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金融の正常化と銀行機能

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(1)

金融の正常化と銀行機能

その他のタイトル The Functioning of Banking System in Japan;

Normal or Abnormal?

著者 森川 太郎

雑誌名 關西大學經済論集

8

6

ページ 425‑451

発行年 1959‑02‑20

URL http://hdl.handle.net/10112/15605

(2)

金融の正常化と銀行機能︵森川︶ 郷愁?—|ム金融

日本銀行は去る六月十八日公定歩合を二厘引下げ︑次いで九月五日に更に一厘引下げた︒新聞紙上には近<第三

次の引下げを予想する記事等があらわれ︑昨年五月の公定歩合引上げ以来厳しい引締め政策の下に推移して来たわ

が国の金融情勢は︑最近著しく緩和の兆候を示している︒そしてそれと共に﹃金融の正常化﹄が論議の題目にのぽ

ではなく︑金融の正常化を目標とするものである﹄という意味の発言をなしている︒尤も金融の正常化は︑従来し

ばしば問題とせられ︑去る昭和三十一年始めの金融緩和時にも論議の題目となったのであるが︑その後における金

融情勢の逆転によって︑また暫く論者の関心から去つていた問題なのである︒

ところで金融の正常化については︑先ずその意味が問題となる︒正常化の必要を説く論者は︑勿論金融の正常態

について︑それぞれ何等かの想念をもつているのであろうが︑多くの場合それは論議の表面に明示されておらず︑

また時には旧来の銀行ないし金融理論に基ずいて︑新しい事態を異常視する論もあるように思われる︒ るようになった︒現に山際日銀総裁も第一次引下げの直後︑﹃今回の公定歩合引下げは金融の緩和を意図するもの

Jll 

(3)

.4.26 

て ︑

︱つの危険を含むことを思わなければならない︒ 一応考えられる正常態の︱つの標準は︑恐らくわが国戦前の金融状態であろう︒然

らば正常化ということは︑戦前の状態への復帰ということであろうか︒勿論簡単に然りとはいうを得ない︒けだし

戦前と戦後とにおいて︑わが国経済の基盤は大きく変化している︒

が︑戦争と敗戦のもたらした深刻な影響は︑わが国経済の各部面になお種種の形においてその跡を残している︒経

済の諸状態が異なれば︑これに対応する金融の諸状態もまた異ならざるを得ないであろう︒従つて戦前の金融状態

を以て︑直ちに今日における正常化の規準となし得るや否やには︑何等かの問題が残るであろう︒

次にわが国にとつて先進国であるイギリスおよびアメリカの金融状態が︑正常化論議においてしばしば引用され

る︒わが国の銀行制度は元来これ等の国の銀行制度を範として整備せられたものであるから︑金融状態もまたこれ

等の国のそれに近ずくことが︑すなわち正常化への前進であるとも考えられ得るからである︒けれどもこの際にお

それぞれの国の間には︑経済的・政治的その他諸事情における著しい差異がある︒そしてそれに応じ

各国にはそれぞれ特徴ある銀行制度が発達している︵それ故にイギリスおよびアメリカ両国の間においてさえ︑銀行

( 1 )  

Iの制度的発達には︑知的交流を通じての相

互影響が存するであろう︒しかしそれにも拘らず基本的事情の相違に基ずく制度または制度運営上の差異は︑決し

て容易に解消せられ得るものではない︒従ってイギリスまたはアメリカにおける金融の状態を標準として︑わが国

の金融正常化を論ずることもまた︑

かくて金融の正常化と称しても︑その帰趨すべき正常態が何であるかは︑これを一義的に規定することが困難で

ある︒そこでここでは先ず︑今日わが国において一般に正常でないと目されている個個の現象を取上げ︑それ等が 今日金融の正常化という時︑

﹃もはや戦後ではない﹂との言も時に聞かれる

(4)

念への︑単なる郷愁であつてはならないと思われる︒

およそ如何なる意味において正常でないと見られるのであるか、ならびにそれ等の現象が、わが国~済の如何なる

状態に基ずいて生起したのであるか︑を考察しよう︒すなわちこれによって一般にいわれている正常化の意味が一

層明瞭になるであろうし︑またこれによってその正常化が︑わが国経済の現実から見て︑如何なる程度まで押し進

められ得るやを推測することも可能となるであろう︒

一般的にいえば︑経済の現実は常に流動︑発展しつつある︒過去のある段階において正常であったことが︑新し

い段階において必ずしも正常であるとは限らない︒経済の基礎的条件が変化し︑その変化が一時的であるよりも寧

それに適応する金融状態の変化も︑単なる一時的変化以上の何物かを含むであろ

う︒同じことは︑同時代における外国の金融状態との比較についても︑いい得る筈である︒更にまた︑経済におけ

る金融ないし銀行の機能も一定不変のものではない︒それにも発展があり︑従ってそれに関する理論にも進歩があ

る︒金融の正常態は︑それ故にまた︑固定的な観念においてではなく︑新らしい理論に基ずいて考えられなければ

ならぬかも知れない︒斯くて金融の正常化も︑あるいは静穏であった過去への︑あるいは長く親しまれた伝統的観

( 1 )

R .  S .   Sa ye rs

̀  

Am er ic an   Ba nk in g  S ys te m,   Lo nd on , 

19 48 , 

p . 

i i i ,   C

h.

 I

. 

(

さて今日のわが国の金融について︑異常的︵すなわち正常でない︶と見られる現象の第一は︑銀行のオーバー・ロー

( o v e r ‑ l o a n )

である︒ところがオーバー・ローンの意味も論者によって二様に解釈されているようであり︑第一の ろ構造的と見られる場合には︑

(5)

428 

1 全 国 銀 行 主 要 勘 定

有 価 証 券 貸出・証証券のう

預・貸率 券計のう1ち国債の

預 金 貸 出

(C)  国 債

ち 証 券 の 比 率

(A)  (B)  l(D)  (舟‑)庄`心)

百万円 百万円 百万円 百万円 %  %  % 

昭和11年末 14,093  8,071  7,039  4,301  57.2  46.5  61.2 

(11,007)  (6,761)  (4,814)  (2,559)  (61. 4)  (41. 5)  (53.1) 

十億円 十低円 十億円 十億円

昭和323月 末 4,971  4,301  653  52  86.7  13.1  7.9 

II 

 II  4,931  4,469  696  52  90.6  13.4  7.4   II  II  5,202  4,720  715  51  90.7  13.1  7.1 

I/   12 II  5,504  5,024  795  49  91.2  13.6  6.1 

II  333 II  5,708  5,148  829  49  90.1  13.8  5.9 

II   I/  5,741  5,294  872  49  92.2  14.1  5.6 

*括弧内は普通銀行だけの数字を示す。

くである︒すなわち銀行預・貸率は昭和︱一年末において 関連する数字を戦前のそれに比較して掲げると第1表の如 が強くなっている︒試みに全国銀行勘定について︑問題に 況時に一時減退の傾向を示したが︑昨年以来再びその傾向 激しい論議を惹き起こしたものである︒三0ー三一年の好 八年にもその傾向が著しく︑当時今日におけるよりも一層 普通銀行におけるオーバー・ローンは曽つて昭和二七ー 節において見ることにしよう︒ ローンの問題を取上げ︑日銀の貸出過大については︑次 意味では︑普通銀行の貸出高が預金高に対して相対的に過ることが意味せられる︒いうまでもなく両者は互いに関連等しくはない︒この節では先ず普通銀行におけるオーバー

は五五ー六0形︵戦前においてはおよそこの水準︶であったの

が︑三二年中を通じては大体九0形の線を示し︑三十三年 する現象であるが︑それぞれのもつ経済的意義は必ずしも 右に関連して日本銀行の普通銀行に対する貸出の過大であ 大であることを指すようである︒第二の意味においては︑

(6)

‑429 

in

g)

 

の傾向を指摘する︒ そこでこの貸出の過大︑

必要なことが力説せられ︑

六月末には九ニ・ニ彩にも達しており︑戦前に比し貸出の比率は明らかに過大となっている︒また一九五七年末に

おけるイギリスの銀行︵ロンドン手形交換所加盟十一銀行︶'の預・貸率二七・ニ彩︑アメリカの銀行︵全商業銀行︶の同

今日わが国普通銀行の預・貸率は︑

オーバー・ローンが何故に生じたかが問題である︒これの原因として通例挙げられる一

つのことは︑戦後のわが国における﹃資金蓄積の不足﹄である︒そしてオーバー・ローン解消のために資金蓄積の

けれども銀行勘定で見る限

そして個人の可処分所得に対する平均貯蓄率も戦前︵九

1

︱年平均︶の一五・ニ彩に対

し︑三一年一八・三%︑三二年一八・七彩と上向しており︑これによって﹃速やすぎた拡大﹄といわれる三一年来の

過大投資が賄われて来たのである︵因に一九五六年における可処分所得に対する貯蓄率︑イギリス九・七劣︑アメリカ七.o

( 1 )

2) 彩︶︒故に単純にオーバー・ローンの原因を﹃資金蓄積の不足﹄に帰することはできない︒従ってまたいわゆる貯

蓄増強運動︑特に大衆を目標とするそれが︑オーバー・ローンに対する直接の対策となるものの如く考えること

( 3 )  

も︑聯か早計に過ぎるであろう︒

次にある論者はオーバー・ローンの原因として︑戦後わが国の企業におけるオーバー・ボロウィング

( ov e

r , b

or

ro

w

すなわち企業は自己資本不足のために︑投資資金を借入に頼らざるを得ず︑

借入過大の反面が銀行のオーバー・ローンであるというのである︒この説明はある程度まで真実を語っている︒し

かし未だ全部を尽くしているとはいい難い︒順を追うて述べると︑︵一︶戦後企業における自己資本の不足は︑第2

貸出が過大であったにせよ︑

この企業の その貸出に見合う預金はあったのである︵貸出も増加し そのためにまた貯蓄増強の運動が推進せられるのである︒ 比率五0

確かに異常に過大であるといい得るであろう︒

(7)

30

昭和三二年については︑年間株式払込金の分配国民所得に対する比率は戦前の六・九%から三・七彩に低下し︑株

式会社払込資本金の現在額は戦前の三

O ・

一彩に減少しているのである︒

︵三︶更に銀行貸出に対する影響の観点からいえば︑投資が自己資本ではなく他人資本によって金融されたとして

企業の資本構成の推移(製造工業)*彩

I昭和11 1昭和281昭和30 昭和32

上 期 上 期 上 期

I

上 期

自己資本 66. 2 .  35.  41. 1 

他人資本 .38.8  64.8  58.9 

*昭和30年までは昭和31年度経済白書, 112頁,昭和32

は「金融」,昭和3311月号, 46頁の表による・

2

32.8  これを傍証する資料として︑株式払込金に関する︱つの統計表を引用しよう︵第

3

67.2 

が︑戦前と戦後によって如何に変化したかは勿論︱つの問題をなすであろう︒

しかし今は︑自己資本は株式の発行または払込によって外部より調達し得るこ とを注意しよう︒すなわち外部に企業の株式発行または払込に応ずる貯蓄者ま たは投資者が充分に存在するならば︑企業は株式の発行又は払込によって自己 資本を増加するを得︑自己資本の不足に陥いるを避け得た筈である︒近年株式

による資本の調達が戦前に比し著しく低率であることは︑およそ推測され得る 貯蓄

c or p o ra t e s av i n g)

不足の意味にも受取られる︒

戦後二八年上期には三五・ニ彩に低下を示し︑ 成における自己資本の比率は︑戦前(‑︱年上期︶六六・ニ彩であったのが︑

表にも見られる如く︑明白な事実である︒すなわち製造工業についての資本構

0

年上期にはやや改善され

た︵四一・一彩︶が︑三二年上期にはまた三ニ・八%と二八年の水準以下に落ち

︵二︶﹃企業の自己資本不足﹄の語は︑企業における内部蓄積Cいわゆる企業

企業の内部蓄積の程度

金融の正常化と銀行機能︵森川︶

(8)

第 3

式 払 込 金

較*

金融の正常化と銀行機能︵森川︶

隷 韮

1 0 0

株払金

% 9 7  

ヽ ノ

込民対率 払国に比

f A 9

&

.式の得るB

7式金 株金所す

1 0 0

年払民得3

3100

分所

︐ 

全 国 銀 行

昭和32

1貸

113.2  100  100 

149.5 

*日本証券業協会連合会の資料による.分配国民所得,.年間株式払込金,株式会

社払込資本金現在額,全国銀行預金および貸出昭和32年の指数は実数を日銀卸

売物価指数(368.8)によつてデフレートし,昭和9cll年平均を基準として算

出したもの.なお,全国銀行預金および貸出は参照のため掲出.

ちそれは絶対的な資金の不足でもなく︑また単純な意味の企業の自己 かくてオーバー・ローンの原因がおのずから明らかとなる︒すなわ 比重を占めているかが看取せられ得るであろう︒ 他の事情によって︑社債の発行が著しく困難であり︑従ってその発行 も︑その他人資本が社債の形をとったのであれば︑たとえ企業の資本構成において他人資本が増加したとしても︑それは銀行貸出の増加と

ならなかったであろう︒ところが戦後においては起債市場の不備その

高が過少であった︒すると企業の外部資金調達はおのずから借入金に

頼らざるを得ないことになり︑とりわけ銀行からの借入が増加するこ

とになる︒第4表は企業の外部資金調達の方法別構成割合を示すが︑

これによって戦後産業資金の供給において︑銀行貸出が如何に重要な

資本不足でもない︒いわば株式・社債の両者を含む証券による資金調

達の困難︑従って証券発行の不振ということになるであろう︒証券発

行による資金調達が何故困難であったかは︑また発行市場︑起債市場

の復興遅延︑税制︑金利等の関係︑公衆の長期投資に対する心理的態

度等等の事情に原因ずけられ得る︒しかしそれ等の原因に深く立入る

ことは当面の問題ではない︒唯この関連において今︱つ注意するを要

(9)

.432 

たかの問題は︑便宜上これを後の問題とする︵第五節参照︶︒

第 4 外部資金調達方法別構成割合(産業資金供給状況)*

貸 出

株 式 社 債

全金融I

(A)  (B)  (C)  機 関 全 国 銀 行 (A+B+C) 

%  %  %  %  %  % 

昭和26 8.1  4.2  87.7  74.6  60.2  100.0 

II  27  12.0  3.6  84.4  78.0  57.2  100.0 

11  28  15.6  3.9  80.5  69.2  48.3  100.0 

I/  29  23.2  3.0  73.8  66.2  34.6  100.0 

II  30  14.1  3.9  82.0  68.9  36.5  100.0 

II  31  12.5  4.1  83.4  76.8  57.9  100.0 

II  32  15.9  2.9  81.2  73.4  53.5  100.0 

金があるが︑資金がこの預金から得られたのであるという

*地方銀行協会の資料による.

である︒先に記した如く銀行勘定表では貸出に対応する預 はその貸出資金を如何ににして獲得したのであるかの問題 行は貸出によって企業の資金需要を充たしたにせよ︑銀行

そこでなお︱つの問題が残るかも知れない︒すなわち銀

I1•三彩、 一彩︶︑銀行による消化が大部分を占めている︵三0

彩の低率となつている︒しかも近年発行社債の個人による のに対し︑三二年から三三年の上期を通じては一三ー一四 券保有額の割合は︑戦前においては四一ー四六彩であった

消化は甚だ少く︵三0

なおかつ然りなのである︒

だけでは︑余りにも形式的であり︑皮相であるを免れないであろう︒しかし銀行が如何にしてこの資金を供給し得

一表について見ると︑銀行の貸出・証券合計額に対する証 券保有比率の著しい低下であるということである︒再び第

する事実は︑銀行のオーバー・ローンの半面が︑銀行の証

(10)

金融の正常化と銀行機能︵森川︶ なるほど銀行勘定表の表面的な観察においては︑

(1 ) 経済企画庁︑昭和三三年度経済白書︑三七四ー五頁︒

(2 ) 尤も預金の増加高が貸出増加高に及ばない場合には︑一応貸出に用いられる資金の不足があるように見える︒その時︑

貸出増加の超過腐が他の銀行資産の減少によって相殺されなければ︑銀行の借入金︑主としては日銀よりの借入金が増加 するであろう︒そしてこの関連が︑論者によってしばしば︑銀行の資金不足が日銀貸出の増加によって補われた如くに説 明される︒しかし仮りにこの関連を認めるとしても︑このような預金不足︑日銀貸出の増加が︑いわゆる﹃資金蓄蹟の不 足﹄に該当する現象であるや否やには︑なお問題が残る︒このような現象の経済的意義は︑次節以下の論述がこれを明ら かにするであろう︒

(3 )

この点に関し詳しくは第五節参照︒

次に第二の意味におけるオーバー・ローン︑すなわち日銀貸出の増加について考察しよう︒通常日銀の貸出増加

がオーバー・ローンの問題として取り上げられるのは︑およそ次のような思考に基ずいている︒すなわち元来銀行

は預金によって得られた資金から貸出を行うものであるが︑貸出の増加に対し預金の増加が相対的に不足する場合

には︑銀行は勢い日銀からの借入れによってその資金の不足を補わざるを得ず︑従つて銀行におけるオーバー・ロ

ーンの結果は︑最終的に日銀の貸出増加となつてあらわれるのである︑と︒そして最近にはオーバー・ローンの解

消が︑主としてこの日銀貸出高の減少︑もしくはその消滅に力点をおいて論ぜられる傾きがある︒

提としていい得るのであり︑ ゆる信用媒介論的銀行機能観ーー上にも記した如く銀行は預金に受入れた資金から貸出を行うと見る見解ーー・を前

フィクツヨンいわば事後的な擬制の上に立つての推論である︒因果の過程からいえば︑近代銀行組

一応そのような考え方も成り立つであろう︒しかしそれはいわ

(11)

.43.4 

織の下においては︑預金は寧ろ貸出によって造出される︒換言すれば銀行は信用創造の機能を営むのである︒そし

てこの観点からすると︑貸出が増加すれば︑原則としてそれだけ預金も増加するのであり︑預金の不足から貸出が

制限せられることはなく︑従つて銀行が貸出資金を補うために日銀から借入れをなすこともない筈である︒すなわ

ちかく考えると︑日銀貸出の増加については︑因果的関係もしくはその経済的意義を明らかにする上からは︑上記

の通説的な推論とは若干異った考え方をしなければならないであろう︒

先ず日銀︵一般的には中央銀行︶の勘定表について見るに︑貸出︑

資産項目に対応する負債項目の主なものは︑銀行券発行高である︵理論的には銀行券発行高に預金高を加え︑その合計を

項目との金額における対応を見るためには︑勿論預金を計算に入れなければならない︶︒このことは日銀が銀行への貸出また

は政府証券の買入れ︵または引受け︶を通じて︑銀行券の発行をなすことを主たる機能とするものであることを物語

すなわちこの関係においては︑銀行券発行高が増加すれば︑貸出また

は政府証券のいずれかが増加し︑あるいは両者が共に増加する︒若し政府証券が増加しないならば︑銀行券発行高

の増加に応じて貸出の増加することは︑固より当然の理である︒そこで現実の推移を見るために︑最近における日

銀主要勘定の変化を検して見る︵第5

表 ︶

すなわち表について見ると︑オーバー・ローンが殆んど解消したといわれた三一年三月末には︑発行高五︑七四

七億円に対し国債保有高五︑六一三億円であり︑従つて貸出は僅か二七三億円に減じている︒ところが三二年から

証券︵いうまでもなく大部分が政府証券︶等の主要

10  

(12)

第 5 日 本 銀 行 主 要 勘 定 (単位億円)

とせられないとすれば︑

羹贔!靡こI貸 出 金 国 債

¥ : ' P f r :

昭和31年3月末 5,747  1, ss2. 273  5, 613 5,'?,77 

昭和323月末 6,662  2,368  2,763  5,099  6,208 

II  II  II  6,771  532  4,754  2,179  6,128 

II  II  II  6,535  614  5,629  2,047  6,023  11111211  8,371  464  5,519  3,872  7,618 

昭和333月末 6,886  2,405  5,881  3,827  6,410 

II  II  II  7,012  391  5,526  2,160  6,282 

に応ずる銀行券発行高が︑それぞれの場合その時の経済活動の水準 三三年上期にかけては︑発行高が六︑

00

0億円台に上つているに

対して︑国債保有高は概ね二︑000億円台に減少し︑それに伴つ

000

億円台に上つていることが看取せられるであろ

う︒すなわちオーバー・ローンの指標として重視せられる日銀貸出

増加の半面には︑発行高の増加と共に国債保有高の大巾な減少があ

ものである︒現金需要は普通銀行の預金に対する支払準備としての

日常取引における流通貨幣としての需要とに二分され得る

が︑わが国の現状では支払準備として銀行の保有する銀行券は僅少

と見られるから︑銀行券発行高は主として流通のための現金需要に

応ずるものと解せられてよいであろう︒この現金需要︑従つてこれ

に対して適当であるか否かは︑勿論問題とせられ得る︒また何等か

の政策的意図において︑発行高の規制が試みられることもあるであろう︒けれども仮りに一定の発行高が特に問題

いわばその時経済社会が必要とする銀行券の高をあらわしているの

それだけの銀行券は何等かの方法によって発行せられなければならない︒従ってもし政府証券︵国債︶を準 さておよそ銀行券の発行は経済社会の現金︵銀行券︶需要に応ずる ることを注意しなければならない︒

(13)

436 

ば銀行券発行準備としては︑政府証券よりも寧ろ商業手形を可とする論も成り立ち得る︵例えばペンデイクセンの古

て ︑

通じての発行︵商業手形その他を準備とする発行︶と︑

貸出の増加をオーバー・ローンと見る見解は︑当然にこの貸出を通じての発行増加を異常視する考え方を含意する であろう︒試みにイングランド銀行またはアメリカ連邦準備銀行の勘定表について見れば︑なる程その発行高に比

較して︑貸出高は極めて小額である︵第6表参照︒すなわち例えば一九五八年五月下旬において︑イングランド銀行では︑発

O i l

的に大となつていることも︑同時に注意せられなければならない︒

いうまでもなくイギリスおよびアメリカとわが国とでは︑経済事情が著しく異なり︑また発行制度とその運営に も少なからぬ相違がある︒これ等事情の相違が銀行券発行状態における上記の如き差異を生ぜしめているのであっ

一概にいずれの状態を以つて正常となし︑他の状態を異常と見るかの決定的な規準は存しない︒理論的にいえ 勿論この場合︱つの問題として︑ 備とする発行が減少するならば︑おのずから銀行への貸出を通じての発行が増加するであろう︒

知られる如く一般のオーバー・ローン論議において︑

は︑別個の意味において考えられるを要すと思われる︒

日銀発行高の過大は殆んど問題とせられていない︒然らば

5

表に見られる如く︑発行高増加し︑国債保有高が減少する時に︑銀行への貸出高が増加することは︑およそ上 述の意味において止むを得ないのではないか︒少なくともこの際日銀貸出の増加は︑銀行自身の貸出資金の不足と

政府証券の買入れまたは引受けによる発行︵国債を準備とする発行︶と︑貸出を

いずれが発行方法としてより適当であるかの問題がある︒日銀 けれどもこれ等両国においては︑中央銀行の政府証券保有高が圧倒

(14)

(£million) 

金融の正常化と銀行機能︵森川︶

6 英・米中央銀行主要勘定

Bank of England 

,'三こ::~!

:

De~film

i

, : , 1 f ! : :

May 29,  1957  1, 953. 7  1,971.2  289. 8  224.1  May 28,  1558  2, 033. 9  2,046.3  294. 4  246. 1 

40.5  28.7  Federal Reserve Banks ($ million) 

Federal  Gold  U.S.Govt.  Discounts and  End of  reserve  Deposits  certificate  advances, 

notes  reserves  securities  acceptances  21,932 

May, 1957  26,475  20,251  23,107  1,190  May, 1958  26,569  19,415  21. 004  24,161  184 

は減少しないであろう︒ 普通銀行のオーバー・ローンが解消しただけでは︑ は当らない︒日銀貸出の増加は︑ーバー・ローンの帰結である如く論じられるけれども︑単に

日銀貸出

例えば事業社債の発行が活発とな

一般に普通銀行におけるオ

り︑それを以て直ちに異常的もしくは不健全な現象と見るに は︑その発行高増加が経済活動の水準に対して過大でない限

かくて銀行券発行高の増加とそれに伴う日銀貸出の増加と 由も存しないであろう︒ 任経済の観念に固着しない限り︑今日一概にこれを排する理 普通銀行に対する統剣力が強いことであり︑古典的な自由放 ともいわれるのであるが︑そのことは逆にいえば中央銀行の

加は普通銀行の中央銀行に対する依存度を高める結果を伴う 伸縮性に富むと称せられるのである︒また中央銀行の貸出増 概ね短期であるから︑これを準備とする発行は︑おのずから 業手形は取引の実情をよく反映し︑自己流動的であり︑かつ の財政事情によって著しく左右せられる傾きあるに対し︑商 典的貨幣創造論︶︒すなわち政府証券準備による発行は︑政府

参照

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