分譲マンションの適正管理のための外部支援のあり方に関する研究 [ PDF
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(2) 3. 準備期・初動期における取り組み. 3-2 管理会社による管理サービス. 3-1 分譲会社による管理委託先の選定. 次に、準備期・初動期に管理会社等によって行われ. マンションは、通常分譲会社によって委託する管理. る管理サービスの内容について分析する。この時期の. 会社が指定された状態で分譲される。そのため多くの. 管理サービスを目的別に整理すると図 3 の 4 つに分. 場合、管理組合の基盤づくりはこの管理会社の主導で. 類される。管理体制づくりのサポートやコミュニティ. 行われ、平常期以降も管理委託は続く。このため、分. 形成のサポートに位置付けられる町内会の形成や居住. 譲会社が当初いかなる管理会社を選定するかはその後. 者名簿の作成といった具体的な管理活動を実施するた. の管理活動に大きな影響を与えると考えられる。. めの基盤づくりに関しては、管理会社が管理者代行と. 福岡市では新築マンションの約 7 割が地場の分譲. して取り組んでいる。また、通常管理人の採用は引渡. 会社によって供給されている。大手の分譲会社とは異. しの一ヶ月前頃に行われるが、随時採用を行い登録制. なり地場の分譲会社の多くは系列の管理会社を持たな. を取っている管理会社も確認された。登録制の場合、. いものの、特定の管理会社と委託関係を築いている(以. 事前教育を十分に受けた管理人の中から最適な人材を. 下、特定委託型と呼ぶ)。これに対して、独自の基準. 選んで派遣することができる。さらに分譲会社の協力. を持って地場の管理会社から分譲物件の特性に応じた. を得ることで、入居説明会に管理人を紹介する機会を. 管理委託先を選定している分譲会社がみられる(以下、. 設け、入居時のコミュニティの起点をつくるような取. 逐次選定型と呼ぶ)。ここでは逐次選定型の分譲会社. り組みも可能となる。この時期の支援にはこのような. R社の管理委託先の選定過程を見ていく。(図 2). 管理会社と分譲会社の連携によって実現しているもの. 選定の手順として、まず明確に設定された選定基準. も多い。管理のしやすさを考慮したマンションを供給. Ⅰに基づいて委託候補を選択する。このとき企業の安 定性・業務遂行能力・緊急時対応能力が実績から判断 されることに加え、R 社の考えに賛同し実際の取り組 み(例えば、モデルルーム公開時に見学者への管理説 明を実施する等)への協力が得られるかどうかが重視 される。また、企業規模が偏らないように委託候補選 択することで各社から提示される「実施する管理サー ビス内容」と「見積り」に差異が現れる。選定Ⅱでは、 いかに委託管理費を抑えつつ必要な管理サービスを得 られるかを検討しており、例えば管理人の勤務形態や 清掃回数等に関して分譲物件で想定している居住者に とっての必要性や必要頻度で絞り込みが行われる。 上記のような手順が採られる逐次選定型の管理委託 先選定方法は想定する入居者のライフスタイルに適し た管理を実現する可能性をもっているといえる。. 図 2 R社の管理委託先選定プロセスとその基準. 図 3 準備期・初動期に行われている管理会社による管理サービスの実態. 36-2.
(3) する上で、管理会社のノウハウを取り入れるために、. 九州マンション管理士等協会(以下、九管協)は、. 企画・設計段階から管理会社が発言する機会を設けて. マンション管理士資格の誕生を機に平成 14 年に設. いる場合が見られる。また、管理意識啓発を目的とす. 立された 6 つの専門部会からなる専門家集団であり、. る支援が「マンション購入検討段階に管理を意識する. マンション管理士を中心とした指導やコンサルタント. 機会を設ける」もしくは「区分所有者個人に対して詳. 業務が活動の軸となっている。九管協ではマンション. 細で丁寧な管理説明を行う」という分譲会社の方針で. 管理士の育成システムが構築されており、九管協会員. 設けられた任意の管理説明会に管理会社が協力する形. のマンション管理士は業務経験によって 3 つのレベ. で行われており、区分所有者個人に向けた管理意識啓. ルに分けられる。資格は取得したものの業務経験のな. 発に分譲会社が重要な役割を果たしているといえる。. いレベル 3 級に属するインターン管理士は、レベル 1 級または 2 級のベテラン管理士と組になって持ち込. 4. 平常期以降における取り組み. まれた相談の担当に就き、問題の解決にあたり実務経. 4-1 福岡市におけるマンション管理サービスの概況. 験を重ねていく。インターン管理士には相談日の前日. まず、福岡市内のマンション管理関連団体 5 団体. の案件復習会への参加と問題解決時のレポート提出が. のサービス概要について福岡市住宅審議会答申(平成. 義務付けられており、業務の完全な習得のためのフォ. 15 年 3 月)の内容に対応させて整理した。その結果. ロー体制が整備されている。また九管協ではこうした. 「総合的な情報提供・相談体制の整備」および「計画. 事業性の強い活動を行う一方で社会貢献性の強い活動. 的な修繕等の誘導」にあたる取り組みが集中している. は同一組織であるマンション管理組合適正運営ネット. ことがわかった。各団体がそれぞれ相談窓口を設けて. ワークとして行っており、市民講座「マンション管理. 問題に対応しており、また、関連団体は各々セミナー. 大学」を毎年開講するなど管理意識啓発の面に積極的. を開催し管理意識の啓発に努めている。このうち福岡. に取組んでいる。. 市建築局では相談件数の増加に対応するため平成 16. マンション再生支援ふくおか(以下、再生F)は、. 年にマンション管理専門の窓口が独立して開設される. 福管連や九管協のような大きな組織体制をもたず、. など、相談体制の充実を図っている。市では定期的に. 17 名の会員が各人の建築・設備に関するノウハウを. マンション管理基礎セミナーを開催してきたが、平成. 活かして活動しており、ハード面に特化した支援活動. 16 年に福岡市マンション管理支援機構が設立され関. 表 1 マンション管理に関連するNPO 3 団体の活動実態. 連団体が企画段階から協働してテーマ検討を行い、よ. 団体名. NPO法人福岡マンショ ン管理組合連合会. り現状に則した内容を管理組合等に提供できるように なりつつある。一方、計画的な修繕に向けた活動はマ. 会員数. ンションごとに個別の対応が必要であるため、主にN POによって行われている。 4-2 NPOの組織の特徴 次に、福岡市マンション管理支援機構の構成団体で ある 3 つのNPO法人について組織の特徴と支援活 動内容を詳しく見ていく。(表 1) 福岡マンション管理組合連合会(以下、福管連)は、 管理組合団体相互の連絡組織として昭和 62 年に設立. 約5 0 0 管理組合 約3 5 ,5 0 0 戸 設立経緯 S 6 1 全国マンション 管理組合連合会発足 S 6 2 福岡マンション 管理組合連合会設立 H1 2 NPO法人格取得. 約4 ,0 0 0 棟 約1 5 ,4 0 0 戸 S 3 4 マンション管理 研究会発足 H1 4 九州マンション 管理士等協会設立 H1 5 NPO法人マン ション管理組合適正運営 ネットワーク設立. *管理組合を会員とする 制度をとっていない H1 5 NPO法人として 発足. 設立契機 ・区分所有法改(S 5 8 ) の過程 ・各管理組合団体間の 連絡組織の必要性 主な活動 ●管理組合運営サポート ・管理組合の組織力向上 ・管理会社の倫理観育成 ●シンクタンク機能 ・現場ニーズの明確化 ・行政に対する政策提言 及び意見表明. ・マンション管理士の 誕生(H1 4 ) ・専門家団体の必要性. ・主催者本人の退職 ・社会貢献への意欲. ●専門家による助言及び コンサルタント ・管理活動に必要な各種 専門性の補完 (部会の連携で実現) ・マンション管理士の育 成、及びマンション管 理士業の成立 ●管理意識の啓発 ・マンション管理大学 (市民講座)の開講. ●ハード専門のコンサル タント ・ハード面の問題解決 (急を要する場合多) ・管理組合―専門業者間 の潤滑油 ・タイムリーな修繕実施 の誘導. マンション管理士の育成. 管理組合―専門業者間の 交渉. ●マンション管理士 実務能力別階級制度. ●修繕工事アドバイザー 工事の一連の流れ組立て ・建物診断 ・修繕計画作成 ・業者選定への助言 ・工事監理. された管理組合の団体である。管理組合相互の情報交 換や交流によって管理組合の組織力を高めることを目. 分野. 的として、主に管理組合の運営面を支援している。具. 管理組合の体制補強. 特徴的な ●管理実態の格付け 管理組合自己評価システム 活動 ・独自基準の設定、評価 の実施 ●役員派遣業務. 体的には、現状に則して管理規約を適性化するよう助. NPO法人マンション管理 NPO法人マンション再 組合適正運営ネットワー 生支援ふくおか ク 九州マンション管理士等 協会. 管理士養成システム. ・実務能力によるレベル 分け(3 段階) ・実務経験の場の提供 ・役員代理スタッフ派遣 ・業務習得のためのフォ ロー体制整備 ・資格取得のための参考 書籍出版. 言を行ったり、経年マンションが直面している居住者. 人材不足対策. の高齢化問題への対策として、人材不足に悩む管理組 合に対して役員代理を派遣したり、「マンション福祉. マンション高齢化対策 リモデリング型修繕の考 →マンション福祉マニュ え方の普及 アル作成、販売 →設備会社との協力によ る勉強会開催. マニュアル」を作成するなど、全国でも先進的な取り 組みを行っている。 36-3. 建替えに関する取り組み の検討 →会員同士の意見交換.
(4) の展開が見られる。相談内容に応じて建物診断や修繕. に見られたが、こうした要望への対応は専門家による. 計画の見直しおよび作成、工事業者選定への助言、工. 助言だけではない。登録審査を行った上で賛助会員と. 事監理等の専門性を要する業務を一連の流れとして組. して認定した業者を必要に応じて紹介したり、施工業. 立て、管理組合が修繕工事を行う際のサポートを行っ. 者を改修工事実績・経営実績・経営規模から評価する. たり、修繕工事に問題が生じた場合等に管理組合と工. ための基準として大規模改修工事業者選考採点基準を. 事業者との間に入って交渉するなど、管理組合の建築・. 作成し、施工業者の工事安全性を数値で表せるように. 設備に関する専門性の補完に努めている。. する(福管連)等、専門的知識をもつ第三者としてマ. 以上のように、ここで取り上げたNPOではそれぞ. ンション管理に関連する専門業者の評価基準を様々な. れ活動目的や対象領域に明確な特徴が見られた。こう. 形で提供している。. した複数のNPOが相互にネットワークをもって活動 にあたることでマンション管理を多角的に支援するこ. 5. マンション管理に関連する各主体の役割. とが可能となる。. 最後に、前章までに把握した外部支援の実態を踏ま. 4-3 NPOによる支援活動の特徴. えて、各主体の役割について考察する。. これらのNPOの業務から展開する具体的な業務を. 分譲会社に関しては、マンション管理適正化法に示. 整理すると、福管連および九管協ではマンション管理. されているように、分譲物件の管理が円滑に管理組合. 全般に対する取り組みが見られ、アプローチに違いは. に引き継がれるよう努めなければならない。そのため. あるものの、類似した活動も多く見られる。. の区分所有者個人に対する管理意識の啓発は、準備期. まず、高い専門性の必要な管理活動について、その. における分譲会社の役割である。管理会社と連携し、. 専門性を補完するための取り組みがある。滞納管理費. 購入検討段階の個人と関わる機会を活かして直接的な. の回収や長期修繕計画の作成などがこれに相当する。. 啓発活動を行う必要がある。. これらは、専門的でなおかつ長期的な支援を必要とす. 管理会社は、規約の作成や役員の選出など、管理組. るため、専門家による専属アドバイザー的な対応が期. 合の組織としての基盤づくりを適切に行うと共に、マ. 待される。これがより具体化したものとして、顧問契. ンションの将来像や目標を設定するサポートを行い、. 約制度(九管協)があり、顧問契約を結ぶことで担当. 区分所有者が共同体としての自覚をもつための支援を. マンション管理士に加えて九管協に属する各種専門部. 積極的に行っていく必要がある。. 会による支援を適宜受けることができる。福管連では. NPOの役割は、個別のマンションの相談に応じて. 役員代行サービスを行っており、年契約で管理組合の. 多様な支援を提供することである。特に専属のアドバ. 役員の 1 人として活動を共にすることで、人材不足. イザーとしての機能、管理組合の自己点検のための環. を補うだけでなく、理事会等におけるアドバイザーと. 境整備、業者等の評価基準に関する専門的知識をもつ. しての機能も果たしている。. 第三者としての情報提供に大きな期待が寄せられる。. 管理を適正化していくにあたって、管理活動の現状. また団体相互のネットワークを強化し、団体の特性を. を把握し、的確に評価を行った上で対策を立てる必要. 活かした多角的な支援活動を展開する必要がある。. がある。NPOでは組織のネットワークを活かして管 理を点検するための支援を行っている。具体的には、. 6. 総括. 管理規約が現状に適しているかどうかを点検する運営. 各主体ごとに期待される役割が異なることが明らか. 診断、管理費や修繕積立金の状況を点検する財務診断、. となった。また、分譲会社と管理会社、行政とNPO. 修繕の必要性を判断するための建物・設備診断が挙げ. 等の連携によって支援活動の内容と提供時期に広がり. られる。さらに、このような部分ごとの診断に加えて、. が見られた。今後、より消費者のニーズに沿った支援. 管理全体の現状を捉えてマンション自体を評価するた. を展開するために、関連団体相互のネットワークを強. めのマンション管理評価基準も作成されており(福管. 化していくことが必要である。. 連)、管理組合が自らの管理活動を客観的に評価する ための環境が整えられつつある。 また、管理会社や施工業者の選定、あるいは工事価 格の査定等について、判断や選定の基準を求める声が 福岡市建築局が発行したマンション管理の事例集の中. 参考文献/参考資料 齊藤広子:ステップアップで学ぶマンション管理 2003 年 5 月 彰国社 梶浦恒男:新世紀のマンション居住 2001 年 2 月 彰国社 マンション管理の事例集(改訂版) 2002 年 9 月 福岡市建築局 謝辞 本研究のための調査にあたり、福岡市においてマンション管理に関連する各種団体の 皆様に多大なご協力を得ました。ここに記して深謝いたします。. 36-4.
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