司 法 書 士 の 不 動 産 登 記 事 務 と 双 方 受 託
田 中 一 問題設定 ¨不動産登記事務を受託した司法書士がヽ依託者のために︑登記に必要な書類を作成し︑これをもって登記所に登記申請
を行うこと︵いわゆる﹁登記事務の後段﹂︶のみならず︑その前提として︑法律相談に始まり︑﹁実体関係﹂︵この意味す るところが問題だが︶の調査¨確認・判断等の事務をなすこど︵いわゆる﹁登記事務の前段﹂︶︑現在では︑大方の理解 であろ質
そして不動産登記事務周知う︲ ︒はのよにこれを一人の司法書士取引が当事者ヽ︑︑
︵登 記権利者と登記義務者︶ の双方から受託する︵双方受託︶のが常態であるが︑﹁登記事務の前段における司法書士は︑取引当事者の︑ 一方もしく は双方の代理人ではなく︑双方から申立・公正な第二者的存在ないし地位を有するものと考えるべき﹂とするのが︑とり わけ司法書士実務家においては支配的見解と思われる︒ しかし︑司法書士が﹁単なる登記申請書類の作成代理人の域を完全に脱皮し︑今や︑その登記の前提となる当事者おょ び実体関係の調査︑判断に事務つ重点をおいて職務を遂行﹂tているのであればハ①これは利害の対立する﹁実体瀾
⁚ 係﹂
への関与を避けられず︑そtて︑②日常的に不動産登記事務の依頼や紹介を受けている不動産業者ゃ金
︲ 融機関方依が一の
司法 書士 の不 動 産登 記事 務と 双方 受託 一八 五
法 経研 究 四〇 巻 三 o四 号
︵一 九九 二年
︶ 一 八六 託 者 であ る 場 合 な ど に︑ 当 然 視 さ れ て い る 双 方 受 託 によ 事る 務 処 理 に よ てっ
︑ 果 た し 中て 立
・公 正 が 保 た れ る の か
︑ 理論 的 に は
︑ これ が 民 法 一〇 八 条 お よ び 司 法 書 士 法 九 条 の規 定 に抵 触 し な いか
︑ 抵 触 し な いと す れ ば 何 故 か
︑ と い たっ 問 題 が 生 じ
︑ こ 検の 討 が な さ れ な け れ ば な ら な い 私︒ は
︑ 以 前
︑ 小 論 で︑ 不 動 産 登 記 事 務 に お け る双 方 受 託 に 関 し て疑 間 を 述 べ た こと が あ るが
︑ 立 論 に不 十 分 な 点 が あ り
︑ ま た
︑ そ の後 注 目 す べき 下 級 審 判 決 出も てお り
︑ 司 法 書 士 の執 務 の在 り方 と いう 観 点 も 含 め
︑ 再 度
︑ こ の問 題 を 取 り上 げ る こと にし た
︒
︵1
︶ こう し た分 析 の嘴 矢 は︑ 前 沢六 雄 法﹁司 書 士制 度 の現 状﹂ 日本 土地 法学 会
﹃不動 産 登記 制度
・建 築確 認制 度
﹄2 九七 九年
︒有 斐閣
︶二 七頁 以下 であ る︒ 2︵
︶ 藤井 哲他 動﹁不 産取 引と 司法 書士 の役 割﹂ 法 セ増 刊 民﹃市 のた め の法 律家
﹄ 2 九八 三年
︒日 評本 論社
︶ 一三 八頁
︒
︵3
︶ 藤井 他
・前 掲 一三 四頁
︒
︵4
︶
① の観 点 から こ︑ れを く説 解見 とし て︑ 住吉 博
﹃不動 産 登記 と司 法書 士職
﹄能 2 九八 六年
・テ イ ハン
︶ 八一 二買
︒
︵5
︶
﹁登記 の真 正担 保と 司法 書士 の役 割 に関 す る 一試 論﹂ 法経 研究
︵静 岡大 学
︶三 八巻 一・ 二号
︵一 九八 九年 一0 月
︶ 一九 二頁
︒
︵6
︶ 一九 九 一年 一一 月二
〜三 日︑ 全国 青年 司法 書士 連絡 協議 会 の第
〇二 回全 国 研修 会が 静岡 市 で開 催さ れ るが
︑ 私 は︑ 第 一分 科 会
︵テ ー マ
﹁司法 書 士 の実 体 関与 と双 方代 理﹂
︶担 当者 の研 究会 に参 加 し︑ 司法 書士 実務 家 であ る会 員か ら教 えら れ る こと が多 か っ た︒ 会員 であ 飯る 田省 司 生︑ 田俊 美︑ 加藤 由喜 夫︑ 芝豊 下︑ 村隆 杉︑ 隆山 塚︑ 本栄 治 古︑ 橋清 二︑ 渡辺 久 夫 の各 氏 に こ の場 を 借 り てお 礼申 上し げ た い︒ 一一
実 体 関 与 と 双 方 受 託 の問 題 性 1 裁 判 例 にみ る 実 体 関 与 一 い わ ゆ る 前﹁ 段 部 分
﹂ に お い て 司 法 書 士 が
﹁実 体 関 係
﹂ にど の よ う な 関 わ り 方 を な す べき か
︑ これ が 判 例 にお い て注 目
すべき展開をみせている︒ 一九七八年の改正をはじめ司法書士法の相次ぐ改正と司法書士の業務に対する認識が変ってき たことがその背景にあると思われるが︑これは︑典型的には︑登記申請書類の真否︑登記申請意思・代理権等の存在につ いて の調 査
・確 認義 務
︑ さら 実に 体 関 係 に関 す る説 明
・助 言 義務 の問 題 とし て現 われ る︒
① 調査
・確 認 義務 か てっ 京︑ 都地 判 和昭 四〇 年 月二 二 三 日
︵訟務 月報 一一 巻 九九 六頁
︶ は︑ 司法 書 士 は︑
﹁申 請 書 類 作を 成す る あに た り形 式的 に必 要書 類を 整 え そ の記 載 要件 の欠 快 のな いよ う すに る注 意義 務が あ る に過 ぎ ず
﹂︑ 登 記 申 請書 類が
﹁真 正な るも ので あ る かど うか に つい まて で逐 一審 査確 認 す る義 務 は存 せず
︑ いわ んや 登 官記 吏 と 同 一の 審査 義 務 が あ ると は到 底 いえ な い﹂ と解 し た︒ ま た︑ 東京 高判 昭和 四八 年 月一 二 一日
︵金商 一量ハ
○号 一九 頁︶ も
︑ 司﹁ 法 書士 は︑ そ 職の 務 の性 質 から み て︑ 登 記申 請 に添 付 す べき 書類 の偽 造 であ る か の調 査 義 務 は︑ 特段 の事 情 が な い限 り これ 負を わ な いも のと 解
﹂ し︑
﹁特 段 の事 情 と は 当︑ 該書 類 が偽 造 また 変は 造 し た も の であ る こと が 一見 明白 な場 合 と か
︑ 特 に依 頼 人 か ら そ の成 立 の真 否 に つい て の調 査 を委 託 され た場 合 等﹂ を例 示 し た︒ 右 の京 都地 裁判 決 では
︑ 司法 書士 の業 務 を
﹁他人 嘱の 託を 受け 登て 記申 請 書類 を 作成 す る こと を業 とす るも ので あ てっ 通︑ 常実 体 上 取の 引 行為 の結 果 当︑ 事 者 間 にお いて 授 受 され た登 記 の原 因 証書 た る売 買契 約 そ の他 の書 類 の提 示 を受 け
︑ これ に基 づ いて 申請 書 類を 作成 す る﹂ も との し︑ い わば 代 書人 的 なも のと し て︑ これ を 理解 し て るい ま︒ た︑
﹁当 事者 の同 一性 の有 無 及び そ の効 果意 思 は︑ 当 事 者 間 で事 前 調に 査し たう え 司で 法 書士 に登 記手 続 を 嘱託 す る のが 取引 の順 序 あで る﹂ と の認 識を 示し 右た 東の 京 高裁 判 決 同も 様 あで
ス7
つ︒
し かし
︑ そ の後 大︑ 阪高 判昭 和 五 四年 九 月 一一六 日
︵判 夕 四〇
〇号
一六 六頁
︶は
﹁︑ 登 記事 務自 体 依は 頼 者 の嘱 託 を 受 け て交 付 のあ
たっ 必 要関 係書 類を も と 申に 請 書を 作成 申し 請 行 為 を代 行 す るも の﹂ であ とる なし がら も︑
﹁そ の場 合 の司 法 書 士 職の 責 お よび 嘱託 人 対に す る義 務 と し て︑ 関 係書 類 に つき そ の記 載 内容 や印 影相 互 の対 照等 を 形式 的 機 械的 に調 査す 司法 書士 の不 動産 登記 事務 双と 方受 託 一八 七
法経研究四〇巻三・四号︵一九九二年︶
一八 八 るだ け 足で り︑ 当該 書 面 の形 式的 真否 に つい ては これ を持 参 し た申 請 当事 者 ら 判の 断 責︑ 任 属に す る こと を 理由 調に 査す べき 義 務 を全 く負 わな いも のと うい こと は でき ず 右︑ 点の に関 し ても 十分 注意 し て検 討を 加 え 登︑ 記手 続 の万 全を 計 り嘱 託人 の依 頼 応に え る べき あで
﹂ とる し︑ かか る義 務 は当 該書 面 が 一﹁ 見 し て偽 造 であ る こと が 明白 であ る場 合
﹂ に限 られ るも ので はな く︑ 事﹁当 者 ら 言の 動等 か ら そ の真 正 に つき 疑念 を生 じ たと き
﹂も これ 負を うも のと し てい る︒ 代 理人 と 称す る者 を通 じ て司 法 書士 が登 記事 務 の嘱 託 を受 け た場 合 にも 様同 解に さ れ て いる
︒ 東京 高 判 和昭 四七 年 一二 月 二 一日
︵高民 集 二五 巻 六号 四三 四頁
︶ は︑ 頼﹁依 者 の言 動 によ り代 理権 の存 在 に疑 い のあ るよ う な場 合 は
︑ 単 に必 要 書 類 に つい て形 式的 な審 査 すを る に止 まら ず 本︑ 人 に つい て登 記 原因 証書 作成 に つい て の真 意 の有 無 及 び登 記申 請 に つい て の代 理権 授与 の事 実 の有 無 を確 か め登 記手 続 過に 誤な から めし る よう 万全 の注 意を 払 う義 務 あが るも の﹂ とす る︒ れこ は 上告 審
︵最判 昭和 五
〇年 一一 月 二八 金日 法七 七 七号 二四 頁
︶ にお いて 支も 持 され た︒
② 説 明
・助 言義 務 右 の大 阪高 判裁 決と 同 趣じ 旨を 説 いた 大 阪地 判 昭和 六 二年 月二 一一六 日
︵判時 一二 五 三号 八 三頁
︶ は
︑ そ の根 拠 と し て司 法書 士 の 務﹁業 が登 記 供︑ 託 及び 訴 訟等 に関 す る手 続 の円 滑 な実 施 に資 す る こと によ り︑ 国 民 の権 利 保全 に寄 与 す ると うい 重 要 な公 共 的性 格 を帯 有す る﹂ こと を強 調 し たが さ︑ ら に︑ 大阪 地判 昭和 六 三年 月五 二五 日
︵判 時 三一 六一 号 一〇 七頁
︶は
︑ 司法 書 士を
﹁単 登に 記 手続 き の専 門 家 であ るか ら と いう に止 ま ずら 社︑ 会 的 に信 用 のお け る 人 物 であ り か︑ つ 一般 の法 関的 係 にも 明 るい 準法 家律
﹂ あで り
﹁売︑
買当 事 者 間 の取 引 に関 し て後 見 的 役 割 を 果 たす
﹂ も のと 性 格 づ けた
︒ そ こ で︑ 不動 産 引﹁取 に立 ち合 たっ 司 法書 士 と し ては
﹁登︑ 記 の手 続 き に関 す る諸 条 件
﹂ を 形 式 的 に審 査 す るだ け でな く 重︑ 要な 事 項 に関 し ては 進︑ ん で右 登 記手 続き に関 連 す 限る 度 実で 体関 係 立に ち入 り︑ 当 事者 に対 し︑ そ の当 時 の権 利 関係 にお ける 律法 上 取︑ 引 上 の常 識 を説 明 助︑ 言 す る こと によ り︑ 当 事者 の登 記意 思 実を 質 的 確に 認す る 義 務を 負
﹂う も のと し た︒