『就実大学大学院教育学研究科紀要 2019(第4号)』 抜刷 就実大学大学院教育学研究科 2019年3月10日 発行
江 草 信 子
児童養護施設職員の
心身の健康に関する心理学的研究
A psychological study of residential child care workersʼ mental and physical health
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児童養護施設職員の
心身の健康に関する心理学的研究
教育学研究科教育学専攻 3617001 江草信子
Ⅰ 問題と目的
児童養護施設職員は,対応困難な子どもとのかかわり(森本他,2007)等の,職務特有 のストレスにさらされることが多い。しかし,児童養護施設職員のメンタルヘルスについ ては,いまだその実態すら明らかでなく,その保持・増進プロセスも十分には検討されて いない。そこで本研究では,まず児童養護施設職員のメンタルヘルスについて,心身の健 康と職務パフォーマンスの観点から実態を明らかにし,その保持・増進プロセスに関する 下記の仮説を検証する。仮説1:仕事の資源は,ワーク・エンゲイジメント(WE)を高め,
心身の健康と職務の遂行を高める。仮説2:仕事の要求度は,WEを低下させ,心身の健 康と職務の遂行を低下させる。仮説3:個人の資源であるコーピングは,WEに影響し,
心身の健康と職務の遂行に影響する。
Ⅱ 研究1 児童養護施設職員の健康度の実態調査
目的:児童養護施設職員の健康度の実態を調査し,全国データと比較した(①全職種,② 教育,医療・福祉)。プレゼンティーズムから,精神疾患による欠勤リスクを明らかに し(③),製造業の全国データと比較した(④)。
方法:中国,四国,中部地方にある4県の児童養護施設(15か所,452人)に勤務する児 童養護施設職員を対象に質問紙調査を行い,14か所315人から回答を得た。このうち244 人(平均年齢37.1歳,有効回答率54.0%)を分析対象とした(③,④はn=231)。
調査内容:新職業性ストレス簡易調査票(42尺度80項目;川上他,2012)の仕事の要求度,
仕事の資源,WE,心身の健康,不安感,抑うつ感,職務の遂行の7変数を使用した。他 職種との比較に際しては,全職種,教育・学習支援業,医療・福祉の全国データの記述 統計量(川上他,2012)を利用した(①,②)。また,健康と労働パフォーマンスに関す る質問紙短縮版日本語版(WHO-HPQ;Kessler et al., 2004)のうち,プレゼンティーズ ム3項目を使用した。絶対的プレゼンティーズムと相対的プレゼンティーズム(Kessler et al., 2007)を算出し(③),大手製造業のデータ(Suzuki et al., 2013)と比較した(④)。
研究1と2の調査は同時に実施した。分析にはHADとRを用いた。
結果と考察:児童養護施設職員は,全職種と比べ,仕事の資源,WE,心身の健康で上回っ ており,この点が児童養護施設職員の強みだと言えよう。これに対し,ストレスが高く 心身の健康を崩しやすいとされる他の対人援助職と比べ,他の変数はほぼ同程度である にも関わらず,職務の遂行のみ低さが目立った。この結果は,職務の遂行を特定的に増 悪させるようなプロセスの存在を示唆する。しかし,そのプロセスの詳細は明らかにさ れておらず,さらなる検討を要する。
就実大学大学院教育学研究科紀要 2019(第4号)
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Ⅲ 研究2 児童養護施設職員の心身の健康モデルの検証 目的:児童養護施設職員のメンタルヘルスに関する仮説モデルを検証した。
調査内容:新職業性ストレス簡易調査票からは心身の健康,仕事の要求度,仕事の資源,
WE,職務の遂行を用いた。職場ストレッサー尺度(23項目,4件法;森本他,2007)
からは,対応困難な子どもとのかかわりを用いた,勤労者のためのコーピング特性簡易 尺度(BSCP;18項目,4件法;影山他,2004)からは,積極的問題解決,解決のため の相談,視点の転換,気分転換,他者を巻き込んだ情動発散,回避と抑制を用いた。
結果と考察:構造方程式モデリングによるパス解析を行った結果,児童養護施設職員の心 身の健康の保持・増進には,WEが心身の健康,職務の遂行の両方を向上させる媒介変 数として重要な役割を果たすことが分かった。また,児童養護施設職員の職務特有の要 因である対応困難な子どものかかわりにより,仕事の要求度が重くなることも明らかに なった。加えて,児童養護施設職員のコーピングについては,視点の転換のみがWEを 促進していた。
Ⅳ 総合考察
児童養護施設職員のメンタルヘルスは,最もストレスが高い対人援助職者と同レベルで,
特に職務の遂行の低さが目立った。メンタルヘルスに関する心理学的プロセスに関しては,
心身の健康と職務パフォーマンスをWEが調整していた。よって児童養護施設職員に対す る心理学的支援を行う際には,WEに影響する認知や行動に介入することが有効かもしれ ない。今後,WEに影響する内外の資源について,さらなる検討が求められる。