厚生労働科学研究費補助金(がん対策推進総合研究事業(がん政策研究事業))
総括研究報告書
国際分類に基づくわが国の公的がん研究費の俯瞰的分析とその方法 論及び戦略提言に関する研究
研究代表者 藤原 康弘(国立がん研究センター 企画戦略局 局長)
わが国のがん研究には多くの公的資金が配分されているが、がん研究全体を俯瞰し た適正な配分や諸外国との比較分析は充分に検討されていないのが現状である。本研 究は、諸外国で活用されているCSO分類の利用可能性を検討すると同時に、わが国の がん研究費の実態を明らかにすることを目的として実施した。
本年度研究により、公的に利用可能な各種データベースよりわが国の公的がん研究 費に関する情報の抽出が可能で、各省庁のがん研究費情報を統合した公的がん研究費 データベースの構築により、わが国の公的がん研究費を俯瞰的に分析することが可能 であることが明らかになった。また本年度研究では厚労科研費と文科科研費の特徴を 明らかにすることができたほか、わが国と海外のFAとのがん研究費配分の比較分析が 可能となった。今後は、公的がん研究費データベースの今後の拡充と質の向上、さら にデータベースを用いた分析の充実が期待される。
研究代表者 藤原 康弘
国立がん研究センター 企画戦略局
局長 研究分担者 吉田 輝彦
国立がん研究センター研究所 遺伝医学研究分野・分子腫瘍学 分野長
小川 俊夫
国際医療福祉大学大学院 医療福祉学研究科
准教授 喜多村 祐里 大阪大学大学院 医学研究科環境医学 准教授
山本 精一郎
国立がん研究センター がん予防・検診研究センター 保健政策研究部
部長
A. 研究目的
がん研究の推進は、わが国のがん対策の 大きな柱の一つである。がん研究の効果的 かつ継続的な推進の必要性が「がん対策推 進基本計画」において明記され、本計画に 基づいて厚労省、文科省などからがん研究 に対する公的研究費(以下、公的がん研究 費)が幅広く投入されている。
がん研究費の適切な配分を実現するため に、平成12年に米国・国立がん研究センタ ーにおいてCSO (Common Scientific Outline) と呼ばれるがん研究の目的別分類を用いた 分析手法が開発された。この CSO 分類は、
先進諸国のがん研究費配分機関(以下、FA)
によって組織された国際がん研究パートナ ー シ ッ プ (International Cancer Research Partnership、以下 ICRP)を通じ、米国のみ ならず英国や仏国等の主要 FA において活 用されている。
図1 CSO分類
一方、わが国では公的がん研究費は各省 庁の判断で配分されているが、がん研究全 体を俯瞰した適正な配分や、諸外国との比 較分析は充分に検討されていないのが現状 である。がん研究費の適切な配分には国内 外の FA の動きを横断的に把握・分析し、
わが国のニーズや特徴を十分に反映したが ん研究の戦略的な推進が必要であり、その ためにはCSO分類が現状で最も優れたツー ルであると考えられる。
このような背景を踏まえて、諸外国の CSO情報の入手を目的として、平成25年度 より国立がん研究センターは ICRP に参加
し、平成24〜26年度厚生労働科学研究費補
助金指定研究「がん研究の今後のあり方に 関する研究」・「第 3 次対がん総合戦略全 体の報告と評価に関する研究」(研究代表 者:堀田知光)及び国立がん研究センター がん研究開発費 23-A-6「がん研究企画と評 価の方法論に関する研究」(研究代表者:
平成 24 年度吉田輝彦、25 年度藤原康弘)
において、厚生労働科学研究費のうち第 3 次対がん総合戦略研究(以下、3 次がん)
を分析対象とし、平成16〜25年度の10年 間にわたる 3 次がん関連の研究について CSO及び臓器別分類を用いて分析した。そ の主な結果は厚生労働省・文部科学省・経 済産業省による「今後のがん研究のあり方 に関する有識者会議」で報告した。
本研究は、国内外の諸機関と積極的に連 携して公的がん研究費の情報を収集して CommonScien ficOutline(CSO)
1. Biology
2. E ology(causesofcancer) 3. Preven on(interven ons) 4. EarlyDetec on,Diagnosis,and
Prognosis 5. Treatment
6. CancerControl,Survivorship, andOutcomeResearch
CSO分類を行い、詳細な分析と政策提言を 実施する。本研究により、公的がん研究費 配分の科学的な検証や、エビデンスに基づ いたがん研究政策の立案を可能にするほか、
本研究で検討する枠組みは、研究費配分の 意思決定のために必要不可欠な方法論と情 報を提供することが期待される。
B. 研究方法
本研究は、平成26年度より3カ年にわた り、研究班の組織、わが国の公的がん研究 費に関するデータ集積と「公的がん研究費 データベース」の構築、データベースを用 いた詳細分析、先進諸国のがん研究費配分 との比較研究、分析結果を踏まえた考察と 政策提言の手順で実施する。研究初年度の 本年は、研究班を組織したうえで公的がん 研究費データベースの構築に向けたデータ 収集とデータベース構築、さらに分析手法 の検討などを行った。
1.研究班の組織
研究代表者を座長とし、分担研究者以外 の各分野の専門研究者等からなる研究協力 者を含めた研究班を組織した。
2.わが国の公的がん研究費データベースの 構築
公的がん研究費に関する情報を網羅的に 収集して、公的がん研究費データベースを 構築した。
(1)公的がん研究費情報の収集
本年度は、文部科学省科学研究費補助金
(以下、文科科研費)のうち2011年度に配 分されたがん関連研究費の情報を、KAKEN データベース(科学研究費助成事業データ ベース、国立情報学研究所)より抽出した。
(2)データベース構築
収集した文科科研費データを過年度に抽 出した厚労科研費のがん研究データのうち、
2011 年度に配分された研究情報と統合し、
「公的がん研究費データベース」を構築し た。構築した公的がん研究費データベース に格納された各研究の研究要旨を用いて、
CSO分類及び臓器別分類を付加した。
3.公的がん研究費データベースを用いたわ が国の公的がん研究費分析
構築した公的がん研究費データベースを 用いて、CSO・臓器分類別、研究規模別の 分析を実施した。また、ICRPを通じて米国 や英国、仏国などの公的がん研究費データ を入手し、わが国のがん研究費との比較分 析を実施した。
4.わが国に適したがん研究費の配分とがん 研究費分析のあり方に関する検討
公的研究費データベースを用いた分析に より、わが国に適したがん研究費の配分に ついて考察した。また、次年度以降の研究 について検討した。
(倫理面への配慮)
本研究は日本学術会議声明「科学者の行 動規範」(2013 年1 月25日改訂)を遵守 して実施した。なお、本研究はがん研究費 の配分に関する分析を行うものであり、直 接、患者や健常者の試料・情報を解析する 研究、動物などを対象とした研究は行わな い。
C. 研究結果
1.研究班の組織
研究代表者を座長とし、分担研究者によ って構成された研究班を組織し、第一回研 究班会議を2014年12月3日に開催した。
研究班会議での討議内容は、以下の通りで ある。
(1)公的がん研究費データベース構築の現状 公的がん研究費データベース構築のため のデータ抽出方法について討議した。特に、
公的がん研究費データベースの質を担保す るため ICRP へのヒアリングなどを通じて
validationの方法について検討するほか、デ
ータ抽出及び収集方法について関係省庁と の連携を密にすることになった。
(2)公的がん研究費データベースを用いた分 析
公的がん研究費データベースを用いた分 析の中間報告として、平成26年度日本癌学 会において発表を行った。この成果を踏ま え、今後のデータ分析の方法などについて 討議を行った。
(3)公的がん研究費の国際比較
ICRP メンバーに公開されている米国や 英国、フランスなど各国の公的機関から拠 出されたがん研究費データを用いた国際比 較の手法について討議した。
(4)本研究の成果発表
本研究の成果は、わが国のがん研究に関 する政策立案やがん研究費配分に大きな影 響を与えるものと考えられる。また、世界 的に見ても国レベルで公的がん研究費を詳 細に分析した研究は前例があまりないこと から、幅広く公表する方向で同意した。具 体的には、peer-review journalに投稿するほ か、新聞などマスコミに対する成果の公表 について、今後検討することになった。
2.わが国の公的がん研究費データベースの 構築
本年度研究では、2011年度の文部科学省 科学研究費助成事業(学術研究助成基金助 成金/科学研究費補助金)(以下、文科科 研費)より 3,141 件のがん研究を抽出し、
それぞれの研究に対してCSO及び臓器分類
の確保を目的として、すべての分類の付加 を 2 名の担当者が実施した。この文科科研 費データに、過年度研究でCSO分類を付加 して分析した2011年度の3次がん関連の厚 労科研費と 2010 年度の国立がん研究セン ター・がん研究開発費の合計 258件と統合 し、全体で 3,399 件のがん研究データを格 納した公的がん研究費データベースを構築 した。詳細は本報告書小川論文を参照され たい。
3.公的がん研究費データベースを用いたわ が国の公的がん研究費分析
本年度研究で構築した公的がん研究費デ ータベースを用いて分析を実施した。わが 国のがん研究費は「CSO5 治療」への配分 が最も多く、ついで「CSO1 生物学」の順 で配分が多いことが明らかになった。臓器 別では、多い方から「部位が不明ながん」
「肺がん」「白血病」「乳がん」の順に配 分されていることが明らかになった。また、
図表4 CSO分類別の公的がん研究費
図表5 臓器分類別の公的がん研究費
厚労&文科 研究費
(千円) 件数
一件あたり 研究費
(千円)
CSO1 3,492,461 973 3,591
CSO2 1,735,477 455 3,816
CSO3 487,196 89 5,505
CSO4 2,201,187 520 4,237
CSO5 4,761,591 1,069 4,453
CSO6 1,720,058 294 5,847
合計 14,397,969 3,399 4,236
厚労&文科 研究費
(千円) 件数 一件あたり
研究費
(千円)
2 部位が不明ながん 3,721,516.3 677.6 5,493
28 肺がん 1,021,429.7 252.5 4,045
27 白血病 969,269.3 191.9 5,051
7 乳がん 887,759.4 184.4 4,816
64 結腸/直腸がん、大腸がん 885,114.4 194.2 4,557
51 胃がん 797,201.7 154.3 5,166
23 肝臓がん 790,036.9 181.3 4,358
37 膵臓がん 482,702.6 142.9 3,379
36 口唇がんおよび口腔がん 479,326.9 200.1 2,396
12 食道がん 429,799.2 83.4 5,156
厚労科研費と文科科研費では、CSO及び臓 器分類で配分が異なることが明らかになっ た。ICRPを通じて入手した米国と英国の公 的がん研究費データと比較すると、それぞ れのがん研究費は異なった配分がなされて いることが明らかになった。今年度分析の 詳細は本報告書の小川論文を参照されたい。
4.わが国に適したがん研究費の配分とがん 研究費分析のあり方に関する検討
公的がん研究費データベースの構築及び 分析に際して、データの質の担保が重要で ある。その手法についてICRPの担当者にヒ アリングを実施し、その方法などについて 討議を行った。また、最新のコーディング 手法や分析事例などの情報も入手した。
ICRP訪問の詳細は、本報告書の喜多村・小 川論文を参照されたい。
さらに、厚労省や文科省へのヒアリング を実施し、データ抽出の妥当性について、
各省の担当者との打ち合わせを実施した。
D. 考察
本年度研究により、公的に利用可能な各 種データベース、すなわち厚生労働科学研 究成果データベース(国立保健医療科学院)
や科学研究費助成事業データベース(国立 情報学研究所)よりわが国の公的がん研究 費に関する情報の抽出が可能であることが 明らかになった。また、抽出した情報を集 約してデータベースを構築し、CSO分類を 用いることで、厚労科研費と文科科研費の 特徴を明らかにすることができたほか、わ が国と海外の FA とのがん研究費配分の比 較分析が可能となった。
本年度の研究は公的がん研究費のうち入 手可能な厚労科研費と文科科研費のみを用 いて実施したが、今後は各省庁より拠出さ れているがん関連の研究費をすべて網羅す る予定であり、その結果としてわが国のが
ん研究費の全容が詳細に明らかになるもの と期待される。
本研究で構築した公的がん研究費データ ベースを活用することで、わが国の公的が ん研究費の特徴の分析と、エビデンスに基 づいた今後のがん研究費の配分の多角的な 検討が可能になったと考えられる。本研究 で検討する調査・分析の枠組みは、がん研 究費を配分している各省及び平成 27 年度 に発足予定の医療分野の研究開発の司令塔 においても、研究費配分の意思決定のため に必要不可欠な方法論と情報を提供するこ とが可能である。さらに、先進諸国の FA との連携やわが国と海外の研究機関との共 同研究の推進にも貢献できると考えられる。
学術的にみると、国レベルのがん研究費 の分析は世界的にみてもあまり実施されて おらず、本研究で実施したわが国全体の公 的がん研究費の分析は貴重な知見と考えら れる。さらに、本研究班で実施する手法は、
がんのみならず他の疾患の研究費や国全体 の医学系研究費の分析に応用可能であるこ とから、CSO分類あるいは類似の分類を用 いた医学系研究費の全容把握と適正配分に 資する知見としての成果も期待される。
E. 結論
本年度研究により、公的に利用可能な各 種データベースよりわが国の公的がん研究 費に関する情報の抽出が可能で、各省庁の がん研究費情報を統合した公的がん研究費 データベースの構築により、わが国の公的 がん研究費を俯瞰的に分析することが可能 であることが明らかになった。また本年度 研究では厚労科研費と文科科研費の特徴を 明らかにすることができたほか、わが国と 海外の FA とのがん研究費配分の比較分析 が可能となった。さらに、各省庁や ICRP との協議を通じ、公的がん研究費データベ
ースの今後の拡充と質の向上、さらにデー タベースを用いた分析の充実が期待される。
F. 健康危険情報 なし
G. 研究発表 1.論文発表 2.学会発表
小川俊夫、祖父江友孝、喜多村祐里、山本 精一郎、吉田輝彦、藤原康弘、堀田知光.
国際分類 Common Scientific Outline(CSO)
を用いたがん研究費の分析:厚労科研費と 文科科研費の特性に関する比較分析.第73 回日本癌学会総会(於パシフィコ横浜)
H. 知的財産権の出願・登録状況 なし