岡山医学会雑誌 第129巻 December 2017, pp. 159-161 平成28年度岡山医学会賞紹介記事
総合研究奨励賞(結城賞)
受 賞 対 象 論 文
Murakami K, Eguchi J, Hida K, Nakatsuka A, Katayama A, Sakurai M, Choshi H, Furutani M, Ogawa D, Takei K, Otsuka F, Wada J : Antiobesity Action of ACAM by Modulating the Dynamics of Cell Adhesion and Actin Polymerization in Adipocytes.
Diabetes (2016) 65, 1255-1267.
村 上 和 敏 岡山大学大学院医歯薬学総合研究科 腎・免疫・内分泌代謝内科学
Kazutoshi Murakami Department of Nephrology, Rheumatology, Endocrinology and Metabolism, Okayama University Graduate School of Medicine, Dentistry and Pharmaceutical Sciences
<プ ロ フ ィ ー ル>
昭和48年生まれ
平成11年 3 月 鳥取大学医学部医学科卒業
平成11年 4 月 岡山大学医学部附属病院 第三内科 研修医 平成11年10月 岡山赤十字病院 初期研修医
平成13年10月 落合病院 内科 医員 平成14年10月 佐用中央病院 内科 医長
平成15年10月 岡山大学医学部・歯学部附属病院 腎臓・糖尿病・内分泌内科 医員 平成20年 4 月 岡山大学医学部・歯学部附属病院 中央検査部 医員
平成23年 4 月 岡山大学病院 総合内科 助教 平成28年 1 月 国立療養所邑久光明園 内科 医長
平成28年 4 月 Department of Endocrinology, Cincinnati Children’s Hospital Medical Center
研究の背景と経緯
肥満研究の進歩により,内臓脂肪組織は単なる脂質 の貯蔵臓器ではなく,アディポサイトカインなどの 様々な生理活性物質を分泌することにより,食事摂取 やインスリン抵抗性に関与し,生体内のエネルギーバ
.
,2)
ランスを調節する内分泌臓器として注目されている1
そこで,我々はメタボリックシンドロームの発症メ カニズムを解明する目的で,内臓脂肪組織に着目し内 臓脂肪蓄積型肥満,2 型糖尿病,高血圧,脂質異常症 を呈する OLETF(Otsuka Long-Evans Tokushima Fatty)ラットを用いて,遺伝子サブトラクション法に より内臓脂肪組織において発現の上昇する遺伝子群を 探索した3).その結果,CTX(cortical thymocyte marker in Xenopus)遺伝子ファミリーに属する 1 型膜蛋白で ある ACAM(adipocyte adhesion molecule)を同定し,
以下の知見を得て報告した4).
1 .ACAM mRNA の白色脂肪組織での発現は肥満の 形成に伴い上昇する
ACAM mRNA は,OLETF ラット,遺伝性肥満糖 尿病モデルの db/db マウス,食事性肥満モデルの DIO
(diet induced obesity)マウスの内臓脂肪組織と皮下 脂肪組織で発現が増強し,ヒト皮下脂肪組織での発現 は BMI と正の相関を認めた.
2 .ACAM は主に成熟脂肪細胞の plasma membrane 分画に発現を認める
マウス内臓脂肪組織と皮下脂肪組織をコラゲナーゼ で処理してノーザンブロットで検討したところ,ACAM mRNA は主に成熟脂肪細胞に発現しており,SVF
(stromal vascular fraction)での発現はほぼ認めなか った.また,成熟脂肪細胞での ACAM の細胞内局在 性をウェスタンブロットで検討したところ plasma membrane 分画に発現を認めた.
3 .ACAM は細胞間のホモフィリックな細胞接着に 関与する
CTX 遺伝子ファミリーメンバーの多くは,上皮細 胞,内皮細胞においてホモフィリックな細胞間接着能 を有することが知られている5).そこで,CHO 細胞株 を 用 い て ACAM stable cell line を 作 成 し cell aggregation assay を行うと,ACAM 高発現株はコン トロール株,低発現株と比較して,より大きな細胞凝 集塊を形成したことから,ACAM は細胞間のホモフ ィリックな接着能を有すると考えられた.
CTX 遺伝子ファミリーを含めて成熟脂肪細胞に発 現する接着分子の報告はほとんどない.また,前駆脂 肪細胞から成熟脂肪細胞への分化過程における細胞形 態変化には細胞間の interaction が重要であり,この形 態変化における細胞内シグナル伝達や細胞骨格の変化 159
を細胞間接着分子が掌っていることが推測されたこと から,ACAM の脂肪細胞分化や肥満形成における機 能解析は,肥満,メタボリックシンドロームの発症メ カニズム解析や新規治療開発に結びつくと考え,本研 究を行った.
研究成果の内容
1 .ACAM は 3T3-L1 脂 肪 細 胞 に お い て KLF4,
CEBPβの転写制御を受け脂肪細胞分化を促進する 3T3-L1 脂肪細胞を CEBP βのドミナントネガティ ブフォームである LIP アデノウイルスベクターで処 理し分化誘導したところ,コントロール群に比較して ACAM の発現は CEBP αや PPAR γなどの adipogenic marker の発現や脂肪細胞分化とともに抑制された.
加 え て,ACAM は Sertoli 細 胞 に お い て KLF4 と GATA1 が協調的に作用することで転写活性が上昇し6), 3T3-L1 脂肪細胞においては KLF4 が CEBP βを介し て脂肪細胞分化を制御すると報告されていることから7), 3T3-L1 脂 肪 細 胞 に お け る ACAM の 転 写 調 節 と KLF4,CEBPβとの関連について以下の検討を行っ た.すなわち,ACAM プロモーター領域の-79から-57 の部位の CEBP βコンセンサス結合部位を含む pGL3 ベクターを用いたルシフェラーゼアッセイを行ったと ころ,ルシフェラーゼ活性の上昇を認めた.さらに,
KLF4 と GATA1 の発現ベクター添加によりルシフェ ラーゼ活性はさらに上昇した.これらの結果から,
3T3-L1 脂肪細胞においても KLF4 および CEBP βが ACAM の転写活性を増強し,脂肪細胞分化を促進し ていることが示された.
2 .aP2 promoter による ACAM transgenic(Tg)
マウスは体重増加と脂肪細胞の肥大化が抑制される 主に脂肪細胞に過剰発現する aP2 プロモーターを 用いて,ACAM Tg マウスを作出し,in vivo における ACAM の肥満形成や脂肪細胞分化における役割を検 討したところ,高脂肪高蔗糖食(HFHS)飼育下で wild type(WT)マウスに比べ ACAM Tg マウスは,体重 増加抑制と内臓脂肪組織重量の増加抑制に加え,脂肪 細胞の肥大化抑制を認めるとともに,耐糖能異常と small dense LDL-C 含む脂質異常が是正された.これ らの結果から,ACAM は in vivo において,脂肪細胞 の分化増殖を制御することで肥満の進行を抑制し,全 身のエネルギー代謝を制御していると考えられた.
3 .ACAM Tg マウスは褐色脂肪機能が亢進し基礎代 謝が亢進している
ACAM Tg マウスのメタボリックパラメーター改 善のメカニズムを解析する目的で,代謝プロファイル の検討を行ったところ,ACAM Tg マウスは WT マウ スに比べ HFHS 飼育下で有意な酸素消費量亢進を認 めた.そこで,肩甲骨間褐色脂肪組織について検討を 行ったところ,WT マウスに比べ ACAM Tg マウスは 肩甲骨間褐色脂肪組織重量の増加抑制,脂肪滴のサイ ズ縮小,UCP1(uncoupling protein 1)mRNA の発現 上昇を認めた.これらの結果から,ACAM Tg マウス は褐色脂肪組織機能の亢進により基礎代謝が亢進して いることが示された.
4 .ACAM は脂肪細胞においてもホモフィリックな 接着活性を有し,重合アクチンと zonula adherence の形成を促進することで脂肪細胞の肥大化と肥満の形 成を抑制する
ACAM 全長 cDNA をアデノウイルスベクターによ り3T3-L1 細胞に発現させ,Interplay Mammalian TAP
(tandem-affinity purification)system により抽出し た蛋白を,LC-MS/MS と MALDI-TOF/MS により解 析することで ACAM と相互作用する細胞内分子の探 索を行った結果,細胞骨格分子である myosinII-A と γ-actin を同定した.
次に,これまでの我々の検討から,ACAM は細胞間 のホモフィリックな接着能を有することから,ACAM は脂肪細胞においても細胞接着やγ-actin との相互作 用により細胞骨格の変化をもたらし,脂肪細胞の肥大 化を抑制しているとの仮説を立て引き続き検討を行っ た.すなわち,WT マウスと ACAM Tg マウスの白色 脂肪組織を用いて重合アクチンを染色する Phalloidin と抗 ACAM 抗体による免疫組織学的検討を行ったと ころ,Phalloidin は ACAM Tg マウスでより強く染色 され,ACAM との共染色が観察された.加えて,
ACAM 抗体と抗 γ-actin 抗体を用いた免疫電子顕微 鏡による検討から,ACAM と γ-actin は共に ACAM Tg マウスの白色脂肪細胞間隙に強く発現し zonula adherens を形成していることが見いだされた.
こ れ ら の 結 果 か ら,白 色 脂 肪 組 織 に お い て も ACAM は接着分子として機能するとともに,白色脂 肪細胞が肥大化すると細胞膜表面における ACAM の 発現が増加し脂肪細胞同士の接着を促進する.加えて,
その接着部位で ACAM の細胞内相互作用分子である 160
161 アクチンの発現が高まることで,表層アクチン( F actin)
を形成することにより脂肪細胞の肥大化が抑制される という分子機構が判明した.
研究成果の意義
2012年度の「国民健康・栄養調査」では,我が国の 糖尿病有病者数は約950万人であり,予備軍も含めると 2,050万人に達すると報告されている.加えて,2 型糖 尿病の分子基盤となるメタボリックシンドローム患者 数も急速に増加している.メタボリックシンドローム や 2 型糖尿病は,虚血性心疾患,脳卒中,慢性腎臓病 などを合併症として来すことで,国民の健康寿命に多 大な影響を与えており,その克服は国民の健康増進の ための重要課題のひとつとされている.ACAM を分 子ターゲットとした新規治療法の開発により,メタボ リックシンドロームや 2 型糖尿病を克服し,心血管疾 患を中心とした合併症の発症を予防することで,健康 寿命の維持・延長に寄与できると期待している.
今後の展開や展望
本研究により,ACAM を介した白色脂肪組織にお ける脂肪蓄積制御の新しい分子機構が明らかとなっ た.このメカニズムを生体に応用することで,メタボ リックシンドロームや 2 型糖尿病治療における新たな 創薬ターゲット分子の同定につながると考えられる.
本研究は,独立行政法人日本学術振興会(JSPS)科学研究費 補助金(基盤C:26461362,新学術:23126516 25126716),公 益財団法人両備檉園記念財団学術研究助成,公益財団法人岡山 医学振興会研究助成を受け実施した.
文 献
1 ) Matsuzawa Y, Shimomura I, Nakamura T, Keno Y, Tokunaga K: Pathophysiology and pathogenesis of visceral fat obesity. Ann N Y Acad Sci (1995) 748,399-406.
2 ) Matsuzawa Y, Shimomura I, Kihara S, Funahashi T:
Importance of adipocytokines in obesity-related diseases.
Horm Res (2003) 60 Suppl 3,56-59.
3 ) Hida K, Wada J, Zhang H, Hiragushi K, Tsuchiyama Y, et al.:Identification of genes specifically expressed in the accumulated visceral adipose tissue of OLETF rats. J Lipid Res (2000) 41,1615-1622.
4 ) Eguchi J, Wada J, Hida K, Zhang H, Matsuoka T, et al.:
Identification of adipocyte adhesion molecule (ACAM) , a novel CTX gene family, implicated in adipocyte maturation and development of obesity. Biochem J( 2005) 387,343-353.
5 )Raschperger E, Engstrom U, Pettersson RF, Fuxe J:CLMP, a novel member of the CTX family and a new component of epithelial tight junctions. J Biol Chem (2004) 279,796- 804.
6 ) Sze KL, Lee WM, Lui WY:Expression of CLMP, a novel tight junction protein, is mediated via the interaction of GATA with the Kruppel family proteins, KLF4 and Sp1, in mouse TM4 Sertoli cells. J Cell Physiol( 2008) 214,334-344.
7 )Birsoy K1, Chen Z, Friedman J:Transcriptional regulation of adipogenesis by KLF4. Cell Metab (2008) 7,339-347.
A B
図 ACAM による脂肪細胞肥大化抑制機構
A:脂肪細胞が ACAM によって接着し,表層アクチン(細胞内骨格分子)を形成することで,脂肪細胞の肥大化を抑制している,
B:ACAM Tg マウスの脂肪細胞の接着部位(zonula adherens)に ACAM とアクチンが存在している(矢印).
平成29年 6 月24日受稿
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