奈良時代・平安時代の仏教
伝来後の仏教(飛鳥時代の仏教)
1.聖徳太子
① 仏教を初めて深く理解した日本人
高句麗の僧:恵慈に学ぶ。仏教はあらゆる人や国がしたがうべき普遍的な真理である ととらえ興隆につとめる。
② 『三経義疏』
聖徳太子による「法華経」「維摩経」「勝鬘経」の注釈書(在家仏教の意義を説く)。
③ 聖徳太子の思想
(1)凡 夫
煩悩に迷い苦しむ不完全な者・仏から見れば人間はみな凡夫であり、一見正しく見え る人も絶対に誤りを犯さない人はいない。人の意見には素直に耳を傾け相手の考えを尊 重せよ。
(2)「世間虚仮、唯仏是真」(世の中は空しく仮のもの、仏だけが真実である)
(3) 十七条憲法…官吏の心得として制定・仏教の奨励・共同体の倫理など
一、和を以て 貴とうとしと為し、 忤さからふること無きを宗と為よ。人みな党あり、また達さとれる もの少なし。…上かみやわら和ぎ下しも睦むつびて、事を 論あげつらうに諧かなうときは、すなわち事理おの ずから通ず。何事か成らざらん。
和をなによりも大切なものとし、いさかいをおこさぬことを根本としなさい。人はグループをつくりたがり、悟り きった人格者は少ない。…上の者も下の者も協調・親睦の気持ちをもって論議するなら、おのずからものごとの道 理にかない、どんなことも成就するものだ。
二、篤く三宝を敬へ。三宝とは仏・法・僧なり。
三、詔を承りては必ず謹め。君をば則ち天とす。臣をば則ち地とす。
天皇の命令をうけたならば、かならず謹んでそれにしたがいなさい。君主はいわば天であり、臣下は地にあたる。
四、群卿百寮、礼を以て本とせよ。其れ民を治むるが本、要ず礼に在り。
六、悪を懲こらし善を勧すすむるは、 古いにしえの良き典のりなり。ここをもって人の善を匿かくすことなく 悪を見ては必ず匡ただせ。
悪をこらしめて善をすすめるのは、古くからのよいしきたりである。そこで人の善行はかくすことなく、悪行をた らかならずただしなさい。
七、人 各おのおの任有り。 掌つかさどること宜よろしく濫みだれざるべし。
人にはそれぞれの任務がある。それにあたっては職務内容を忠実に履行し、権限を乱用してはならない。
九、信(まごころ)はこれ義の本もとなり。事こと毎ごとに信あれ。
真心は人の道の根本である。何事にも真心がなければいけない。
十、我必ず聖にあらず。彼必ず愚にあらず。共にこれ凡夫のみ。
自分はかならず聖人で、相手がかならず愚かだというわけではない。皆ともに凡夫なのだ。
十四、群臣百寮、嫉妬し っ とあることなかれ。われすでに人を嫉ねためば、人またわれを嫉む。
官吏たちは、嫉妬の気持ちをもってはならない。自分がまず相手を嫉妬すれば、相手もまた自分を嫉妬する。
十五、私に背そむきて 公おおやけに向うは、これ臣の道なり。
私心をすてて公務にむかうのは、臣たるものの道である。
十七、それ事ことは独ひとり断さだむべからず。必ず衆とともによろしく 論あげつらうべし。
奈良時代の仏教
1.鎮護国家(国家仏教)
① 鎮護国家とは
奈良時代には、打ち続く疫病や災害に対して、仏教の力によって国家の安泰をはかる 鎮護国家(仏教の力により国家の安泰を願う)の思想がもちいられた。
② 国家政策としての崇仏と仏寺建立・大仏造立
(1) 鎮護国家→国家(朝廷)は仏教(僧侶)保護・統制下におく。
(2) 聖武天皇…国分寺建立・大仏造立・東大寺造営。
(3) 鑑真(唐から来日)が日本に戒律を伝え東大寺に戒壇設置。
・戒壇…正式な僧侶になるための戒律を授ける儀式の場。
・南都六宗(三論宗・成実宗・法相宗・俱舎宗・華厳宗・律宗)…遣唐使として入唐し た留学僧により中国から多くの経典が招来される。経典や教理の研究をする学派 (学問仏教)として成立。諸宗兼学=一寺院内にいくつもの宗が存在。
(4)仏教の民衆への拡大
行基(行基菩)…国家の仏教統制を無視して民間布教・社会事業推進。はじめ国家か ら弾圧を受けるもその民衆への影響力を評価されて東大寺大仏造 立への協力を依頼され、その功により「大僧正」に叙せられる。
平安時代の仏教
1.平安仏教の概要
① 平安初期
奈良時代の政府主体の鎮護国家の仏教に対し、仏教本来の悟りを目的とした修行主体 の仏教が台頭。奈良時代の仏教が都の大寺院を拠点としたのに対して山岳での修行を重 視(山岳仏教)。遣唐使に従って中国(唐)にわたった最澄と空海は、それぞれ天台宗と真 言宗を学んで帰国し、桓武天皇や嵯峨天皇の保護を受けながら新しい仏教を広めた。
② 平安中期
真言宗に続いて天台宗も密教化し、病気平癒など私的な現世利益にこたえる教えとし て主として貴族の支持を得た。また神仏習合が進んで民衆信仰としての仏教も芽生えた。
また国風文化と相まって仏教も土着化し天神信仰や怨霊信仰が生まれた。
③ 平安末期
相次ぐ戦乱・凶作などの社会不安を反映した絶望的な末法思想や死後往生を願う浄土 信仰が流行。念仏を広めた空也や現世否定の思想を唱えた源信の主張は庶民層にも影響 を拡大していった。
2.最澄(伝教大師)=天台宗(比叡山延暦寺)
① 最澄の思想
(1) 法華経を根本経典とし、「円」(法華経の教学)、「禅」、「密」(密教)、「戒」(戒律)を 学ぶ四宗合一の総合を基本とする。
(2) 一乗思想(法華一乗)…「一切
いっさい
衆 生
しゅじょう
悉
しつ
有
う
仏 性
ぶっしょう
」「山川
さんせん
草木
そうもく
悉皆
しっかい
成 仏
じょうぶつ
」
誰も(人間だけでなく生きとし生けるものすべて)が仏性を持っており、それを自覚し て修行すれば等しく悟りを開ける…教えや人の素質により仏になれるかどうかには差 があるとする奈良仏教(とくに法相宗)を批判。
② 最澄の著作
(1) 『顕戒論』
奈良仏教では小乗戒(小乗仏教における戒律)であったのに対し、大乗菩戒(大乗仏教 における戒律)によって僧になる資格を与える。
(2) 『山家学生式』(僧侶の育成方針と規則)
③ 最澄(天台宗)の影響
源信・法然・日・道元などの鎌倉新仏教につながる指導的人物を比叡山(天台宗)の 学僧として輩出。
3.空海(弘法大師)=真言宗(高野山金剛峰寺)(東寺=教王護国寺)
① 空海の思想
(1) 宇宙のあらゆる事象は大日如来の働きのあらわれである。
(2) 密教・大日如来(毘盧遮那仏)・三密を通じ即身成仏(大日如来と一体化)をめざす。
(3) 三密とは「身に印契を結び」「口に真言を唱え」「意が仏を観じる」。
(4) 曼荼羅…大日如来を中心に宇宙や仏の世界を図示したものあらゆる仏は大日如来 (宇宙の根本仏)の分身。
② 空海の著作
(1) 『三教指帰』
(2) 『十住心論』
4.密 教
大日如来の言葉(真言・梵語)を体得する言葉では伝えられない、容易には知り得ない 深い秘密の教え…南都六宗のように、経典の研究により一般の人でも言葉で理解するこ とができる普通で容易な教えを顕教という)⇒山岳修行で霊力を体得・加持祈による 現世利益・貴族層に受容される。真言宗は最初から密教(東密)・天台宗はのちに密教化(台 密)。
5.神仏習合=日本古来の神々と仏教信仰が融合
① 本地垂迹説
仏を本地(本体)とし神々を垂迹(化身)とする。
⇒仏が人々を救う(教化する)ために姿を変えて現れたのが神(権現)=権現思想 ⇒神宮寺(神社の中に寺院がある)・神前読経(神棚の前でお経を読む)
② 修験道
山岳信仰と仏教信仰(山岳仏教)が融合・開祖は役小角・修行者は山伏
末法思想
1.末法思想の背景
平安時代中期から相次いだ戦乱や天災による社会不安の広がり。
2.末法の解釈釈(仏陀)の入滅後
① 正法
教(正しい教え)・行(教えに対する修行)・証(修行の結果の悟り)の実現期間
② 像法
教・行のみが存在する(悟りはない)期間
③ 末法
教のみが残る乱れた時代が1万年続く。日本では1052年からといわれた。
1051年から東北地方で前九年の役(前九年合戦)と呼ばれる大きな戦乱がはじまり、
人々が末法の到来を信じる一因となった。摂政・関白をつとめた藤原頼通が建立した平 等院鳳凰堂も阿弥陀如来像がまつられる阿弥陀堂であり、末法突入と同時期の1053年 に完成した。都の貴族たちの間にも末法思想と浄土信仰が広まっていたことが分かる象 徴的な建築物である。
3.浄土信仰
① 浄土信仰
阿弥陀仏のいる西方極楽浄土への往生を願う信仰
② 浄土信仰の成立
唐の善導が南無阿弥陀仏の念仏で救われると説き多くの信者を集めた。奈良時代に日 本にも伝えられたが、平安時代後期に戦乱など社会不安が増大すると、末法思想の流行 とともに急速に人々の間に広まった。
③ 浄土教
阿弥陀仏を信じることで死後に極楽浄土に往生できる教え。阿弥陀仏は無量寿仏とも よばれ、かつて法蔵菩として修行していたとき一切の衆生が救われない限り自らも仏 にはならないと誓いをたてた(本願(「弥陀の本願」)という)。
④ 念仏「南無阿弥陀仏」をとなえる
称名念仏(仏を思い浮かべる「観想念仏」・仏の名を唱える「称名念仏」などがある。
⑤ 空也(市聖)
10世紀半ば。諸国を遊行し念仏を庶民に説き、社会事業・貧民救済にあたる。
⑥ 源信 (天台宗)…10 世紀後半。
(1) 主著…『往生要集』 極楽浄土へ往生するための教えを平易に説く。
「厭離
お ん り
穢土
え ど
、欣求
ご ん ぐ
浄土
じょうど
」(穢れた世を厭い、極楽への往生を願う)
(2) 影響…源信の念仏は「観想念仏」であったが、のちの法然の浄土宗成立に影響。
問1 「十七条憲法」第一条の全文は次のとおりである。この条文の趣旨に合致する記述と して最も適当なものを,以下の①~④のうちから一つ選べ。[2007・センター・本試験]
「和をもって貴しとし,忤(さから)う*(1)ことなきを宗(むね)とせよ。人みな党(たむら)
*(2)あり。また達(さと)れる者少なし。ここをもって,あるいは君父に順(したが)わず。ま た隣里に違(たが)う。しかれども,上(かみ)和(やわ)らぎ,下(しも)睦(むつ)びて,事を,論(あ げつら)う*(3)に諧(かな)う*(4)ときは,事(じ)理(り)おのずから通ず。何事か成らざらん。」
*(1)忤う:反対する,対立する *(2)党:集団,派閥
*(3)論う:議論する,話し合う *(4)諧う:調和する
① みんなの意見が一致することを目指して,慎重に妥協点を探りながら話し合いがで きる達観者になることを勧めている。
② 利害にこだわって他者と衝突するのではなく,親和的関係を結んだうえで話し合い を続けることの大切さを強調している。
③ 他者との対立を回避するために,大局的な立場から自然に道理が通じるような状況 を作り出すことの大切さを訴えている。
④ むやみに反対意見を出すのではなく,相手の意見を尊重し集団の意向に同調できる ような人格者になることを諭している。
問2 以下に示す文章の に当てはまる語句を選びなさい。[2002・センター・追試験]
社会の秩序をどのような規範にもとづいて維持するかについては,様々な考え方がありう
る。これは,豪族を統括するための規範として「和」を掲げたものであり,その意図は論議 が和やかな雰囲気のなかで行われることを奨励するところにあった。間違いを犯す可能性の ある人間として,相手の立場を互いに思いやりながら論議することの大切さを説いたもので ある。ここには,仏(ほとけ)から見れば,人間は「 」として平等であるという観念が 内包されている。このような人間相互の思いやりの精神が秩序の維持に不可欠だというので ある。
① 群 臣 ② 百 姓 ③ 凡 夫 ④ 悪 人
問3 聖徳太子は「十七条憲法(憲法十七条)」で役人に仏教を尊重させ、彼らの心を正そう とした。その中には、「凡夫」であることを自覚させることによって心を正そうとした条 文がある。その条文の抜粋として正しいものを、次の①~④のうちから一つ選べ。
[2011・センター・本試験]
① まごころ(信)は正しいこと(義)の根本である。役人はいつもまごころに努めるべきで ある。…まごころをもてば何事も可能になる。
② 人には、おのおのその任務がある。担当者の任命を適切に行え。…事柄の大小にか かわらず適任者を得たならば、世の中は必ず治まる。
③ 他人のなした善は、これを隠さないで顕(あらわ)し、また、他人が悪をなしたのを見 たならば、必ずそれをやめさせて正しくしてやれ。
④ 心の怒りを絶って、…意見の違いに怒らないようにせよ。…・他人が怒ったとしても、
むしろ自分に過失がなかったかどうか省みよ。
ら一つ選べ。 [2007・センター・本試験]
① 無量寿経・観無量寿経・阿弥陀経の注釈書である『三経義疏』を著した。
② 儒教や道教よりも仏教が優れていることを説く『三教指帰』を著した。
③ 現世を汚れた世界とみなす「厭離穢土,欣求浄土」という言葉を残した。
④ 現世をはかないものとする「世間虚仮,唯仏是真」という言葉を残した。
問1 以下に示す文章の に当てはまる文章を選びなさい。[1998・センター・本試験]
かつて,仏教における「仏」や儒教における「聖人」は,人々の崇敬と 憧 憬しょうけいの対象であ り,あるいは人間の理想であった。ところがそれらと人間との関係をどのように捉(とら)え るかをめぐっては,さまざまな対立する見方があった。
たとえば最澄は,大乗の教義に従い, と考えた。
① 人間のみが仏性を有し,いかなる世間的生活をしていても,成仏できる。
② 生きとし生けるものはすべて仏性を有するから,人は等しく成仏できる。
③ 俗世を離れて僧院で生活すれば,戒律は不要であり,誰でも成仏できる。
④ 僧院は欲望の巣だから,むしろ俗世での修行によってのみ,成仏できる。
問2 比叡山に延暦寺を建立した最澄の思想についての記述として最も適当なものを,次の
①~④のうちから一つ選べ。 [2001・センター・本試験]
① 正しい仏教を樹立することによって,立正安国が達成されると主張した。
② 『法華経』の教えを中心とし,すべての衆生に仏性があることを強調した。
③ ひたすら修行をすることが,そのまま悟りの証(あかし)であると考えた。
④ この宇宙の諸事象は,すべて大日如来のあらわれであると説いた。
問3 以下に示す文章の に当てはまる語句を選びなさい。[2010・センター・本試験]
仏教をさらに深く学ぶため唐に渡った空海は,密教の僧恵果に出会った。帰国した空海は それを真言密教として体系化し、 と一体化することで即身成仏できると説いた。
① 弥勒菩薩 ② 法蔵菩薩 ③ 釈迦如来 ④ 大日如来
問1 次の引用はある古典落語の一部である。場面は,とある事情から死地に赴くことに同 意してしまったお人好
よ
しの金蔵が,世話になっている親分に対して,「田舎へ旅に出る」
と嘘
うそ
をつきながら別れのあいさつをしようとしているところである。 に入れるの に最も適当なものを,以下の①~④のうちから一つ選べ。
[2009・センター・本試験]
親 分 「で,田舎といって,どっちへいくんだ?」
金 蔵 「ええ, へまいります」
(「品川心中」興津要編『古典落語(続)』所収)
① 東のほう ② 西のほう ③ 南のほう ④ 北のほう
問2 阿弥陀仏の誓願(本願)についての説明として最も適当なものを、次の①~④のうちか ら一つ選べ。 [2012・センター・本試験]
① 『無量寿経』に説かれた四十八の誓願からなり、阿弥陀仏を信じてひたむきに名号 を称える者は一人残らず浄土へ往生させるという内容を中心とする。
② 『無量寿経』に説かれた四十八の誓願からなり、阿弥陀仏を信じてひたむきに唱題 にはげむ者は一人残らず浄土へ往生させるという内容を中心とする。
③ 『法華経』に説かれた四十八の誓願からなり、阿弥陀仏を信じてひたむきに真言を 称える者は一人残らず浄土へ往生させるという内容を中心とする。
④ 『法華経』に説かれた四十八の誓願からなり、阿弥陀仏を信じてひたむきに坐禅に はげむ者は一人残らず浄土へ往生させるという内容を中心とする。
問3 古代の「清き明き心(清明心)」以来の伝統をもつ,心情の純粋性を尊ぶ倫理観は,武 士の生きる姿勢にも影響を与えてきたとされる。この倫理観について述べた言葉として 適当でないものを,次の①~④のうちから一つ選べ。 [2008・センター・本試験]
① 正直の心を以
もっ
て天皇
す め ら
朝廷
み か ど
を 衆
もろもろ
助け仕
つか
へ奉
まつ
れ。
② 穢土
え ど
を厭離
お ん り
し,浄土を欣求
ご ん ぐ
す。
③ 人能
よ
く私心を除く時は至大にして天地と同一体になるなり。
④ 至誠にして動かざる者未
いま
だ之
こ
れあらざるなり。
問4 以下に示す文章の に当てはまる語句を選びなさい。[2009・センター・追試験]
仏教は、奈良時代に鎮護国家の役割を担ったが、次第に人々のなかに浸透し始めた。
平安時代の は、念仏を唱えて諸国を遊行し、社会事業を通して人々を救おうとした。
① 鑑 真 ② 空 也 ③ 明 恵 ④ 最 澄