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東医大誌 76(2): 145
-146, 2018
巻 頭 言
プライマリーケア : “Best job I’ve ever had
(こんなええ仕事はあれへん) ”
ケースウェスタンリザーブ大学医学部家庭医学科 教授
森 川 雅 浩 Masahiro MORIKAWA
ブラッド・ピット主演の
2014
年の映画「Fury」は、第二次世界大戦中、異常な高さの死亡率に見舞われ た米国連合軍のある戦車部隊を描いている。彼らの戦車は、ドイツ軍に比べ数段機能が劣っており、終戦直 前にして命を落とすことになるのだった。ついに命を落とすかも知れない出撃の時、何度も“best job I’ve
ever had
(こんなええ仕事はあれへん)”
と自らを鼓舞するシーンが印象に残る。最悪な環境の中で命をかける究極の
professionalism
と言えるこの言葉が、最近度々僕の頭の中で回っている。プライマリーケア医は、世界中で圧倒的に足りない。プライマリーケア医を育てる人間は、さらに足りな い。教育には時間がかかり、ビジネスモデルで経営するアメリカの病院では、標語に掲げながらも臨床教育 は往々にしてないがしろにされがちである。公衆衛生の僕の母校ジョンズホプキンス大学は、“Save people a
million at a time”
をモットーにしているが、なんとも馴染めず、患者のベッドサイドで手取り足取り研修医と医学生の指導に明け暮れる僕には、“one patient at a time”が現実であり、時には多くの人を一気に救うよ り難しい。
プライマリーケアは、基本的人権を保障しようとする仕事である。医学知識がなければ話にならないが、
それだけでは足りない。高齢の心不全の患者さんに家族は来ないのかと尋ねると、逆に、刑務所で服役中の 唯一の家族が見舞いに来れるよう一筆書いて欲しいと言われたり、薬なしには生きていけない患者さんが、
タバコは吸っているのに、生活保護のお金が出るまで処方箋が買えないと泣きついたり、検査と投薬では解 決できない問題に一日中走り回ることも多い。でも、医療の場に、全く何が飛び込んでくるかわからないの が、プライマリーケアの醍醐味と言える。そして、患者さんの目を覗き込んで向かい合うとき、彼らを通し て人間のしたたかさ(resilience)を教えてもらっているのだと思う。
プライマリーケアは守備範囲が広すぎ、医学部で習わないことまで対応しなくてはいけない現実に、負け そうになる時もあると思う。そんな時に、“best job I’ve ever had”と言い切って、臨床を通じて社会に貢献で きるこの仕事を、僕はおもしろいと思う。そして、母校から、日本の外へ出て、世界で圧倒的に足りないプ ライマリーケア医を育て、「こんなええ仕事あれへん」と言い切れる後輩諸君が現れてくることを期待したい。
東 京 医 科 大 学 雑 誌
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巻 第2
号( )
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略 歴森川 雅浩(もりかわ まさひろ)