長期的な地形変化と気候変動による 地下水流動状態の変動性評価手法の構築
尾上博則*1 小坂寛*2 松岡稔幸*3 小松哲也*1 竹内竜史*1 岩月輝希*1 安江健一*4
高レベル放射性廃棄物の地層処分の安全評価は,処分施設閉鎖後,数万年以上に及ぶ時間スケールを対象として実施 される.そのため,長期的な自然現象による影響を考慮した地下水の流速や移行時間といった地下水流動状態の長期変 動性の評価技術の整備は重要な技術開発課題である.本研究では,長期的な自然現象のうち隆起・侵食による地形変化 や気候変動に着目し,それらに対する地下水流動状態の変動性を,複数の定常解析結果に基づく変動係数で評価可能な 手法を構築した.岐阜県東濃地域を事例とした評価手法の適用性検討の結果,過去100万年間の地形変化や涵養量の変 化による影響を受けにくい地下水の滞留域を三次元的な空間分布として推定した.本評価手法を適用することで,地層 処分事業の評価対象領域において,地形変化や気候変動に対する地下水流動状態の変動性が小さい領域を定量的かつ空 間的に明示することができる.さらに,岐阜県東濃地域における事例検討結果を踏まえて,外挿法を用いた地下水流動 状態の変動性の将来予測の基本的な考え方を整理するとともに,将来予測手法の適用方法について考察した.
Keywords: 地層処分,地下水流動状態,長期変動性,長期的な地形変化,気候変動,地下水流動解析,粒子追跡線解析,
変動係数
A safety assessment of the geological disposal of high-level radioactive waste was performed on a time scale of more than tens of thousands of years after disposal facility closure. Accordingly, it was necessary to establish techniques to evaluate the long-term variability in groundwater flow conditions such as groundwater velocity and groundwater travel time under the influence of long-term geological phenomena. This study focused on topographic changes associated with uplift and denudation, as well as climate perturbations. A method was then developed to assess the long-term variability of groundwater flow conditions using the coefficient of variation based on simulated steady-state groundwater flow conditions. The spatial distribution in areas with relatively long residence times, which are not significantly influenced by long-term topographic change or changes in the recharge rate over the past one million years, were estimated through a case study of the Tono area, Central Japan. By applying this evaluation method, it was possible to identify a local area with a low degree of quantitative and spatial variability in groundwater flow conditions associated with regional topographic changes and climate perturbations. Furthermore, based on the results of this case study, the use of the proposed extrapolation method to evaluate the long-term variability in future groundwater flow conditions is described, and the future application of the prediction method is discussed.
Keywords: geological disposal, groundwater flow conditions, long-term variability, long-term topographic change, climate perturbations, groundwater flow simulation, particle tracking analysis, coefficient of variation
1 はじめに
高レベル放射性廃棄物の地層処分事業においては,地下 深部の地質環境が有する放射性廃棄物を物理的に隔離する 機能(以下,隔離機能)と放射性物質の移行を抑制する機 能(以下,閉じ込め機能)に基づき,その長期的なリスク の評価を行う[1].その評価は,放射性物質の半減期を念頭 において,処分施設閉鎖後の数万年以上に及ぶ期間を対象 として実施されるため,長期にわたる隔離機能および閉じ 込め機能の評価が必要となる[1].とくに,変動帯に位置し ている日本では,長期的な自然現象が地質環境特性に影響 を及ぼすことが懸念される.自然現象のうち,火山・火成 活動,地震・断層活動および処分施設の地表への接近が懸 念される速度の著しく速い隆起・侵食は,地質環境特性に
著しい影響を与える事象とされており,地層処分事業にお ける文献調査や概要調査の段階で回避するための基本的な 考え方が具体的に示されている[2].一方で,上記よりも速 度の遅い隆起・侵食(以下,地形変化)および汎世界的な 気候変動の影響は,緩慢ではあるものの累積的かつ広域に 及ぶため,それらの影響を回避することは困難であり,地 下深部の地下水の流速や移行時間など(以下,地下水流動 状態)が変化し,閉じ込め機能に影響を及ぼすことが懸念 される.このような地形変化や気候変動に対する地下水流 動状態の変動性の評価は重要な課題であるが,その評価手 法は整備されていない.
地下水流動状態の変動性を評価する場合には,ボーリン グ調査で取得した地下水の水質や年代などの地球化学特性 情報を用いて,地下水の長期的な滞留域などを推定する.
しかし,地層処分事業の評価対象領域は広範囲に及ぶため,
点の情報であるボーリング調査のみでは,その滞留域の空 間的な広がりは把握できない.そのような広範囲の地下水 流動状態を評価するに当たっては,地下水流動の影響因子 となる地形,地質・地質構造やそれらの水理特性,涵養量 に代表される水文特性などを総合的に考慮することができ る地下水流動解析が有効なツールとなる.
そこで,本研究では地下水流動解析を用いて地形変化や 気候変動に対する地下水流動状態の変動性を評価するため の考え方や手法を構築した.また,岐阜県の東濃地域を事 例に推定した過去100万年間の地形変化や気候変動条件を 用いて地下水流動状態の変動性評価を試行し,地球化学特
Development of Evaluation Method for Variability of Groundwater Flow Conditions associated with long-term topographic change and climate perturbations by Hironori ONOE ([email protected]), Hiroshi KOSAKA, Toshiyuki MATSUOKA, Tetsuya KOMATSU, Ryuji TAKEUCHI, Teruki IWATSUKI and Ken-ichi YASUE
*1 日本原子力研究開発機構 東濃地科学センター Tono Geoscience Center, Japan Atomic Energy Agency
〒509-6132 岐阜県瑞浪市明世町山野内1-64
*2 西日本技術開発株式会社
West Japan Engineering Consultants, Inc.
〒810-0004 福岡県福岡市中央区渡辺通1-1
*3 日本原子力研究開発機構 幌延深地層研究センター
Horonobe Underground Research Center, Japan Atomic Energy Agency
〒098-3224 北海道天塩郡幌延町字北進432-2
*4 富山大学大学院 理工学研究部
Graduate School of Science and Engineering for Research, Toyama University
〒930-8555 富山県富山市五福3190 (Received 29 October 2018; accepted 11 April 2019)
原子力バックエンド研究 June 2010
性情報との比較を通じて,本研究で構築した地下水流動状 態の変動性評価手法の適用性を検討した.さらに,地形変 化や気候変動による地下水流動状態の変動性の将来予測手 法について検討した.
2 地下水流動状態の変動性評価手法の予備検討
筆者らは,木曽山脈から濃尾平野に至る領域を対象とし て,過去150万年前から現在までの期間における特徴的な 地形変化時期の古地形を復元するとともに,復元した地形 を用いた定常状態の地下水流動解析(以下,定常解析)を 実施し,それらの解析結果を比較することで地形変化によ る地下水流動状態の変化が評価可能であることを示した [3].このことから,地形変化や気候変動による地下水流動 状態の変動性を評価するに当たっては,必ずしも地下水流 動状態の非定常変化を連続的に把握する必要はなく,地形 や涵養量といった解析条件が異なる複数の定常解析結果を
用いて評価することができると考えられる.そこで,Fig.1 に示す二次元鉛直モデルを用いて,地下水流動状態の変動 性評価の手法について検討した.
2.1 解析条件
地下数百 m における地下水流動状態に関する検討を行 うため,二次元鉛直モデルはX軸方向に1,000 m,Z軸方
向に500 mのスケールで構築した(Fig.1).二次元鉛直モ
デルの地形や山地の隆起による地形変化といった条件は,3 章で事例研究の対象とした岐阜県東濃地域を参考に設定し た.Fig.1中のModel 1~Model 3は,地形変化における3 つの時間断面を示している.最初の時間断面として,なだ らかな地形をイメージしたModel 1は,核燃料サイクル機 構[4]に基づき地形勾配0.05となる地形面とした.Model 2
およびModel 3に考慮した地形の隆起量は,阿寺断層や恵
那山断層の変位量(0.2~0.4 m/千年)[5, 6]を参考に設定し た.具体的には,Model 2はModel 1から10万年後の地形
Model3 Model2
Model1
CV=σ/μ×100 CV(%): Coefficient of variation σ: Standard deviation μ: Average
X3 X2
X1
CV
Fig.2 Schematic view of data analysis based on the
results of particle tracking analysis
P1(X500, Z-50)
Model1
Groundwater flow path: Model2 Model3
Model1 Model2
Model3
200
100
0
-100
-200
-300 Z (m)
0 100 200 300 400 500 600 700 800 900 1000
X (m)
P2(X500, Z-150) P3(X500, Z-250)
No-flow B.C.
No-flow B.C. No-flow B.C.
Constant head B.C.
Hydraulic conductivity:
1.0×10-8(m/s)
-400
-500
Fig.1 Simulation conditions of two-dimensional model, and result of particle tracking analysis
Table 1 Summary of analytical results
Model1 Model2 Model3 Average Standard
deviation
Coefficient variation (%)
P1 4.6×10-10 9.4×10-10 1.7×10-9 1.0×10-9 5.0×10-10 48.6
P2 4.2×10-10 6.6×10-10 8.8×10-10 6.5×10-10 1.9×10-10 29.2
P3 3.9×10-10 5.7×10-10 7.2×10-10 5.6×10-10 1.3×10-10 24.1
P1 352 328 366 349 16 4.5
P2 500 425 456 460 31 6.7
P3 646 595 613 618 21 3.4
P1 23,237 8,630 6,658 12,842 7,395 57.6
P2 37,211 16,892 13,136 22,413 10,576 47.2
P3 61,885 41,911 32,359 45,385 12,302 27.1
P1 334 83 78 165 119 72.4
P2 481 281 213 325 114 34.9
P3 616 620 624 620 3 0.5
P1 22,217 2,242 1,126 8,528 9,690 113.6
P2 35,496 32,024 7,361 24,960 12,525 50.2
P3 56,199 42,159 35,216 44,525 8,728 19.6
Groundwater travel length from designated point to discharge area (m) Groundwater travel time
from designated point to discharge area (year)
Darcy velocity (m/s)
Groundwater travel length from recharge area to designated point (m) Groundwater travel time
from recharge area to designated point (year)
であると仮定し,Model 1を基準にX軸250 m位置には40
m,750 m位置には20 mの隆起量を与えた.さらに,Model
3はModel 2から10万年後の地形であると仮定し,Model 2
を基準にX軸250 m位置には40 m,750 m位置には20 m の隆起量を与えた.また,岩盤の透水性は土岐花崗岩の透 水係数[7]を参考として1.0×10-8 m/sを設定した.本研究で は,地形変化そのものが地下水流動状態に及ぼす変化に着 目して検討を行うため,地形変化に伴って副次的に生じる 可能性のある岩盤の物性値の変化は考慮しないこととした.
定常解析は飽和条件とし,モデルの上部境界には地表面固 定水頭条件を,側方境界および下部境界には水の流入出が ない不透水条件を設定した.なお,定常解析は地下水流動 解析コードであるFrac-Affinity[8]を用いて実施した.
2.2 解析結果の整理方法
Fig.2に,解析結果の整理方法のイメージ図を示す.地形
が異なる3つのモデルによる定常解析結果のモデル間の差 異を地下水流動状態の変動性として評価する.具体的には,
定常解析で得られた地下水圧分布に基づき粒子追跡線解析 を実施し,任意に設定する指定点を通過する涵養域から流 出域までの地下水移行経路沿いの地下水流動状態を推定す る.次に,各モデルにおける同じ指定点での地下水の流速 などの差異を地下水流動状態の変動性として定量的に算出
する.一般的には,あるデータが有する差異を示す指標と して標準偏差が用いられるが,標準偏差はデータの平均値 に伴い大きくなるなどデータの数値に依存する可能性が高 いため,平均値が大きく異なるデータを比較する場合には 適さない.地下水流動状態は,地表付近と地下深部など場 所によって数値がオーダーで異なることが想定されるため,
標準偏差を評価指標とすることは適切ではない.一方で,
データの標準偏差を平均値で除して算出した変動係数は,
データにおける数値の大きさの影響を排除したものであり,
データの平均値に対する相対的な差異を評価することがで きる.そのため,本研究では変動係数を地下水流動状態の 変動性の評価指標とした.
2.3 地下水流動状態の変動性評価
モデルの中央部に指定点(Fig.1中のP1~P3)を配置し,
粒子追跡線解析を実施した.地形変化によって各指定点を 通過する地下水の涵養域や流出域が変化することで,その 移行経路にも変化が見られる.P1およびP2ではモデル間 で流出域の位置が大きく変化することから下流側の移行経 路が影響を顕著に受けている.一方で,P3から下流側の移 行経路には大きな変化は認められない(Fig.1).
Table 1に,指定点位置におけるダルシー流速,涵養域か
ら指定点および指定点から流出域までの地下水の移行距離 Toki river basin
Regional area
Local area Elevation
KawajiTatsuokaFault
Mt. Ontake
Nobi plain
Trace line of fault
A
C
Tono area
B
Fig.3 Case study regional setting
原子力バックエンド研究 June 2010
と移行時間を整理した.さらに,3 ケースの結果に基づき 変動係数を算出した.ダルシー流速をはじめとするすべて の項目について,P3の変動係数が小さいことから,3地点 のうち P3 の地下水流動状態が地形変化の影響を最も受け にくいことがわかる.このことから,地表付近に比べて地 下深部のほうが,地形変化による変動を受けにくいことが 示唆される.また,指定点から流出域までの地下水の移行 時間に着目すると,P1とP3の平均値はそれぞれ8千年程 度と4万5千年程度と大きく異なるのに対して,標準偏差 は両者とも9千年程度である.標準偏差を地下水流動状態 の変動性の評価指標とした場合,P1とP3の移行時間は同 程度の変動性を有すると評価されるが,平均値との関係性 を考えると,P3に比べてP1の変動性が大きいと解釈する べきであり,標準偏差を指標とした評価は適切ではないこ とがわかる.一方で,変動係数はP1が110 %程度,P3が
20 %程度であり,P3に比べてP1の変動性が大きいことが
評価できている.このことから,地下水流動状態の変動性 を適切に評価するためには,標準偏差ではなく変動係数を 評価指標とすることの妥当性が示された.
二次元鉛直モデルを用いた検討の結果,複数の定常解析 結果を用いて地下水流動状態の変動性を評価可能であるこ とが確認できた.具体的には,地形変化や気候変動で生じ ることが想定される複数の地形や涵養量などを解析条件と した定常解析と粒子追跡線解析を実施する.さらに,それ らの結果に基づき算出した地下水の流速などの差異を変動 係数として数値化することで,地形変化や気候変動に対す る地下水流動状態の長期的な変動性を定量的に評価できる.
3 実際のデータを用いた地下水流動状態の変動性評価手 法の適用性確認
3.1 領域設定
2 章で提示した地下水流動状態の変動性評価手法の適用 性を確認する領域を「ローカル領域」とした.また,ロー カル領域の長期的な地下水流動状態を推定するための定常 解析を実施する領域を「リージョナル領域」とした.評価 手法の適用性を検討するといった事例研究を進めるに当た っては,実際の地質環境条件がある程度理解された場所が 望ましい.そのため,既往研究[9, 10]によって地下深部の 水理地質特性・地球化学特性情報の情報が比較的整備され
ている土岐川中流域の10 km四方をローカル領域とし,そ のローカル領域を包含する広域をリージョナル領域と設定 した(Fig.3).
リージョナル領域においては,北東側に位置する御嶽山
(標高3,067 m)や木曽山脈(標高2,000~3,000 m)を高標
高地点として,全体的に北東から南西に向かって高度を下 げ濃尾平野に至る傾動地形をなす.また,御嶽山などの火 山を除くと主要な山地は断層を境とした定高性を有するい くつかのブロックに区分される.ローカル領域周辺では,
北東から南西に向かって流れる土岐川の南側に,北東から 南西方向に延びる逆断層帯(恵那山-猿投山北断層帯,屏風 山断層帯)の活動[11]により標高600~900 mの山地が形成 されている(Fig.3).
3.2 地球化学特性情報に基づく地下水流動状態の推定 ローカル領域内の地下水流動状態を推定するために,地 下水の水質や放射性同位体などの地下水年代に関わる地球 化学特性情報を整理した(Fig.4).ローカル領域周辺にお ける北東から南西方向(Fig.3に示すA-B-土岐川断面付 近に相当)の地下水流動系に着目すると,月吉断層を境と して異なる水質型が形成されている.月吉断層の北側領域
(以下,断層北側領域)においては Na-(Ca)-HCO3型地 下水,月吉断層の南側から土岐川付近の領域(以下,断層 南側領域)においてはNa-(Ca)-Cl型地下水が分布してい る[12](Fig.4).断層南側領域では,断層北側領域に比べて 地下水中の塩化物イオン濃度が高く,標高-800 m付近に おいては海水の 1/10 程度であることが明らかにされてい
Table 2 Hydraulic conductivity of hydrogeology Hydrogeology Hydraulic conductivity
(m/s)
Sediment 1.0×10-6
Sedimentary rock Horizontal direction: 1.6×10-7 Vertical direction: 1.6×10-9 Basement rock Horizontal direction: 2.8×10-8
Vertical direction: 1.0×10-7 Fault Normal to fault: 1.0×10-11
Parallel to fault: 4.0×10-7 Sedimentary rock Basement rock Sediment
Local area N
EL. m 0 -5000 -10000
Fig.5 Simplified geological model (0.0Ma)
1000
-1000 500 0 -500
EL. m A C
Sanageyama-KitaFault
Tok i Riv er
Na-(Ca)-HCO3
type
Na-(Ca)-Cl type
2km
Br Sr S
No data area B
S: Sediment, Sr: Sedimentary rock, Br: Basement rock Low salinity
High salinity
4He: High concentration
Fig.4 Estimated groundwater chemistry conditions in
Local area. Vertical cross section corresponds to the dashed A-B-C line in Fig.3.
る[13].したがって,断層北側領域に比べて断層南側領域 では,元々存在していた塩分濃度の高い地下水が,天水由 来の淡水で洗い出されにくい地下水流動状態が形成されて いると考えられる.
断層北側領域の地下水年代は,地下水中の炭酸水素イオ ンに含まれる放射性炭素(14C)濃度に基づいて数千年から 1万数千年と見積もられており[14],同領域では数千年から 数万年程度の時間スケールで地下水が入れ替わり得る地下 水流動状態にあると考えられる.一方,断層南側領域の地 下深部では,地下水の滞留時間とともにその濃度が増加す る4Heが高い濃度で観察されている[14](Fig.4).また,地 下水中の塩化物イオン濃度と放射性塩素同位体,土岐花崗 岩中で生成される放射性塩素濃度からは,同領域では百数 十万年間にわたって地下水が土岐花崗岩と接していた可能 性が示唆されている[15].これらのことから,断層南側領 域の地下深部には地下水年代の古い地下水が分布しており,
地球化学的に相対的な地下水の滞留環境にあると推定され る.
3.3 解析による地下水流動状態の推定
3.2では,地球化学特性情報に基づき,断層南側領域に地
下水の滞留域が存在することが推定できたものの,その滞 留域の空間的な広がりは不明である.そこで,リージョナ ル領域の水理地質構造モデルを構築するとともに定常解析 および粒子追跡線解析を実施し,地下水の滞留域の三次元 分布の推定を試みた.
3.3.1 水理地質構造モデルの構築
水理地質構造モデルは,Fig.3に示した地形を地表面とし て構築した.また,本研究で着目する地表から深度1,000 m 程度までの地下水流動が下部境界条件の影響を受けること のないように,既往研究[3, 16]を参考にして深度方向に標 高-10 kmまでをモデル化の対象とした(Fig.5).水理地質 構造区分は,尾上ほか[3]を参考に透水性のコントラストに 着目して,基盤岩,堆積岩および堆積物,ならびに Fig.3 に示した13条の断層をモデル化した.各水理地質構造の透 水係数は,尾上ほか[7]に基づき設定した(Table 2).三次 元格子の分割は,地形の起伏および水理地質構造の分布形 状の再現性,ならびに地下水流動解析の収束性を考慮して 設定した.また,境界条件は上部境界面に水の流入出のあ る浸出条件を設定し,涵養量として118 mm/年を与えた.
涵養量は,東濃地域のアメダスや観測データ[17, 18]を用い て,水収支法により降水量から蒸発散量と河川流出量を差 し引くことで推定した.なお,Fig.3に示した主要河川には,
固定水頭条件を設定した.側方境界および下部境界には,
水の流入出がない不透水条件を設定した.
3.3.2 解析結果
定常解析は,飽和/不飽和条件で実施した.Fig.6(a)に,
定常解析結果の一例として全水頭分布図を示す.リージョ ナル領域の北部および北東部から西部への地下水流動が大 局的な流動傾向である.ローカル領域を含む土岐川流域で は,北東部および南部に位置する山地から土岐川に向かう 地下水流動が形成されている.
Fig.6(b)に,指定点を通過する地下水の涵養域から流出域 までの移行経路を示す.粒子追跡線解析の指定点は,ロー カル領域内における地表から標高-1 km までの範囲を主 な評価対象として設定した.具体的には,ローカル領域内 に水平方向に1 km間隔で121点配置し,それを深度方向 には深度-50 mから深度-1,650 mまで200 m間隔で9深 度に配置した(Fig.6(b)).一部の地下水がローカル領域の 北側および東側に位置する二ッ森山地や恵那山地を涵養域 とするものの,ローカル領域内の地下深部を通過する地下 水の主要な涵養域は土岐川流域境界の尾根部であり,主要 な流出域は土岐川周辺である.
Fig.6(b)に示した地下水の移行経路沿いの地下水流動状 態のうち,全指定点を対象としてダルシー流速による涵養 域から指定点までの地下水の移行時間(以下,滞留時間)
を抽出し,それらを各指定点の座標情報を用いてスプライ ン補間することで,ローカル領域内の滞留時間を3次元分 布として可視化した(Fig.7).その結果,断層南側領域に 相対的に滞留時間の長い領域が分布しており,とくに土岐 川の地下深部で最も滞留時間が長い(Fig.7(a))これは,地 球化学特性情報に基づく推定結果と整合しており,解析的 な手法によっても断層南側領域が地下水の滞留域であるこ とが示された.仮にダルシー流速による滞留時間が100万
10km
1600
0 200 400 600 800 1000 1200 1400 Total head
(EL.m)
(a) Total head distribution (Horizontal section: EL.-800m)
(b) Flow path through designated points (Horizontal projection)
Flow path (Designated point ~Discharge area) Flow path (Recharge area ~Designated point) Toki river
Toki river basin
Toki river basin Local area
Mt. Ena
Fault
Mt. Futatsumori
10 km Local area
Toki river basin Designated point
Horizontal location of designated point
Fig.6 Example of simulation results (0.0Ma)
原子力バックエンド研究 June 2010
年以上の領域を地下水の滞留域とみなすと,その空間的な
広がりは Fig.7(b)に示した月吉断層と山田断層帯で囲まれ
た範囲と推定される.
これらのことから,より信頼性の高い地下水流動状態を 推定するためには,地球化学特性情報に基づく推定結果に 解析的な推定結果を組み合わせることが有効である.また,
地下水流動解析を用いることで地球化学特性情報だけでは 推定することが困難な地下水の滞留域の空間分布を三次元 的に推定することができる.
3.4 地下水流動状態の長期的な変動性の評価
3.3では,解析的な手法を用いて地下水の滞留域の空間分 布を推定したが,地層処分の観点からは数万年以上に及ぶ 時間スケールにおいても,その滞留域が維持されうる環境 にあったのかどうかを理解する必要がある.そこで,2 章 で提示した地下水流動状態の変動性評価手法を用いて,断 層南側領域における地下水の滞留域の長期的な変動性を評 価した.リージョナル領域における地史や文献情報から古 地形の推定が可能と考えられる過去100万年間を長期的な 変動性の評価期間とした.リージョナル領域において過去 100 万年間に生じた可能性のある地形変化と気候変動の条 件を推定し,それらを解析条件とした定常解析および粒子 追跡線解析を実施した.
3.4.1 地形変化の条件設定 (1) 復元する古地形ステージ
地下水の駆動力となる動水勾配は,地形の影響を受ける ことから,地形変化によって地下水流動状態が変化するこ とが想定される.リージョナル領域では,中新世以降現在
まで続く濃尾傾動運動[19]という広域的な隆起に加え,断 層運動による山地の隆起[20]が生じている.さらに,上記 のような地形変化に加えて火山である御嶽山の形成があっ た.本研究では,森山[20]に示された中部山岳地域におけ る主要山地の隆起開始時期を参照し,リージョナル領域内 における地形の発達段階を次の3つのステージに区分した.
前述したように,濃尾傾動運動によってリージョナル領域 は中新世以降,継続して隆起場に位置することから,本研 究では過去100万年間における領域全体の地殻変動は,大 まかには一様継続性(変位の向きの一様性,変位の等速性)
が成立していたと仮定して,これらのステージにおける古 地形の復元を試みた.
・ステージI) リージョナル領域における山地・盆地の配 列が,現在と異なっていたと考えられるステージ.ス テージIは,御嶽山と木曽山脈の形成前の前期更新世で あり,その時代を100万年前と設定した.
・ステージ II) リージョナル領域における山地・盆地の 配列は現在と同じだが,ローカル領域を流れる土岐川 の流路が現在とは大きく異なっていたと考えられるス テージ.御嶽山と木曽山脈が形成された中期更新世で あり,土岐川流域の谷中分水界に分布する河成砂礫層 の堆積時期である.河成砂礫層の地形面と同程度の高 さにある高位河成段丘面の離水時期(約42~37万年前 以降)[21]を踏まえると,ステージIIは中期更新世であ り,その時代を上記の離水時期以前の45万年前と設定 した.
・ステージIII)リージョナル領域における山地・盆地の 配列およびローカル領域が位置する土岐川流域の範囲 が現在と同じであったが,河谷内の地形的特徴が現在 とは異なっていたと考えられるステージ.このステー ジを特徴づける地形は,1つ前の寒冷期(約14万年前)
10 km Local area
10 km Local area
10 km Local area
10 km Local area
(a) 1.0 Ma (b) 0.45 Ma
(c) 0.14 Ma (d) 0.0 Ma
Mt. Ontake
EL.(m)
Fig.8 Paleo-topographical model
1000
-1000 500 0 -500
EL. m A C
2km
Sanageyama-Kita
Fault
Tok i Riv er
Br
Sr S
B
107 106 102 103 104
101 105
S: Sediment, Sr: Sedimentary rock, Br: Basement rock
5km
Local area
Toki river basin Long residence
time area
(b) Estimated long residence time area (a) Spatial distribution of groundwater residence time
(Vertical cross section corresponds to the dashed A-B-C line in Fig. 3)
Groundwater residence time (year)
Fig.7 Estimated result of groundwater residence time
に形成された中位河成段丘[21]であることから,本ステ ージの時代を14万年前と設定した.
(2) 古地形モデルの作成
3 つのステージの古地形モデルを,地理情報システムを 用いて数値化した(Fig.8).ベースデータには,10 mグリ ッドの数値標高モデル(以下,DEM)を100 mグリッドに リサンプリングしたDEMを用いた.古地形モデルの作成 手順と処理内容については,日本原子力研究開発機構[22]
に詳しく記載していることから,ここでは要点のみを記す.
古地形モデルの作成は,リージョナル領域における地史 を考慮し,次のように行った.まず,濃尾傾動運動と断層 運動による地形の変位量をもつラスタデータ(以下,変位 ラスタ)を作成した.次いで,現在のDEMから,変位ラ スタを差し引くことで,過去から現在までの隆起量を考慮 した古地形モデルを作成した.その後,100 万年前の古地 形モデルについては,御嶽山の出現前の地形を考慮した処 理を,14万年前の古地形モデルでは河川の谷埋めを考慮し た処理をそれぞれ行った.最後に,すべてのステージの古 地形モデルに対して1 km 方眼での接峰面処理を行い,上 記の処理過程で生じた山地や盆地を不自然に開析する谷や 地形の不連続なギャップをノイズとして除去した.
3.4.2 気候変動の条件設定
地表から地下への水の供給量となる涵養量は,地下水位 分布に影響を与えるため,涵養量が変化することによって 地下水流動状態が変化することが想定される.涵養量は,
降水量や蒸発散量,河川流出量といった地表環境条件を用 いた水収支法によって推定される[23].降水量や蒸発散量 は気候変動によって変化するとともに,河川流出量は地形 変化の影響も受ける.そこで,本研究では涵養量は気候変 動だけでなく地形変化の影響を受けて変化するものとした.
100 万年前から現在にかけては,地表環境が大きく異な る大陸氷河の縮小(温暖期)と拡大(寒冷期)が周期的に 繰り返されている[24].そこで,現在および過去の 3つの ステージにおいて温暖期・寒冷期を想定し,それぞれの地 表環境条件に基づき推定される涵養量を,気候変動によっ て生じる涵養量の変化と設定した(Table 3).水収支法を 用いた過去の涵養量の推定手順については,日本原子力研 究開発機構[25]に詳しく記載していることから,ここでは 要点のみを記す.
降水量と蒸発散量は,大まかには気温と正の相関を示す とされている[26].そのため本研究では,国内外の気象観 測データ[17, 27, 28]を用いて降水量と蒸発散量のそれぞれ について気温との相関式を求め,それらの相関式から過去
(a) 1.0 Ma
(b) 0.45 Ma
(c) 0.14 Ma Local area
N
EL. m
Local area N
EL. m
Local area N
EL. m
0 -5000 -10000
0 -5000 -10000
0 -5000 -10000
Sedimentary rock Basement rock Sediment
Fig.9 Paleo-geological model Table 4 Simulation cases
Simulation
case Topography Climate condition
Recharge rate (mm/y)
0.0Ma_IG Interglacial
period 118
0.0Ma_G Glacial
period 69
0.14Ma_IG Interglacial
period 231
0.14Ma_G Glacial
period 96
0.45Ma_IG Interglacial
period 322
0.45Ma_G Glacial
period 140
1.0Ma_IG Interglacial
period 322
1.0Ma_G Glacial
period 140
0.0Ma
0.14Ma
0.45Ma
1.0Ma
Table 3 Estimated result of recharge rate in each stage Stage
Climate condition* IG G IG G IG G
Temperature
(℃) 13.6 5.6 14.6 5.6 14.6 5.6
Precipitation
(mm/y) 1,759 935 1,710 935 1,710 935
River discharge
(mm/y) 1,198 637 1,009 610 918 566
Evapotranspiration
(mm/y) 443 229 470 229 470 229
Recharge rate
(mm/y) 118 69 231 96 322 140
0.0 Ma
*IG: Interglacial period, G: Glacial period
0.14 Ma 0.45 Ma
原子力バックエンド研究 June 2010
の温暖期・寒冷期の推定気温に対する降水量と蒸発散量を 算出した.降水量と気温の相関式(指数関数)は,東濃地 域の気候条件に近い地域として太平洋沿岸の観測データを 基本に,寒冷期の気候条件を補うために北アジアや北アメ リカなどの寒冷地の観測データを用いて推定した.また,
蒸発散量には気温との正の相関(1 次関数)が確認された ものの,そのばらつきが大きかったため,東濃地域での蒸 発散量の観測結果[18]付近を通る切片の相関式を用いるこ ととした.なお,佐々木ほか[29]によると,東濃地域の過
去30万年間の温暖期と寒冷期の気温差は8~10℃と推定さ
れているため,観測データ[18, 27]から推定される現在の東 濃地域の年平均気温を基準として,寒冷期と温暖期の年平 均気温を設定した.河川流出量の推定に当たっては,DEM を用いた地形計測および統計量解析による河川流出量の推 定手法[30]を適用した.上記手法は,観測所が存在しない 流域の河川流出量を推定するものである.本研究では,
Fig.3に示した土岐川流域を対象として,いくつかに区分し
た小流域ごとに地形の歪度や尖度,流域の形状比などを計 測し,地形の険しさや流域形状などを現在地形の特徴とし て数値化した.その地形特徴の数値をもとに,小流域ごと の地表水の流れやすさを示す指標(以下,流出指標)を算 出し,河川流出量の観測データに基づく流出率との相関関 係を求めた.さらに,その相関関係をFig.8 に示した各ス テージの地形特徴に基づく流出指標に当てはめることで,
過去の温暖期・寒冷期の降水量に対する河川流出量を推定 した.最後に,降水量から蒸発散量と河川流出量を差し引 くことで涵養量を算出した.なお,地形がなだらかな 100 万年前については,河川の流域分割が困難であり河川流出
量が推定できなかったため,100 万年前の涵養量は地形が 最も類似している45万年前の値を適用した.
3.4.3 解析ケースおよび解析条件
Table 4に,3.4.1および3.4.2で設定した地形変化と涵養
量の変化を組み合わせた解析ケースを示す.解析ケースは,
100万年前から現在までの4つの水理地質構造モデルに,
温暖期・寒冷期の2パターンの涵養量を境界条件とした8 ケースである.
過去の時代の水理地質構造モデルは,3.3.1と同様の方法 で構築した(Fig.9).なお,過去の水理地質構造の三次元 分布については,明確な設定根拠がないため,古地形の復 元に用いた濃尾傾動運動と断層運動による変位量を考慮す るとともに,リージョナル領域の地史や地形変化を定性的 に解釈することで,古地形との整合性を確保した.
また,100万年前の水理地質構造モデルには,Fig.6(b)に 示すように粒子追跡線解析の指定点(121 点×9 深度)を 配置した.100 万年前以降の水理地質構造モデルについて は,各モデルに考慮した地形変化との整合性をとって,各 指定点の深度座標を変化させた.具体的には,変位ラスタ を用いて各指定点位置の濃尾傾動運動と断層運動による変 位量を算出し,その変位量を100万年前の水理地質構造モ デルに配置した指定点の深度座標に考慮した.
3.4.4 解析結果
Fig.10に,定常解析結果の一例を示す.各ケースの定常
解析結果が,過去100万年間で想定される代表的な地形と 気候条件下での地下水流動状態となる.
全水頭分布をみると,過去から現在にかけてリージョナ ル領域の北部および北東部に位置する御嶽山や木曽山脈な
10km 10km
10km 10km
1.0 Ma (Interglacial period) 0.45 Ma (Interglacial period) 0.14 Ma (Interglacial period)
Mt. Ontake
0.0 Ma (Glacial period)
Total head (EL.m)
(a) Total head distribution (Horizontal section: EL.-800m)
Fault (b) Flow path through designated points (Horizontal projection)
1.0 Ma (Interglacial period) 0.45 Ma (Interglacial period) 0.14 Ma (Interglacial period) 0.0 Ma (Glacial period)
Flow path (Designated point ~Discharge area) Flow path (Recharge area ~Designated point)
10km 10km
10km 10km
Fig.10 Results of steady-state groundwater flow simulation and particle tracking analysis
どの山地形成に伴い水頭値は全体的に高くなるが,大局的 な地下水の流動傾向に大きな変化はない(Fig.10(a)).14 万年前および45万年前では,古地形復元の接峰面処理によ って細部の谷地形が埋められたことで,山地部では地下水 面の位置が全体的に上昇するために現在と比較して水頭値 が高い(Fig.6(a),Fig10(a)).また,寒冷期では温暖期に比 べて涵養量が減少することで,リージョナル領域全体の水 頭値が低下するが,大局的な地下水の流動傾向に大きな違 いはない(Fig.6(a),Fig10(a)).
地下水の移行経路をみると,地形変化および涵養量の変 化に対しては多少の変化があるものの,主要な涵養域およ び流出域の位置関係に大きな変化は見られない(Fig.6(b),
Fig.10(b)).つまり,指定点を通過する地下水の主要な涵養
域および流出域は,100 万年前から現在の間には大きく変 化せず,涵養域は遠方でも二ツ森山地や恵那山地であり,
主要な流出域は土岐川周辺である.したがって,本研究の リージョナル領域は,ローカル領域内を通過する地下水流 動系を十分に包含しており,側方および下部の境界条件が,
地下水流動状態の長期的な変動性評価に及ぼす影響はない.
3.4.5 地下水の滞留域の長期的な変動性
Table 4に示した8ケースの解析結果に基づき,地下水の
滞留時間の変動係数を算出した.この変動係数を指標とし て,過去100万年間の地形変化および涵養量の変化の複合 的な事象が,地下水の滞留時間に及ぼす影響を評価する.
各指定点の地下水の滞留時間の変動係数を三次元的に補 間して,滞留時間の変動性分布図を作成した(Fig.11).分 布図として整理することで,地下水流動状態の変動性の空 間的な変化を可視化することができる.Fig.11 に示す変動 係数の空間分布が寒色系の領域ほど,地下水流動状態が地 形変化や涵養量の変化による影響を受けにくい領域となる.
滞留時間の変動係数の空間分布からは,局所的な違いはあ るものの3.3で推定した断層南側領域における地下水の滞 留域(Fig.7)が,変動係数が相対的に小さい領域内に存在 することがわかる(Fig.11).つまり,断層南側領域の地下 深部は他の領域と比較して滞留時間が長い地下水が分布し,
かつ過去100万年にわたって,その滞留時間が長い地下水
が維持されうる地下水流動状態が形成されていたと解釈で きる.
岐阜県東濃地域を事例とした検討を通じて,地球化学特 性情報に基づく地下水の滞留環境の推定結果と,解析によ る地下水の滞留域の空間分布およびその長期的な変動性の 推定結果に矛盾がないことが確認できた.このことから,
実際の地質環境条件下においても本研究で構築した地下水 流動状態の変動性評価手法が適用できることが示された.
また,解析に用いた過去の地形や涵養量の条件設定の考え 方や結果の妥当性は直接的に確認できない.しかし,上記 に示したとおり,解析による推定結果が地球化学特性情報 に基づく推定結果と整合的であったことから,ローカル領 域内の地下水流動状態に大きな影響を及ぼしうる主要な地 形変化や涵養量の変化を推定できていたと考えられる.
本評価手法を適用することで,地下水の滞留時間だけで なく,地下水流速や流出域までの地下水の移行時間などの 長期的な変動性を評価することができると考えられる.地 層処分事業の評価対象領域において,地形変化や気候変動 に対する地下水流動状態の変動性が小さい領域を明示する ことができる本評価手法は,数万年以上の時間スケールで 地質環境特性の変動性を評価するうえで有効な評価技術と なる.
4 地形変化や気候変動による地下水流動状態の変動性の 将来予測手法の提案
地層処分事業における自然現象の将来予測においては,
過去から現在までの地質環境の変動傾向を明らかにし,こ の傾向を将来へ外挿する外挿法が有効な手法とされている [1].この外挿法を適用する場合には,将来予測の前提とな る過去から現在までの変動傾向の推定が重要であり,本研 究で構築した地下水流動状態の変動性の評価手法が活用で きる.さらに,推定した過去から現在までの変動性を将来 起こりうるものとみなすことで,地下水流動状態の変動性 の概括的な将来予測が可能となる.
ここでは,3 章に示した岐阜県東濃地域を事例とした検 討結果を踏まえて,地形変化や気候変動による地下水流動 状態の変動性に関わる将来予測の方法論について検討した.
Fig.12に,将来予測のフローを示すとともに,概要を以下
に取りまとめる.
・地形変化については,地形・地質発達史に基づき地形 変遷を概念化し,特徴的な時間断面における複数の地 形を数値化することで,水理地質構造モデルの上部境 界面として反映させる.
・気候変動については,地表環境の変遷に基づき涵養量 の変動幅を定量的に推定し,水理地質構造モデルの境 界条件として反映させる.
・上記の解析条件を組み合わせた複数の定常解析および 粒子追跡線解析を実施し,解析結果として得られる地 下水の流速や滞留時間などの変動係数を算出する.
・変動係数を空間分布として可視化し,過去から現在に かけての地下水流動状態の変動性を定量的かつ空間的 に推定する.
1000
-1000 500 0 -500
EL. m A C
2km
Sanageyama-KitaFault
Br
Sr S
B
Coefficient of variation (%) 100 20 40 60 80 0
S: Sediment, Sr: Sedimentary rock, Br: Basement rock
Fig.11 Spatial distribution of coefficient of variation associated with groundwater residence time.
Vertical cross section corresponds to the dashed A-B-C line in Fig.3. Topography distribution shows the data of 0.0Ma model.
原子力バックエンド研究 June 2010
・上記で推定した過去の変動性を,将来の地形変化や気 候変動によって起こりうる将来の変動性とみなして,
評価対象領域において地下水流動状態の変動性が小さ い領域を明示する.ただし,この変動性が小さい領域 は,あくまでも地下水流動状態が影響を受けにくい場 所を意味しており,必ずしも地下水の長期的な滞留域 といった閉じ込め機能に適した特性を有する領域では ないことに留意する必要がある.
ここでは,外挿法を用いた将来予測手法の基本的な考え 方を示したが,過去の変動性を将来の変動性として外挿す ることができる期間設定については留意が必要である.日 本第四紀学会編[31]では,地殻変動の一様継続性が成立し ている場合には,過去から現在までの変動傾向を同程度の 期間の将来に外挿できることが示唆されている.一方で,
梅田ほか[32]ではプレート運動を含む地殻変動の永続性の 保証の観点から,外挿法による地質学的現象の将来予測は 10万年程度が妥当であると論じられている.岐阜県東濃地 域を例にすると,中新世以降現在まで続く濃尾傾動運動に よって,リージョナル領域は継続した隆起場にあることか ら,本研究では過去100万年間は領域全体の大まかな地殻 変動は一様継続性が成立していると仮定して,ローカル領
域内の過去100万年間の地下水流動状態の変動性を推定し た.上記の外挿法による将来予測の適用期間の考え方を踏 まえると,推定した過去100万年間の地下水流動状態の変 動性を将来100万年間の変動性とみなすことには不確実性 を伴うが,10万年程度の時間スケールの将来予測には適用 可能と考えられる.
また,例えば過去の地形変化を推定する場合には,調査 データの量や種類,推定対象領域の地域性などによって,
一義的な地形変遷の解釈や概念化ができず,結果としてあ る時間断面に対して複数の地形が推定される可能性が考え られる.将来の変動性の検討に際しては,このような過去 の地形変化や気候変動の推定過程に内在する不確実性をど のように評価するかが重要である.本評価手法では,複数 の地形や涵養量を解析ケースの1つとして取り扱うことが できるため,上記の不確実性も解析ケースの1部として考 慮することができる.したがって,本評価手法は地形変化 や気候変動の不確実性も考慮した地下水流動状態の変動性 を評価することができる手法の1つと言える.
さらに,地層処分事業では3つの調査段階で地質環境の 調査・評価が段階的に実施される[1].調査の進展に伴い段 階的に詳細化されていく地質環境の情報にあわせて,本評 Evaluation of the long-term variability of
groundwater flow conditions in the future Digitalization of paleo-topography at characteristic stages based on geologic and
landscape evolution Quantification of recharge rates
corresponding to glacial and interglacial periods
Output Estimation of topographic change
and climatic perturbations
Groundwater flow modeling and analysis Construction of Hydrogeological models
3D steady-state groundwater flow simulations
Particle tracking analysis
Data analysis focused on coefficient of variation
Identification of a local area with a low degree of variability in groundwater flow
conditions
Evaluation of the long-term variability of groundwater flow conditions from past to present
• Paleo-topographical models
• Recharge rates
Input:
• Groundwater flow conditions (Groundwater travel time etc)
• Spatial distribution of long- term variability of
groundwater flow conditions Output
Output
Variability for forecast on the future (Extrapolation) Boundary condition of hydrogeological model
Input
Input:
Fig.12 Approach for evaluation of long-term variability of groundwater flow conditions in the future
価手法を繰り返し適用し地下水流動状態の変動性を評価し ていくことで,地下深部の地質環境が有する閉じ込め機能 の時間的な変遷も考慮したより現実的なサイト選定が可能 となると考えられる.
5 まとめ
本研究では,地質環境特性に影響を及ぼすと考えられる 長期的な自然現象のうち地形変化や気候変動に着目し,そ れらに対する地下水流動状態の変動性を評価するための手 法について検討した.その結果,地形変化や気候変動で生 じることが想定されるさまざまな地形や気候条件での定常 解析結果に基づき算出した変動係数を評価指標とする評価 手法を構築した.また,岐阜県東濃地域を事例とした評価 手法の適用性検討では,地球化学特性情報に基づき推定し た地下水の滞留域について,その空間的な広がりを三次元 分布として推定するとともに,その滞留域が過去100万年 間の地形変化や涵養量の変化による影響を受けにくい場所 に存在することを具体的に示した.本研究で構築した評価 手法を適用することで,数万年以上に及ぶ時間スケールで 生じる地形変化や気候変動による地下水流動状態の変動性 を定量的かつ空間的に評価することが可能となった.さら に,本評価手法を用いた地下水流動状態の変動性の将来予 測の方法論をフローとして提示するとともに,将来予測手 法の適用方法について考察した.
本研究で対象とした東濃地域は山間部として位置付けら れるため,気候変動に伴う海水準変動の影響が懸念される など山間部とは異なる特徴を有する平野部などを事例とし て本評価手法の適用性を確認することが,今後の課題とし て挙げられる.
謝辞
本稿の取りまとめに当たっては,日本原子力研究開発機 構の笹尾英嗣博士から貴重なご意見を頂いた.匿名の査読 者の方々からは,本稿の改善に有益なご指摘を頂いた.こ こに記して謝意を表す.
なお,本研究は,経済産業省資源エネルギー庁委託事業
「地層処分技術調査等事業(地質環境長期安定性評価確証 技術開発)」の成果の一部である.
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