日本小児循環器学会雑誌 12巻4号 491〜499頁(1996年)
〈原 著〉
腸間膜細動脈の収縮機構の発達に伴う変化
(平成7年6月5日受付)
(平成8年7月1日受理)
顧
東京女子医科大学循環器小児科
虹 中西 敏雄 門間 和夫
key words:腸間膜細動脈,血管平滑筋,平滑筋収縮機構,新生仔,胎仔
要 旨
体循環の抵抗を司る細動脈の収縮機構の発達に伴う変化についてはよく分かっていない.本研究では 家兎胎仔,新生仔,成獣の腸間膜細動脈を用い,抵抗血管の発達に伴う収縮機序の変化を調べた.血管 収縮機構の検討には,Caチャンネルの阻害剤であるジルチアゼムを投与し収縮にどれだけ影響があるか
をみることで,Caチャンネルを通して細胞外から内へ流入するCaの役割を推定した.また,細胞内の Ca貯蔵器官からCaを放出させる働きを持つ,カフェインやノルアドレナリンを使用して細胞内Ca貯
蔵量を推定した.また電子顕微鏡で小胞体をはじめとする微細構造を検討した.ジルチアゼムによる弛 緩効果は新生仔と胎仔では同じであったが成獣では少なかった.新生仔と胎仔ではカフェインやノルア ドレナリンによる収縮は成獣より大きかった.さらに電子顕微鏡による微細構造の観察は小胞体が胎仔 と新生仔では豊富で,成獣では少ないことを示した.以上の結果は,細動脈では,未熟な血管では細胞内Ca貯蔵が豊富で,その収縮は成熟血管に比べよりCaチャンネルを通しての細胞外Ca流入に依存し
ないことを示唆する.緒 言
我々はこれまでに,未熱な心筋の収縮機構について 調べ,未熟心筋では細胞内小器官(筋小胞体)から放 出されるカルシウム(Ca)が少なく,成熟心筋に比べ 未熟心筋の収縮は,より細胞外からのCa流入に依存
していることを示した1)2).血管平滑筋における収縮機 構の発達に伴う変化についてのこれまでの研究は大動
脈を用いてなされてきた3) −5).しかし,体循環の抵抗を
司る細動脈の収縮機構の発達に伴う変化についてはよ く分かっていない.本研究の目的は抵抗血管の発達に 伴う収縮機序の変化を研究することである.血管収縮 機構の検討には,Caチャンネルの阻害剤であるジルチ マゼムを投与し,収縮にどれだけ影響があるかをみる ことで細胞外から内へ流入するCaの役割を推定し た.また,細胞内のCa貯蔵器官からCaを放出させる 働きをもつ,カフェインを使用して細胞内Ca貯蔵量
別刷請求先:(〒162)新宿区河田町8−1
東京女子医大循環器小児科 中西 敏雄
を推定した6).最後に電子顕微鏡で小胞体をはじめと する微細構造を検討した.
方 法
実験動物:家兎の腸間膜動脈を使い実験を行った.
胎生29日(満期31日)の胎仔,生後3〜5日の新生仔,
及び生後4〜8カ月の成獣家兎を使用した.実験動物 は当大学の実験動物管理基準に則って扱った.
溶液:コントロールの灌流液(Krebs−Henseleit液,
K−H液と略)の組成はNaCl,118mM;KCI,5mM;
CaCl2,1.5mM;glucose,6mM;MgC12,1mM;
NaHCO3,24mM;NaH2PO4,0.436mMである.こ
の液は95%02−5%CO2で飽和し, pHは7.4であった.
コントロール液のPo2は660〜690mmHg, Pco2は
35−42mmHgであった. N・2・hydroxyethylpiperazine−
N −2−ethan−sulphonic acid(HEPES)液の組成は NaCl,142mM;KCI,5mM;CaCl2,1.5mM;g]ucose,
6mM;NgCl2,1mM;Hepes,5mM(1M NaOHで
pH 7.4に調節)である. HEPES液は100%02で飽和 した.Po2は790〜810mmHgであった.
血管を収縮させるため高KCI液(50mMから120 mMの間)を用いたが,その際にはK・H液または HEPES液のNaClをKCIと交換し,最終的にKC|の
濃度が50mMから120mMとなるようにした. Dilti−azemを用いた実験では薬物を直接にK−H液に加え た.細胞内Ca貯蔵量を推定するためにカフェインや ノルアドレナリンを用いた.その際,灌流液にCaと
Naを含まない条件で時に実験したがその際には
CaCl,を1mM EGTAで置換した. CaとNaのない液 の組成(mM)はN−methylglucamine,142;KC1,4;K2−EGTA,1;glcose,6;MgCl2,1;HEPES,5であ り,最後に1M HC1でpHを7.4に調節した.このCa
とNaのない液に20mMのカフェインまたは10 5M
のノルアドレナリンを加えた.これらのHEPES液は 100%02で飽和した.血管標本:胎生29日(満期は31日)の妊娠家兎をペ ントバルビタール(50mg/kg,静注)で麻酔し,帝王 切開にて胎仔を分娩させた.胎仔は生後10分以内に使 用した.胎仔,新生仔,成獣家兎はヘパリン投与(15 U/体重100g,静注または腹腔内注)後,ペントバルビ タール(40mg/kg)で麻酔し,腹部を開き,長さ2〜5 cmの小腸(空腸の部分)を腸間膜をつけたまま摘出し た.小腸は摘出後,すぐに氷冷したHEPES液に入れ た.実体顕微鏡(model SMZ, Nikon)下で腸間膜動 脈アーケイドの第2分枝から長さ1mmの動脈を分離
した(図1).各年齢群で実験に使用した腸間膜動脈の 外径と内径を表1に示す.
張力測定:腸間膜動脈を倒立顕微鏡(NikOn, TMD)
Mesenteric artery
2[1
x
Intestine
図1 実験に用いた血管.腸問膜動脈アーケイドの第 2分枝から長さ1mmの血管を分離した.
表1 用いた腸間膜細動脈の径,壁厚,長さ
胎仔 新生仔 成獣
(n=18) (n=18) (n=18)
血管外径(μm)
血管内径(μm)
壁厚 (μm)
血管長 (μm)
129±3**
104±3**
13±2**
945±27
241士12*
138±11*
52±3*
1,050±91
395±23 246±18 75±5
1,100±83
値は平均±標準誤差.
*二成獣の値より有意に少ない, *=新生仔と成獣の値より
有意に少ない.
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図2 張力測定装置の血管を固定する部分を示す.左 右のアームにそれぞれ2個のねじがついている,血 管に2本のタングステンワイヤー(白矢印)を通し,
それぞれを左の上下のねじ,右の上下のねじで固定 する.血管(黒矢印)の長さは約1mm.
上のバスの中に置き,灌流液を灌流した.液温は37℃
に保った.動脈内に2本のタングステンワイヤー(直 径25μm,Thermionic Products Company, North Plainfield, NJ, USA)を通し,そのワイヤーをネジ で2本のアームにそれぞれ固定した.2本のアームの うち一方のアームはマイクロマニピュレーターに固定 され,他方のアームは張力トランスジューサーに固定 されている(文献7,8,図2),血管の張力は張力ト ランスジューサー(Kulite Semicondactor, Leonia NJ, USA),増幅器(三栄測器),記録器(三栄測器)
を用い記録した.
マイクロマニピュレーターによりアームを動かし,
ワイヤー間の距離を広げ,血管を引的張ることで静止 張力をかけた.いくらの静止張力をかけるかの決定は 以下のごとく行なった.まず生体内で血管にかかる張 力をLaPlaceの法則から計算した7}12).生体中での大 動脈の平均圧は胎仔で20mmHg,新生仔で40mmHg,
成獣で90mmHgであると仮定した9)1°).直径100〜300
平成8年8月1日
μmの抵抗血管の圧は大動脈の80〜90%であることが 知られている11}.従って抵抗血管での平均圧は,胎仔で
/6mmHg,新生仔で32mmHg,成獣で80mmHgとな
る.血管をバスの中にセットし,血管長とワイヤー間 の距離を測定しながらワイヤー間の距離を徐々に大き くした.血管径と張力の関係をグラフにプロットし,生体内の圧に相当する張力に達した時点での張力を至 適張力とした.この時の血管径をLoとした.次いで血 管径をLoの80%にまで縮め,以下の実験はLoの80%
の径で行なった.血管が2方向に,いわばいびつに引っ 張られていることに起因する血管の過伸展を避けるた めである7).80%Loでの静止張力は胎仔で0.14±
0.003mN/mm,新生仔で025±0.05mN/mm,成獣で 0.33±0.03mN/mmであった.
実験プロトコール:高KCIによる脱分極の効果を みる実験では溶液のKClの濃度を5mMから50,80,
120mMへと上げた.さらに最大の収縮をうながすた
めに120mMのKCIに加えCa濃度を1.5mMから10
mMに増加させた.Ca拮抗剤ジルチアゼムの効果をみる実験では,比較 的軽度の収縮を50mM KCIにより起こさせた後,ジル チアゼムによる弛緩効果をみた.50mM KCIで血管収 縮を起こさせ,その後50mM KCIに加え,10−7Mから 10−5Mのジルチアゼムを含む液で灌流した.ジルチア ゼムによる弛緩効果は50mM KCIによる収縮を100%
として計算した.
カフェインは細胞内器官(小胞体)からCaを放出さ せる13).ノルアドレナリンは細胞外Ca流入を増加さ せるとともに,細胞内器官からCaを放出させる17).カ フェインやノルアドレナリンの効果をみる実験では,
細胞内へCa流入を防ぐためCaを含まない液を,また
細胞外Na一細胞内Ca交換による細胞内Ca汲み出
しを防止するためNaを含まない液を使用した.Caと Naのない液で10分灌流後,カフェインやノルアドレ ナリンを含む液で灌流した.その後CaとNaを含む 液に戻し,120mM KCIと10mM Caを含む液で灌流す
ることで最大収縮を観察した.カフェインやノルアド レナリンによる収縮を,120mM KC1と10mM Caを含 む液で得られた収縮を100%として計算した.α一受容 体の質的,量的な年齢差があればノルアドレナリンに よる収縮は異なる可能性がある.そこでノルアドレナ リンによる収縮は,CaとNaを含むコントロール液中 のノルアドレナリンによる収縮に対する比でも表わし
た.
493−(5)
発生張力は観察された張力から静止張力を引いたも のとした.ジルチアゼムやカフェインの存在下での発 生張力は,高KCIで発生した張力と比較した値(%of control)で表わした.
腸間膜動脈の平滑筋細胞の微細構造は電子顕微鏡
(口本電子JEM1200EX)を用いて行なった.動脈の一 部を氷冷した3%glutardehyde(0.1M phosphate buffer, pH 7.4)中に,60分おいた.その後0.1Mphos−
phate bufferでサンプルを洗った後,0.1M phosphate bufferに溶かした1%0、0、液中に置いた.エタノー ルで脱水した後,Poly Bed 812 Resinに包埋した.
Ultramicrotome(LKB UItrotome V)にて切り出し た後,uranyl acetateとlead citrateにて染色し,観
察した.
統計:数値は平均±標準誤差で表した.平均値の差 はノンパラメトリック法(Wilcoxon s rank sum test)
を使い検定し,p<0.05の場合を有意とした 4).
結 果
高Kは膜電位をあげ脱分極を起させ,収縮を引き起 す.高KCI(+高Ca)で得られた最大の発生張力は胎 仔で1.10±0.25mN/mm,新生仔2.07±0.22mN/mm,
成獣で2.94±0.45mN/mrn(それぞれn=11)であっ た.最大の発生張力は発達とともに増加した.それぞ れの年齢群の最大値を100%としてKC1への感受性を みると,血管収縮の相対値には有意差はなかった(図
3).
膜の脱分極Caチャンネルの阻害剤であるジルチア ゼムを投与し,収縮にどれだけ影響があるかをみるこ
とで細胞外から内へ流入するCaの役割を推定した.
血管収縮がコントロールの何%にまで低下したかを成 獣,新生仔,胎仔で比較すると(図4),例えば10−6M ジルチアゼムで血管収縮は成獣では投与前の収縮の 30±7%にまで低下したが,新生仔では75±11%に,胎 仔では71+4%に低下するにとどまった.10−7〜10−5M のジルチアゼムの血管弛緩作用は成獣に比べ,新生仔,
胎仔で有意に少なかった.
ジルチアゼムに対するCaチャンネルの親和性が各 年齢群で異なっている可能性を検討した.収縮カージ ルチアゼム濃度曲線は成獣で左方に寄っており,新生 仔と胎仔は同じ位置にあった.このことはCaチャン ネルから筋肉収縮にいたる過程の,ジルチアゼムに対 する親和性が,成獣では大きいことを示唆する.
カフェインは細胞内器官(小胞体)からCaを放出さ せる13).ノルアドレナリンは細胞外Ca流入を増加さ
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120mMK
+10mM Ca
[KCI]
図3 高KCIによる血管収縮.高KCIによる血管収縮の相対値(最大値に対する%で 表わした)には年齢による差はなかった.
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十 Fetus mesenteric Newborn mesenteric Adult mesenteric
10.7M 10.6M 10−5M
図4 50mM KC1により血管収縮を起させた後, Ca拮抗剤ジルチアゼムによる弛緩 効果をみた.血管収縮がコントロールの何%にまで低一ドしたかを示す.ジルチアゼ ムによる血管弛緩作用は成獣に比べ,新生仔と胎仔で少なかった.*=新生仔と胎 仔に比べ有意差あり,**=胎仔に比べ有意差あり.
せるとともに,細胞内器官からCaを放出させる17).細 胞内Ca貯蔵量を推定するため,カフェインやノルア ドレナリンを使用して細胞内Caの放出を起し,引き 越される収縮を測定した.細胞内へCa流入を防ぐた
めCaを含まない液を,また細胞外Na一細胞内Ca交 換による細胞内Ca汲み出しを防止するためNaを含 まない液を使用した.カフェインによる収縮をKCIに よる収縮と比べると,胎仔ではKCI収縮の28%で,新 生仔での値(35%)と有意差はなかった.一方成獣で
は9%にすぎず,胎仔や新生仔での値より有意に少な かった(図5,6).
Caを含まない液でのノルアドレナリンによる収縮 をKCIによる収縮と比べると,胎仔ではKC1収縮の 40±6%(n=5)で,新生仔の値(32±8%,n=5)と 有意差はなかった.一方成獣では7±3%にすぎず,胎 仔や新生仔での値より有意に少なかった.Caを含まな い液でのノルアドレナリンによる収縮/Caを含む液で のノルアドレナリンによる収縮の比も,成獣では16+
平成8年8月1日 495−(7)
A・FetUS Caffe血1e
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120mM KC1+10 mM Ca
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図5 細胞内Ca貯蔵量を測定するため,
し,引き起される収縮を測定した.カフェインによる収縮をKC1による収縮と比べ ると,胎仔や新生仔ではカフェインによる収縮は,KCI収縮よりは少ないものの,
かなり認められるのに比し,成獣ではごくわずかの収縮しか認められなかった.
一
5min
カフェインを使用して細胞内Ca放出を起
%
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Caffeine−induced contraction
Fetl1S Newbom Adult
図6 カフェインによる収縮をKCIによる収縮と比 べた.カフェインによる収縮は胎仔ではKCI収縮の 28%,新生仔で35%であったのに比べ,成獣では9%にすぎなかった.
6%にすぎず,新生仔(42±11)や胎仔(57±9%)の 値よりも有意に少なかった(図7).
次に血管平滑筋細胞で微細構造,特に小胞体の発達
を調べた.成獣では少胞体はほとんど認められないの に比べ,新生仔や胎仔では豊富に小胞体が認められた
(図8).
考 察
これまでに細動脈の収縮機構の発達に伴う変化を調 べた研究はない.より大きな血管例えば大動脈での研 究では,発生張力は発達とともに増加することが示さ れている3)4).本研究では,細動脈でも発生張力が発達
とともに増加することを示した.筋原線維の密度は発 達とともに増加するので(図8),発生張力の発達に伴
う増加は,単位あたりの血管に含まれる収縮蛋白の増 加による可能性が高い.
高Kは膜電位を上昇させ脱分極を起させ,細胞外か ら内へのCa流入を増加させると共に,細胞内器官か らのCa放出を増加させ,収縮を引き起す.本研究では 高KCIで得られた血管収縮の相対値には発達に伴う 差はなかった.このことは脱分極は,各年齢群で同程 度に収縮機構を活性化させることを示唆する.
一方,Ca拮抗剤ジルチアゼムを投与し,その弛緩効 果をみると,新生仔と胎仔では弛緩効果は同じであっ たが,成獣では弛緩効果が大きかった.このことは,
A.Fetus ー
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(日日≧日︶
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5min
図7 細胞内Ca貯蔵量を測定するため,ノルアドレナリンを使用して細胞内Ca放出 を起こし,引き起される収縮を測定した.Caを含まない液でのノルアドレナリンに よる収縮を,高KCIによる収縮と比べると,胎仔や新生仔に比べ成獣での収縮が少 なかった.
新生仔や胎仔の血管収縮は,成獣ほど細胞外からのCa チャンネルを通したCa流入に依存しないことを示 す.新生仔や胎仔でジルチアゼムの弛緩効果が少な かったのは,これら年齢群でCa拮抗剤受容体とジル チアゼムとの親和性が低いためではないかというr義論 もあろう.たしかにジルチアゼムの弛緩効果は新生仔 や胎仔に比べると成獣において,より低い濃度から観 察された(図4).しかし親和性が低いだけなら,ジル チアゼムの濃度を増やせば弛緩効果は得られるはずで ある.今同の実験では,新生仔や胎仔でジルチアゼム の濃度を増しても,成獣ほどは弛緩効果が得られな かった.このことは弛緩効果の年齢差は親和性のみで は説明できないことを示唆する.
胎仔では低濃度ジルチアゼム(10.7M)でむしろ収縮 が増加したが,この理由は不明である.Ca拮抗剤は細 胞外へのCa流出を抑える作用もあるという報告もあ るので2°),低濃度ジルチアゼムで胎仔では逆に細胞内
Ca濃度が増加したのかもしれない.
今回のジルチアゼムの効果の年齢差は,細胞膜Na−
Ca交換の違いでも説明できるかもしれない.即ち,胎 仔や新生仔でNa−Ca交換を通したCa流入が多けれ ば,Caチャンネルを阻害しても収縮は保たれる可能性 がある.心筋では未熟心筋のほうがNa・Ca交換活「生が 高いことが示されているが21},平滑筋での研究は未だ なされておらず今後の課題である.但し細胞内からの Ca供給の発達に伴う違いについてのカフェインやノ ルアドレナリンを用いた実験ではNa−Ca交換が関与 しない条件下で行っており,Na−Ca交換の違いでは説 明できない.
血管収縮の細胞外Caに対する依存度をみる為に,
今回の実験ではCa拮抗薬を用いたが,細胞外Ca濃度 を下げても同じ効果がえられるはずである.しかし以 前の我々の実験では,収縮カー細胞外Ca濃度曲線は 胎仔や新生仔に比べ成獣で左方に寄っていた(データ
平成8年8月1目 497 (9)
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図8 血管平滑筋細胞の微細構造.胎仔(A),新生仔(B)では豊富に小胞体が認め られた.一一方,成獣(C)では小胞体はほとんど認められない.筋原線緩は胎仔や新 生仔では少なかったが,成獣では豊富に認められた.
未発表).つまり細胞外Ca濃度を下げても収縮力の低 下は成獣で少なかった.Ca拮抗薬で得られた結果との 違いの理由を検討するため,筋原線維のCaに対する 感受性をsklnned飾erを用いて調べたところ,収縮カ ー細胞内Ca濃度曲線は成獣で左方に寄っていた2 ).
つまり成獣では低濃度の細胞内Caでも収縮が起りう ることになり,このことは細胞外Ca濃度を下げても
収縮力の低下が成獣で少ない説明となると考えられ た.成獣ではより低濃度の細胞内Caで収縮が起り得 るにもかかわらず,ジルチアゼムの弛緩効果が大き かったことは,やはりジルチアゼムの細胞内Ca低下 作用が成獣で大きいことを示唆する.
細胞内からのCa供給の,発達に伴う違いについて カフェインやノルアドレナリンを用いて検討した.新
生仔と胎仔ではカフェインやノルアドレナリンによる 収縮が成獣より大きかった.このことは未熟な細動脈 では細胞内Ca貯蔵量がより多いことを示唆する.さ らに電子顕微鏡による微細構造の観察は小胞体が胎仔 と新生仔では豊富で成獣では少ないことを示した.心 筋と同じく,平滑筋でも小胞体は細胞内Ca濃度の調 節を司る重要な器官である15).平滑筋微細構造の観察 結果はカフェインやノルアドレナリンの実験結果と合 致する所見と思われる.以上の結果は,未熟な細動脈 では細胞内Ca貯蔵がより豊富であることを示す.
以前我々は家兎大動脈で,ジルチアゼムの血管弛緩 作用は成獣に比し新生仔でより大きいこと,カフェイ
ンによる収縮は新生仔でより少ないことを示した16).
またこれまでに我々は,未熟心筋では小胞体の発達が 少なく,未熟心筋の収縮はより細胞外Caに依存する ことを示してきた1)2).これらの大動脈や心筋でのデー タは,今回の細動脈での結果と反対である.即ち今回 は,未熟な抵抗血管ではより細胞内器官が豊富で細胞 外からのCaへの依存度が少ないという結果であっ た.成獣では大動脈と細動脈を比べると,大きな血管 ほど細胞内器官が豊富で細胞外からのCaへの依存度 が少ないことが知られている 7).なぜ未熟な血管では 小胞体が豊富で発達に伴い低下するのかは不明であ る.今後小胞体に存在するCa−ATP aseの発現に関与 するmesenger RNAの濃度の測定などで,小胞体の 発達について研究する必要がある.
今回の実験で高KCIやノルアドレナリンで血管を 収縮させた場合,一過性の収縮の後,緩徐な収縮低下 を認めた(図5,7).その収縮低下は,成獣でより著 しい傾向があったが,理由は不明である.この収縮低 下は,Ca依存性K電流による膜電位の変化やミオシ
ンの脱燐酸化などによりもたらされる可能性もあり,
必ずしも細胞内器官へのCa取り込みを反映しない可 能性もある.したがって,収縮低下が成獣で顕著であ
るからといって必ずしも小胞体のCa取り込み機能が 成獣で大きいとはいえない.
今回の様な摘出動脈を用いて実験を行う場合,灌流 槽のなかで薬物無しで生体中に近い血管の収縮を得る
ことは難しい.生体内での動脈の収縮弛緩は主にカテ コラミンにより制御されており,今回の実験に用いた KC1による収縮の意義ははっきりしないという議論
もあろう.今回は以下の2つの理由からKCIによる収 縮を用いた.第一にノルアドレナリンを投与した場合,
定常状態の収縮を得ることが難しかった.第2にノル
アドレナリンは細胞内器官からCaを放出させるとと もに,脱分極により収縮を起させるという報告があ る17)18).それならばKC1を用いた脱分極による血管収 縮でも同様に生理的意味があると推測した.
もし生理的な血管収縮が脱分極によって起るなら,
今回の高KCIを用いた結果は,脱分極による収縮機構 の活性化は各年齢群で同程度に起っていることを示唆 する.しかし今回の結果は,定常状態で収縮機構に同 程度の活性化が起っていても,ある侵襲が加わったと き,例えばCa拮抗剤が投与された時,血管弛緩作用に は年齢差が生じる可能性を示す.これは臨床的にも重 要な意味をもつ所見かもしれない.例えば新生児にCa 拮抗剤を用いる場合,その薬剤は成人に比べて心筋収 縮力低下作用は強く,血管拡張作用は弱い可能性があ る.Gibsonら19)は成犬ではベラバミルは体血管抵抗を 減少させ,幼犬では減少させなかったと報告している が,今回の結果と合致する所見かもしれない.
文 献
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Developmental Changes in Contractile System of the Mesenteric
Small Artery of Rabbit
Hong Gu, Toshio Nakanishi and Kazuo Momma Department of Ped{atric Cardiology, Heart Institute of Japan,
Tokyo Women s Medical College, Tokyo, Japan
This study investigated developmental changes in the contractile system of the mesenteric small arteries of the rabbit. Arteries with about l mm in length and 100−250μm in internal diameter were dissected out from the mesenteric bed of the fetus(29 day of gestation), newborn(3−5 days,
old), and adult rabbit. Vascular contraction was induced by high KCI and contractile force was measured using a tension transducer. In order to determine the role of Ca influx across the sarcolemma in vascular contraction, the vasorelaxant effect of diltiazem was studied in the artery precontracted with high KC1. The vasorelaxant effect of diltiazem in the fetus and newborn was less than in the adult. To estimate the size of intracellular Ca pool, caffeine−induced contraction was measured. In the fetus and newborn, the caffeine−induced contraction was greater than in the adult. The ultrastructual study showed that the endoplasmic reticulurn was abundant in the fetus and newborn and it was scare in the adult. These data indicate that the dependency of vascular contraction on Ca across the sarcolemma increases and that on the intracellular Ca store decreases with development in the mesenteric resistance arteries.