1.はじめに
近年,国内においては,東日本大震災をはじめとし,
水害,火事等の地震に限らない想定外の様々な種類の大 災害が頻発している。いつ,どこで,どのような災害が 発生してもおかしくない。このような状況から,公的機 関における災害発生時のガイドラインの整備等1)2)の取 り組みが進んでいる。その一方で,上岡ら3)は,公的支 援のみではニーズにあった支援が得られにくい要援護者 個々に対する,公的機関や訪問看護ステーションの取り 組みは充分とは言えないことを,慢性疾患や身体障害を もつ成人らの被災予防と避難支援対策の実態調査より指 摘している。このことは,今後,さらに進むであろう在
宅医療の充実を図る上で喫緊の課題であると言える。
小児医療の分野では,新生児集中治療室の満床問題等 から,人工呼吸器の使用等の医療依存度が高い子どもの 在宅移行が進んでいる。子どもと家族が居住地で安心・
安全に生活するためには,この対象の災害への備えを促 す支援が重要である。山本ら4)は,東日本大震災発生の 中で,医療依存度が高い重症心身障害児(者)が生命維 持の困難に直面していたことを報告しており,この対象 も公的支援のみではニーズにあった支援が得られなかっ たことを示している。
先行研究では,障害のある子どもを預かる重症心身障 害児(者)施設,肢体不自由児特別支援学校における災 害時の支援の実際についての報告5)6)7)はあるが,訪問 看護師による災害への備えを促す実践に関する研究報告 はほとんど見当たらなかった。
医療依存度が高い子どもを育てる家族の多くは,家族 が描いていた家族の将来像を失う悲嘆のプロセスにあり,
子どもとの生活において生じる医療ケアや生活調整,社 本研究の目的は,医療依存度が高い子どもをもつ家族の災害への備えを促す訪問看護師による実践を明ら かにすることである。東日本大震災を経験し,医療依存度が高い子どもと家族の訪問看護を担当している訪 問看護師4名によるフォーカス・グループ・インタビューを実施し質的分析した。その結果,訪問看護師に よる実践は,震災経験により自覚した役割認識に基づいた,<家族の特性やタイミングに応じた働きかけ>,
<地域内でのつながりづくり>,<退院時のマニュアルづくりへの関与の必要性>であった。訪問看護師は,
医療依存度が高い子どもをもつ家族への関わりそのものに困難を感じていた。災害への備えを促す実践を介 した関係性の構築,および,子どもの命に対する思いを共有することを通して現実的な備えを促す可能性が 示唆された。
医療依存度が高い子どもをもつ家族の災害への備えを促す訪問看護師の実践
−フォーカス・グループ・インタビューによる明確化−
Clarifying visiting nursing practice for children with
special health care needs and their families in disaster preparedness.
̶ Extraction form focus group interview ̶
市原 真穂
Maho ICHIHARA連絡先:市原真穂 [email protected] 千葉科学大学看護学部看護学科
Department of Nursing, Faculty of Nursing, Chiba Institute of Science
(2017年10月2日受付,2017年12月28日受理)
4.4 データ収集方法
フォーカス・グループ・インタビュー(以下,FGIと する)によりデータを収集した。FGIは,研究参加者が 特定の出来事を思い出し,集団メンバーの間で共有され ている経験について,相互作用により幅広くかつ詳細に 想起し,描写する刺激を与えるために有効なデータ収集 方法9)であり,本研究の目的に適している。
FGIは研究者がモデレーターとなり2回実施した。1 回目は,訪問看護師の震災経験,および,その経験から 考える医療依存度が高い子どもにとっての必要な備えに ついての発言を求め,ディスカッションを促した。イン タビュー時間は61分であった。2回目は,1回目終了2 か月後に実施した。1回目のインタビュー内容の結果を 提示し,データ収集時点で担当している子どもと家族を 想定しながら,アセスメントの内容,災害への備えを促 す具体的な内容や働きかけについてアイディアの創出を 促した。インタビュー時間は45分であった。
4.5 データ分析方法
FGIのデータは,研究協力者の承諾を得て録音し,逐 語録を作成した。2回分のデータの逐語録から,前後の 文脈を読み取り意味内容を損なわないように文節を取り 出しコードとした。類似したコードを集めて,サブカテ ゴリ,カテゴリ,大カテゴリを生成し,抽象度を高めた。
分類整理したコード,サブカテゴリ,カテゴリ,大カ テゴリは研究協力者に提示して内容を確認し,真実性の 確保に努めた。
4.6 倫理的配慮
本研究は,研究者が所属する研究倫理審査委員会の承 諾を得て実施した(承認番号28-5)。
研究協力施設の管理者,研究協力者へは,書面を用い て研究の主旨,研究方法,分析方法,個人情報の保護,
研究参加の自由および撤回の自由について説明し,同意 書への署名をもって同意を得た。
5.結果
5.1 研究参加者の概要と震災時の経験(表1)
研究参加者は,看護師経験22〜26年,訪問看護師経 験4~10年であった。データ収集時点で,医療依存度が 高い子ども数名を担当していた。震災発生時3名は訪問 看護師として実践中であり,そのうち2名は利用者の自 宅で震災を経験していた。1名は一般病院での勤務中に 震災にあった。いずれも対応中の利用者やスタッフの安 全確保・確認を行っており,そのときの状況を鮮明に記 憶し,詳細に語っていた。
会活動の制限により,身体的,精神的,社会的な負担の 中にある8)。このような生活状況は,災害への備えに意 識を向けることを困難にさせることは容易に想像できる。
しかし,脆弱で不安定な状況にあるからこそ,知恵や工 夫により効率的な災害への備えについての具体的な方法 を見出し,生活に定着させることが殊のほか重要になる と言える。
これらのことから,医療依存度が高い子どもを育てる 家族が,日々の生活の積み重ねの中で災害を想定しつつ 備えを充実させていくこと,および,地域の中における 公助および共助システムとの親和性を高めておくことが,
災害による子どもの家族への影響を最小限に留めること につながるのではないかと着想した。したがって,本研 究は,医療依存度が高い子どもを育てる家族が日々の生 活の中でできる災害への備えを促し,災害対応力を高め ることを意図した。
2.研究目的
本研究は,在宅生活中の医療依存度が高い子どもを育 てる家族の災害への対応力を高める支援ガイドラインを 作成するプロジェクトの一部であり,医療依存度が高い 子どもをもつ家族の災害への備えを促す訪問看護師の実 践を明らかにすることが目的である。
3.用語の定義
本研究では,「医療依存度が高い子ども」を,医療機 器(人工呼吸器,気管カニューレ,経腸栄養,吸引等)
を使用しないと容易に生命が脅かされる状態にあり,か つ,知的障害や運動機能障害等により本人による自己管 理ができず,日常的に家族による管理とケアを要する子 ども,とした。
4.研究方法
4.1 研究デザイン 質的記述的デザイン
4.2 研究参加者
研究参加者は,2011年に発生した東日本大震災(以下,
震災とする)を経験し,調査時点で医療依存度が高い子 どもを担当している訪問看護師4名であった。研究参加 者である訪問看護師は,当該震災による死者等の人的・
物的被害があったA県内において,ライフライン確保の 困難や計画停電があった地域にあり,研究プロジェクト への協力の承諾が得られたB訪問看護事業所に勤務して いた。
4.3 データ収集期間
平成28年11月〜平成29年2月
における普段と異なる利用者の不安の受け止め〉,〈発災 後の利用者の生活に関する予測と安全の確保〉,〈揺れの 中でも担当利用者のもとへかけつける〉,〈災害時も休む ことなく役割を遂行〉の4つのサブカテゴリが含まれた。
【想定外の出来事に対する臨機応変な対応】は,突然に 生じた災害によって,利用者に生じるであろう被害やそ れに伴う二次的な障害,環境の変化に臨機応変に対応す る訪問看護師の役割認識とその行動である。〈利用者の 安全確保〉,〈利用者個々の主たる管理病院の機能状況の 把握〉,〈訪問先への交通手段の確保〉,〈通信手段がない 中での対応〉の3つのサブカテゴリが含まれた。
【不足が予想される物質の確保】は,災害状況下でも 途切れなく訪問看護活動を続け,利用者の安全な生活を 確保していくために必要な行動である。〈利用者の医療 物質の確認〉,〈訪問看護業務継続のための物資の確保〉
の2つのサブカテゴリが含まれた。
【普段からの利用者の生活の安全確保とその責任感】は,
訪問看護師が震災経験を通して自覚した,地域の中で生 きる利用者の存在を確かなものにし,そのことを地域の 中に知らしめる役割認識と行動である。〈利用者を支え る普段からの地域でのつながりづくり〉,〈利用者の危機 管理意識と災害への準備の促し〉の2つのサブカテゴリ が含まれた。
これらは,震災時における利用者への看護経験がきっ かけになり自覚した役割であり,災害への備えを促す実 践の前提となると考えられた。
5.2 震災経験により想起された医療依存度が高い子 どもをもつ家族の災害への備えを促す訪問看護師の実践 分析の結果,147コードから,35サブカテゴリ,10 カテゴリ,3大カテゴリを得た。
大カテゴリは,自身の震災時の訪問看護師としての経 験から自覚するに至った“震災経験により自覚した訪問 看護師の役割”,インタビューにより引き出された訪問 看護師の方策である“医療依存度が高い子どもをもつ家 族の災害への備えを促す訪問看護師の方策”,および,
実践において生じている,または生じる可能性のある
“医療依存度が高い子どもをもつ家族の災害への備えを 促す実践上の課題”に整理した。
以下には,大カテゴリごとに主要な要素について説明 する。なお,本稿では,カテゴリは【 】,サブカテゴ リは〈 〉,コードは「 」で示す。
5.2.1 震災経験により自覚した訪問看護師の役割
(表2)
震災経験を想起し同じ体験をした看護師同士でディス カッションすることによって表出された訪問看護師の役 割は,【発災時においても常に利用者ファースト】,【想 定外の出来事に対する臨機応変な対応】,【不足が予想さ れる物質の確保】,【普段からの利用者の生活の安全確保 とその責任感】であった。
【発災時においても常に利用者ファースト】は,訪問看 護師としての強い役割認識を示すものである。〈発災時
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表1 研究協力者の概要と震災時の経験
動を引き出すための訪問看護師の専門性,経験に基づく 洞察から生まれた知恵や工夫を含む行動である。〈定期 的あるいはタイミングをみた災害への備えを促す働きか け〉,〈災害時に特化したマニュアルやツールをきっかけ にした働きかけ〉,〈災害に対する家族の思いの引き出し と共有〉,〈家族の特性に合わせた働きかけ〉,〈家族が自 分で関係者とやりとりできるような働きかけ〉の5つの サブカテゴリが含まれた。
【地域内でのつながりづくり】は,地域の中で医療依存 5.2.2 医療依存度が高い子どもをもつ家族の災害
への備えを促す訪問看護師の方策(表3)
震災経験を基に,ディスカッションにより表出された 医療依存度が高い子どもと家族の災害への備えを促す訪 問看護師の方策は,【家族の特性やタイミングに応じた 働きかけ】,【地域内でのつながりづくり】,【退院時のマ ニュアルづくりへの関与の必要性】であった。
【家族の特性やタイミングに応じた働きかけ】は,家族 の災害への備えに対する意識を高め,具体的な家族の行
表2 震災経験により自覚した訪問看護師の役割 䛆
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表3 医療依存度が高い子どもをもつ家族の災害への備えを促す訪問看護師の方策
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表3 つづき
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5.2.3 医療依存度が高い子どもをもつ家族の災害 への備えを促す実践上の課題 (表4)
医療依存度が高い子どもをもつ家族に関わる際に生じ る実践上の課題として,【家族の危機意識醸成にむけた 課題】,【避難に関連する家族の複雑な思いへの気づき】,
【災害への備えの促しにむけた訪問看護師が感じる困難】
があった。
【家族の危機意識醸成にむけた課題】は,医療依存度が 高い子どもをもつ家族が育児をしながら親になるプロセ スの最中にあり,かつ,常に生命の危機に直結しかねな い子どもに向き合い緊張状態に置かれている中で,災害 への備えを生活に位置づけることへの困難性を示す。〈危 機意識が低い家族の存在〉,〈災害の備えを主体的にでき ない家族への対応の困難〉,〈何かあったら病院へ行けば よいという家族の意識〉,〈様々な経験による気づきをき っかけにした家族の危機意識の向上〉の4つのサブカテ ゴリが含まれた。
度が高い子どもとその家族の存在が認識されにくい現状 を踏まえた上での訪問看護師の地域にむけた実践の方向 性である。〈災害時要援護者の自治体との共有の重要性〉
〈訪問看護師が担うつなぐ役割〉の2つのサブカテゴリが 含まれた。
【退院時のマニュアルづくりへの関与の必要性】は,医 療依存度が高い子どもの在宅移行が高度医療を担う病院 主導で進められることが多い中で,在宅という状況や地 域特性を踏まえたその子にあったマニュアルづくりの必 要性を示唆するものである。〈実際に必要な備蓄内容の 提案〉,〈停電への備えにむけたマニュアル整備〉の2つ のサブカテゴリが含まれた。
これらは,医療依存度が高い子どもと家族に対する災 害への備えを促す実際的な方策を含み,実践の方向性を 示す。
表4 医療依存度が高い子どもをもつ家族の災害への備えを促す実践上の課題 䛆
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表4 つづき 㑊㞴䛻㛵㐃䛩䜛ᐙ᪘䛾」㞧䛺ᛮ䛔
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備えにむけたマニュアル整備〉があった。これは,医療 依存度が高い子どもが,個々の特性に合わせた機器や特 殊な衛生材料を使用していることや,電力を必要とする 医療機器を使用していることに起因している。加えて,
子どもは,病状の変化等の経過の中で医療機器や材料の 変更が容易に生じること,身体の成長によりおむつや衣 服のサイズが合わなくなること,経管栄養法で用いる流 動食や栄養剤の内容も変わることから,比較的短期間に 備蓄しておくべき物品の確認や入れ替えが必要となる。
経過による変化に対応するために,定期的な準備内容の 見直しが訪問看護師に求められる実践である。松下ら10) は,在宅で生活する染色体異常児の母親へのインタビュ ーの中で,母親が災害に備えて経管栄養の物品や内服薬,
おむつなどをパッキングした避難バックを準備している ことを報告している。このような災害への備えが全事例 で在宅直後から準備されるように,訪問看護師が家族の 特性やタイミングをみて働きかけをしていくことが重要 である。
電力確保の問題は,電源を必要とする医療機器に依存 する子どもにとっては重要な課題であり,松下は,「日 頃からの使用機器の充電や使用電力の確認,消防や医療 機器メーカーとの連携」11)の重要性を指摘している。こ れは,子どもに限らず医療依存度が高い利用者の災害へ の備えとしてよく言われていることであり,中井ら12) が公表した「金沢高知式災害備えチェックシート」に代 表されるような様々なマニュアル等にしたがって,確実 に準備をすすめることが重要となる。これらの準備につ いては,医療依存度が高い子どもを受け入れる訪問看護 ステーションや受入れ人数が少ない現状13)より,医療 機関からの在宅移行時にマニュアルを通して指導されて いることが多いと推測される。しかし,在宅生活上必要 な物品の準備については,在宅を専門とする看護師が関 与する必要がある領域である。在宅での生活を見通して,
具体的な時期を盛り込んだ実際的なマニュアルづくりに 訪問看護師も関与し,定期的な確認を促したり,備蓄す べき物品を確実に揃えることができるマニュアル等が提 案されることが望まれる。
現在,自治体によっては災害時要援護者をリストアッ プする試みもすすんでいる。しかし,子どもの場合には 短期間での入退院も多いことから,充分に把握されてい ない例も多い。したがって,地域で生活する医療依存度 が高い子どもを確実に把握している訪問看護師が自治体 との橋渡しの役割をし,災害時においても地域の中で医 療依存度が高い子どもの存在が認識されることが重要で ある。
【避難に関連する家族の複雑な思いへの気づき】は,医 療依存度が高い子どもをもつ家族が,災害や想定外の出 来事に対して即座に対応して危険を回避することができ るわけもなく,様々な状況を勘案した意思決定局面に遭 遇する可能性に関する訪問看護師の気づきである。〈自 宅にいたい,避難したくないという思いの把握の必要 性〉,〈避難所への移動の困難性への気づき〉,〈避難先の 把握の困難〉,〈避難しないでいる場合の孤立の可能性〉,
〈家族も訪問看護スタッフも避難所のイメージを持って いない〉,〈一般の避難所は障害児には困難〉,〈きょうだ いとの避難のニーズの違い〉の7つのサブカテゴリが含 まれた。
【災害への備えの促しにむけた訪問看護師が感じる困 難】は,医療依存度が高い子どもをもつ家族に対して災 害への備えを押し進める際に,家族との関係性構築の難 しさから訪問看護師が直面する課題である。〈災害への 備えに対する訪問看護師自身が持つ知識に対する不安〉,
〈圧倒的な家族の使命感により感じる引け目〉,〈障害児 とその独特な家族への関わりそのものの敷居の高さ〉の 3つのサブカテゴリが含まれた。
6.考察
震災経験のある訪問看護師に対するFGIの結果,自身 の震災時の看護経験を基にした,医療依存度が高い子ど もと家族が必要とする災害への備えを促す訪問看護師の 具体的な方策が表出された。このことから,当該対象に 対する具体的な実践の内容とその方向性が明確になり,
指針作成への示唆が得られたと考える。
それとともに,医療依存度が高い子どもをもつ家族が 直面している日々の負担や緊張状況を知る訪問看護師が,
家族との関係性を築くことそのものにも困難を感じてい ることも表出された。このことより,当該家族への接近 方法に関する課題の検討の必要性が明確になったと言え る。
したがって,本稿では,本研究結果から得られた医療 依存度が高い子どもをもつ家族の災害への備えを促す看 護実践の内容,および,災害への備えを促す実践を媒介 にした家族との関係性の構築の可能性の2つの観点から 考察する。
6.1 医療依存度が高い子どもをもつ家族の災害への 備えを促す看護実践の内容
分析の結果,【家族の特性やタイミングに応じた働き かけ】として,〈定期的あるいはタイミングをみた災害 への備えを促す働きかけ〉や,〈災害時に特化したマニ ュアルやツールをきっかけにした働きかけ〉があった。
また,【退院時のマニュアルづくりへの関与の必要性】
として,〈実際に必要な備蓄内容の提案〉や,〈停電への
災害に関連することは,備蓄の準備等の実際的なこと だけではなく,危険が差し迫ればその場所から避難し,
安全を確保するというような,生命を最優先にする行動 が求められる出来事である。医療依存度が高い子どもは 容易に生命が脅かされる状態であるにもかかわらず,今 回の結果,「避難所には行かないっていう人がたくさん いる」など,訪問看護師が子どもの命に関連する家族の 様々な思いに触れたことが表出されている。中井ら15) は,人工呼吸器装着中の家族介護者の中には災害時に
「避難したくない」と考えている家族もいることを指摘 している。よって,家族との災害への備えの話し合いを きっかけにし,避難行動に対する思いの表出を促すこと の重要性,および,訪問看護師と家族がその思いを共有 して,どのようにして命を守る行動を最優先するのかと いう具体的な方法について検討する重要性が示唆された。
また,このような話し合いを通して,家族と訪問看護師 が協働して子どもの命に向き合い,現実的な備えを促す 効果をもたらす可能性も示唆された。
7.結論
本研究の結果,以下の結論を得た。
FGIの結果により明らかになった医療依存度が高い子 どもと家族の災害への備えを促す訪問看護師の実践は,
震災経験により自覚した訪問看護師の役割に基づき,家 族の特性やタイミングに応じた働きかけ,地域内でのつ ながりづくり,退院時のマニュアルづくりへの関与の必 要性であった。医療依存度が高い子どもは,日常的に命 を脅かされやすい状況にあるにもかかわらず,そのこと について訪問看護師が家族と認識を共有することには限 界がある。災害への備えをきっかけに子どもの命に対す る思いを共有し,そのことが,より現実的な備えを促す 効果をもたらす可能性も示唆された。
本研究は,「平成28年度千葉科学大学教育研究経費」
による研究助成を得て実施した。
6.2 災害への備えを促す実践を媒介にした家族との 関係性の構築の可能性
災害への備えを促す働きかけには,家族の思いや考え,
危機意識の確認,家族の特性に合わせた働きかけが必要 となる。しかし,今回の結果から,訪問看護師が医療依 存度が高い子どもを育てる家族との関わりについて,「災 害に関連したことは聞けるけど,それ以上に深く入り込 むことは難しい」と,感じていることも明らかになった。
すなわち,医療依存度が高い子どもをもつ家族が直面し ている日々の負担や緊張状況を知る訪問看護師が,家族 との関係性を築くことそのものにも困難を感じているこ とを示す。これは,訪問看護を利用する医療依存度が高 い子どもの実数が,高齢者やその他の成人期に発症する 疾患をもつ利用者数に比較して少数であり13),訪問看 護師が関わりの中で経験を深め,普段の実践の中から関 わりへの自信を得る機会が少ないことにも起因すると考 えられた。藤下ら14)は,医療的ケアを必要とする子ど もと家族の在宅移行に関する文献検討の結果,在宅移行 において親や医療者との認識の違いや,医療者を主体と した在宅移行支援の現状など,親自身の様々な困難な状 況や思いを抱いていることを示した。また,松岡ら15)は,
医療的ケアの必要な子どもと家族に在宅移行期に関わる 看護師の認識の特徴として,子どもと家族を主体とした ケアを大切と認識しながらも,実践しているという認識 が低いことを示し,家族との相互理解の難しさを指摘し た。これらが示すように,当該家族に対する訪問看護師 の接近方法そのものが課題となっており,災害への備え をすすめる上では,まず,このことの検討が重要である。
一方で,今回の結果より,医療依存度が高い子どもを 育てる家族への訪問看護師が用いる接近方法として,「新 しく小児中心の看護を始めようと思ったときに,災害に むけた関わりをきっかけにできる」という表出もあった。
これは,家族への関わりそのものへの敷居の高さを乗り 越えようとする際に,災害への備えを促すマニュアル等 を用いた実践が有用であるという気づきであった。また,
具体的に災害への備えを促す実践には,定期的,かつ,
タイミングをみた働きかけが必要であることが表出され ている。これは反面,通常の実践の中で訪問看護師が災 害への備えについてアセスメントし家族の思いや考えを 確認する際に,タイミングやきっかけがないと難しいこ とを示しているとも言える。したがって,訪問看護師が 通常業務の中に災害への準備に関する実践を組み込み,
必然的に災害に関連する事項について訪問看護師と家族 との話し合いの機会を設けることにより,医療依存度が 高い子どもをもつ家族の我が子の命や生活に対する思い に接近しやすくなることを示す。この結果,対象との関 係が構築され,相互理解し合う機会となり得る可能性が ある。
14)藤下宜子, 松岡真里:医療的ケアを必要とする子どもと家 族の在宅移行期に関する文献検討. 高知大学看護学会誌,
10(1),3-14,2016.
15)松岡真里,上原章江,茂本咲子他4名:『子どもと家族を主 体としたケア』に関する看護師の認識の特徴 医療的ケア を必要とする子どもの在宅ケアを検討してから家庭で生 活する時期に焦点を当てて.日本小児看護学会誌,25(3),
24-31,2016.
16)前掲11) 参考文献
1) 東京都:“地震発生時の行動マニュアル”.東京防災ホーム ページ.http://www.bousai.metro.tokyo.jp/bousai/10000 26/1000276.html
(2017.9.29アクセス)
2) 内閣府:“防災 知る・計画する” 防災情報のページ.
http://www.bousai.go.jp/kyoiku/kigyou/bousai/sk.html
#anc04
(2017.9.29アクセス)
3) 上岡裕美子,伊藤文香,松田智行,鈴木孝治,木下由美 子:茨城県における地震に対する要援護者への保健所・市 町村・訪問看護ステーションの被災予防と避難支援の実態 調査.日本公衆衛生雑誌, 59(5),339-351, 2014.
4) 山本美智代, 中川薫, 石上ゆか, 米山明, 加藤久美子, 伊藤 真理子: 災害の中を生きる困難と生活不安 首都圏に住む 重度障碍児者の東日本大震災での経験の特徴, 小児保健研 究, 72(2), 298-304, 2013.
5) 小室佳文, 加藤令子, 沼口知恵子, 西田志穗: 肢体不自由の ある中学部生徒の自然災害への備えに関する認識 特別 支援学校3校に通学する子どもへの面接調査から.小児保 健研究, 74(6), 863-870, 2015.
6) Kato R, Nishida S, Komuro K, Numaguchi C: Teacher perceived emergency disaster needs of physically and mentally challenged school children in Japan : Health Emergency and Disaster Nursing, 1(1),34-44, 2014.
7) 坂口由紀子, 久保恭子, 宍戸路佳, 田崎知恵子: 重症心身障 がい児に携わる看護職の防災に関する意識調査.日本医療 科学大学研究紀要, (6), 19-25, 2014.
8) 市原真穂,下野純平,関戸好子:超重症児とその家族の日 常生活における家族マネジメント : 日々直面した困難への 対処に関連したある家族の認識と行動.千葉科学大学紀要,
(9),99-107,2016.
9) ウヴェ フリック.質的研究入門 “人間の科学”のための 方法論.春秋社,東京,2011.
10)松下聖子,金城やす子,鈴木恵:在宅で生活する13トリソ ミー児の災害への備え.沖縄の小児保健, (41),34-40,2014. 11)松下聖子:医療機器を使用しながら在宅で生活する子ども
と家族の台風災害時等の電源確保の方法と今後の課題.名 桜大学紀要,20,45-54,2015.
12)中井寿雄,塚崎恵子, 京田薫他3名:人工呼吸器装着中の 在宅療養者と家族介護者が支援者と共同で備えるための
「金沢高知式災害備えチェックシート」の開発.日本災害看 護学会誌,17(3),30-40,2016.
13)野元由美:NICU退院児の在宅移行支援の現状と課題 訪 問看護ステーションへのアンケート調査からの考察.日本 看護福祉学会誌,22(2),57-66,2017.