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担 保 保 存 義 務 に 関 す る 一 考 察     ︱

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(1)

担 保 保 存 義 務 に 関 す る 一 考 察     ︱

沿革的

比較法的考察

︶ ︱

辻   博 明

 ︵

 ︵

  ︵

六七

(2)

 ︵

五  スイス債務法

旧法における議論の概要

義務の位置付け範囲︑要件効果︑共同保証をめぐる問題   日本民法五〇四条の立法過程において︑旧スイス債務法における債権者の注意義務に関する規定が参照されている︒以下では︑一八八三年法と一九一一年法とを対比しつつ︑一九一一年法における議論の概要を中心に分析することにする︒

義務の位置付け範囲

  スイス債務法五〇九条一項

一九一一年法

は︑

債権者は︑保証人に対して︑保証の引受の際に存在した他の担 六八

(3)

保︑またはその後に獲得されかつ専ら

ausschließlich

被保証債権のための他の担保を保証人の不利益に減少させる場合︑またはその有する証拠資料を放棄する場合︑責めを負う︒

とし︑同条二項は︑

債権者は︑官吏その他の身元保証

Amts- oder Dienstbürgschaft

において︑監督義務を負う債務者の監督を怠ったことにより︑債務が発生した場合︑または監督を怠らなければ生じなかった範囲に及んだ場合︑責めを負う︒

と規定した︒

  債権者は保証人に対して

一般的

注意義務を負うかについては争いのあったところであるが︑スイス債務法には債権者の一般的注意義務に関する規定はなく︑右五〇九条からも導き出されない︒債権者が一般的注意義務を課され主たる債務者を監督し続けなければならないとすれば︑保証の実務上の価値が著しく低下する

傍線筆者︑以下同様︒

︒したがって︑不法行為となる場合には債権者が損害賠償責任を負うことがあるが︑原則として︑債権者は主たる債務者の資力について保証人に対して説明する義務はなく︑主たる債務者の資力の悪化について調査する義務もなく︑またその状況を通知する義務もないとされた︒ただし︑保証人が分かっていれば保証契約を締結しないと思われる事情を︑債権者が故意に知らせなかった場合には︑詐欺による取消が認められるとする判例がある 1

︒また︑債権者と保証人間においても

信義則

の適用があるとされ︑判例は信義則に基づく保証人の免責を認める︒たとえば︑諸般の事情から︑保証の引受に際して︑債権者と保証人との間に︑主たる債務者によって約された担保設定について配慮する旨の黙示の合意があると解される場合に︑債権者がその担保の設定を怠ったときは︑担保が設定されていたならば回収されえた範囲において保証人は免責されるとした 2

︒なお︑当事者間の契約によって︑債権者に主たる債務者に対する一般的監督義務等を課すことはできるとされた 3

  官吏その他の身元保証

Amts- oder Dienstbürgschaft

をめぐる債権者の監督義務は︑判例によって実務上認められていたが︑五〇九条二項が追加され明文規定が置かれた︒もっとも︑当初の立法草案においては︑

官吏その他の身元保証において

という文言は見られず︑したがって︑債権者の監督義務は身元保証に限定されていなかった

六九

(4)

九〇五年草案︵Bundesrat︶および一九〇九年草案︵Nationalrat︶ 4

︒しかしその後︑債権者の監督義務は身元保証に特有のものであるとして︑身元保証に限定する文言が同条二項に挿入された︒Bundesrat と Nationalrat は︑実務上の見解をすべての保証に拡張しようとしたが︑そのような一般規定を置くことは行き過ぎであり問題を生じるとされた

一九一〇年草案︵Ständerat︶ 5

要      担保の存在

種類範囲     ⒜  担保の種類

非列挙方式   先述

のように︑債権者が責めを負うのは︑債権者が他の

担保

Sicherheiten

︶﹂

を保証人の不利益に減少させる場合である

スイス債務法五〇九条一項

︒同条一項においては︑担保の種類は個別に列挙されておらず︑Sicherheitenという概念を用いて包括的に規定されている︒このSicherheitenに該当する担保は︑動産

不動産担保権︑留置権︑所有権留保︑手形

主たる債務者以外の者の署名のある手形

︑共同保証人︑連帯債務者︑優先権等

に破産法上の優先権

︑信託による所有権の移転等であると解された 6

    ⒝  担保の設定者時的範囲

改正点一九一一年法

  先述

のように︑債権者が責めを負う担保は︑

保証の引受の際に存在した他の担保︑またはその後に獲得されかつ専ら

ausschließlich

被保証債権のための他の担保

とされる

スイス債務法五〇九条一項︵一九一一年法︶

︒これに対して︑改正前の一八八三年法においては︑

保証の引受の際に存在した他の担保︑または主たる債務者によってその後に獲得された他の担保

と規定されていた︒一九一一年法においては︑

主たる債務者によって

という文言が最終的に削除されている︒これによって︑保証の引受後に獲得された担保の設定者は︑主たる債務者に限定され 七〇

(5)

ないことになった︒しかしその一方で︑

専ら

ausschließlich

被保証債権のための他の担保

という文言が新たに挿入されている

︶7

︒これによって︑債権者の注意義務は︑保証の引受後に獲得された担保については︑被保証債権のためのみに設定された他の担保に限定された︒複数の債権

将来債権の担保を取り扱う金融実務に対応する内容である 8

    担保の減少損害

損害額︑帰責性︑不作為   次に︑債権者が他の担保を

減少

させたことを要する︒債権者が担保の全部または一部を放棄した場合や︑担保を無断で差し替えたような場合が︑担保の減少にあたる︒また︑担保の保全を怠るような債権者の不作為も︑担保の減少と解されうる︒もっとも︑主たる債務者が約した担保提供を債権者が受けなかったことは︑担保の放棄にはあたらない︒また︑債権者は︑著しく労力

費用を要する場合や危険をともなう場合には︑自ら行う義務を負わない︒その場合︑債権者は︑保証人にその費用

危険において訴訟追行等を行う機会を与えれば足りるとされる︒

  さらに︑債権者が他の担保を減少させたことによって︑保証人に

損害

が生じたことを要する︒担保の減少および損害の発生

額については︑保証人が証明責任を負う︒これに対して︑債権者は︑自らに過失がないと反論することができる︒損害の証明︑特に損害額の証明は容易でない︒その証明ができるのは︑保証人が債権者から支払請求を受けて弁済した後︑主たる債務者に対する求償が不成功に終わった時点であり︑多くの場合︑保証人が債権者から請求を受けた時点において証明することは困難であるとされる 9

    共同保証をめぐる問題

錯誤︑四九七条三項の特則   従来の実務によると︑保証人が他の保証人も責めを負うと信じて保証を引き受けたが︑実際にはそうでなかった場合︑

動機の錯誤

にとどまると解された︒他の保証人も責めを負うことが

条件

Bedingung

︶﹂

とされ契約内容となっている場合にのみ︑負担部分に応じた額について免責が認められた︒

七一

(6)

  これに対して︑スイス債務法

一九一一年法

は︑四九七条三項において︑共同保証人の免責規定を導入した 10

︒同条三項は︑

保証人が︑同一の主たる債務につき他の保証人も責めを負うという債権者に認識可能な前提

Voraussetzung

において︑保証を引き受けた場合︑保証人は︑この前提が生じないときは︑免責される︒

と規定する︒

  同条三項によると︑従来の実務とは異なり︑他の保証人が責めを負うことが

条件

のように明確にされていることを要しない︒同一の主たる債務について︑すでに他の保証人が責めを負っている︑またはさらに他の保証人が責めを負うであろうことが

前提

とされていれば足りる︒保証契約時に︑債権者がこのような前提を認識していたか︑または認識可能であることを要する︒他にも保証人が存在するという前提で保証の引受がなされているかは︑取引慣行に基づいて諸般の事情から判断される︒たとえば︑保証契約の証書が複数作成されていたという事実から︑他の保証人の存在を前提として保証したという

推定

がなされる︒他の保証人の数が示されていることまでは要しない︒同条三項における

前提が生じないとき

とは︑前提とされた他の保証人が保証契約の不成立

取消

免除等によって一人でも崩壊したとき︑差し替えた保証人の支払能力が十分であるとの証明がないとき︑連帯保証人が副保証人に変更されたとき等である︒このような前提において保証を引き受けたことの証明責任は︑保証人が負う︒同条三項は︑普通保証だけでなく︑連帯保証の場合にも適用がある︒なお︑同条三項の法理は︑質権等の担保の場合にも適用される 11

効 

効果の性質損害賠償免責)︑主張方法︑特約の可否

  五〇九条による効果は︑保証人の免責ではなく︑債権者の保証人に対する

損害賠償責任

である︒担保の減少等によって︑保証人が主たる債務者に対して求償することができなくなった場合︑保証人は︑その損害について賠 七二

(7)

償請求することができる︒保証人は︑債権者から請求を受けた場合︑

抗弁

として主張することができる︒もっとも︑保証人は担保の減少等の事実だけでなく︑損害額についても証明責任を負うため︑その証明は容易でない

先 述②

︒五〇九条一項は︑

任意規定

であると解されていた︒したがって︑保証人は︑その抗弁を事前に放棄することができるとされた︒しかし︑その放棄は︑一義的かつ明確になされなければならないとされ︑予め印刷された書式による広範に及ぶ放棄については疑問だとする指摘が見られた 12

  他方︑四九七条三項による効果は︑保証人の

免責

である

従来の判例は免責範囲を負担部分に制限していた

︒もっとも︑保証人は︑前提とされた他の保証人が崩壊した場合でも責めを負う旨の特約をすることができ︑その責任の範囲も合意することができると解された 13

整理検討   そこで以下では︑比較法的視点から整理

検討することにする︒   義務の

位置付け

﹂﹁

範囲

について︑債権者が保証人に対して一般的注意義務を負うかについては議論が見られたが︑原則として︑債権者は保証人に対して説明義務

調査義務

通知義務等を負わないとされた︒スイス債務法には債権者の一般的注意義務に関する規定がなく︑五〇九条からも導き出されないということがその理由とされるが︑債権者

金融機関等

に一般的注意義務が課されると保証の担保価値が著しく低下することが懸念されたためである︒しかしその一方で︑判例は︑債権者と保証人間においても

信義則

の適用があるとして︑信義則に基づく保証人の免責を認めている︒また︑特約によって︑債権者に一般的な注意義務を課すことが認められている︒さらに︑身元保証において︑債権者の監督義務が導入されている

五〇九条二項

︶︵

なお︑当初の立法草案においては︑

債権者の監督義務は身元保証に限定されていなかった

︶︵

先述①

七三

(8)

  第一

要件

である担保について︑スイス債務法五〇九条一項は︑担保の種類を個別

具体的に列挙する方式をとらず︑Sicherheiten という概念を用いて

包括的

に規定している

フランス民法・ドイツ民法との違い︵先述三⑶

②⒜︑四⑶②︶

︒担保の種類

外延について︑解釈によって柔軟に対応できるように考慮されている︒担保の設定者

時的範囲について︑変遷が見られる︒一九一一年法は︑保証の引受

に獲得された担保について︑その設定者を主たる債務者に限定していない

拡張

︶︵

これに対して︑一八八三年法においては︑﹁保証の引受の際に存在した他の担保︑または主たる債務者によってその後に獲得された他の担保﹂とされていた︒

︒しかしその一方で︑保証の引受後に獲得された担保について︑被保証債権のため

のみ

に設定された他の担保に限定しており

絞り込み

︑複数の担保を取り扱う金融実務の要望を考慮したものとされる

先述②⒝

︒次に︑第二要件である担保の

減少

について︑担保の保全を怠るような債権者の不作為も担保の減少と解されうるとされる

ドイツ民法との違い︵四⑶②︶

︒そして︑債権者による担保の減少によって︑保証人に

損害

が生じたことを要する︒保証人は︑担保の減少

損害

について証明責任を負うが︑損害額が分かるのは︑多くの場合︑主たる債務者に対する求償が不成功に終わった時点であり︑保証人が債権者から請求を受けたときに損害額を証明することは困難である︒特に︑連帯保証について問題となる︒

  スイス債務法五〇九条の

効果

は︑損害賠償請求権であるとされる︒保証人の免責︑すなわち保証債権の失効とは解されていない

フランス民法・ドイツ民法との違い︵先述三⑶③⒜︑四⑶③︶

︒同条の効果論は︑債権者の負う義務の性質論とも関係する︒同条の効果は︑債権者による担保の減少によって法律上当然に生ずるのではなく︑保証人の抗弁によるとされる︒もっとも︑同条一項は任意規定と解されており︑保証人は︑その抗弁を事前に放棄することができると解されていた︒しかしすでに︑その放棄は︑一義的かつ明確になされなければならないとされ︑約款等による包括的な放棄については疑問だとする指摘が見られた︒ 七四

(9)

  なお︑スイス債務法四九七条三項において︑共同保証人の免責規定が導入されている︒それまでの実務によると︑保証人が他の保証人も責めを負うと信じて保証を引き受けた場合でも︑

動機の錯誤

にとどまるとされた︒他の保証人も責めを負うことが

条件

とされ契約内容となっている場合には︑保証人の免責が認められたが︑免責範囲は負担部分に応じた額であった︒これに対して︑同条三項においては︑他の保証人が責めを負うことが条件とされていることを要しない︒同一債務に対する他の保証人の存在

期待が

前提

とされ︑保証契約時において︑その前提が債権者に認識可能であれば足り︑しかも︑諸般の事情から︑そのことが推定される︒同条三項の効果は︑保証人の

免責

である︒なお︑免責効果について特約が認められるとされ︑その責任の範囲も合意することができると解された︒

︵1︶BGE 57

BGE 48︵2︶ Ⅱ, 276.

Lerch-Tuason, a. a. O., S. 67 ; Tobler, a. a. O., SS. 133, 135‑136, 139 ; Oser, a. a. O., SS. 882‑883 ; Fick, a. a. O., ︵9︶ Tobler, a. a. O., SS. 128‑130 ; Fick, a. a. O., S. 996 ; Lerch-Tuason, a. a. O., S. 66 ; Oser, a. a. O., S. 882.︵8︶ Botsch. 05, S. 226 ; NatR, S. 701 ; StändeR, S. 231.︵7︶ 882 ; Funk, a. a. O., S. 336. Lerch-Tuason, a. a. O., SS. 65‑66 ; Tobler, a. a. O., SS. 123‑128 ; Fick, a. a. O., SS. 995‑996 ; Oser, a. a. O., S. ︵6︶ Stenographisches Bülletin der  Bundesversammlung, Ständerat, 1910, SS. 231‑232.︵5︶ stenographisches Bülletin der schweizerischen Bundesversammlung, Nationalrat, 1909, SS. 701, 718. Botschaft des Bundesrates an die Bundesversammlung (betr. OR) vom 3. März 1905, SS. 43, 226 ; Amtliches ︵4︶ Obligationenrechtes, 1923, SS. 335‑336. 1926, SS. 115‑121 ; Fick, Das schweizerische Obligationenrecht 1. Aufl., 1911, S. 998 ; Funk, Handkommentar des  1915, SS. 881‑883 ; Tobler, Der Schutz des Bürgen gegenüber dem Gläubiger nach dem schweizer. Obligationenrecht,  Lerch-Tuason, Die Bürgschaft im schweizerischen Recht, 1936, SS. 64‑65 ; Oser, Kommentar zum Obligationenrecht, ︵3︶ Ⅱ, 375, 382.

七五

(10)

SS. 994, 997.︵

︵ 10

︵ 329‑330 ; Tobler, a. a. O., SS. 133‑134. 11Lerch-Tuason, a. a. O., SS. 30‑34 ; Fick, a. a. O., SS. 963‑967 ; Oser, a. a. O., SS. 865‑868 ; Funk, a. a. O., SS. ︶

︵ 12Oser, a. a. O., SS. 882‑883 ; Lerch-Tuason, a. a. O., SS. 67‑68 ; Fick, a. a. O., SS. 994 ; Funk, a. a. O., SS. 336.︶

13Oser, a. a. O., S. 868 ; Fick, a. a. O., SS. 965‑967 ; Funk, a. a. O., SS. 330.︶ 七六

参照

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