OKAYAMAUm'veTSL'ty
EarthScl'enceReports,
Vol・7,Nod1,41‑46,(2000 )
岡山県井原市浪形の標高 240m の 石灰岩に残 された海食地形
Ti da lno t c hc uti nt ot heNa mi g a t aLi me s t o ne , 2 4 0 ma bo v es e al e ve l ,
I ba raCi t y , Oka yamaPr e f e c t ur e
藤 原 貴 生
( Ta ka o
FUJIWARA)*鈴 木 茂 之
( Shi ge y ukiSUz UKI )
**前 田 保 夫
( Yas uo
M AEDA)***ThetidalnotchandtheseacaveswhichcutintotheNamigataLimestoneissituatedin240mabovesealevel, lbaraCity.ThenotchassocciatestheNam igataTerrace200m to240m high Thesegeomorphologicalfeatures indicateaneventofhighsealevel.Howevertheageoftheeventhasnotbeenmown.
Keywords: notch,seacave,Namigata,OkayamaPrefecture
Ⅰ. は じめに
岡 山県南西部 に位 置す る井原 市浪形 は 旧山陽道 沿 いに東西 に流れ る小 田川 の北側 にあた り,吉備 高原 の 南縁 に位 置す る (第1図).昭和46年 ,この地の地元 老人有志 に よ り 8年 の歳 月 をかけて洞窟 が発掘 され た.洞窟 の大 き さは,奥行 き 10m.天井 までの高 さ 5m.横 幅 は入 り口付近 で約 1m,最深部 で約 40cm.
壁 面 を構成す る岩石 は石灰岩 か らな り,洞窟 内部お よ び周辺部 の壁 面 には,水 平方 向に連続性 の良い くぼん だ形状 が観 察 され た.
この形状 は, ノ ッチ と呼 ばれ る海食 地形 であ り, 現在 の海岸線 で も普通 に観 察 され る.今 回,報告す る ノ ッチ は標 高 240m の丘陵地 にお いてみつ かった も のであ り,地質時代 にお ける海岸線 を保存 した もの と
して興味深 い.
ちなみ に,母岩 を構成す る岩石 は浪形岩 として知 られ てい る.古墳 時代 には石塔や石棺 と して広 く用い られ てお り,県 内の古墳 で よ く出土す る.
浪形岩 の岩質 は,貝類 な どの遺骸 が密集 して形成 され た石灰岩 であ り,長 らく新第三紀 中新世 の海成堆
積物 である と考 え られ て きたが (矢野 ほか,1995a,b) 最近 の板紙類 化石 な どの研 究 に よって古第三紀 を示 唆す る成果 が得 られ てい る (瀬戸 ほか,2000).
今 回の海食地形 の発 見は,古第三紀以降の海水準変動 を研究す る上で重要 であ る.
ⅠⅠ. 地形概要
浪形周辺 の吉備 高原 では大 き く2つ の平坦 な地形 が識別 で きる (第 1図).吉備 高原 の山地 の頂部 をな す 吉備 高原 面 とそれ よ り低位 で小 田川 に下 る斜 面上 に形成 され てい る面である.浪形 では後者 の 山地側 の 端 に問題 の ノ ッチが存在す る.この後者 の面 を浪形面
とよぶ ことにす る.
吉備高原面 : 山地 の頂部 をな し,一般 に標 高 は 300‑ 350m の範 囲 で揃 う. この面 は連 続 的 に標 高 400m を超 え る高 さまで達す る こ とが あ るが ,標 高 250m以下までは連続 しない.開折 が進み細長 く尾根 部 に残 ってお り,分散 して分布す るが,吉備 高原 上 を 広範 囲に追跡 で きる.
*竜天天文台公園, 〒70ト2437岡山県赤磐郡 吉井町 中勢実2978‑3
+RyutenAs troPark,Nakaseijitsu297813,Yoshii,Akaiwa,Okayama70112437,Japan
**岡山大学理学部地球科学科 ,〒70018530岡山市津島中3丁 目1‑1
HDepartmentofEarthSciences,FaculityofScience,OkayamaUniversity,Okayama700‑8530,Japan
*=姫路工業大学 自然 ・環境科学研 究所 ,〒669‑1546兵庫県三 田市弥生が丘 6丁 目
*HInstituteofNaturalandEnvironmentalSciences,HimejiInstituteofTeclmology, YayolgaOka6,Sanda,Hyougo669‑1546,Japan
第 1図 ノッチ轟頭位置及び浪形地域周辺の吉備高原における平坦面分布
吉 匡ヨ 備 高 原 面
[ 墓 コ
浪 形 面
ノ ッ ★ チ 露 頭
浪形 の標高240mの石灰岩 に残 された海食地形
浪形面 : 吉備 高原南縁 の斜面上にある.標 高は 200‑240m で北の吉備 高原側 のほ うに高 くなる.浪 形では浪形面の最 も吉備高原側 で,地形面の標高が最 も高い位置 にノ ッチが存在す る.開析 が進み小規模 に 分散 して分布す るが,吉備 高原南縁 に沿って追跡 でき
る.
ⅠⅠⅠ. ノ ッチの形態 と特徴
位置 : 岡山県井原市浪形
北緯34度37分,東経 133度31分 標高240m
岩質 : 古第三紀石灰岩
形状 : 第2図に海食洞の全景写真 とノッチの断面図 に よ り構成 したダイアグラムお よび断面図を示す.
ノ ッチの形状 は,A,B,C,Dの4カ所で測定 した.
ダイア グラムはその位置 関係 を示す.第3図に各 断面 にお けるノ ッチの形状 を示す.形状 は高 さ〃
と深 さDで表 し,Hはノ ッチの上端か ら下端 まで の垂直方 向の距離,D は上端か ら最深部 までの水 平方 向の距離 と下端か ら最深部 までの水平方 向の 距離 を足 して2で割 った ものである.各 ノッチの HとDの値 を表1にま とめた.海食洞入 り口付近 の
A,D
,お よび海食洞 内部のB
,Cの ノ ッチの対 応 が よい.A,Dの ノッチは B,Cの上部 ノッチ と 対応 し,洞窟 内部 のほ うが外部 よ りノ ッチの位置 がやや高 くなってい る.また南側壁 面 よ りも北側 壁面のほ うが ノッチの位置がやや高 くな る傾 向がある.
A: H = 2.2m
D
= 0.8mB: Hl = 1.15m Dl= 0.4m H2 = 0.7m D2 = 0.2m CI Hl = 0.8m Dl= 0.25m H2 = 0.65m D2 = 0.65m H3 = 0.8m D3 = 0.2m H
4
= 0.7m D4 = 0.3m D: H = 1.2mD = 0.8m
表 1. ノ ッチの形状 (
〃は高 さ,βは深 さ)
Ⅰ V.
考察海岸 の侵食地形 であるノッチは相対的海水準の レ ベル を示す証拠であ り,ユースタシーやテ ク トニ クス の変動 を知 る手がか りにもなる.浪形では この地形が 表土で覆われ ることに よって保存 され ていた.ノッチ と浪形面 との位置 関係 か ら,浪形面はノ ッチ形成時期 の波食台の可能性 がある.す なわち現在の標高240m まで海進があった ことが推測 され る.
この海進 に伴 う地層は今の ところ兄い出 され てい
4 3
ない.そのため海進 の時期 を示す直接的証拠 は得 られ ていない.侵食 を受 けた石灰岩 がおそ らく古第三紀 と 考 え られていることか ら,ノ ッチの形成 はそれ よ り新 しい.また浪形面は吉備 高原面 よ り低位 であるため, ノ ッチの形成 も吉備 高原 面形成 よ り新 しい と考 え ら れ る.おそ らく更新統のある時期 であろ うが不明であ
る.
海水準 とかかわ る河床高度 の指標 として鍾乳洞 な ど洞窟 の高度がある.岡山県北部新見市か ら北房 町に かけて分布す る阿哲石灰岩 には,標 高 250‑300mの 谷合面 (段丘面)に伴 う洞窟が知 られてい る (阿哲団 体研究 グループ, 1970).
阿哲石灰岩地域 は浪形地域 よ り上流側 にな るので, 浪形面 (200‑240m)と谷合面 (250‑300m)は対応 す る可能性がある.大平洋側 の高知県で も標 高 100‑
300mに多 くの洞窟が存在 してお り, この よ うな高海 面時期の存在 が示 され てい る (満塩,2000).
浪形 のノ ッチは地層 の顕著な形成 を伴 わない海進 を示す地形的な証拠である.今後 ノッチが形成 され た 時代や地史的意義 について検討 が必要である.
引用文献
阿哲団体研究グループ(1970),洞くつ地質学ノー ト 5.
阿哲台の鍾乳洞 と河岸段丘.地球科学,24,225‑227.
滴塩大洗 (2000),高知県下の洞窟,その分布 と成因 一特 に,第四紀の海水準変動による変化に関連 して‑ .鹿島 愛彦教授退官記念論文集,14日 52.
Pirazzoli,P.A.(1986),Marinenotches.ln1.0.VandePlassche (ed.)Sea‑LevelResearch:aManualfわrtheCollectionand EvaluationorData.GeoBooks,Norwich,pp.36ト400.
瀬戸浩二 ・矢野孝雄 ・松本俊雄 ・山本裕雄 ・中野雄介 ・藤 井健 (2000),中国山地ジオ トラバースー中新統 (備北 層群および相当層)の堆積環境変化‑.日本地質学会第
107年学術大会 見学旅行案内書,
矢野孝雄 ・森山和道 ・沖村雄二 ・瀬戸浩二 (1995a),岩石 海岸における相対的海水準上昇期の堆積課程一岡山県 南西部に分布する中新統浪形層の堆積環境‑.地球科学, 49,125‑142.
矢野孝雄 ・森山和道 ・沖村雄二 ・瀬戸浩二 (1995b),コン デンス層 として形成 された非熱帯性石灰岩岩石一岡山 県南西部に分布する中新統浪形層石灰岩の堆積環境‑.
地球科学,49,17‑31.
A β
C l )
第2同 ノ yチ と海 食ifil全景写 真 (上段 )お よび断 lZliの位岡関係 (中段 ) と断 [‑bA囲 (下段 )
浪形の標高240mの石灰岩に残 された海食地形
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〟 .丁 .‑rJ l‑ try‑
m fJJ=0.8m H1=0.8m 01=0.25m D3=0.2
l
fJ2=0,65m H一=0,7177 D2
細野
D伊 .C l第3図 ノ ッチの形状