理科への関心を高める一方策として
著者 青木 寿史
雑誌名 東京家政大学教員養成教育推進室年報
巻 4
ページ 207‑216
発行年 2017‑11‑01
出版者 東京家政大学教員養成教育推進室
URL http://id.nii.ac.jp/1653/00010145/
教員養成教育推進室年報 第4号
中高 ・理科教育法における自由研究実践の意義
-理科への関心を高める一方策として-
Significance of science freedom research practice in the junior / senior high school science teaching methods
- One way to increase interest in science -
栄養学科非常勤講師 青木 寿史
1.はじめに
理科の授業展開においては,観察・実験を行うことが求められている。これは,学習指導要領に述べら れているとおり,科学的探求の能力を育成するものである。学習は,どの教科においても,小学校から高 等学校までの一貫した目的があるので,中学・高校の教員であっても,小学校の学習内容を把握すること が必要である。平成29年3月には,小中学校の次期学習指導要領も告示されている。
この学習指導要領にしたがって編纂される文部科学省検定教科書における観察・実験の配置は,単元を 学習したのちの,学習内容の検証という流れが主になっている。つまり,結果がある程度推測される観 察・実験になるのである。
一方,小学校や中学校で,夏休みの宿題とされることが多い「自由研究」について,理科の自由研究は,
学習指導要領に規定される「観察・実験」「探求活動」「課題研究」とどのような関係にあるのだろうか。
どの程度の自由度がある研究なのだろうか。このような疑問の設定を,講義に取り入れるために参考とし たものが,筆者の本務である本学附属女子高等学校における,学校設定科目の「自然科学実験」である。
この授業では,通常の理科の授業では見ることのできない生徒の姿がある。自由度が大きめの実験が繰り 返され,理科の成績が芳しくない生徒でも,「自然科学実験」では活躍が見られる。そこで,理科の「自 由研究」は,理科の学習を楽しいと思えるきっかけになるためのものと捉え,中学・高等学校理科の教員 免許取得を目指す学生での実践を,理科教育法Ⅲ(環境教育学科・栄養学科管理栄養士専攻対象の選択科 目)で行った。
2.学習指導要領における「観察・実験」
(1)現行の学習指導要領
理科では,観察・実験を行い,自然の事物・現象を理解し,科学的な自然観を養う。現行の学習指導要 領における理科の目標は次のとおり記述されている。
小学校 学習指導要領 平成20年3月告示(平成23年度実施,現行課程)
自然に親しみ,見通しをもって観察,実験などを行い,問題解決の能力と自然を愛する心情 を育てるとともに,自然の事物・現象についての実感を伴った理解を図り,科学的な見方や考 え方を養う。
中学校 学習指導要領 平成20年3月告示(平成24年度実施,現行課程)
自然の事物・現象に進んでかかわり,目的意識をもって観察,実験などを行い,科学的に探 究する能力の基礎と態度を育てるとともに自然の事物・現象についての理解を深め,科学的な 見方や考え方を養う。
高等学校 学習指導要領 平成21年3月告示(平成24年度学年進行 数学・理科先行実施,現行課程)
自然の事物・現象に対する関心や探究心を高め,目的意識をもって観察,実験などを行い,
科学的に探究する能力と態度を育てるとともに自然の事物・現象についての理解を深め,科学 的な自然観を育成する。
(2)次期の学習指導要領
平成29年3月に告示された,次期学習指導要領では,育成目標が細分化された。その目標の中で,観 察・実験などの技能を身につけることが明記されている。
小学校 学習指導要領 平成29年3月告示(平成32年度実施)
自然に親しみ,理科の見方・考え方を働かせ,見通しをもって観察,実験を行うことなどを 通して,自然の事物・現象についての問題を科学的に解決するために必要な資質・能力を次の とおり育成することを目指す。
⑴ 自然の事物・現象についての理解を図り,観察,実験などに関する基本的な技能を身に付 けるようにする。
⑵ 観察,実験などを行い,問題解決の力を養う。
⑶ 自然を愛する心情や主体的に問題解決しようとする態度を養う。
中学校 学習指導要領 平成29年3月告示(平成33年度実施)
自然の事物・現象に関わり,理科の見方・考え方を働かせ,見通しをもって観察,実験を行 うことなどを通して,自然の事物・現象を科学的に探究するために必要な資質・能力を次のと おり育成することを目指す。
⑴ 自然の事物・現象についての理解を深め,科学的に探究するために必要な観察,実験など に関する基本的な技能を身に付けるようにする。
⑵ 観察,実験などを行い,科学的に探究する力を養う。
⑶ 自然の事物・現象に進んで関わり,科学的に探究しようとする態度を養う。
高等学校の次期学習指導要領(平成34年度より学年進行で実施)は,本稿執筆時点ではまだ告示され ていないが,普通科などの各学科に新教科として「理数」が設定されることが決定している。従来の教科
「理数」は,専門学科としての理数科の教科であったが,次回,普通科などにも設定され,数学と理科の 合教科として実施される。教科「理数」では,「理数探究基礎」(1単位),「理数探究」(2~5単位)が 科目として設定される。「理数」は,スーパーサイエンスハイスクールの手法を生かすことが期待されて いる。
(3)授業における「観察・実験」
中学校・高等学校の理科の教科書には,学習指導要領に定められたようにさまざまな観察,実験,実習 の項目が用意されている。しかし,授業時間数に対して学習すべき項目が多い現状においては,すべての 観察・実験項目を実施することは困難といえる。殊に,高等学校においては,その傾向が顕著である。
また,実際に観察・実験を行うにしても,その単元の学習内容を確かめるための実習作業になっている ことが多い。つまり,方法が細かく指示され,さらに結果がわかっている実習なので,生徒によっては「実 習をこなす」だけになってしまい,途中の経過や考察がおろそかになる場合もある。ややもすると,期待 する結果に至らなければ,「実験は失敗だった」と結論づけてしまいがちである。次期学習指導要領にお
教員養成教育推進室年報 第4号
いては,「見通しをもって」実験を行うことが明記されているので,この傾向が強まってしまう危惧もある。
見通しを立てての実験は重要だが,結果を求めることを重視するのではないことを,授業指導者,生徒と もに理解していなければならない。
3.実験の楽しさとは何か
(1)実験の自由度
生徒実験の際,生徒が問題解決に向けて,自身の考え方をどれほど生かした実験を行うことができるか が,実験の自由度である。生徒の既習事項や能力によっても自由度は変わる。
教科書にある「確かめてみよう」というような観察・実験は,目的から実験方法,見いだすべき課題が 教師から指示されているので,実験の自由度は小さい。生徒にとっては,指示された手順に従って実験を 進めることになる。確かめであるから,結果も見えているので,問題解決能力には大きくは左右されない。
理科への興味・関心が低い場合,実験の楽しさよりも,実験をこなすことに主眼が置かれてしまう。
理科への興味・関心が高ければ,抱いている疑問を解決するための手段として,実験を行うことが考え られる。「なぜ」と思うことを実験で解決することは容易ではない。解決できない問題であるからこそ疑 問を抱くのである。自主的な生徒自身の実験は,相応の実験経験がなければ準備が困難であろう。そこに は,指導者(学校ならば教師など)の存在が欠かせない。生徒の発想を生かしながら,指導者が援助して 進めることによって,問題解決へと導くことの可能性が大きくなる。そして,設定した課題が解決しない こともひとつの結果であり,実験の過程から見えてくる別の結果がある。通常の授業の中での実施は極め て困難と思われる。選択科目や理科のクラブ活動の一環であれば,実施することができるであろう。
表1 実験の自由度
表1には,実験の自由度について,生徒による問題解決までの違いを示した。
ここで,学習指導要領に規定されない「自由研究」は,生徒自らが課題を決め,自主的に実験を行い,
解決へ導いていくことが求められるとするならば,自由度の大きい,難しい作業であると考えることがで きる。
(2)自由研究のありかたと実際
自由研究は,小中学生の夏休みの宿題というイメージが定着している。「自由」なので,何をやっても よい。どんな教科でもよい。文学でも,芸術でも,歴史でもよいのである。もちろん理科でもよい。
自治体によっては,「理科の自由研究」と指定されている場合もある。小学校では,「おうちの方と一緒 にやってみましょう」ということまで言われたりする(おうちの方は苦労する)。このような自治体では,
学校ごとに優れた作品が選ばれ,市町村の科学展覧会,地区(郡市)の展覧会,県の展覧会へと絞り込ま れる。その作品は,すばらしい。できあいの実験器具がない条件で,地道な実験を繰り返し,見事な結果 を得,考察しているのである。小学校から同じテーマで毎年深めている生徒もある。スーパーサイエンス ハイスクールの研究並みの作品も珍しくはない。作品を見ていると,感心するだけではなく,ひたむきな 努力に敬服する。
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する結果に至らなければ,「実験は失敗だった」と結論づけてしまいがちである。次期学習指導要領にお いては,「見通しをもって」実験を行うことが明記されているので,この傾向が強まってしまう危惧もあ る。見通しを立てての実験は重要だが,結果を求めることを重視するのではないことを,授業指導者,生 徒ともに理解していなければならない。
3.実験の楽しさとは何か
(1)実験の自由度
生徒実験の際,生徒が問題解決に向けて,自身の考え方をどれほど生かした実験を行うことができるか が,実験の自由度である。生徒の既習事項や能力によっても自由度は変わる。
教科書にある「確かめてみよう」というような観察・実験は,目的から実験方法,見いだすべき課題が 教師から指示されているので,実験の自由度は小さい。生徒にとっては,指示された手順に従って実験を 進めることになる。確かめであるから,結果も見えているので,問題解決能力には大きくは左右されない。
理科への興味・関心が低い場合,実験の楽しさよりも,実験をこなすことに主眼が置かれてしまう。
理科への興味・関心が高ければ,抱いている疑問を解決するための手段として,実験を行うことが考えら れる。「なぜ」と思うことを実験で解決することは容易ではない。解決できない問題であるからこそ疑問 を抱くのである。自主的な生徒自身の実験は,相応の実験経験がなければ準備が困難であろう。そこには,
指導者(学校ならば教師など)の存在が欠かせない。生徒の発想を生かしながら,指導者が援助して進め ることによって,問題解決へと導くことの可能性が大きくなる。そして,設定した課題が解決しないこと もひとつの結果であり,実験の過程から見えてくる別の結果がある。通常の授業の中での実施は極めて困 難と思われる。選択科目や理科のクラブ活動の一環であれば,実施することができるであろう。
表1には,実験の自由度について,生徒による問題解決までの違いを示した。
ここで,学習指導要領に規定されない「自由研究」は,生徒自らが課題を決め,自主的に実験を行い,
解決へ導いていくことが求められるとするならば,自由度の大きい,難しい作業であると考えることがで きる。
(2)自由研究のありかたと実際
自由研究は,小中学生の夏休みの宿題というイメージが定着している。「自由」なので,何をやっても よい。どんな教科でもよい。文学でも,芸術でも,歴史でもよいのである。もちろん理科でもよい。
自治体によっては,「理科の自由研究」と指定されている場合もある。小学校では,「おうちの方と一 緒にやってみましょう」ということまで言われたりする(おうちの方は苦労する)。このような自治体で は,学校ごとに優れた作品が選ばれ,市町村の科学展覧会,地区(郡市)の展覧会,県の展覧会へと絞り 込まれる。その作品は,すばらしい。できあいの実験器具がない条件で,地道な実験を繰り返し,見事な 結果を得,考察しているのである。小学校から同じテーマで毎年深めている生徒もある。スーパーサイエ ンスハイスクールの研究並みの作品も珍しくはない。作品を見ていると,感心するだけではなく,ひたむ
実験の自由度 教師の役割 生徒の活動 教科書 課題設定 問題解決
←自由研究に相当か 小さい 指示 確かめ 観察・実験 易 易
↕ ↕ ↕ 探求活動 ↕ ↕
大きい 援助 自主性・思考 課題探求 難 難
表1 実験の自由度
では,指導する教師はどのような立ち位置になるのだろうか。夏休みという,学校から家庭へと返した 期間における実験は,教師が援助する時間がふだんの授業期間とは異なるだろう。そのような条件の中 で,各学校から必ず出品するとなれば,ある程度整った研究を生徒に求めてしまう。結果の出ない研究で は困るのである。ふだんの実験では確かめ実験が多い生徒にとっても,結果を出さなければいけないか ら,自由研究は多くの生徒には面倒な宿題となる。ひいては,自由研究は楽しくない。
自由なのだから,期待される結果が出なくてもいいはずである。「失敗した実験」でも,新しい結果が 出たと解釈すればよいのではないか。一生懸命に課題を見つけ,取り組んだ過程が評価されるべきであろ う。本来,自由研究はもっと楽しんで行うものなのではないだろうか。研究を通じて,理科への関心が深 まり,その後の授業への取り組みがより良くなり,自然科学のニュースに関心を持つことが目的のひとつ ではないだろうか。
(3)高校生向けの「自然科学実験」
筆者の本務である本学附属女子高等学校では,学習指導要領に定められた授業科目のほかに,種々の学 校設定科目を置いている。これは,他校でも同様であり,学習指導要領総則に定められた単位修得規定に より,定められた単位数内であれば,高等学校の修得単位として認められる。本学附属女子高等学校の設 定科目で,東京私学教育研究所の調査(東京都内私立高等学校全日制233校)において,他校には見られ ない理科の科目名のひとつが「自然科学実験」である。
この科目は,高校2年生,または3年生の選択科目として設定され,興味・関心のある生徒が履修する ことができる。週1回2単位の授業(1単位時間は50分で,2単位連続授業)になっている。生徒向け のガイドブックに記載されている授業内容説明は,次のようである。
理科は実験を基礎とした教科であり,もっと実験をやりたいという生徒も多いことでしょう。そう いう探究心旺盛な生徒を対象に,本校独自で開講しているユニークな科目です。授業はすべて実験・
実習であり,内容は物理,化学,生物,地学の各分野にわたって,生徒が興味を持てるものを選んで あります。教科書にあるような実験だけではなく,遊び心で楽しみながらできるものも多く含まれて おり,科学に親しみつつ,新しい発見の喜び,充実感を体得できます。また,毎時間レポートの提出 があり,文系・理系によらず,分析力,表現力も自然に身についてきます。
実験項目は毎週変わり,実験の翌週までに実験報告書(レポート)を提出する。報告書は,生徒自身が レポート用紙に考察までを記述する方法をとっている。ワークシート方式ではない。実験内容は,遊び感 覚のものから高校教科書程度までさまざまである。簡単な実験操作のものであっても,高校生相応の考察 をすることが目標である。授業では,はじめに実験のテーマ・大まかな手順は提示するものの,実験結果 を事前に伝えることなく,グループ,または個人で実験を進ませる。「実験に失敗はない」とつねづね伝え,
結果をそのまま記録することを指示している。そして,ほかのグループとの結果の違いを確認し,原理と の相違,違いが出た理由などを考察することとしている。このとき,生徒に対する教師からの個々の援助 が必要となる。
筆者が行った,この授業の主な実験項目は,次のとおりである。
比重と密度 液体の振動 表面張力と界面活性剤 力の科学 ティッシュペーパーの性質 燃えない紙
赤外線の性質 薄膜の科学 低温の科学 物質の状態 断熱効果 波の性質 粉の科学 静電気 振り子
教員養成教育推進室年報 第4号
重力加速度の測定 結晶の科学 水質
プラスチックの分類 ドライアイス ナイロンの合成 香料の科学 高分子化合物 時計反応 振動反応 交通信号反応 発熱・吸熱反応 水の浄化 ヒトの学習行動 ヒトの思考過程 ヒトの特性 動作の特性 白と黒からつくる色 ヒトの眼のはたらき ブタの眼球構造 ニワトリの脳の観察 顕微鏡による観察 冬芽の観察 葉脈の観察
大気中の粉塵 自然放射線の測定 日影曲線による緯度・経度の測定 公園の気温 シャボン半球でつくる雲 空気の流れ
空気の力 堆積岩をつくる粒 鉱物の鑑定
フズリナの観察 高さの測定 歩いて測る地球の大きさ
履修した生徒の選択理由としては,率直に「実験が好き」というものが多い。ここで留意したいことは,
「実験が好き」とは「理科が得意」と必ずしも重ならないということである。理科の成績が必ずしも芳し くない生徒であっても,実験科目は選択することがある。「得意」(成績が良い)と「好き」はイコールで はない。
筆者は,「自然科学実験」を十数年にわたって担当してきた。講義主体の理科の授業では生徒の活動が どうしても少なくなるが,実験では生徒ひとりひとりが主体的に活動しなければならない。理科が得意で はない生徒でも,活躍することができるのである。レポート作成は苦労するが,1年間の授業を終える頃,
「実験が好き」から「理科が好き。おもしろい」へ発展していく。得意になるのはその後であるが。
この授業では,自由度のある程度大きい実験をくり返すので,教師側の心がけも変わってくる。生徒が 危険な行為をしない限り,見守っている。あるグループの試薬の量が一桁間違っていることがわかって も,危険でなければそのまま進めさせる。他のグループと結果が異なるが,その理由を考えさせ,考察す るための援助を与えることになる。このようなことから,実験の「失敗」を恐れず,結果と考察ができる ようになり,理科への関心が高まり,授業への取り組みが変わってくる。
4.理科教育法における自由研究
(1)理科への関心を高める方策
中学・高等学校の理科教育は,専門家を養成することが目的ではない。加えて,理科の得意な生徒,好 きな生徒,不得意な生徒,嫌いな生徒が混在している。嫌いな教科であっても,学習の進め方や関心の引 き出し方によって,授業に臨む態度やふだんの生活における自然科学への関心が変化する。
様々な教科指導の中で,理科の強みは実験・実習ができることである。生徒実験に限らず,演示実験で も,難しい理論は単元学習後でかまわないから,とにかくやってみるとよい。
理科教育法の授業の中で,こんなことばを紹介している。
「聞いたものは忘れる。見たものは覚える。やってみたものは理解する」
このことばからの発展として,関心を持つための実験について,理科教育法の中で考察している。
(2)自由研究の実践
理科教育法Ⅲで取り入れてみた実践のひとつが「自由研究」である。理科の学習指導要領に示される「探 求活動」や「課題研究」との違い,帰納的な実験と演繹的な実験の違い,実験の自由度などを考える授業 の流れで,「自由研究」に触れている。
この授業における「自由研究」とは,生徒に関心を持たせる手法のひとつであることを解説し,結果を 出すことを要求しない研究とする。大学で行うような実験ではなく,ふだん疑問に感じた小さなことでよ いから,とにかくみんなもやってみようという展開にする。
そこで,学生はテーマ選びをはじめにすることになる。自由だから何をテーマにしてもよいのだが,自 由は厄介である。授業の場で,5分程度,適当なグループで自由に話をさせ,テーマ選びに幅を持たせて いる。小学生のときに思うように結果を出せず,あきらめてしまったテーマを持ち出す学生もいる。
この際,紹介するものがイグノーベル賞である。イグノーベル賞は,毎年研究成果が発表され,報道で はおもしろおかしいテーマに目が向けられがちだが,この研究は本来目的とするテーマに結びつくもので あるから,単に馬鹿げた実験をしているだけではない。近年では,日本人の発表として,バナナの皮の滑 りやすさ,股のぞきの研究などが話題になった。
そして,テーマは,理科の授業展開における導入に活用できそうなものへと絞り込まれていく。
学生による自由研究は,ひとりずつ行う。課外の課題とし,ひと月後にA4判用紙2枚までにまとめて 提出とする。その後,教員が全員のテーマと実験概要をまとめ,後日の授業時間内に,ひとりずつ,研究 に関することを2分程度で口頭発表する。発表は,研究内容でもよいし,自由研究の意義,中学高校の授 業への活用でも,何でもよい。この発表を行う授業では,あらためて理科における実験・実習の意義,授 業を展開する過程での演示実験について考える。
(3)学生による自由研究の内容
学生が自由研究として行ったテーマと内容の概要をいくつか紹介しておく。
うさぎが月で餅をついたら
写真で見る月面の臼の大きさから地球との比で算出。月の臼で438万升つける。切り餅にして1億 950万個。世界人口の70%の人がお餅を食べられる。でも気圧が低いので餅米が炊けないかも。
滑りやすい靴下選手権
もこもこ靴下・タイツ・くるぶしソックス・ストッキングの摩擦を,フローリングで滑って距離 を測って比較。厚手の靴下が最も長かった。タイツは穴が開いた。
人間の耳のもつ能力について
うなり・可聴周波数などを4人で調べた。鳴き声や悲鳴は聞き取りやすい周波数。人間は可聴域 が狭い。他の動物に聞こえるなら生態系への影響あり。
塩味と甘味に関する味覚実験
0.0625% ・0.125% ・0.25% ・0.5% ・1%の食塩水と砂糖水を口に含んだ。甘味は 0.5%以上,塩 味は0.125%以上で感じた。塩味は強い。糖は閾値が高い。
手の組み方と利き手に関して
右利きの私は手を組むと左手の親指が上にくる。右利き50人で調査。あまり差が見られなかっ た。個人差による。左利きは思うように見つけられず関係性不明。
レーズンはブドウに戻るか
乾燥肌は化粧水などでうるおいを取り戻す。レーズン (干しブドウ )を水に浸し,1時間・3時 間・6時間・12時間・24時間放置。12時間でほぼ丸くなるが,味がしない。
水性マーカー 12色の色の分離
水性カラーペンをコーヒーフィルター (ホワイト )で分離。単色のものと混ざっているものがあ る。隣り合う似た色は関連し,基本色が同じで濃さや別の要素が異なる。
教員養成教育推進室年報 第4号
うんちの向き
犬がうんちをする前のクルクルは地磁気軸と関係し,南北を向いてするという研究があった。我 が家の2匹のわんこでは,高齢,夜の方が南北でする割合が高い。
お正月で使用されるはがきの種類の違いで強度も変化するのか
3種のはがき(普通,インクジェット,インクジェット光沢)をWの形に折り,本を載せた。は がき自身の約600 ~ 800倍の重さに耐える。触った予想と異なった。
バナナも日焼けをするのか
直射日光と蛍光灯,日光に当てる時間で比較。アルミ箔,白紙,黒紙,日焼け止めクリームで効 果を比較。目視ではわからない。クロロフィルが紫外線から守る。
凍った果物で本当に釘は打てるのか
バナナ,オレンジ,キウイ,アボガド,トマトを12時間,-18℃で冷凍。どれも釘は打てたが,
厚みのある皮を持つものは幾分耐久性がある。水分量も関係している。
どれくらいの太さのヘアゴムがいちばん髪にクセがつかないのか
種類の違うゴムで自分の髪の4か所に結んで1時間過ごす。細めのさらさらな髪では細いゴムが クセがほぼつかない。髪と接する面が少ないためと思う。
あくびのうつる確率調べ
ボランティア先の生徒,寮生,クラスメイトで比較。全体の確率は 60.3%。寮生がうつる確率 が一番高い。親しい人にはうつりやすいという原理に一致。
フリクションペンの字を熱で消せるか。字を復活できるか。
文字は付属ラバーの摩擦熱以外の電気ストーブで5秒,ドライヤーで30秒で消えた。太陽熱で は消えない。冷凍庫で冷やすと5秒で文字が復活した。
豆の種類による あんこ の違い
6種類の豆であんこを作る。おいしそうではないのが黒豆で,アントシアニンが溶出か。大豆は デンプンが少なく,味悪い。小豆に近いのはささげ。
自分でカビを育ててみよう!
パンに空気中のカビの胞子が落ち,コロニーになっていく様子を観察した。3日後から生え,10 日後には隙間なし。アオカビ,ケカビ,コウジカビ。
ガムを噛むと集中力が上がるかどうか確かめる
家族で,ガムを噛まない・噛みながら・噛んだ後で,100マス計算をした。噛んだ後の方が集中 できそう。
ボールペンは何m書くことができるか
ボール径0.5mmと1.0mmで比較。径が2倍だと,書ける長さは1/4。径1.0mmはインクの 液もれや出過ぎがある。
重ね着の組み合わせと静電気
10 分動いたあと服を脱ぎ,音の回数と感覚を比べた。ヒートテックを着ていることで静電気が 起こる。フリースは特に起こる。
地球の裏側までの内核を通る直通の階段
階段に直すと63,500,000段。階段昇降時の消費カロリーより,ハンバーガーを1日3個食べて,
昇り5720 ヶ月,下り2792 ヶ月。
(4)学生による自由研究の成果と批評
全員の研究をまとめた後,研究内容,自由研究の意義,中学高校の授業への活用などについてひとりず
つ簡単に口頭発表し,自由研究がどうあるべきかを記述させている。
自由研究の感想として,次のようなことがあげられた。その内容を大まかに分類してみた。
肯定的
自由研究はそんなに難しくないもの。結果ではなく興味・関心を引くためのものなので。
楽な気持ちで,ふだん見ていないものに注目できた。
理屈がすべてではないことがわかった。
考える癖がついた。
すでに結果があるものでも,アプローチの仕方を考えることができた。
自由研究は考えることが多い。実験してみてから,もっときちんとした条件をつけたいという気 持ちが大きくなった。
資料を調べればわかることでも,自分で実際にやってみるのが大切だと思った。
自分の実験は単純かなと思ったが,自分なりに疑問をもって行ったので結果としてよかった。
否定的
自由って難しい。決められた枠がないから何をしたらよいかわからない。
思った通りにいかなかったからつまらない。
大学の実験で,レポートや考察の型にはまってしまい,自由研究といわれてもやりづらくなって いた。あまり楽しめなかった。
方法論
わかりきっていることでも,身近な発見ができる。過程が大事。自由研究は考察をしてわかる。
テレビのまねをしたが,やってみてから条件をつけたくなった。広げ方がわかった。
目で見えるわくわく感があった。
実験方法が合っているのか不安だった。
自分だけでやって,結果が合っているのかわからない不安があった。
一度実験を行うと,そこから新たな疑問が生じた。
私は,自由研究をやるなら好きなことで気になったことを考えてみようと前向きな気持ちで楽し くできた。しかし,他の人の話を聞くと,自由で困ったりして,面白いことがそうではなくなって しまう場合もあると知った。
過去の経験
小学校の自由研究を応用した。
小・中の実験は楽しかったので理科が好きになった。
結果や違いが出ると楽しい。小学校のときは「自由研究=遊び」で楽しかった。
自由研究はどうあるべきかについて,学生が記述した内容は次のとおりである。
進める上で“理科”という教科が生活している上で大きく関わっていることも気づくことができる。
身近にある疑問を他者と共有し,新しい発見や疑問の解消につなげていくものである。
研究を行う本人が興味を持ってひとりで取り組めるべきだと考える。
自分が疑問に思ったことを調べる機会としてあるべき。きちんとした結果が出なくても,それはそ れで結果であり,どうしてそうなったのかなど,次につなげ,興味・関心を高めるためのひとつの手 段としてあるべき。
自由研究は気になることを研究する課題である。その上で,日常生活の中の「何だろう」に気づけ るかが重要になる。その不思議に思ったことを,どのように実験したらわかるかを自分で考えること が大切である。だから,実験キットを使うよりも,身近なもので工夫して実験することが望ましい。
教員養成教育推進室年報 第4号
もともとある実験でも,ひとつでも新しく発見できたものがあればよい。
今まで取り組んできた実験は,答えを明示されて,そのプロセスも教えられ,こなすという形のも のだった。これは,正しい結果が出る安心感や達成感を得ることができる。しかし,自由研究は答え が何かを調べるものであり,探究心や意欲を得ることができる。どちらも理科にとって必要なもので あると考えられる。
自由研究に正答はなく,間違いのように見えても,思うような成果でなくても結果であると受け入 れる必要がある。
自由の中での結果なので,楽しくかつ実験(研究)したことでさらに興味・関心へとつながるべき だと考えた。
「研究」という文字に圧倒されずに,興味あることやできそうなことを実験し,なぜこの結果になっ たのか,他にこうしたらもっとうまくいくと思うなど,考えていくことが自由研究だと思った。がっ ちりとテーマを決めず,結果より考察が大切なのが自由研究だと思う。
自由研究は内容や結果を重視するのではなく,なぜその実験をしようとしたのか,その結果でどう 思ったのか,どのように実験条件を変えたのかなどの過程を重視することがよい。
自由研究は,研究をする前,もしくは後に楽しくなり,達成感を与えることだと考える。
勉強として押しつけない。自分でやることが大切である。
5.理科教育法での役割(まとめにかえて)
「自由研究」のテーマや深め方は,難易度の高いものとはいいきれないだろう。小学生並みだという批 判もあろう。やってみたが結果がまとまらない実験,当たり前の結果しか出ない実験もある。しかし,授 業指導者(ここでは受講している学生)が肩肘を張らず,楽しむことから,理科の授業を展開していく方 策を見いだすために,この「自由研究」は意義があるものと考えている。テーマは稚拙なものでも,すで に専門の研究者が結果を見いだしているものでも,この実験を行った者自身が考えをまとめてみること は,理科の授業を組み立てるにあたって,新たなアプローチの仕方を身につけるものである。また,家族 や友人などを巻き込んで行う実験も,実験の意図を正しく伝え,協力を仰ぐ過程で,実験以外のスキルも 必要となってくる。理科に対する関心の程度が異なる生徒が混在する授業の場合,何よりも授業指導者が 楽しく授業を進めていると,生徒にも楽しさは伝わるものである。
本来の「研究」は結果が必要だし,考察も必須である。しかし,この実践は,生徒にいかに関心を持た せるかに主眼をおいているから,結果を求めていない。ただし,お楽しみのサイエンスショーではないか ら,実験をやりっぱなしではいけない。導入で実験するなら,これがどんな学習に結びついていくのか,
生徒へ指導することが必要である。授業指導者は,これを念頭に置いていなければならない。このこと は,理科教育法の授業において,話題にしている。
どの実験はどの単元のためのものというような考え方をせず,アプローチの仕方やまとめ方を変えれ ば,複数の単元に結びつけることができるということも学生には伝えている。
教員免許取得を目指す学生には,単元の導入,展開,まとめにおいて,生徒が常に関心を持って授業に 臨めるよう,力をつけさせたい。
参考文献
・青木寿史,2017;理科教育法参考資料 自然科学の関心を高める実験事例,(資料冊子)
・一般財団法人 東京私立中学高等学校協会 東京私学教育研究所 教務運営研究会,2015;平成27年度 教 務運営に関するアンケート集計結果,(資料冊子),pp.15-16
・文部科学省,2008;小学校学習指導要領解説 理科編 平成20年8月,大日本図書
・文部科学省,2008;中学校学習指導要領解説 理科編 平成20年9月,大日本図書
・文部科学省,2009;高等学校学習指導要領 平成21年3月,東山書房
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・文部科学省,2017;中学校学習指導要領解説 理科編 平成29年6月,文部科学省HP(http://www.mext.
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・森本弘一,2011;大学の授業における理科の自由研究,『理科の教育』Vol.60 No.708,東洋館出版社,
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