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電子商取引の市場構造

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(1)

電子商取引の市場構造

山 下 隆 之

イ ンタニネ ッ トの一般家庭への普及 とともに,電子商取引が脚光を浴 びるようにな ってきた。電子 商取引の急速な進展 は,IT時代の到来を礼賛す る人々を中心 に,「市場」 とい うものに対す る基本認 識のポジティブな側面を強化 しているようだ。企業の価格 と利潤の決定 は市場の特徴 に依存 している ものであるが,それではどのような市場構造の下で,電子商取引は行われているのであろうか。企業・

消費者間のB2Cを対象 にこの新たに形成 されつつある「市場」の構造特性を考察する。オ ンライ ンで取 り引 きされる財の特性か ら価格競争 よりも製品差別化の競争戦略が好 まれること,情報探索の 費用が均衡価格 に影響を与えることを明 らかにす る。

I.は じめ に

イ ンターネットの普及によって,従来の枠組み とは違 った形での流通が本格的に始 まっている。

ネ ットワークを利用 して,市場参入か ら代金決済・ 取引終了に至 る商取引フローの一部 または全部 を行 うことは,「電子商取引」 (electrOnic commerce)と いう名称で呼ばれている。従来か ら企業 間の取引の一部 は EDI(electrOnic data interchange)な どの技術を使 って電子化 されていたが, インターネットが一般消費者 に普及するにつれて,B2C(business―to―consumer)と呼ばれる消費 者を直接対象 にした電子商取引サー ビスが急激 に成長 している。

電子商取引は急速に発展 しつつあるため,厳密 な定義を与えることは容易ではない。その内容 は 絶えず変化,拡張 してお り,多くの経済活動を含んでいる。使用 されるコンピュータ・ ネ ッ トワー クなどの技術的な側面を強調することで電子商取引を一般性のあるものとして論 じることは可能で あり,そうした論考 はよ く見 られるが,本稿の目的は電子商取引の経済的な側面 を検討す ることに ある。経済主体の範囲からみると,企,消費者,政府が様々な形で参加 していることが,コンピュー

‑25‑―

(2)

夕を使用する他の ビジネスにはない電子商取引の特徴 となっている。電子商取引の中心 は,企業間 取引の B2B(business―to―business)と 企業・ 消費者間のB2Cである。 とりわけっ経済への影響 力や関心度の点か らは,消費者が購入主体 となるB2Cが注 目される。

経済学的見地か らす ると,B2Cの電子商取引は宗含澤争市場?特性脅多 く備えている。経済活 動をデジタル情報 に置 き換える電子商取引では,市場 の空間的・ 時間的制約が無 くなり,多数の売 り手 と買い手が存在 している.企業規模 によらず,世界を相手に低費用で販売できるため多 くの企 業が参入 して くる.従来の市場では,企業の規模の大 きさは,商品の品質の高 さ,サー ビスの信頼 性などの シグナルを発信する役割を果た してきた。 しか し,電子商取引では,そのような規模のも つ有利 さはな く,参入障壁 は低い。また,電子商取引では,イ ンターネッ トに代表 される情報通信 技術の進展により,情報を収集す るのにかか る費用が低下する。消費者や企業 はその価値に見合 う 費用で情報を入手できるし,情報を完全に入手する可能性 もある。情報の収集可能な量が増大 し,

それまで個々の経済主体の間に存在 していた情報格差が解消する方向に向か う。その結果,従来の 非デジタルな市場では完全には実現 されていなか った完全情報の可能性が高まる。電子市場が完全 競争市場の状況に近づけば,資源の効率配分 という経済厚生の上で望 ましい状態が実現できること になるであろう.

しか し,他方で,電子商取引の主力商品である情報財の市場 は,完全競争の状態ではないことが,

しば しば指摘 されてきたり.本稿では,それ らの先行研究を踏 まえ,電子商取引に想定 される市場 構造 について分析を進めてい くこととする。第 Ⅱ節では,情報財の特徴を整理 し;それがいかに電

子商取引における市場 システムのデザイ ンを規定 しているかを探 る。第Ⅲ節では,電子商取引にお ける市場競争の基本的な動 きを考察する。第Ⅳ節 と第V節では,製品差別化 と探索費用 とい う電子 商取引の市場 に特徴的な問題を取 り上 げ,従来の非電子取引市場 との違いを明 らかに したい。

.情報 財 の性 質

本稿では,情報財 (infOrmation goods)と いう言葉を広い意味で用いる。いかなる情報 も市場 で取引されているならばそれは情報財と定義される。例えば,ソ フトウェア,株価情報,ニュース, 音楽,論文の電子出版はすべて情報財である2L情報財は,今,電子市場で実際に取引されてい

る商品の一部でしかないかもしれないが,着実に拡大 している分野であり,電子商取引のコアとな る可能性がある。

1)Whinston θι a  (1997)等.

2)shapiro and varian(2000)の中では,情報財 とはデ ジタル化できるもので売買が可能であるものと定義 されている。Whinston θι αl(1997)によると,情報財 はデジタル財 (digital goods)の 中心的なもので あると位置付けられている。

‑26‑―

(3)

情報財には,固定費用が大きく限界費用が小さいという特徴がある。開発費用が大きいため固定 費用 (あるいは埋没費用)は大きいが,再生産や追加配布の費用は相対的にきわめて小さいのであ る。こうした情報財の生産費用を適切に表現 した例として,次のような総費用関数を考えよう。σ を財の生産量とすると,

TC(9)=ノ十εσ >0,C≧ 0

である。平均費用関数スC(g)と限界費用関数MC(a)はそれぞれ,

(2.1)

(2.2)

となる。平均費用 はいかなる生産水準のときで も限界費用を上回 っている。そ して,生産量を無限 大 に増大 させ ると,平均費用 関数 が限界費用 関数 へ収束 して い くことがわか る。 す なわち, 9→ +∞ のときスC(夕)→c=MC(a)と なる.

このような総費用関数 は,企業の価格設定 にどのような意味を持つであろうか。いま任意の競争 価格pFを想定す ると,次の定理を得 る。

定理2.1(2.1)式の費用関数の もとでは,   :

(al任意の価格 夕E>MC(σ)において >gEで利潤が黒字 とな り,g<gEで赤字 とな:る うな生産量の損益分岐水準gEが存在す る。

(b)限界費用を基準 に した価格設定 は,情報財 に関 しては適切ではない。

C)情報財の市場では,完全競争市場 は成立 しないご

証 明 標準 的 なU字型 の平均費用 曲線 の もとで は,企業 は限界費用価格形成原理 に基づ いて

,E=MC(σ)と 価格設定す ることにより,利潤 を得 る。 しかt,図 1の よ うに平均費用曲線が逓 減 を続 けて い る場合,限界費 用価 格形成 原理 に基 づ く価格 設定 で は,総収入 夕gは総 費用 C(a)・gを回収す るのに不充分である。´E=夕

=スC(g)に基づ く価格設定 をす るとき,総 入 と総費用が等 しくなる。 この とき損益分岐水準の供給量 92を 得 る。

次 に̀完全競争が存在す ると仮定 して矛盾を導 こう。    

(i)夕E=夕

f≦ Cであるとす る。す ると,│>0の生産量 について,f<ルκ(a)である。利潤が

ゼロなので,均衡生産量は,E=0となる。 しか しE=0の とき:需要量が供給量を超過 してい るので,需給 は均衡 しない。 これは仮定に矛盾す る。       '

(1)夕E=p′ >ι であるとす る。す ると,9>0で あ り,生産量を増やせば増やすほどに生産量 1単位当た り利潤が増大す るので,9E→+∞ となる。 しか し,9E=+∞ の とき,供給量が需要 量を超過 しているので,需給 は均衡 しない。 これは仮定に矛盾す る。■

C(1)=二十ε, MC(9)=c

‑27‑

(4)

O g2      g

1情報財 の費用関数 と価格設定

定理21(b)は,情報財 の価格の予測が難 しいことを意味 している。なぜな らば,完全競争下で 価格を限界費用に設定するような戦略は,その企業の赤字を意味するので採用されないか らである。

この ことか ら,情報財では費用を基準 に した価格設定 はほとん ど意味を持たず,何か ほかの指標

(あるいは価値)を基準に した価格決定の方がふさわ しいことがわかる。

逓減 し続 ける平均費用の もとでは,競争的企業 は生産を維持 して存続を続けることができない。

企業数 は減 ってい くだろう。逓減する平均費用の もとでは1企業が単独で生産 した方が効率的であ る。定理 2.1(c)は,情報財の市場が不完全競争 となる理由を説明 して くれる。 もしも企業にい く らかの市場支配力があれば,価格を引き上げて,利潤を増加 させ ることができるのである。

情報通信技術の進展を受 け,今や多 くの情報財でその複製費用 はほぼゼロに近い状態にある。情 報財の需給が市場 メカニズムによる競争 に委ね られた場合,情報財の価格 はその限界費用である複 製費用,つまりほぼゼロに等 しくなって しまうだろう。 し―か し,実際には,情報財 はゼロではな く 正の価格で取引されている。情報財の市場にはなん らかの不完全競争が形成されているのである

̀

.情報財 と価格競争

それでは,情報財に関する価格設定戦略の概要について調べてみよう。情報財は平均費用逓減下 で生産を行わなければならないか ら,競争市場では産業そのものが衰退 して しまう。

そこで次に,完全競争が存在 しない産 業における企業間の競争のもとで,情報財が生産 される状 況 につ いて考察す る。 いま, 2つの企業(グ,ノ)が同質 の情報財を生産 しているとする。消費者 は 提示 された価格 に対 して完全な情報を持 っていると仮定 しよう。 もしも相手の企業が付ける価格よ り少 し低 い価格を付 けるな ら,すべての消費者を獲得することになる。つまり,企業 ′の相手企業 ノの価格(為)に対する最適な反応 は

‑28‑

(5)

Rづ(pJ・)=島一〔, c>0

と表現 される。 ここでpF.一〔は価格 島 よりもわずかに低い価格を示 している。 したが って,こ 市場では,相手企業 よりも少 しだけ低 い価格を互 いに付 けよ うとし,価格競争が引き起 こされるの である。

以下では,簡単化のために π=2と ,企業 ス と企業 」 か らなる複 占を考えよ う。生産費用 に は限界費用 c≧ 0のみがかか ると仮定する.消費者 は市場全体で(>0)いるとす る。物 を企業 ス で購入す る (このモデルの中で内生的に決定 される)消費者 の数を表 し,%を企業Bで購入す

(このモデルの中で内生的に決定 される)消費者の数を表す ものとす る。す ると,(3.1)式, 各企業の需要が,

qA =

>pBの場合

,.=pBの場合

<夕βの場合

pョ >pス の場合

の場合

,コ <p五 の場合

とな ることを示 している。 このモデルの均衡 は,パル トラン=ナ ッシュ均衡 (Bertrand̲Nash equユibrium)と 呼ばれる3).

定義3.1

ベル トラン≡ナ ッシュ均衡 とは以下の条件を満たす価格の組(pふ p」)をいう。

(ap」を所与とし,企業4が ′

%=(pИ一ε)%

を満 たす最 も高 い価格 夕χを選択す る。

(b)pガを所与とし,企3が

=(pβc)%

を満 たす最 も高 い価格 夕」を選択す る。

)企業間 の消費者 の分布 は (3.2)式によ つて決定 され る。

(3.1)

(3.2)

gB =

3)Tirole(1988),p.278.

T‑29‑―

(6)

定義 3.1(a)は,企業 ス は企 業Bが,ガよ り値 引 き して企業 ス の顧客 を奪 い取 ることを防 ぐこ とが で きる最 も高 い価格 をつ けて いる ことを述べて いる。 よ り正確 には,企Bの均衡 で の利潤

,企業βが値引きして,3<pガをつけて,%=2ηを販売することから得る利潤より小さくなら ない限りで,企業ス は最も高い価格を設定するのである。同様にして,定3.1(b)は,企B

の価格設定の方針を示している。よって上の2つの式は等号で成立するので均衡価格を解くために 用いることができる。

̲c

J=C

情報財のベィレトラン・ゲームは(夕p」)=(c,b)

均衡が形成 される。(3.3)式 か ら,次の定理を得 る。

(3.3)

とい う組み合わせについてのみ唯一 のナ ッシュ

定理3.1 情報財の同質財モデルでは,純粋価格戦略に よるベル トラン=ナッシュ均衡が存在する。

証明 もしもpガ>p」>ε であれば,需要量がゼロになるため,企業 ス は利潤ゼロである。一方, 十 分 小 さい微小 数cにつ いて,価格 ガ ーcを適 用 す る ことに よ って,企業 ス は正 の利 潤

(夕=c=c)物 を得 なが ら,すべ て の市場需要 を手 にす る ことが で きるで あ ろ う。 も しも

=p」 >cであれば,市場需要 は折半 され るため,企4は (pガc)η だけの利潤 しか得 られ ,そのとき十分小 さい微小数cについて,価bガcへと微小 に価格下げるだ けで,企業 ス は 利潤を(pガc)ηか ら(pガc一c)2η へ と増大 させることができる。 このように両企業 ともライバ ル企業が設定する価格以下に値下げするインセンティブを持つが,いずれの企業 もcよ り低い価格 を設定することはないか ら,両企業はcに等 しく価格を設定するであろう。  (

もしもpガ>夕=cであるな らば,企業 β は利潤 ゼロであるが,全市場を手 に したまま価格を 少 し上げて,正の利潤を得 ることができることになる。 しか し,これは上述の価格切 り下 げとは矛 盾す る。そ して,(c,c)から正の利潤をあげることはできない。■       :

同質財における複 占企業間の競争が,その均衡で,価格 と限界費用が二致するような生産量を も た らす という奇妙 な結論はベル トラン・ パ ラ ドックス (Bёrtrand paradox)と 呼 ばれている4)。

ベル トラン=ナ ッシュ均衡 はもしも複 占企業に超過利潤があれば,それはただ単 に 2つ だけの企 業が存在するという事実か ら発生するのではな く,他の何かの要因かに基づ くであろうことを示唆

4)同,p.210.

一二.30‑

(7)

して い る。

.製品差 別化 と価格設定

ベル トラン=ナッシュ均衡の結果 は,価格のみを戦略変数 として行われる競争が しば しば利益に な らないことを示 している。ベル トラン型の価格競争モデルは,消費者の関心が価格だけにあると いう仮定に基づいていた。 しか し,書籍や音楽CDのような同質財であろうとも,売り手 は広告や サービスの質 によってブランド・ ロイヤルティを創 り出す ことができる。他社 と差別化 して自社 に忠実な顧客を得た企業 は,消費者を失わずに価格引上 げを行 うことがで きるようになる.売り手 はこの ことを承知 していて,製品差別化を行お うとす る。製品が差別化 されると,各企業 は差別化 された製品に対する選好を持つ消費者あるいはロックイ ンされ た消費者 に対 して,ある程度の市場 支配力を持てるのである。       .

差別化 された製品 (またはブランド)ス Bを販売 している 2つ の企業 ス とBからなる.市場を 考える。生産費用 は限界費用cだけがかか ると仮定す る。消費者 はタイプス (ブラン ド4志向消 費者 とい う)と タイプB(ブラン ドB志向消費者 とい う)の 2種類存在す る。 タイ│プス の消費者

,L(>0)だけいて,タイプBの消費者 は,物(>0)だけいるとする。

それぞれの消費者 は企業 ス あるいは企業3から商品を1単位買 う。pス と夕Bはそれぞれの企業 の製品価格であるとし,δ ≧0でもしも消費者が自分の好まないほうのブラン ドを買 ったときにか かる心理的な費用を表す.まとめるとタイプ ス とタイプBの消費者の効用 は以下のよ うに仮定

される。

鴫雲

│三̲δ

def

=

を買 う場合 を買 う場合

を買 う場合 を買 う場合

δ

(4.1)

%を企業 ス で購入す る (このモデルの中で内生的に決定 される)消費者の数を表 し,%を企業

Bで購入する (このモデルの中で内生的に決定 される)消費者の数 を表す。すると,(4.1)式,

‑31‑

(8)

σ五 =

夕■>pBttδ の場合

ρb一δ≦タス≦p3+δ の場合

<九一δ の場合

(4.2)

ga=

B>九+δ の場合

,4‑δ ≦ 夕B≦ +δ の場合 pB<pИ一δ の場合

となることを意味 している。

製品が差別化 された市場では,企業間で報復的な価格引き下げが行われたとして も,さもなけれ ば失 ったであろうマーケットシェアの損失分をそっくり失 うことにはな らない。各企業が一定の市 場支配力を持つか ら,限界費用を上回 る均衡価格が成立するのである。ベル トラン・ パ ラ ドックス

は成立 しない。

しか し,価格戦略を使いなが ら差別化 された製品で競争 している市場では,製品差別化の下で,

価格の循環的な動 きが起 こるため,純粋ベル トラン=ナ ッシュ均衡が存在 しない可能性がある。

定理4.1 製品差別化モデルでは,純粋価格戦略によるナッシュ=ベル トラン均衡は存在 しない。

証明 (pふ 夕」)がナ ッシュ均衡であると仮定 して矛盾を導 こう。(pふ pJ)の関係 には以下の3種

類がある。(i)│夕χ一p釧 ,(五)│タガータ│<δ,liiil lpガpJI=δ.

(i)一般性を失うことなく,pガータ」であるとする。すると,(4.2)式からげ=0で あり, よって,イ=0で あることになる。しかし,企業4は 価格をうИ=pB+δ に下げることによって

%=れ,あ =(pョ+δ )磁 >0へ と利潤を増大させることができる。これは仮定に矛盾する。

lii)一般性 を失 うことな く,pガ であるとする。 このとき,企業 ス は価格をpガ<ぅИ<

pB+δ を満たす限りのうスにまで値上げして,4=う4物 >げへと利潤を増大させることができる。

これ は矛盾である。

lliil一般性 を失 うことな く,pχ―夕」 であるとす る。 この とき,pJ=pガーδ<pガなので,

企業Bは価格 を夕」まで価格 を上 げることで利潤 を増大 させ ることがで きる。 これは矛盾である。■

このよ うな状況で はベル トラン=ナッシュ均衡 に代 わ る均衡概念 を検討す る必要 がある。各企業 は限界費用 を上回 るが十分 に低 い価格 をつ けることで,競争相手 が よ り低 い価格 をつ けて顧客 をす べて奪 い取 ることがで きないよ うに しつつ,利潤 を最大化す るよ うな価格設定 を考え ることにす る。

‑32‑―

(9)

この仮定が満たされている場合の均衡が最低価格均衡 (undercut̲prOof equilibrium)で ある5).

定義4.1

最低価格均衡 とは以下の条件を満たす価格の組(夕pF)をいう。

la)夕gと ィを所与とし,企業スが

=(pF一c)イ(pχ一δ一c)●L+η

の制約を満たす最 も高い価格を選択する。

わ)Jと イを所与とし,企Bが

イ =αザーc)イ ≧αゞ一δ一c)●

の制約を満たす最 も高い価格 夕gを選択す る。

C)企業間の消費者の分布 は (4.2)式 によって決定 され る。

最初の部分 は,最低価格均衡では,企業 ス は企業3がJよ り値引きして企業 ス の顧客を奪い 取 ることを防 ぐことができる最 も高い価格をつけていることを述べている。より正確 には,企B

の均衡での利潤が,3が値引 きして 島 <昆│一δをつ けて,ら =物十物 を販売す ることか ら得 ら れ る利潤 より小 さ くな らない限 りで,企業 ス は最 も高 い価格を設定するのである。 よって,上 2つ の不等式は等式で成立するので,均衡価格を解 くことができる.この価格の組合せが最低価格 均衡となる。

(磁+物)(磁+2物)o

=c+

pr=c+

戒+物 物十嬌

(物+%)(2磁+物

(4.3)

+%物+嬌

定理4.2 情報財の製品差別化 モデルでは,最低価格均衡が存在す る.

証明 各企業(づ ■ ス,3)は最低限pグ

̀+δ と設定す ることで,報復的な値引 きをされ ることな J厳密 に正の市場 占有率を確保で きる。 したが って,p′ ttδ となる最低価格均衡では両方の 企業が正の市場 占有率を維持 している.■

5) Shy (1995), pp.160-162.

‑33‑

(10)

(4。3)式 (4.2)式に代入 して,%=物 ,%=物 を得 る。最低価格均衡 は,次のよ うな性質 を 持 って い る。

Apυttpg̲pI= (4。4)

(4.5)

よって,磁 ≧物 のとき,そ してそのときのみ

〆 ≧0でぁる。つまり,最低価格均衡では,顧

客の数が多い方の企業がより安い価格をつけることになる。そして, このとき,

Azυ雪考「―イ=(pg一θ(pχ一ε>L OL+乃D2(物̲物 残キ場%+瑶

である。 よって,物 ≧ れ のとき,そ してその ときのみAzy≧ 0である。つまり,最低価格均衡 では,顧客の数が多い方の企業が安い価格をもけてぃるにもかかわ=ら,より高い利潤を得ている のである.      .

現在,イ ンターネ ット上で物品販売を行 う企業 は数え切れないほど存在 している。 しか しこの 中で成功 しているというのは米国の書籍販売のAmazonocomなど少数である。 これは,イ ンター ネ ットショッピングが従来よりも広い商圏を相手にするため,価格や品揃えなどの面で,1消費者が メ リットの高いショップに集中 しているか らであるらすなわち,イ ンターネットショジピングでは,

小売店同士の競争が激化 し,消費者に好 まれた少数の大型 ショップに集中が起 こる可能性があるか らである。実際,Amazon.comな どは,,どこよ りも安い価格 と豊富な品揃えが,他のイ ンタ■ネッ トショップや一般の販売店 との顕著な違いとなっている。

製品差別化 は非デジタルな市場で も行われているが,デジタル製品は変形可能性が高いためカス タマイズが容易なので,電子商取引では差別化 は広 く行われるであろう。消費者の小 グループとき には個人単位の特殊な需要 に合わせて清算 されるカスタマイズは,製品差別化の極端な例である。

企業 は消費者の選好に関する詳細な情報を得 られるか ら,製品を効果的にカスタマイズ し,個別化 された価格を請求できる。

製品の差別化が行われている場合,価格を差別化す ることも可能 となる。差別的な価格設定 は,

均等な価格設定より常に利潤が大 きいため,売り手 はできるか ぎり価格を差別化 しようとするだろ 6ヒ 価格差別 は,独占企業が取 りうる戦略 として古 くか ら注 目されてきたが,企業の保有す る消 費者情報が増大 し,個々の消費者のニーズに対応 した販売戦略が可能 となった電子商取引ではこれ まで以上 にその重要性を増 してると考え られてい る。ShapirO and Varian(2000)1ま ピグー (A.C.Pigou)の 示 した一次,二,二次の価格差別をそれぞれ,個別化 した価格設定 (personal̲

ized pricing),バ ー ジョン化 (versioning),  グループ向けの価格設定 (grOup pricing)と 名付 けている。

6)Phlips(1983),p.18。

‑34‑―

(11)

V.探 索 費 用 と価 格 設 定

市場 は経済的交換 あるいは経済的取引を行 う場であり,そこでは価格が対価の シグナル,つまり 希少性の尺度 として機能 している.市場での交渉 は価格を中心 として展開 される。 したが って標準 的な経済分析 における「情報」 とは,価格を指 してお り,市場参加者 はこの価格をすべて知 ってい るという完全情報の世界を想定 した議論がなされてきた。完全情報の世界では,価格情報 は費用を かけることな くしか も即座に入手可能なものとされている.しか し実際の市場では,株式市場の ような例外を除けば,情報 は不完全であり,その調査にかな りの費用 と時間を要するのが普通であ る。

探索費用には,買い手が製品の価格 や品質の情報を入手するために負担する金額,時,手間が 含 まれる。非デ ジタルな市場では消費者による探索の行動 は,店を訪れる (交通費 と時間が必要),

広告を見 る (新聞の購入),売り手に問い合わせ る (電),などである。非 デ ジタルな市場では探

̀索は通常順次に行われる.つまり,消費者 はひとつの店を訪れ,情報を収集 し,購入するかどうか を決定 し,製品を購入 しない場合 は,次の店に行 く。 これに対 して,電子商取引では,情報の調査 はウェブ検索 とブラウジングで同時的に行われる。時間や交通費が節約 され,はるかに効率的であ

る。

電子取引市場 は探索費用を劇的に削減 させる。空間的・ 時間的制約が緩 く,数多 くの市場参加者 に情報が瞬時に伝わるので,交渉費用 と取引費用 も削減 され,取引の外部化が進む。結果 として,

情報化が進展 させる電子取引市場 は完全競争 に近 いものとして実現 されるという議論がある7ヒ しか し,現実 はそれほど単純化 して説明 し尽 くせ るものではない.探索費用の削減 は,本当に価 格を競争的にするのであろうか。探索費用の経済効果を調べることで,この問題を解いてみよう。

企業 ス と企業Bの2企業か らなる複 占モデルを想定す る。生産費用 はcであると仮定する1消

費者 はタイプス (ブラン ドス 志向消費者)とタイプB(ブラン ドβ志向消費者)の 2種類が存在 する。 タイプス の消費者は,L(>0)だけいてタイプBの消費者 は,物(>0)だけいるとする。

価格を知 るために探索費用が必要であ りこれをs>0とす る。 それぞれの消費者 は店舗 ス ある いは店舗Bから商品を1単位買 う。pス と夕′はそれぞれの店の商品の価格であるとする。初めの店 舗で購入せずに次 の店舗を訪 れたときに期待 され る価格引下 げか ら得 られる効用 を υで表 そ う̲ υ>sである限 り探索行動 は続 けられる.

7)例 えば,Malone α α及(1989).

‑35‑―

(12)

となることを示 している。

次の 2つ の条件が満たされるとき,価格の組(pふ F)は最低価格均衡になる。

И

¨弗

式︲ま︐

¨

υ υ

(5。 1)

(5。2)

(5.3)

=(夕g一c)ag≧ (pメs+υ一ε)0な+物)

=(pχc)イ(pg̲stt υ̲c)0し十功♪

0レ+ap(磁+2物)(s一υ)

均衡価格 は

銭+物 物+嬌

0レ+昴(2物+物)(s一υ) =c+

pr=c+

+%物+嬌

とな る。

この最低価格均衡 は,次のよ うな特徴 を備 えて いる。 まず,企業 が設定 す る価格 は,探索費用 s が上 が ると上昇す る。

‑36‑―

(13)

次 に,両企業の価格差は,

Apυ雪夕g̲pχ= 01‑鴻)(s一υ)

(5。4)

戒十物物十嬌

である。 よって,れ ≧物 のとき,そ してその ときのみ 勾〆 ≦0である。最低価格均衡では,顧

客の数が多い方の企業がより高 い価格をつけることになる。

そ してこのとき,

Azび塑πg̲ィ=(pg̲c)物̲(pχc)% (no-ln)'(n"-n)

(s'u)

(5.5)

+物η+媚

である.よ って,物≧ れ のとき,そ してその ときのみAzσ 0である。つまり,最低価格均衡 では顧客の数が多い方の企業がより高い価格をつけているにもかかわ らず,より低い利潤を得てい るのである。

(5.4)式 と (5.5)式 か ら,次の定理を導 き出せ る。

定理5.1 消費者による探索の行われる複 占において,

(al探索費用の存在 により,価格 は競争的な価格 よ りも高 くなる。 しか もっ探索費用が上が る と企業 は高い価格をつけることになる。

{b)顧客の数が多い企業の価格 は相対的に高 く設定 され る。

(0探索費用の存在する市場では,顧客の数 の多い企業 ほど利潤が小 さくなる。

電子商取引では探索費用 はかなり低減 されるが,ゼロにはな らない。い くら低 くて もゼロで無い 限 り,非競争的な価格が生 じるのである。新規 ビジネスの開業時に,初訪問者のための特別価格が 導入 されることがある。探索費用をかけて訪問 した顧客が,別の店に移 らないためにはこうした特 別価格の設定が必要であると考え られ る.:

.おわ りに

以上,その市場構造を明 らかにす る観点か ら,電子商取引の経済的特性を検討 してきた。一般的 には,市場 としての電子商取引は多 くの点で,従来の市場 とは違 っていると考え られてい る。会社 の規模 はバーチャルマーケットにあっては重要な要素ではない。消費者 は地理的な距離 にとらわれ ,製品情報を収集 し・ 価格を比較す ることができる。 しか し,電子商取引の世界 と従来の非オ ン ライ ンの商取引の世界 との根本的な違いは,主力商品である情報財の特性か ら生 じているところが 大 きい。情報財の特性が,取引の場である市場 に独特の特徴を与えていることを,経済理論を応用

‑37‑一

(14)

す ることで示す ことができた。要約すると次のようになる。       │

│(1)情

報財の生産 にあたっては,固定費用 と比べて限界費用が きわめて小 さく,ほぼゼロに近い状 態 にある。 このために,完全競争に近い状態を実現 させるのが難 しい.

)情報財の生産では,製品の差別化が容易である。 これは製品に対 して個別化や差別化を望む消 費者のニーズにもマ ッチ している。 このため不完全競争で行われるような価格設定を採用するよ

うな誘引が,電子商取引には存在 している。

6)電子市場では探索費用 はかなり低減 されるが,ゼロにはな らない.いくら低 くて もゼロで無い 限 り,非競争的な価格が生 じる。

本稿で とりあげた以外の種々の価格設定手法や不完全情報の問題については,稿を改めて検討 し たい。      

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414ペ ー ジ.

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参照

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