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志村圭祐田中速 るなどの 装い行動 がある 化粧には自尊心や自己効力感を高めるなど, 自己に向かう効果と, 他者の評価を上げようとするなど他者に向かう効果の 2 種類があると考えられ ( 村澤,2001), また, 対人恐怖とも関連があるとされている ( 野沢 沢崎,2007) 近年, 目立つように

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マスク着用行動の類型化に関する予備的研究

~社交不安への対処に関する行動・安全確保行動~

志村 圭祐

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  田中  速

3  本研究では,マスクの着用動機を従来型マスク群(風邪対策,花粉症対策で装着する群),伊達 マスク群(化粧の代わり,ファッションとしてマスクをする群)などに分類し,それぞれの群は社 交不安や安全確保行動,公的自己意識等の特性に違いがあることを明らかにすることを目的とした。  調査協力者は大学生男女220名。マスク着用者の特性を類型化するために,マスク着用動機尺度 を用いてWard法によるクラスタ分析を行った。その結果は,従来マスク群,社交不安マスク群, 非マスク群の3つに解釈することが可能であった。第1クラスタは従来マスクの着用頻度が高く, それ以外は,どの尺度得点も平均値にあり,n数の多さからも従来マスク群(n=107,51.6%)と した。第2クラスタは全マスク着用動機,SIA-S(対人交流場面に対する不安),過活動,身体症状 を隠す行動,安全確保行動,評価懸念(FNE)の平均点が従来マスク群や非マスク群よりも高かっ た。また,クラスタ2群はSIA-Sの平均点が社交不安の疑われるカットオフ値(peters,2000)得 点≧36を超えていることから社交不安傾向にある群であるため,クラスタ2は社交不安マスク群(n =39,18.8%)とした。第3クラスタはSIA-S(対人交流場面に対する不安),過活動,身体症状を 隠す行動,安全確保行動,評価懸念(FNE),全マスク着用動機の得点が従来マスク群,社交不安 マスク群と比べて,すべて低いことから本研究では非マスク着用群(n=61,29.4%)とした。  キーワード:社交不安,マスク,伊達マスク,安全確保行動,クラスタ分析

問  題

  社 交 不 安 症(social anxiety disorder; SAD) は, 2013年 に 改 定 さ れ たDSM-5(American Psychiatric  Association,2013)によると,他者の注視を浴びる 可能性のある社交場面に対する著しい恐怖または不安 を特徴とし,自身の振る舞いや不安症状を見せること で,恥をかいたり恥ずかしい思いをしたり,拒絶され たり,他者の迷惑になったりして否定的な評価(他者 評価不安)を受けることを恐れる精神疾患とされる。 このため社会的状況を回避することが多くなり日常生 活に大きな支障をきたすことになるとされている。ま た,社交不安症では抑うつ症状の憎悪が認められる (Van, Mancini, Styan&Donison, 1991)。 そ の た め, 社交不安症の症状を改善することは,心身の健康だけ でなく社会生活面での適応を向上させる意味でも重要 であると考えられる。そして,従来は日本独自の文化 結合症候群と考えられてきた「対人恐怖症」もSAD と同一疾患であるという見方が有力となりつつある。  そして,社交不安症の認知行動モデルでは,社交 不安症を維持させる要因として安全確保行動(Safety  behaviors)が重視されている(Rapee&Heimberg, 1997)。安全確保行動とは恐怖を感じる社会的場面に おいて,その場面自体を回避することなしに,不安を 十分に低減したり,破局的な結果をうまく避けたりす る目的で用いている行動(例えば,相手の目を見る と怖いのでうつむいて喋るなど)であり,本人は不 安を軽減すると信じているが,現実にはSADの症状 を維持する機能を担っていることが指摘されている (Clark&Wells, 1995; Rapee&Heimberg, 1997)。 近 年,Plasencia, Alden, &Taylor(2011)の研究による と安全確保行動は2種類に分類されることを明らかに している。第1に他者から評価される状況を回避する ために行われる行動であり,「視線を避ける」などの 行動があげられる。第2に他者からの印象を操作する ために行われる行動である。例えば,「自分の見た目 について言い訳する」などの行動があげられる。しか し,岡島・坂野(2008)によると安全確保行動と,生 じた不安を適切に処理し他者に対して好印象を与える 対処行動(例えば「深呼吸」)とでは,その判別は難 しいとしている。したがって,患者の用いる行動が SAD症状に及ぼす機能について正確に判断する必要 がある。  ところで,新たな自己を表現する,欠点を隠すなど の機能を持つ行動に,身だしなみを整える,化粧をす   1 東京成徳大学大学院心理学研究科 3 東京成徳大学応用心理学部臨床心理学科   2 本研究に御協力頂きました皆様に心より感謝申し上げます。

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るなどの「装い行動」がある。化粧には自尊心や自己 効力感を高めるなど,自己に向かう効果と,他者の評 価を上げようとするなど他者に向かう効果の2種類が あると考えられ(村澤,2001),また,対人恐怖とも 関連があるとされている(野沢・沢崎,2007)。近年, 目立つようになった装い行動にマスクの着用(感染症 や花粉症予防を目的としない)があり,それは,「伊 達マスク現象」(菊本,2011)として書籍,新聞,雑 誌で取り上げられている。檀野・仲澤・上野(2015) の研究では,従来型マスク(風邪対策,花粉症対策で 装着),伊達マスク(ファッションとして,顔を隠す ために装着)として着用しているものがいるとした上 で,マスク着用要因には男女で違いがあるとしている。 女性は公的自己意識が高い人ほどマスク着用の心理的 効用を認め,化粧やマスクを利用して化粧をしていな い素顔の状態(いわゆる「すっぴん」)を隠すために 伊達マスクとして着用しているとして,男性は自尊感 情が低い人ほど,自分を隠すツールとして伊達マスク を着用していることを示唆している。また,廣瀬(2014) は伊達マスクの効用を自己防衛と自己をよく見せるこ との2種類が考えられるとして,伊達マスク着用者は ふれあい恐怖心性を持つ青年と共通して友人関係から 脱却し親密な関わりを避ける傾向があるのではとして いる。しかし,「化粧の代わりに」,「『マスク美人』も しくは『イケメン』になれる」ため伊達マスクをする 人と,「人と話さずに済む」,「人目をさけるために」 という理由でマスク着用する人とでは,違う心理的な 特性を持っていることが想定される。特に,「人目を さける」などは社交不安の安全確保行動に含まれると 考えられており(Clark&Wells, 1995),伊達マスク 着用者の中には社交不安からマスク着用をしている人 も存在していることが予想される。だが,マスク着用 動機を直接的に扱った心理学的研究は少ない。さら に,社交不安者にマスク着用をしている人が多いこと は臨床の現場でしばしば話題となっているがマスク着 用と社交不安の関連について調査した実証的な研究は ない。そして,「すっぴん」を隠す理由でマスク着用 をするとされる伊達マスク着用者(檀野ら,2015)と, 人と話したくないのでマスクを着けるマスク着用者は 違う特性をもち分類出来ると考えられる。もし,伊達 マスクとは別に,社交不安マスク群が存在するとした 場合,マスク着用は社交不安に対する適応的な対処行 動であるのか,適応的ではない安全確保行動であるの かは知られていない。

目  的

 本研究では,マスクの着用動機によって従来型マス ク群(風邪対策,花粉症対策で装着する群),伊達マ スク群(ファッションとしてマスクを装着する群)な ど、いくつかに分類することが可能で,それぞれの群 は社交不安や安全確保行動,公的自己意識等の特性に よって異なるのを明らかにすることを目的とする。そ れにより,マスク着用動機によって,それぞれ異なる 病態水準や性質があることが明らかにされ,社交不安 症への新しい知見と心理的介入方法への一助となるこ とが考えられる。

方  法

調査協力者 関東県内2つの大学の大学生220名を調 査対象者とした。このうち有効回答データ207名(男 性79名,女性128名)であった。平均年齢は19.01歳で あった。 調査時期 2016年10 ~ 11月に実施した。 調査手続き 研究についての簡単な説明を行った後 に,無記名自己記入式の質問紙調査を実施した。 質問紙の内容 1.SPS日本語版(金井・笹川・陳・鈴木・嶋田・坂 野,2004:以下SPS)  他者から観察される社会的状況,主として人前での パフォーマンス状況に対する恐怖を測定する尺度であ る。20項目で構成されており,回答は“全く当てはま らない” (0点)-“非常にあてはまる”(4点)の5件 法で求めた。合計得点が高いほど当該場面に対する不 安が強いことを示す。わが国では金井ら(2004)によっ て翻訳され,信頼性と妥当性が確認されている。また, 別途,「マスクを着けていることを思い起こしたうえ で回答してください」と教示文を加えたものにも回答 してもらった(以下,教示ありSPS)。 2.SIAS日本語版(金井・笹川・陳・鈴木・嶋田・坂野, 2004:以下SIAS)  人との会話やつきあいのような他者と交流する場面 に対する恐怖を測定する尺度である。この尺度は20項 目で構成されており,回答は“全く当てはまらない”  (0点)-“非常にあてはまる”(4点)の5件法で求めた。 合計得点が高いほど当該場面に対する不安が強いこと を示す。わが国では,金井ら(2004)によって翻訳さ れ,信頼性と妥当性が検討されている。先行研究では ≧36点が社交不安症の疑われるカットオフ(Peteres, 2000)であるとされている。また,別途,「マスクを 着けていることを思い起こしたうえで回答してくださ い」と教示文を加えたものにも回答してもらった(以 下,教示ありSIAS)。

3.Cognition  of  Bodily  Sensations  in  social  situations scale(金井,2008,以下CBSとする。)  CBSは社会的場面で喚起される七つの生理的反応 に対する認知の歪みを7件法で測定する尺度である。 生理的反応の認知については,(a)生理的反応の知 覚(CBS1;1:まったく気づかない-7:非常によく気付 く),(b)生理的反応が他者に気づかれるのではない かと考える程度(CBS2;1:まったく思わない-7:非常に

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強く思う),(c)生理的反応について他者から否定的 に思われるのではないかと考える程度(CBS3;1:まっ たく思わない-7:非常に強く思う)の3側面を測定し た。SPSとSIASいずれかの項目のうち,最も強い不 安を感じる場面を一つ選び,その場面にいる時の状態 を回答するように求めた。なお,得点が高いほど生理 的反応に対する認知の歪みが強いことを示す。 4.マスク着用動機尺度  先行研究(檀野ら,2015)を参考に筆者が作成した マスク着用動機を測定する尺度であり,従来マスク群 (“風邪やウイルスなどの感染予防のためマスクを着け る”),伊達マスク群(“化粧が面倒なのでマスクを着 ける”),社交不安マスク群(“人と話さずに済むから マスクを着ける”etc)の3つの下位尺度で構成され ている。16項目で構成されており,回答は“全くつけ ない”(1点) -“よく着ける”(4点)の4件法で求めた。 なお,得点が高いほど該当のマスク着用動機による装 着頻度が高いことを示す。 5.Subtle Avoidance Frequency Examination 日本 語版(荒井ら,2015:以下SAFE日本語版)  Cuming, Rapee, Kemp, Abbott, Peters&Gaston (2009)によって開発された安全確保行動を測定する 尺度である。過活動(他者からの印象を操作する行動), 制限行動(他者から評価される状況を回避する行動), 社交不安症患者に生じやすい身体症状を隠す行動の3 つの下位尺度で構成されている。32項目から構成され ており,回答は“全くしない”(1点)-“いつもそうする” (5点)の5件法で求めた。合計得点が高いほど社会 的場面において安全確保行動をとることを示す。わが 国では荒井ら(2015)によって翻訳され信頼性と妥当 性が検討されている。 6.短縮版社会的不安測定尺度(FNE),日本語版 Fear of Negataive Evaluationの短縮版(笹川・金 井・村中・鈴木・嶋田・坂野,2004)  社交不安を維持させる認知的特徴としてあげられる 評価懸念の強さを測定する尺度である。12項目から構 成されており,回答は“まったくそう思わない”(1点)  - “非常にそう思う” (5点)の5件法で求めた。なお, 合計得点が高いほど評価懸念の強さを示す。 7.自尊感情尺度(山本・松井・山成,1982)  Rosenberg(1965)により作成されたものを山本・ 松井・山成(1982)が和訳したものを使用した。他者 との比較により生じる優越感や劣等感ではなく,自身 で自己への尊重や価値を評価する程度のことを自尊感 情と考えている。  そのため,この尺度は自身で自己 への尊重や価値を評価する程度を測定するものであ り,計10項目で構成さ  れている。回答は自己に対す る尊重や評価について,“あてはまらない”(1点) -” あてはまる”(5点)の5件法で求めた。 8.自意識尺度(菅原,1984)  この尺度は自分自身に,どの程度注意を向けやすい かの個人差(自意識特性) を測定するものである。自 己に向けられる意識には,私的自意識と公的自意識の 2つがある。私的自意識とは,自分の内面・気分など, 外からは見えない自己の側面に注意を向ける程度に関 する個人差を示すものである。公的自意識は,自分の 外見や他者に対する行動など,外から見える自己の側 面に注意を向ける程度に関する個人差を示すものであ る。そのため,この尺度は「公的自意識」11項目,「私 的自意識」10項目の計21項目で構成されている。回答 は自己に向けられる意識について,“全くあてはまら ない”(1点) -”非常にあてはまる”(7点)」の7件 法で求めた。  質問紙には,①強制的ではないこと,②途中で回答 をやめてもよいこと,③個人の回答を公開することが ないこと,④回答情報を処理から保管処分まで厳重に 保護することを明記した。なお,本研究は東京成徳大 学大学院心理学研究科の研究倫理審査委員会において 承認されている(承認番号16-1-11)。

結  果

 マスク着用者の特性を類型化するために,マスク 着用動機尺度を用いてWard法によるクラスタ分析を 行った。その結果,3つのクラスタが最も解釈可能だっ たため3クラスタを採用した(Figure1 ~ 2)。第1ク ラスタは従来マスク得点の平均値が15.08で平均より 高い。伊達マスク得点,社交不安マスク得点は平均よ り低かった。それ以外の尺度得点は平均値にあり,n 数の多さからも従来マスク群(風邪やウイルスなどの 感染予防のためなどの動機でマスクを着ける群,n= 107,51.6%)とした。第2クラスタはSIA-S(対人交 流場面に対する不安),過活動,身体症状を隠す行動, 安全確保行動,評価懸念(FNE)の得点が従来マス ク群や非マスク群よりも高い。また,欧米の先行研究 ではSIA-Sの得点≧36が社交不安の疑われるカットオ フ値(Peters,2000)であることから,クラスタ2の SIA-Sの平均値を見るためクラスタごとの記述統計量 を確認した(Table1)。クラスタ2のSIA-S平均値は 36.05のためクラスタ2の群は社交不安傾向にある群 であることが分かる。さらに,どの尺度の平均値も合 計平均より高い。そのため,クラスタ2は社交不安マ スク群(人目をさけるためなどの理由でマスク着用す る群,n=39,18.8%)とした。第3クラスタはSIA-S (対人交流場面に対する不安),過活動,身体症状を隠 す行動,安全確保行動,評価懸念(FNE),マスク着 用動機の得点が従来マスク群,社交不安マスク群と比 べて,すべて低いことから本研究では非マスク着用群 (マスク着用動機に関わらず,マスク着用の頻度が少 ない群,n=61,29.4%)とした。  次に得られたクラスタ間で,各尺度に有意差がある

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かを検討するため,得られたクラスタを独立変数,そ れぞれの尺度得点を従属変数とする一元配置分散分析 をすべての尺度について分析を行った。  分析の結果,SIAS(F(2,204)=3.38,p<.05),過活動 (F(2,204)=5.49,p<.01),身体症状を隠す(F(2,204)= 8.72,p<.001),安全確保行動(F(2,204)=5.67,p<.01), FNE(F(2,204)=3.76,p<.05)のそれぞれの得点にお いて有意差がみられ,群の主効果がみられた。しか し,SPS,マスクをつけてもらった時の事を想定して もらった上でのSPSとSIAS,CBI 1~3,制限行動, 自尊感情,私的自意識,公的自意識においては有意差 が見られなかった。  そして,有意差があったものに関しては多重比較 (Tukey HSD)を行った(Table1)。SIA-Sでは,社 交不安マスク群は非マスク着用群と比べて得点が高く 有意差(p<.05)があったが,従来マスク群との間に Figure1 クラスタ分析結果(デンドログラム) Figure2 クラスタ分析結果(マスク着用動機) Table1 記述統計量と多重比較の結果 平均値(SD) 多重比較 1(n=107) 2(n=39) 3 (n=61) SPS (α=.94) 17.39 (14.11) 23.03 (16.97) 16.57 (17.19) ― SIA-S (α=.91) 30.61 (14.83) 36.05 (16.09) 27.61 (17.42) 2>3 CBI-1 (α=.95) 27.58 (10.64) 27.74 (10.09) 24.79 (11.14) ― CBI-2 (α=.93) 21.83 (10.60) 22.49 (10.49) 19.43 (10.09) ― CBI-3 (α=.76) 17.26 (10.57) 17.82 (12.23) 16.21 (11.41) ― SIA-S* (α=.83) 25.23 (14.53) 27.62 (18.38) 24.80 (19.94) ― SPS* (α=.95) 12.51 (12.81) 17.82 (18.89) 12.87 (17.14) ― 従来マスク (α=.76) 15.08(2.66) 16.63(3.26) 7.34(2.23) 2>1>3 伊達マスク(α=.83) 8.85(2.88) 18.33(3.01) 7.00(2.42) 2>1>3 社交不安マスク(α=.84) 9.47(3.48) 18.15(3.04) 6.43(1.44) 2>1>3 制限行動 (α=.88) 28.67 (9.42) 29.82 (10.88) 25.79 (9.05) ― 過活動 (α=.89) 30.87 (11.00) 34.46 (12.83) 27.10 (9.69) 1>3,2>3 身体症状を隠す (α=.81) 10.49 (4.88) 13.28 (6.39) 9.08 (3.81) 2>1,2>3 安全確保行動(α=.94) 70.03 (23.02) 77.56 (27.16) 61.97 (19.77) 1>3,2>3 FNE (α=.90) 34.44 (12.21) 39.03 (10.10) 32.46 (11.94) 2>1,2>3 自尊感情 (α=.83) 28.78 (9.20) 29.03 (8.73) 28.93 (8.23) ― 私的自意識 (α=.93) 41.22 (16.00) 41.72 (15.49) 39.61 (15.78) ― 公的自意識 (α=.94) 43.07 (18.06) 49.59 (17.97) 42.74 (17.09) ―   *:マスク教示あり

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は有意差がなかった。従来マスクの得点は社交不安マ スク群がどの群よりも高い(ps<.001-.01)。また,従来 マスク群は非マスク群よりも得点が高く(p<.001)有 意差がみられた。伊達マスク,社交不安マスクの得点 においては,社交不安マスク群がどの群に対しても 高く(ps<.001),従来マスク群は非マスク群よりも得 点が高く(ps<.001),有意差が見られた。過活動にお いて,社交不安マスク群は非マスク着用群と比べて 得点が高く有意差(p<.01)があり,従来マスク群は 非マスク着用群より得点が高く,有意傾向程度の差  (p<.10) がみられた。身体症状を隠す行動については, 社交不安マスク群はどの群よりも得点が高く,有意差 (ps<.001-.01)があった。安全確保行動において,社 交不安マスク群は非マスク着用群と比べて得点が高く 有意差(p<.05)があり,従来マスク群は,非マスク 着用群と比べて得点が高く有意傾向程度の差(p<.10) がみられた。FNEでは,社交不安マスク群は非マス ク着用群と比べて得点が高く,有意な差(p<.05)が あった。また,社交不安マスク群は従来マスク群より も得点が高く,従来マスク群との間に有意傾向程度の 差(p<.10)がみられた。

考  察

 本研究では,一般大学生に対し,マスク着用動機尺 度を用いたクラスタ分析の結果,社交不安,評価懸念, 安全確保行動の特性によって従来マスク群(風邪やウ イルスなどの感染予防のためなどの動機でマスクを着 ける群),社交不安マスク群(人目をさけるためなど の理由でマスク着用する群),非マスク群(マスク着 用動機に関わらず,マスク着用の頻度が少ない群)の 3群に分類できる可能性が示唆された。また,ファッ ションや化粧の代わりにマスク着用をする頻度が多 く,公的自己意識が高く,自尊感情,社交不安,安全 確保行動の得点が低くなると想定していた伊達マスク 群は確認出来なかった。  過去の研究(廣瀬,2014)では対人関係によって傷 つけられることを伊達マスクによって防衛することで 対人関係の葛藤から逃れているのではと指摘してお り,本研究でも社交不安マスク群は,伊達マスク着用, 社交不安マスクの着用動機において,特にマスクを着 ける頻度が多く,対人交流不安の得点も高かった。し たがって,廣瀬(2014)が指摘していた伊達マスク着 用者の特性と今回仮定した社交不安マスクとは同質の 可能性があり,かつ社交不安傾向を持っている事が明 らかになった。したがって,今まで指摘されていた伊 達マスク着用者は社交不安マスク群とも言える可能性 が示唆されたことは重要な知見だと言える。  次に,今回「マスクを着けたことを想定したうえで 回答してください」という教示文を加えた上でSPS, SIASに回答をしてもらった。当初は社交不安マスク 群においてマスク着用の効果が高いと考え,どの群よ りも点数が下がり有意差が出ると考えたが,統計的に 有意な差はなかった。しかし,社交不安マスク群にお いてはSPSと教示ありSPSの平均値に5点差があり, SIASと教示ありSIASの平均値は10点以上差があるた め社交不安マスク群において,マスク着用をすること は対人交流不安やパフォーマンス不安を弱めるものと 認識されている可能性がある。  次に従来マスク群についてだが,従来マスクの得点 以外はどの尺度得点も平均値にあり目立った性質は見 られなかった。従来マスク群は花粉症や風邪などの予 防でマスク着用をしていることが多いため,マスク着 用も限定的な場面のみで,マスクをすることでの実際 的な心理的効用が少ないと考えられる。しかし,非マ スク着用群に比べると過活動,安全確保行動の得点は 高いため,マスク着用頻度が高くなる人は安全確保行 動をとる傾向にあり,特に他者からの印象を操作する 行動をとる傾向にある。マスク着用自体が安全確保行 動や過活動をさせやすくなる可能性もある。  非マスク群では,社交不安マスク群,従来マスク群 と比較しても,全マスク着用頻度,安全確保行動,過 活動,身体症状を隠す行動,それぞれの数値が低かっ た。従来マスク群と比較しても点数が低いことから, マスク着用頻度の少ない方が,安全確保行動をとりに くいと考えられる。廣瀬(2014)によると伊達マスク 着用の効用は2種類あり,「人と話さずに済む」など の外部から自己の防衛,もうひとつは自己をよく見せ る・自信をつけるような積極的な効用を指摘している。 そのため,風邪の為にマスク着用の頻度が多かったと しても,廣瀬(2014)の指摘する伊達マスクの効用を 無意識に得て,それが安全確保行動に繋がり,対人交 流不安を強めている可能性もある。  社交不安マスク群はSIA-Sの平均値がカットオフ≧ 36点以上の数値で,社交不安傾向のある群と言える。 そして,他の2群と比較してもSIAS(他者と交流する 場面に対する恐怖),SPS(他者から観察される状況に 対する恐怖,人前でのパフォーマンス状況に対する恐 怖)の得点は高いが,有意差が見られたのはSIASの 得点のみで非マスク群と比較した場合のみであった。 従来マスク群とはSIASの得点に有意差はないが,従 来マスク群の平均値は36点以下であり社交不安傾向に あるとはいえない。そのため,他者交流場面の恐怖が 強い者は伊達マスクや社交不安マスクの着用の頻度が 高い傾向にある。金井ら(2010)の研究でも社交不安 のサブタイプに“交流する場面に対する不安”が特に 強い対人交流型の存在を挙げており,生理的反応に関 する他者からの否定的評価の恐れが顕著であることを 明らかにしており,他者からのフィードバックを重視 した介入が有効であることを示唆している。本研究の 社交不安マスク群も生理的反応についての結果がでな

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かったが,交流場面に対する不安が強く,FNE(評価 懸念)の数値が高い事から他者から否定的評価に対す る恐れを有しており,対人交流型に近い特徴を有して いる可能性がある。マスク着用は顔を隠して視線にさ らされないという,自己防衛と自己をよく見せる効用 があると考えられる(廣瀬,2014)ことから,社交不 安傾向がある人にとっては,マスクを着けることで外 部から自己防衛と自己をよく見せる効用を得て対人交 流不安に対処を試みてるのかもしれない。  そして,社交不安マスク群,従来マスク群は非マス ク群と比較して,過活動,安全確保行動の得点が高い ことから,着用理由に関わらずマスク着用頻度が高い と安全確保行動をとり,過活動をする傾向にある。特 に,社交不安マスク群は身体症状を隠す行動の得点に おいてどの群よりも高く有意差があることから,身体 症状を隠す行動をとる傾向がある人は伊達マスクや社 交不安マスクとして着用する頻度が高くなる可能性が ある。また,社交不安傾向がある人にとってマスク着 用は社交不安を抑えるよりも  安全確保行動として機 能し,他者の印象操作だけでなく,身体症状を隠すも のとして捉えている場合,それが他者交流不安を強め ている可能性が示唆された。  しかし,岡島ら(2008)は適切な対処行動,安全確 保行動も一時的に不安を軽減する効果をもつため,適 切な対処行動によって得られる不安軽減効果と区別す ることが難しいと指摘している。また,適切な対処行 動として機能していた行動が安全確保行動になる可能 性があることを指摘しており,例えばリラクゼーショ ンを学んでも,リラクゼーションを行わなければ破局 的な結果が起きると考えてしまうと安全確保行動とし て機能してしまうClark(2006)。本研究でも,社交マ スク群は有意差がでている尺度の平均値は3群の中で 一番高いため,伊達マスクとしての着用頻度も多い。 檀野ら(2015)の研究でもあるように伊達マスクを利 用してすっぴんを隠したり,目元だけ化粧をして目元 美人を装ったり,小顔効果を演出するなど外見をよく するためなど積極的な用途で使用し,臨機応変にマス クを利用し,自己をよく見せる効用を得て対処行動と して機能させ不安を低減させていると思われる。だが, 廣瀬(2014)が指摘しているように伊達マスクは自己 防衛としての効用もあるため,例え「化粧の代わり」 だけでマスクを着けていても,「人と話さずに済むか ら」などの効用を無意識に得ることで,自己防衛のよ うな動機でマスクを着ける頻度が増えて,対処行動で あったものが安全確保行動に変わり,対人交流不安や 社交不安を強めてしまっている可能性がある。さらに, 社交不安マスク群は従来マスクとしも着用頻度が高い ので,表向きは「化粧の代わりや感染症を防ぐため」 としても,本当は「人と話さずに済むから」などの理 由でマスクを着用している人もいることが想定される ため,どんなマスク着用理由でも着用頻度が多い場合 はそれが安全確保行動になってないか,特に身体症状 を隠す行動とつながりがないかを確認することで社交 不安傾向があるかを判別出来る可能性がある。  以上のことから伊達マスクや社交不安マスクの動機 で着用する頻度が多い者に対しては社交不安傾向があ り,マスクは身体症状を隠す行動の一つとなる可能性 が高く,安全確保行動をより強めていることが考えら れる。社交不安傾向にある人はもちろん,伊達マスク 着用者に対して,マスク着用が現実にはかえって高い 不安を維持する安全確保行動になっていることを心理 教育し,マスクを着ける頻度を減らすような介入が有 効と考えられる。また,対人交流の不安や評価懸念が 強いため他者からのフィードバックを重視し,他者か ら適切な評価を受けるためのスキルを身につける必要 がある。さらに,マスク着用しなくても破局的な結果 は起きず,他者から否定的な評価は受けないというこ とを学習してもらうことが重要と考えられる。

今後の展望

 本研究では一般の大学生を対象にしており,今回の 結果が実際のSAD患者に適用出来るか調べるために, 実際のSAD患者を対象にした検討が必要である。そ して,大学生の男女を対象にしたが,年齢や性別を変 えて比較することで結果に違いがあると思われる。今 回の調査では伊達マスク,社交不安マスクとして着用 頻度が高いと社交不安も高まるのような結果になった が,今の日本社会においてマスク着用は一般的になっ てきているため,それらのマスク着用動機での着用頻 度が高まっただけで直接的に社交不安が高まると考え るのは短絡的すぎる。そのため,マスク着用による直 接的な効果,心理的効用,マスクの着用場面について 実証的な研究をすることでマスク着用と社交不安や安 全確保行動との関係が明らかになる。今後は,マスク 着用,非着用群にわけてスピーチ実験をすることで不 安の低減効果を確かめることや,マスク着用者にビデ オフィードバック技法,心理教育などに治療効果があ るかを調べる必要があると考えられる。そして,社交 不安者,伊達マスク着用者にとってマスク着用が安全 確保行動になりうる可能性は出たが,本当に成りうる かどうかは実験的な研究が必要である。壇野ら(2015) の研究をもとに自意識や自尊感情の尺度を使用したが 結果は出なかった。元々,心理学的なマスク研究は少 ないため,マスク着用者の心理的特性については不明 瞭な部分は多い。したがって,自意識や自尊感情の関 連を再確認することや,新たな心理的特性を知ること でより精度の高い分類が可能であると思われる。さら に,今回は社交不安の側面から調査したが,GHQな どを使い他の精神的健康度の側面からの比較をするこ とで伊達マスク,社交不安マスク群,または他のマス

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ク着用群に分類出来る可能性や,新たな適応的な面, 不適応な面が見つかることが考えられる。

引用文献

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Pilot study on classifying behavior for wearing surgical masks

Behaviors for dealing with social anxiety and Safety Behavior

-Keisuke SHIMURA

 (Graduate School of Psychology, Tokyo Seitoku University)

Hayasi TANAKA

 (Faculity of Applied Psychology, Tokyo Seitoku University)

  Motives for wearing surgical masks can be classified into several groups. For example,  conventional use such as for preventing infections, and the so-called “Date-mask”, such as  instead of makeup. Each group might be characterized by social interactional anxiety and  safety behaviors, among others. Participants were university students (N=220). Characteristics  of  people  wearing  masks  were  analyzed  using  the  Mask  Wearing  Motives  Scale.  Cluster  analysis of responses to the scale was conducted using Ward’s method. Results indicated  three clusters. The first cluster had a high frequency of wearing a mask for conventional use.  Therefore,  this  cluster  was classified  as the conventional  mask  group. The second cluster  showed higher mean scores for all the motives for wearing a mask, Social Interaction Anxiety  Scale(SIA-S), hyperactivity, behaviors for hiding physical symptoms, safety behavior, and Fear  of Negative Evaluation(FNE), compared to other two groups. Furthermore, the mean score of  SIA-S exceeded the cutoff scores≧36, which suggested social anxiety disorder. Therefore, this  group was classified as the social anxiety mask group. The third cluster indicated lower scores  for SIA-S, hyperactivity, behaviors for hiding physical symptoms, safe behaviors, FNE, and  mask wearing motives, compared to other two groups. They were classified as the non-mask  group. Key words: Social anxiety disorder, Mask, “Date-mask,” Safety behavior, Cluster analysis Bulletin of Clinical Psychology, Tokyo Seitoku University 2017, Vol. 17, pp. 27-34

参照

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