水資源としての雪・氷・地下水の利用について
後藤 恵之輔*・湯藤 義文**
七條 哲彰***・草野 和郎*
A Consideration on the Use of Snow,
Ice and Underground Water as Water Resources
by
Keinosuke GOTOH*, Yoshifumi YUTOH**, Tetsuaki SHICHIJYOH***
and Kazuo KUSANO*
In recent years, the problem of water shortage occurs in various pleaces including the water famine in capital regions. The reason is that we don t make most of rainfall, nevertheless the few tendency of rainfall recently. Therefore, this problem of water shortage is very important from use of water resource point of view for us.
In this paper, firstly we consider use of snow, ice and underground water as water resource with special reference to actual use, and secondly report the methods of using and detecting the snow water and submarin6 springs. Fina11y, we explain a concept of reserving water resource on the sea.
1.はじめに
水は生命の源であり,飲用あるいは食糧を生産し,
工業用水として利用するなど,地球上に生存するすべ ての生物にとって欠くことのできない自然の要素であ
る.
我が国では,降水総量は年間6749億トンあるのに対 し,全国の水使用量は生活用水,工業用水,農業用水 等を合わせて年間約890億トンであり,降水だけで水需 要を十分にまかなえるはずである.しかし,ここ何年 か,首都圏の水ききんをはじめ,各地の水不足に関す
る新聞記事をよく目にする.この数字から言って,な ぜ水不足が起こるのであろうか.もちろん,ここ最近 の少雨傾向も考えられるが,他に考えられるのは,降 水の大部分が海に流れ込んでしまい,降水の利用が有.
効に行われ℃いないためである.
ここで,地球上の水の構成比を見れば,海水は全体 の96.5%もあるが,ごくわずかしか利用できない現状 である.地下水は1.7%,氷雪は1.74%であり,それ以 外は0.1%にも満たない状況1)である.我が国で年間に 使用する水の総量は約1/4以上は山の雪で2),春の雪解 け水は川に流れるのはもちろんだが,地質によっては 川に流れるより,地下水になっていく場合がある.同
じことは降雨についても言える.したがって,氷雪と 地下水を水資源として有効に利用することにより,水 不足を解消できるものと期待される.
そこで本報では,水資源としての雪・氷・地下水の 利用の方法と現状,そして問題について考え,さらに 雪の地下水の利用の提言として,雪解け水と海岸湧出 平成元年9月30日受理
・土木工学科(Department of Civil Engineering)
**大学院博士課程海洋生産開発学専攻(Graduate School of Marine Science and Engineering, Division of Marine Production Research and Development)
***大学院修士課程土木工学専攻(Graduate School of Engineering, Division of Civil Engineering)
地下水の利用とその探査方法について述べるとともに,
これらの水資源を海上に備蓄する構想を報告する.
2.水資源の現状 2.1 水資源の需要
我が国の水需要は,近年の生活水準の向上,生産活 動の拡大等により,ますます増加の傾向にある.その 利用の用途として,生活用水,工業用水,農業用水な
どがあげられる.
(1)生活用水
水は飲料水として生命の維持のためばかりでなく,
調理,洗濯,風呂,水洗トイレ,掃除など日常生活で 使用される家庭用水として,また飲食店,デパート,
ホテル,病院や医療福祉施設,公共施設等の噴水,公 衆トイレなど都市機能を果たすのに必要な都市活動用 水として使用されている.生活用水はこの2つの用水
を合わせたもので,それぞれの水量比は約7:3と推
定3)されている.
生活用水の需要は,Table 1に示すように昭和50年 まで急速に伸び,その後は緩やかな伸びになっている ものの,着実に増加している.地域別にみれば,関東 臨海,東海,近畿臨海などの,生活用水の使用量が多 い地域は,年平均2%の伸びで止まっているのに対し て,使用量が小さい関東内陸,南九州,北海道,東北,
北陸などでは,依然として年平均が4%以上4)と倍以 上の伸びを示している.生活用水の一人一日平均使用 量については,最高の近畿臨海と最低の北海道には,
かなりの幅がみられる.これは,人口の集中度,都市 化や社会的動向及び自然的条件などの要因の相違によ るものと考えられるが,その差は小さくなりつつある.
これらの要因を背景として,第三次産業の発展により,
生活用水の需要は,今後とも着実に増加していくもの と見込まれる.
(2)工業用水
工業用水とは,ボイラー用水,原料用水,製品処理 用水,洗浄用水,冷却用水及び温調用水などに使用さ
Table l Variation in amount of water demand4).
(単位:億㎡/年)
用途区分 昭和40年 45年 50年 58年 都市用水 164 241 269 269
H業用水
42一 一 r 一 一 曽 一 一
@122
69胴 一 一 一 一 ■ 雪 冒 一
@173 @173
121_ 一 一 一 一 一 一 曽
@148
農業用水 一 } 570 585
合計 一 一 839 854
れている水のことを言う.
製造工程などで使用される淡水量は,新たに河川等 から取水される淡水補給量と繰り返し使用される回収 水量の合計4)からなる.淡水使用量は,機械系業種にお いて増加の傾向にあるが,全体としてみれば,節水努 力などにより横ばいないしは微増で推移している.回 収率(回収水量/淡水使用量)は50年代半ばまで急速 に上昇したが,回収利用が比較的容易な業種や大工業 地帯では,回収利用が限界に近づき,その後は横ばい4)
となっている.淡水補給量は,減少幅が縮小し,ほぼ 横ばいとなっている.
今後淡水使用量は,工業出荷額の堅調な伸びに伴い,
安定した増加基調で推移し,回収率の上昇は横ばい状 態で,淡水補給量は年平均約2%の伸びで増加してい
くものと見込まれる.
(3)農業用水
農業用水は,水田かんがい用水,畑地かんがい用水,
畜産用水に大別することができる.農業用水の9割を 占める水田かんがい用水は,水田面積の減少に対し,
水田の整備に伴う単位面積当たりの用水量の増加,用 水路と排水路の分離による反復利用率の低下などによ り,使用水量はほぼ横ばい状態4)である.畑地かんがい 用水は,畑地面積の増加や,農薬や肥料を用水に混ぜ ての散布により,使用水量は増加の傾向にあり,畜産 用水も家蓄飼育数が増加していることから,増加する
ものと推測される.
(4)その他の用水
その他の用水として,地域の環境の保全や保護等の 目的に使用される環境用水,雪を溶かし排出するため の消・流雪用水,さらに発電用水などがある.
2.2 水資源の供給
昭和59年の都市用水の取水量は年間約306.4億㎡で 水源別には,河川水が約206.8億㎡(構成比67.5%),
地下水が約91.0億㎡(同29.7%),湧水などその他の水 源が約8.6億㎡(同2.8%)である(Fig.1参照)3).
また,50年と59年の全国の水源別取水量を比較して みれば,河川水は約11億㎡増加したのに対し,地下水 は約11億㎡減少していることより,地下水から河川水 への転換が進んでいることがわかる.さらに,この河 川水への転換により,ダムによる水資源開発が推進さ れている.しかし,施工にかなりの資金を必要とし,
建設場所の問題などもあり,完成するまでに長いもの では15年ないし20年という年月を必要3)とする場合が
ある.
また,都市用水の需要の増加によって,大都市圏域 では,河川水からの取水のうち不安定取水(河川水が
1
その他2.8%
下
水 33二説
29.7鎚
12・5κ
64.2労
(50年)
67.5瓢
(59年)河川水
Fig.1 Variation in constituent ratio of water resources for cities3).
豊富にある時だけ取水可能な取水)への依存が高い.
さらに,農業用水などの慣行による水使用には,渇水 時において取水が困難となる場合がある.これらの不 安定取水について,水源施設の整備の問題や渇水時に 取水ができない場合があるため,水資源開発施設の整 備を行い,不安定取水の解消を図る必要がある.
雪ダムは,その設備位置により低地型と高地型に分 けられる. ・
(1)低地型雪ダム
低地型雪ダム(Fig.2)は,排雪をトラックなどに よって,雪ダムに投棄し集積して,夏の渇水期まで抑 制し,利用しようとするものである.方法として,建 設省東北地方建設局の青森市5)を例にとってみれば,
下端に雪の層厚5mを確保できるような防護設備と,
雪と地面の間に雪崩防止杭を設けて,雪面傾斜角200で 集積し,また雪の表面を融雪防止シートで覆って融雪 を抑制する.
(2)高地型雪ダム
高地型雪ダム(Fig.3)については,すでに建;設省で 詳細な実験検討が行われている。このダムは,天然の 万年雪がある渓谷に,雪崩によって雪を集積し,人工 の万年雪を造ろう5)というものである.またこの箇所 は,日当たりの悪い場所にあるため,雪ダムを造るに は好都合である.方法として,渓谷に雪崩落ちてきた 雪を積止めるための減勢工型の小規模なダムを造る.
融雪防止シート
3.水資源としての雪・氷・地下水の利用
水資源開発の中心として,今後も河川水の利用が重 視されることは予想できる.しかし,以上の問題と水 需要の増加に対応しつつ,他の水資源の供給について
さらに開発の促進を図ることが重要になってきている ことは,言うまでもない.
地球上の水は前述のように,海水以外では地下水と 氷雪がほとんど全体を占め,それ以外は0.1%にも満た ない.この点から,雪・氷・地下水を水資源として利 用することが有望ではないかと考えられる.そこで,
これらの利用としての現状について述べてみる.
3.1 雪の利用の方法と現状
雪国では,冬の間山に貯えられた雪が,春になり気 温が上昇して来ると,徐々に融けて川に流れ出し,貴 重な水資源として利用されている.しかし,このよう な豊かな水資源である雪解け水も,有効に使いきれず に海へ流れてしまうのが現状である.この雪解け水を 有効に使うための解決策として,ダムを造ろうにも適 地は少なく,金も時間もかかる.ならば逆に融雪を抑 制して,渇水期である7月,8月までもたせたらどう だろうか.そこで考え出されたのが雪ダム構想5)であ る.これは,積もった雪を大量に集積することによっ て,自励作用を働かせ,融雪を抑制して固相のまま貯 留し,必要なときに水資源として活用しようという考 えである.
集ホ管
雪画
有孔管(半割)
木枠玉石詰め)
なだれ防止杭
コンクリート堤
断面図
木枠(玉石結め)
集水管 コンクリート堤
正面図
Fig.2 Snow dam
area5).
model for Iow−altitude
5 彪 6 1冒
い しも ぜ 自然の 式 ミ 〜 ム〜一㌦
、、 、
万年雪 、、 、 、 N
.17 訪
難ダム 鰺ノ 似/、 ,・ ・
ノノ ロニとサノ
/㈲ z ゴ1欝7ζノ拶ω
第4年目
第1年目 第2年目 第3年目
1 貯雪ダムの建設 万年雪の拡大 1.万年置の成長 !.万年雪の成長 (雪ダム効果) なだれ雪量 2.減勢型なだれ 減勢型なだれ 間接的抑制効果 防止枠の設置 防止枠の設置 2,減勢型なだれ
上流側 防止枠の設置 下流側
Fig,3 Snow dam model for high−altitude area5).
このダムに,繰り返し起こる雪崩によって圧縮された 密度の高い雪が溜められ,自然のままの状態よりは厚
くなるため融雪抑制作用が大きくなり,さらに人為的 な抑制を行うことによって,越年雪渓が出来るものと 期待できる.次の年の雪もこの上に溜めて,やがて集 積雪量と融雪量が平衡状態となる.
人為的な融雪抑制として,反射率のよい断熱材で雪 の表面を被覆する工法が実験的に検証されており,3 舳の厚さの発砲スチロールで覆えば,融雪の量は20%
に減少することが確かめられている.
いずれにせよ,雪ダムはまだ実現していないが,以 上を考慮すれば,あとコストについて見てみても,実 現できそうなものである.
3.2 氷の利用の方法と現状
氷を水資源として利用する方法として,氷河や氷山 利用が考えられる.
自然の氷河は,高山で積雪が氷となって,自分の重 みで斜面に沿って緩やかに流れ出したものである.こ の氷河は使いようによって大きな水資源となり得る.
例えばノルウェーやフランスでは,氷河から生じる融 雪水を利用した水力発電所が建設6)されている.また,
乾燥地帯でも,その後背地に高山がある場合には,氷 河及びその周辺に降り積もる雪からの融水を貴重な水 資源として利用している.氷河は,冬の降雪量が著し く少なければ翌年の夏には,自ら氷が解け水不足を緩 和し,逆に降雪が多い場合には,氷としての水資源を 蓄える働きをもっている.毎年の降水量の影響を大き く受ける河川や湖と比較して,氷河は安定した水資源 として期待できる.
現在日本には氷河は存在しない.しかし,日本アル プスや日高山脈には,典型的な氷河地形であるカール
(圏谷)が見られる2).カールは,氷河の侵食で山地に 出来た半球型の凹地であり,日本にも過去に氷河が あったことを証明する重要な地形である.またカール は,雪が吹き溜まりやすいために雪渓が出来やすく,
万年雪や越年雪となることも少なくない.よって,氷 河地形であるカールと,冬季に降り積もる大量の雪に よって生じる雪渓によって,Fig.4に示すような人工 氷河建設への試み6)がなされている.
氷河の上流部では,冬季の降雪によって新しい氷が 生まれ,下流部では気温,日射,地形による温暖化の 影響を受け,氷は解け出していく.氷河は,内部の氷 を少しずつ入れ替えながら,供給と消費のバランスを 保って成り立っているのである.
そこで,人工氷河を造る基本的な考えとしては,氷 の消費以上に,人工的に氷雪を供給すればよいという
南股
二三雛
Fig.4 An example of artificial glacier6).
ことである.
一方,極地方などで海へ落ちた氷山を船に積んで曳 航して,水資源として利用しようという計画7)もある.
氷山は真水であるため,これをそのまま都市用水とし て利用できると考えられる.利用することができると すれば,0.1立方キロメートルの氷山で,人口10万の都 市の3年分の必要量7)を賄うことができると言われて
いる.
このように,氷山を極地方から輸送する計画は,い まだに実現はされていないものの,実現できれば氷河 同様,水資源,観光など多目的に利用され得る.
3.3 地下水の利用の方法と現状
地下水を直接汲み上げる方法には,自由地下水を汲 み上げる方法と,被圧地下水を汲み上げる方法の2種 類がある.
自由地下水を汲み上げる場合,地下水が地表面近く にあれば,比較的少ない費用で井戸を掘ることができ るという利点がある.
被圧地下水を汲み上げる場合には,地下水が地下の 深層にあるため,井戸を掘るのに自由地下水の場合よ りも多少費用がかかるが,水質が良好で,水温も温暖 な水を得ることができる.
一方,地下ダムは,地下水の流れる滞水部内に遮水 壁を設け,地下水の流れをせき止めることによって貯 水するものである8).地下ダムの効用については,Fig.
5に示すように遮水壁を設けることによって,上流か らの流れをせき止め取水を容易にすることと,下流か ら逆流してくる塩水の進入を疎止する効果がある.
地下ダムの利点9)として,具体的には次の5点があ
る.
(1)地下水流をせき止めて貯水するため,川,沼,湖 などの有無にかかわらず,貯水が可能である.
遮水壁 ロロ
遮水壁
海
0仁コ
不透水層
形
取氷井芦,
■哩2 ノ
」ノ〆
6
取水井戸
不透水層
/
(a)海岸部における塩水化防止例 (b)山間部における貯水例
遮水壁によって貯水するとともに,下流からの海 滞水層内の二水壁によって地下水流をせき止めて 水浸透を防止する. 貯水、無効放流を防ぐ.
Fig.5 Examples of underground dam9).
(2)通常のダムが地上に広大な面積を占めて構築され,
貯水部の土地,家屋は完全に水没するのに比べ,地 下ダムは遮水壁,貯水部とも地下にあり,地表部は そのまま活用が可能である.
(3>地下ダムは,地下水流をせき止める働きだけでな く,海水の浸透による塩水化を防止するため,地下 水の水質を保全する.
(4)地下水を貯留するため,水質が良好で水温も安定 している.
(5)地表に湛水したり,構造物を造ったりしないため,
用地費は少なく,建設コスト,維持コストも低減す
る.
ただし,地下ダムはそれ程大きくなく,その容量は 意外に小さいものであり,遮水壁の深さは,経済的に みて30mが限界である.一方,地下水を取水するには,
ドローダウンと呼ばれる水位低下が必要である.した がって,滞水層の水深全部が利用できるわけではない が,離島や小規模の町や村の水資源を確保する方法と
して,地下ダムは効果的である.
ることができるか,高地型では集積量と融雪量がどの 程度で平衡状態になるかなど,これらを求める計算の 手法,あるいは実質水資源としてどれだけ期待できる かなどについては,今のところ明確なものはない.
さらに,現実に雪ダムが造られたとして,周囲に与 える影響も考えられる.
その一つに,雪ダムに溜められた雪が雪崩を起こさ ないかどうかの懸念が残る.それは,開発以前に雪崩 防止防護設備として検討なされる事項ではあるが,雪 崩には自然が起こす計りきれない未知的なものがある ため,検討するには非常に厄介である.すなわち,雪 崩には,すべり面の位置からFig.6に示すように,表 層雲台と全層雪崩がある.低地回雪ダムを例にとって みれば,雪崩防止杭の設備は,全層雪崩には有効に働
くが,この設備以上の表層雪崩には全く効き目がない.
背の高い防止設備を造るにも限度があり,有効な表層 雪崩防止設備は,今のところ開発されていないのが現 状である.このままでは,雪がたくさん積もった状態 で,春から夏にかけて暖気が入ってき,積雪の温度が
4.雪・氷・地下水の利用の問題 4.1 雪ダムが起こす影響
雪ダムを実現するには,次の問題点や調査検討が必 要になってくる.
降雨時には,もちろん融雪が促進されてしまい,高 地型のものは渓谷に造られるため,降雨の際には水が 入り込んでくるなどの問題がある.また,実質溜めら れた雪が,平地型ではどれくらいまで融雪を長引かせ
ミミノベり面爵
ごミミ\
賦§ミ、
、、
すべり面
謎
(a)表層なだれ (b)全層なだれ Fig。6 Classification in snowslide2).
高まれば,降雨等により雪自身の強度が低下し,当然 雪ダム内では,表層雪崩が生じることは避けられない 状態になる.動き始めた雪崩は,破壊的な衝撃力をもっ て流動し,下端に設置した防護設備に集中することに
なる.
ここで問題は,果たして本当にこの雪崩を防護設備 だけで止められるかという危険性である.これについ ては,高地型でも同様のことがいえ,いずれにせよ,
雪ダム内の雪崩の発生を避けることはできず,雪崩が 起きる以上,現段階では常に危険が伴っていることを 考慮しなくてはならない.
さらに,雪ダムのまわりでは,当然冷気候となる恐 れがあり,特に民家や農地に与える環境影響について の懸念も生じるため,雪ダムを設置する場所の選定に ついては,充分に検討がなされなければならない.
4.2 人工氷河や氷山利用の問題
人工氷河は,雪崩などによる集積操作によって,冬 には溜る量を増やし,夏には融解を抑制して解ける量 を減らし,雪渓を氷河まで成長させるものであるが,
実現させるとなると問題点も多い.
人工氷河を建設するとなると,氷河が水資源として 利用できるぐらいの大きさに成長するまで長い年月を 必要とする.また,そこまで成長する過程の管理も相 当なものである.費用も通常のダムを建設するよりも 多額の費用が必要となってくる.
建設上の技術面の問題だけでなく,人工氷河が完成 した後の問題もある.万年氷河が建設されることに よって,その周辺の年平均気温が低下し,生態系に悪 影響を及ぼすことが懸念される.また,常時氷に覆わ れる地域は,土中の水分が凍結し,体積増加をするこ とによって,地表面を隆起させる凍上現象や,凍結膨 張圧が発生し,道路面を押し上げ亀裂が生じたり,鉄 道の線路を押し上げるなど凍上害が生じる危険性があ
る.
氷山を利用する場合にも,問題が生じる.極地方よ り氷山を船で運ぶ場合,その積み込む作業が大変であ る.これには,Fig.7に示すように氷山の真下に運搬船 を沈め,自力排水し浮上させる方法7)が考えられる.航 行中は,この運搬船は水平になっていなければならな いため,水平に浮上させるのにかなりの技術が必要に なってくる.また,仮に水平に浮上させることができ たとしても,・航行の途中,気温と湿度の上昇や暖かい 強風に出会うことによって,氷山の一部が解けて形が 変わり重心がずれて,運搬船が傾き氷山がずり落ちた り,運搬船が転覆する危険がある.これより,氷山を できるだけ解けない方法で運ぶ技術も要求される.ま
Fig.7 Amethod for boarding an iceberg7).
た,氷山を持って来ることができたとしても,水資源 として使用する場合には,単位体積当たりの氷にか かった運搬費は,家庭の水道料金の数百倍も高くなる.
このように,氷を水資源として利用する場合には,か なりの不都合な面がある.
4.3 地下水利用の障害
井戸によって地下水を直接汲み上げる場合には,地 下水の塩水化,地盤沈下,地下水位の低下などの障害 を生じる.地下水の塩水化は,海岸近くで水を過剰に 汲み上げる場合に生じやすい(Fig.8).地下水は一度 塩水に浸されれば,再び淡水に回復することは困難で
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大阪平野 播磨平野
〃
総点慧一
高知・ド野
八戸地区 淵路平野
気仙沼地区 石巻地区 仙白平野
川崎地区 平塚・罪ヶ崎地区 沼磁・三島地区
籍士地区 静湯地区 大井叫下流 中遠地区 酉遠地区 豊橋平野
Fig.8 Distribution of area of salted under−
ground water in Japan3).
凡 例
●
○
4cm/年以上沈下した地域 1cm/年以上沈下した地域
●
石狩平野
青森平野 八声
o 象潟・金浦 山形盆地 新潟平野 譜魚函召・誤 高田平野 金沢平野
D 諏訪盆地 鳥取平野 ρ
筑後・
ム む
巳 Gd熊本平野 宮崎平野
。剋・1
● 仙台・塩釜
豊僑平野
岡崎、F堅 濃尾平野
関東平野 九十ノし里
藁
薦、
oσ
∵冨
Fig.9 Distribution of Japan3).
へ「平 野
・…7
orこ ギ
subsidence area in
あり,付近の農作物に多大の損害を与える恐れ3)があ
る.
また近年,高度経済成長期の工業用水の地下水過剰 取水によって,:地盤沈下が問題となったため,地下水 汲み上げの規制が行われているが,依然として地盤沈 下が進行しているところがある(Fig.9).地盤沈下はき わめて広範囲に被害を及ぼすため,大きな社会問題と
なっている.
さらに,トリクロロエチレンなどによる地下水汚染 に対して,飲用水の安全性の確保が問題3)となってい る.地下ダムにより地下水を貯留し汲み上げる場合に は,過剰に汲み上げれば,やはり地盤沈下という障害 が生じる.また,地下ダムが地表から1mより浅くな れば,土壌が湿潤化して作物等に悪影響を与えるばか
りでなく,軟弱地盤化により地上の建物に大きな被害 を与える恐れ8)もある.
また,地下ダムは地下に造られることは言うまでも ないが,そのため滞水層の分布と状況,地下水量の推 定と地下水質の把握などについて,正確に知ることは 容易ではない.
すなわち,地下水利用の全てに関して,地下という 点から,いろいろな情報を目で確認することができな いことが,やはり一番の問題である.
4.4 雪・氷・地下水の利用法,問題点のまとめ 以上述べた雪・氷・地下水の利用法や問題点を Table 2にマトリックスとして示す.
5.雪と地下水の利用の提言
前章で,水資源として雪・氷・地下水を利用するた め,現在考察されている方法や現状及び問題点などに ついて述べてきた.ここでは以上の点を踏まえて,こ れらの水資源を有効に利用すべく,雪解け水と海岸湧 出水の利用法,並びに水資源を探査する方法について 提言する.
5.1 雪解け水と海岸湧出地下水の利用
我が国の水需要は,年々増加の一途をたどっており,
Table 2 Methods for utilization of various water resources and their problems.
水資源 利用法 問題点
雪 雪ダム
・長期間の融雪の抑制は可能か E雪崩の発生の危険性 E周囲の微気候に影響を与える
氷
人工氷河
黶@ 一 一 冒 一 一 一 一 一 } 開 一 一 一 一
@ 氷 山
・人工氷河が成長するまで長い年月を要する E多額の費用がかかる
E周囲の微気候に影響を与える
@の水平浮上など)
E氷山運搬航海中の氷山解凍による運搬船の重心移動 Eコストが高い
地下水 直接汲み上げ
@地下ダム
・地下水の塩水化 E地盤沈下 E地下水位の低下
Eトリクロロエチレン等による地下水汚染 E土壌の湿潤化(特に地下ダムの場合)
水資源の現状から将来水不足の深刻化が懸念されるこ とは言うまでもない.そのため,将来の水需要を満足 すべく解決策について検討することは,今や我々に
とって重要な課題となっていると言えよう.
そこで本報では,水資源として雪・氷・地下水の利 用に注目してきたわけであるが,前章でも述べたよう に,いろいろと問題が残る.
これらの問題を考慮し提言したいのは,雪の利用に ついては,雪を固相のまま溜めるのではなく.冬の問 に積もった雪が春になって徐々に融けて川に流れ出し,
海へ流れ込む雪解け水に着目し,さらに地下水の利用 については,雨水が地下に浸透し,海岸付近で被圧地 下水として自噴する海岸湧出水地下などに着目して,
それぞれ河口付近や湧出地点での取水する方法が効果 的であると考えられる.
また雪解け水は,地表を通って直接川に流れ込むだ けでなく,雨水と同様に地下に浸透して地下水となり,
海岸湧出水となる場合もある.さらにこの雪解け水は,
雪が大量に融ける春の時にだけあるわけではなく,冬 の間に積雪の下面が地中からの熱により融けている.
これらの水資源をさらに有効に利用するために,水 資源海上備蓄構想10)・11L12)も提言したい.これは,いわ ば広大な海を水資源の備蓄基地として活用しようとい うもので,コスト的にも十分成算あると思われ,実現 できれば我が国だけでなく,全世界の水不足に貢献で
きると期待される.
5.2 探査方法
この水資源の提言においては,海岸湧出地下水ある いは雪解け水が海洋へどの様に流出・拡散しているか を知り,海上備蓄基地の建設候補地を選定する必要が ある.その手法として本報では,人工衛星によるリモー トセンシングを用いる方法10)・11)・13)が有望と考える.リ モートセンシングとは,地表の物質から生ずる電磁波 の反射・放射の現象を利用して,高空から地表の様子 を広域にわたって探査する技術で,海水表面温度など も調査することができる.
一般に,海水の温度が季節毎に変化するのに対して,
地下水は年間を通じてほぼ一定温度を保っていること が知られている.また,雪解け水や海岸湧出水は淡水 のため,海水よりも密度が小さいことから海面に浮上 する.したがって,Fig.10に示すように一度に広:域の 海水表面温度をとらえることができる人工衛星による
リモートセンシング技術によって,海岸からの湧出地 点や雪解け水の流出状況を知ることができるのである.
人工衛星
釜
周囲より低温(夏期)
又は高温(冬期)
〜細鱗; 鴨1箋.
灘欝灘霧
鐡野曝難麗騰
ん 湧出地下水
水中TVカメラ
綴灘灘慰籍撫
Fig.10 A method for detection of submarine springs by Remote Sensingll).
6.水資源の海上備蓄 6.1 海上備蓄の方法
海岸湧出地下水と雪解け水の海上備蓄の方法12)は,
Fig.11に示すとおりである.海上備蓄には取水口,取 水パイプ(送水パイプ),揚水ポンプ及び備蓄船があれ
ばよく,設備は至って簡単である.
海岸湧出地下水の場合には(Fig.11(a)参照),地下水 が海岸付近の海底から湧出している箇所をリモートセ ンシングによって探し出し,そこに取水口を設けて取 水し備蓄すればよい.
雪解け水の場合には(Fig.11(b)参照),取水口の位置 として図の3通りが考えられる.①は河口,②は河口 に近い海,③は河川下流部である.①は雪解け水が潮 流その他の影響で海中に広く拡散する場合に適してお り,②は雪解け水の海中拡散がさほどでない場合に適 用される.③は下流部にダムが造れる余地のある場合 であるが,必ずしもダムを造る必要はない.
いずれの場合においても,備蓄船は移動できるもの とするため,動力のある船(自航船)そのものがよい が,ハシケのように他力で曳航されるようなものにし てもよい.
6.2 海上備蓄の利点
水資源の海上備蓄には,次の利点12)が挙げられる.
(1)海岸湧出地下水を利用する場合には,地下ダムの 場合のように,陸上で地下水の自得を求めダムの築 造地点を選定するいわゆる適地選定に困らない.
(2)地下水でも海岸から湧出する地下水を利用するた め,陸上で地下水を汲み上げた際によく起こる地盤
、地下永
、、、
」、
取水口 陸側 ・
×\襲朗ブ
\こ\
[
備蓄船
(a)海岸湧出地下水の場合
河川兆
〆x
.①x 陸側 取水口
∠ 〉ぐ② □
その他の利用法として,海の表層部の温水と備蓄水
(雪解け水)の冷水との温度差による「海洋温度差発 電」と,海水と備蓄水(淡水に近い)による濃度差エ ネルギーを電気エネルギーに変換する「海洋濃度差発 電」が考えられる.
7.おわりに
今後の水需要の増大は,昭和40年代ほどの高い伸び はないものの,少しずつ確実に増加することは間違い ない.そのため,水資源の開発,保全及び安定して利 用できるための技術開発並びに制度等の調査研究をさ
らに実施する必要がある.
ここで述べた水資源の利用法は,一例に過ぎないが,
この一例においてもまだまだ改良・改善の余地がある と思われる.そのためにも個々の水資源開発施設等を 情報ネットワークで結び,水資源開発全体で総合的に カバー仕合いながら,管理技術や施設の整備を進める ことが重要である.雪・氷・地下水など身近にある水 資源を100%利用できていないことは,今後の開発に大
きな意欲を涌かすことと信じている.
♂
取水バイブ
〔]購船 [コ
(b)雪解け水の場合
Fig.11 Methods for reserving water resources on the sea12).
沈下の問題が全くない.
(3)海上に備蓄する物質は水であるので,石油備蓄で 心配されている海洋汚染の恐れが全くない.
(4)水資源の海上備蓄では備蓄船を大量に必要とする ため,今日の日本が直面している問題の一つ「造船 不況」を緩和しうる効果もある.
6.3 海上備蓄水の利用
海上備蓄された水資源は,海水と混じり塩分を含ん でいるため,生活用水や工業用水,農業用水などに利 用するには淡水化の必要がある.その方法としてはい ろいろあるが,我が国並びに各国では,逆浸透法がま すます利用されるすう勢にある.この方法は,地下水 や雪解け水に塩分が混じり合わない方が淡水化の効率 はよく,雪解け水の取水口の位置でいえば河川下流部,
河口,河口に近い海の順に望ましい.さらに逆浸透法 による淡水化は,施設は簡単,造水原価も安いなどの 利点がある.
参考文献
1)国土庁長官官房水資源部: 85水資源便覧,山海 堂,p.3,1985.6.
2)木下誠一:雪と氷のはなし,技報堂出版,p.257,
pp.107〜124, 1988.1.
3)国土庁長官官房水資源部:日本の水資源(昭和62 年版水資源白書),大蔵省印刷局,pp.10〜17, pp.
34〜39, pp.79〜82, pp.94〜97, pp.128〜133,
1987。8.
4)国土庁長官官房水資源部:全国総合水資源計画 (ウォータープラン 2000),大蔵省印刷局,pp.
7〜24, 1987.10.
5)中村靖治:雪ダムのはなし,土木施工,Vo1.28,
No.9, pp.18〜27, pp.42〜47,1987.8.
6)樋口敬二:人工氷河の技術論,季利大林,No.15,
pp.5〜12, pp.15〜16. 1983. 8.
7)近藤純正:夢氷山(氷山を日本に運ぶプロジェク ト),東北大学生活協同組合,pp.11〜27..1987.
6.
8)石崎勝義:地下ダムと地下水かん養,土と基礎,
Vol.31, No.3, pp.5〜9,1984.3.
9)大林組:地下ダム(パンフレット),1984.3.
10)後藤恵之輔:雪解け水の海上備蓄について,第4 回雪工学シンポジウム論文集,pp.39〜46,1988.
1.
11)後藤恵之輔・森 正寿:衛星リモートセンシング による水資源の探査と海上備蓄,Proc.3rd Symp.
MOS・1 Verification Program(MVP), pp.1 −557〜1−571, 1989.3.
12)後藤恵之輔:水資源海上備蓄構想,海洋開発論文
集,Vol.4, pp.255〜258,1988.11.
13)後藤恵之輔・藤田 徹・川内清明・森 正寿:ラ ンドサットTMデータを用いた海岸湧出地下水 の遠隔探査,同上,Vol.4, pp.249〜254.