料)日本銀行「貸出債権市場取引動向」より作成。
1990年代後半以降の銀行経営の変化(有岡) −347−
( 23 )
シンジケート・ローンは複数の金融機関による融資であるので、銀行のリ スク負担は軽減される。また、譲渡前提のローンであるため、売買市場が整 備されていれば、貸出金を含めた資産のポートフォリオ組成の変更が可能と なるため、銀行全体のリスクを小さくできる可能性をもつ。
2‐4 情報技術の発達 2‐4‐1 リスク管理の高度化
情報技術の発展は融資に伴うリスク管理の高度化を実現している。貸出に 伴う信用リスク管理の方法のひとつに、スコアリング融資があるが、これは 過去の貸出先の業績や倒産などの情報をもとに企業をリスク等の観点から分 類し、融資に利用するものである。全国銀行協会が平成19年7月13日に発表 した「個人保証に過度に依存しない融資の取り組み状況にかかるアンケート 結果」によれば、中小企業基本法に定める「中小企業」を対象としたアンケー ト調査の結果、スコアリングモデルを活用した融資は以下の通りである。
表4 中小企業向けスコアリングモデル融資件数および残高
(平成18年度下期末係数。残高:百万円、件数:件)
都銀・信託その他
〈有効集計52行〉
地方銀行
〈有効集計63行〉
第2地方銀行
〈有効集計46行〉
残高 5,023,425 件数 251,846
残高 1,094,066 件数 134,296
残高 699,847 件数 99,458
(資料)全国銀行協会http://www.zenginkyo.or.jp/news/entryitems/news190713.pdf より抜粋
2‐4‐2 ネット取引の増加
情報技術の発達で、ネットを通じた金融取引が増加している。全国の銀行 のほとんどがインターネットバンキングの提供をしており、オンラインでの み営業するインターネット専用支店16も存在する。インターネット専業銀行 の主要な4行17について、各年3月末時点における預金および貸出18残高の
−348−
( 24 )
イーバンク セブン ソニー ジャパンネット 20,000
18,000 16,000 14,000 12,000 10,000 8,000 6,000 4,000 2,000 0 億円
2002 2003 2004 2005 2006 2007
推移を見ると、いずれも増加している(図23、表5)。このようなネットを 利用した取引は、店舗や人員に関するコストを銀行が削減できることから利
16みずほ銀行インターネット支店、三菱東京UFJ銀行インターネット支店、
スルガ銀行ANA支店、スルガ銀行ソフトバンク支店など
17ジャパンネット銀行(2000年10月営業開始)、セブン銀行(2005年にアイ・
ワイバンク(2001年5月営業開始)から名称変更)、ソニー銀行(2001年6 月営業開始)、イーバンク銀行(2001年7月営業開始)
18イーバンク銀行、セブン銀行は提携ローン等を紹介しているにすぎないが、
ジャパンネット銀行、ソニー銀行が貸し出しを行っている。このほか、2007 年9月24日から営業を開始した住友信託とSBIの「住信SBIネット銀行」
も預金業務に加えて、住宅ローン、カードローンといった貸出を行っている。
図23 主要ネット専業銀行預金残高
(資料)各社ディスクロージャー誌より作成。毎年3月決算期末時点での値。
1990年代後半以降の銀行経営の変化(有岡) −349−
( 25 )
用者に割安なサービス、例えば振り込み手数料が安い、預金金利が高い、ア クセスに便利といったものを提供できるため、今後も増加することが予想さ れる。
ネット取引の増加に伴い、銀行にとってはセキュリティ・システムに関す るリスクが高まることになる。
2‐5 債権の取引 2‐5‐1 貸出債権の取引
日本銀行は貸出債権の取引状況を把握するため、2003年度から、シンジ ケート・ローンおよび、貸出債権の流動化実績19の統計をまとめている。シ ンジケート・ローンは2‐3で述べたとおり、譲渡が前提としたローンであり、
組成金額、組成件数、残高いずれも増加している。貸出債権の流動化実績は 図24の通りである20。
19債権流動化実績は国内店勘定(円貨+外貨)の居住者向け貸出。法人向け貸 出。不良債権は、「金融査マニュアル」における要管理先以下の債務者に対 する債権とする。
202007年は第3四半期末時点で、正常債権の流動化金額は31,565億円、不良債 権の流動化金額は16,433億円、合計47,998億円の流動化実績となっている。
表5 ソニー銀行およびジャパンネット銀行の貸出金残高
単位百万円 2002年
3月期
2003年 3月期
2004年 3月期
2005年 3月期
2006年 3月期
2007年 3月期 ソニー銀行 634 22,464 62,023 126,385 239,467 284,712 ジャパンネット銀行 1,686 17,456 16,208 17,429 21,032 22,958
(資料)各社ディスクロージャー誌より作成
−350−
( 26 )
不良債権 正常債権 120,000
億円
100,000
80,000
60,000
40,000
20,000
0
2003年度 2004年度 2005年度 2006年度
2‐5‐2 クレジット・デリバティブの増加
わが国のクレジットに関する代表的な市場の規模は表6の通りである。ク レジット・デリバティブとは、貸出先が資金返済できないときに生ずる貸し 手の損失リスクをあらかじめ第3者に引き受けてもらう取引で、信用リスク を原資産21とするデリバティブである。その大半がクレジット・デフォル ト・スワップ(CDS)で、契約期間内に原資産に関して契約で決められてい た一定事項(破産や支払い不履行など)が生じた場合、売り手から買い手に 決められていた一定金額が支払われる代わり、買い手は売り手に対価(プレ
21ひとつの企業の信用リスクとは限らない。
図24 貸出債権の流動化実績
(資料)日本銀行「貸出債権市場取引動向」より作成。
1990年代後半以降の銀行経営の変化(有岡) −351−
( 27 )
ミアム)を支払う。CDS取引は国内銀行の貸出金規模や欧米に比べて規模 はまだ小さく売り手、買い手が限られているようであるが、2004年以降の急 拡大は目ざましいものがある(図25)。この取引により銀行は、信用リスク 負担を軽減できる。
表6 主要クレジット市場規模 億円 年度末 1999 2000 2001 2002 2003 2004 2005 2006 貸出金 4,850,958 4,692,408 4,464,123 4,247,689 4,086,249 3,959,934 4,014,521 4,054,810 普通社債 467,499 500,946 524,564 531,342 535,464 519,932 518,974 518,664 クレジット・
デリバティブ 16,936 15,240 23,074 16,727 26,345 48,667 117,084 220,210 クレジット・
デフォルト・
スワップ
13,139 13,423 19,960 14,923 25,218 47,000 115,685 218,227
流動化 118,805 136,800 186,851 237,893 261,627 295,295 351,842 399,302 証券化商品
〈発行金額〉 52,541 82,259 98,385
(資料)貸出金:日本銀行。国内銀行の残高。
普通社債:日本証券業協会。
クレジット・デリバティブ、クレジット・デフォルト・スワップ:日本銀行「吉国委統計」
の想定元本金額〈単位:百万米ドル。12月末残高〉に為替レート(三菱東京UFJ銀行 為替相場一覧表における12月末TTM)を乗じて計算。主要邦銀。
流動化:日本銀行「資金循環統計」の債権流動化関連商品(負債)残高。
証券化商品:日本銀行「証券化市場の動向調査」(2006年4月より全国銀行協会と日本証券 業協会の共同調査に引継ぎ)
−352−
( 28 )