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(東女医大誌 第49巻 第4号頁 416〜419 昭和54年4月目
〔臨床報告〕
、
先天性下腿三頭筋短縮症の1例
東京女子医科大学第2病院整形外科(指導:菅原幸子助教授)
松木 孝行・大野 博子・上田 禮子・市瀬 武彦・
マツキ タカユキ
石上
イシガミ
オオ ノ ヒロ コ
宮子・須永
ミヤ コ ス ナガ
ウエダ レイコ イチノセ タケヒコ
明・菅原 幸子
アキラ スガワラ サチコ
(受付 昭和54年1月10日)
緒 言
近年,注射による大腿四頭筋拘縮症が注目を浴 びて以来,各所筋肉部の注射による拘縮症が報告 されてきた.しかし大腿四頭筋拘縮症も,かなら ずしも注射によるもののみでなく,先天性短縮症 があるが,この報告は少ない.われわれも先に先 天性腓腹筋短縮症の1例を報告したが1),今回は 先天性下腿三頭筋短縮症と思われる1例に遭遇し たので報告する.
症 例
患者=渋○靖○,10歳,男子.
主訴:歩行時右踵をつかない(すなわち尖足歩行).
家族歴=特に異常なし.
既往歴=特に足に影響すると思われる疾患,外傷はな
い.
現病歴:生下時および処女歩行時には異常なく,6歳 頃より起立位では踵部はつくが,歩行中漸次右踵部が浮 いて尖足位になることに母親が気付いた.各所の整形外 科医にて,特に下腿,足の疾患や,取り上げるような外 傷はないと言われ,マッサージ,電気療法,針等の非観 血的療法を受けたが,この傾向は漸次増強した,10歳時 には完全に右尖足位となり,肢行を呈し,当科受診とな
った.
現症:栄養良好,体格中等度で一般状態も良 い.歩行は,右前足部のみをつけて歩行し,踵は 常に地面から浮いている状態の難行が見られる.
右下腿部は,皮膚に異常なく,搬痕も見られない が全体的に発育が悪かった.右アキレス腱は細く
写真1 右アキレス腱は細く緊張が強い
T8k8yuM MATSUK買, Hセoko ONO, RG董ko UED▲, Takehlko ICHINOSE, Miyako IS田G▲M1,
Akk乳SUN▲GA, S8chiko SUGAWARA=Department of Orthopaedics(Director=Assistant Prof. Sachlko SU−
GAWARA), Tokyo Women s Medical College Second Hospita1:Acase of congenltal contracture of the Musculus trlceps surae・
一416一
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写真2 足長差がみられた
緊張が強く(写真1),下肢長は右70cm・左71cm で右が短く,足長においても右が約1・5cm短い
(写真2).下腿周径は右28cm・左30cmで右の
方が2cm細い.右下腿三頭筋は筋緊張は強い
が,特に癩痕・硬結は触れない.大腿周径は右 38.5cm・左39cmであったが,外観は右大腿の方 が細い.右足関節は底屈20度の拘縮で(写真3),背屈は不可能であった.足底は潮足となってい る.膝蓋腱反射ならびにアキレス腱反射は共に正
写真3 右足関節は底屈20度の拘縮
常で,病的反射なく,皮膚知覚異常もない.足背 動脈は緊張よく触れた.
レ線像:大腿骨,脛骨の長さおよび横径に左右 差はない.右下腿三頭筋内には石灰沈着等の異常 所見は認められない.足部のレ線像で,距骨の扁 平化および固葉舟関節面での踵骨の背側への変位 がみられ,そのために凹足を呈していた(写真
4).
足関節造影:右距骨の扁平化はあっても,足関 節としては特に異常所見は認めなかった(写真
5).
血液・尿・糞検査=特記すべき異常は認めなか
った.
写真4 足部レ線像 一417一
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写真5 右足関節造影
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写真6 術後尖足は消失した手術所見:尖足による肢行を治療する目的で,
アキレス腱延長術を施行した.皮膚切開を加えア キレス腱を露出すると,腱は細く緊張が強かった が,肉眼的には病的と思われる所見は見られなか った.足関節を背屈させると,健側と同じ運動範 囲が得られ,足関節を約10度背屈させると,アキ
レス腱は約4cm延長されるようになったが,こ
の状態でアキレス腱をZ字延長とした(図1).パ ラチノンおよび皮膚を縫合し手術終了.足関節0 度の位置にて膝上からギプス固定を行なった.
術後経過:術後4週にて,背屈10度の膝下B.K.
ギプスにかえ,術後6週にてギプスを除去し,松 葉杖歩行および理学療法を開始した.尖足による 肢行は消失し,術後3ヵ月で退院となった(写真 一418一
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(術煎)
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函後)
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延長
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〃
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図1 アキレス腱延長度 表1 術前術後の比較
術前 術後3カ月 術後8カ月
1右 28cm 29.8cm 33cm
下腿周径1
左 30cm32.5cm 34cm
右 38.5cm ・39.5Cm 40cm
大』腿周径
イ
39cm 40.5cm 42cm足関賄蕨匿
4。 40(膝膿位)佐
一20。
@ 一 一
@5。 5。 5。
6),術後8ヵ月現在,尖足による破行なく,術前
との比較において,下腿周径は2cm差からlcm
差となり,足関節背屈運動も術前一20度と背屈不可能であったのが4度と背屈可能となった(表
1).筋力テストにおいては,術後3ヵ月で長母指伸筋4であったのが8カ月で4+,前脛骨筋4で
あったのが4+と回復している.考 按
先天性大腿四頭筋短縮症の報告は,外国では
Hn酌kovsk夕2),本邦では森崎3)4)らの報告があるが,下腿三頭筋短縮症の報告は極めてまれであ
る.先天性としての確定診断は,病歴に注射・外 傷などの既往がないという以外には,その診断法はない.病理所見において,先天性と後天性の鑑 別は難かしく,両者共に筋の線維化,脂肪浸潤,
線維の狭小などの退行変性が見られるという.わ れわれの症例において,手術手技上,筋の採取・
組織検査は行なわなかったが,生下時において異 常なく,6歳時に初めて母親が尖足に気付いた事 は興味深い.柳下らによれぽ,15歳時より大腿四 頭筋,前脛骨筋,長指伸筋,足長母指伸筋の短縮 が著明になったという報告5)があるが,本症例に おいて杢特に明らかな外傷もなく,骨系統疾患や 先天性内反足等の足部に影響を来たすような疾患 の罹患もないことから,先天性下腿三頭筋短縮症
と診断した.
治療法として非観血的療法は効果なぐ,観血的 療法として腱延長術6),腱および筋切り術,筋膜 切離術など考えられるが,本症例においてはアキ レス腱延長術を施行し,満足な結果を得たので,
ここに報告する.本症例はさらに長期の経過観察 をしてゆく予定である.
本稿の要旨は,昭和52年11月25日,東京女子医科大学 学会,第214回例会にて発表した.
文 献
1)森崎直木・菅原幸子・他:腓腹筋短縮症の1 例.東北整形災害外科紀要7(2)223〜226 (1963)
2) Hn6v取ovs1【汐,0・書 Progressive fibrosis of the intermedius musclein ch{1dren. J耳IS 43B(2)
318〜325(1961)
3)森崎直木:日本外科全書27(1958)234頁 4)森崎直木;日日会誌23180(1950)
5)柳下慶男:先天性と思われる大腿四頭筋,前事 骨筋,五指伸筋,足長母指伸筋短縮症に下肢 巨細を伴う1症例.臨床整形外科4(6)485〜
488 (1969)
6)神申正一:整形外科手術書(1974)882頁
一・S19.一