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(1)

254 金沢大学十全医学会雑誌 第76巻 第2号 245−266 (1968)

    生物学に応用できる一種の複合非対称分布函数とその理論

      金沢大学医学部衛生学講座(主任 石崎有信教授)

       茶  谷  士  一       (昭和42年12月25日受付)

 さきに私が発表した1)非対称分布函数は,容易に正規函数に変換できるので,統計理論を適用する上に極めて便利 であった.しかし乍ら,この分布函数は乗積能率の面から観察したとき,Pearson系曲線のW型が適応する範囲の 分布に不適合である.そこで私は,この範囲の分布に適合する簡単な分布函数が創案できないかと,考察を重ね,理 論的には必ずしも簡単とはいえないが,ほぼその目的に適う函数を考案することができたので次に報告する.

       複合非対称分布函数 1 複合非対称分布函数

 私の考案した複合非対称分布函数Q(x)は非対称分布函数P(x)から導かれた次のような形で表わされるもので

ある.

    Q(x)一P(x)+λ{t4−6Rt3+(11R2−6)t2一(6R3−18R)t−11R2+3}P(x)   .    (1)

 ここにλは常数,Rは非対称分布函数の有する3個の常数a, M,εによって定まる常数, tはxの函数で,それ ぞれ次の形を有する,

    R=V21・9孟≡暑       (2)

              109 M_a

       (3)

    t=

         R

 P(x)については前著において説明したが,これからの理論の説明に必要なので,その要点を次に再記する.

    P(。)』。一(b・竸ア/4蝪≡甕   (4)

        X−a        1

        ㌦轟b、鴛・細く1

 ここにaは常数であり,Mは中央値,εは平均値である.

 また(4)の積分において

    1・9董≡1〃21・9孟≡蓑一・      (5)

 とおけば

    つ。      ㏄        t2

    〜P(・)d一〜〆豪・一一7d・       (6)

   a       一㏄

 が成り立つ.従って(5)よりP(x)と正規函数との対応点をx,tとすると       

    _。+(M一。)。〜/2b・壷≡蓋t一。+(M一。)。Rt  (7)

が成り立つ.

 P(x)の乗積能率,止度,尖鋭度は次のように表わされる.u2, u3, u4はそれぞれ2次,3次,4次の乗積能率,

 Theory on a Compound Skewed Distridution Function ApPlicable to Biology. Shiichi Chadani, Department of H:ygiene(Directer:Prof. A. Ishizaki), School of Medicine,

Kanazawa University.

(2)

複合非対称分布函数の生物学的応用 255

β1は歪度,β2は尖鋭度

    ・・+・)・{勧≡81一・}       (8)

    ・・一(・一・)・{1鴛ll−31孟≡蓑ll+2}     (9)

    ・・一(・一・)・{罐1護一4i孟≡霧1+6勧≡蓑髭一3}   (1・)

    β1一勧≡蓑ll+3i壷≡詳一4       (11)

   β・一モ孟≡暑蓋+21孟≡叢+3勧≡暑;1−3     (12)

 またP(x)の確率積分を正規函数の確率積分に帰したとき,即ち     X2       t2   t2

    〜P(x)dx四強㌃〜・一一ガd・

    XI      t1 において,t1, t2は次の式で与えられる.

    :二:零:鉾     }㈹

皿 函数Q(x)の諸性質  1 確 率 法 則

 まずQ(x)がxの確率法則となりうることを証明しよう.

        Q(x)一P(x)+Q (x)      (14)

 ここに

    Q (x)=λ{t4−6Rt3+(11R2−6)t2一(6R3−18R)t−11R2+3}P(x)      (15)

である.(15)の積分において(5)の置換を行なうと,P(x)は正規函数に変換されるので

       くニ

    1・一IQ (x)d・一・〜{・・一6R・・+(11R・一6)・・一(6R・一・8R)・一・1R・+3}φo(・)d・

      a       一㏄       t2

       但しφ・(・)7㌃・7

となる.この積分値を求めるのにt一〆「i「uとおきr函数に変換して求あてもよいが,煩雑であるから括弧内をR の次数によって整理すると次の如くなる.

        

    1・一・〜{(・・一6・・+3)一6R(・・一3・)+・1R・(・・一1)一6R・t}φ・(・)d・  (16)

     一〇C

 さてこの積分を仔細に観察すると,小括弧内は,Hermiteの多項式と呼ばれるもので,φo(t)の逐次微分のさい,

φo(t)の係数となつ.て現われるものである.即ち          dn

       φo(t)

    φ・(t)一          dxn

とおけば

    φ1(t)=一tφo(t)=(一1)H1φo(t)

    φ2(t)=(t2−1)φo(t)=(一1)2H2φo(t)

    φ3(t)==一(t3−3t)φo(t)=(一1)3H:3φo(t)

    φ4(t)φ4(t)一(t4−6t2+3)φo(t)=(一1)4H4φo(t)   ……H・はHermiteの多項式  ここにH・は直交函数と呼ばれ,またH:・n(x)とφ・(x)とは重直交函数と呼ばれていて,

     

    〜Hm(x)伽(x)dx一・(m\・のとき)

  一〇c

(3)

  256       茶     谷

なる性質のあることが証明されている2).従って(16)の右辺を,4個の積分に分けると,それぞれ,その値は0と なる.従ってIoの値は0となり,(14)より

      

    〜Q(・)d・一〜P(・)d・+・一1       (・7)

    a         a

が成立し,Q(x)がxの確率法則となり得る.

 2 平  均  値

 Q(x)の平均値は次の如くして求められる.

       つ      

    ゾ1−lxQ(x)d・一〜xP(・)d・+〜・Q (・)d・    (・8)

      a       a       a

 この右辺の第1項の値はP(x)の平均値εである.第2項を11とし,この値を求めるために(7)によってx をtに置換すると,11は次の如く表;わされる.

       お

    11一・1{・+(M一・)・Rt}{・・一6Rt・+(11R・一6)・・一(6R・一18R)・一11R・+3}φ・(・)d・(19)

      一つQ

    L一・。貢一…・恒(・)d・+・(M一・)f・Rt{一・…号吻(・)d・

     一〇Q      一つO

 この右辺の第1項はλaloとなり,従ってその値は0である.第2項を11 とおけば      R,L一勢一t2−2塁t+R2+」茅」茅一(t−R2)2

    e  e     =e       =e    e

なることより次の如く変形される,

      R2 つO

    Iゴー・(M一・)・21{・・一6Rt・・一・}φ・(・一R)d・

      一DQ

 t−R−uとおけば,dt瓢duなるにより,

      R2 つ。

    I♂一・(M一・)・2〜{(・+R)・一6R(・+R)・+(・・R・一6)(・+R)・一(6R・一18R)(・+R)一11R・†3}φ・(・)d・

      一つQ

 {}内の計算を行ない,Rの次数によってまとめると次の如くなる.

      R2つO

    Iゴー・(M一・)・2〜{(・・一6・+3)一2R(・・一3・)一R・(・・一1)+2R・u}φ・(・)d・

      一つQ

 この積分値が0になることは(16)の場合と同様,小括弧内がHermiteの多項式になっていることにより容易に 判る.即ち11 離0 故に11−aIo+11 一〇

 従って(17)より

    v1 一ε+11一ε       (20)

 即ちQ(x)はP(x)と平均値を共有する.

 3 2次以上の乗積能率

 εの周りにおけるQ(x)の2次の乗積能率は

      つくラ       む

    ・・一〜(x一・)・Q(・)d・

     a

である.Q(x)を(14)の形で表わせば,

       

    ・・一〜(x一・)・P(x)d・+〜(・一・)・α(・)d・      (2・)

     a      a

(4)

      複合非対称分布函数の生物学的応用       257

 右辺の第1項はP(x)のεの周りにおける2次の乗積能率で,(8)によって既知である.第2項を12とおき,

(5)の置換を行なえば

    (・一・)・一{・一・+(M一・)eR・}2一(・一・)・+2(・一・)(M一・)・搬+(M一・)・e・恥

 より

       

    1・一(・一・)・1・+2(・一・)11 +・(M一・)・le2Rt{・・一6R・・……}φ・(・)d・…… (22)

      一◎○

 この右辺の第1項,第2項は共に0である.第3項を12 とおけば,

    。2R・。一一号一。一t2−4弩+4R2+2R・一。2R・e一(t一ξR■

なることより,12 は次の如く変形される,

       

    1〆一・(M一・)・e2R2〜{・・一6R・・+一}φ・(卜2R)d・

      一)Q

 t−2R=uとおけば, dt−duなるにより        の

  1〆一・(M一・)・e2R2〜{(・+2R)・一6R(・+2R)・+(11R・一6)(・+2R)・一(6R・一18R)(・+2R)一・1R・+3}φ・(・)d・

         一)○

 {}内の計算を行ない,Rの次数で整えると12 は次の如く表わされる.

       

    ・〆一・(M一・)・e2R2〜{(・・一6・・+3)+2R(・・一3・)一R・(・・一1)一2R・u}φ・(・)d・

      一こ)○

 この積分値が0になることは,11 の場合と同様,小括弧内がHermiteの多項式になっていることにより.容易に

判る。

    即ち    12 =0  従って    12=0  故に(21)より       め

    ・・一〜(x一・)・P(x)dx+・一・・        (23)

     a

 即ちQ(x),P(x)の平均値の周りにおける2次の乗積能率は等しく,その値は(8)により与えられる.

 V3, V4の値も全く同じ形式で求められるので,簡単に記載することにする.

      ゆ       つ 

    ・・一1(・一・)・Q(・)dx一〜(・一・)・P(・)d・+1(・一・)・α(・)dx  (24)

     a      a      a

において,右辺ρ第1項は既知で,その値は(9)によって与え.られる.第2項を13とおき     (x一・)・一{・一・+(M一・)・Rt}3

を代入,次いで(5)の置換を行なうと

       め

・・一(・一・)・1・+3(・一・)・11・+3(・一・)1〆++・(M一・)・〜・3Rt{・・一6R・・+……}φ・(・)d・(25)

      〜=)○

 右辺は第3項まで0である.第4項を13 とおけば         」些一 .≦LR,_(t−3R)1      3Rt   2   2

      2

    e    e     ==e     e

なるにより

(5)

 258      茶    谷

    瑠一・(M一。)・e÷喩一6R糾一・弓伽(・一3R)d・

      一〇C

 t=u十3Rとおき,括弧内をRの次数で整頓すると

    瑠一・(M一。)・elR2萱(。・一6。・+3)+6R圃+11一)+6晦)血

       一〇C

 この積分値が0になることは,前と同様にして判る..従って(25)より     13=0

 故に(24)より        

   ・・一〜(x一・)・P(・)dx+・一・・       (26)

     a

即ちQ(x)とP(x)とは,平均値の周りにおける33の乗積能率は等しく,その値は(9)によって与えられる.

       

    ・・一1(x一・)・Q(・)dx一〜(x一・)・P(x)d・+1(x一・)・α(・)d・  (27)

     a       a       a

において,右辺の第1項は既知で,その値は(10)によって与えられる.第2項を14とおき  (x一ε)4={a一ε+(M−a)eRt}4を代入し,次いで(5)の置換を行なえば

       

1・一(・一・)・1・+4(・一・1ゴ+6(・一・)・1・〆+4(・一・)・1♂+・(M一・)・1・4Rt{・・一6R・・+…}φ・(・)d・(28)

       a 右辺の第4項までは0である,第5項を14 とおけば

         t2         (t−4R)2

    4Rt   2

      8Rt     2

    e    e

      =e        e  なるにより

       

    1♂一・(M一・)・e8R21{・・一6R・・+一}φ・(・一4R)d・

      一◎c

となる.t=u+4Rとおき括弧内を整頓すれば        

    1♂一・(M一・)・e〜{(・・一6・・+3)+1・R(・・一3・)+35R・(・・一・)+5・R・・+24R・}φ・(・)d・

      一〇C

括弧内の第4項まではHermiteの多項式になっているのでφo(x)との積の積分値ほとなるが,第5項とφo(x)

との積の積分値は0ではない.即ち        

    1♂一・(M一・)・e8R2〜24R・φ・(・)d・一24・R・(M一・)・e8R2       −OC

    R一》21・嚇≡疑代入して計算すると

    14』96・縞;}1(1・9孟≡暑)2      (29)

従って,(27)(28)(29)より

       

    ・・一1(・一・)・P(・)d・+r・一・・+r・       (3・)

     a  4 歪面,尖鋭度

(6)

複合非対称分布函数の生物学的応用 259

Q(x)の歪度をβ1 とすれば,(23)と(26)から

    β1 一謬一護一β・

となりP(x)の歪度β1と等しくなる.

 Q(x)の尖鋭度をβ2 とすれば,(8),一(23),(29),(30)から     βガー等1,一U4謡4

      一β・+96・(1・9孟≡蓋)2(孟≡暑)12/{(孟≡暑)2一・}2

 5 λ の 値

常用対数に直し・・の値をβ・・β〆尊号で表わすと       ・・…965(β 2一β2){(孟≡含)2一・}2     λ一

        (   ε一alo910   M−a)2(孟≡暑)ユ2

・の式は藩含の値が・に近いとき1・は次の如く簡略化される・

    山守一・+dとおく

    1・9孟≡暑一1・9(・+d)+一号+」}……

 dが小さいとき右辺の第3項以下を省略すると,(32)より     λ≒ (β ・一β・(2d+d2)2

        d一」芽)2(・+d/12       96(

分子,分母を4d2にて除し更に

    (  d1十  2)2

       ≒(1+d)2  とおけば

    (   d1−   2)2

      β,2一β2         β 2一β2       λ≒

       24(・+d)1・24(孟≡鼓)10

(31)

(32)

(33)

(34)

振卜・・2のときの・の値を計算すると・

    (33)式では0.006805(β2 一β2),(34)式では,0.006729(β2 一β2)

で,その誤差は実用的には無視してよい程度である.しかも日常吾々の観察する分布は殆んどこの範囲内に含まれて

いる.

 6 Q(x)の形状と適用範囲

 Q(x)の形状は,i対が小さいほどP(x)に近かづき, i対が大きくなるに従いP(x)と異なる形状を示すこ とはQ(x)函数の形から明らかであるが,λのとり得る範囲は,吾々がQ(x)の形状に関して制約を与える程度に よって異なる.普通見られるような単峰性で変曲点が2点という制約を加えると,これに応じてλは一定の制約を受 けるが,この制約の程度はβヱの値:によって異なり,一般にβ1が大きいほど強い制約を受ける。しかし乍ら,普通 見られる分布曲線にQ(x)を適用する場合,λ>0のときは,λの値は以上の制約による範囲より,はるかに小さい 場合が多いから,かかる点を顧慮する必要は殆んど起らない.λく0のときは,1対が如何に小さくともQ(x)は 両端において下値となるので,このままでは確率函数として成り立たず補正の要があるが,分布の形状が単峰性で変 曲点が2点という状態では,負領域は実用的には無視されてよい程度の場合が多い.

 次にQ(x)の適合可能の範囲を,Pearson系曲線の鑑別基準によって調べて見よう.

    βノ1=β1   β2 =β2十d

(7)

260 茶 谷

とおけば

      β1(β2+3+d)2     κ=

       4(4β2−3〆91十4d)(2β2−3β1−6+2d)

    蒜彗一Pとおけば  1

     _     (P6十3P4−4)(P8十2P6十3P4十d)2     κ一  4(4P8十5P6十3P4十4d)(2P8十P6−3P4十2d)

    P>1なるにより,d>0のとき,分母>0  従ってκはPの全変域において連続である.

    P→1のとき,分子→0,分母→96d+32d2  従って κ→O

    P→)oのとき  κ→つ。

 故にκの範囲は次のようになる.

    0<κ<⊃o       (35)

 d>0のとき,》0であるが,(35)はλが如何に小さくても成り立つ関係である.従ってQ(x)はPearson系 曲線のIV, V, Vl型と同じ歪度,尖鋭度を持つ分布に広く適用される可能性がある.

 d<0のとき,λ<0となり,κ値に関する限り   一㏄〈κ<㏄

なる式が成り立つ.

 ここでP(x)のκ値について考察してみるとP(x)のκ値は1.35より大であった.しかるにQ(x)は如何ほど でもP(x)に近かづき得る函数であり,そのκ値は(35)の通りである.このことから二度の小さい分布ではん値 が1.35以下のものにも,P(x)は近似的に適合し得ることを示している.

 7 Q(x)分布の成因

Q(x)の齢・おいて・1・9意≡暑/R一・の置換を行なって生ずる函数・(・)1ま次の通りである・

    q(・)一φ・(・)+・{・・一6R・・+(1・R・一6)・・一(6R・一・8R)・一11R・+3}φ・(・)

 この函数はRが小さくなるに従って

    f(t)=φo(t)十λ(t4−6t2十3)φo(t)

と近似になることは容易に推察できる.f(t)は正規函数φo(t)と尖鋭度のみが異なる対称函数である. Pが小さく なると藷暑が1に近かづき・従ってQ(・)の醸は小さくなる・先曙換はP(・)をφ・(・)に変換すると きの置換と全く同一であって,このことから,β1が小さいときにはQ(x)分布の変異点xと,f(t)分布の変異点

・との間1・は・破P(x)と襯函数との閥にあったような器一K(x一・)という関係が近似的に成立して いることが判る, いい換えれば,正規分布に或る要因が作用してP(x)分布が生じたとも考えられるように,全く 同じ要因が正規分布に近似な分布に作用して,Q(x)分布が生じたとも考えられるのである. Rが大きくなるに従っ て,このような意味は失われ次第に記述的な意味しか持たなくなる.

皿 曲線の当てはめ方

 1 常数a,M,εの決定法

 Q(x)には4つの常数a,M,ε,λがあるが,この内はじめの3つはP(x)の常数であり,この決定法は前著で 述べたが,三次方程式を解く煩雑な方法であった.ここでは簡便な近似的な方法を述べよう.

(11)において(意≡1)2一・+dとおけば     (1+d)3+3(1十d)2−4一β1=0  括弧を開いてd3を省略すると

    6d2十9d一β1ニ=0       (36)

この2次論式癬いてdを求め・それより儲≡暑)2の値綻まり・これを(8)にぞ覧入すると(・一・)の 値が定まる.このあとは説明するまでもないことである.

 この近似法によって求めたdの誤差率は,

(8)

複合非対称分布函数の生物学的応用 261

β1−1のとき一

u肝β1−3のとき11。肝β1−5のときゐ肝である・

 従ってβ1の値が5以下の場合には,この近似法を用いても誤差は僅小で実用的には差しつかえない程度である.

しかも吾々の経験する非対称分布の大部分は,β1の値は1より小さい.

 ここで注意を要するのは,εはP(x),Q(x)の共通の平均値であるけれども, MはP(x)の中央値ではあるが,

Q(x)の中央値とならないことである.このことはQ(x)をaよりMまで積分して確かめることができる.即ち Q(x)においてはMは単なる常数に過ぎないのである. 従って,観察例にQ(x)を当てはめようとする場合,度数 分布から直接中央値を求めてもそれはQ(x)の常数Mとはならないから,P(x)の乗積能率法によってMを求める

ことの方が合理的なのである.

 2 常.数λ.の決定法.一

・の値は(33)或い1ヰ.(34).カ・ら判るように・β〆・β・・薫曇の値によって決まるから・これらの値を勅ねば ならぬが・藩暑の値は前節で求めたものである・β・ は与えられ紛布から乗灘旨率を計算して求める・β・は P(x)の尖鋭度であるから赫≡暑の値を(12)に代入して求める.これらの値を(33)式は(34)に代入すればλ が決定される.t,Rはa,M,εによって決まるので, Q(x)が決定されることになる.

 3 確i率 積 分

先ずQ(x)の積分のさい必要な次の積分を行なう.部分積分法により,

       〜・φ・(・)d・一一φ・(・)

       〜・・φ・(・)d・一一・φ・(・)+〜φ・(・)d・

       〜・・φ・(・)d・一一・・φ・(・)+21・φo(・)d・

       〜・・φ・(・)d・一一・・φ・(・)+3〜・・φo(・)d・

(a),(b)を使って,(c),(d)を更に漸化すれば

   1・・φ・(・)d・一一・・φ・(・)一2φ・(・)

   〜・・φ・(・)一一・・φ・(t)一3・φ・(・)+3〜φo(・)d・

Q(x)の積分において,(3)の置換を行なえば,

   X2      t2

〜Q(・)d・一1φ・(・)d・

X1

(a)

(b)

(c)

(d)

(e)

(f)

t12

+・〜{・・一6R・・一(6−11R・)・・+(18R−6R・)・+(3−11R・)}φ・(・)d・

         t1 この式に(a),(b),(e)

     t2    1−1φ・(・)d・

    t1

(f)を代入すれば

      t2

+・〔(一・・一3・+6R・・+・2R+6・一11R・t−18R+6R・)φo(・)〕

      t1       t2

    +・(3−6+・・R・+3一・・R・)〜φ・(・)d・

      t1 右辺の第3項は0となる.第2項を書きかえれば

(9)

262 茶 谷

  t2 1一 ̀φ・(・)d・

 t1

      t2

    +え〔(一・・+3t)φ・(t)+6R(・・一1)φ・(・)一11R・tφ・(・)+6R・φ・(・)〕

      t1 φo(t)の第1,第2,第3次導函数を,φ1(t),φ2(t),φ3(t)で表わせば

   φ1(t)準一tφo(t),  φ2(t)=(t2−1)φo(t),  φ3(t)=(一t3十3t)φo(t)

したがって

     t2      t2    1−1φ・(・)d・+・〔φ・(・)+6Rφ・(・)+11R・φ1(・)+6R・φo(・)〕

    tl      tl t1, t2はP(x)の場合と全く同じで(13)によって与えられる.

(37)

      実際例への適用

 実例について,複合非対称分布函数を当てはある仕方の大要を説明しよう.例としてあげたものは,

 松田彦治:各個観察に基づく男子体重発育に関する研究に記載されている3)同一集団(加賀,越前の男子1476名)

の体重の逐年記録(1927−1942)の内の,6歳時(表1)と9歳時(表5)のものである.

表1 男子体重6歳時度数分布表

紙kgl・1・5

13.5 15.5 17.5 19.5 21.5 23.5 25.5

人劃

1 37 288 613 408 114 13 2

 先ず17.5kgなる級を原点とし,級間2kgを単位として4次までの乗積能率を計算すると     m1』0.21545, m2』0.98780, m3』0.80488, m4』3.22358

である.それで平均値F17.5+2×0.21545−17.9309  次にεを原点とする2次以上の乗積能率を計算すると     m2=0.94138, m3=0.18622, m4=2.79860

 これにShepPardの補正を施したものを,それぞれ, v2, v3, v4とすると     v2=0.85805, v3=0.18622, v4=2.36832

従って

(36)より これを解いて 従って

β1=0.05464, β2=3.21673 κ=0.1542

6d2十9d−0.05464=O d=0.00604

(ε一aM−a)一1…6・4意≡暑 =1.00302

  (注.この値は3次方程式を解く原法と全く一致す)

この値を(8)に代入すれば    0.85805=(ε一a)2(1.00604−1)

これを解いて (ε一a)=・11.919

従って (M一・)一f轟一11・883

これで函数P(x)は決定されたわけである.

次にλの値を一(34)から求めるためにP(x)のβ2を計算する.

   β2==1・003028十2×1・003026十3×1・003024−3=3.0973      λ_3・2167−3・0973_0.004813

        24×1.0030210

       (注.原法で計算せる値と全く一致す)

(10)

複合非対称分布函数の生物学的応用 263

表2P(x)の積分 X

一3.715 一2.715 一1.715 一〇.715

0.285 1.285 2.285 3.285 一4.285

t

一4.761 一3.283 一1.957 一〇.756

0.342 1.355 2.293 3.167 3.986

1tφ・(・)d・

 0

0.499486 0.474825 0.275173 0.133824 0.412288 0.489075 0.499230 0.499967

級 内 確 率

0.000514 0.024661 0.199652 0.408997 0.278464 0.076787 0.010155 0.000737 0.000033

理論度数

0.76 36.40 294.69 603.68 411.01 113.34 14.99 1.09

0.05

1476.01

表3 Q(x)の積分の第2項

t

)Q

一3.284

一1.957

一〇.756

0.342

1.355

2.293

3.167

3.986 十QQ

¢3(t)

0.04642

0.09546

一〇.55035

0.37100

0.25125

一〇.14903

一〇.05896

一〇.00727

の2(t)

6Rの2t

0.01777 0.00828 0.16635 0,07752 一〇.12844

−0.05986 一〇.33226 一〇.15484 0.13318 0.06207 0.12256 0.05712 0.02392 0.01115 0.00211 0.00098

  φ1(t)

11R2の1(t)

0.00598 0.00040 0.11503 0.00763 0.22210 0,01474 一〇,12869

−0.00854 一〇,21585

−0.01432 一〇.06599

−0.00438 一〇.00839

−0.00056 一〇.00056

−0.00004

の。(t)

6R3の。(t)

0.00182 0.00001 0.05878 0.00017 0.29378 0.00083 0.37628 0.00106 0.15930 0.00044 0.02878 0.00008 0.00265 0.00001 0.00014

Σ¢i(t)

0.05511

0.18078

一〇.59464

0.20868

0.29944

一〇.09621

一〇.04836

一〇.00633

級内確立

0.0551

0.12567

一〇.77542

0.80332

0,09076

一〇.39565

0.04785

0.04203

0.00633

理論度数

×(1476λ)

=x7,104

0.39

0.88

一5.43

5.63

9・64

一2.77

0.34

0.29

0.04 6R=0.46602 11R2=0.066359 6R3=・0.002811

(11)

264

 次に確率積分を求めるために(13)から         109(x十11.919)一10911.883     t=〆2(1。911.919)一1。g11.8831「

     =}/Ioge10 {lo910(x十11.919)一1091011.883}

         7/双loglo1:「豆1百一1δ重1011.883)

     =29.58910910(x十11.919)一31.806

 平均値を原点として,各級の境界のx座標を求め,上式によって,それらに対応するの値:を求め,正規函数の確率 積分表によって級内確率を求め,最後に総度数を乗じて,P(x)の理論的度数を計算する. これがQ(x)の積分の 第1項である.この計算の結果を表2にまとめて示す.

 Q(x)の積分の第2項は

      t2

    ・〔φ・(・)+6Rφ・(・)+1・R・φ1(・)+6R・φ・(・)〕

      t1 である.これを計算するためにRを計算すると,

    R=謬/ 21091.00302 =/2109101.0030210ge 10一      ==シ/ 2 xO.013096×2.302585 ==0.07767

 従って  6R=0.46602,11R2=0.066339,6R3=0.002811

 tに対応するφo(t),φ1(t),φ2(t),φ3(t)の値は正規函数の表に載っている. これでQ(x)の第2項を求めるの に必要な数値は揃ったわけである.これによって級内の確率を求め,総度数を乗じて理論的度数を計算する.計算の 結果を表3にまとめて記載する.

 表2,表3を合計すればQ(x)のi理論的度数が得られる.この結果,並びに種々の函数を当てはめた場合の理論 値を表4にまとめて記載する,

表 4

11.5

13.5

15.5

17.5

19.5

21.5 23.5 25.5 27,5X2 自由度 5%点 20%点

Charlier

A型3項

PearsonIv  型

1.3

36.7 286,4 616.0 408,5 109.6

16,5 1.1

1476.1 0.5848 2 5.991 3.219

1.21

36.80 287.96 612.19 410.94 110,25 15.19 1.35

0.12 1476.01 0.3484 1

3.841 1.642

非対称分布

0.76 36.40 294.69 603.68 411.01 113.34 14.99 1.09 0.05 1476.01 0.4142 2 5.991 3.219

複合非対称分布

1.15 37.28 289.26 609.31 411.65 110.57 15.33 1.38

実際度数

1

37 288 613 408 114 13 2 0.09

1476.02 0.3622 1

3.841 1.642

1476

(12)

複合非対称分布函数の生物学的応用 265

表5 男子体重9歳時度数分布表

体重kg・1・7・5119・512・・5123・5125・5127・5129・5 i 31・5133・5 i 35・5137・5

人 釧1・ 821287i45g1382[16416711813 211

計算の仕方は前例と全く同じであるから省略して,重要な数値と,数式のみを記載する.

   平均値 ε一24.2222

級間を単位として平均値の周りにおける乗積能率は    m2=1.7930, m3ニ1.1033, m4=12.1270 Sheppardの補正を施すと

   v2=1.7097, v4=11.25965

   β1=0.29650, β2置3.85191, κ=0.2944

   (ε一aM−a)2一…3222孟≡三一1・・1598    (ε一a)=7.2844  (M−a)=7.1698    t==12.93010910(x十7.2844)一11.062    λ=0.0114  R=0.17808

以上の値を用いて計算した結果,並びにPearsonのW型を当てはめた場合の理論的度数を表6にまとめて示す.

       表    6 級 kgr

17.5

19.5 21.5 23.5 25.5 27.5 29.5 31.5 33.5 35.5 37.5X2 test

自由度 5%点 20%点

Pearson IV型

7.3

79.4 300.4 459忍 361.2 178.2 63.2 19,1

5.3

1.6

0.5

1476.0 5.445 4 9.488 5.689

非対称分布

4,9

81.3

310.2 455.6 354.2 177.1 66.3 19.7

5.1

1.2

0.3

1475.9 5.656 4 9.488 5.689

複:合非対称分布

8.3

79.5 296.4 463.7 364.1 174.4 62.3 18.7 5.4

1。6

0.6

1476.0 3.517 4 9.488 5.689

実際度数 11 82 287 459 382 164 67 18 3 2 1

1476

 以上の2例について当てはめた諸函数の聞には,x2−testの値に多少の優劣はあるが,これだけの例で,優劣を断 定するわけにはゆかない.ただ注目せねばならぬのは,この2例は共に,Pearson系曲線の錨:別基準κの値が1よ

(13)

266

り小さく,従ってPearson系曲線のW型の適合範囲にあるのであるが,非対称分布函数の適合が必ずしも悪くない

ことである.

結 論

 以上私は,任意の歪度,尖鋭度を有する分布に適合の可能性を持つ分布函数として,さきに発表した非対称分布函 数から導いた,一種の複合分布函数を創案した.非対称性の分布に対して広い適合範囲を持っている.また一方,本 研究を通じて非対称分布函数が,Pearson系曲線鑑別基準κ値が1.35より小さい範囲の分布に対しても,近似的に 適合し得ることが示され,具体例でも実証された.従ってこの2つの分布函数は,生物統計に屡4現われる単峰性で 変曲点が2点ある非対称性の分布に対して,広範囲に適合の可能性を持っており,このような分布の確率論的考察に は極めて有力な手段となり得るものである.

終に臨み御校閲を賜った石崎教援並びに便宜を計って頂いた福島助教授始め,教室員の方々に深謝致します.

文 献

1)茶谷士一=十全医会誌,66,383(1960).  2)佐藤良一郎:数理統計学,増補11版,培風館,186〜

188(1954).  3)松田彦治=金沢大学医学部衛生学教室業報,37,1(1959).

       Abstract

  The author devised another theoretical distribution suitable for a kind of skewed frequency curve. This is a compound function derived from the function which was devised by the author before.

  The kurtosis of peaklless of the new function is able to be determined more sui・

table than the former function, and therefore it is of very wide application to biology.

  Two practic砒l examples are given.

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