症 例 で わ か る
歯科矯正用
アンカースクリュー 活用術
●編 著
愛知学院大学歯学部教授
後藤 滋巳
新潟大学大学院医歯学総合研究科教授
齋藤 功
徳島大学大学院医歯薬学研究部教授
田中 栄二
昭和大学歯学部教授
槇 宏太郎
愛知学院大学歯学部特殊診療科教授
宮澤 健
日本大学歯学部教授
本吉 満
東京医科歯科大学大学院医歯学総合研究科教授
森山 啓司
アンカースクリューの植立手技
宮澤 健,後藤滋巳
3
アンカースクリューには大きく分けて次の 2 種類がある.
①セルフドリル型:セルフドリル機構がついている.
②セルフタップ型:セルフドリル機構がなく,誘導孔を歯科用モーターやコントラアングルなどで形成 する必要がある.
ここでは,セルフドリル型のアンカースクリューを 6 5|間,|5 6 間頰側歯槽骨に植立する場合につい て説明するが,他の部位への植立に関しても同様に行うと考えてよい.
一般的に植立に必要な材料を図 1 に示す.滅菌グローブ,ザルコニン液などの術野消毒剤,キシロカ イン®などの浸潤麻酔液,アンカースクリュー,トルクドライバーやトルクレンチなどのスクリュードラ イバーが必要となる.当然のことであるが,外科小手術になるので,すべて滅菌された材料を使用する.
製作された診断用ガイドプレートは,植立前にプラズマ滅菌するか,ザルコニン液などに 5 〜 6 時間浸し ておく.
このほか,上顎中切歯根尖上部(梨状口下部)や下顎臼後隆起部に植立する場合などで歯肉の切開・剝 離が必要な場合は,メスホルダー,メス刃,骨膜剝離子,縫合糸などが必要になる.
アンカースクリューの植立に必要な材料
図 1 アンカースクリュー植立時に用いる材料
埋伏抜歯用滅菌手術セット 滅菌グローブ アンカースクリュー
トルクドライバーまたはトルクレンチ バキューム 注射針 浸潤麻酔液
上顎大臼歯の固定のため,神経・血管や歯根のない上顎口蓋正中部に植立することとした.診断用ガイドプレートを製作 後,歯科用コーンビーム CT による術前診査にて植立予定部位の骨や口蓋粘膜の厚みを測定し,植立の可否を判断した.診 断用ガイドプレートを植立時のガイドとして使用することにより,術前診査で植立を予定した部位に植立することが可能と なった.
植立部位の選択理由(利点)
◆上顎前突の治療では,下顎側方歯の整直のためのⅢ級ゴムおよびハイプルヘッドギアなどの使用により,上顎大臼歯を強 固に固定することが求められるが,本症例では 5|5 を抜歯する治療方針としたため固定の喪失が考えられ,その場合は 十分な治療目標の達成が期待できず,オーバージェットが残存したり治療目標の再設定が必要な可能性がある.
◆アンカースクリューは植立のための術式が単純であり,植立時の外科的侵襲が少なく除去も簡便で,患者への負担が少な い.
◆アンカースクリューを使用することにより,上顎前歯部ならびに第一小臼歯牽引時の大臼歯の近心移動の防止が期待でき る.
アンカースクリューの選択理由(利点)
eANB は+3.0
°
,U-1 to NA は 3.5.mm,L-1 to NB は 5.0 mm に改善する設定としたところ,目標に到達す るためには, 4|4 , 4|4 抜歯の必要性が示されたが,患者は根管処置済みの|5 抜歯を希望したため 5|5 , 4|4 を抜歯し,上下顎前歯部の舌側移動および咬合 の緊密化と上顎臼歯部の固定を目的としてアンカース クリューを併用し,マルチブラケット装置により治療 を行うこととした.chart より,Ⅲ級ゴムを 4 カ月使 用すること,動的治療期間は 2 年 2 カ月必要であるこ とが示された.
診断と治療方針
診断:上下顎中切歯の著しい唇側傾斜と正中線の偏位 を伴う上顎前突症例(Angle Ⅰ級)
治療方針・治療方法・治療目標:治療方針の立案にあ たってはレベルアンカレッジシステム(以下,LAS)
の analysis chart(図 5) を 利 用 し た. 初 診 時 は,
eSNA が 80.0
°
,SNB が 76.0°
,eANB が+4.0°
,FMA が 22.0°
で,NA ラインに対する上顎中切歯の位置は 10.0 mm,37.0°
,NB ラインに対する下顎中切歯の位 置 は 11.0 mm,37.5°
で あ っ た. 治 療 目 標 と し て,診断用ガイドプレート試適時 前方 診断用ガイドプレート試適時 中央 診断用ガイドプレート試適時 後方
P a r t 4
歯科矯正用アンカースクリュー活用術 上顎前突◆アンカースクリューと AGPB を固定することにより上顎第一大臼歯の固定源が確保できるが,アンテリアルアーチ上の フック(アンテリアルフック)からアンカースクリューへの牽引ベクトルが上顎大臼歯の抵抗中心より口蓋寄りを通ると,
上顎前歯部の舌側移動時の反作用により上顎大臼歯は近心傾斜を生じやすい.したがって,アンテリアルアーチを長めに 付与し,アンテリアルフックとアンカースクリューを結紮線で固定もしくはエラスティックチェーンで牽引するなどして,
できるかぎり牽引ベクトルが上顎大臼歯の抵抗中心上を通るように配慮して設計する.
◆特にアンカースクリューが 1 本の場合は近心傾斜の改善や垂直的なコントロールが難しいため,牽引ベクトルに注意する.
アンカースクリュー使用時の注意点
アンカースクリュー 1 本とアンテリアルフックを結紮する場合,牽引ベクトルが上顎大臼歯の抵抗中心より口蓋寄りを 通ると,上顎前歯部の舌側移動時の反作用により上顎大臼歯は近心傾斜を生じてしまう.本症例は,口蓋が浅く,短顔型で 大臼歯圧下のメカニクスが不要であることを考慮し,アンテリアルアーチを水平に,より長く設定し,さらに圧下が不要な ため AGPB とアンカースクリューを近接させ,2 つのフックとアンカースクリューができるかぎり水平に結紮できるよう にして牽引ベクトルが上顎大臼歯の抵抗中心上を通るように設計し,上顎大臼歯の近心傾斜を防止する.
フォースシステム
牽引ベクトルが上顎大臼歯の抵抗中心上を 通るように配慮して設計する
※当初はアンカースクリュー 2 本を用いて,上顎前歯部の舌側移動時の反作用による上顎大臼歯の近心傾斜が生じた場合に,
アンカースクリューとスタビライジングフックを強く結紮することにより近心傾斜の改善を行うことを計画していたが
(アンカースクリューと AGPB 間の距離をとった設計とする),1 本が脱落したため再設計を行った.
アンテリアルフック
アンカースクリューと AGPB をできるかぎり近接させる
アンテリアルアーチ 結紮線
ことなく,大臼歯の対向関係が Angle Ⅰ級となった(図 6).
遠心移動終了後,MPMD 装置の遠心フックと近心 フックを結紮線で固定し,MPMD 装置を加強固定装 置として使用し,上顎前歯部のエンマッセ牽引を行っ た. 3|3 の遠心移動後,下顎前歯部も舌側移動し,
上下顎中切歯の唇側傾斜と上顎前突の改善を行った
(図 7).
治療経過
下顎は, 4|4 を抜歯した後, 7 6 5 3|3 5 6 7 に マルチブラケット装置を装着して,レベリングと 3|3 の遠心移動を行った.上顎は,MPMD 装着を装 着し, 4|4 を抜歯した後,マルチブラケット装置を 装着してレベリングと 6|6 の遠心移動を行った(図 5).遠心移動は 6 カ月で終了し,臼歯部は傾斜する
図 5 MPMD 装置装着時
チェックポイント
6|6 の近心捻転が著しい場合はには,遠心移動のサイドエフェク
トにより近心捻転が増悪しないよう,遠心移動の前処置として,クワドヘリックスや マルチブラケット装置を用いて近心捻転の改善を先に行っておくとよい.
図 6 6|6 遠心移動終了時
チェックポイント 上顎大臼歯遠心移動後は,遠心フックと近心フックを結紮線などで連結することで,
MPMD 装置を加強固定装置として利用することができる.
P a r t 4
歯科矯正用アンカースクリュー活用術 上顎前突図 9 治療終了時口腔内写真
図 10 治療終了時パノラマエックス線写真
図 11 初診時と治療終了時の頭部エックス線規格写真
(トレース)の重ね合わせ 26Y7M 30Y0M
図 12 初診時と治療終了時の頭部エックス線規格写真分析(左:距離的計測,右:角度的計測)
ROENTGEN CEPHALOMETRIC ANALYSIS
̶ Dimensional Linear Analysis ̶
(Female-Adults)
Mean 68.4 125.4 55.3 72.2 19.1 48.3 19.2 26.9 31.9 24.2 33.6 119.3 77.2 62.4 44.5 33.8 30.4 20.7
S.D.
2.4 4.6 2.7 3.7 2.9 2.5 2.8 2.5 2.0 1.9 2.3 4.4 3.8 4.9 1.5 2.2 2.2 2.8
Patient
(Standard by Sakamoto-Miura-Iizuka)
1. N-S 2. N-Me 3. N-Ans 4. Ans-Me 5. S’-Ptm’
6. A’-Ptm’
7. Ptm’-Ms 8. A’-Ms 9. Is-Is’
10. Mo-Ms 11. Is-Mo 12. Gn-Cd 13. Pog’-Go 14. Cd-Go 15. Ii-Ii’
16. Mo-Mi 17. Ii-Mo 18. S-S’(FH)
60 70 80
120 140
50 60 70
70 80
60
10 30
40 50 60
10 20 30
20 40
20 40
20 30
10
20 30 40
110 130
70 80 90
50 60 70
50 30
30 40
20
20 30 40
10 30
120 30 20
130
30
40
20
26Y7M 30Y0M
69.0 123.5 54.5 70.5 18.0 49.5 21.5 27.0 28.5 19.0 40.5 116.5 78.5 51.5 45.0 32.5 33.0 19.0
69.0 125.0 54.5 72.0 18.0 49.5 20.0 29.5 31.5 22.0 28.0 116.5 78.5 51.5 42.0 31.0 24.5 19.0
1. Facial angle 2. Convexity 3. A-B plane 4. Mandibular plane 5. Y-axis 6. Occlusal plane 7. Interincisal 8. L-1 to Occlusal 9. L-1 to Mandibular 10. U-1 to A-P plane 11. FH to SN plane 12. SNA 13. SNB 14. SNA-SNB diff.
15. U-1 to N-P plane 16. U-1 to FH plane 17. U-1 to SN plane 18. Gonial angle 19. Ramus inclination(FH)
20. SN-NF
84.8 7.6
-4.8 28.8 65.4 11.4 124.1 23.8 96.3 8.9 6.2 82.3 78.9 3.4 11.7 111.1 104.5 122.2 2.9 8.3
3.1 5.0 3.5 5.2 5.6 3.6 7.6 5.3 5.8 1.9 2.9 3.5 3.5 1.8 2.7 5.5 5.6 4.6 4.4 2.5
(Standard by Iizuka)
ROENTGEN CEPHALOMETRIC ANALYSIS
̶ Angular Analysis ̶
(Female-Adults)
Mean S.D. Patient
+10 +10 00 -10-10 -20-20
60 60 7070 8080 9090
70 70 8080 9090 100100
-10
-10 00 1010 2020
110 110 120120 130130 140140 50 50 6060 7070 8080 10
10 2020 3030 4040 70 70 8080 9090 100100
+10 +10 00 -10-10 -20-20
60 60 7070 8080 9090
70 70 8080 9090 100100
110 110 80 80 9090 100100 110110 80 80 9090 100100
110 110 120120 130130 100 100 110110 120120 130130 100 100
110 110 120120 90 90 100100 110110 120120 90 90 100100
-10
-10 00 1010 2020
30 30 00 1010 2020 3030 00 1010 2020
30 30 00 1010 2020 3030 00 1010 2020
-10
-10 00 1010 2020
-10
-10 00 1010 2020
-10
-10 00 1010 2020
-10
-10 00 1010 2020
-10
-10 00 1010 2020
-10
-10 00 1010 2020
-10
-10 00 1010 2020
-10
-10 00 1010 2020
-10
-10 00 1010 2020
-10
-10 00 1010 2020 110 110 120120 130130 140140
110 110 120120 130130 140140 110 110 120120 130130 140140 50
50 6060 7070 8080 10
10 2020 3030 4040
10 10 2020 3030 4040 10 10 2020 3030 4040 70 70 8080 9090 100100
26Y7M 30Y0M
84.0 7.0
-4.5 36.0 63.0 15.0 98.0 29.0 98.0 14.0 5.0 82.0 79.0 3.0 18.0 128.0 123.0 129.0 3.0 5.0
84.0 8.5
-5.0 37.0 67.0 17.0 141.5 8.5 79.5 3.0 5.0 82.0 78.0 4.0 6.0 103.0 98.0 129.0 3.0 5.0