• 検索結果がありません。

(2) - 行 政 主導 モ デ ル と司 法依 存 モ デ ル -

N/A
N/A
Protected

Academic year: 2021

シェア "(2) - 行 政 主導 モ デ ル と司 法依 存 モ デ ル -"

Copied!
22
0
0

読み込み中.... (全文を見る)

全文

(1)

会社法立法の 日米比較 ( 2 )

‑ 行 政 主導 モ デ ル と司 法依 存 モ デ ル ‑

玉 井 利 幸

目 次

Ⅰ.は じめに

Ⅱ.

デラウエア会社法の特徴

A.デラウエア会社法の特徴 :自己抑制的な立法 と司法‑の依存 B. デラウエア会社制定法の立法過程

C.デラウエア会社制定法の立法ポリシー ( 以上第5 8 巻第 1 号)

D.

デラウエア裁判所 と判例法理の特徴

Ⅲ.日本の新会社法の特徴

A.新会社法の立法ポリシーの特徴 B. 新会社法の立法過程 ( 以上本号)

Ⅳ.

会社法立法の日米比較 V.終わ りに

Ⅰ. デ ラ ウエ ア会 社 法 の特 徴 D.デラウエア裁判所 と判例法理の特徴

これ まで述べ て きた ように,デ ラウエア会社法の特徴 は消極 的な立法 による 司法へ の依存である。デ ラウェ ア州の立法府 は立法 による成文化 に消極 的であ り,重要 な問題であればあるほ ど制定法の規定 を設 けず,司法 に よる事後 的な 法創造 に委ねる傾 向がある。 デラウエ ア会社法 においては,裁判所の判断の集 積 によって形成 された判例法が中核 的な役割 を果た している。そのため,デ ラ ウエア会社 法の特徴 を理解す るには,判例法の特徴 も理解す る必要がある。以 下では,デ ラウエ ア会社法の判例法理の特徴 的な点 を述べ る。その前 に,デ ラ

〔 1 6 1 〕

(2)

16 2

商 学 討 究 第58巻 第2 ・3号

ウエ ア衡平法裁判所 の歴 史 を概観す るこ とにす る。 デ ラウエ ア会社 法 の判例 法 理の特徴 はデ ラウエ ア衡平法裁判所 の歴 史 に由来す る ところが大 きいか らであ る。

1. デ ラウエア衡平法裁判所小史

( 1 ) デ ラウエア衡平法裁判所 の起源 :中世 イギ リスとエクイテ ィ

デ ラウエ ア衡平法裁判所 の起 源 は中世 イギ リス ( Engl and) まで遡 る こ とが で きる 1 07) 。 デ ラウエ アは,1 676 年 にイギ リスが オ ラ ンダか ら取得 した植 民地 で あ る。 当 時 の イギ リス で は, ロー ( l aw) (コモ ンロー) 1 08) とエ ク イ テ ィ ( equi t y) の二重 の法体系 が用 い られていたので, デ ラウエ アで もこの ような 二重 の法体系 が導入 された。 この ようなイギ リスの二重 の法体系 は中世 に起 源 が あ る

中世 イギ リスで は, コモ ンローの裁判 は次第 に技術 的性格 を強め柔軟性 を欠 くようにな り

109)

,技術 的

110)

・手続 的 な理 由

11

1

)

で救済が与 え られ ない こ とが

1 07 )Wi l l i am T.Qui l l en & Mi chaelHanrahan , ASho r tHi s t o r y o ft heDe l au J ar e Co ur t o fCha nc e r yl17 92 1 1992,1 8DE

L.

J.CoRP.L. 81 9,820( 1 993)l her ei naf t er

" Qui l l en&Hanr ahan , De l au J a r eCo ur t " ] .

1 0 8) エクイテ ィ ( equi t y) と対比 して用い られる場合, ロー ( l aw) とコモ ンロー ( C ommonl aw) は同 じものを指す。特に断 りのない限 り,本節では両者 を区別す ることな く用 いてい る。 コモ ンローの起源 につ いては,例 えば JoHNNoRTON PoMEROY,A TREATI SEONEQUI TYJURI SPRUDENCEASADMI NI STEREDI NTHE UNI TEDSTATESOFAMERI CA( SpencerW.Symons ,ed.5t hed. )v

o

l . 1at1 7( 1 941 ) を参照。

1 09)〟. at21 ( 「コモ ンローの裁判官は,先例によって定式化 された法理やルールを 重視 し,そのようにして確立 されたローの精神や書式を変更 した り離脱することに 頑固に抵抗 した

」。

「ローのルールが明白な不公正を産み出す場合が頻発 し,先例に よって確立 されたローの原則が適用で きない場合が頻繁に発生 しただけでな く,コ モ ンローの裁判官はそれまでの判断によって既に確立 された法理の修正を認めよう としなかったので,別の手法を採用 し異なった傾向を示す もう一つの裁判所の必要 性 と理由が生 じた 」).

11 0)〟. at31 ( 「 原告の権利は,書式の技術的な事項に不十分な点があると破棄 され る傾向にあった 」 ) .

111)

〟. at28 ( コモ ンロー裁判所 とは 「 別個のエクイテ ィの裁判権が必要になった

(3)

会社法立法の 日米比較

( 2) 16 3

多 くな った112)。 コモ ンロー上 の救 済 を得 られ ない当事者 は,救 済 を求 め 国王

( t heKi ng)

に請願 を行 うようになった。 この ような請願 が多 くなる と,国王 は大 法 官11

3

)

( LoadChancel l or )

に請願 を送付 す る ようになった114)。 国王 に 対 して行 われ てい た請願 は,後 には直接 大法官 にな され る よ うにな り115),大 法官裁判所 (エ クイテ ィ裁判所 ,衡平法裁判所)

( Cour tofChancer y)

と呼 ば れ る裁判所 が形成 された116)。

大法官 は,救 済 を与 える ことが正義 に よって要求 されてい る と思 われ る場合 は, 国王 の璽

( Ki ng・ ss ea

l) を用 いて救 済 を与 えた。大 法官 は聖職者117)と し

‑・最後の理由は,非常に初期の段階で裁判所によって確立 され,驚 くべ き頑固さで 固執 している特殊 な手続である。 この手続は,固定された数の 「訴訟方式

( f or ms o fac t i on)

」 をもたらした。あ らゆる救済上の権利 はこれ らの方式の うちの一つに

よって執行 されなければならなかった。 もしある事件の事実が訴訟方式のうちのい ずれにも適切でない場合,損害を被った当事者は通常のローによる救済を受けるこ とがで きなかった。この場合,被害者が救済を受ける唯一の方法は,国王

( t heKi ng)

に直接申立てることであった

」 )

.

1 1 2 )〟. a t3 2(

「‑・コモ ンローの裁判所 は,着実に増加する多数の権利 と救済に対 し て門戸 を閉ざしてお り,より広範でより衡平な裁判権 と手続の方式をもつ別個の裁 判所が絶対的に必要 となった。そうでなければ正義は否定 されて しまうだろう

」 ) . 1 1 3 )

大法官はイギ リス国王の最 も重要な助言者であ り,国王評議会

( Ki ng' sCounc i

l)

の長を兼ねることが多かった。大法官の起源については

, i d. a t 1 6も参照。

1 1 4 )〟.a t3 8 (

「‑大法官は,国王 または

Se l e c tCounc i l

か らの委任 により,特別の 裁判権,すなわち恩恵

( Gr a c e )

の裁判権 を行使するようになった」) ;

i da t3 9 (

「国 王 とその評議会

( c ounc i l )

の国王大権の司法機能の もとにやって きた事件が大法 官に‑・付託されるという慣例がひとたび始 まると,その慣習は急速に成長 し,その

ような争いを取 り扱 う一般的な方法になった

」 )

.

1 1 5 )〟.a t 42 (

「裁判所の業務が増加 し定期的に継続 して行われるようにな り,原告 の訴状や申立ては国王や評議会ではなく直接大法官の もとへ送付 されるという慣習 が, リチャー ド2世の時代に確立 された」).

1 1 6 )〟. a t3 9 (

「エ ドワー ド

3

世の時代 に,大法官裁判所 は国王大権の裁判権の行使 が必要 とされる訴訟を判断するための通常の裁判所 として完全に機能するようにな り,コモ ンローの裁判所が与えることがで きない,または与えようとしない特別の 救済を与えるようになった」).

大法官裁判所の起源については

, i da t3 61 3 8

も参照。 さらに,以上 について,

Ma ur i c eA.Har t ne

tt,II

I ,TheHi s t o r yo ft heDe l awa r eCo ur to fCh a nc e r y,4 8BUs . LA

W.

3 6 7 ,3 6 8( 1 99 2 日he r e i na f t e r ,̀ ̀ Ha r t ne

t

t , Hi s t o r yo ft heDe l awa r eCo ur

t"]も参 照。

1 1 7 )Edwa r dRo ck

教授が,論文のタイ トルに聖人 と罪人

( Sa i nt sandSi nne r s )

(4)

164

商 学 討 究 第58巻 第2 ・3号

ての訓練 を受 けてい る こ とが多 か ったので, ロー裁判所

( l aw court s )

よ りも さ らに道徳 的で柔軟 な正義 を施 した

11 8)

。 この ような手続 か ら発生 した信 認義 務 とい う概念 は,大法官 だけがエ クイテ ィの名 において課す こ とので きる「ロー を超越 した

( supr a‑l ega l )

」義務 と して,緩 やか に定義 され る義務 と して発 達 した。 この ような 「ロー を超越 した」性 質 は,現在 の会社 の取締役 が負 う信 認 義務 において も生 き続 けてい る

119)1 20)

大法官裁判所 は,他 の裁判所 との競合 を避 けるため に,他 の裁判所 が十分 な 救済 を与 えるこ とがで きない事件 だけ を審理す る ようになった

1 21 )

。そのため,

い う言葉 を用 いてい るのや,デ ラウエ ア裁判所 の裁判 官 の特徴 と して説教 者

( pr e ac her )的 とい う説明を行 っているのは,おそ らくエ クイテ ィの起源 にこの

ような教会の聖職者の性質があることを意識 してのことと思われる0 Edwa

rdB.

Ro c k , Sai nt sandSi nne r s . ・ Hou JDo e sDe l awar eCo r po r at eLa

uJ

Wo r k . 24 4UCLA L . REV.1 0 0 9 ,1 01 6( 1 9 9 7 )

(裁判官は,警察官ではな く説教者であると考えると,会社 法における裁判所の役割をより正確 に理解で きる).

1 1 8 )PoMEROY,

〟 ♪γ αnOt e1 08,a t42 (

「‑大法官は,ロー裁判所の能力 を完全 に超 越 した‑救済を与えることができる。大法官は,‑その当時までに確立 されたルー ルに制約 されることな く,この種の救済を非常に自由に用いることがで きたようで ある

」).

エ クイテ ィの起源にキ リス ト教的道徳があることについては

, i d. at1 2‑ 1 3, 20

を参照。

1 1 9 )Wi l l i a m T.Al l en

&

Reni e rKr a a kma n,Co mme nt ar i esa ndCa s e sont heLa w o f Bus i ne s sOr ga ni z a t i on( Cha pt e r8Nor ma lGo ve r na nc e :Thedut yo fCa r e )( unpub‑

1 i s hedma nus c r i pt ,o nf i l ewi t haut ho ri n2 0 01 ) ,

1 2 0 )現代 において も,信認義務の有するエクイティの性質は,アメリカ会社法の基

本的な原則 となっている。取締役 と役員は会社の行為 を行 う法律上の権限を有 して いるが,エクイティの裁判所は,株主の利益 を保護するために,必要であれば,事 後的に取締役や役員の行為 を規制する。 この点を明示的に述べた古典的な文献は, 例 えば, Ado

l fA. Be l l e ,Cor po r at ePou ) e r sAsPo u ) e r si nTr us t ,4 4HARV. L.REV.

1 0 49 ,1 0 4 9( 1 9 31 )

(会社の経営者に付与 された権能は常に株主全体の利益のために 行使 される必要があるので

,

「規定上は権限付与が絶対的であ り,その権限の行使 が技術的には正 しいとして も,そのような権限が[株主の]利益を害するように行使

された場合は,エクイティ (衡平法)上の制限に服することになる」).

1 21 )但 し,ロー とエクイティの裁判権 を分かつ境界は必ず しも明確ではなかった0 PoMEROY

,S

u Pr a not e1 0 8 ,a t42 (

「ロー裁判所 とエクイティ裁判所の裁判権 を分か つ境界線に関する両裁判所の間の論争は,実際には,完全に決着がつ くことはなかった。

おそらく,二つの裁判権が一つに融合するまで,あるいは少なくとも同 じ手続におい て同じ裁判官によって行使されるまでは,その論争は必然的に続いたに違いない

」 ).

(5)

会社法立法の日米比較 ( 2) 165 二つの別個の裁判所が刑事事件以外の事件 を審理す ることとなった。大部分の 事件 はロー裁判所で審理 され, ロー裁判所 における救済が十分でない事件が大 法官裁判所 ( エクイテ ィ裁判所)で審理 された。両裁判所 とも独 自に裁判官 と 書記 を備 え,それぞれ別個 に手続 と先例 を発展 させ た 1 22) 。 ロー とは異 な り, エ クイテ ィでは,柔軟で,公正 と正義 ( f a i r nes sa ndj us t i c e)を重視す る原則 が発展 した。エクイテ ィか ら生 まれた最 も重要 な法理 は信託 ( t r us t )であ り, エ クイテ ィか ら発生 した最 も重要な手続は,特定履行 ( s pec i f i cper f or ma nc e) と差止め ( i nj unc t i on)である 1 23) 。

( 2) 植民地化以後

イギ リスがアメリカの植民地化 を進めていた時点で, この ような法 システム は既 に形成 されていた。 イギ リスが 1676 年 にデラウエアをオランダか ら取得 し た ときに, この ような二重の法体系 をもつイギ リスのシステムも導入 された。

導入当時は,エクイテ ィの事件 を扱 う別個の裁判所 は設け られなかった。植民 地化 されてか ら 1792 年 までの間は, コモ ンローの裁判所である一般訴訟裁判所 ( Cour to fCommonPl e as ) の裁判官がエ クイティに関する裁判権 ( j ur i s di c t i on) も行 使 して い た 。 1792 年 の デ ラ ウェ ア州 憲 法 12 4) に よ り, 衡 平 法 裁 判 所

( cour to fChanc er y) 1 25) と大法官 ( Chance l l or ) とい う職位が新 たに創設 さ れた。それに伴い,エクイテ ィに関す る裁判権 は, コモ ンローの裁判所 ( l aw

。 。ur t s )か ら分離 され,衡平法裁判所の大法官 に与 えられた 126) 。

この ようなデラウェア州の判断は,当時のアメリカの趨勢か らすると,特異

1 22 ) 以上につき , Ha r t ne t t , Hl ' s t o r yo ft heDe l au ) ar eCo ur t ,a t 36 8 を参照。

1 23 ) Qui l l e n

&

Ha nr a ha n , De l awar eCo ur t ,a t 821 .

1 2 4) Ar t i c l eⅣ, Se c t i o n 1 4 0 ft heSe c o ndDe l a wa r eCo ns t i t ut i o n ( 1 7 92)

の第

1文。

1 25 ) 既に述べた沿革からすると , Cour to fCha nc e r yという言葉は大法官裁判所 と 訳す方がその沿革にも語義にも忠実で適切であるように思う。 しかし,我が国の会 社法の文献では,エクイティについての裁判権をもつ裁判所という点を強調 したため か,衡平法裁判所 と訳されることが多いので,デラウェア州のCo ur to fCha nc e r y に言及する際は,特に断らない限り,衡平法裁判所 という語を用いている。

1 26 ) Qu i l l e n & Ha nr a h a n, De l au J ar eCo u r t , a t 82 2,839.

(6)

166

商 学 討 究 第

5 8

巻 第

2・3

であった。独立 した別個の衡平法裁判所 を創設 しなかった州 も多 く,別個の裁 判所 を創設 した州であって も,独立戦争の前後 には衡平法裁判所 を廃止 してい た。独立戦争後は,ほとん どの州で,同一の裁判官が ロー とエクイテ ィの事件 について審理で きるように,裁判権 を統合す る動 きが始 まっていた。 しか し, デラウェア州 は逆の コースを辿 った。デラウェア州では,1 7 9 2 年 まではロー と エ クイテ ィの裁判権 は同一の裁判所の裁判官が行使 していたが,1 7 9 2 年 になっ て突如別個の衡平法裁判所 を新設 したか らである。 この ような選択 をデラウェ ア州が行ったのは,大物裁判官のために新たなポス トを作 り出す必要があった ため ともいわれている 1 2 7 ) 。

デラウェア州以外の多 くの州では,ロー とエクイティの区別は廃止 され,両 者 は単一の裁判 システムに統合 されるようになった。しか し,デラウェア州は, 1 7 9 2 年 にエクイテ ィを扱 う独立 した衡平法裁判所 を新たに創設 した後 も,ロー とエ クイテ ィの区別 を廃止 して しまうような訴答手続 ( pl eadi ng) を法制化す ることもなかった し,エ クイティとコモ ンローを一つの裁判 システムに統合す ることもなかった 128) 0

1 8 世紀か ら1 9 世紀 にかけて会社形態が発展す るにつれて,デラウエア衡平法 裁判所 も会社の紛争 について救済 を与 えることが多 くなった 1 29) 。エ クイテ ィ 上の法理 と救済手段,特 に信託の法理は,会社 内部の紛争 を解決するのに適 し ていた。信託の法的構造 と会社の法的構造 に類似性があるか らである。会社の 財産 をコン トロールす る立場 にある取締役の地位 は,信託の受託者 ( t r us t e e) の地位 と類似 していたので,エ クイティの裁判所が信託の受託者の信認義務 を 取締役 に拡張 したのは驚 くに値 しない。エ クイティの裁判所であるデラウエア 衡平法裁判所 は, 信認義務 を用いた会社 の紛争解決に適 した性質を備 えていた。

1 2 7 )〟. a t8 2 5 ‑ 2 6 .さらに,デラウェア州の植民地時代の独特な歴史も,衡平法裁判 所の設立に親和的であった。衡平法裁判所を新たに作 り出すことを可能にしたデラ

ウエアの政治的 ・経済的背景については,i d. a t8 2 5 ‑ 3 1 を参照。

1 2 8 )I d. a t8 31 ; Ha r t ne t t , Hi s t o r yo ft heDe l au J ar eCo ur t , a t3 6 9 .

1 2 9 )Qu i l l e n & Ha nr a h a n, De l au J ar eCo u r t , a t8 3 2 .

(7)

会社法立法の 日米比較

( 2) 167 1 9

世紀 を通 じて,解 決す る会社 の紛 争 の数 と種 類 が増 え るにつ れ て, デ ラウ ェ ァ衡平 法裁 判所 の会社 の 問題 に関す る裁 判権 も拡大 して い った

1 30)

0

1 9

世紀 後 半 に は, デ ラウェ ア州 の立法府 も, デ ラウエ ア衡平 法裁判所 を会社 法 の 問題 に関す る フ ォー ラム と して指 定 す る よ うに な った

1 31 ) 。1 9

世 紀 の 間 に,衡 平 法 裁 判所 は,デ ラウェ ア州 の会社 に関す る様 々な制 定法上 の請 求 とエ クイテ ィ(衡 平 法上) の請求 を取 り扱 う裁判所 に なって い った

1 32)

20

世紀 に入 る と,州 間の会社 設立誘 致競 争 が活発 に なった。ニ ュー ジ ャー ジー 州 が州 間の会社 設 立誘 致競 争 か ら離 脱 した後 は,デ ラウェ ア州 が覇権 を握 った。

州 の立 法府 はそ れ まで の立法 の ポ リシー を転換 し,投 資家 保 護 の役 目を放 棄 し た。 その ため に生 じた様 々な弊 害 を抑 止 し矯 正 す る役割 は,立法府 で は な く, 裁 判所 が担 った

1 33)

。 デ ラウエ ア衡 平 裁 判所 が エ ク イテ ィの裁判 所 で あ った と い うこ とは, この役 割 に非常 に適 して い た。 デ ラ ウエ ア衡 平 裁 判所

13 4)

は,エ クイテ ィ上 の法理 で あ る信 託 か ら信 認義務 を導入 す る こ とに よって,様 々な会 社 法上 の矯 正 的 ・救 済 的 なルー ル を柔軟 に作 り出 して い った。

2.

現代 の デ ラ ウエア会社 判例 法 の特徴

( 1

) エ クイテ ィの具体 的 な現 れ

現代 の デ ラウエ ア裁判所 の判 断 の なか に も,エ クイテ ィの性 質 を見 出す こ と が で きる。元 来, エ クイテ ィは,手続 的 ・技 術 的 な制 約 か らローで は十分 な救 済 を与 える こ とが で きない場 合 に,正 義 と公正 を実現 し,事 案 に応 じた柔軟 な

1 3 0 )〟.

1 31 )1 8 3 3

年法は,会社の解散手続や会社 の帳簿閲覧 についての争いを取 り扱 う裁判 所 として,デラウエア衡平法裁判所 を指定 した

。 〟 . a t8 3 4 .

1 3 2 )I d.

1 3 3 )

以上 について,例 えば,玉井利幸 「アメリカにおける授権法思想の発生 ‑デ ラウエア会社法 を中心 に‑」一橋論叢

1 3 2

1

1‑2 5

( 2 0 0 4

年) を参照。

1 3 4 )

デラウェア州では,デラウエア最高裁判所が別個の裁判所 として設 け られたの は

1 9 51

年である。それまでは,同 じ裁判所の裁判官で,原審の審理 に参加 していな かった裁判官が上訴の審理 を行 っていた

。Qui l l en & Hanr ahan , De l awar eCo ur t

,

at848

,デ ラウエ ア最高裁判所 のサ イ ト

( ht t p: //cour t s . del awar e, gov/Cour t s /

Supr e me %2 0 Cour t /? hi s t o r y. ht m)

も参照。

(8)

16 8

商 学 討 究 第

5 8

巻 第

2・3

救済 を与 えるため に発生 し,発 達 して きた。 デ ラウエ ア衡平法裁判所 とデ ラウ ェ ァ最 高裁判所 の裁判官 を務 め たWi l l i am T. Qui l l en 1 35) 元裁判官 は,今 日で も デ ラウェ ア州 で は この ようなエ クイテ ィの性 質 は失 われてい ない と し 1 36) , デ ラウェ ア州 のエ ク イテ ィの特徴 を詳 し く説 明 してい る 1 3

7)

。Qui l l e 。元 裁判官 の述べ るデ ラウェ ア州 のエ クイテ ィの特徴 をまとめ る と,( 1 ) 正義 と公正 を重視 し,( 2) 一般 的 な原則 に基づ き,( 3) 事案 に応 じて ( f ac t ‑s pec i f i c ),( 4) 柔軟 な解 決 を行 うこ と, とす るこ とが で きる。実際 に, この ようなエ クイテ ィの特徴 は, 現代 のデ ラウエ ア裁判所 の判 断の 中に見 るこ とがで きる

第 一 に, 正 義 と公 正 を重 視 す る とい う特 徴 で あ る。 これ は, 「 不 公 正 な ( i nequi t abl e)行動 は,それが法律 上 ( l egal l y)可 能であ る とい うそれだけの 理 由で許容 され る ようになるので はない 」138) とい う,有名 な Schne l l事件 の文 言 に典型的 に現 れてい る

第二 に,一般原則 を適用 して,一般原則 か ら新 た な法理 を作 り出す とい う特 徴 は,例 えば,Revl on 事件 1 39) に見 る こ とが で きる。Revl on事件 で は,会社

1 3 5 )1 9 7 3 年か ら 7 6 年 にデラウエア衡平法裁判所の大法官を ,1 9 7 8 年か ら 1 9 8 3 年の間 にデラウエア最高裁判所の判事 を務めた。Qui l l en & Hanr ahan , De l au ) ar eCo ur t , a t81 9 .

1 3 6 )対照的に,デラウエア衡平法裁判所の祖先であるイギ リスの大法官裁判所は, 手続的な柔軟性 を欠 くようになっただけでな く,法理上の柔軟性 も失われていった ために,1 8 7 5 年に廃止 された。〟. a t8 21 .

1 3 7 )本文の記述は,Qui l l e n 元裁判官の以下の文章をまとめたものである。

「 デラウェア州の大法官は

, 2

世紀に渡 り,事件 に特有の状況に対処するための 救済 を注意深 く作 り出 し,特定的で詳細な判示 ( ho l di ng)をするようにして,広 範なルールを述べることを避けて きた

。 I d. a t82 1 .

「 デラウェア州のエクイティの極意は,イギ リスに起源を持つ二つの古い概念に 集約 される。第一に,エクイティは良心 に基づ く公正性 ( f a i r ne s s ) とい う道徳的

感覚

( mo r a ls ens e )である。第二に,エクイティは,普遍的なルールは常に特定 の事件に適切に適用で きるわけではないということを認識 している。エクイティと は,正義のために,一般的な道徳的原則 ( br o admo r a lpr i nc i pl e s )( すなわち法格

( maxi ms ) )を特定の状況の事実 に柔軟 に適用するということである。デラウ ェア州はこの本質を失わないでいる

。〟.a t8 21 ‑ 2 2 .

1 3 8 )Sc hne l lv,Chr i s ‑ Cr a f tI ndus . , I nc "2 8 5A. 2 d4 3 0, 4 3 9( De l .1 9 71 ) ,

1 3 9 )Re vl on, I nc .V.Ma c Andr e ws &Fo r be sHo l di ngs , I nc . ,5 0 6A2d1 7 3( De l .1 9 8 6 ) .

(9)

会社法立法の日米比較 ( 2) 16 9 を売却す る場合 は合理的に利用可能 な最高の価格 を獲得 しなければな らない と い ういわゆる Revl ondut yが述べ られた。Revl ondut yは,受任者 ( t r us t ee) は信託財産 を最 も高い価値 で売却 しなければな らない とい うデ ラウエ ア法の伝 統 的 な原則か ら産み出 された。Revl on 事件 の判 断 は, この ようなデ ラウェ ア 州で古来か ら確立 している原則 を,売却 される財産が会社 その ものである場合

に適用 したのである 1 40) 。

第三 に,問題 となっている事案の性質 に応 じた取扱 いをす る とい う特徴 は, 例 えば,取締役 の独立性 に関す る判断に見 ることがで きる。デ ラウェ ア州では, 取締役 の独 立性 について,すべ ての問題 に適用 される画一的な定義 は提供 され ていない。取締役 の独立性 は,事件 ごとに,問題 となっている事案の性 質に応 じて判 断 され る 1 41 ) 。例 えば,派生訴訟 を提起す る前の提訴請求が免 除 され る か否か を判断す るために取締役 の独立性が問題 になる場合 と,少数株主の締 出 合併が なされる場合 に従属会社 に設 け られる特別取引委員会の取締役 の独立性 が問題 になる場合 とでは,独立性 を判断す るための要素 は異 なる

第四に,事案 に応 じて柔軟 な解決 を導 くとい う点であ る。 デ ラウエア裁判所 は,制定法上の救済では十分でない場合 には,衡平法上 の救済 を作 り出 してい る。例 えば,Wei nber ger 事件 1 42) では,詐欺 や不実表示 な どに よ り,制定法 上の株式買取請求権 による救済では十分でない場合 は,大法官の権能は完全 で ある として,信認義務違反 を理 由に,新 たなエ クイテ ィ上の金銭 的な救済方法

1 4 0 )J .Tr a vi sLa s t e r , Ex po s i n gaFal s eDi c ho t o my:Th eI mpl i c a t i o n so ft h eNo ‑ Ta l k Ca s e sfo rt heTi me / Re v l o nDo ub l eSt a nda r d,3DE L . L REV.1 7 9 , 2 0 6( 2 0 0 0) ( 「 デラ

ウエア法は,長 くに渡って

,

『 受任者が現金で資産を売却する場合,その受任者の 義務は利用可能な最上の価格を獲得するというただ一つの目的を追求することであ る』 ということを認識 してきた。Re vl on 事件は,ただ単に,このような確立 され た原則を,売却 される資産が会社その ものである場合に適用 しただけである 」);

Le oE. St r i ne J r . ,Cat e go r i c alCo n fus i o nIDe alPr o t e c t i o nMe a s ur e si nSt o c k

fo r ‑ St o c kMe r ge rAgr e e me nt s .5 6BUs . LAW. 91 9 , 9 2 7n.2 5 .

1 41 )Nor manVeas ey

&

Chr i s t i neT.DiGugl i el mo ,WhatHa P Pe ne di nDe l awar e Co r po r at eLawandGo v e r nanc efr o m 19921 2004. PARe t r o s pe c t i v eo nSo meKe y De v e l o Pme nt s ,1 5 3U. PA. L REV.1 3 9 9 ,1 4 7 0( 2 0 0 5 ) .

1 42 )We i nbe r ge rv.UOP, I nc . . 4 5 7A. 2 d7 01( De l .1 9 8 3 ) .

(10)

170 商 学 討 究 第5

8

巻 第

2 ・3

を作 り出 した 1 43) 。

( 2) デ ラウエア会社判例 法の一般的 な特徴

デ ラウエ ア裁判所の判例法の一般的な特徴 は以下の ようにまとめることがで きる。

「 裁判官 によって作 られたデ ラウエア法 は,柔軟 で高度に事実 に特化 したス タンダー ドを好 み,強固なルール ( ha r dr ul es )を回避 している。その結果, 異例 なほ ど高度 な柔軟性 をもっている。典型 的なデ ラウエアの意見 は,特定の 事実が,長期 にわた って普遍 的 に受 け入 れ られてい る信認 の原則 ( f i duc i ar y pr i nc i pl es ) と結 びついて,事件 の結果 を明確 に決定 してい るかの ように読 む

ことがで きる 」1 44) 。

この ように,デラウエア裁判所の判断の特徴 は,事案に応 じた ( f a c t ‑ i nt e ns i ve ) 柔軟 な解決 を,広範 な原則 に基づいて,一般的 ・普遍的なルールに定式化す る のが困難 な判示 で もって導 いてい る点 にあ る 1 45) 。 デ ラウェ ア州の判例法 にこ の ような特徴があるのは,デ ラウエ ア会社法の判例法理の起源がエ クイテ ィに 由来 していることを考 える と,不思議ではない 1 46) 0

この ようなデ ラウエ ア会社判例法の特徴 は,暖味で不 明確 である と批判 され ることもある。事前の段 階では,暖味で不 明確 とい う性 質は避 けがたい。エ ク イテ ィの判 断の性 質上,事後 的 に,問題 となってい る事件 の事 実が明 らか に

1 43) 〟 . a t 71 4 ( 「 ‑詐欺,不実表示, 自己取引,会社資産の意図的な浪費,著 しく 明白な不行跡が行われている場合には,買取請求権の救済は十分でないかもしれな い。そのような場合は,大法官 ( Cha nc e l l o r )の権能は完全であ り,取消的損害賠 償 ( r e s c i s s o r yda ma ge s )などの,何 らかの形態のエイクティ ( 衡平法)上の金銭 的救済を作 り出すことができる。‑大法官の裁量の見地からすると,完全な公正の 基準,すなわち公正取引 と公正価格に基づ き,判決は‑金銭的損害賠償の形態をと るべ きである 」).

1 44) Ka ha n & Ro c k, S ymb i o t i cFe de r al i s m . a t 1 59 8.

1 45 ) J i l lE. Fi s c h,ThePe c ul i arRol eo ft heDe l au J ar eCo ur t si nt heCo mpe t i t i o nfo r Co r po r at eChar t e r s ,68 U. CI N . LREV. 1 061 ,1 075 ‑ 76( 2 00 0) .

1 46 )〟 , a t l O7 7 ( 「 エクイティの法体系がデラウエア会社法の柔軟性 に寄与 してい

る」).

(11)

会社法立法の 日米比較 ( 2) ) / ‑1 なって,その特定 の事実 と結 びつか ない と具体 的 な結論 が導 かれ ないか らであ る。事後 的 に一般 的 ・抽象 的 な法理が事案 に応 じて カス タマ イズ され るので柔 軟性 は高 いが,事前 の明確性 は犠牲 にな らざるを得 ない。 そのため,事前 の段 階での明確性 を重視す る者 に とって は, この ような不 明確 さは受 け入 れ難 く, 否 定 的 な評価 が下 され る 1 47 ) 。逆 に, この ような柔軟性 を肯 定 的 に評価 す る者

もい る 1 48) 0

3. 現代 のデ ラウエア裁判所 の特徴

デ ラウェ ア州 の裁判所 の システムは, アメ リカの他 の州 と比べ る と,特異 な 歴 史 を経 て形成 されて きた。現在 で も,その特異性 は失 われてい ない。

デ ラウェ ア州 で は,会社 に関す る事件 は衡平法裁判所 ( CourtofChancer y) が担 当す る。 デ ラウエ ア衡平法裁判所 は会社 法 の事件 を専 門的 に取 り扱 う事 実 審裁判所 ( t r i al。。urt ) で あ る 1 49 ) 。 ア メ リカで,会社 法 の事件 を専 門的 に扱

1 47 ) 例えば ,EhudKamar , ARe gul a t o r yCo mpe t i t i o nThe o r yo fI nde t e r mi nac yi n Co r po r at eLaw , 98CoLUM , L. REV.1 908( 1 998) ;Mar celKahan & EhudKamar

,

Pr i c eDi s c r i mi nat i o ni nt he

M

a r h e t fo rCo r po r at eLo u ) ,86CoRNELLL.REV.1 205 ( 2 001 ) . しか し,現在では,判例の集積 によ り,デラウエア会社判例法は十分 な予 測可能性 を持っているか もしれない 。Roc k , S u pr a not e1 1 7, a t1 01 7 ( 「 デラウエア の判断は事実特殊的で ( f a c 卜s pe c i f i c ) ,説話的な性質を有 しているが,その判断は 時間の経過 とともに合理的な明確性 をもったガイ ドラインを生み出 している 」).

1 4 8 ) 例 えば ,Fi s ch , s u ♪r a not e1 45 ,a t1 0 8 2 ‑ 8 8. もちろん,デラウエア裁判所の裁判 官はこのような特徴 を高 く評価 し,積極的に宣伝 している。例えば ,Le oE.St r i ne , J r . , De l au J ar e' sCo r po r at e ‑ LawS ys t e m:I sCo r po r a t eAme r i c aBu yi n ga nEx q ui s i t e Je we lo raDi a mo ndi nt h eRo u gh. フ ARe s po n s et oKa h a 7 1&Ka ma r' sPr i c eDi s c r i ‑ mi n at i o ni nt h eMa r k e t fo rCo r po r a t eLa u ) , 8 6CoR NEL LL.REV.1 2 5 7( 20 01 )

.この他

にも,デラウエア裁判所の裁判官が 自画 自賛 している文献はた くさんある。後の注 1 5 9 で引用 している文献を参照。このような事前の明確性 と事後的な柔軟性の トレー ドオフについては,玉井利幸 「 会社法の 自由化 と事後的な制約 ‑デラウエア会社 法を中心 に ‑( 2 ) 」一橋法学 3

3

1 1 2 9 ‑ 45 頁 ( 2 00 4 年) も参照。

1 49 ) デラウエア衡平法裁判所 は,会社法の事件だけでな く,信託,不動産,受認者

などエクイティ全般 と,制定法で指定 されている事柄 を取 り扱 う。詳 しくは,デラ

ウエア衡平法裁判所のサイ ト ( ht t p: //c our t s . del awar e. gov/Cour t s /Cour t %20

o f %2 0 Cha nc e r y

/?j

ur i s di c t i on. ht m) を参照。デラウエア衡平法裁判所に繋属 してい

る事件の約 7 5 0 / Oは会社関係の事件である 。Fi s c h , s u p 7 1 ano t e1 45 ,a t1 0 7 7 .

(12)

17 2

商 学 討 究 第58巻 第

2 ・3

う事実審裁判所 を持つ州 はデラウェア州だけである 1 50) 。デラウエア衡平法裁 判所 では,陪審員 を用 いず事件の審理が行われ 1 51 ) ,懲罰的損害賠償の付与が 禁止 されている 152) 。 デラウエア最高裁判所 の 5 人の裁判官の うち,数名 はか っての衡平法裁判所の裁判官 を務めた者であるのが通例である。現在 は 3 人が 衡平法裁判所の元裁判官である。そのため,会社法の事件 は,事実審裁判所 と 上訴審裁判所の両方の レベルで,会社法 を専 門とす る裁判官 によって判断 され る。デラウエア衡平法裁判所 に捉起 される訴えの数 自体 は多 くな く,事件の解 決は迅速である 153) 。

裁判官の選出方法 も特徴的である。裁判官の選出方法は憲法で規定 されてい る 15 4) 。他 の多 くの州 と異 な り,デラウェア州では,裁判官は選挙 によって選 出されるのでは く,指名委員会 によ りその能力 ( mer i t ) に基づいて選出される。

この ように,選挙 を経ずに裁判官が任命 される州は珍 しく,全米で 8 州 しかな い 155) 。 さらに,デ ラウェア州の憲法 は,二つの党か ら裁判官 を送 ることを強 制 している 1 56) 。 この ように,選挙 を経ずに任命 されるだけでな く,党派的な バ ランスを維持す ることが憲法 によ り要請 されているので,デラウェア州の司 法 は政治的な対立か ら免れている 157) 。

上述の ようなデラウエア裁判所の特徴 はアメリカで も際立 っている。デラウ ェア州以外 にも,例 えば,ニュー ヨーク州,イリノイ州,マサチューセ ッツ州, ペ ンシルベニア州,ネバ ダ州 などの ように, ビジネスの紛争 を専 門的に取 り扱 う商事裁判所 ( bus i nes scour t ) を創設 している州 もある。 しか し, これ らの 多 くの州では,商事裁判所の裁判官 は選挙で選出されている。デラウェア州以

1 50) Ka ha n & Ro c k , S ymb i o t i cFe de r al i s m.a t 1 602.

1 51 ) Del .Cons t .ar t . I V ,§10. Mar celKahan

&

EhudKamar ,TheMyt h o fSt at e Co mpe t i t i o ni nCo r po 7 1 at eLaw ,55STAN.L REV.679,708( 2002) .

1 52) Ha me r me s h , Po l i c yFo undat i o

7才

S , a t 1 760.

1 53 )〟.

1 54) De l . Cons t .a r t . Ⅳ,§3.

1 55) Ka ha n & Ro c k , S ymb i o t i cFe de r al i s m,a t 1 603.

1 56) De l . Co ns t .a r t , Ⅳ,§3,

1 57) Ve a s e y & DiGugl i e l mo , s u p7 T ano t e 1 4 1 ,a t 1 402.

(13)

会社法立法の日米比較 ( 2)

173

外 の州の特別裁判所では,陪審員付 で審理が行 われる。設置の根拠が州憲法で 規定 されているのはデ ラウェ ア州の衡平法裁判所 だけであ り,他 のほ とん どの 州の特別裁判所 は行政規則 に設置の根拠がある。 デ ラウェ ア州の衡平法裁判所 は独立の裁判所 であるが,他 の州の商事裁判所 は一般の裁判所 の一部 門に過 ぎ ない。 さ らに,デ ラウェ ア州以外 の州の商事裁判所 は,会社法 に関す る紛争 だ けでな く,契約 な ども含 む ビジネスに関す る紛争全般 を扱 っている 15 8) 。

デ ラウェア州の裁判官の活動 も特徴的である。法廷外 での対外 的な活動 を非 常 に活発 に行 い,デラウエ ア会社法の宣伝 ・普及活動 に努めている。論文の発 表 1 59) , ロース クールな どで行 われ る学術 的 な会議や講演会へ の参加 1 60) 〉7 A ミ 社役員への講演 な どを通 じて,デ ラウエア会社法の伝道 を精力 的に行 っている。

この ような活動 に従事す る理 由はい くつか考 え られる。一つ は,デ ラウエ ア 会社法の宣伝 ・普及 を通 じた裁判官の 自己利益 の増大である。デ ラウエ ア裁判 所の裁判官 は,デ ラウエ ア会社法の法創造 において決定的に重要 な役割 を果 た している。デ ラウエア会社法の宣伝が奏功 し,デラウェア州で設立す る会社 の 数が増 えれば,裁判官の活躍す る機会 も増 える。 デ ラウエア会社法の優 秀性 を 喧伝す ることによって,その法創造 において決定的 に重要 な役割 を果 た してい る裁判官 自らの名声 を間接 的に高め, 自らの金銭的 ・非金銭的利益 の増進 を図 ろ うとしているのか もしれない。

もう一つ は,デ ラウエ ア会社法の法創造の特殊性 を克服す るためである 1 61 ) 。

1 5 8) デラウエア衡平法裁判所 と他の州の商事裁判所 については,Kaha n

&

Ka mar , S u pr ano t e 1 51 ,a t 7 08‑ 71 5 ,特に 7 1 1 頁のTabl e 4 ( 商事裁判所の比較表)を参照。

1 59 ) デラウエア裁判所 の裁判官 による主 な論文 は ,Kahan & Rock , Symbi ot i c Fe de r al i s m,at 1 603‑ 04 n. 11 7 を参照。その注では ,1 996 年か ら 2 003 年の間に発表

された 23 本の論文が引用 されている。さらに,Ha me r me s h , Po l i c yFo unda t i o n s ,a t 1 7 59m3 8 も参照。

1 6 0) デラウエ ア裁判所 の裁判官 による主 な講演活動の リス トは,i dat 17881 92 ( Appe ndi xA) を参照。

1 61 ) Ro na ldJ .Gi l s on ,TheFi neAr to fJud gi n gIWi l l i a m T Al l e n ,22 DE L . I .CoRP.

L.91 4,91 7‑ 1 8( 1 997) .さらに,デラウエア裁判所の裁判官が伝導活動を行 う理由と

意義については,Kaha n

&

Ro c k , S ymb i o t i cFe de r a l i s m,at 1 61 4 も参照。

(14)

17 4

商 学 討 究 第5

8

巻 第

2 ・3

デラウエア会社法の大 きな特徴 は,重要 な法的ルールの大部分が裁判官 によっ て作 られた法であるとい うことにある。立法 という形態 をとるのであれば,法 制作者が望 ましい と思 ったルールを作成することがで きるが,裁判所が法 を作 るには事件が裁判所 に訴え られる必要がある。 しか し,必ず しも,裁判官が望 ましい と思 うルールの創造に適 した事件が発生 し,裁判所 に提起 されるわけで はない。裁判官がある問題 を解決するために望 ましいルールを思い描いた とし て も,そのルールを適用す るのに適 した事件が裁判所 に持ち込 まれなければ, 裁判所 による法創造 はで きない。法の発展 は,偶然 に左右 される。 この ような 制度的制約 をある程度克服するために,未だ裁判 になっていない問題や,裁判 所が部分的に しか判断 していない問題について,論文や講演で裁判所の考 えを 予め示すのである。そ うす ることによって,将来裁判所 によって創造 されるか もしれないルールを予め予告 し,会社の取締役や役員に裁判所が望 ましい と考 える行動の指針 を与 え, 取締役や役員の行動 を誘導 しようとしているのである

判決文の長い傍論 も同様 な効果 を意図 している。デラウエア裁判所の裁判官が 事件の解決 には直接関係のない傍論 を詳 しく述べ るの も,裁判所の意図を会社 関係者 に予め告知するのである。

Ⅱ. 日本 の新会社 法 の特徴

2005 年 に制定 された新 しい会社法 1 62) の特徴 は,規制緩和 であ る 163) 。それ までの画一的な禁止 を廃止 して, 自由の領域 を拡大 し,会社法の柔軟性 を高め ることが 目的 とされる。 自由で柔軟 な会社法制 を実現す るとい う目的は,デラ ウエア会社法 と同様である 164) 。 しか し,その 日的を達成 しようとす る手段や

1 62 )平成1 7 年法律第 86 号。

1 63 ) 相揮哲 ・郡谷大輔 「 新会社法の解説( 1 ) 会社法制の現代化に伴 う実質改正の概 要と基本的な考え方」商事法務 1 7 37

( 2005 年) 1 6 ‑1 7 頁。

1 6 4) そのため,新会社法はアメリカ化 したといわれることもある。例えば,岩原紳

作 「 新会社法の意義と問題点 Ⅰ 総論」商事法務 1 7

7

5

( 2 006 年) 6‑7 頁。 しか

(15)

会社法立法の日米比較 ( 2)

175

立法ポ リシーは,以下で述べ るように,大いに異 なる。

デラウエア会社法の特徴が消極的で 自己抑制的な立法による司法への依存 に あるのに対 し, 日本の新会社法の特徴 は行政の主導 による積極的な成文化 にあ る。デラウエア会社法では,法の具体的な内容やポ リシーの決定 を裁判所の判 断に先送 りする事後主義のアプローチが とられている。それに対 し, 日本の会 社法では,法務省が法務省令 を用いてそれ らを先取 りす る事前主義のアプロー チが とられている。デラウエア会社法は司法依存モデル と呼ぶ ことがで きるの に対 し, 日本の会社法は行政主導モデル と呼ぶ ことがで きる。

A.新会社法の立法ポ リシーの特徴

日本の新会社法の立法ポ リシーの特徴 は,詳細 な成文化 と事前の明確性 の追 求にある。これはデラウエア会社法 と正反対である。デラウエア会社制定法は, 暖味な文言 を用いた り,規定 自体 を設けないことによって,事前 に具体的な法 の意味内容 を提供するのを可能な限 り回避 しようとしている。で きる限 り 「 書 かない」 とい うポ リシーが採 られている。制定法の暖昧 さを許容 し,具体的な 解決は裁判所の判断に先送 りする事後主義のアプローチが とられている。その ため,デラウエア会社法では,裁判所 による法創造や 自由の濫用の弊害是正 な ど,裁判所の事後的な役割が非常 に大 きくなっているので,司法依存モデルと 呼ぶ ことがで きる

それに対 し, 日本の会社法は,詳細 に成文化 を行 うことによって暖昧 さをな くし,明確性 を可能な限 り追求 しようとしている 1 65) 。起 こ りうる,理論的に 可能性 のある全ての場合 を成文化 しようとしている 1 66) 。事前 に 「 全 て書 き尽

し,以下で見るように,会社立法のポリシーや,会社制定法に期待される役割,立 法 ・司法 ・行政による会社法のルールの作成と発展に対する関与の程度などは大き

く異なっている。

1 65 ) しか し,以下で述べるように,そのような試みは必ず しも成功 しているとは言 えない。

1 66 ) 具体的なニーズがあるかどうか不明でも,論理的にあ りうる規定であれば,予

め成文化 しておこうという発想であったようである。稲葉威雄 ・郡谷大輔 「 対談 ・

(16)

176 商 学 討 究 第

5 8

巻 第

2・3

くしたい」 (成 文化 したい) とい う意欲 が 見 て取 れ る

1 67)

。 法務省 令へ の委任 を多用 し,で きる限 り事前 に解 決 を与 えて しまい,裁判所 の事後 的 な役割 に委 ね る余地 を少 な くしようと してい る。行政の主導 に よる積極 的 な成文化 に よ り, で きるだけ事前 に成文 の解 決 を与 え ようとす る事前 主義 の アプローチが とられ てい る

事前 に可能 な限 り明確化 したい とい う意思 は,以下の ような点 に見 るこ とが で きる。 まず,非常 に多 くの定義規 定 を設 けてい る点 であ る

1 68)

。会社 法 の定 義語 の数 は

3 00

近 い。 その なか には,会社 法全体 に渡 って通用 す る一般 的 な定 義 の規定

1 69)

と, あ る編 や章,節 ,条 ,項 な ど,部分 的 にのみ通用 す る特 別 の 定義があ る。さ らに,法務省令 の レベ ルで定義 されてい る用語 も多 い。しか も, 定義 の なか には, 同 じ文言が用 い られてい るの に,あ る場所 と別 の場所 で は異 なった意味 内容

170)

が与 え られて い る場合 もあ る

1 71 )

。従 来 は定義 す る こ とは

会社法の主要論点をめ ぐって」企業会計

5 8

6

( 2 0 0 6

年)

1 6 8

頁 (以下では,「稲 葉 ・郡谷対談」 と引用)の郡谷発言

(

「‑・特定のニーズを思い浮かべて制度をつ く るということを,会社法は していませんので。要するに,あるニーズがあ ります と いわれれば,それをカバーするためだけではな く,そのニーズを含めて許容 される 範囲を全ての対象にする制度を用意 します というふ うにしています

」)0

この点 も,デラウエア会社制定法の,可能な限 り立法を回避するという立法ポリ シーと正反対である。前の

Ⅱ. A.

を参照。

1 6 7 )

岩原 ・前掲注

1 6 4・

11頁

(

「会社法規範 をなるべ く法文にすることを目指 し,法 文の文言による解釈 を重視 して,法の趣 旨や規定の経緯,法の原理や条理に基づ く 解釈や,定款による法内容の補充の余地を排除 しようとしている」

)

1 6 8 )

会社法 と法務省令で用い られている定義語については,長島 ・大野 ・常松法律 事務所 『ァ ドバ ンス新会社法 [第

2

]

』商事法務

( 2 0 0 6

年)

9‑

10頁 と

8 0 2 ‑ 8 9 2

頁 を参照。

1 6 9 )

会社法

2

条各号 を参照。

1 7 0 )

例えば,「‑を含む」「‑を除 く」 というような表現 によって,同 じ文言が拡大 された り縮小 された りして,特別の意味内容が与えられている場合 もある。

1 7 1 )

例えば

,

「会社」 という語は

,2

1

号によって内容が定め られる一般的な定義 の他 に

, 2

種類の特別の定義がなされている

。 2

条 1号 による 「会社」の一般的な 定義では外国の会社は含 まれない。 しか し,会社の事業行為の商行為性 を規定する

5

条では 「会社」には 「外国会社 を含む」 として定義が拡張 されている。事業譲渡 等の承認等に関する規定である

4 6 7

1

3

号では,「外国会社その他の法人を含む」

として,5条による定義 よりもさらに広い特別の定義がなされている。長島 ・大野 ・ 常松法律事務所 ・前掲注

1 6 8・9‑

10頁参照。

(17)

会社法立法の 日米比較

( 2)

177 困難 であ る と考 え られていた社債 の ように

172)

,会社 法 の規定 の適用 範 囲 を事 前 に明確 にす るため に突如

173)

定義 され た もの もあ る

17 4)

。 この よ うに,定義 規定 を多数設 け,概 念 を確 定 し,定義や規定 の適用範 囲や適用 関係 を明 らか に しようとす るこ とに よって,規定 の明確化 を図 り

(

「ルール」化),事前 の明確 性 を向上 させ ようと してい る

175 )。

次 に, 自由が認 め られ る範 囲 も,事前 に明確化 しようとしてい る。例 えば, 定款 自由 (定款 自治) が認 め られ る範 囲であ る。定款 自由が許容 され る場合 は 会社 法 の条文 にその 旨を規定 し,それ以外 は定款 自由が認 め られ ない とす るこ とに よって, 自由が認 め られ る領域 と認 め られ ない非 自由の領域 を明確 に区別 しようと試み てい る

1 76)

0

さ らに,株 主平等 の原則 とい う原理 原則 も成文化 してい る

1 77)

。事前 に成文

1 72 )例えば,神田秀樹 『

会社法 [第

6

]

』弘文堂

( 2 005

年)2

3 0

頁。

1 73 )法制審議会の議事録や 「

会社法制の現代化に関する要綱」 を見 ると,社債の定 義を行 うという考えはな く,条文の起草段階で社債の定義規定が設けられることに なったようである。本多正樹 「会社法上の社債の定義をめ ぐる諸問題 [上

]

」商事 法務1

7 81

( 20 06

年)21頁。

1 7 4)立案担当者は,社債に関する規定の適用範囲を明確化するために,社債の定義

規定が設けたとする。相棒哲 ・黄玉匡美 「新会社法の解説(13) 社債」商事法務1

71 5

( 20 05

年)1

3 ‑1 4

頁。 しか し, この試みは成功 しているとは言い難い。社債の定 義を設けたことによって,暖味な解釈 を排除 し,社債に関する規定の適用の有無が 明確 になったとはいえない。本多 ・前掲注1

7 3・21

頁,本多正樹 「会社法上の社債 の定義をめ ぐる諸問題 [下

]

」商事法務1

7 82

号1

2

頁参照。

1 75 )明確化 しようとする強い意欲が見て取れるということであって,明確化が成功

しているかどうか,明確化のコス トを上回るベネフィッ トが得 られているかは別で ある。かえって混乱を招いているように思えるものもある。例えば,親会社 と子会 社の定義や 自己株式の取得の規制,「役員」の範囲などは明確化の試みがかえって 混乱を招いているか もしれない。正井正作 「法務省令 (会社法施行規則)の問題点 と評価」森淳二朗 ・上村達男編 『会社法における主要論点の評価』中央経済社

( 2 006

年)49

‑55,7 6 ‑

77頁参照。

1 76 )相滞 ・郡谷前掲注1 63・1 6

頁。立案担当者は,自由と非 自由の二億的な区分けが 可能であ り,立法によってその区分けを事前に行 うべ きであると考えているのか も しれない。 しか し,この試み も必ず しも成功 しているとはいえない。宍戸善一 「新 会社法の意義 と問題点 Ⅱ 定款 自治の範圃の拡大 と明確化」商事法務1

7

7

5

( 2 006

年)21

,25

頁参照。

177)株主平等原則 を成文化 したことも,新たな混乱 を生んでいるか もしれない。前

(18)

178 商 学 討 究 第

5 8

巻 第

2・3

化 す る こ とに よってそ の概 念 を明確 に し, 固定化 す る こ とに よって,裁判所 の 裁量 と法創 造 の余 地 を狭 め てい る。 そ うす る こ とに よって,裁判所 が この法 理

を用 い て事 後 的 に介 入 を行 う可 能性 を低 下 させ よう と してい る

全 て を 「書 き尽 くしたい」 とい う事前 の明確 化へ の意欲 は,法務省 令へ の委 任 の多用 と詳細 な法務省 令 の規 定 に強 く表 れて い る。会社 法 の委任 を受 けて, 会社 法施行 規則

17 8)

,会社 計 算規則

1 79)

,電子 公 告規則

1 80)

の三本 か らな る法務 省 令 (以 下 で は これ ら三 本 の 規 則 を ま とめ て 法 務 省 令 とす る) が 制 定 され た

1 81 )

。 会社 法 下 の法 務省 令 は, 旧商法 と比 べ る と, 質 ・量 と もに大 き く変化 した。旧商法 で は,法務省 令 へ の委任 事 項 は

6 9

であ ったの に対 し,会社 法 で は, 法 務 省 令 へ の委 任 事 項 は

3 2 0

に も及 ぶ

1 82)

。 法 務 省 令 の条 文 数 も, 旧商 法 下 の 商 法施 行 規 則 で は

2 0 0

か条 で あ ったの に対 し,会社 法 の委任 を受 け た法務省 令 の条文 数 は合 計 で

4 45

か条 に もな る

1 83)。

委任 事 項 の 内容 も, 旧商 法 の商法 施 行 規 則

1 84)

と比べ る と大 き く変化 して い

田雅弘他 「座談会 新会社法 と企業社会」法律時報

7 8

5

( 2 0 0 6

年)

2 2

頁 (野村 修也発言)。株主平等原則 を定める会社法

1

0

9

1

項は,形式的には平等であって も, 実質的には不平等 な株主の取扱 いを正 当化す る根拠 として用 い られるか もしれな

い。

1 7 8 )

平成

1 8

年法務省令第

1 2

号。

1 7 9 )

平成

1 8

年法務省令第

1 3

号。

1 8 0 )

平成

1 8

年法務省令第

1 4

号。

1 81 )

会社法 と省令の制定の経緯 については,例 えば,相津哲 「会社法 ・政省令の制 定 と公布 ・施行」商事法務

1 7 5 4

( 2 0 0 6

年)

3 4

頁 を参照。

1 8 2 )

法務省令 に委任す ることの可否,その範囲については会社法の立法作業の過程 では,特 に議論 されなかったそ うである。稲葉 ・郡谷対談

1 4 8

頁の郡谷発言参照。

法務省令への委任 とい う手法の問題点 については,稲葉威雄 『会社法の基本 を問 う』中央経済社

( 2 0 0 6

年)

1 8 0 ‑ 1 8 5

頁参照。法務省令の問題点については,例えば, 正井 ・前掲注

1 7 5

,岩原 ・前掲注

1 6 4・

11頁参照。法務省令の制定過程 を含む会社法 の立法過程の問題点 と批判 については,例 えば,上村達男 「新会社法の性格 と法務 省令」 ジュ リス ト

1 3 1 5

( 2 0 0 6

年)

2‑7

頁,稲葉威雄 「会社法の論点解明(

」民 事法情報

2 4 5

( 2 0 0 7

年)

l l ‑ 2 0

頁 (以下では

,

「稲葉 ・論点解明」 と引用)を参照。

1 8 3 )

内訳は,会社法施行規則は

2 3 8

か条,会社計算規則 は

1 9 8

か条,電子公告規則は

1 3

か条である。

1 8 4 )

平成

1 4

年法務省令第

2 2

号。最終的な改正 は平成

1 6

年 に行われた (平成

1 6

法務省 令第

6 2

号)0

(19)

会社法立法の 日米比較

( 2)

179 る。従 来 の商法 施行規則 の条 文数

2 0 0

か条 の うち,そ の ほ とん どは会社 の計 算 ・ 監 査 に関す る規 定 で あ った

1 85)

。 そ の 内容 も,参考 書 類 の記 載事 項 や ,会 社 の 計算 ・監査 に関す る細 目な ど,技術 的 ・細 目的 な性格 の ものが ほ とん どで あ っ た。 そ れ に対 し, 会社 法 で は,法 務 省 令 の合 計 条 文 数

4 45

か条

1 86)

の うち,会 社 の計算 ・監査 に関す る条文 は過半 数 を割 って しまった

1 87)

。さ らに,技術 的 ・ 細 目的 な事 項 に と どま らず ,実 質 的 な内容 を もつ ものが大 幅 に増 えた

1 88)

。 そ の ため,会社 法 の規 範 を決定 す る権 限の重 要 な部分 が ,立法 レベ ルか ら省 令 レ ベ ルへ と移 ってい る

1 89)

この よ うに, 日本 の会社 法 は,会社 法 自体 と法務省 令 で会社 法 の規 範 を詳細 に規 定 し,事前 の明確性 を追求す る こ とに よって,裁判所 の事 後 的 な解釈 や判 断 に委 ね る余地 を可 能 な限 りな くそ う と してい る。会社 法本体 で暖昧性 が残 っ た り,書 き尽 くせ なか った事 項 で あ って も,裁判所 の事 後 的 な介 入 の可 能性 を 減 らす ため に,法務省 令 で事前 に可 能 な限 り明確 に しよ うと して い る。 会社 法 の規定 の暖 味 な,疑 義 あ る部分 は,裁判所 の解 釈 や 当事 者 の交 渉 に よる 自主 的 な取 決 め (ア レ ンジメ ン ト) に よる解 決 に委 ね るの で はな く,行 政 の イニ シア

1 8 5 )2 0 0

か条の うちの

1 6 7

か条。

1 8 6 )

内訳は,会社法施行規則は

2 3 8

か条,会社計算規則は

1 9 8

か条,電子公告規則は

1 3

か条である。

1 8 7 )4 45

か条の うちの

1 9 8

か条。

1 8 8 )

例えば,江頭憲治郎 「新会社法制定の意義」ジュリス ト

1 2 9 5

( 2 0 0 5

年)

5

(

「会 社法では,法務省令に委任 されている事項が増 えた印象があ り, しか も,相当に実 質的な事項で法務省令 に委任 されているものが少 な くない」

)

。 さらに,稲葉 ・郡谷 対談

1 4 8 ‑ 4 9

頁の稲葉発言,座談会 「会社法関係法務省令案の論点 と今後の対応」商 事法務

1 7 5 4

( 2 0 0 6

年)

1 0

頁の弥永発言 も参照。

実質的な内容 をもつ法務省令の規定は,例えば,親子会社の概念 (会社法施行規 則

3

条),株式相互保有の実質的支配可能性 (同

6 7

条),内部統制 システムに関する 詳細 (同

9 8

,1 0 0

,1

1

2

条),監査役の基本姿勢 (同

1 0 5

2

項),会計監査人の 基本姿勢 (同

1

1

0

2

項),違法な剰余金の配当等について責任 を負 う者の範囲 (会 社計算規則

1 8 7

条),剰余金の配当に関す る実質的規律 などがある。

1 8 9 )

岩原 ・前掲注

1 6 4・

11頁

(

「実質的な会社法規範の形成権の重要 な部分が,国会 その他の立法に関与する機関か ら,規則制定権 を有する法務省の担当官や,企業会 計基準委員会,お よびそれ らに強い影響力 を持 ちうる主体 に移」 つた)。

(20)

1 80

商 学 討 究 第

5 8

巻 第

2・3

テ イブによ り,法務省が適切 と考 える独 自のポ リシーに基づ いて,事前 に法務 省令 で詳細 な解 決 を提供 しようとしている 190) 。会社法の暖昧性 や疑義 を解決 し明確 にす るの は法務省 と法務省令 であ るべ きであ る と考 えてい る ようなの で,行政主導モデル とい うべ きである。

この ように, 日本の新会社法の立法ポ リシーの特徴 は,行政の主導 に よる積 極 的な成文化 にある。その特徴 が端的に表れているのは,法務省令‑ の大量の 委任 と,詳細で実質的 な法務省令 の規定である。新会社法では, なぜ この よう な立法 ポ リシーが採 られているのだろうか。それ を考 える前提 として, まず立 法 ポ リシーの決定 に影響 を与 えた者 は誰 なのか を考 える。

B. 新会社法の立法過程

デ ラウエ ア会社制定法の立法過程の ように,新会社法の立法過程 を独 占的に 支配す る者 はいない。デ ラウエ ア会社制定法の立法 においては,デラウェア州 の法曹 団体 とい う同質的な集団が立法過程 を事実上支配 していた。共通の利害 関係 を持つ 同質的な集 団が支配 しているので,その集 団の意思が立法ポ リシー に直接反映 している と考 えることがで きた。 しか し,新会社法の立法過程 にお いては,デ ラウェ ア州の ように同質的なメ ンバーが立法の全過程 を支配 してい るわけではない。

新会社法の立法 においては, まず,法制審議会会社法現代化部会でその基本

1 9 0 ) 法務省がこのような役割を担 うことができるか どうかについては,大 きな疑問 がある。例えば,稲葉 ・論点解明 1 2 頁 ( 「 行政庁 としての法務省において,独 自の 政策決定をすることは,考えられない。 」私的秩序のあるべ き姿が どのようなもの であるかは「 ‑法務省の内部的な検討のみによって結論を出すべ きものではない」 ) 0

法務省の積極的なイニシアティブは ,2 0 0 5

年11月

2 9 日に公表された当初の 9 本の

法務省令案では特に顕著だった。例えば,上村教授は,当初パブリックコメントに

付 された 9 本の法務省令の規定のなかには,定款の定めによらなくても取締役会が

議決権行使の代理人資格の制限を定めることができることを定めていた株主総会省

令案 3

5 号のように , 「 学説上大いに見解が分かれている問題について,自分た

ちが決着を付ける,自分たちの見解が正 しいに決まっているとの姿勢」で作成され

たものがあるとする。上村 ・前掲注 1 8 2・4 頁。

(21)

会社法立法の 日米比較

( 2) 181

的 な内容 が審 議 され

1 91 )

, 「会社 法制 の現代 化 に関す る要 綱」 が取 りま とめ ら れた。一応 それに基づ いて,法務省民事 局参事 官室 の会社法担 当ス タ ッフ (以 下 ,立案 ス タ ッフ と呼ぶ) に よ り会社 法 の法案が作成 された とされ る

192)

。 し か し,法制審議会で議論 されていなか った こ とが法案 と して提 出 され,立法化 されてい るので

193)

,法制 審議会会社 法現代化 部会 で は な く,立案 ス タ ッフが 会 社 法 の 立 法 ポ リ シー の 決 定 に大 きな影 響 を与 え た と考 え る こ とが で き

1 94) 。

立案 ス タ ッフは共通 の 目的や意 図 を持 っていた とい えるだろ うか。新会社 法 の法案作成 に携 わ った立案 ス タ ッフの出身母体 は様 々であ る。判事 出身の局付 検事 ,検 察 出身の局付検事 に加 え,経済産業省 な どの他 の省庁,学者,大手法 律事務所 の弁護士 ,大手監査 法人の公認会計士等 か らの 出向者 も,新会社 法 の 法案作 成作 業 に加 わった

1 95 )

。 この ように,あ る一つ の 出身母体 が その作 成過

1 91 )会社法の基本的な内容の審議は,法制審議会会社法現代化部会で行われた。法

制審議会会社法現代化部会の委員 ・幹事は,弁護士会の代表,経済界の代表,中小 企業団体の代表,公認会計士協会の代表,税理士会の代表,研究者,経済産業省 と 金融庁の関係省庁等によって構成 されていた。出身母体の性格 を反映 して,委員の 意見は対立 した。株主や会社債権者の権利 を重視 して,従来の会社法原則 を大 きく 変えることに憤重な研究者や弁護士の委貞 と,規制複和 と経営の裁量の拡大を求め る経済界,中小企業団体,経済産業省出身の委員 との意見の対立があった。前者 よ りも後者の政治的影響力の方が圧倒的に強 く,新会社法や関連法務省令起草担当ス タッフも規制緩和に積極的だったため,後者の考えが 「会社法制の現代化に関する 要綱」 と,その後の会社法案やその法務省令の作成に大 きく反映された。岩原 ・前 掲注1

6 4・8‑9

頁参照。 さらに,法務省令 をめ ぐる起草ス タッフと学者 との間の意 見の相違については,上村 ・前掲注1

82・2

頁以下を参照。政治的影響力については, 稲葉 ・郡谷対談1

45

頁 (郡谷発言) を参照。

1 92 )法務省令 も同様なスタッフにより作成 されたようである。

1 93 )

「会社法制の現代化に関する要綱」 には記 されていなかったことが新会社法の 中には多 く取 り込 まれた。江頭 ・前掲注1

8 8・3‑7

頁。法務省令への委任 という手 法を多用することの是非 も法制審議会で議論 されていない。稲葉 ・郡谷対談1

48

(郡谷発言)参照。

1 9 4)但 し,会社法の実際の立法過程が どのようなものであったかは明確 に説明され

ていない。法案作成の過程,法務省令作成の過程が どのようなものであったのか も 明確にされていない。稲葉 ・論点解明18頁。

1 95 )新会社法の法案作成作業 を行ったのは,法務省民事局参事官室の会社法担当ス

(22)

182

商 学 討 究 第58巻 第2 ・3号

程 を支配 しているとい うわけではないので,法案作成作業 に従事 したス タッフ 全 員が共通 した 目的や意図を持 っていたか どうかは不 明である。 しか し,大手 法律事務所 か らの局付 ス タッフは, 実務 的な観点か ら規制緩和 に積極 的であ り, 判事 ・検事 出身のス タ ッフ も,伝 統 的 な会社 法 の原則 か らの離脱 に積極 的で あ った ようであ るので 1 96) ,立案ス タッフの大部分 は会社 法の規制緩和 や概 念 の再構築 に肯定的であった と考 え られる。そのため,本稿 では,単純化のため, 特 に断 らない限 り,立案 ス タッフ全員があたか も統一の意思 をもって会社法の 法案作成作業 を行 ったかの ように仮定す ることにす る。 さらに,叙述の便宜の ため,法務省 を擬 人化 し,法務省民事局参事官室の会社法担 当ス タッフ ( 立案 ス タッフ) の意思が会社法の立法過程 における法務省の意思であるかの ように 仮定 して叙述す る

( 未完)

*本稿 は,財団法人 日本証券奨学財 団に よる研 究助成 と,科学研究費補助金 ( 若 手研 究( B) ) による成果の一部である.

タッフである。従来の会社法立法 と比べると,新会社法立法の担当スタッフの数は 大幅に増え,その出身母体 も多様になった。主な者は,判事出身の局付検事 ( 1 名), 検事出身の局付検事 (1名),大手法律事務所からの出向の局付の弁護士 (4 名), 大手監査法人から出向の調査員 (1名),新会社法立法で中心的な役割を果た した 経済産業省からの出向者などである ( 括弧内は延べ人数) 。担当スタッフの数 と出 身母体の変遷について,詳 しくは,岩原 ・前掲注 1 6 4・8‑9 頁,特に 9 頁 ( 注 1) を参照。

1 96 ) 岩原 ・前掲注 1 6 4・9 頁 ( 注 1 ) 0

参照

関連したドキュメント

政策上の原理を法的世界へ移入することによって新しい現実に対応しようとする︒またプラグマティズム法学の流れ

平成16年の景観法の施行以降、景観形成に対する重要性が認識されるようになったが、法の精神である美しく

 処分の違法を主張したとしても、処分の効力あるいは法効果を争うことに

少子化と独立行政法人化という二つのうね りが,今,大学に大きな変革を迫ってきてい

ところが,ろう教育の大きな目標は,聴覚口話

る、関与していることに伴う、または関与することとなる重大なリスクがある、と合理的に 判断される者を特定したリストを指します 51 。Entity

これはつまり十進法ではなく、一進法を用いて自然数を表記するということである。とは いえ数が大きくなると見にくくなるので、.. 0, 1,

「欲求とはけっしてある特定のモノへの欲求で はなくて、差異への欲求(社会的な意味への 欲望)であることを認めるなら、完全な満足な どというものは存在しない