は じ め に
急性膿胸,および肺炎随伴性胸水(Parapneumonic pleuraleffusion:PPE)に対する治療は,適切な抗生 剤の投与とともに早期の胸腔ドレナージが重要である.
時期を逸すると胸腔内が多房化する線維素膿性期に移 行し,チューブドレナージのみでは治癒は困難となり,
線維素溶解療法や外科治療を考慮しなければならない.
線維素溶解療法は,胸腔内にストレプトキナーゼや ウロキナーゼなどの線溶系薬剤を注入し,多房化した 胸腔内を単房化することにより胸水の排液を促す治療 である.
今回われわれは,無瘻性の急性膿胸およびPPEに対
してチューブドレナージした後,ウロキナーゼを胸腔 内に注入することにより手術を回避できた例を経験し たので,若干の文献的考察を加えて報告する.
対象と方法
2008年5月から2009年5月までに仙北組合総合病院 においてウロキナーゼによる胸腔内注入を行った無瘻 性膿胸およびPPE(ACCPcategory3,4)5例を対象 とした(Table1)1).なお対象は発症からウロキナーゼ 投与までの期間が1ヵ月以内のものとし,長年経過し 発症時期が不明な症例や結核性のもの,術後に発症し た症例は除外した.方法は,シングルもしくはダブル ルーメン・トロッカーカテーテルを胸腔内に挿入して 持続吸引を行い(-10~20cmH2O),可能な限り排液 させ肺の拡張を図る.ドレナージを開始した翌日の胸 部単純X線で,肺の拡張が得られず透過性が低下して いれば,胸腔内が多房性である証拠でありウロキナー 症 例
膿胸および肺炎随伴性胸水に対するウロキナーゼ 胸腔内注入療法の検討
中川 拓
*1,今野 隼人
*1,佐々木智彦
*1,大山 倫男
*1伊藤 学
*2,齋藤 元
*2,南谷 佳弘
*2小川 純一
*2要 旨
フィブリンの析出のためにドレナージが困難となった急性膿胸および肺炎随伴性胸水に対して,胸腔鏡下の手術奏 功例が多数報告されているが,全身状態が不良で手術困難な場合も少なくない.このような症例に対してウロキナー ゼの胸腔内投与の有用性が報告されている.しかし標準的な投与方法は確立していない.当科でウロキナーゼの投与 を行った急性膿胸および肺炎随伴性胸水5例を対象に,ウロキナーゼ投与方法,治療期間,効果を中心にretrospective に検討した.全例で多房性胸水を認めていた.4例は発症後1~16日の経過で,ウロキナーゼ投与(1回12万単位,
6~9回投与)のみで肺の良好な再膨張が見られた.ウロキナーゼ注入に加えて外科治療を要した1例は,発症から 1ヵ月経過した膿胸で,手術後治癒した.出血などの合併症はなかった.ウロキナーゼの胸腔内投与は簡便であり大 きな合併症もなく,poorrisk症例に対して考慮すべき治療法と思われた.
索引用語:膿胸,肺炎随伴性胸水,ウロキナーゼ,線維素溶解療法
empyema,parapneumonicpleuraleffusion,urokinase,fibrinolytics
*1仙北組合総合病院 呼吸器外科
*2秋田大学医学部外科学講座 呼吸器外科学分野 原稿受付 2009年10月28日
原稿採択 2010年1月18日
ゼ注入の良い適応である.翌日以降,ドレーンからウ ロキナーゼ12万単位を生理食塩水100mlに溶解して 注入し,約3時間クランプしたのち開放し持続吸引を 行う.注入は3日間連続1日1回を1コースとし,最 長3コースまで行った.治療効果は,胸部単純X線,
CT撮影を行い,肺の再膨張の程度で判定した.胸腔 ドレーンは徐々に浅くし,場合によりネラトンカテー テルに入れ替え菌の陰性化を確認してから抜去した.
なおウロキナーゼを中止する判断基準は,①画像によ る肺の再膨張の確認,②ウロキナーゼを投与しても排 液の増量がない,の2点である.全症例に抗菌薬の点 滴を4~7日間行った.なお全例でウロキナーゼ注入 の同意を得た.
結 果
年齢は53~85(平均72±13)歳,男性2例,女性3 例であった.内訳は肺炎後4例,気胸に伴うもの1例 であった.5例中1例は発症後から1ヵ月経過してい たが,4例は1~16日の経過であった.全例胸水内に 細菌を認めた(Table1).注入回数は3~9回(平均 6±2回)で,チューブドレナージ期間は12~35日(平 均22±12日)であった.ウロキナーゼ注入に加えて外
科治療を要した症例は発症から1ヵ月経過した肺炎後 膿胸の1例で,手術後治癒した.残りの4例(80%)
はウロキナーゼ注入のみで肺の良好な再膨張が得られ た.ウロキナーゼ注入のみで治癒した4例は,解熱ま での期間は5~16日(平均12±5日)で,白血球数の 正常化までの期間は7~13日(平均12±4日)であっ た.出血などの重篤な合併症はなかった.
症例1:85歳,女性(Fig.1).発熱,咳嗽,食欲不 振のため動けなくなり他医を受診,肺炎として加療さ れた.抗生剤投与を受けたが炎症所見が改善せず,胸 部X線で左胸水の著明な増加を認め,発症後2週間目 に当科へ紹介された.ACCPcategory4の急性膿胸と 診断,胸水からStreptococcusc-haemolyticusが同定 された.チューブドレナージを施行し,ウロキナーゼ の注入を2コース施行し治癒した.
症例2:79歳,男性(Fig.2).他医でうっ血性心不 全にて入院加療を受けていたが,右胸水貯留と気胸を 認め当科へ紹介された.右気胸を伴う癌性胸膜炎の診 断で,チューブドレナージを施行したが,12日目に発 熱あり,胸水からMSSAが同定されACCPcategory3 のPPEと診断した.なおドレナージ中にエアリーク を認めなかった.ウロキナーゼの注入を3コース施行
sp.
constellatus a-haemolyticus
MSSA c-haemolyticus
Bacteriainthoraciceffusion
30d 1d
16d 12d
15d PeriodofdiseaseonsettoUI
3d 6d
6d 9d
6d PeriodofUI
18d* 15d
5d 12d
16d PeriodoffeverafterUI
18d* 17d
7d 10d
13d PeriodofinflammationafterUI
13d 17d
12d 35d
35d Periodofdrainage
-
-
-
-
- Complication
- Yes
-
-
- Surgicaltreatment
WBC:Whitebloodcells,CRP:C-reactiveprotein,UI:Urokinaseinstillation,Complication:ComplicationduetoUI,* Uptosurgicaltreatment.
し治癒した.
症例3:53歳,女性(Fig.3).発熱,胸痛のため近 医を受診し,右胸水貯留にて発症後2週間目に当科へ 紹介された.ACCPcategory3のPPEと診断,胸水か らStreptococcusa-haemolyticusが同定された.元気 な方で外科治療を薦めたが強く保存的治療を望んだた め,ウロキナーゼの注入を2コース施行し治癒した.
症例4:63歳,男性(Fig.4).脳梗塞後遺症で施設 入所中,発熱,胸痛で近医を受診し,肺炎,左胸水貯 留にて当科へ紹介された.ACCPcategory3のPPEと
診断,胸水からStreptococcusConstellatusが同定され た.ウロキナーゼ注入を2コース施行し治癒した.
症例5:78歳,女性(Fig.5).認知症,慢性気管支 炎で近医加療中,発熱,食欲不振,寝たきりとなり,
近医を受診,右胸水貯留にて発症後1ヵ月目に当科へ 紹介された.ACCPcategory4の急性膿胸と診断,胸 水からPorphyromonassp.が同定された.ウロキナー ゼ注入を1コース施行し,一旦抜管したが,その後再 び39度台に発熱した.CTを施行したところ右胸腔下 Fig.1 85y/o female.(a)ChestCT shows left
thoracicempyemawithmultipleloculations beforeurokinaseinjection.(b)Leftpleural fluid decreased and the leftlung fully expanded afterlavages.(c)Chestradio- graph shows leftpleuraleffusion before urokinaseinjection.(d)Afterlavages.
(a)
(b)
(c)
(d)
方背側にfluidcollectionを認め(Fig.5b),穿刺にて 膿胸再燃と診断した.ドレナージ期間内に炎症は改善 し,経口摂取が可能となって栄養状態も改善し,発症 後45日目に一期的に醸膿胸膜切除,広背筋弁充填を行 い得た.術後合併症なく順調に経過した.
考 察
膿胸は「胸腔内に膿が貯留すること」と定義され,
原因として最も多いのは肺感染症である.PPEは化膿 性肺実質疾患に伴うすべての胸水で,肺炎の57%に認 められ1),胸腔ドレナージで改善されない PPEは complicated PPEと 定 義 さ れ て い る2).ACCP
(AmericanCollegeofChestPhysicians)consensus guideline(2000)では,胸水の広がり,細菌培養,胸 水 pHに よ り category分 類 を 行 い,category3が complicatedPPE,category4は膿胸に相当する1).
急性膿胸治療の原則は,適切な抗生剤の投与,胸腔 ド レ ナ ー ジ の 早 期 適 応 で あ る.多 房 化 を 伴 う Fig.2 79y/omale.(a)Beforeurokinaseinjection.
(b) After lavages.(c) Before urokinase injection.(d)Afterlavages.
(a)
(b)
(c)
(d)
complicatedPPEではチューブドレナージの効率が悪 くなり,線維素溶解療法や外科治療(VATSまたは開胸 ドレナージ)を考慮しなければならない.膿胸が慢性 期に入ると厚いPeelを形成し,肺剥離術や開窓術など が必要となる.
急 性 膿 胸 の 線 維 素 膿 性 期 に 対 し,胸 腔 鏡 下 の debridementとドレナージ奏功例が多数報告されてい る3-8).しかし全身状態が不良で手術困難な場合も少 なくない.このような例に対してウロキナーゼの胸腔 内注入を行い,手術を回避できた症例も散見され る9-11).ACCPのガイドラインでも線維素溶解療法は,
VATS,開胸手術と並んでcategory3,4の膿胸症例に 対して推奨されているが1),本剤の有用性を示した大 規模な比較研究はない.Misthosらは胸腔ドレナージ 単独群と線維素溶解療法を加えた群の無作為比較試験 で,線維素溶解療法の有用性を示している12).また Waitらは,線維素溶解療法を伴う胸腔ドレナージ群と
VATS群の無作為比較試験で,VATSの有用性を示して いるが,標準治療として確立するには症例数が少な い13).
線維素溶解療法の目的は,フィブリンによる隔壁を 溶かすことにより,ドレナージの効率を高め,死腔を 減らして肺の拡張を得ることにある.線溶系薬剤とし てウロキナーゼとストレプトキナーゼの2種類がある が,前者は保険適応が無く,後者は製造中止となって いる.ウロキナーゼは,プラスミノーゲンをプラスミ ン に 活 性 化 す る プ ラ ス ミ ノ ー ゲ ン 活 性 化 因 子
(plasminogenactivator:PA)であり,プラスミンは Fig.3 53y/ofemale.(a)Beforeurokinaseinjec-
tion.(b)Afterlavages.(c)Beforeurokinase injection.(d)Afterlavages.
(a)
(b)
(c)
(d)
フィブリン分解作用をもつ.膿胸では胸腔内でPAI
(plasminogenactivatorinhibitor)-1,PAI-2により,
PAが不活化しているためフィブリンが形成されやす く,ウロキナーゼを胸腔内に投与することにより,
フィブリンが分解され,ドレナージをより有効にす る14).
超音波やCTで隔壁を認めた症例に胸腔ドレナージ を施行しても肺の拡張は不十分であることが多い.し かしウロキナーゼを胸腔内に注入すると,隔壁を形成 するフィブリンが溶解し,再びドレナージが良好とな る.このような症例ではウロキナーゼの初回投与で排 液の増量が見られ,1~3コース行うことにより,
徐々に胸腔内のフィブリン隔壁が溶解して死腔が減少 し,排液は漸減する.線維素溶解療法不成功例は投与 初期から排液の増量が見られない例である.これは線 維素性膿胸ではなく器質化期に移行しているためと思 われる.このような症例では白血球やCRPの正常化,
胸水中の菌陰性化などの炎症所見の改善が得られても,
肺が拡張できずに死腔が残存して膿胸が再燃してくる ため,外科治療を考慮しなければならない.
ウロキナーゼの胸腔内投与量や投与期間に関しては 標準的な投与法は確立していない.当科では12万単位 のウロキナーゼ投与を行ったが,6万単位でも十分な 効果が得られたと報告されおり9),投与量や投与期間 などは今後の検討課題である.小林らの線維素性膿胸 7症例のまとめでは,発症2週間以内にウロキナーゼ 1回6万単位を連日または隔日で平均2.4回投与した 結果,全例で良好なドレナージが可能であったと報告 Fig.4 63y/omale.(a)Beforeurokinaseinjection.
(b)Afterlavages.(c)Beforeurokinaseinjec- tion.(d)Afterlavages.
(a)
(b)
(c)
(d)
している9).一方,発症から3週間~3ヵ月経過した 症例では,18~125万単位の投与を行っても効果が不 十分であったとの報告があり11),ウロキナーゼによる 線維素溶解療法の鍵は,膿胸発症から投与開始までの 期間に依存すると考えられる.
ウロキナーゼによる線維素溶解療法の欠点は出血を きたしうることである.しかし治療後出血した報告例 はなく,高齢者や全身状態不良例に対しても問題とな ることはほとんどないと思われる.しかしながら肺葉 切除術後早期の急性膿胸では出血の危険があるため禁 忌と考えている.このような症例では,早期に胸腔鏡
下洗浄を行い,適切なドレーン留置後,生食洗浄と持 続吸引を行うことにしている.
我々の症例では,最初の4症例は,発症から1~16 日でウロキナーゼを投与され治癒している.また総ド レナージ期間は12~35日(平均22日)であり,比較的 長期間のドレナージとなっているが,ドレナージに伴 い炎症所見は速やかに改善し,経口摂取による栄養の 改善と呼吸リハビリの併用で,全例独歩退院した.発 症からウロキナーゼ投与まで30日を要した症例5のみ 膿胸が再燃し,外科治療を要した.これは器質化期に 移行しており,溶解不能な線維化をきたしたためと考 えられた.しかし手術時には全身状態は改善しており,
一期的に根治術を行うことができ,線維素溶解療法に Fig.5 78y/ofemale.(a)Beforeurokinaseinjec-
tion.(b)Afterlavages.(c)Beforeurokinase injection.(d)Afterlavages.
(a)
(b)
(c)
(d)
evidence-basedguideline.Chest2000;118:1158-71.
2.LightRW.Parapneumoniceffusionsandempyema.Proc Am ThoracSoc2006;3:75-80.
3.HutterJA,HarariD,BraimbridgeMV.Themanagement ofempyemathoracisbythoracoscopyandirrigation.Ann ThoracSurg1985;39:517-20.
4.RidleyPD,BraimbridgeMV.Thoracoscopicdebridement andpleuralirrigationinthemanagementofempyema thoracis.AnnThoracSurg1991;51:461-4.
5.StriffelerH,GuggerM,Im HofV,CernyA,FurrerM,Ris HB.Video-assistedthoracoscopicsurgeryforfibrinopuru- lentpleuralempyemain67patients.AnnThoracSurg 1998;65:319-23.
6.Cassina PC,HauserM,Hillejan L,Greschuchna D, StamatisG.Video-assistedthoracoscopyinthetreatment of pleural empyema: stage-based management and outcome.JThoracCardiovascSurg1999;117:234-8.
7.AngelilloMackinlayTA,LyonsGA,ChimondeguyDJ,
inthetreatmentofcomplicatedparapneumoniceffusions andempyema.Arandomized,double-blindstudy.Am J RespirCritCareMed1999;159:37-42.
11.Pollak JS,Passik CS.Intrapleuralurokinase in the treatmentofloculatedpleuraleffusions.Chest1994;105: 868-73.
12.MisthosP,SepsasE,KonstantinouM,AthanassiadiK, SkottisI,LiouliasA.Earlyuseofintrapleuralfibrinolytics in the managementofpostpneumonic empyema.A prospectivestudy.EurJCardiothoracSurg2005;28:599- 603.
13.Wait MA,Sharma S,Hohn J,DalNogare A.A randomizedtrialofempyematherapy.Chest1997;111: 1548-51.
14.Philip-JoëtF,AlessiMC,Philip-JoëtC,etal.Fibrinolytic and inflammatory processesin pleuraleffusions.Eur RespirJ1995;8:1352-6.
Intracavitaryinstillationofurokinaseforempyema andparapneumonicpleuraleffusion
TakuNakagawa*1,HayatoKonno*1,TomohikoSasaki*1 NorioOyama*1,ManabuIto*2,HajimeSaito*2
YoshihiroMinamiya*2,JunichiOgawa*2
*1DepartmentofGeneralThoracicSurgery,SenbokuKumiaiGeneralHospital,Akita,Japan
*2DepartmentofGeneralThoracicSurgery,AkitaUniversitySchoolofMedicine,Akita,Japan
Somereportshaveshown thatthoracoscopicsurgeryforfibrinopurulentempyemawith multiloculation and fibrinousandviscousfluidoftenleadstocompletedrainage.However,somepatientscannotundergosurgical treatmentbecauseoftheirpoorcondition.Somepapershaveindicatedthattheintracavitaryinstillationofurokinaseis ausefulmethodforthesecases.However,thishasnotbeeninvestigatedsufficientlytobecomeastandardmethod.In thispaper,wereportfivepatientswhounderwenttheintracavitaryinstillationofurokinaseforfibrinopurulent empyema.Allpatientsshowedempyemawithmultiloculatedempyemicfluidandpleuralthickening.Fourofthefive patientscouldachievethereliefoffluidaccumulationafterurokinaseinstillation(120,000IUX6-9times).Theother patientrecoveredaftertheinstillationofurokinasefollowedbysurgicaltreatment.Theintracavitaryinstillationof urokinasewasperformed1-16daysaftertheonsetofempyemaintheformer4patients,andonemonthafterinthe latterone.Allpatientsrecoveredwithoutmajorcomplications.Thisproceduremightbeusefulforthetreatmentof fibrinopurulentempyemainhigh-riskpatients.