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時効 の政 治学 として の 「古来 の 国制 」 論

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(1)

zs

説 〉

時効 の政 治学 として の 「 古来 の 国制 」 論

バ ー クの保 守 主義 とイ ギ リス 立 憲主 義 一

土 井 美 徳

は じめ に

1偏 見 と理性 一 政 治 的叡 智 」 の 源泉 2時 の 効 力 と宇 宙 的 調 和

3状 況 と便 宜 の原 理

4保 守 と修正 一 変 化 の なか の 同 一性 5時 の 権 威 と国制 一 権 力 と自由 の 限界 6時 と国 教 会 に よ る二 重 の聖 別 む す び にか え て

は じめ に

エ ドマ ン ド ・バ ー ク の複 雑 な 政 治 的思 考 を どの よ う に理 解 す る の か は 、彼 の

言 説 の どの 側 而 を本 質 的 な もの と見 な す か に よ っ て 異 な り、 そ こ に は 多様 な解 釈 が 成 り立 ち得 る。 さ らに 、彼 が 活 動 的 生 活(vitaactiva)に 従 蘂 す る政 治 家 と して 、個 別 具 体 的 な 「状 況 」 に対 す る応 答 な い しは 省 察 とい う形 で 自己 の 見 解 を表 現 して い る こ とが 、 彼 の 思 考 全 体 の 理 解 を い っ そ う困難 に して い る。 さ ら に ま た 、 議 論 の 出 発 点 を 「状 況 」 に置 くバ ー ク の 思 考 は、 啓 蒙 的 理 性 や 人 間 の 自然 権 と い っ た 、 抽 象 的 原 理 か ら演 繹 的 に推 論 さ れ る型 の政 治 理 論 を 否 定 す

z)

る態 度 へ とつ な が り、 この こ と は結 果 的 に 、 そ もそ もバ ー ク の 患 想 の な か に体 系 や 理 論 、 原 理 が存 在 しえ るの か とい う疑 問 す ら呈 す る こ と とな る。

た しか に バ ー ク は 、 抽 象 的原 理 に基 づ く演 繹 的 な政 治 理 論 に反 対 し、状 況 と い う リア リズ ム の な か で 政 治 を 思 考 す る姿 勢 を貫 い た と言 え る。 しか し この こ とは 、 バ ー クが 個 々 の 言 説 や 行 動 を導 くた め の 政 治 原 理 を何 ら持 た な か っ た こ

(2)

とを必 ず しも意 味 す る わ け で は な い 。 「抽 象 」 を拒 否 す る こ と と、 「原 理 」 を 拒 否 す る こ と とは別 だ か らで あ る。 た とえ ば 、 彼 は こ う述 べ て い る。 「い か な る理 性 的 人 間 も抽 象 的 な る もの(abstractions)や 普 遍 的 な る もの(universals) で 自 らを 治 め る こ とは なか っ た し、 私 自身 も決 して そ うは しな か っ た 」。 しか し

私 は問 題 を考 察 す る際 に抽 象 的 観 念 を必 ず し もま っ た く除 外 して い る わ け で は な い。 な ぜ な ら、 そ うす る こ とは この 名 称 の も と に原 理 を 排 除 して しま う こ と に な り、 そ して健 全 で 納 得 の い く諸 原 理 の 導 き と光 明 な し に は、 政 治 上 の す べ て の 推 論 が 他 の す べ て と同様 に単 な る個 別 的 な 事 実 と細 部 の 混 乱 した 堆 積 に す ぎ な くな って し ま う し、 そ う した 手 段 な しに は い か な る種 類 の 理 論 的 も し くは 実 践 的 な 結 論 も引 き出 さ れ な くな っ て しま う こ と を、 私 は 知 悉 して い るか らで あ る」。 バ ー ク は た しか に状 況 を 重 視 した が 、 しか し政 治 家 た る も の は 、 「原 理

を見 失 う こ とな く、 状 況 に よ って 導 か れ るべ き」 だ と言 明 して い る。 こ の よ う にバ ー ク は、 政 治 や 統 治 の 問 題 に は 固 有 の 原 理 が 存 在 す る と考 え て い た し、 自 身 の 演 説 や 著 作 な どの 政 治 的 活 動 を そ う した政 治 的 諸 原 理 に一 致 させ るべ く展 開 して い た の だ と考 え られ る。 だ とす る と、 問題 は、 フ ラ ンス 革 命 の 省 察 で批

1>本 稿 で は 、 バ ー ク の 著 作 や 演 説 等 に つ い て 以 下 の 資 料 集 を 用 い た 。The〃 磁 η8ε 研4 SpeechesofEd〃 π¢ η4Burke,BeaconsfieldEdition,12vols.,BOStO17,1901.i朔 稿 で は 、TheWritingsasadSpeechesofEdmundBurke,editedbyPaulLangford

andtheothers,8vols.,Oxford,1981〜<2000>を 優 先 的 に 用 い 、 継 続 中 の ゆ え に 未 収 録 の も の に つ い て は 、 上 記1901'1=のBeaconsfield版 で 補 完 した が 、 本 稿 で は1901年 版 に統 一 した(引 用 の 際 はW&Sと 略 記 〉 。 ま た 書 簡 に つ い て は 、 以 下 の 書 簡 集 も用 い た 。

TheCorrespondenceofEdmundBurke,editedbyThomasW.Copelandand

others,10vols.,Cambridge,1958‑78.『 フ ラ ン ス 革 命 の 省 察 』 に つ い て の み 、 便 宜 .ヒ、 以 下 の も の を 活 用 した 。ReflectionsontheRevolutioninFrance,1790edited,

withIntroductionandNotes,byJ.G.A.Pocock,Indianapolis/Cambridge,

1987.な お 、 邦 訳 と し て は 以 下 に 収 録 さ れ て い る も の は 参 照 した 。 半 澤 孝 麿 訳 『フ ラ ン ス 革 命 の 省 察 』 み す ず 書 房 、1989年 。 中 野 好 之 編 訳 『 バ ー ク政 治 経 済 論 集 』 法 政 大 学 出 版 局 、2000年 。 た だ し訳 出 に あ た っ て は 、 解 釈 上 の 必 要 に 応 じ て 自 己 訳 を 試 み て お り、

引 証 した 訳 語 や 解 釈 の 妥 当 性 つ い て は 筆 者 が 責 任 を 負 っ て い る 。 2)バ ー ク と フ ラ ン ス 啓 蒙 主 義 に 関 して は 以 下 を 参 照 。SeamusF.Deane,̀Burkeand

theFrenchPhilosophies,'inStudiesinBurkeandHisTime,vol.10,1968‑9,

pp.llI3‑37,ま た 、 自 然 権 理 論 と の 関 係 は 以 下 を 参 照 。JeffreyHart,̀Burkeand

RadicalFreedom,'inReviewofPolitics,vo1.29,1967,pp.221‑38.

(3)

時効 の政 治 学 と して の 「古 来 の1玉i制」 論 27

判 の組 上 に載 せ た 「理 論 」 とか 「形 而 上 学 」 とい う術 語 に よ って バ ー クが 理 解 して い た も の が そ も そ も何 で あ る の か 、 ま た そ れ と対 比 され る型 の バ ー ク の政 治 的原 理 とは どの よ うな性 格 の もの な の か 、 とい う点 で あ る。

前 稿 にお い て わ れ わ れ は 、 バ ー ク の保 守 主 義 的 思 考 の 原 型 を、 「古 来 の 国 制 」 論 に見 られ る17世 紀 の コモ ン ・ロ ー の 思 考 様 式 の な か に探 る とい う問 題 設 定 に 立 ち な が ら、 と くにバ ー クに 見 られ る 「世 襲/相 続 」 とい う慣 習 的 な 位 相 と、

神 の 摂 理 と して の 自然 」 とい う存 在 論 的 な位 相 の、 一 見 矛盾 す る二 っ の観 念 を 取 り上 げ 、 そ れ らが ど の よ う に機 能 的 に 一 個 の思 考 体 系 と して 結 び つ い て い る

4)

の か を検 討 した。 本 稿 で は 同 じ く 「古 来 の 国 制 」 論 を説 い た コモ ン ・ロー 理 論 との 速 続 性 を確 認 す る とい う問 題 設 定 の 下 に、 さ ら に 「偏 見 」 と 「理 性 」 とい う観 点 か ら、 歴 史 と存 在 論 とが 結 合 した バ ー ク の 思 考 様 式 を検 証 して い くこ と にす る。 そ の 際 、 と くに焦 点 と な る の は 、 バ ー クの 「時 」 の 観 念 で あ る。 国 制 の 卓 越 性 を 「時 効 」 とい う観 点 か ら説 明 す るバ ー クの 思 考 の な か に、 歴 史 論 的 な 慣 習 の地 平 と存 在 論 的 な規 範 の 地 平 とが 切 り結 ば れ て い るの を確 認 す る こ と が で き るで あ ろ う。

従 来 の 研 究 に お い て 、 バ ー クの 哲 学 を 時 効 の観 点 か ら考 察 した 代 表 的 な 研 究 は、 ラ ッセ ル ・カ ー クの 論 文 で あ る。 カ ー ク に よ れ ば 、 バ ー クに とっ て 歴 史 と は 、 神 の 「至 高 の計 画 の 漸 進 的 な啓 示 」 を 意 味 し、 そ れ は 「偏 見 と時 効 」 とい

らラ

う形 に お い て 発 現 す る。 人 間 が 神 に仕 え るの は、 偏 見 や 時 効 、慣 習 に対 す る崇 敬 の 念 を通 して で あ り、 時 効 と は神 が 人 間 に 賦 与 した 本 性 の な か に真 の起 源 を 持 つ と。 こ う して カ ー ク は、 バ ー ク哲 学 の な か の 宗 教 性 を強 調 し、 神 の摂 理 が

3)EdmundBurke,SpeechonaMotionforLeavetobringinaBillto repealandaltercertainActsrespectingreligiousOpinions,uponthe OccasionofAPetitionoftheUnitarianSociety(1792),inW&S,voLVII, p.4i.ll1野 弔註尺 、788頁

4)土 井 美 徳 「エ ド マ ン ド ・バ ー ク の 政 治 的 保 守 主 義 神 の 摂 理 と し て の 自 然 と 「古 来

の 国 制 」 一 」 『創 価 法 学 』 第40巻 第1号 、2010年 、91‑129頁

5)RussellKirk,̀BurkeandthePhilosophyofPrescription,'inJoaarnalofthe

HistoryofIdeas,voL14,No.3,1953,pp.365‑80,atp.375.併 せ て 以 下 も 参 照 。

Kirk,̀BurkeandthePoliticsofPrescription,'inhisTheConservative ル1'ὴ1」Fro〃sBàrketoEliot,7thRevisedEdition,Chicago,1986,PP,12‑70.

(4)

偏 見 と時 効 を通 して実 現 され る とい う摂 理 史 観 の な か に 、 バ ー ク哲 学 の本 質 を 見 よ う と して い る。 ま た 時 効 と同様 に、 バ ー クが 重 視 す る 「便 宜 」 の観 念 も、

神 の 計 画 が 漸 進 的 に発 現 す る とい う意 味 で の歴 史 の変 化 を支 え る規 範 的 な原 理 と見 な され 、 この 点 に お い て 同 じ く便 宜 の原 理 を説 くヒ ュ ー ム や ベ ン サ ム とは

c)

性 格 を異 に す る、 と指 摘 して い る。

この よ うに 、 時 効 の 哲 学 と して バ ー ク思 想 を捉 え る研 究 は 、本 稿 が 立 て て き た よ うな 問 題 設 定 、 す な わ ち バ ー クの 持 つ 古 来 の慣 習 とい う歴 史 論 的 な 位相 と、

神 の 摂 理 と して の 自然 と い う存 在 論 的 な位 相 の 二 重 性 を、 前 者 を後 者 に 包 摂 す

7)

る形 で 把 握 して い る と言 っ て よい 。 そ れ ゆ え カ ー クの 研 究 は 、 バ ー ク哲 学 の 宗 教 性 を強 調 す る研 究 と重 な り合 う。 た とえ ば、 フ ラ ンシ ス ・カ ナ ヴ ァ ンは 、バ ー クの 政 治 哲学 の 本 質 を キ リス ト教 の 宗 教 的 伝 統 の な か に探 り、 と くに彼 の 哲 学 の 根 源 を ア ン グ リカ ンの 教 説 に 求 め て い る。 彼 は 、 ア ン グ リカ ン神 学 に 関 す る バ ー ク の 知識 が 、彼 の 政 治 思 想 の 「最 も基 本 的 な 前 提 」 を提 供 した と指 摘 して

 ラ

い る。

本 稿 で は 、 バ ー ク哲 学 の 持 つ こ う した慣 習 と 自然 の二 重性 を、17世 紀 の古 典

9)

的 コモ ン ・ロー理 論 の 思 考 様 式 の な か に そ の 原 型 を求 め な が ら考 察 す る。 慣 習 、 神 の 摂 理 と して の 自然 、 時 効 とい っ た 観 念 は、 当 時 の コモ ン ・ロ ー ヤ ー た ち の

古 来 の 国 制 」 論 の主 要 な構 成 要 素 で も あ っ た か らで あ る。 した が っ て 、本 稿 の

10)

視 点 は 、 イ ギ リス の 「古 来 の 統 治 機 構 の 基 本 原 理 」 を コモ ン ・ロー の 言 語 的 慣 習 の な か で バ ー クが 再 定 式 化 しよ う と して い た 側 面 を 明 らか に しよ う とす る も の で あ る。 こ う した 問 題 構 成 に立 つ な らば 、17世 紀 の 古 典 的 コモ ン ・ロー 理 論

6)Kirk,BurkeandthePhilosophyofPrescription,'p.376,380.

7)同 様 の こ と は 、 バ ー ク 哲 学 の 道 徳 的 ・倫 理 的 側 面 を 強 調 し た ピ ー タ ー ・ ス タ ン リ ス の る 。PeterStanlis,̀TheBasisofBurke'sPolitical

Conservatism,'111ModernAge,vo1.5,1961,pp.263‑74;Stanlis,E4〃zz̀π4 Bacrke&theNaturalLaw,withANewIntroductionbyV.BradleyLewis, NewBrunswick,2003(originallypublishedin1958).

8)FrancisCanavan,EclmuraclBurke:PrescriptionandProaicleuce,Durham,

1987,pp.1‑183,atp.59.併 せ て 以 下 も 参 照 。Canavan,̀EdmしindBurke's ConceptionoftheRoleofReasoninPolitics,'inJournalofPolitics,vol21,

1959,pp.60‑79.

(5)

時 効 の政 治学 と しての 「古 来 の 国制 」 論 29 に お い て も、 また バ ー ク に お い て も、 古 来 性 の 原 理 は正 当 性 と して の 自 然 を 導

き出 す た め の 論 理 な い しレ トリ ッ クで あ り、 た しか に そ の 限 りに お い て 中 世 自 然 法 思 想 の 文 脈 で 神 の 摂 理 と して の 自然 がTt要 な要 素 で は あ るけ れ ど も、 む し ろ そ れ が 「超 記 憶 的 時 代(timeoutofmind)」 とい う コ モ ン ・ロ ー の 「時 」 の 観念 と結 び つ く こ とに よ っ て 、 そ れ ぞ れ の 時 代 に お け る 「現 在 」 の 望 ま しき 国制 を 論 じ る政 治 的 思 考 を 生 み 出 した 、 とい う理 解 に立 つ 。

1偏 見 と理 性 一 政 治 的 叡 智 」 の源 泉

憲 法 を構 成 す る古 来 の慣 習 とは 、 バ ー ク に よ れ ば 、 幾 多 の 時 代 を越 えて 酒 養 され 、継 承 され て きた 「偏 見 」 を基 礎 に して い る。 「長 年 に わ た る慣 習(usage)」

ロリ

と は 、 「幾 時 代 に も及 ぶ 偏 見(prejudice)の な か か ら 育 っ て く る 」 と。 ま ず は 、 バ ー ク が 偏 見 」 と い う言 葉 で 意 味 し て い る と こ ろ の も の を 確 認 し て お こ う 彼 は 偏 見 に つ い て こ う 説 明 す る 。

私 は 、 こ の 啓 蒙 の 時 代 に あ っ て 、 あ え て 次 の よ う に 告 白 す る ほ ど途 方 も な

9)バ ー ク の 保 守̲1を17世 紀 の コモ ン ・ロ ー 理 論 、 と くに サ ー ・マ シ ュ ー ・ヘ イ ル と の 関 係 に 注 目 し た も の と し て 、J.G.A.Pocock,̀BurkeandtheAncient

Constitution‑AProblemintheHistoryofldeas,'inHisloricnl/ounurl , voL3,1960,Pp.125‑43.ポ ー コ ッ ク 論 文 の 問 題 点 、 お よ び 箪 者 の 課 題 設 定 との 違 い に つ い て は 、土 井 「 バ ー ク の 政 治 的 保 守 主 義 一 神 の 摂 理 と して の 自 然 と 「 古 来 の 国 制 」一 」、

97‑101頁 を 参 照 さ れ た い 。 バ ー ク の 保 守 主 義 に 対 す る コ モ ン ・ロ ー の 法 的 思 考 の 影 響 を 指 摘 し た 研 究 と して は 、他 に も 以 下 の 論 文 が あ る。PaulLucas,̀OnEdmulldBurke's

DoctrineorPrescription,'inHistoricalノ ∂̀̀〃 〜o乙voLlI,1968,PP,35‑63 .ル ー カ ス 論 文 は 、 バ ー ク の 時 効 の 概 念 が 「 イ ギ リ ス の コ モ ン ・ロ ー の イ デ オ ロ ギ ー 」 に 負 っ た も の で あ る と い う認 識 に 立 っ て い る が 、 時 効 の 概 念 が 「ウ イ ッ グ」 の モ ッ トー と して 現 わ れ た の は 、[760年 代 以 降 で あ り 、 バ ー ク が 展 開 した よ う な 「 長 期 に わ た る 時 の 経 過 」

に よ っ て 権 威 や 正 当 性 を 論 じ る時 効 論 は 、 ロ ー マ 法 や 教 会 法 に お い て も 、 さ ら に は イ ギ リス の コ モ ン ・ロ ー に お い て も存 在 せ ず 、 バ ー ク が 「 時 効 の 意 味 を 変 革 し た 」 と捉 え て お り、 コ モ ン ・ロ ー の 影 響 を 限 定 的 に 捉 え て い る(lbirl.,pp.35‑6)。 しか し こ れ は 、 当 時 の コ モ ン ・ロ ー 理 論 に つ い て の 理 解 が 明 らか に 欠 如 して い た ゆ え で あ り 、 バ ー ク の 時 効 論 は17世 紀 に 確 認 可 能 で あ る 。

10)Burke,Reflectioaa,p.22.半 澤 邦 訳 、33頁 。

lI)Ibicl.,p.122.斗 三澤 フ{̀訳、174頁 。

(6)

い 人 間 で す 。 わ れ わ れ は一 般 に無 教 育 な 感 情 の 持 ち主 で あ っ て 、 わ れ わ れ の 古 い偏 見 を すべ て 捨 て去 る ど ころ か 大 い に慈 しん で い る こ と、 また 己 が 恥 の上 塗 りで あ ろ うが 、 そ れ を偏 見 な るが ゆ え に慈 しん で い る こ と、 しか もそ の 偏 見 が 長 期 に わ た っ て 継 続 した もの で あ り、 一 般 的 に普 及 した もの で あ れ ば あ る ほ ど、 慈 しむ こ と等 々 で す 。 わ れ わ れ は 、 各 人 が 自分 だ け で 私 的 に 蓄 え た 理性 に頼 っ て 生 活 した り、 取 り引 き した りせ ざ る を 得 な くな るの を恐 れ て い ま す。 とい う の も、 各 人 の こ う した蓄 え は僅 少 で あ っ て 、 どの個 人 に と って も、 諸 国 民 や 諸 時 代 の共 同 の 銀 行 や 資 本 を利 用 す る ほ う が よ り良 い と考 え る か ら で す 。 わ が 国 の 思 索 家 の 多 くは 、 一 般 的 偏 見 (generalprejudice)を 退 け る ど こ ろか 、 そ う した 偏 見 の な か に1張る潜 在 的 叡 智(wisdom)を 発 見 す べ く、 自 らの賢 察 を傾 注 させ る の で す 。 こ こで バ ー ク は 、 フ ラ ン ス革 命 が 掲 げ る 、 進 歩 の 観 念 と して の 〈啓c?iと理 性 〉 に 対 比 す る形 で 、 あ え て 「偏 見 」 とい うネ ガ テ ィ ヴ な語 用 を取 っ て い る が 、 こ こで彼 が 言 わ ん とす る もの は 、 「諸 国民 や諸 時代 の 共 同 の銀 行 や 資 本 」 との 比 喩

iz)

に あ る よ うに 、 ま さ し く<伝 統 〉 あ る い は く共 通 感 覚 〉 の こ とで あ っ て 、 抽 象 的 ・数 学 的 な合 理 性 とは 異 な った 、 〈実 践 〉 に お け る妥 当性 を考 慮 す る型 の 政 治 的 ・法 的 な合 理 性 の 歴 史 的 集 積 体 を意 味 して い る。 バ ー ク に よれ ば、 啓 蒙 的 理 性 とは 、 諸 個 人 の 持 つ 「私 的 に 蓄 え た理 性 」 で あ り、 それ は 「裸 の 理 性(the nakedreason)」 にす ぎ な い。 幾 多 の 時 代 を通 じて蓄 積 さ れ た 政 治 共 同体 に共 通 の 「一 般 的 偏 見 」 こ そ が 、 政 治 的 な 理 性 、 あ るい は政 治 的 な 叡 智 を生 み 出 す 源 泉 だ と され て い る。

そ れ ゆ え バ ー ク に とって 、 幾 多 の 時代 を越 えて 継 承 さ れ て きた 「一 般 的 偏 見 」 とは、 単 な る盲 目的 な 迷 信 で は な く、 「理 性 折 り込 み 済 み の偏 見」 な の で あ っ た。

偏 見」 につ い て のバ ー クの 説 明 は大 変 に示 唆 的 で あ り、 と りわ け 「偏 見 」 と 「 性 」 との 関 係 をめ ぐ る説 明 は、 バ ー ク の政 治 的 保 守 主 義 が 依 拠 して い る思 想 的 母 型 を探 る う えで 極 め て 重 要 で あ る。 彼 の 理 解 に よれ ば、 「偏 見 」 と は、 「人 間

iz)実 際 に た と え ば 、 バ ー ク は 国 教 制 度 を め ぐ る 議 論 の な か で 「 偏 見(prejudice)」 に言 及 した 際 に 、そ れ を 「 共 通 感 覚(commonsense)」 と い う術 語 に 置 き換 え て い る。Burke, FragmentofaTractrelativetotheLawsagainstPoperyinIreland,in

W&S,voLVI,p.338.

(7)

時効 の政 治 学 と して の 「古 来 の 国制 」 論 31

ia)

の 徳(virtue)を し て そ の 習 慣 た ら し め る も の 」 と 考 え ら れ て い た 。 こ の よ う に バ ー ク が 徳 の 習 慣 化 と して 語 る と こ ろ の 偏 見 」 と は 、 一 般 的 な語 用 で 言 え ば 、

慣 習 と は 第 二 の 自 然 で あ る(。 。n、uet。d。,,t、]t,,an。t。,a)14)と い う法 格1..1 に あ る よ う に 、 慣 習 を 通 し て 特 定 の 規 範 が 各 人 に 内 面 化 さ れ る こ と に よ っ て 、 慣 習 そ の も の が 共 同 体 の 社 会 規 範 と し て の 効 力 を 持 つ こ と を 意 味 して い る 。 彼 の 言 葉 で 言 え ば 、 「理 性 を 伴 っ た 偏 見 」 は 、 「予 め 精 神 を 確 固 た る 智 慧 と徳 の 道

 らラ

筋 に従 わせ て お く」 もの で あ っ た 。 そ して バ ー ク が こ う した社 会 規 範 とな るた め の 偏 見 の 条 件 と して提 示 して い るの は、 「長 期 に わ た る継 続 」 と 「一 般 的 なslfL 及 」 で あ っ た 。 す な わ ち 、 古 来 の 継 承 性 を持 ち 、 国 家 に 共 通 した一 般 的 な もの で あ る こ とが 、 彼 が 言 う と こ ろ の 「偏 見 」 の要 件 で あ っ た 。 実 は バ ー クの 説 明 に見 られ る これ ら二 つ の 要 件 は 、 前 期 ス テ ユ ア ー ト時 代 の 「古 来 の 国 制 」 論 に お い て展 開 され た 、 王 国 共 通 のL般 的慣 習 」 と 「超 記 憶 的慣 習 」 と い う、 〈 習 と して の コモ ン ・ロ ー 〉 に 求 め られ る二 つ の条 件 とTsな り合 う。

バ ー ク は、 こ う した古 来 の 継 承 性 を 持 つ 「一 般 的 偏 見 」 に は、啓 蒙の数学 的 理 性 とは異 な る、 「叡 智 」 と結 び つ い た 型 の 「理 性 」 が澱 っ て い る と捉 えて い る。

智 慧 と徳 の 道 筋 を 示 す 偏 見 に は、 幾 多 の 時 代 を越 え る なか で獲 得 した あ る特 定 の 合 理 性 が 備 わ っ て お り、 そ れ が 人 び との 政 治 的判 断 力 を支 え る理 性 あ る い は 叡 智 と して 現 れ て くるの だ と考 え られ て い る。 しか も、 先 の 法 格 言 に あ っ た よ うに 、 「人 間 は正 しい偏 見 を通 して、 彼 の な すべ き務 め が彼 の 自然(nature)の 一 部 と な る 」 とバ ー ク は 理 解 し て お りic)

、 政 治 的 ・実 践 的 な 理 性 あ る い は 叡 智 と し て の 偏 見 」 は 、 人 間 の 「自 然 」 と い う 契 機 とつ な が っ て い る 。

前 稿 で わ れ わ れ が 確 認 した よ う に 、 バ ー ク に と っ て 人 間 の 本 性(自 然)と は 、

13)Burke,Reflection,p.77.半 …1睾判̀言Ji、IIl峯 〔。

is)こ の 法 格 言 は17世 紀 の コ モ ン ・ ロ ー ヤ ー が 好 ん で 使 っ た フ レ ー ズ の … つ で あ る 。 た と え ば 、1610年 議 会 で ト マ ス ・ヘ ド リ ィ は こ う 述 べ て い る 。 「慣 翌 と は 第 二 の 自 然 で あ る (consuetudoestalteranatura)」 と 言 わ れ る が 、 そ れ は ま さ に 時 」 に よ っ て で あ る 。 そ し て そ の 「時 」 と は 「人 間 の 記 憶 」 に 類 す る も の で は な く 、 「記 憶 を 超 え た1時(11111C outot'mind)」 で な け れ ば な ら な い と 。ElizabethReadFoster(ed.) ,Proceecliaags

inParlta〃sent1610,2vols.,New卜laven,1966,vol.11,p,180,175.

15)Burke,Reflection,p.76.半 澤 邦 訳 、Il1頁 16)ノ δ∫1凱,p.77.半 澤 邦 訳 、111頁

(8)

神 の 摂 理 と して の 自然 とい う観 念 に お い て 把 握 され て い た 。 ヒュ ー ム の 人 間 本 性 論 の影 響 を受 け て い た バ ー ク は、 た しか に 自 然 主 義 的 で それ ゆ え 経 験 主 義 的 な説 明 を 施 して い るが 、 そ う し て把 握 さ れ た彼 の い う 「生 得 の 感 情(inbred

17)

sentiments)」 と は 、 同 時 に 神 の 摂 理 と し て の 自然 的 秩 序 に お い て 支 え られ て い る も の と理 解 さ れ て い た 。 人 間 の 本 性 」 に お い て 、 あ る い は 政 治 社 会 状 態 と し て 把 握 さ れ た バ ー ク の 「自 然 状 態 」に お い て 規 範 とな っ て い る の は 、 「神 法(the LawsofGod)」 で あ り 、 バ ー ク の 理 解 す る と こ ろ に よ れ ば そ れ は ま た 「自 然

18)

の 道 徳 法(thenaturalmorallaws)」 で も あ っ た 。 バ ー ク に と っ て 人 間 とは 、

mJzo)

社 会 的 動 物 」 で あ る と同 時 に、 「宗 教 的動 物 」 で もあ っ た。 そ れ ゆ え 人 間 は 、

zqzz)

神 秘 的 叡 智(mysteriouswisdom)」 に 基 づ く 「神 聖 な 計 画 」 に よ っ て 賦 与 さ

'L3)

れ た 本 性 を持 つ もの と考 え られ て い た 。

こ の よ うに バ ー クの 「偏 見 」 の観 念 は 、 「理 性 」 が織 り込 まれ た 伝 統 に根 ざ す 知 で あ り、 人 間 の 実 践 を導 く とこ ろ の 「叡 智 」 を 意 味 して い た が 、 同 時 に前 稿 との つ な が りか ら言 え ば 、 その 理 性 とは神 の摂 理 と して の 自然 法 に 適 っ た道 徳 的規 範 で あ り、 その 「叡 智 」 とは 究極 の と こ ろで 神 の神 秘 的 叡 智 に 支 え られ て い た と言 え る。 バ ー クの い う 「幾 時 代 に も及 ぶ 偏 見 」 が 、 自然 法 や 神 法 との つ な が りに お いて 把 握 さ れ て い た 点 はi4要 で あ る。 バ ー クは 、 「自 然 に よ って 教 え られ た人 類 の 諸 々 の慣 割)と 表 現 して い る よ うに 、彼 の 偏 見 の概 念 は 、 自然 の 摂 理 と関 連 づ け られ て い た。 こ こで も再 び わ れ わ れ は 、 前 期 ス テ ユ ア ー ト時 代

17)Ibicl.,p.75.半 澤 邦 訳 、110頁 18)Burke,ALettertoSirHerculesLangrishe,ontheSubjectoftheRoman

CatholicsofIreland,andthePropertyofAdmittingthemtotheElective Franchise,consistentlywiththePrinciplesoftheConstitution(1772),in

WAS,vol.IV,p.26i.ll=1野 り斗̀言尺、753頁 i9)Bしrke,ToUnknown,january1790,intheCorrespozzclence,vol.VI,p.80.

20)Bしrke,R解8c'ガoη,p.80.半 澤 邦 訳 、115頁

21)Ibid.,p.71.半 澤 邦 訳 、102‑3頁 22)Bしrke,AppealfromtheNewtotheOldWhigs,117Consequenceofsome

lateDiscussionsinParliamentrelativetotheReFlectionsontheFrench

Revolution(1791),inWAS,vol.IV,p.165.中 野 邦 訳 、655頁

23)土 「バ ー ク の 政 治 的 保 守 主 義 一 神 の 摂 理 と し て の 自 然 と 「古 来 の 国 制 」 一 」、ll4‑

9頁 を 参 照 。

(9)

時 効 の政 治 学 と しての 「古来 の国 制 」論

33

の 古 典 的 コ モ ン ・ロ ー理 論 との思 想 的 な 連 続 性 を見 る こ とが で き る。 偏 見 と理 性 に関 す るバ ー クの 説 明 は、 古 来 の コモ ン ・ロー の法 的 理 性 が 神 法 に、 また 「 性 の法 」 と しての 自然 法 に適 う もの と捉 え て い た 、 〈理性 と して の コモ ン ・ロ ー〉

の説 明 と基 本 的 に重 な り合 うか らで あ る。

2時 の 効 力 と宇 宙 的 調和

この よ う な長 年 月 に わ た る 「一 般 的偏 見 」 の な か に 、 自 然 法 ・神 法 に 依 拠 し た 理 性 な い し叡 智 を 見 て 取 るバ ー ク の 思 考 の な か で 、 果 た して こ う した 理 性 や 叡 智 は どの よ うな形 で 担 保 さ れ て い るの で あ ろ うか。 言 い換 え れ ば、 慣 習 的 な もの と して の 偏 見 と、 自然 的 ・神 的 な もの と して の摂 理 とを媒 介 して い る観 念 が 果 た して何 な の か 、 で あ る。 前 稿 に お い て、 わ れ わ れ は この 点 につ い て 、 「 襲 原 理 」 を め ぐるバ ー クの 観 念 を 読 み 解 きな が ら、 人 間 の 持 つ 自然 的 感 情 や 情 念 とい う観 点 か ら展 開 され たバ ー クの 「慣 習 」 を め ぐ る思 考 が 、 神 の 摂 理 と し

25)

て の 「自 然 」 と 結 び つ い て い く道 筋 を た ど っ た 。 そ し て 本 来 、 対 概 念 と な る 慣 習 的 な も の と 自 然 的 も の と を結 び つ け て い る も う 一 つ の 道 筋 が 、本 稿 で 扱 う 「時 」 の 観 念 で あ る 。 バ ー ク は 、 一 方 で 誤 り易 くか 弱 い 人 間 理 性 の 考 案 物 を 補 強 す べ く、 無 謬 か つ 強 力 な 自 然 の 本 能 の 援 助 を 求 め る こ と に よ っ て 」 と 述 べ る と 同 時 に 、 「わ れ わ れ の 人 為 的 な(artificial)諸 制 度 に お い て 自 然(nature)と の 一

zc)

致 」 を 図 る 、 と も 述 べ て い る 。 こ こ で い うartificialの 意 味 内 容 は 、 時 効 (prescription)の 観 念 に よ っ て 支 え られ て い る 。 す な わ ち 、 「時(time)」 の 効 力 が 、 対 概 念 で あ るartificialな も の とnaturalな も の と を 、 同 じ 目 的 の た め に

24)Burke,Reflection,p.ss.半 澤 邦 訳 、125頁 。 バ ー ク に と っ て 慣Sと は 、 人 類 共 通 の 自 然 法 の 普 遍 的 規 定 を そ れ ぞ れ の 国 ご と に 個 別 具 体 的 に 確 定 す る働 き と し て 考 え ら れ て い た と言 え る。 こ う した 思 考 法 は 、 ス コ ラ的 な 法 理 解 の 特 徴 で あ り、17世 紀 前 期 の コ モ ン ・

ロ ー ヤ ー が 中 世 自然 法 思 想 の コ ン テ ク ス トに お い て 共 有 し て い た 思 考 法 で も あ っ た 。 土 井 美 徳 『イ ギ リ ス 立 憲 政 治 の 源 流 一 前 期 ス テ ユ ア ー ト時 代 の 統 治 と 「 古 来 の 国 制 」論 一 』 木 鐸 社 、2006年 、 第3章 を 参 照 さ れ た い 。

25)土 井 「 バ ー ク の 政 治 的 保 守 主 義 一 神 の 摂 理 と して の 自 然 と 「 古 来 の 国 制 」 一 」 、109‑

141:to

26)Burke,1〜 切86"o,〜,P.30.半 」 澤 朔̀訳 、45頁 。

(10)

協働 す る概 念 と してパ ラ レル に展 開 させ て い るの だ と考 え られ る。 以 下 の とこ ろ で は、 偏 見 と神 の摂 理 と して の 自然 との 関 係 を、 時 の 効 力 とい う観 点 か らさ

らに 検 討 して い き た い 。

バ ー クは 、イ ギ リス 国制(Britishconstitution)の 正 当性 につ いて 論 じ る際 、 その 根 拠 と して 、 「法 や 慣 行 や 法 廷 の 判 決 や 千 年 に もわ た っ て 蓄 積 され た 時 効

27)

(prescription)」 を 挙 げ る 。 こ こ で 言 う と こ ろ の 、 長 年 月 に わ た っ て 蓄 積 さ れ 「時 効 」 と は 、 バ ー ク に よ れ ば 、 「真 に 真 理 に 適 っ て 、 自 然 法(naturallaw)

  ラ

の 一 部 」 で あ り 、 自 然 法 の 偉 大 な 根 幹 的 部 分 」 で あ る 。 そ れ ゆ え 、 バ ー ク は 、 諸 個 人 が 生 ま れ な が ら に 持 つ と こ ろ の 自 然 的 理 性 に 基 づ い て 旧 来 の 秩 序 を 解 体

し よ う と す る フ ラ ン ス 革 命 の 首 謀 者 た ち に 対 して 、 「貴 方 が た は 、 そ う す る こ と で も っ て 、 自 分 は 偏 見(prejudice)と 闘 っ て い る の だ と お 恩 い で し ょ う 。 しか

zs)

しそ の 実 は 自 然(nature)と 闘 っ て い る の で す 」 と訴 え か け た の で あ る。

バ ー ク は、 時 効 の 観 念 を用 い る こ とに よ っ て 自然 に よっ て 裏 打 ち され た あ る 種 の 卓越 性 を導 き 出 そ う と して い る。 時 の 効 力 に よ っ て獲 得 され る卓 越 性 とは 、 バ ー クに よれ ば、 調 和 的 な配 合 とい う点 に あ る。 「人 間 の 精 神 や 事 象 の な か に見

出 され る さ まざ ま な異 常 性 や 相 互 に矛 盾 す る諸 原 理 な ど を、 調 和 した全 体 へ と 結 合 させ る こ と」 を可 能 に す るの は、 「時 」(time)の 働 き に ほか な らな い 。 幾 世 代 に も わ た る長 期 の 検 証 と熟 成 に よ っ て 生 ま れ る時 の 効 力 こ そ が 、 「配 合 (composition)に お け る卓 越 性 」 を生 み出 す の で あ る。 フ ラ ン ス革 命 が依 拠 し た 啓 蒙 的 理 性 に基 づ く抽 象 的 諸 原 理 が 生 み 出 す と こ ろ の 「単 純 さ に お け る卓 越 性 」 で は な く、 時 の 効 力 に よ って 生 成 され る 「配 合 に お け る卓 越 性 」 こ そ が 、

3a)

政 治 上 の諸 措 置(politicalarrangement)」 に は必 要 な の で あ る、 と。

時 」 が 卓 越 した調 和 的配 合 を生 み 出 す とバ ー クが 言 う時 、 そ こ に は 「時 の検 証 」 とい う歴 史 的 観 念 と 「本 源 的 契 約 」 とい う存 在 論 的概 念 とが 二 重 に想 定 さ れ て い る。 まず 「時 の 検 証 」 とい う点 で 言 え ば、 次 の説 明 が 示 唆 的 で あ る。 「 初 の 計 画 と思 しき もの と手 段 とが 完 全 に調 和 しな い か に 見 え る場 合 に こそ 、 目

27)Ib 28)Ib 29)Ib 30)Ib

d.,p.93。 ま幹澤i珂̀言尺、135頁

4,p.133.半 澤 邦 訳 」90頁

d.,p.43.半 澤 邦 訳 、64頁 d.,pp.148‑9.半 澤 邦 訳 、213‑4頁

(11)

時 効 の政 治 学 と して の 「古 来 の国 制 」論 35 的 の ほ うは 最 も良 く達 成 され る とい っ た こ とが 間 間 あ りま す。 あ る い は経 験 が 教 え る手 段 の ほ うが 、 最 初 の計 画 の なか で工 夫 さ れ た 手 段 よ り も政 治 的 目的 に よ り良 く適 合 す る の か も しれ ませ ん 。 ま た そ れ ら経 験 的 手 段 は 、 再 び 当初 の 憲 法構 造(constitution)に 反 作 用 し(react)、 時 には 自 らが離 反 したか に見 えた

31)

計 画 そ れ 自体 を改 善 す る こ と もあ ります 」。 バ ー ク に よれ ば、 善 悪 の判 断 とい う

原 因 」 が もた らす本 当 の 「結 果 」 は必 ず し も直 接 的 な もの で は な く、 当初 に は 有 害 に 見 え た もの が 、遠 く時 間 が 経 過 して み る と、 優 れ た 働 き を 発 揮 して いた り、 良 く思 わ れ た 計 画 が 、 しか も当 初 は結 構 な 始 ま り方 を しな が ら、 遺 憾 な 結 果 に 至 っ た りす る こ とが あ る。 この よ うに、 「国 家 の なか に は、 しば しば 目立 た な い 、 ほ とん ど潜 伏 して い る と も言 え る諸 原 因 が あ り」、 「一 見 した と ころ で は 大 した 重 要 性 を 持 っ て い な い よ うに 見 え て も、 実 は そ の 国 家 の興 廃 の き わ め て

32)

大 部 分 が そ れ に 本 質 的 に 依 存 して い るか も しれ な い」、 とバ ー ク は指 摘 す る。

この よ うに 、 人 間 の 自然 的 理 性 が 抽 象 的 ・幾 何 学 的 に企 図 した もの は、 原 因 と結 果 に お い て しば しば 矛 盾 す る こ と、 国 家 の 統 治 の よ う に さ ま ざ ま な諸 要 因 が複 雑 に 絡 み 合 う実 践 的 領 域 に お い て は 人 間 の 理 性 は 限界 づ け られ て い る こ と、

そ れ ゆ え真 の評 価 は、 長 年 月 に わ た る時 の経 過 を 必 要 とす る こ と、 をバ ー クは 重 視 す る。 す な わ ち、 時 の 検 証 を経 た 事 実 状 態 の なか に 人 間 理 性 の 限 界 を超 え た調 和 的 配 合 とい う合 理 性 が 生 ま れ るの で あ り、 その 意 味 で 時 の叡 智 こ そ が 、 あ る べ き統 治 の様 式 を生 成 す る と考 え られ て い た の で あ る。 そ れ ゆ えバ ー ク は 、

極 め て馬 鹿 げ た教 説 の み な らず 積 極 的 な 悪 徳 にほ か な らな い 多 くの物 事 さ え も それ が 『時 ヲ経 テ ー 般 的 ナ(adultaetpraevalida)』 場 合 に は批 難抜 きで黙 認 す べ き な の か も しれ な い 」 と も言 う。 バ ー ク に と って は 「コモ ン ウ ェル ス の善 (good)」 こ そが 他 の す べ て に優 先 す る規 則 で あ り、他 の す べ て の 考 慮 は この共

37)

通 善 とい う 目的 に 完 全 に従 属 す べ き だ と考 え られ て い る が 、 この 「共 通 善 」 を 判 断 す るの は、 何 らか の 人 格 で も機 関 で もな い。 ま さ に 『時 ヲ経 テー 般 的 』 と な っ た とい う意 味 で の 時 の検 証 に基 づ い て 確 か め られ る の で あ る。

3Dノ'bì1.,p.151.≡16澤 非1≦訳 、218頁 32)Ibic1.,p.53.斗 三澤 ヨ堅言尺、78頁

33)Burke,ALettertoSirHerculesLangrishe,inレvas,voLIV,p.258.中 野 邦

訳 、751頁

(12)

また 重 要 な の は 、 こ う した 時 の 観 念 を バ ー ク が展 開 す る 時 、 そ こに は 宇 宙 の 存 在 論 的 な秩 序 観 が 前 提 とさ れ て い る とい う点 で あ る。 先 に 引 証 した とこ ろ の 語 用 の な か に 見 られ た 作 用/反 作 用 とい う観 念 は 、 こ う した秩 序 観 と関 連 して い る。 この 作 用/反 作 用 は 、 バ ー クが 好 ん で用 い る概 念 の 一 つ で あ り、 そ れ は、

自然 の世 界 に お い て も政 治 の世 界 に お い て も、 矛 盾 し合 う諸 力 相 互 間 の 戦 い の な か か ら宇 宙 的 調 和(theharmonyofuniverse)を 導 き 出 す 、 か の 作 用

(action)と 反 作 用(counteraction)」 とい う考 え方 で あ る。 こ の よ う に互 い に 矛 盾 し合 う諸 力 が 作 用 と反 作用 の 関 係 を 通 して一 つ の 調 和 的 秩 序 を構 成 す る とい うバ ー クの 宇 宙 的 調 和 の 観念 は、 究 極 的 に は前 述 した よ う に神 秘 的 叡 智 に よ っ てつ くられ た神 の 摂 理 を 意 味 して い る。 そ して 、 神 の摂 理 に適 っ た 宇 宙 的 調 和 は、 バ ー ク の 思 考 に お い て は、 時 の効 力 に よ っ て 実 現 され る もの と考 え ら れ て い た の で あ る 。 バ ー ク の キ リス ト教 的 宇 宙 観 とは 、 他 方 で 時 の検 証 を受 け るな か で初 め て 事 実 状 態 と して 具 現 化 す る も の と考 え られ て い た の で あ る。 そ の 意 味 で バ ー ク の 思 考 の な か で 、 神 秘 的 叡 智 とは 、 時 の叡 智 と置 き換 え可 能 で あ り、 同様 に神 の摂 理 と して の 自然 法 の 理 性 は、 長 年 月 にわ た る時 の 検 証 に よっ て 偏 見 の なか に個 別 具 体 化 され た理 性 に 変換 され て いた とい う こ とが で き よ う。

こ う した 古 来 の 時 の 検 証 に 基 づ く調 和 的 配 合 と、 神 の摂 理 と して の 宇 宙 的 調 和 とい う二 重 の秩 序 観 こ そ は 、 バ ー クの 「古 来 の 国 制 」 論 の 本 質 を な して い る

もの と考 え られ る。 「こ の ブ リテ ン国 家 の 本 源 的 契 約(originalcompact)に

35)

よ っ てつ く られ た 古 来 の 国 制 」 とい う表 現 は、 「古 来 」 の 調 和 的 秩 序 が 、神 の 創 造 に基 づ く と こ ろの 存 在 の本 源 的 契 約 に適 っ た もの で あ る こ とを訴 えて い る。

ここ に至 っ て 古 来 の 国 制 が 持 つ 古来 性 とは 、 単 に時 間 的 な歴 史 の 観 念 で は な く、

存 在 論 的 な神 の 自然 とい う観 念 に 置 き換 わ っ て い る と言 って よ い 。 所 与 の 合 理 的 な偏 見 に支 え られ た イ ギ リス の 古 来 の 国 制 は 、 時 の 観念 に よ っ て 神 法 ・自然 法 とつ な が っ て い る の で あ る。 そ れ ゆ えバ ー クの 思 考 は 、 古 来 性 とい う時 の 観

36)

念 が ク リ ス チ ャ ニ テ ィ(Christianity)と 結 び つ い た が ゆ え に 定 式 化 さ れ た 保 守

34)Burke,Reflectiosz,p.31.半 澤 邦 訳 、46頁 35)Burke,AnAppealfromtheNewtotheOldWhig,inW&S,vol.IV,p.121.

i野 非1̀訳 、623頁

(13)

時効 の 政 治学 と して の 「古 来 の 国制 」 論 37 主 義 で あ る と言 う こ とが で き る。 しか し他 方 で 、 正 当 性 原 理 と して提 示 され た 神 的 摂 理 と して の 自然 は 、現 実 の 国 制 に お け る秩 序 の 具 体 的様 式 とい う リア リ ズ ム の 点 で は、 時 の 働 き に委 ね られ て い るの で あ る。

以 上 の よ うに 、幾 多 の 時代 を 超 え た一 般 的 偏 見 と、 神 の摂 理 と して の 自然 法 と は、 時 の 効 力 に よ って 結 び つ け られ て い た 。 こ う した哲 学 的 思 考 に依 拠 しな が ら、 バ ー クは 、 国制 と統 治 の 問 題 を理 解 して い る。 彼 は言 う。 「私 は、 こ れ ら す べ て が イ ギ リス 憲 法(Britishconstitution)の なか で 不 可 思 議 に例 証 さ れ る

37)

の で は な い か と思 っ て い ま す 」。 「そ れ は 選 択 よ りも一 万 倍 も優 れ た原 理 に よ っ て つ く られ る憲 法 で あ る。 す な わ ち、 民 衆 の 個 別 具 体 的 な状 況 、 機 縁 、 気 質 、 性 向 、 そ して道 徳 的 、政 治 的 、 社 会 的 な 習 性 が 、 長 期 にわ た るfl寺(time)の か で 徐 々 に形 を取 っ て 現 れ た産 物 で あ る。 それ は お の ず か ら身 体 に合 うに 至 っ

た 衣 服 で あ る」。 こ こ に は、 後 述 す る 「時 効 と して の 憲 法 」 の特 徴 が端 的 に表 現 され て い る。 彼 が言 うイ ギ リス 国 制 の秩 序 は 、 神 の 摂 理 と して の 自然 に正 当 性 を 求 め つ つ 、 そ の具 体 的 様 式 と して の合 法性 は時 の 働 き に よ っ て 説 明 され て い るの で あ る。 他 方 、 フ ラ ンス 革 命 が つ く り出 した新 た な 「基 本 的 国制 」 は 、 「 つ もの 矛 盾 し合 う諸 原 理 が 、...相互 に調 和 しな い ま ま に一 緒 くた に され て 」 い

39)

て 、 「結 局 は 互 い に 破 滅 し て し ま う 」 も の と バ ー ク に は 映 じ て い た の で あ る 。

36)前 述 した よ う に 、 バ ー ク の 存 在 論 的 な 世 界 観 や 神 の 摂 理 に 基 づ く歴 史 観 の 源 泉 を キ リ ス ト教 神 学 の な か に 探 り 、 と りわ け そ の 根 源 を ア ン グ リ カ ン ・チ ャ ー チ の 教 説 に 求 め て い る の が 、 フ ラ ン シ ス ・カ ナ ヴ ァ ン で あ る。 彼 は と く に リ チ ャ ー ド ・フ ッ カ ー(Richard Hooker,1554‑1600)の 神 学 に お い て 展 開 さ れ た 哲 学 的 「リ ア リズ ム 」 の 伝 統 との 連 続 性 を 見 よ う と して い る。Canavan,E4〃 π̀124Burke,p.12‑3.ま た ス タ ン リス もバ ー ク の 国 家 と 教 会 の 関 係 を 論 じ る な か で 、 中 世 後 期 の トマ ス ・ア ク ィ ナ ス 、 さ ら に ス ペ イ ン の 神 学 者 ・法 学 者 で 国 際 法 を 体 系 づ け た ス ア レ ス(FranciscoSuarez,1548‑1617)、

イ ギ リス で は フ ッカ ー 、 ブ ラ ム ホ ー ル(BishopBramhall,且594‑1633)そ の 他 且7fir紀 の 高 教 会 派 ア ン グ リカ ン の教 説 と の 連 続 性 を 指 摘 して い る 。Stanlis,五̀1〃 π〃24β ὲ〆 々θ&

the1>々'ὲ名8!Laco,p.12,202,207.

37)Burke,R{舜oo'∫oη,p.151.半 澤 邦 訳 、218頁 。 38)Burke,SpeechonaMotionforaConunitteetoinquireintotheStateof

theRepresentationoftheCommonsinParliament(1782),117W&S ,voLVII, p.95.中 野 邦 訳 、497頁 。

39)Burke,Reflection,pp.159‑60.斗 三 澤 非1鑑 尺、229頁 。

(14)

3状 況 と便 宜 の 原 理

以 上 の よ う に、 バ ー ク にお い て は 、 自然 法 な い しそ の 理 性 の 観 念 は 、 時 の観 念 に よっ て媒 介 され 、 理 性 が織 り込 まれ た 「一 般 的偏 見 」 と して 「古 来 の 国制 」 を支 え る こ とに な るの だ が 、 こ う して 偏 見 の な か に獲 得 され た 理 性 とい うの は 、 自然 法 の普 遍 的規 定 を 、所 与 の 具体 的 な 「状 況(circumstances)」 の な か で判 断 す る実 践 的 理 性 と して の 性 格 を 帯 び る こ と に な る。政 治 や 法 に特 有 の 合 理 性 を 導 き 出 す こ う した 偏 見 と理 性 の概 念 は 、 「便 宜(expediency)」 効 用 (utility)」の原 理 と密 接 に結 びつ く。 さ らに便 宜 や 効 用 の 原 理 は、 歴 史 的 「変 化 (change)」 の 問題 と絡 んで 、バ ー クが 言 う とこ ろの 「保 守 と修 正(conservation andcorrection)」 の 原 理 と も関 連 して くる。 以下 の と ころ で は、 これ まで わ れ わ れ が 考 察 して き た 時 効 の 観 念 に塞 づ きな が ら、 「状 況 」 「便 宜 」 「変 化 」 「 守 と修 正 」 と い っ た 、 バ ー ク の 思 考 を理 解 す る うえ で 鍵 とな る概 念 を検 討 して い くこ とに した い。

バ ー ク は 、 「状 況 」 の 持 つ 意 味 に つ い て 次 の よ うに説 明 す る。 「何 事 で あれ 、 人 間 の 行 動 や 肇 象 に 関 わ る事 柄 に つ い て 、 その 対 象 を あ た か もす べ て の 関 係 性 を 剥 ぎ取 られ た か の 如 く、 ま っ た く裸 の ま ま形 而 上 学 的 抽 象 の なか に孤 立 させ て 単 純 に考 え 、 断 定 的 に鍛 誉 褒 販 す る な ど、 私 に は で き な い相 談 で す 。 実 に状 況 こ そ̲、 あ ら ゆ る政 治 原 理 に そ れ ぞ れ 固 有 の 色 彩 を 与 え 、不 二 の効 果 を もた

40)

らす もの な の で す 」。 こ こ に見 られ る よ うに 、 「状 況 」 の 持 つ 効 果 とは 、 政 治原 理 を、 特 定 の 状 況 の な か で個 別 具 体 的 な 内 実 を伴 った 形 で 具 現 化 す る とこ ろ に あ る。 バ ー クに よれ ば 、 「状 況 は無 限 に 存在 し、無 限 に結 合 す る」。政 治 家 は 「‑

41)

般 的 観 念 と結 び つ け るべ き無 数 の 状 況 を 抱 え て い る」 と。 政 治 や 法 とい っ た 人 間 社 会 の 実 践 的 領 域 に関 わ る合 理 性 とは 、 特 定 の 時 代 と状 況 の な か で の 個 別 的 な妥 当性 を要 請 す る。 バ ー ク にお い て は 、 無 限 に 多 様 な 「状 況 」 の な か で 「 性 」 の個 別 的 妥 当 性 を導 き出 す も の 、 言 いか え れ ば、 そ の 具 体 的形 式 を 付与 す

40)Ibict.,p.7.忌 卜澤 …糾;言尺、12頁

41)Burke,SpeechonaMotionforLeave,aPetitionoftheUnitarianSociety, IllW&S,voLVII,p.41.中 野 邦 訳 、788頁

(15)

時効 の 政 治学 と して の 「古 来 の 国制 」 論 39

る も の こ そ が 、 前 述 し た 時 の 作 用 な の で あ っ た 。

さ ら に 、 特 定 の 状 況 に お け る 政 治 原 理 の 個 別 的 妥 当 性 を 重 視 す る バ ー ク の 思 考 は 、 彼 が しば しば 用 い る 便 宜 」 や 効 用 」 「必 要 」 と い っ た 概 念 と も密 接 な 関 わ り を 持 つ 。た と え ば 、バ ー ク は 、 「古 き 諸 制 度 は 、そ れ ら が 持 っ 効 果(effects)

42)

に よ って 検 証 され て い る(tried)」 とい う。 こ こ には 、便 宜 、効 用 、必 要 の 観 点 に照 ら して 、 時 の 検 証 を 受 け なが ら成 立 した秩 序 の な か に 合 理 性 を 見 て 取 る思 考 が 現 れ て い る。 時 効 の 観 念 とは 、 「便 宜 」 とい う原 理 に基 づ きな が ら、 個 別 的 な 「状 況 」 の な か に 「理 性 」 を導 き出 す もの と して 考 え られ て い るの だ と言 っ て よい 。 これ は、 本 稿 の第1章 で検 討 した よ う に、 「自然 」 な い し 「理 性 」 との つ な が りを持 った 「偏 見 」 に つ い て の 説 明 と重 な り合 う。

そ の 際 、 「便 宜 」 の 原 理 に基 づ き、 所 与 の偏 見 の な か で 合 理 的 な もの を判 断 す る基 準 とな るの が 、 第2章 で 時効 が つ く.りだ す 調 和 的配 合 につ い て 論 じた 際 に 確 認 した 「公 共 善 」 に ほ か な らな か った 。 バ ー ク は 「便 宜 の基 準 」 を こ う説 明 して い る。 「便 宜 とは共1司体 に とっ て の 、 そ して その なか の す べ て の個 人 に とっ

43)

て 善 と な る もの の こ と で あ る 」。 バ ー ク に と っ て 便 宜 」 「効 用 」 と い う概 念 は 、 共 同 体 の 公 共 善 」 を 基 準 と しな が ら、 「時 効 」 に よ っ て 多 様 な も の の 調 和 的 配 合 が 形 成 さ れ る 際 の 原 理 に ほ か な ら な か っ た 。

さ ら に 、 バ ー ク の 公 共 善 に 基 づ く便 宜 と い う思 考 は 、 や は り神 の 摂 理 と して の 自 然 と結 び つ い て い る 。 彼 に よ れ ば 、 法 の 基 礎 と な る 「効 用(utility)」 と は 、 決 して 部 分 的 あ る い は 限 定 的 」 な も の で は あ っ て は な ら ず 、 人 間 の 合 理 的 な 本 性(rationalnature)」 か ら導 出 さ れ るL般 的 か つ 公 共 的 な 効 用 」、 す な

44)

わ ち 「市 民 の 効 用 」 で な け れ ば な らな い 。 この 箇 所 が 、 キ ケ ロを 引 証 しな が ら

45)

説 明 さ れ て い る こ とか らも 明 らか な よ うに 、 それ は 、 ベ ン サ ム 流 の 近 代 功 利 主

42)Burke,Reflectiaz,p.151.半 疑睾 ヲ弔諦く、217頁 43)t3urke,SpeechonaMotionforaCommitteetoinquireintotheStateof

theRepresentationoftheCommons,inW&S.vol.VII,p.98.叫:1野 邦 訳 、449頁 44)Burke,Fragmentofa'TractrelativetotheLawsagainstPopery,inW&S.

voLVI,pp.323.

45)Ibicl.,pp.322‑3.バ ー ク が こ こ で 引 用 し て い る の は 、 キ ケ ロ の 『法,.1=tに つ い て 』(/.)e Legibus)で あ る 。

(16)

義 とは別 様 の 、伝 統 的 な 自然 法 思 想 の枠 組 み の な か の と くに 「法 」 に 関 す る説 明 の 延 長 線 上 に お い て 把 握 され るべ き もの で あ る。 「市 民 の 効用 」 とバ ー ク が 称 した もの は、 理 性 的 被 造 物 と して の人 間 の 本 性 に 由 来 す る もの と考 え られ て い る。 す な わ ち、 あ らゆ る人 定 法 は 「宣 言 的」 な もの にす ぎ な い の で あ っ て 、 「 の様 式 と適 用 法 を改 変 す る こ とは で き る」 が 、 「本 源 的 正 義(originaljustice) の実 体 」 を改 変 す る力 は そ な え て い な い 。 そ れ ゆ え 「民 衆(peop且e)は 、 共 同 体 全 体 に損 害 を与 え る よ うな形 で 法 を改 変 して し ま う権 利 な ど持 た な い」。 なぜ な ら、 「そ う した権 利 とい う もの は 、 よ り上 位 の 法(asuperiorlaw)の 原 理 に反 して 法 を改 変 して しま う」 か らで あ る。 「私 が こ こで 言 わ ん と して い るの は 、

4fi)

わ れ わ れ に わ れ わ れ の 本 性 を与 え 給 うた神 の 意 思 で あ る」 と述 べ られ て い る よ うに 、 「上 位 法 の 原 理 」 とは、 す な わ ち 「不 変 の 法 」 と して の神 の法 を指 して い る。

こ こで は 、 神 の 意 思 あ る い は人 間 の 本 性 が 示 す と こ ろの 原 理 は 、 共 同体 全 体 の利 益 とい う点 に置 か れ て い る。 バ ー ク の 「便 宜 」 「効 用 」 の原 理 は 、 「公 共 善 」

とい う点 に お い て 、 神 の 意 思 と して の 、 ま た 人 間 の本 性 に 適 っ た 「上 位 法 の 原 理 」 と結 び つ い て い るの で あ る。 バ ー ク の こ う した思 考 は 、 ア リス トテ レス や キ ケ ロ を受 容 した ス コ ラ的 な 中 世 自然 法 思 想 の 人 定 法 に つ い て の 理 解 に 沿 った もの と言 え るが 、 バ ー クに特 徴 的 な の は 、 「一 般 的 か つ 公 共 的 な効 用 」 と して の

便 宜 」 の 原 理 は 、 「古来性 」 の原 理に基づ く 「時効」 に よって完成 され ては じ め て 、 統 治 の合 法 性 を持 つ とされ て い る点 で あ る。 い ず れ にせ よ、 バ ー クの い う 「便 宜 」 「効 用 」 は 、諸 個 人 の 利 益 ・快 楽 の総 和 と して の 量 的 極 大 化 を め ざす 近 代 功 利 主 義 と は、 そ の依 っ て立 つ 思 想 的 地 平 が 明 らか に異 な って い る と言 え

る。

この よ うに 、 わ れ わ れ は バ ー ク の さ ま ざ まな 鍵 概 念 を 、 時 効 とい う観 念 を軸 に考 察 して き た が 、 バ ー クの こ う した 時 の 観 念 は、 明 らか に コモ ン ・ロ ー の 法 学 的 思 考 が そ の 源 泉 に な って い る と考 え られ る。 た とえ ば 、 彼 は 時 効 の説 明 を

こ う展 開 して い る。 「時 効 には 、人 間 精 神 の構 造 に根 ざす 、推 定(presumption)

46)Burke,Fragmentofa'TractrelativetotheLawsagainstPopery,inW&S, vol.VI,pp.321‑2.

(17)

時効 の政 治学 と して の 「古 来 の 国制 」 論

41

と い う も う 一 つ の 権 威 的 根 拠(groundofauthority)が 随 伴 す る」。 す な わ ち 、

「あ る 国 民 が 既 定 の 統 治 機 構 の 下 で 長 期 に わ た っ て 存 続 し

、 繁 栄 して き た と い う 粥 実 こ そ は 、 い ま だ 時 の 検 証 を 受 け て い な い(untried)計 画 を 排 して 、 既 存 の

air

体 制 を 是認 す る推定 」 とい う法 理 で あ る、 と。 こ こで重 要 な の は、 こ う したバ ー クの 思 考 が お そ ら く、 既 知 の前 提 事 実 に基 づ い て特 定 の 推 定 那 実 の 存 在 を 推 認 す る法 学 的概 念 を応 用 して い る と考 え られ る点 で あ り、 同 様 に また 時 の検 証 を 受 けた=r実 状 態 の な か に権 原 を 認 め る とい う観 念 も また コモ ン ・ロー の思 考 様 式 の 影 響 を 明 らか に うか が わせ る もの で あ る。

この よ うにバ ー ク哲 学 に特 徴 的 に見 られ る 「状 況 」 や 「便 宜 」 「効 用 」 とい っ た一 連 の概 念 は 、 コモ ン ・ロ ー の 法 学 上 の 「時 効 」 とい う観 念 か ら派 生 した も の で あ り、 そ して バ ー クの 理 性 あ る い は叡 智 の概 念 も、 た しか に レ ト リ ッ ク と して は 神 の叡 智 に基 づ く自然 法 の理 性 に お い て 究 極 的 に は 支 え られ て い る こ と が 亟 要 で あ っ た けれ ど も、 その 具 体 的 形 式 は 、 古 来 性 を持 つ 時 の効 力 に よ っ て 獲 得 され る もの と考 え られ て い た の で あ る。 この よ うにバ ー ク哲 学 の 本 質 は 、

時」 あ るい は 「時 効 」 の 契 機 に求 め る こ とが で き る。 そ して、 時 の 効 力 を軸 に、

便 宜 ・効 用 を重 視 す る歴 史 的 生 成 と して の 慣 習 と、 神 法 ・自然 法 に依 拠 す る理 性 とが機 能 的 に結 び つ い て い る とい う恩 考 の 様 式 は、 と り もな お さ ず 古 典 的 コ モ ン ・ロー 理 論 で展 開 さ れ た 「古 来 の 国 制 」 論 の特 徴 に ほ か な ら な か っ た 。 す で に確 認 して き た よ う に、 バ ー ク に とっ て 「時 効 」 と は、 普 遍 的 な 自 然 法(理 性 の 法)の 規 定 を 、 それ ぞ れ の 時 代 と状 況 の なか で個 別 具 体 的 な 形 式 に お いて 確 定 して い く働 き と して 考 え られ て い た。 ま さ し く こ う した思 考 様 式 は 、 時 の 検 証 に よ っ て媒 介 され た 自然 法(理 性 の 法)と コモ ン ・ロー との 関 係 で あ っ た 。 本 稿 が 、 バ ー ク哲 学 の 母 型 を 、17世 紀 の 「古 来 の 国 制 」 論 に見 られ た コモ ン ・

ロー の 法 的 思考 の な か に 見 出 そ う と して い るゆ え ん で あ る。

47)t3urke,SpeechonaMotionforaCommitteetoinquireintotheStateof

theRepresentationoftheCommolls,inレvas ,voLVH,P.95.中 里f朔̀訳 、4471/。

参照

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