乳幼児の発達保障と幼保問題(その2)
一 子育て支援に関する保護者と保育者の意識の分析を中心に一
諏 訪 き ぬ(明星大学) 強 矢 秀 夫(日野市役所)*
はじめに
幼保問題に関する研究チーム**は,課題研究「乳幼児の発達保障と幼保問題一狭山 市・日野市における「幼・保意識調査」を手がかりに一」として,地域における幼稚園・
保育園の保護者及び保育者の意識について調査し,すでにその1を「保育学研究」に報告 した1)。本報告では,子育て支援に関する保護者及び保育者の意識について,その「ずれ」
に着目して検討を行った2)。
1.研究の目的
保育者と保護者の幼・保イメージ調査と合わせて,子育て支援についても保育者と保護 者に共通項目を含む調査を実施し,意識のずれを明らかにするところから,子育て支援の あり方を検討することを目的とする。さらにはそのあり方の中に,乳幼児の発達保障と幼 保問題の一端をとらえることができるのではないかと考える。
2.研究の方法 1)調査の内容
公私立幼稚園・保育園の保護者を対象に「子育て家庭の意識調査」を,公私立幼稚園・保 育園の保育者には「子育て支援に関する保育者の意識調査」を実施した。保育者と保護者 に同時に共通項目を含む調査を実施し,双方向的な手法による意識の違いを分析する手法 を用いたが,統計的検定は除外した。なお,集計にあたっては,SPSS統計パッケージ
Ver.11.Ojを使用した。
2)調査項目
本報告に関する調査項目は,幼・保の保護者と保育者に子育てで重視にしたいことや子 育て支援として重要なこと等である。保護者及び保育者向け調査項目の全体の構成は,表
1の通りである。
3)調査時期及び回収数
狭山市の調査は2002年12月に各園を通して,また日野市では2003年2月に,調査用紙を 園で配布し回収する方式(直接配布・回収方式)と郵送方式を併用して実施した。回収数
明星大学非常勤講師
研究チームのメンバーは筆者らの他,佐藤洋子(狭山市立水野保育所),野島康子(狭
山市立入曽幼稚園),榎田二三子(武蔵野大学)である。
は表2の通りである。なお調査用紙配布の過程で,一部配布数が暖昧になったため,回収 率は算出しないことにした。
表1 保護者向け調査及び保育者向け調査の調査項目の構成
(注)網掛け部分の項目は保護者・保育者共通項目,下線のある項目は一部共通項目を示す。
表2 調査用紙の回収数 (人)
保護者 保育者
日野市
狭山市 合計日野市
狭山市 合計幼稚園
525 413 938 953 62
保育園・他
341 319 660 93 142 235
合計 866
732
1,598102 195 297
3.研究の結果と分析
1)保育者と保護者の子育てに重要なこと
幼稚園と保育園の保護者と保育者が,子育てをする上で重要だと思うことをまとめたの が,表3(保護者),表4(保育者)である。幼稚園と保育園の保護者でもっとも多いのは
「家族の理解と協力」で幼65.7%,保68.0と幼保ともほぼ同じであった。次いで幼・保護者
では「子育て後の再就職」34.4%,「働きながら子育てできる制度・条件の整備」33.5%,
「自分の時間が持てる保育サービス」28.4%,保・保護者では「働きながら子育てできる制
度・条件の整備」62.9%,「子育て後の再就職」34.4%,「自分の時間が持てる保育サービス」24.1%となっており,実際に働く母の多い保・保護者の6割以上が「働きながら子育てでき る制度・条件の整備」62.9%を求める傾向が高いことを除くと,幼保の保護者の意識に大き な開きは認められなかった。
また幼・保の保育者の場合には「家族の理解と協力」を必要と考える傾向は保護者より 高く,幼74.2%,保85.5%と第一位を占めていた。次いで「働きながら子育てできる制度・
条件の整備」が38.7%,42.1%,続いて幼・保育者は「子育て後の再就職」38.7%,「指導 や相談が受けられる」30.6%,保・保育者は「小児救急医療」23.8%,「労働時間短縮」
22.6%であった。
図1をもとに幼・保の保護者と保育者の意識を比較してみると,4者の類似性が高いこ とが分かる。「家族の理解と協力」も「働きながら子育てできる制度・条件の整備」も「子 育て後の再就職」も「労働時間の短縮」も子育てには重要なものであるが,立場によって 多少の相違があるということである。保・保護者に「働きながら子育てできる制度・条件の 整備」を望む比率が高いのは,共働き生活からくる切実な願からであろうし,幼・保の保 護者・保育者ともに「子育て後の再就職」を望む声が多いのは,出産後に仕事を中断した 経験者が少なからずいることを予想させるものである。
また幼稚園の保護者と保育者,保育園の保護者と保育者が,共に類似した傾向を有して いることも分かる。幼稚園免許と保育士資格を同時取得できる大学が多い中で,幼稚園と 保育園のどちらに就職するかは学生自身の判断に委ねられる。その際,女性が働き続ける ことに共感を有するものは保育園を,乳幼児期のわが子を母親が育てることに共感を有す る者は幼稚園を選んで就職して行くからかも知れない。
表3 保護者からみた子育てに重要なこと
保護者 出産や子育てのために大切にしたいのはどのようなことですか。(3つ
まで)
幼稚園 保育園
度数 % 度数
%1 家事を分担するなど,夫婦や家族の理解と協力が大切
616 657
44968D
7 子育て後に再び働きやすい制度を充実する
323
3ξL4158 239
4 働きながら子育てができる制度や条件の整備が大切
314
33.5 415 62.98 自分の時間が持てる保育サービスを充実する 266
284 159
24.12 地域の人々が子育てに協力してくれる
160
17159
8.99 出産や子育てについての情報を増やす
148
15.876
11.53 市役所の子育て支援を強化する
146
15.6 131 19β 5 ゆとりある子育てのために,労働時間を短くする106
11.3123
18.6 6 子どもの権利を守るための条例等を作る47
5.029 44
10
特にない 32 34 14
2.1表4 保育者からみた子育てに重要なこと(15%以上の項目)
保育者 出産や子育てのためにどのようなことが重要だとお考えですか。(3つ
まで)
幼稚園 保育園
度数 % 度数
%1 家族の理解と協力が大切
[夫(妻または家族)が家事の分担をするなどコ
46
74.2201
85.54 働きながら子育てができる制度や条件の整備
[出産休暇や育児休業制度の普及など]
24
38.799
42ユ7 子育て後,再び働ける制度を充実する
24
38.7 47 20.012
小児救急医療の充実(24時間どこの総合病院でもみてもらえるなど)
17
27.456
23.810
気軽に指導や相談を受けられる体制の充実 19 30.645
19.1 2 地域の人々が子育てに協力してくれることが大切 10 16.136
15.3 3 行政が子育て支援機能を強化する 8 12946
19.65 労働時間の短縮を促進する 5 8.1
53
22.6図1 子育てに大切なこと
保・保育者
幼・保育者
保・保護者
幼・保護者
226
一一
20 42.1 85.58.1
38.7
38.7 74 2
86
一 62.9
1289
6811・ 、。1
_」34」4
65.7
0 20 40 60
80
■5.労働時間短縮 口4.働きながら
子育てできる制度【:]7.子育て後の再就職制度
[1.家族の協力
1002)子育て支援への要望
保護者と保育者が子育て支援として要望する内容をまとめたものが表5と表6である。
保育者が「親子で遊べる施設」幼48.4%,保63.8%と考えているのに対して,幼の保護者は
「安全な街並み」48.2%を,保の保護者は「国際化した保育施設」44.2%を最も重要として いる。その点では,「地域での子育て支援=子育てセンター・子育て広場」とする行政側 の施策展開が,保育者へ多大な影響を及ぼしているといえる。この認識は,保育者と保護 者間で大きく開いており,保育者が思っているほど保護者は一様の要望ではない。また 幼・保の保護者間でも大きな認識の開きが見られた。
幼・保護者は「一時保育施設」38.3%,「子連れでいける公共施設」3Z4%,「親子で遊べ
る施設」26.4%を,保・保護者は「一時保育施設」34. 7%,「特にない」34.5%,「親子で遊べる施設」30.0%を求めている。「一時保育施設」を望む声が幼保共に3割を越えている。
保育園の場合には,すでに一時保育を利用して仕事をしている保護者が多数いるであろう し,幼・保護者の場合には,冠婚葬祭やリフレッシュのために要望しているものと思われ る。幼・保護者の場合には「子連れでいける公共施設」「親子で遊べる施設」など,親子 で出かけられる場を望むものが6割を越え,また校庭や空き教室の開放を求めるものも多 いが,保・保護者の場合は4割程度に止まっている。日常的にわが子を世話しているもの とわが子を保育施設に預けて働いているものとの間に,子育て支援の重要項目が異なるの は当然であろう。保・保護者に「特にない」とするものが3割以上も存在しているのも,仕 事をもつ保護者の地域への要望の低さと共に,少なくとも「子育てと仕事の両立」がまあ
まあうまくいっていることを示すものと見ることもできよう。
一方,幼の保育者は「幼保一体化した施設」38.7%,「自然環境の保全d30.6%,「子連れ
でいける公共施設」29.096を,保・保育者は「自然環境の保全」38.7%,「子連れでいける公 共施設」36.6%,「一時保育施設」27.7%を必要と考えている。「幼保一体化した施設」の必要性に対する認識は,幼・保の保育者で38.7%,8.1%と30.6ポイントも開いている。規制 緩和・行革路線の中で,tgO年代には幼稚園と保育園の共用化施策が展開されてきた状況
を踏まえると,保・保育者の関心の低さに注目しておく必要があろう。
保育者と保護者とほぼ同一項目での調査を実施したが,「幼保一体化した施設」「自然環 境の保全」の2項目を保護者の方に入れなかったため,単純に保護者と保育者の傾向の相 違を論ずることを控えねばならない。しかし保護者と保育者間で開きのあった項目を2〜
3挙げておくことにしたい。一つは幼・保護者がもっとも重要とした「安全な歩道や街並
みの整備」についてである。幼・保護者48.2%,保・保護者21.8%,幼・保育者14.5%,保・保育者25.1%で,幼・保護者と幼・保育者の開きが33.7ポイントもあることに注目し ておく必要がある。次に保・保護者がもっとも重要とした「国際化に対応した保育施設」
表5 保護者の子育て支援に重要なこと
保護者 これからの子育て支援に,どのようなことが重要だとお考えですか。
(3つまで)
幼稚園 保育園
度数
%度数
%6
安全な歩道や街並みを整備する452
48.2144 21B
2 子どもを一時的に預かってくれる保育施設を設置する
359 383 229 347
3 子連れで行きやすい公共施設(例:市役所,児童遊園)を整備する
351 374 73
11.15 日本人以外の方と交流できる国際化に対応した保育施設を作る
133
142 292 44.211
特にない 13 14
228 34.51 親子で遊べる子ども家庭支援センターや子育て広場を増やす 248 26.4
198
30.010
園庭・校庭・園舎・教室などを開放して遊び場を確保する245
26ユ15
2.38
子ども連れで参加できる文化活動や芸術鑑賞の機会を増やす240
25.634
5.2 7 子育てについて男性の参加を促進する機会を増やす145
15.5140
21.24 障害を持った子の保清施設を整備する
94
10.091
13.8 9 スポーッ活動の活性化やスポーツ施設を整備する77
8.2138
20.9表6 保育者の子育て支援に重要なこと
保育者 子育て支援のために,どのようなことが重要だとお考えですか。(3つ
まで)
幼稚園 保育園
度数
%度数
%2 親子で遊べる乳幼児館や子育て広場を増やす
30
48!4150
63.81 幼稚園と保育園を一体化した施設をつくる
24 387 19
8.18
乳幼児の情緒を育む自然環境を保全する 19 30.6 91 38.74
子連れで行きやすい公共施設(例:市役所,公園)を整備する18 290 86
36.63
子どもを一時的に預かってくれる保育施設を設置する17
27.465 277
11 園庭・校庭・園舎・教室などを地域へ開放する
15
24.259
25ユ7
安全な歩道や街並みを整備する 9 14.556
23.8 5 障害を持った子の保育施設を整備する 5 8.130
12.86 日本人以外の方と交流できる国際化に対応した保育施設を作る 3 4.8 6 2.6
9
文化活動や芸術鑑賞の機会を増大する 1 1.6 4 1.712
特にない 1 1.6 2 0.910
スポーツ活動の活性化やスポーツ施設を整備する 0 0.0 5 2.1図2 子育て支援で重要なこと
保・保育者
幼・保育者
保・保護者
幼・保護者
0 20 40 60
■8.子ども連れで参加
できる文化活動口10.園庭・校庭・園舎 などの開放 口1.親子で遊べる施設
1コ11.特にない[1]5.国際化に対応した
保育施設を作る國3.子連れで行きやすい
公共施設の整備口2.一時的に預かって
くれる保育施設[7.安全な歩道や
街並みの整備
80
についてである。幼・保護者14,2%,保・保護者44.2%に対して,幼・保育者4.8%,保・
保育者2.6%で,保・保護者と保・保育者には41.6ポイントも開きがあることである。これ らの傾向は,保育者が世間の動向にやや疎いことを示すものと見ることもできよう。
3)緊急に充実して欲しい子育て支援
幼・保の保護者が緊急に充実してほしいと望む子育て支援を上位から挙げると,「小児の 救急医療体制を整備する」が第1位で,82.0%,80.3%と共に高率を占めている。少子化の
中で小児の医療体制が壊滅的な状況にあることに恐れ懐いているのであろう。緊急で切実 な要望のもう一つは「幼児医療費助成制度や児童手当を充実する」幼68.1%,保58.9%で あった。似たような項目だが,先きは医療体制充実への要望であり,2番目は医療費や児 童手当など,家庭に対する経済的支援への要望である。幼稚園の保護者の方が10ポイント 高い。3位,4位は幼・保護者と保・保育者の割合は逆転する。「育児時間制度や育児休
業制度を普及・奨励」幼19.0%,保34.5%,「待機児童解消のための対策」20.1%,32.9%と母親が働く諸条件を求める声は保・保護者の方が10ポイント以上高くなっている。残る12 項目の中には,幼も保も20%を越える項目はない。
一方,保育者の方が一層充実したいと思っている支援事業は,割合の高い順に挙げると 表7 緊急に充実してほしい事業(保護者)
保護者 子育て支援事業のうち,緊急に充実してほしいものは何ですか。(5つ
まで)
幼稚園 保育園
度数
%度数
%3 小児の救急医療体制を整備する
(24時間どこの総合病院でも診てもらえるなど)
769
820 530
80.32
幼児医療費助成制度や児童手当を充実する 639 68ユ 389 58.914
待機児童解消のための対策を充実する189
20ユ 217 32.9 1 育児時間制度や育児休業制度を普及・奨励する178
19.0 228345 4
子どもを預かるファミリーサポート事業を充実する176 188 122
18.58
幼稚園や保育園でいろいろと新しいサービスを開始する170
18.197
14.711 幼稚園や保育園の保育料の格差を調査し,是正する
167
178 94 14.25 児童虐待を防止する対策を充実する
140
14995
1446
気軽に利用できる子育て相談事業〔児童相談所などで〕を充実する120
12.870
1α67
母子保健事業〔保健指導や健康診断など〕を充実する79
8.458 88
9
幼稚園や保育園を統合して弾力的に運営する72 77
6294
15
NPOや子育てサークルなどを育成したり,支援したりする 67 7.134
5.213
子ども家庭支援センターなどで,乳幼児対象の事業や親向けの講座を充実する
64
6.8 37 5.612
独自の基準で入園できる保育園(認証保育所)をつくる63 67 72
1α910
幼稚園と保育園を民間に委託して柔軟に運営する24
2.625
3.816 特にない 10
1.1 7 1.1「気軽に利用できる母子・児童への子育て相談事業」幼40.3%,保57.0%,「子育てに関する 情報提供の充実や情報交換」37.1%,46.0%,「出産費用の補助や児童手当の充実」38.7%,
40.4%,「サークルの育成や支援」35.5%,20.0.%となっている。
ここで保護者の緊急で切実な要望と,保育者が充実すべきと思っている事業がかなり異 なっていることに気づくだろう。保護者も望む「出産費用の補助や児童手当」を除くと,
保育者が充実させたいと思っているのは,「子育て相談」や「子育て情報の提供」「サーク ル支援」など,親を保育者の立場から支える項目を上げるものが多い。しかし親は子ども を育てる直接的不安(「小児医療体制」)や自分の存立(「仕事と子育て」の両立)に直接 かかわる「待機児問題」,「育児休業」などの項目を高い割合で選択しているのであろう。
「子育て相談」(幼・保護者12.8%,保・保護者10.6%)や「サークル支援」(幼・保護者7.1%,
保・保護者5.2%)を緊急に望む保護者は少数に過ぎない。このあたりの保護者と保育者の 支援要求のずれに着目する必要があると思われる。
4.考察
子育て支援に関する調査研究は,1.57ショックに始まる少子化対策として,子育て支援 が社会的課題とされだ90年代以降,急速に増加し,さまざまに論じられ,数多くの提言 を生んできた3)。そうした子育て調査,研究の流れをある程度承知した上で,われわれは 表8 一層充実したい事業(保育者)
保育者
子育て支援事業のうち,一層充実したいものは何ですか。(5つまで) 幼稚園 保育園
度数
%度数
%5 気軽に利用できる母子・児童への子育て相談事業を充実する
[児童相談所など]
25
40.3134 570
1 出産費用の補助や児童手当を充実する
24 387 95
4α4 13 子育てに関する情報提供の充実や情報交換できる場を整備する23
37ユ108 460
14
サークル{母親サークルや子育てサークルなど】の育成や支援をする 22
35.547 200
2
医療対策{乳児医療の無料化など」を充実する 19
30β106
45ユ3 保育料を軽減する
14
22β55
23.49 幼稚園や保育園の施設の交流を推進する
17 274 18 77
7 幼稚園や保育園で行っている事業の充実や 新しいサービスを開始する
16
25.838
16.28
幼稚園や保育園の保育内容を充実する16
25.838
16.24 ひとり親家庭などに対する福祉援護対策を充実する
12
19454 23C
11 未就園児を対象とした体験保育事業を拡大する
10
16.126
11ユ12 児童館の施設[子ども家庭支援センターを含む】や備品を充実する 6
9.750
21.36
母子保健事業[保健指導や健康診断など]を充実する
3 4.842
17910
無認可保育所や家庭福祉員を充実する 2 3.2 1564
15
特にない
1 1.6 4 1.7日本保育学会の課題研究「幼保一元化・一体化をめぐる諸問題」に取り組む際に,保育園 と幼稚園の保護者一保護者,保育者一保育者,さらには保護者一保育者の意識のずれに着 目することを意図し,そのずれを見る視点として,「幼・保イメージ」の他に「子どもの発 達としつけ」,「子育て支援」等の調査項目を用意した。そのうち「幼・保イメージ」の部 分を課題研究報告とし,残された部分を今回,諏訪が「子育て支援観」を中心に,強矢が
「子どもの発達としつけ」を中心に報告することにした。
この論考は保護者と保育者の子育て支援観を中心に,両者のずれに着目して比較分析を 行った。そこで見出されたことは,「幼・保イメージ」においても指摘したことであるが,
幼・保の保育者,保護者の相違よりも,保育者と保護者のイメージの開きの方が大きいと いうことである。子育て支援に関する3つの調査項目においても,その傾向は色濃くでて いる。ここではそのずれから見えてきたことについて述べ,まとめとしたい。
第1に指摘したいのは,保護者が緊急に支援を要望している上位項目と保育者が充実さ せたいとする支援上位項目が,1項目を除いてずれていたことに着目する必要があるとい
うことである。ここ十数年にわたって展開されてきた少子化対策が実効を挙げることなく,
合計特殊出生率1.29まで下がり続けている現実を見るとき,政策の側やその政策を受けて 子育て支援に当たる保育者が,その受け手である保護者の要望を的確に把握できていない かもしれないと,見直してみる必要があるのではないだろうか。子育て支援のような「す る人」と「される人」を内包する問題の解明に当たっては,「される人」の要求の把握の 仕方が鍵となるということである。
そこから第2に言えることは,子育て支援を「する」側の支援観そのものを問い直す必 要があるということである。「子育て支援に重要なこと」の第1位に,幼・保護者は「安全 な歩道や街並みを用意する」を,保・保護者が「国際化に対応できる保育施設」を挙げて いる。そこには地域の暮らしや変わり行く社会への対応への視点が示されている。このあ たりのずれを深く掘り下げてみることによって,保護者たちが,直接子育てに関する事柄 に関する支援だけを求めていると考えるのは早計であることに気づくだろう。
諸調査でも明らかなように,子育て中の母親たちはあれこれの生活問題を抱え,どう生 きるかに思案し,ストレスをためていく。したがって育児期にある母親への支援は,多面 的に講じられなければならないのでありの,「親としての主体形成」をも視野に入れた子
育て支援のあり方を見いだす必要がある5)6)。第3に述べたいことは,幼・保の保育者が有するさまざまな支援観の相違が乳幼児の発 達に及ぼす影響についてである。子育て支援への要望で,幼稚園と保育園の保育者の意識 が大きく異なっていたのが「親子で遊べる乳幼児館や子育て広場を増やす」幼48.496,保
63.8%,「幼稚園と保育園を一体化した施設をつくる」幼38.7%,保8.1%の2項目であった。子育て広場を増やしたいと思っている保育者が多い保育園では,そのような支援が積極的 に展開され,園児は地域の入園児以外の乳幼児とも触れ合う機会に恵まれるであろう。ま た「幼保一体的施設」の必要性をもとめる保育者の多い幼稚園では,保育園への関心をも ち,両者の関連性への討議を進め,園児への対応や保護者への姿勢が変わっていくに違い ない。反対に無関心な保育者が多いところでは,そのような対応は鈍くなる筈である。
そのような視点からも子育て支援における幼保問のずれの問題に着目していく必要があ
るように思われる。
引用文献
1)諏訪きぬ他「乳幼児の発達保障と幼保問題一狭山市・日野市における「幼・保意識調 査」を手がかりに一」日本保育学会「保育学研究」第42第2号2004pp.158−167
2)強矢秀夫 他「乳幼児の発達保障と幼保問題一子育て支援をめぐる保護者と保育者の 意識の「ずれ」を中心に一」日本保育学会第58回大会研究論文集2005p.448−449
3)日本保育学会も2003年度の課題研究として子育て支援を取り上げ,その報告を「保育 学研究」第43巻第1号2005に収録している。収録された論考のテーマ「子育て支援の 限界と課題一保育所を中心とした子育て支援活動調査から一」(金谷京子等),「保育 所併設型子育て支援センターの現状と課題一A県下の地域子育て支援センター職員と 地域活動事業担当者,保育所保育従事者の比較調査一」(橋本真紀等)である。それ ぞれ子育て支援の実践を積んできた場を対象に調査し,その現実に担う役割と同時に 限界や問題点,今後の課題を論じている。
4)諏訪きぬ・戸田有一・堀内かおる「母親の育児ストレスと保育サポート』川島書店 1998諏訪らは育児に当たる母親のストレスを,子どもの育児から派生するストレスを 「育児ストレス」とし,育児期にある母親が子育てや仕事,主婦であることなどから 生ずる多様な悩みを「育児期ストレス」と名づけて区別している。
5)榎田二三子・諏訪きぬ「子育て支援のあり方の再検討一育児ストレスと育児期ストレ スの視点から一」(日本保育学会「保育学研究」第40巻1号2002pp.37−45)
6)宮武大和「親と子の主体形成を支える保育共同体の構築一子育て支援の再検討一」
(「明星大学通信制大学院紀要第5号2005pp.51−62)