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ガバナンスの取組みとステークホルダーとの関係

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鹿児島経済論集第59巻第34号(2019年3月) 189

持続可能な経営につながるコーポレート・

ガバナンスの取組みとステークホルダーとの関係

〜従業員と個人株主に対するアンケート調査の結果から〜

今村明代井上昌美

1 .研究の背景と目的

近年、我が国において、上場企業に対するコーポレート ・ガバナンス(以 下、CG)に関わる取組みは、次のように間断なく推し進められてきた。

2013年6月に閣議決定された「日本再興戦略」を受けて経済産業省から公 表された「伊藤レポート」'、2014年には会社法の改正、金融庁からは「『日本 再興戦略j改訂2014」の成長戦略を受けて「日本版スチュワードシップ・コー ド」 (以下、SSコード)が発行された。続いて、2015年に金融庁と東京証券 取引所から「コーポレートガバナンス・コード〜会社の持続的な成長と中長 期的な企業価値の向上のために〜」 (以下、CGコード)が発行された。こ のCGコードは、副題が示しているように、 「会社の持続的な成長と中長期 的な企業価値の向上」を目指し、企業2の「攻めのガバナンス」の促進を主な 目的としている。2017年には、経済産業省から、コーポレート・ガバナンス・

システムに関する実務指針となる「CGSガイドライン」が策定された。更に、

SSコードの改訂、 「伊藤レポート2.0」3に続き、 2018年6月1Hには東京証 券取引所がCGコード改訂に係る有価証券上場規程の一部改正を行い、改訂

正式名称は、 「『持続的成長への競争力とインセンテイブ〜企業と投資家の望ましい関 係櫛築〜」プロジェクl、 〈伊藤レポート)最終報告書」。

2 CGコードでは「会社」が使用されているが、本研究では、 「会社」ではなく ー企業」

と表記する。

3正式名称は、 「伊藤レポート2.0持続的成長に向けた長期投盗(ESG・無形資産投資)

研究会報告番」。

(2)

190鹿児島経済論集第59巻第34号(2()19年3月)

されたCGコードを施行した。このCGコードの改訂は、 「企業と投資家と の対話を通じ、コーポレートガバナンス改革をより実質的なものへと深化さ せていくため」という「スチュワードシップ・コード及びコーポレートガバ ナンス・コードのフオローアップ会議」の提言に沿って行われた。また、

「ESG4に関する対話が進む中、企業のESG要素に関する『情報開示』につ いてコードに盛り込むべき」とのパブリックコメントを受け、改訂された CGコードの「第3章適切な情報開示と透明性の確保」【基本原則3】の「考 え方」には、 「非財務情報」にESG要素に関する情報が含まれることも明確 化された。

「伊藤レポートも2つのコードも、短期主義に蕃鐘を鳴らし、代わって持 続的な成長と企業価値の中長期的な創造を目指している」(伊藤2017,p.22) と指摘されているように、CGは持続可能な経営に必要なものと捉えられ、

推し進められている。

CGコードでは、 「『コーポレートガバナンス』とは、会社が、株主をはじ め顧客・従業員・地域社会等の立場を踏まえた上で、透明・公正かつ迅速・

果断な意思決定を行うための仕組みを意味する」と記載されている。よって、

持続可能な経営には、企業の経営に影響を受けるステークホルダーのうち、

資本提供者である株主と持続可能な経営を実現するために直接役割を担う従 業員の立場にも配慮したCGの取組みを推進することが不可欠である。

以上のような加速的に推し進められているCGに関わる取組みを背景とし て、筆者たちは、持続可能な経営に不可欠となる企業のガバナンスのあり方 に着目し、これまでCGコードとCGの取組みやその変化に焦点を当てたイ ンタビュー調査を中心に研究を進めてきた。

2015年から2018年まで実施したインタビュー調査は、主に、企業のIR、

ESGとは、環境(Environment)、社会(Social)、ガバナンス(Govemance)の頭文字 を取ったもので、企業の中長期的な成長のためには、ESGが示す3つの観点が必要だ という考え方が世界的に広まってきている。

(3)

今村・井上:持続可能な経営につながるコーポレート・ガバナンスの取組みとステークホルダーとの関係 191

CSR、財務担当部門の責任者に対し実施した。この調査の結果、2015年の CGコードの発行当初、他社の様子を見つつCGコードへの形式的な対応を していた企業が、CGに関する改革が加速する中、経営者も含め企業として CGに対する意識(捉え方)、CGコードに対する理解、取組み等が次第に変 化していることが明らかになった(今村・井上2018a;今村・井上2018b)。

一方、このような企業のガバナンスの取組みや変化に関し、企業の持続可 能な経営を支えるステークホルダーとなる従業員と株主は、どのように捉え ているのだろうか。両者のCGに関する認識や変化を確認することは、より 望ましいCGの取組みにつながると考えられる。そこで、主にインタビュー 調査から導出された持続可能な経営に不可欠と考えられるCGの取組みとス テークホルダーの関係に着目し、先行研究を検討したうえで、CGコードと CGの取組みやその変化に焦点を当てたアンケート調査を、従業員と株主を 対象として実施した。

本研究では、アンケート調査に基づき、CGコードの発行などによるCG への影響について、従業員からみた自社のCGの変化の状況を確認する。ま た、CGにおける従業員の役割をどのように捉えているのかを検討する。株 主については個人株主5を対象とし、株主となっている企業のガバナンスに ついて、近年のCGに関する動向を踏まえ、どのような取組みに着目してい るのかを確認する。これらの結果に基づき、従業員と個人株主の立場にも配 慮した望ましいCGの取組みに関する知見を示すことにより、企業の持続可 能な経営の一助になることを目的とする。

CGコードの「第1章株主の権利平等性の確保」 【基本原則l】に、 「少数株主や外 国人株主については、株主の権利の実質的な確保、権利行使に係る環境や実質的な平 等性の確保に課題や懸念が生じやすい面があることから、十分に配噸を行うべきであ る」と示されていることから、本研究では少数株主に着目し、個人株主を対象として アンケー1、調査を実施した。

(4)

192鹿児島経済論集第59│巻第3・4号(2019年3月)

2. CGに関する先行研究 2‑1 . CGと従業員との関係

CGにおける従業員の立場や役割については、先行研究によって次のよう に指摘されている。平田(2008)は、「企業統治の実践的意義はどこにあるか。

もしその実践的意義が経営者の経営を監視・監督することにあるとすれば、

これを監視・監督する主体としては、企業の外部者、内部者および経営者自 身の三者が考えられる」 (p.60) とし、統治の型として、外部者統治、内部 者統治、経営者自己統治の3つを挙げている。また、平田(2007)では、外 部者統治、内部者統治について、 「企業の外部者による監視・牽制は外部者 統治(市場型統治)であり、企業の内部者による監視・牽制は内部者統治(組 織型統治)である」(p.17)と説明している。ここで示されている内部者には、

従業員が含まれていると考えられる。

伊丹(2000)は、 「私のCGの定義の中で、 もっとも本質的に重要なのは 株主と従業員による経営者のチェック、ということになる」 (pp.24‑25) と し、チェック者として従業員を挙げている。佐藤(2010)は、「株主、取締役、

マネジメントに社員、顧客、サプライヤー、地域社会も加わってガバナンス の構成員となっているのだ。これが日本の『多而体のガバナンスの構造』だ」

(p240)と表現し、社員(本研究の従業員に該当)がガバナンスの術成員で あるとしている。

加護野他(2010)は、 「経営者の任免・牽制に看過できない役割を果たし てきた代表的な利害関係者」として、「従業員集団(労働組合およびミドル・

マネジメント)が統治に関与してきた」 (p.251) と述べている。また、経営 者を牽制する役割を担ってきたメインバンクに加えて、 「牽制役として重要 な役割を果たしてきたとされるのが、従業員、その組織である企業別労働組 合(労組)である」 (p.252) とし、従業員や労働組合の統治への関与や経営 者を牽制する役割について指摘している。

また、吉村(2007) も、江戸時代の主君の問題行動に対する家臣による

「『諌言」メカニズムの現代版の核となり得るのは、日本企業の場合は従業員、

(5)

今村井上持続可能な経営につながるコーポl/‑1, .ガバナンスの取組みとステークホルダーとの関係 193

とくに、ある程度の期間にわたり当該企業に勤務しているミドル層の従業員 がその有力な候補であろう」 (pp.281‑282) と指摘している。

労働政策・研修機構(2006)は、CGにおける従業員の役割の認識に関して、

従業員へのアンケート調査結果から、 「従業員は経営をもっと強く監視すべ きである」を肯定している回答が45.0%あったことを示し、 「会社は従業員 のものであるという考え方が極めて強く出た結果として解釈できる」として いる(p、293)。宮本(2007)は、この労働政策・研修機構のアンケート調査 について、「従業員監視」が支持されていると指摘している(p.126)。

以上に示した先行研究では、様々な表現にてCGにおける従業員の立場や 役割とその重要性について示されている。

2−2CGと株主との関係

企業の株主への対応については、CGコードをはじめとするCGに関する 原則や報告書によって次のように指摘されている。

CGコードの「第1章株主の権利・平等性の確保」 【基本原則1】の「考 え方」では、資本提供者である株主を「コーポレートガバナンスの規律にお ける主要な起点」として位置づけ、 「株主が有する様々な権利が実質的に確 保されるよう、その円滑な行使に配慮することにより、株主との適切な協働 を確保し、持続的な成長に向けた取組みに遡進すること」を上場会社に求め ている。具体的には、 【原則1‑3. 資本政策の基本的な方針】に「上場会 社は、資本政策の動向が株主の利益に重要な影響を与え得ることを踏まえ、

資本政策の基本的な方針について説明を行うべきである」と記載され、続く

【原則1‑4.政策保有株式】では、政策保有株式の保有方針と適切な対応 を確保するための基準の策定・開示を上場会社に求めている。

2018年のCGコードでは、2015年のCGコードに対し、保有する政策保有 株式の縮減に向けて一段踏み込んだ内容に改訂され、 「政策保有株式の縮減 に関する方針・考え方など、政策保有に関する方針を開示」や、 「政策保有 株式に係る議決権の行使について、適切な対応を確保するための具体的な基

(6)

194鹿児島経済論集節59│巻第34号(2019年3月)

準を策定・開示し、その基準に沿った対応」が要求されている。

2014年の伊藤レポートでは、「企業が、自社の資本政策(配当、自社株買い、

再投資)について中長期的な企業価値向上の観点から検討し、その方針や資 金効率に対する考え方(資本コストやROE)、 リスク認識等を関連付けて説 明し、投資家との対話を通じて相互理解を深めることは双方にとって有意義 である」ことから、投資家の信用を得るためには、企業価値向上や経営戦略 への寄与と関連づけて、企業のリスク対応や中長期的な事業戦略における内 部留保の活用方法、持ち合い株式や親子上場の目的や理由を説明する必要が あると指摘されている。更に、伊藤レポートは、 「グローバルな投資家と対 話をする際の最低ラインとして最低限8%を上回るROEを達成することに 各企業はコミットすべきである」と具体的な数値目標を掲げ、中長期的な ROE(自己資本利益率)の向上を経営の中核目標にすえている。また、社 外取締役については、 「株主代表の側而を持つことを勘案」し、 IRイベント への参加やアニュアルレポートでの意見表明等によ')、株主との対話を実践 する機会を持つことの重要性が示されている。

2017年10月の伊藤レポート2.0では、ROEについて「最近は7〜8%の水 準で推移している」と記載されている。また、2017年6月の「未来投資戦略 2017」では、企業の稼ぐ力を測るモノサシの1つである「総資産利益率 (ROA)の改善」が新たな目標として掲げられ、 「大企業(TOPIX500)の ROAについて、2025年までに欧米企業に遜色のない水準を目指す」とされ た。

前述の伊藤レポートでも指摘されている内部留保については、金融庁が 2017年10月18日に公表した「コーポレートガバナンス改革の進捗状況」の中 で、 「企業の利益剰余金(内部留保)及び現預金は増加傾向が継続」、 「投資 家の多くは、企業の手元資金について、適正な水準を上回っていると認識し ており、成長に向けた投資に振り向けることを期待」、 「手元資金の水準につ いて明確な考え方がない企業も少なくなく、投資家の多くも、水準の妥当性 について説明が不足していると認識」と記載されている。

(7)

今村・井上:持続可能な経営につながるコーポレート・ガバナンスの収組みとステークホルダーとの関係 195

以上に示したCGコードをはじめとするCGに関する原則や報告書では、

企業の株主への対応について、様々な角度から言及されている。

3.調査の概要と仮説の設定 3−1研究方法

CGと従業員との関係について、まず従業員からみた自社のCGの変化の 状況を確認する。次に、CGにおける従業員の役割をどのように捉えている のかを検討する。CGと個人株主については、近年のCGに│郷する動向を踏 まえ、株主となっている企業のガバナンスに関し、個人株主としてどのよう な取組みに着目しているのかを確認する。

本研究では、従業員と個人株主の両者について、先行研究やインタビュー 調査に基づく仮説を、アンケート調査を分析することにより検証する。アン ケート調査は、インターネット調査会社である株式会社マクロミルの登録者 から、東京証券取引所第一部上場企業の従業員、個人株主の各309人を、回 答者として抽出した。調査の形式は、インターネットを利用して回答する質 問票調査であり、2018年11月に実施した。各回答は、「当てはまる」(選択肢:

1)から「当てはまらない」 (選択肢: 5)の5段階評価によるリッカート・

スケールとした。従って、すべての質問項目において、質問内容に該当して いるほど回答の値は小さくなる。分析に使用したソフトは、 IBM社の

SPSS19.0である。

3−2従業員のCGとCGコードに関する仮説

(1)従業員の自社のCGに関する変化の認識(従業員の分析A)

これまで実施したインタビュー調査により、CGコードが企業のガバナン スの取組みにおいて、概ね4つのフェイズ(1.意識、2.体制、3.資本政策、4.情 報開示・コミユニケーシヨン)に影響を与えていること、更にこれらのフェ イズは、CGの推進の為に不可欠となるプロセスであることが明らかとなっ た(今村・井上2018a)。そこで、本研究では、CGコードの発行以降、自社

(8)

196鹿児島経済論集第59巻第3・4号(2019年3月)

のCGが変化したと認識した従業員が所属する企業において、 4つのフェイ ズに関する変化を確認する仮説を設定する。

仮説1 従業員が自社のCGに変化があることを認識している企業では、

CGに対する意識が向上した

従業員が自社のCGに変化があることを認識している企業では、

CGに関する対応が変化した(確認事項:CG体制、ROE、内部 留保、株式持ち合い、社外取締役)

従業員が自社のCGに変化があることを認識している企業では、

CGに関する情報開示が促進した

従業員が自社のCGに変化があることを認識している企業では、

ESGに関する情報開示が促進した 仮説2

仮説3

仮説4

(2)従業員の自社のCGに関する役割の認識(従業員の分析B)

従業員は、自社のCGに対しどのような役割を果たしていると認識してい るのかを確認する。先行研究では、従業員のCGに関する関与として、牽制・

モニタリングの役割について言及されている。一方、従業員がCGに関与す るためには、CGに対する役割への認識だけではなく関与できる機会が必要 となる。そこで、本研究では、従業員が自社のCGに対し意見を言う機会に 着目した。自社のCGに対し意見を言う何らかの機会があると認識している 従業員は、自社のCGにおける役割に対する意識が高いと考えられる。ここ では、従業員が自社のCGへの注視をはじめとし、牽制やモニタリングの役 割を果たしていると認識している程度について確認する仮説を設定する。

また回答は、従業員個人だけではなく、従業員を代表する組織の役割も含

むものとする。

仮説5 :自社のCGに対し意見を言う機会がある従業員は、自社のCGに 対する従業員の役割を果たしている(確認事項:注視、牽制、モ

(9)

今村・井上:持続可能な騒営につながるコーポレートガバナンスの取組みとステークホルダーとの関係 197

ニタリング)

3−3.個人株主のCGとCGコードに関する仮説

個人株主は、近年のCGコードの発行などCGに関する動きが加速する中 で、株主となっている企業のCGに関するどのような取組みに対する注目度 が変化しているのかを確認する。

前述のように、CGコードでは、企業の株主への対応として資本政策の基 本的な方針の説明が求められている。2018年のCGコードにおいては、政策 保有株式の縮減に向けた内容に改訂されている。また、伊藤レポート等の報 告書では、企業価値向上の観点から資本政策の方針や資金効率に対する考え 方が示され、内部留保やROE、ROAについても言及されている。更に、企 業と株主との対話を実践する「株主代表の側面を持つ」社外取締役の役割も 指摘されている。ここでは、企業の資本政策を中心に、個人株主について、

株主となっている企業のCGに関するどのような取組みに対する注目度が変 化しているのかを確認する仮説を設定する。

株主となっている企業のCGの概要を知っている個人株主は、株 主となっている企業のCGに関する取組みへの注目度が変化した (確認事項:ROE,内部留保、株式持ち合い、ROA、社外取締役)

仮説6

3−4.調査項目6

(1)従業員のCGに関する質問項目

CGコードの発行以降、従業員の自社のCGに関する変化に対する認識と、

従業員の自社のCGにおける役割の認識の各程度について確認する質問項目

6 質問文の中で、回答者にとって分かりにくい用語については用語解説を設け、回答者 が事前に用語の解説を一読してから回答するように指示すると共に、質問・回答画面 を工夫している。

(10)

198鹿児島経済論集第59巻第3・4号(2019年3月)

を、表1のとおり設定した。

表1 従業員への質問項目一覧

分析テーマ|番号

CGコードの発行以降、自社ではCGに対する意識が以前より

向上した 【CGへの意識】

CGコードの発行以降、自社ではCG体制の整備が促進した

【CG体制】

1

2

CGコードの発行以降、自社ではROE(自己資本利益率)に関 する対応が変化(考え方.やり方を変えること)した 【ROE】

CGコードの発行以降、自社では内部留保に関する対応が変化 (考え方.やり方を変えること)した 【内部留保】

CGコードの発行以降、自社では政策保有株式(株式持ち合い)

に関する対応が変化(考え方・やり方を変えること)した

【株式持ち合い】

CGコードの発行以降、自社では社外取締役に関する対応が変 化(考え方・やり方を変えること)した 【社外取締役】

CGコードの発行以降、自社ではCGに関する情報の開示が促

進した 【CGに関する情報開示】

3

4

A

5

6

7

自社ではESGの取組みに関する情報

【ESGに関する情報開示】

CGコードの発行以降、

の開示が促進した

8

自社では、従業員(または、従業員を代表する組織例:従業 員組合)が、自社のCGを注視している 【注視実施】

1

自社では、従業員(または、従業員を代表する組織例:従業 員組合)が、自社のCGに対する牽制の役割を果たしている

【牽制実施】

B 2

自社では、従業員(または、従業員を代表する組織例:従業 員組合)が、自社のCGのモニタリング(監視)の役割を果た

している 【モニタリング(監視)実施】

3

(2)個人株主のCGに関する質問項目

個人株主が株主となっている企業のCGに関する取組みのうち、資本政策 を中心に注目度の変化を確認する質問項目を表2のとおり設定した。

(11)

今村・井上持続可能な経営につながるコーポレート・ガバナンスの収組みとステークホルダーとの関係 199

表2個人株主への質問項目一覧

分析テーマ番号

近年(今年を含むおおよそ3年間)、株主となっている企業の ROE(自己資本利益率)に注月するようになった 【ROE】

1

近年(今年を含むおおよそ3年間)、株主となっている企業の 内部留保に注目するようになった 【内部留保】

2

近年(今年を含むおおよそ3年間)、株主となっている企業の 政策保有株式(株式持ち合い)に注日するようになった

【株式持ち合い】

C 3

近年(今年を含むおおよそ3年間)、株主となっている企業の ROA(総資産利益率)に注目するようになった 【ROA】

近年(今年を含むおおよそ3年間)、株主となっている企業の 社外取締役に注目するようになった 【社外取締役】

4

5

4.分析結果と考察7 4−1. 回答者の概要

本調査の回答者は、比較的勤続年数が長い従業員(20年以上61.8%)であ り、所属企業のCSRの取組みも長い(10年以上61.9%)。個人株主は、 10年 以上保有している株主が半数以上である(10年以上51.4%)。また、株主と なっている企業のCSRの取組みは、 10年以上が39.5%であり、 10年未満が 20.9%である8.

4−2従業員のCGとCGコードに関する分析

(1)従業員の自社のCGに関する変化の認識(従業員の分析A)

まず、CGコードの発行以降、従業員が自社のCGに関し、何らかの変化 があったと認識しているのかを確認した(質問: 「CGコードの発行以降、自 社のCGの変化(考え方・やり方を変える)があった」)。次に、この質問に

7 設問の回答に欠損値が無いこと、天井効果・フロア効果の出現の有無を確認後、分析 を実施している。

8従業員の主な業種は製造業51.8%(うち、電気機器14.6%)、個人株主は製造業40.8%(・j ち、輸送用機器9.4%)であるが、多様である。

(12)

200鹿児島経済論集第59巻第34号(2019年3月)

対し、自社のCGが変化したと認識している回答者と、変化していないとす る回答者に分け(前者:80件、後者:71件)、自社のCGに関する各取組み の変化の認識に関する両者の回答の平均値の差の検定を行った9。なお、前述 のとおり、すべての質問項目において、質問内容に該当しているほど平均値 は小さくなるlOo

表3のとおり、分析の結果、自社のCGが変化したと認識している回答者 と変化していないとする回答者では、質問A1からA8までのすべての平均 値において1%水準で有意な差が認められ、仮説1 ・ 2 ・ 3 ・ 4はすべて支 持された。従って、 4つのフェイズに該当する項目すべてにおいて、平均値 に差があることを確認することができた。これにより、従業員が自社のCG に変化があることを認識している企業では、4つのフェイズに該当する項目 すべてにおいて取組みが変化していることが分かった。

また結果を見ると、A2: ICG体制】 (2.052)、A7: ICGに関する情報開示】

(1950)は、平均値の差が他の項目より大きい。これら2つの項目は、従業 員から見てCGの取組みの変化の有無が分かりやすいことから、比較的大き な差が示されたと考えられる。

9 CGの変化に対する認識については、実際は企業の取組みが変化していても、従業員が 変化を認識していない場合は、 「変化していない」とする回答群に分類される点に留意 が必要である。

IC以ドの分析の質問項日も同様である。

(13)

今村・井上↓持続可能な経営につながるコーポレート・ガパナンスの取組みとステークホルダーとの関係201

表3質問項目の平均・標準偏差の値と平均値の差等(従業員の分析A) 平均値 質問

グループ

平均値 標準偏差 t値 自由度 の差

自社CGの

変化有と認識

2.16 878

Al : [CGへの

意識】

13064"・ 149 1.908

自社CGの

変化無と認識

4.07 915

自社CGの

変化有と認識

2.08 742

A2: ICG体制】

16.819"" 149 2.052

自社CGの

変化無と認識

4.13 755

自社CGの

変化有と認識

226 791

A3: (ROEI

13‑574率寧, 149 1.822

自社CGの

変化無と認識

4.()8 858

自社CGの

変化有と認識

236 846

A4 : 【内部留保】

11.608雲. 149 1.680

自社CGの

変化無と認識

l.04 933

自社CGの

変化有と認識

2.34 826

A5: 【株式持ち合

い】 自社CGの

13.662… 149 1.817

変化無と認識

1,15 804

自社CGの

変化有と認識

230 786

A6: 【社外取締役】

12.936等率. 149 1.742

自社CGの

変化無と認識

4.04 869

自社CGの

変化有と認識

2.()5 692

A7: [CGに関す

る情報開示】 1ヨ社CGの

14.677車掌. 129904 1950

変化無と認識

4.0() 91()

自社CGの

変化有と認識

2.26 896

A8: IESGに│奥Iす

る'│簡報開示】 自社CGの

12.365*** 149 1.752

変化無と認識

1.01 837

注)…1%水準で有意(両側)

(14)

202鹿児島経済論集第59巻第3.4号(2019年3月)

(2)従業員の自社のCGに関する役割の認識(従業員の分析B)

まず、従業員が、自社のCGに対し意見を言う機会について確認した(質 問:「従業員(または、従業員を代表する組織例:従業員組合)が自社の CGに対し意見を言う機会がある」)。次に、この質問に対し、自社のCGに 対し意見を言う機会があると認識している回答者とそうでないとする回答者 に分け(前者:83件、後者:78件)、自社のCGにおける従業員の役割の認 識に関する両者の回答の平均値の差の検定を行った。

表4のとおり、分析の結果、自社のCGに対し意見を言う機会があると認 識している回答者とそうでない回答者の間では、質問B1からB3までのすべ ての平均値において1%水準で有意な差が認められ、仮説5は支持された。

従って、従業員の役割として確認した3つの事項すべてにおいて、平均値に 差があることを確認することができた。また結果を見ると、B1 : 【注視実施】

(2000)、B2: 【牽制実施】 (1.960)、B3: 【モニタリング(監視)実施】 (2.113) のすべてにおいて、平均値は約2.000の差が示された。よって、自社のCGに 対し意見を言う機会がある企業に所属している従業員は、これら3つの役割

を認識し取組んでいると考えられる。

自社のCGに対して意見を言う機会があるということは、企業が何らかの 形で従業員が「意見を言うことができる」制度を設けていると考えられる。

企業は、このような制度を通して自社のCGに対する従業員の役割について も期待していると推察される。従業員は、企業の従業員に対する姿勢を理解 することにより、CGに対する役割を認識し取組んでいると考えられる。

以上のように、アンケー1、調査で確認した3つの事項について、従業員は 自社のCGに関する役割を認識し取組んでいることが分かった。この結果は、

企業へのインタビュー調査における、 「従業員は自社のCGを気にしていな い、理解していない」とする企業側の考えと異なっていた。

従って、企業は自社のCGに対する従業員による役割の認識や取組みなど について、改めて確認することが必要である。また、企業の従業員への対応 如何によっては、自社のCGに対する従業員の認識や取組みにおける相違が

(15)

今村.井上↓持続可能な経営につながるコーポレート・ガバナンスの取組みとステークホルダーとのim係203

生まれると考えられる。

表4質問項目の平均・標準偏差の値と平均値の差等(従業員の分析B) 平均他

の差 標準

質問

グループ

F均値 偏差 t値 自由度

自社CGに意見を

言う機会有と認識

2.20 793

B1 【注視実施】

15.234"。 159 2000

そうでない

421 873

自社CGに意見を

言う機会有と認識

2.17 881

B2 【牽制実施】

14.050"。。 159 1.96()

そうでない

413 888

自社CGに意見を

言う機会有と認職

833

B3: 【モニタリン

グ(監視)

実施】

2.16

15.530.** 159 2113

そうでない

4.27 893

注)…1%水準で有意(両側)

4−3個人株主のCGとCGコードに関する分析

まず、個人株主が、株主となっている企業のCGの概要を知っているのか を確認した(質問:「株主となっている企業のCGの概要を知っている」)。

次に、この質問に対し、株主となっている企業のCGの概要を知っている回 答者とそうでないとする回答者に分け(前者: 102件、後者: 96件)、株主と なっている企業のCGに関する取組みに対する注目度の変化について両者の 回答の平均値の差の検定を行った。

表5のとおり、分析の結果、株主となっている企業のCGの概要を知って いる回答者とそうでない回答者の間では、質問C1からC5までのすべての平 均値において1%水準で有意な差が認められ、仮説6は支持された。従って、

資本政策を含む5つの事項すべてにおいて、平均値に差があることを確認す ることができた。また結果を見ると、Cl : IROEI (1.097)、C2: 【内部留保】

(16)

204鹿児島経済論集第59巻第34号(2019年3月)

(1.311)、C3: 【株式持ち合い】 (1.225)、C4 : IROAI (1.192)、C5: 【社外取 締役】 (1126)のすべてにおいて、両者の平均値の差は大きくはない。一方、

質問項目間の平均値の比較をすると、Cl : IROEl ・C4: IROA】 よIツも C2: 【内部留保】での差が大きい。これは、配当や企業の持続可能性に影響 を及ぼすと考えられる内部留保に対する、個人株主の注目度を示すものであ ると言えよう。更に、C2 【内部留保】についでC3: 【株式持ち合い】につ いても、C1 : IROEl ・C4: [ROA】 よりも両者の差が大きい。個人株主とし ては、株価に注目することは当然であると考えられるが、この調査結果から、

直接株価につながる情報だけではなく、内部留保や政策保有株式の状況など の資本政策についても注目するようになっていることが示された。

また、伊藤レポートで役割が指摘されたC5 ; 【社外取締役】は、同じく伊 藤レポートで最低限8%と掲げられたCl : IROE】 よりも両者の差が大きい ことから、個人株主は、CGが機能していることをチェックする役割を担う 社外取締役に注目しつつあると考えられる。

従って、企業は、特に株主となっている企業のCGの概要を確認し、知っ ている個人株主に対しては、それらの個人株主が注目している企業のCGに 関する情報を理解しやすく工夫する等、配慮して開示することが必要であ る。また更に、個人株主が注目する企業のCGに関する情報は、社会やその 企業の状況により変化すると考えられることから、企業は個人株主とのコ

ミュニケーションによって変化を確認し対応することが求められる。

このような取組みは、個人株主との関係における自社の望ましいCGのあ り方を確認し、また個人株主の、企業のガバナンスの取組みへの支持による 株式の保有継続'1を促進し、企業の持続的発展につながると考えられる。

'! 伊丹(2000)によれば、株主は、企業に対する不満が生じた場合には、 「退出」即ち、

株式売却による「資本の引き揚げ」を行い、株主を辞める行動を取る(p.38)。企業に 対する株主の支持や満足度が低下した場合には、株式保有継続をやめ売却することに なる。

(17)

今村・井上:持続可能な経営につながるコーポレート・ガバナンスの取組みとステークホルダーとの関係205

表5質問項目の平均・標準偏差の値と平均値の差等(個人株主の分析)

平均値 の差 標準

偏差 t値 自由度

質問

グループ

平均値

株主となっている 企業のCGの概要を 知っている

2.39 810

Cl : IROE】

8.813… 196 1.097

そうでない

3.49 940

株主となっている 企業のCGの概要を 知っている

796 231

C2: 【内部留保】

10.120"." 180.681

1.31]

そうでない

3.63 1.008

株主となっている 企業のCGの概要を 知っている

777 2.43

C3: 【株式持ち

合い】

9.692… 180.881 1.225

そうでない

3.66 982

株主となっている 企業のCGの概要を 知っている

748 240

C4: [ROA】

9.789… 180.743 1.192

そうでない

3.59 947

株主となっている 企業のCGの概要を 知っている

754 2.52

C5: 【社外取締

役】

9.()63… 178.984 1126

そうでない

3.65 973

注)…1%水準で有意(両側)

5.まとめと今後の課題

本研究では、CGに関わる目まぐるしい環境変化の中で、主にCGコード

(18)

206鹿児島経済論集第59巻第3.4号(2019年3月)

の発行によるCGへの影響について、これまで企業に実施してきたインタ ビュー調査と先行研究に基づき、従業員と個人株主に対しアンケート調査を 実施した。従業員については、従業員が認識している自社のCGの変化、

CGにおける従業員の役割の認識について検討した。その結果、自社のCG が変化したと認識している従業員が所属している企業では、インタビュー調 査から導出されたCGコードが企業のガバナンスの取組みに影響を与えた4 つのフエイズ(1意識、2.体制、3.資本政策、4情報開示・コミュニケーショ ン)のすべてにおいて、CGコードの発行以降に変化があったことが分かっ た。

また、自社のCGに対し意見を言う機会がある従業員は、自社のCGを注 視しつつ牽制やモニタリングの役割を果たしていると認識していることが分 かった。これは、企業へのインタビュー調査における、 「従業員は自社の CGを気にしていない、理解していない」とする企業側の考えと異なる結果

が示されたことになる。

個人株主については、CGに関し加速的に変化している近年において、株 主となっている企業のガバナンスに関するどのような取組みに注目するよう になったのかを確認した。その結果、株主となっている企業のCGの概要を 知っている個人株主は、株主となっている企業のCGに関する注目度が変化 していた。具体的には、ROE、内部留保、株式持ち合い、ROA,社外取締 役のすべてにおいて注目度が変化していることが分かった。しかも、直接株 価につながる情報だけではなく、内部留保や政策保有株式の状況などの資本 政策についても注目するようになっていることが示された。また、CGが機 能していることをチェックする役割を担う社外取締役についても、個人株主 が注目しつつあることを示唆する結果であった。

これらの結果により、企業は、従業員と個人株主によるCGに対する認識 や対応などの変化を確認し、両者の立場にも配慮した望ましいCGの取組み と共に、求めている情報について分かりやすく開示することが望まれる。併 せて、他のステークホルダーにおいても同様な取組みをすることにより、ス

(19)

今村・#│:上:持続可能な経営につながるコーポレート・ガバナンスの取組みとステークホルダーとのM係207

テークホルダーからの理解や支持につながり、企業の持続可能な経営に寄与 すると考えられる。

一方、本研究では、アンケートの回答者数が従業員、個人株主ともに309 人であったため、比較する回答者数が不十分である。また、CGコードと CGの変化による、従業員と個人株主との比較や、双方の回答者の属性によ る回答への影響も確認していない。よって、比較対象となる回答者数を増や すと共に、これらについて検討することが課題である。

参考文献

伊丹敬之2000 『日本型コーポレートガバナンスー従業員主権企業の論理 と改革三l日本経済新聞社

伊藤邦雄. 2017 「コーポレートガバナンス改革のPDCA−何を企図し、何 が変わり、今後の課題は何なのか一」『一橋ビジネスレビュー』

2017WIN.65(3) :8‑31

今村明代・井上昌美, 2018a 「コーポレート ・ガバナンスと持続可能な経営 一コーポレートガバナンス・コードとの関係に着目して−」『実践危機 管理j33:27‑36.

今村明代・井上昌美2018b 「中小企業の持続可能な経営」『商工金融j 11 月号:21‑37.

加護野忠男・砂川伸幸・吉村典久. 2010 『コーポレート ・ガバナンスの経 営学一会社統治の新しいパラダイムー』有斐閣

佐藤剛2010 『金融危機が変えたコーポレート ・ガバナンス』商事法務 平田光弘, 2007 「日本のコーポレート ・ガバナンスを考える」『星城大学経

営学部研究紀要」3:5‑26.

平田光弘2008 『経営者自己統治論一社会に信頼される企業の形成一』中 央経済社

宮本光晴. 2007 「日本のコーポレート ・ガバナンスと従業員意識」陣修経 済学論集』41(3) : 115‑134

(20)

208鹿児島経済論集第59巻第34号(2019年3月)

吉村典久2007 『日本の企業統治一神話と実態』NTT出版株式会社.

労働政策・研修機構2006 『変革期の勤労者意識:新時代のキャリアデザ インと人材マネジメントの評価に関する調査結果報告割労働政策研究 報告書49.

(本研究は、科学研究費助成事業(学術研究助成基金助成金)基盤研究(C) 課題恥15KO3638・「持続可能な経営を実践する企業の財務と組織の特性との 関係について」の研究成果の一部である。)

(筆者は、鹿児島国際大学経済学部教授(今村明代)、城西大学情報 科学研究センター客員研究員(井上昌美))

参照

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