集団芸術療法とコラージュ表現 (2) : 喘息サマー スクールでの「裏コラージュ」表現と表現分析との 関係
著者 近喰 ふじ子
雑誌名 東京家政大学研究紀要 1 人文社会科学
巻 40
ページ 211‑217
発行年 2000
出版者 東京家政大学
URL http://id.nii.ac.jp/1653/00009056/
集団芸術療法とコラージュ表現(2)
喘息サマースクールでの「裏コラージュ」表現と 表現分析との関係一
近喰 ふじ子
(平成11年9月27日受理)
Group Art therapy and Collage Expression(2)
一Bronchial Asthma Camp and hidden−Collage
Fujiko KoNJIKI
(Received on September 27,1999)
はじめに
筆者は某区主催の喘息サマースクールの委託を受けた のを機会に,喘息児の自己啓発効果の評価試みとして,
全生活日程表(表1)の中にコラージュ制作を組み込 み,集団でのコラージュ制作を平成4年から開始した.
コラージュ制作の開始当初から,心身症専門外来(筆者 がK病院小児科に在職中の平成4年12月から開始した外 来)などでみられたことのないコラージュ表現(「す
げかえ」1), 「裏コラージュ」)が制作されていた.これらのコラージュ表現は箱庭ではみられない表現特徴と思 われたことから,集団芸術療法におけるコラージュ表現 にっいての検討をおこなった.「すげかえ」では,コラー ジュ表現とエゴグラムパターンの結果の検討から,身体 をも含めた自分に対する否定的なイメージ,自信のなさ から自分が変わりたいや変えたいなどの内省であろうと 思われたことを報告した2).そこで,今回は,もう一っ・
のコラージュ表現である「裏コラージュ」を検討したの で報告する.
対 象
対象は某区主催の喘息サマースクールに参加した児た ちで,その内訳は平成4年は31名(男子20名,女子11名)
で年齢は9−15歳(平均11.52±1.78歳),平成5年は30名
(男子17名,女子13名)で年齢は9−14歳(平均11.53土 1.79歳),平成6年は30名(男子17名,女子13名)で年 齢は9−15歳(平均11.77±2.11歳)であり,3年間連続 参加した児たちは11名であった.
なお,参加した児たちは喘息認定ならびに,公害認定 のどちらかを有し,主治医より喘息サマースクールに参 加の認められた児たちであった.
文学部心理教育学科(臨床心理学研究室)
方 法
コラージュ制作は全生活日程表(表1)の第2日目
(全日程は5泊6日)の午前中に施行し,コラージュ制 作前には小児エゴグラム(千葉テストセンター)を行わ せた.但し,平成4年は初回の試みであったために,小 児エゴグラムは施行しなかった.
なお,事前に,事務局(某区保健衛生部保健指導課喘 息サマースクール担当職員)が参加児たちを4班に編成 しているのを利用し,コラージュ制作に際しても1テー ブルに1班(男女混合)と決め,各自をその決められた テーブルの好きな場所に座わらせた,また,各班には各 班所属のカウンセラー(遊びの提案や参加児たちの相談 相手)と称する大学生の指導員の男女各1名も同席させ た.さらに,K病院小児科所属の看護婦2名は空いてい るテーブルの場所に自らイスを持参し,同席した.
コラージュ制作に際しては,各班のテーブルの上には
近喰 ふじ子
表1 喘息サマースクールにおける全生活日程表
日
第1日目 第2日目1
謔R日目第4B目
第5日目 第6日目時 8月15圓(月) 8月16日(火) 8月17日(水)
8月18日︵木︶r
8月19日(金) 8月20日(土)
AM 6 一
1
起床6:30 起床6:30 起床6:30 起床6:30 起床6:30
7一 洗面・体操・健診 洗面・体操・健診 洗面・体操・健診 洗面・体操・健診 洗面・体操・健診
朝食 朝食
朝食
朝食 朝食
8
集合8:45区役所
荷物整理・清掃
9一出発9;00 9:00 9:00 9:00 9:00 9:00
10一 Tぜ欄室
水泳教室 速動会 はん合炊飯 感想文告き
11
(コラージュ制作)
高萩ピーチガーデン宿舎着
12一昼食
⊥昼食
昼食 昼食 昼食
昼食11:30
P闘
開校式 宿舎発12:30
1 班齪づくり 1:00 1:00 1:00
班別潤工万一シ汐 医師・蟹護婦
2 陶芸教室 のおはなし 智ンカ7什一
ス9ンワ準備 3
部屋割・萄物整理 3:30 宿舎i箇3:30 3:30 3;30 区役所着3:30
4 はがき轡き 解散 自由時間 自由時間 解散
洗たく
︑5 入浴 入浴 入浴 入浴 入浴
6 夕食 タ食 夕食 夕食 夕食
(c一ベキュー)
7 hン附一ビス 肝だめし
班別ミーティンダ料ンカ7イヤー
8
噌映写会
910 一消灯9:30
消灯9:30 消灯9:30 消灯9;30 消灯10:00
11
コラージュ・ボックスが一箱(あらかじめ筆者が雑誌や パンフレットなどから切り抜いておいたパーッ類が入っ ている箱)と某区保健衛生部保健指導課担当職員が持参 した雑誌が数冊つつ各班のテーブル上に置いた.そして,
各自に八つ切りの白い台紙を一枚配り,配り終った後に
「皆さんのところに画用紙がいってますか?これから,
その画用紙に切り抜きを貼って下さい.切り抜きは,テー ブルのまん中に箱がありますね,この箱の中にはいろい ろな切り抜きが入っています.この箱の中から好きな切 り抜きや気になった切り抜きをそのまま貼ってもいいし,
ハサミで好きなように切ってから貼ってもいいです.ま た,雑誌もありますが雑誌の好きなところをハサミで切っ て好きなように貼って下さい」と教示した.すなわち,
コラージュ・ボックス法とマガジン・ピクチャー・コラー ジュ法の2っの方法で施行した.
結 果 1.「裏コラージュ」表現にっいて
「裏コラージュ」とは,1枚の台紙にコラージュを制
作した後,そのコラージュを制作した台紙の裏に再度,
コラージュを制作することと定義した.
「裏コラージュ」制作児は,平成4年は一人もおらず,
平成5年は男子小学生5名と男子中学生2名の7名
(23.3%)で,平成6年は女子小学生2名,男子小学生 3名と女子中学生2名,男子中学生1名の8名(26.7%)
であった(表2).小学生に多い傾向が窺われたが,男 女差は見受けられなかった.なお,「裏コラージュ」制 作が平成4年には全くみられなかったのに対し,平成5・
6年には約20%代と増加していた.
ところで,平成5年には「裏コラージュ」制作児の2/7名
(H.T.,YA),平成6年には「裏コラージュ」制作児の 3/8名(T.T.,Y.N.,H.T.)が,表面に「すげかえ」を制作し
ていた.また,平成5年の2名,平成6年の2名
(H.T.,T.T.)は「裏コラージュ」にも「すげかえ」を制作
していた(表2).
そこで,「裏コラージュ」の表現分析を試みたところ,
(1)無意識表現(2)メッセージ表現(3)退行表現(4)継続表
現と4分類できた.それらを年度別でみると,平成5年で
表2 年度別による「裏コラージュ」のエゴグラムと表現分析
平成5年 平成6年
コラージュ表現
名前と性別 エゴグラム 表現分析 名前と性別 エゴグラム 表現分析
鼠乳(M)小学生 自他肯定型
無意識表現工R(F>中学生 自他肯定型
瓢工(題〉小学生 自他肯定型 メッセージ表現 K兄(F)中学生 自他肯定型 無意識表現
ST(M)小学生
自己肯定他者否定型
無惹識表現1混(F)小学生 自己肯定他者否定塑 退行表現
Kα(め小学生自己肯定他者否定型
繍 乳鑑(M)小学生゜ 自己肯定他者否定型
「裏コラージュ」 &J,(M)小学生 自己否定他者肯定型 駈狂(F)小学生 自己否定他者肯定型
繍
制作児
難黙鍛鱒難i 自己否定他者肯定型 メッセージ表現 鼠K(M)小学生 自己否定他者肯定型 退行表現
自己否定他者肯定型 自己否定他者肯定型 メッセージ表現
自他否定型 無意識表現 ,
23.3% 2ε7%
は無意識表現が4名,メッセージ表現が2名,継続表現が 1名で,平成6年では無意識表現が4名,メッセージ表現 が1名,退行表現が2名,継続表現が1名であった(表2).
2.小児エゴグラムについて
喘息サマースクール参加児たちの小児エゴグラムを年度 別でみると,平成5年は自他肯定型が7名(23.3%),自己 肯定他者否定型が5名(16.7%),自己否定他者肯定型11 名(36.7%),自他否定型が7名(23.3%)で,平成6年は
自他肯定型が4名(13.3%),自己肯定他者否定型が8名
(26.7%),自己否定他者肯定型が11名(36.7%),自他
否定型が7名(23.3%)であったが,年度別による有意 差はみられなかった.また,赤坂ら3)の健康児を対象 にした小児エゴグラムでは,自他肯定型が21.7%,自 他否定型が26.9%であったと報告し,それらと比べて
も有意差はみられなかった(表3).
表3 喘息サマースクール参加児の年度別エゴグラムタイプの頻度
エゴグラムタイプ
平成5年 平成6年健康児{赤坂ら
自他肯定型 7名(23,3》 4名く13.3》 (2L7》
自己肯定他者否定型 5名《16,7》 8名(26,7) (25.7}
自己否定他者肯定型 U名(36.?) 11名(36.7》 (25.7》
自他否定型 7名{23.3》 7名(23.3} (26.9)
( )%
*
「裏コラージュ」にも「すげかえ」を制作 表面のみに「すげかえ」を制作
そこで,「裏コラージュ」を制作児たちと小児エゴグ ラムとの関係をみると,平成5年は自他肯定型が2名
(28.6%)自己肯定他者否定型が2名(40%),自己否定 他者肯定型が3名(27.3%)で,平成6年は自他肯定型 が2名(50%),自己肯定他者否定型が2名(25%),自 己否定他者肯定型が3名(27.3%),自他否定型が1名
(14.3%)で,小児エゴグラムの4型全てにみられてい た.そのうち,平成5年の自他否定他者肯定型の2名と 平成6年の自己否定他者肯定型,自他否定型の各1名は 表面と「裏コラージュ」の両面共に,「すげかえ」を制 作していた.しかし,平成6年の自己肯定他者否定型の 1名(Y.N.)のみは,「すげかえ」は表面のみの制作で あった(表2).
考 察
喘息サマースクールという集団内で行ったコラージュ 制作から得られた「すげかえ」や「裏コラージュ」といっ たコラージュ表現は,筆者の行っている心身症専門外来 では経験したことのなかったコラージュ表現であった.
平成4年の当初,これらのコラージュ表現は喘息児に特
有な表現ではないかとも考えたが,「すげかえ」に関し
ては,下山4)や山根5)の報告などから健康児の集団内
でも制作されていることがわかった.このことは,先に
も述べたように,前思春期ないしは,思春期の身体や自
分をも含めた否定的なイメージに対する変わりたい願望
近喰 ふじ子
などの内省としての表現であろうことを報告した1 2)の で,それを参考にしていただきたい.
ところで,コラージュ療法に関する発表や論文が約10 年を経過した.この間,入江は「裏コラージュ」を同時 制作法で制作した際に,クライエントが切り抜いたまわ りの部分を捨てずに作品の裏に貼っておく方法をとって おり勉相互法ならではのことであると述べ,その裏に こそかくされた意味のあることも多いことを報告してい る7>.筆者の「裏コラージュ」の定義とは異なっている が,入江のは個人面接における同時制作法であり,筆者 のは集団内で施行した自主的制作法という制作状況の相 違にもよると思うが,どちらも「裏コラージュ」である.
そこで,ここでは集団内で制作された「裏コラージュ」
にみるコラージュ表現の意味を明かにしていきたいと考
えた.
すなわち,一般にはコラージュを制作した際に,もっ とコラージュを制作したいと思ったならば,自分の制作 したコラージュの台紙の裏に,コラージュを制作するよ りも,新しいもう一枚の台紙にコラージュを制作する
(そういう児も数人みられていた)ことをおこなうので はないだろうか.では何故,そのような制作を行わなかっ たのであろうか.また,先にも述べたように,「裏コラー ジュ」制作が平成4年には一人の制作児もいなかったが,
平成5・6年では約20%代と急激な増加がみられたこ とは何を意味するのであろうか.これらの疑問を,集団 内で制作された「裏コラージュ」の意味から検討するこ とが「裏コラージュ」表現を理解することになると思わ
れた.
1)喘息サマースクールと集団力動
個人療法は面接室という限られた枠の中で治療者と患 児(者)関係ないしは,治療者と患児(者)を含めた家族 関係の中で行われる.コラージュ制作も面接室という守 られた枠の中で,お互いの相互作用の中で制作されてい る.それに対し,堀8)は集団の場でのアートセラピー では個人の尊重が軽んじられる傾向となりやすいと述べ ているが,筆者2)はコラージュ表現や参加児の集団力 動から,むしろ 個 の存在が尊ばれ,個人の内的変化 が生じやすい,いわゆるフォーカシングの作用が機能し ていることによるのではないかと考え,コラージュ制作 にもそのことが表現されているものと推察している.そ のコラージュ表現こそが,「すげかえ」や「裏コラージュ」
となったものと考えられる,
特に,喘息サマースクール参加児は各自が喘息という 共通の疾患に罹患中であり,互いにそのことを確認・容 認する反面,喘息状態を比較する反発もみられている.
そのことは,筆者など医療班の部屋を訪れた(薬物や吸 入など医療以外のことでやってくる)参加児たちの間で みられている.「僕は喘息といわれたのに,・・は小児 喘息っていわれたって,どう違うんですか」,「・・ちゃ んがお腹が痛いっていうので連れてきました」,「僕のお 母さん,うるさいんだよ!うん,とにかく文句ばかり」
お母さんは帰りが遅いから,僕がごはんを炊いておくん だよ.だから,カレーライス作るのうまいですよ!飯 合炊飯まかしておいて下さいよ!」「先生は子どもさん が何人いるんですか,年はいくっになるんですか」,「看 護婦さん!彼氏がいるんですか」などを始め,喘息治 療で通院中の主治医の話しや入院した時の寂しかった話 しなど,医療班の部屋は面接室そのもので,そこには参 加児たちの筆者への甘えと依存が,看護婦には異性への 憧れがみられていたと実感している.
2)小児エゴグラムとの関係
「裏コラージュ」制作児の小児エゴグラムでは,「すげ かえ」制作児が自己否定型,自己否定他者肯定型と自己 肯定型,自己肯定他者否定型との間で有意差(P〈O.1)
が認あられ,前者が有意に多かったことと比べると,
「裏コージュ」では有意差はみられなかった.しかし,
平成5年の自己否定他者肯定型の2名(H.T.,Y.A.)と 平成6年の自他否定型の1名(T.T.)と自己否定他者肯 定型の1名(H.T.)は,「裏コラージュ」に「すげかえ」
を制作していた児たちであり,自己肯定他者否定型の1 名(Y.N.)は表面にも「すげかえ」を制作していた児で あり,これら5名を除いた上での小児エゴグラムでは,
自己肯定型が4名,自己肯定他者否定型が3名,自己否
定他者肯定型が3名であったが,有意差はみられなかっ
たことから考えると,「裏コラージュ」だけの(表面に
のみ「すげかえ」制作,「裏コラージュ」には「すげか
え」制作を行っていない)制作児たちを小児エゴグラム
との関係からでは検討しにくいことことが分った.すな
わち,「裏コラージュ」制作の意味は,「すげかえ」制作
の意味とは別の要因が考えられた.
表
裏
櫓
作品1 無意識表現 (小学4年生・男子)
表 裏
作品2 継続表現 (小学3年生・女子)
3)集団力動と集団芸術療法
先にも述べたように,集団芸術療法とは 集団の場 でコラージュが制作されるという問題だけでなく,むし ろ,そこには集団から切り離された 個としての存在 が働くため,個人の内的変化が生じやすくなるのではな いかと考えられる.そのことは,C.CaseとT.Dalley ら9>も,集団芸術療法が言語的集団療法の形態と異な るのは,集団と同一化したい依存欲求と自分は他人と違 うという分離願望との間に,ある緊張(関係)が現われ,
この緊張(関係)にあるそれぞれの側に,探究されるべ き時間と空間を与えうる構造があることであると述べて いる.すなわち,各自が芸術という手段を通して,自分 自身と取り組めるたあに, 個としての存在 が働きや
すいともいえる.そこで,「裏コラージュ」の表現分析 から得られた(1)無意識表現(2)継続表現(3)メッセー
ジ表現(4)退行表現の4分類から「裏コラージュ」のコ ラージュ表現の意味を検討したところ,そこには表面で は表現しきれなかった内的状況が映し出されているよう に思われ,「裏コラージュ」にも内的変化が表現されて
いることが理解できた.例えば,無意識表現では僕が気にしているのは喘息のこ とです.そして,喘息を治癒する薬物への期待が浮き彫 りにされている.喘息によって行動が制限され,戦わず して逃げている自分の姿が表現されていた(作品1).
継続表現では溢れる内的感情が表現されていた.そして,
今回の喘息サマースクール参加が本児にとってターニン
(215)
近喰 ふじ子
表
裏
あなたのを︑見せ薫ださ探
作品3 メッセージ表現 (中学2年生・男f)
表 裏