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アリビオ矯正歯科クリニック

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Academic year: 2021

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両側性上顎犬歯と第一小臼歯の  移転萌出を伴う叢生を改善した 1 症例

アリビオ矯正歯科クリニック

南 保  舞  久保田雅人

昭和大学歯学部歯科矯正学講座

槇 宏太郎

抄録:両側性の上顎犬歯および第一小臼歯の移転歯を伴う症例を経験し,満足し得る結果が得 られたので,その概要を報告する.症例は 15 歳の男性で乳歯の残存および両側性の移転歯を 認めた.移転歯部分の配列について,本来の順番である犬歯,第一小臼歯の順に配列すること は,当該歯,および隣在歯歯根等への影響を考慮するとリスクが高いと判断し,移転したまま の状態で配列することとした.しかし,審美的観点,咬合機能的観点,歯周組織の観点,隣接 歯歯根状態に,良好な結果が得られた.移転歯の治療には本来の配列に修正することが可能か 否か,どのようなメカニクスで配列を行うか,さらにその予後について,十分な検討が必要で あると認識した.

キーワード:移転歯,咬合誘導,歯・顎顔面用コンビーム CT

 移転歯とは, ひとつの歯が他の歯と位置を交換 して萌出している状態 または, 歯が歯列上でそ の本来の位置から著しく異なった位置に萌出した場 合 と定義されており1),歯の位置異常のひとつで ある.移転歯を有する症例は,治療方針を決定する 際に,本来の配列に修正することが可能か否か,ど のようなメカニクスで配列を行うか,さらにその予 後について,十分な検討が必要である.本論文で は,上顎犬歯と第一小臼歯の両側性移転歯を伴った 叢生症例を経験し,良好な咬合状態を得ることがで きたので,審美的観点,咬合機能的観点,歯周組織 的観点から若干の考察を加えて報告する.なお,本 症例における各種資料の使用については,診断時お よび保定治療開始時に,書面および口頭で主旨を説 明し,同意書をもって同意を得ている.

症  例  1.症例概要

 1)初診時年齢:13 歳 8 か月の男性.

 2)主訴:八重歯,でこぼこ.

 3)既往歴:食物アレルギー,花粉症.

 4) 顔貌所見:正面観では左右対称.側面観にお

いては convex type を呈している(Fig. 1A).

 5) 口腔内所見:Dental age はⅢC,中心咬合位 における大臼歯関係は左右側とも Angle Ⅰ級を呈 していた.前歯部 Over jet は+ 2.5 mm であるが,

Over bite は+ 1.5 mm と浅い傾向にあった.上顎 右側乳犬歯,下顎左側第二乳臼歯の残存が認められ た.また,上顎左側犬歯および第一小臼歯の歯冠に おいて,それらの位置が逆転していることを確認し た. 上 下 顎 と も 歯 列 弓 形 態 は U Shape で あ り,

ディスクレパンシー量は上顎右側が

6.0 mm,左 側も

6.0 mm,下顎は両側とも 0 mm であった.

正中線は上顎が顔貌の正中に対して 1 mm 右側に偏 位しており,下顎は左側に 1 mm 偏位していた.口 唇および舌の機能において,特に問題は認められな かった(Fig. 2A).

 6) パノラマ X 線写真所見:上顎右側乳犬歯,下 顎左側第二乳臼歯の残存,上顎両側犬歯および第一 小臼歯の歯冠歯根の移転,上顎両側第二小臼歯歯根 の湾曲が認められた.また,上下顎両側の第三大臼 歯歯胚も確認された(Fig. 3A).

 7) セファロ分析所見:側面頭部 X 線規格写真 から,骨格系においては,SNA 86.3°(+ 2 S.D.),

症例報告

責任著者

(2)

SNB 79.9°(+ 1 S.D.),ANB 6.4°,A-B plane 

9.0°

2 S.D.),Mandibular plane angle 30.0°(

2S.D.),

Gonadal angle 120.7°(

2 S.D.),Ramus inclination  88.8°(+ 2 S.D.),より,骨格性の上顎前突傾向を示 していた.また歯系においては,U1 to FH plane  angle 109.4°(

1 S.D.), L1 to Mandibular plane  angle 99.1°(+ 1 S.D.)であり,上下顎の前歯歯軸 傾斜角には問題は認められなかった(Table 1).正 面頭部 X 線規格写真分析において,上下顎骨とも ほぼ左右対称で偏位は認められなかった.

 8)歯・顎顔面用コンビーム CT 分析所見:パノ ラマ X 線写真上で確認された上顎両側犬歯および 第一小臼歯の歯冠歯根の移転の,三次元的な状態の 把握と,移転歯同士の隣接距離から本来の配列に修 正することが可能か否かを精査するために,歯・顎 顔面用コンビーム CT 撮影を行った.撮影条件は,

管電圧 120 kv,管電流 15 mA,512 slices/scan,撮 影時間 9.6 秒,撮影領域は直径 9 inch,スライス厚 0.293 mm であった.撮影の結果,上顎両側犬歯お

よび第一小臼歯の歯胚が完全に移転していることが 確認された.さらに,上顎両側犬歯歯冠が,隣接す る上顎両側第一および第二小臼歯の歯根に近接して いた(Fig. 4).

 2.診断

 以上の所見から,上顎両側犬歯および第一小臼歯 の移転を伴う,骨格性Ⅱ級傾向,歯性Ⅰ級と診断し た.

 3.治療目標および治療方針

 治療目標は,主訴である八重歯,でこぼこの改 善,上下顎の咬合の緊密化,適切な咬合誘導を確立 することとした.

 治療方針は,初診時精密検査時に認められた,上 顎右側乳犬歯と下顎左側第二乳臼歯の残存乳歯の抜 去を先行した後,下記の通り治療進行することとし た.まず,上顎両側犬歯および第一小臼歯の移転に 関して,本来の順番である犬歯,第一小臼歯の順に 配列することは,当該歯,および隣在歯に歯根吸収 や歯肉退縮を引き起こすリスクが高いと,コンビー

Fig. 1 Facial photographs during orthodontic treatment A:First examination(13Y8M)

B :Retention(15Y10M)

B

(3)

Fig. 2 Intraoral photographs during orthodontic treatment  A:First examination(13Y8M) 

B:Alignment of the maxillary right first premolar with the Lingual arch appliance(13Y10M)

C:Alignment of maxillary dental arch with the Multi bracket appliance(14Y1M)

D:Retention(15Y10M)

E:Anterior and lateral movement of lower jaw

A

B

C

D

E

(4)

ム CT 画像から判断し,移転したままの状態で配列 することを目標とした.また,上顎の叢生を改善す るためのスペース確保として,上顎右側乳犬歯の抜 歯スペースを利用することが可能であると判断し,

上下顎とも永久歯非抜歯にて配列する治療方針とし た.

 4.治療経過

 矯正初診相談のため来院した際,上顎右側乳犬歯

Table 1 Cephalometric analysis Angular(°) First examination

(13Y8M)

Retention

(15Y10M)

SNA 86.3° 86.6°

SNB 79.9° 82.4°

ANB 6.4° 4.3°

Mandibular plane angle 30.0° 27.0°

Gonial angle 120.7° 119.2°

Ramus inclination 88.8° 87.9°

Oculusal plane angle 16.9° 12.3°

U-1 FH plane angle 109.4° 118.5°

L-1 Mandibular angle 99.1° 100.4°

Interincisal angle 122.0° 114.1°

Linear(mm)

A -Ptm 49.5 mm 49.6 mm

S -Ptm 18.0 mm 19.0 mm

Gn-Cd 107.2 mm 108.4 mm

Pog -Go 71.3 mm 72.5 mm

Cd-Go 55.1 mm 55.5 mm

Is-Is 27.2 mm 27.9 mm

Mo-Ms 18.1 mm 21.9 mm

Ii-Ii 39.8 mm 40.5 mm

Mo-Mi 32.1 mm 32.4 mm

Fig. 3 Panoramic X-ray images A:First examination(13Y8M)

B:Retention(15Y10M)

2 1 3 4

5

1 2

4 3

5

Fig. 4 CBCT images of horizontal sections at first 

      examination(13Y8M)

(5)

および下顎左側第二乳臼歯の残存乳歯を認めた.同 残存乳歯の抜去,および上顎歯列に加強固定を目的 としたリンガルアーチをセットした.上顎両側第一 小臼歯の近遠心的位置関係を揃えるため,リンガル アーチ上に付与したアームから上顎右側第一小臼歯 のみを近心に 4 か月間牽引した(Fig. 2B).その後,

上顎歯列からマルチブラケット法を開始し,レベリ ングは,ニッケルチタンおよびステンレススチール ワイヤーを用いて 6 か月間行った(Fig. 2C).下顎 歯列のレベリングはニッケルチタンおよびステンレ ススチールワイヤーを用いて 4 か月間行った.上下 顎歯列ともレベリングが進行したところで,レクタ ンギュラーワイヤーを用いて上下顎歯列幅径の調整 を開始した.上顎右側前歯部および小臼歯の歯間を 若干切削することで,歯冠幅径を変更し,上下顎歯 列正中補正および臼歯の近遠心的位置関係の左右差 の改善を,5 か月間かけて調整した.その後,移転 歯の叢生改善と上下顎歯列の幅径の調整を行った.

15 歳 10 か月時,マルチブラケット法による治療開 始から 2 年経過後,動的矯正治療を終了し,保定処 置へ移行した.保定装置は,上下顎とも Hawley タ イプで 20 時間/日の使用を指示した.現在も保定 経過観察中である.矯正動的治療における平均的な 治療期間で進行することができた.

 5.治療結果

 1)顔貌所見:初診時・保定開始時の顔貌写真を 示す(Fig. 1A, 1B).正面観,側面観共に大きな変 化は認められない.

 2)口腔内所見:初診時・保定開始時の口腔内写 真を示す(Fig. 2A, 2D).保定開始時の所見から,

中心咬合位における臼歯関係は右側 Angle Ⅲ級傾向 の仕上がりとなったが,左側は Angle Ⅰ級で咬合し た.また,Over jet は 2.0 mm,Over bite は 1.0 mm と浅めの傾向が残存したが,初診時にみられた前歯 部叢生は解消された.しかし,上下顎の正中に若干 不一致が残存した.歯肉退縮は認められなかった.

 3)パノラマ X 線所見:初診時・保定開始時のパ ノラマ X 線写真を示す(Fig. 3A, 3B).矯正治療に 伴って歯根の平行性は概ね改善されたが,上顎両側 第一,第二小臼歯の歯根湾曲像を認めた.また,歯 槽骨吸収は認められなかった.

 4)セファロ分析所見:初診時・保定開始時のセ ファロ分析の結果を示す(Table 1).SNA 86.3°

→ 86.6°,SNB 79.9°→ 82.4°,ANB 6.4°→ 4.3°とな り,下顎の前下方への成長がみられ上下顎の前後的 位置関係が改善した.U1 to FH plane angle 109.4°

→ 118.5°,L1  to  mandibular  plane  angle  99.1°

→ 100.4°となり,上下顎前歯とも唇側傾斜が認めら れた.Interincisal angle は 122.0°→ 114.1°と減少し た.

Fig. 5 Cephalometric superimposition A:SN at S,B:Mandibular at Me,C:Palatal at A

First examination(13Y8M)

At the retention(15Y10M)

A

B

C

(6)

 上下顎の正中は 1.0 mm 程度ずれた状態であった.

前歯部 Over jet は 2.0 mm,臼歯部 Over jet は 3.0 mm と全顎において被蓋が改善した.上顎両側犬歯は単 咬頭のため下顎小臼歯部と対向関係を完全にとるこ とが出来なかった.中心咬合位における大臼歯関係 および上顎犬歯相当部に配列した第一小臼歯は左側 はⅠ級,右側はⅢ級傾向を構築していた.

考  察  1.移転歯の発生要因について

 移転歯の出現頻度は 0.5%未満と稀少であり,さ らに両側性の症例となると 0.003%と極めて稀であ る2).このように移転歯の出現頻度は極めて少ない ことから,その実態や原因ならびに治療方針につい ての検討はほとんど行われていない.移転歯の好発 部位は,左右差はほとんどなく,ほぼ上顎にみら れ,上顎犬歯と小臼歯は 0.12%と報告されている3).  移転歯の発生要因は,先天的な歯胚の位置異常,

萌出方向の異常,歯の萌出順序,萌出スペースの不 足 , 顎骨の発育不全,乳歯の早期喪失や晩期残存,

永久歯の萌出遅延や埋伏,永久歯の先天欠如,過剰 歯の存在,永久歯と顎骨の大きさの不調和,歯胚お よび石灰化形成中に及ぼす内的・外的要因,遺伝な ど,さまざま挙げられている3,4)が,特定は難しく,

原因は不明である.吉田ら,金子らは,口唇口蓋裂 症例,上顎劣成長ならびに下顎前突や叢生症例で出 現頻度が高かったと報告している3,4).このことか ら,上顎骨の発育不全,とりわけ上顎歯槽基底幅径 の狭窄が,歯と顎骨との大きさの不調和を引き起こ し,叢生,さらに歯胚の位置異常を引き起こすと考 えられる.

 本症例でも,上顎右側乳犬歯の残存や,歯と顎骨 との大きさの不調和が認められた.歯冠は完全に歯 列弓上に萌出できず,必然的に頬舌的に重複する結 果となっていた.上顎歯槽基底幅径は長径に比べ小 さい傾向にあり,萌出スペース不足による叢生も認 められた.両側性に出現した要因は特定できない

は,移転のまま配列した割合と正しい配列に修正し た割合が約半数ずつとの報告があったが,上顎犬歯 と第一小臼歯の移転では,正しい位置に牽引後配列 できたものは 8%で,ほとんどが移転した状態のま ま配列したというものであった.移転部位の抜歯と いう選択をした症例の報告3)もある.

 移転歯を伴う症例の矯正治療方針を決定する手順 には,①抜歯症例と非抜歯症例の決定,②抜歯症例 の場合の抜歯適応歯の決定,③歯の配列方法の決定 が挙げられる.これに伴った問題点として,移転歯 の歯軸傾斜や根尖の位置による治療の難易度,移動 に伴う歯根吸収や歯周組織への影響,移動に必要な 治療期間,治療後の補綴処置の必要性の有無,歯列 の審美性,咬合や咀嚼機能への影響などが挙げられ る.一般に,小臼歯は複根歯で頬舌径が大きいた め,歯槽骨内での歯根の大きな移動を行う場合,歯 根吸収や歯槽骨の吸収,歯肉退縮などを惹起する危 険性があり,移転した状態のまま配列することが多 い.これは,従来はパノラマ X 線写真のみで治療 方針を決定していたため,移転歯同士がどの程度離 開している状態であれば,歯根吸収や歯周組織への 障害を回避できるのか,明確な指標はなく,術者の 臨床的経験に基づくリスク予測に留まっていたため と考えられる.しかし,歯・顎顔面コンビーム CT 写真により,三次元的に移転歯同士の状態を把握す ることが可能となった.本症例においても,上顎両 側犬歯が両隣在歯に近接していることを確認するこ とが可能であったため,移転したままの状態で配列 するプランを選択した.しかし,仮に犬歯 , 小臼歯 という本来の歯種の順番に配列するプランを選択し た場合には,それぞれの歯胚の位置より,第一小臼 歯は口蓋側から遠心に,犬歯は頬側から近心に移動 するメカニクスが予想される.それぞれの歯根の衝 突を避けるためには,かなりの移動距離が必要とさ れる.犬歯の頬側移動には,皮質骨の厚みから歯肉 退縮のリスクが高くなり,また,第一小臼歯の口蓋 側移動時には対合歯と咬頭干渉を惹起する可能性が

(7)

考えられる.本来の歯種の順番に配列するので,歯 冠形態の修正や補綴処置の必要が少なく,正常咬合 を得やすいメリットはあるが,歯の移動に伴う歯根 吸収や歯周組織への障害,治療期間の長期化など,

多岐にわたるリスクが考えられることを説明したと ころ,リスクを回避する事を患者自身が望んだ.十 分なインフォームドコンセントを行った上で移転し たままの状態で配列する治療プランを決定した.

 3. 治療結果について

 審美的観点:犬歯は口角部に位置しており,長大 な歯根を有し,齲蝕に比較的なりにくく,側方運動 時のガイドへ関与することから,形態的にも審美的 にも重要な歯種である5).本症例治療において,上 顎両側とも移転歯部分を含めた叢生が改善し,比較 的良好な審美的咬合を得ることができた.本症例の 犬歯および第一小臼歯は両側とも平均値よりやや大 きめで同程度の数値であったことから,頬側面観が 審美的に類似しており,移転した状態のままでの配 列でも比較的違和感の少ない審美性を獲得すること が可能であったと考えられる.上顎左右側方歯群 は,犬歯と小臼歯の歯冠高径の違いを考慮した.具 体的には犬歯に比べ第一小臼歯は歯冠高径が短いた め,ブラケットハイトと歯軸傾斜(トルク)に工夫 をすることで,歯冠高径,歯軸傾斜の違いに留意し た.

 歯周組織的観点:初診時および動的治療終了時の 比較より,両側とも移転歯部位の歯肉退縮,歯根吸 収,歯槽骨レベルの低下は認められなかった .  両隣在歯の歯根吸収について:異所萌出による歯 根吸収については,隣在歯の歯根吸収を起こした症 例などが報告6)されている.歯根吸収がみられる隣 在歯はほとんどが側切歯もしくは中切歯であるが,

稀に第一小臼歯の歯根吸収も報告7)されている.川 本ら8)は吸収の原因となる埋伏歯は圧倒的に上顎犬 歯が多く,隣在歯の根吸収中は無症状で,隣在歯の 動揺に気がつく頃には歯根のほとんどが吸収されて いるため注意が必要であると述べている.幸いにも 本症例では隣在歯歯根に吸収は認められなかった が,乳犬歯の残存が認められたことから,上顎犬歯 萌出時期である 10 歳前後で上顎犬歯の萌出交換が 行われていない症例においては,移転歯および隣在 歯の歯根吸収の可能性も考え,触診や X 線診査に より,上顎犬歯の萌出位置と萌出方向の確認を行う

べきであると考える.

 咬合機能的観点:正常咬合の機能的な指標とし て,アンテリアガイダンス,側方運動時の誘導形 態,アンテリアカップリングについて下記の通り考 察する.

 アンテリアガイダンスは下顎運動の方向と量を決 めている.上下顎前歯犬歯部の接触が咀嚼ストロー クを垂直的に制御し,臼歯部離開咬合(非機能運動 時)を作る9).これが欠如すると,偏心運動中の咬 合力によって発生する水平圧のために,臼歯に非生 理的なストレスがかかり , 顎関節 , 支持組織に負担 がかかるとされている10,11).本症例における動的処 置終了後の前方運動時には上顎両側中切歯および側 切歯でガイドし,臼歯部に適正な離開が得られてい ることを確認した(Fig. 2E).

 側方運動時の誘導形態に関しては,一般的に犬歯 誘導が適切とされている12).その理由は,下顎の側 方運動時に発生する水平圧に犬歯は感圧能力が高い ので,唯一単独で耐えられると言われているからで ある.また,非常に緻密な歯槽骨壁に囲まれている こと,歯冠歯根比が良好であること,顎関節および 咀嚼筋との位置関係から第三級の挺子を成してお り,水平圧の影響を受けにくいと言われていること がその理由である.今回の症例のように,犬歯の移 転により適切な犬歯誘導が取れない場合は,グルー プファンクションの誘導形態を選択する.すなわ ち,作業側において上顎犬歯および小臼歯の頬側咬 頭内斜面に接触滑走を付与して,平衡側の臼歯を離 開させる.ガイドの角度は犬歯より遠心の歯ほど傾 斜を緩やかにする13).本症例における動的処置終了 後の左右側方運動時には,グループファンクション で誘導されることが確認できた(Fig. 2E).犬歯相 当部に配列した上顎第一小臼歯にはクラウンリンガ ルトルクを付与し,必要に応じて舌側咬頭の削合を 検討したが,側方運動時の干渉は認められなかっ た.トルクを付与する際には,上顎第一小臼歯は同 犬歯に比べ頬舌径が大きいため歯根を頬側歯槽骨か ら露出させる危険性があることに留意した14).  また , アンテリアカップリングとは , 上下顎前歯 犬歯の被蓋関係を言い,上顎前歯犬歯舌面中央部 1/3 に接触,上顎前歯犬歯舌側凹面に均等に接触す る状態を言う15).本症例においては,上顎両側犬歯 と第一小臼歯を逆転して配列しているが,中心咬合

(8)

る歯根吸収や歯周組織への障害はなく,治療期間も 一般的な期間内で行うことができた.移転歯の状態 把握においては,術者の臨床的経験に基づくリスク 予測に留まらず,移転歯同士の近接度合いを,歯・

顎顔面コンビーム CT 写真などにおいて三次元的に 確認することが必須であると考える.

 移転した歯の配列順序を決定する際は,治療期 間,治療の難易度,歯根吸収や歯周組織への影響,

審美性,咬合・咀嚼機能への影響,治療後の歯冠形 態修正や補綴処置の必要性の有無,患者の協力度な どを十分に考慮検討し,術者のみの判断ではなく,

それぞれのメリットデメリットを含めた,複数の治 療プランの提示から,患者自身の希望をも考慮に入 れて決定する必要があると感じた.

 また,移転歯の早期発見には,要となる上顎犬歯 の萌出状況のチェックが不可欠であり,定期的な X 線撮影,触診により犬歯の位置や萌出方向のチェッ クを行うことが重要であると改めて再認識した.

文  献

1) 歯科医学大事典編集委員会編.移転歯.歯科医 学大事典.東京: 医歯薬出版; 1989.pp136.

2) 朝倉重美,岡本 孝,田中博猛,ほか.歯牙位 置交換 40 例について.歯界展望.1958;15:979‑

986.

3)吉田志乃,進来亜希,井藤一江,ほか.移転歯 の発現の実態とその矯正治療に関する臨床的考 察.広島大歯誌.1995;27:266‑274.

4) 金子知生,岡本 亨,越川美乃,ほか.同胞に

7) 宮新美智世,片野尚子,菊池小百合,ほか.幼 若永久歯の歯根吸収に関する臨床的研究.小児 歯誌.1996;34:1215‑1225.

8) 川本達雄,太田義之,山本 学. 上顎前歯の歯 根吸収とともに興味ある移動をした上顎犬歯と 上顎第一小臼歯の埋伏例.埋伏歯の臨床 : その保 存活用と抜歯.東京: 医歯薬出版; 1998.pp149‑

150.

9) 山崎長郎,本多正明.アンテリア・ガイダンス の確立とその重要性.臨床歯周補綴.東京: 第 一歯科出版; 1990.pp112‑116.

10) 保母須弥也,高山寿夫,波多野泰夫.臼歯離 開.保母須弥也編.新編咬合学事典.東京: ク インテッセンス出版; 1998.pp190‑194.

11) 保母須弥也,高山寿夫,波多野泰夫.臼歯離開 量への顆路,切歯路,咬頭傾斜の影響度比較.

保母須弥也編.新編咬合学事典.東京: クイン テッセンス出版; 1998.pp194‑196.

12) Peter ED.側方滑走運動治の臼歯部接触の種 類.安定性のための咬合面形態の選択.小出馨 監訳.Functional occlusion: from TMJ to smile  design.東京: 医歯薬出版; 2010.pp197‑200.

13) Peter ED.臼歯咬合面形態のタイプ決定.丸山 剛郎監訳.川村貞行訳.オクルージョンの臨床.

第 2 版.東京: 医歯薬出版; 1993.pp309‑321.

14) 片岡洋子,中納治久,槇宏太郎,ほか.上顎両側 犬歯および下顎両側第一小臼歯抜去により治療を 行った成人叢生症例.昭和学士会誌.2014;74:454‑

466.

15) Mauro Fradeani.機能的な分析.山崎長郎監

訳.補綴治療のための審美分析.東京: クイン

テ ッ セ ン ス 出 版; 2005.pp220‑231.( エ ス テ

ティックリハビリテーション; 1).

(9)

EFFECT OF ERUPTIVE MOVEMENT OF BILATERAL MAXILLARY CANINES  AND PREMOLARS ON OCCLUSION

Mai N

AMPO

 and Masato K

UBOTA Alivio Orthodontics Clinic

Koutaro M

AKI

Department of Orthodontics, Showa University School of Dentistry

 Abstract   This is a case report summarizing the successful management of migrating bilateral  maxillary canines and first premolars.  The patient was a 15-year-old male in the mixed dentition stage,  in which both the deciduous teeth and bilaterally migrating maxillary cuspids and first premolars could  be retained.  In formulating a treatment plan, the prognosis of the migrating teeth was assessed, and it  was considered that extraction of these teeth would carry a high risk as their roots were in close proxim- ity to the roots of the adjacent teeth. As such, we decided to maintain the cuspids and first premolars in  their original positions.  As a result, a good outcome was achieved by considering the following factors  during treatment planning: esthetics, occlusal function, periodontal health, and effect on adjacent tooth  roots.  In treating dental migration, a thorough examination is necessary to allow for accurate and effec- tive treatment planning.  It is important to consider whether to create an  ideal  occlusion or to maintain  the teeth in their new positions.  The treatment mechanics should also be tailored, and the planned se- quence revised based on the progress of convalescence.

Key words:  dental migration, occlusal guidance, cone-beam computed tomography 

〔受付:3 月 5 日,受理:5 月 12 日,2015〕

Fig. 2 Intraoral photographs during orthodontic treatment  A:First examination(13Y8M)  B:Alignment of the maxillary right first premolar with the Lingual arch appliance(13Y10M) C:Alignment of maxillary dental arch with the Multi bracket appliance(14Y1M) D:R

参照

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 上顎咬合堤中切歯の下縁をわずかな開口時で 上唇下縁から1~2mm程度露出させる。上顎

2016 年 7 月より上下顎左右側第一小臼歯抜歯を行 い,.018" × .025"slot の standard edgewise 装置を装着 し,上下顎 .012",.014"Ni-Ti round

4 ," 6 の5歯を喪失し,強度の下顎

2 の 形態修正を行った。上下顎同時移動術を施行後,術

26 A、B 顔面角 上顎突出度 フランクフルト下顎下縁平面角 下顎角 SN 平面に対する下顎枝傾斜角 SNP 角 SNA 角 SNB 角 ANB

かった.また側面頭部 X 線規格写真重ね合わせよ り,初診時と再診断時で ANB が 2.0 から 2.6 と変 化し,下顎の前方への位置変化が認められた.しか し動的治療終了時では