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理学療法科学 25(5): ,2010 原著 リラクセーション肢位の違いが呼吸運動出力及び自律神経機能に与える影響 The Influence of Relaxation Posture on Respiratory Motor Output and Autonomic Nervous

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(1)

リラクセーション肢位の違いが呼吸運動出力及び

自律神経機能に与える影響

The Influence of Relaxation Posture on Respiratory Motor Output and

Autonomic Nervous Function

一場 友実

1,2)

  山田 拓実

3)

  解良 武士

4)

 

藍原

章子

4)

 

 八並 光信

1)

  宮川

哲夫

5)

TOMOMI ICHIBA, MS, RPT1,2), TAKUMI YAMADA, PhD, RPT3), TAKESHI KERA, PhD, RPT4), AKIKO AIHARA, RPT4),

MITSUNOBU YATSUNAMI, PhD, RPT1), TETSUO MIYAGAWA, PhD, RRT, RCET, RPT5)

1) Department of Physical Therapy School of Health Sciences, Kyorin University: 476 Miyashitacho, Hachioujishi,

Tokyo 192-8508, Japan. TEL +81 42-691-0011

2) Department of Physical Therapy, Graduate Schools of Human Health Sciences of Tokyo Metropolitan University 3) Division of Physical Therapy, Faculty of Health Sciences, Tokyo Metropolitan University

4) Department of Physical Therapy, Nihon Institute of Medical Science

5) Division of Respiratory Care, Showa University Graduate School of Nursing and Rehabilitation Sciences

Rigakuryoho Kagaku 25(5): 657–662, 2010. Submitted Mar. 19, 2010. Accepted Apr. 24, 2010.

ABSTRACT: [Purpose] The purpose of this study was to investigate the effects of relaxation postures by measuring

airway occlusion pressure (P0.1) and heartbeat variability as indicators of respiratory motor output and autonomic

nervous function, respectively. [Subjects] Eleven healthy university students (5 males, 6 females, aged 20.3  0.5 years) participated in this study. [Methods] The measurement postures were standing, sitting, forward-leaning sitting, and semi-Fowler’s posture. Subjects maintained each posture for four minutes and their respiration and heartbeat variability were measured, following which P0.1 was measured five times in one minute. [Results] P0.1 and heart rate were

significantly lower in the semi-Fowler’s posture compared with sitting. Also, in terms of heartbeat variability, the activity level of the parasympathetic nervous system was high in the semi-Fowler’s posture. [Conclusion] This result suggests that the semi-Fowler’s posture is more effective than sitting at reducing heart rate and increasing parasympathetic nervous system activity as a relaxation posture.

Key words: airway occlusion pressure (P0.1), relaxation posture, dyspnea

要旨:〔目的〕本研究は呼吸運動出力の指標である気道閉塞圧(P0.1)と心拍変動による自律神経機能の測定からリ ラクセーション肢位について検討を行うことを目的とした。〔対象〕健常大学生11 名(男性5 名,女性6 名)を対象 とした。〔方法〕測定肢位は立位,端座位,前傾座位,セミファーラー位の4 肢位とし,4 分間の安静中の呼吸状態 と心拍変動の測定後,1 分間でP0.1を5 回測定した。〔結果〕セミファーラー位は端座位に比べP0.1と心拍数が有意に 低値を示し,心拍変動では副交感神経活動指標が高値を示した。〔結語〕セミファーラー位は端座位に比べ,呼吸 運動出力及び自律神経機能の面からリラクセーション肢位として有用であることが示唆された。 キーワード:気道閉塞圧P0.1,リラクセーション肢位,呼吸困難 1) 杏林大学 保健学部理学療法学科:東京都八王子市宮下町476(〒192-8508) TEL 042-691-0011 2) 首都大学東京大学院 人間健康科学研究科理学療法科学系 3) 首都大学東京 健康福祉学部理学療法学科 4) 日本医療科学大学 保健医療学部リハビリテーション学科理学療法学専攻 5) 昭和大学大学院 保健医療学研究科呼吸ケア領域 受付日 2010年3月19日  受理日 2010年4月24日

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I. 緒 言

理学療法が対象とする呼吸器疾患の中で慢性閉塞性 肺疾患(chronic obstructive pulmonary disease;COPD)は, わが国の在宅酸素療法施行患者の約半数を占める代表 的な疾患である1,2)。COPD は世界的にも罹患率と死亡 率の高いcommon disease であり,我が国でも大規模疫 学調査であるNICE study から,40 歳以上の成人の8.6% がCOPD に罹患していることが明らかにされている3) さらにCOPD は 2020 年までには全世界の死亡原因の第 3 位にまで増加すると推測されている1)ことから,今後 ますます理学療法の対象として非常に重要な疾患となっ ていくと考えられる。COPD 患者では低酸素血症,呼気 時気道閉塞現象,横隔膜の平低化などが原因で呼吸困 難が起こることから,理学療法場面においてもこの呼 吸困難への対処が求められる4)。呼吸困難により基本 動作が制限され日常生活活動能力の低下そして全身状 態の低下が引き起こされ,その全身状態の低下がさら に呼吸困難を増強させるという悪循環が形成される。 そのため呼吸リハビリテーションの大きな目標のひと つにこの呼吸困難の軽減があげられており,これを改 善する手段としてリラクセーションはすべての呼吸リ ハビリテーション技術の基本とされている5)。2007 年

のACCP /AACVPR(American College of Chest Physicians/ American Association of Cardiovascular and Pulmonary Rehabilitation)による呼吸リハビリテーションガイドラ インでは,リラクセーションを含む呼吸リハビリテー ションはCOPD の息切れの軽減に関して推奨のグレー ドが1(強い),エビデンスの強さがA(高い)と評価さ れている6)。わが国の呼吸リハビリテーションプログ ラムは,リラクセーションを含むコンディショニング, ADL(Activities of Daily Living)トレーニング,運動療

法などで構成されている7)。そのコンディショニング の一つであるリラクセーションは頸部・体幹の過度な 緊張を抑制し,酸素消費量を減少させ呼吸困難の軽減 に効果的であるとされている8)。そのためリラクセー ションは運動療法やADLトレーニングなどの練習を効 率よく行うための前段階として,また運動後の調整と して実施されることも多い。呼吸困難の軽減に効果的 なリラクセーション肢位にはいくつかの方法がある。 例えばセミファーラー肢位,枕を抱えた前傾座位,肘 を膝についた前傾座位などは臨床上よく用いられる肢 位である9)。しかし,これらのリラクセーション肢位は 患者の観察や経験的・臨床上の工夫として知られたも のであり10),肢位の違いが呼吸困難の軽減へどのよう な影響を与えるかについて科学的な検討を行った研究 はみられない。 と こ ろ で 呼 吸 困 難 の 感 知 モ デ ル と し てKillian らの motor command theory11)O’Donnell の Neuromechanical

dissociation12)があるが,これらによると呼吸困難と呼吸 運動出力には重要な関係がある。この呼吸運動出力の 測定を用いるとリラクセーションによる呼吸困難の減 少のメカニズムを検討することができると考える。さ らに一般的にはリラクセーションにより副交感神経活 動が有意になるため,リラクセーションの程度を示す には自律神経系の評価を用いると有効である。 そこで本研究は,呼吸困難と関係がある呼吸運動出 力の指標として気道閉塞圧(P0.1),安静時の呼吸状態 及び心拍変動の値から求められる自律神経活動の指標 を用いて,リラクセーション肢位について比較検討を 行うことを目的とした。 II. 対象と方法 1. 対象 対象者は呼 吸器疾患,循環器疾患,整形外科疾患, 神経筋疾患の既往のない健常大学生11 名(男性5 名,女 性6 名;表 1)で,研究に先立ちすべての対象者に研究 の趣旨を説明し同意を得た。 2. 方法 呼 吸 運 動 出 力 の 指 標 と し て P0.1 を 気 道 閉 塞 装 置

(Inflatable balloon-type Series 9300,死腔量 48.9 ml, Hans Rudolph 社製)と差圧トランスデューサー(TP-602G,日 本光電社製)を用いて測定した。気道閉塞装置に呼気 ガス分析装置(AE-280,ミナト医科学社製)の熱線ト ランスデューサーとマスク(MAS0215,ミナト医科学 社製)を接続し,対象者の口に固定した。心拍数の測 定にはモニター心電図(BSM-7201,日本光電社製)を 用いた。熱線トランスデューサー,圧トランスデュー サー,心電計のアナログ信号はすべてAD変換器(Power lab 16/30, AD Instruments)を介してパーソナルコン ピューターにサンプリング周波数1000 Hz で取り込ん 表1 対象者の属性 年齢(歳) 身長(cm) 体重(kg) 男性 20.2 ± 0.4 171.4 ± 3.0 64.4 ± 4.6 女性 20.3 ± 0.5 160.8 ± 4.6 52.3 ± 4.6 平均±SD

(3)

だ。各信号は波形解析ソフトウェアー(Chart Ver5.3, AD Instruments)で解析した。 P0.1の測定は解良らの方法に準じた13,14)。まず対象者 に安静換気を行わせ,対象者の呼気終末のタイミング にあわせて手動操作で2 方向バルブの吸気側にあるバ ルーンを拡張させ,吸気口を静かに閉塞させた。この 時対象者は管が閉塞していることに気がつかないため, 吸気に転じても対象者はそのまま吸気努力を続け,吸 気開始直後は口腔内圧が陰圧になる。この口腔内圧が 陰圧に転じてから100 ms後に得られた口腔内圧をP0.1の 値として採用した。ただし,吸気開始後に測定を開始 したことが気流波形から判断される場合は,測定値か らすべて排除した。P0.1値はすべて絶対値に変換した。 なお測定を予測できないようにスイッチ操作は対象者 から見えない位置で行い,測定後はただちに吸気回路 は開放した。 測定肢位は立位,端座位,前傾座位,セミファーラー 位の4 肢位とし,順序はランダムとした。前傾座位は肘 をテーブルの上に置いてクッションを抱え机に前傾し た端座位とした。セミファーラー位は背臥位からベッ ドの背上げを30度挙上し膝関節を軽度屈曲した肢位と した。それぞれの肢位で5 分間安静を維持してもらっ た。最初の4 分間の一回換気量(VT),呼吸数,酸素摂 取量,二酸化炭素排出量,心電図を測定し,最後の1 分 間で験者の至適のタイミングでP0.1を5 回測定した。P0.1 測定時のVT,吸気時間(TI)からP0.1/(VT/TI)を算出し た。また測定終了後,対象者には各肢位の主観的な安 楽度の順位(主観的安楽度)を回答してもらった。心 拍変動(Heart Rate Variability;以下HRV)による自律神 経機能の評価は,解析ソフト(HRV module Power lab, AD Instruments 社製)を用いた。HRV の周波数分析から 得られる0.04 ~ 0.15 Hz の周波数領域を低周波数成分 (low frequency;以下LF),0.15 ~0.4 Hz の周波数領域を 高周波数成分(high frequency;以下 HF)とし,それぞ れでの周波数帯域でのパワーを求め,補正値によって 標準化した。 統計処理にはSPSS(Windows 版 ver13.0, SPSS)を用 いた。P0.1測定前4 分間の各肢位での一回換気量,呼吸 数,酸素摂取量,二酸化炭素排出量,分時換気量,心 拍数,LF,HF,LF/HF,及びP0.1測定時のP0.1,P0.1/(VT/ TI)の肢位による違いには反復測定による分散分析を, 各肢位間の比較にはTukey-Kramer 法の多重比較を用い た。対象者の主観的安楽度に関する検討にはFriedman 検定を用いた。主観的安楽度の値は平均ランクで示し, その他の値は平均値±標準偏差で示した。有意水準は すべてp<0.05 とした。 III. 結 果 安静時の各肢位での換気指標,P0.1及びP0.1/(VT/TI), 各肢位での心拍数と心拍変動の値を表2 ~4 に示す。心 拍数,P0.1,LF,及び HF に肢位の違いによる有意な差 を認めた(p<0.05)。心拍数はセミファーラー位で最も 低く,端座位及び立位に対して有意に低かった(p<0.01)。 逆に立位では最も高く,端座位,前傾座位及びセミファー ラー位に対していずれも有意に高かった(p<0.01)。P0.1 はセミファーラー位で端座位に対して有意に低かった が(p<0.05),その他の肢位間では有意な差は認められ なかった。心拍変動による自律神経活動の評価につい ては,LF 成分がセミファーラー位で端座位に対して有 意に低値を示し(p<0.05),HF 成分ではセミファーラー 位が端座位に対して有意に高値を示した(p<0.05)。主 観的安楽度は肢位によって有意に変化した(p<0.05)。 最も安楽であるとの回答が多かったのはセミファーラー 位で7 名,次いで前傾座位3 名,端座位1 名,立位0 名の 順であり,平均ランクはそれぞれ1.55,2.18,2.73,3.55 であった。一回換気量,呼吸数,P0.1/(VT/TI),酸素摂 取量,二酸化炭素排出量,分時換気量,LF/HF には肢位 による有意な差は認められなかった。 表2 安静時の各肢位での換気指標 1 回換気量 呼吸数 分時換気量 酸素摂取量 二酸化炭素排出量 (L) (回/ 分) (L/ 分) (L/ 分) (L/ 分) 立位 0.71 ± 0.2 15.6 ± 3.7 11.0 ± 5.0 0.26 ± 0.06 0.21 ± 0.04 端座位 0.67 ± 0.2 13.8 ± 4.7 8.76 ± 3.0 0.27 ± 0.04 0.21 ± 0.04 前傾座位 0.62 ± 0.1 13.3 ± 3.1 8.44 ± 3.5 0.26 ± 0.05 0.18 ± 0.03 セミファーラー位 0.60 ± 0.2 14.2 ± 3.9 8.44 ± 3.0 0.25 ± 0.05 0.19 ± 0.04 ANOVA,PostHoc:共に有意差なし

(4)

IV. 考 察 リラクセーションを行うためには呼吸困難に伴う呼 吸補助筋の過緊張を弛めゆったりとした呼吸を促す必 要があるが,そのためには適切な肢位を選択しなけれ ばならない。COPD では仰臥位よりも上体をおこした セミファーラー位やファーラー位が呼吸困難を軽減す る肢位といわれており,その他に座位では枕を抱えた 前傾座位や,両膝に手をついた前傾座位なども挙げら れる7)。本研究ではこれらの肢位のうち,セミファー ラー位と枕を抱えた前傾座位と,比較対照として端座 位と立位を,呼吸運動出力の指標であるP0.1,安静時の 呼吸状態,及び自律神経機能の評価として心拍変動を 用いて検討を行った。 安静換気中の酸素摂取量,二酸化炭素排出量,分時 換気量などの換気諸量については,各肢位の間で有意 な差は認められなかった。これは代謝の観点から酸素 需要の少ない安静状態でほぼ同等な条件で比較できた 結果であると考えられる。一回換気量や呼吸数につい ても各肢位の間で有意な差は認められなかった。kera とmaruyama15)は仰臥位,端座位,立位,及び膝の上に 肘をついた座位で,Lederer ら16)は仰臥位と端座位とで 一回換気量を比較しているが,肢位の違いによる変化 は認められなかったと報告しており,これらは今回の 結果と同様であった。 P0.1は呼吸中枢からの運動出力の指標として用いら れている17)P 0.1の正常範囲は1 ~2 cmH2O であるが18), 呼吸中枢活動が活発になると高値を示す。P0.1は測定時 の流量が0 であること,機能的残気量(FRC)での測定 であることなどから,肺胸郭系の換気力学的特性にあ まり影響を受けないといわれている19)。今回の研究で は,P0.1はセミファーラー位で端座位に対して有意に低 値であったことから,前者の肢位は呼吸運動出力が減 少しやすい肢位であることが明らかになった。したがっ て呼吸困難の感知メカニズムも考慮に入れると,この 肢位は呼吸困難の改善に対し有効であると考えられる。 P0.1/(VT/TI)はeffective inspiratory impedance といわれて

おり,呼吸メカニクスの変化の評価指標として用いら れている20)。今回P 0.1/(VT/TI)については各肢位間で の有意な差は認められなかった。したがって肢位の違 いに伴う肺胸郭系メカニクスの変化による影響は少な かったと考えられ,肢位の違いにより呼吸困難や安楽 度が変化する原因は,呼吸運動出力の増減によるもの が大きい可能性があると考えられる。 本研究で自律神経機能の評価として用いた心拍変動 は,呼吸に伴って生じる交感神経と副交感神経の洞房 性神経刺激の周期性変化である21,22)。心拍変動のHF 成 分は呼吸に関連した副交感神経活動を表しており,ま たLF 成分は主として交感神経活動,一部副交感神経活 動により影響を受け,この両者の比であるLF/HF は交 感神経活動の指標とされている23)。本研究では肢位の 表4 安静時の各肢位での心拍数と心拍変動の値 †心拍数LFHF LF/HF (回/ 分) (nu) (nu) 立位 81.6 ± 10.0 36.0 ± 21.5 58.1 ± 20.9 0.95 ± 1.2 ** 端座位 74.5 ± 11.8 ** 45.4 ± 28.6 50.5 ± 26.1 2.54 ± 4.2 ** 前傾座位 70.3 ± 11.3 ** 25.0 ± 17.7 * 71.5 ± 17.4 * 0.46 ± 0.5 セミファーラー位 66.7 ± 11.9 21.8 ± 13.0 75.7 ± 12.6 0.32 ± 0.2 LF: low frequency  HF: high frequency nu: normalized unit

ANOVA † p<0.05

PostHoc * p<0.05,** p<0.01 表3 P0.1とeffective inspiratory impedance

P 0.1 P0.1/(VT/TI) (cmH2O) (cmH2O/ml/sec) 立位 2.24 ± 0.8 1.59 ± 0.6 端座位 2.48 ± 0.8 1.45 ± 0.4 前傾座位 2.17 ± 0.5 * 1.10 ± 0.4 セミファーラー位 1.88 ± 0.5 1.28 ± 0.5 ANOVA † p<0.05 PostHoc * p<0.05

(5)

変化に伴いこれらの自律神経活動の指標に有意な差が 認められた。セミファーラー位では端座位に比べLF 成 分が低く反対にHF 成分は高く,さらに心拍数もセミ ファーラー位で低かった。このことからセミファーラー 位は端座位に比べ副交感神経活動が優位であったこと が推定される。自律神経活動は体位により影響を受け, 臥位での副交感神経優位の状態から立位では交感神経 優位の状態に変化する23)。仰臥位から立位へと肢位を 変化させると,下肢,腹部内臓系などに血液がシフト し,それにより心臓への静脈環流と一回駆出量の減少 が起こる。その結果,心・血管系交感神経活動が亢進 するとともに心迷走神経活動が抑制され,心拍数の増 加 が 起 こ る と 考 え ら れ て い る 24,25)。本 研 究 で は セ ミ ファーラー位は端座位に比べ下肢が挙上位であったた め,副交感神経活動が優位となったのではないかと考 えられる。 セミファーラー位は端座位に比べP0.1が低値で,主観 的安楽度についても最も高い肢位であった。また心拍 数も低く副交感神経活動も優位となっていた。これら のことよりセミファーラー位は他の肢位に比べてリラ クセーション効果が得られやすい肢位であると考えら れる。加えて,セミファーラー位ではベッドで体幹が 支えられているため,端座位に比べ体幹筋の緊張が緩 和され,より効率よく呼吸運動が行えるようになった ことも考えられる。なぜならセミファーラー位では腹 筋を含む体幹筋の緊張が緩和され腹部及び下部胸郭の 拡張が行いやすくなること,またCOPD では FRC が端 座位に比べ減少する26)ことより,横隔膜の長さ-張力 関係が至適な状態に近づくため横隔膜の収縮効率が改 善するからである。また,呼吸様式と自律神経活動の 関係を検討した報告では,腹式呼吸は副交感神経活動 が優位になる呼吸法であるが27),それは呼息時間を延 長することでその効果が増強される28)ことが明らかに なっている。セミファーラー位で呼吸様式が腹式優位 となり副交感神経活動が優位になった可能性もあるた め,今後呼吸様式の肢位による変化を検討する必要が あると考える。 今回の研究では,前傾座位は肘をテーブルの上に置 いてクッションを抱え込む肢位とした。COPD などの 呼吸器疾患患者ではこの肢位で呼吸困難が軽減すると いわれており9),前傾座位においても呼吸運動出力の 減少や,副交感神経活動が優位になることが期待され た。前傾座位で呼吸困難が軽減する理由としては,上 部体幹の重さを上肢で支えることで体幹筋の肢位保持 への寄与が減少し筋酸素摂取量が減少することや,上 肢で肩甲帯を固定することで頸部呼吸補助筋が有効に 作用するためと考えられている29,30)。しかし実際は前 傾座位では端座位に比べてP0.1の低下は認められなかっ た。伊藤ら31)は円背姿勢高齢者では安静換気時,腹部 呼吸量が少なくなり胸式優位の換気様式になっていた と報告している。この理由として腹部が胸郭に圧迫さ れることで横隔膜のピストン運動が阻害されたと考察 している。円背姿勢と前傾座位が体幹屈曲位である点 で類似していると考えると,本研究における前傾座位 では,腹部が胸郭に圧迫されて腹式呼吸が行いにくく なったため,期待した変化が起こらなかった可能性が あると考える。しかし前傾座位は臨床において呼吸困 難時の一つの手段として用いられている肢位であり, 今後肢位の規定の検討や工夫をした上で更なる検討が 必要ではないかと考える。 本研究では,呼吸器疾患を有さない健常若年男女を 対象としたため,本結果がCOPD などの実際に呼吸困 難がある患者にも適応されるかは不明である。しかし 本研究において健常な若年者においてもリラクセーショ ン肢位により呼吸運動出力や自律神経活動に影響がみ られた事実は,高齢者や実際に疾患をもつ患者を対象 にするとより顕著な変化が起こる可能性があると考え る。今後は実際に呼吸困難がある患者を対象に検討を 加えていく必要があると考える。 引用文献 1) 植木 純,千住秀明:チームのための実践呼吸リハビリテー ション.中山書店,東京,2009, pp35-39.

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(6)

カルビュー社,東京,2004, pp10-17.

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