別紙1
論 文 審 査 の 要 旨
報告番号 甲第2782号 氏 名
加藤 光佑
論文審査担当者
主査 教授 上條 竜太郎 副査 教授 美島 健二 副査 教授 高見 正道
(論文審査の要旨)
学位申請論文「Opposite effects of tumor protein D (TPD) 52 and TPD54 on oral squamous cell carcinoma cells」
について、上記の主査1名、副査2名が個別に審査を行った。
Tumor Protein D(TPD)52ファミリーにはTPD52、53、54、55があり、TPD55以外は癌の増殖、浸潤、転移に おいて重要な役割を示すと言われている。過去に申請者らは、TPD54が口腔扁平上皮癌(OSCC)に特異的に発 現し、癌細胞の細胞外基質(ECM)に対する接着、ECM依存性細胞移動を抑制すること、また同ファミリ ーのTPD52、53のもつ悪性化亢進作用を拮抗的に抑制することを明らかにした。本研究ではTPD54を中心に、
TPD52ファミリーの相互作用について更なる検討を行った。まずGFP-TPD54v1あるいはGFP-TPD54shRNAを 恒常発現したSAS細胞株を作製した。次にTPD52、53遺伝子の強制発現ベクターを作製し、遺伝子共発現を 行った。その後TPD52ファミリーの共同的発現およびノックダウンがOSCCの増殖、浸潤、転移等に与える 影響を検討した。その結果、単層培養下において細胞播種後48時間で差を認めなかった。軟寒天コロニー形 成アッセイでは、細胞増殖数は遺伝子発現の違いで差を認めなかった。TPD54強発現群は、TPD52、53遺伝 子を共発現させた場合でも、コロニー形成を抑制した。細胞遊走アッセイはTPD54強発現群で細胞遊走を抑 制した。細胞浸潤アッセイでは差は認めなかった。TPD54強発現群でインテグリン複合体のタンパクである talinの発現が抑制された。これらの結果から、TPD52とTPD54が造腫瘍および転移において相反作用をもつ ことが示唆されたため、実際にin vivoにおいて検討を行った。その結果TPD54強発現群で腫瘍増殖が有意に 抑制され、TPD52強発現群で腫瘍の増大傾向を認めた。TPD52と54の共発現群では、有意な結果は得られな かった。どの群も肺および肝臓への転移は認めなかった。以上より、TPD52ファミリーは、足場非依存的環 境下において、TPD54が癌細胞の腫瘍化を抑制しており、TPD52と54が癌細胞の腫瘍化に拮抗的に作用して いることが示唆された。またTPD54はtalinの発現を抑制し、インテグリンを介した細胞の遊走および転移に 抑制的に働くことが示唆された。造腫瘍実験では、TPD54強発現群で腫瘍増殖が抑制されたが、TPD52と54 の共発現群では有意な結果が得られなかった。TPD52ファミリーはcoiled-coilドメインを介して相互作用する ことが報告されているが、これはその作用によるものと考えられた。しかしその役割は明らかになっておら ず、今後更なる検討が必要と思われた。
本論文の審査において、副査の美島委員および高見委員から多くの質問があり、その一部とそれらに対す る回答を以下に示す。
美島委員の質問とそれらに対する回答:
1.TPD54のinhibitionによりTPD52, 53サブファミリーの発現に変化はみられなかったか。
(TPD54のノックダウンによりTPD52あるいはTPD53が受ける影響については、Fig2のウエスタン ブロットにより解析をしている。コントロールと比較し、タンパクレベルにおいてはあまり変化は認め られなかった。しかしながらReal-Time PCRでは検討を行っていないため、今後検討したい。)
2.TPD54のinhibitionによりEMT(上皮間葉転換)が誘導されている可能性はないか。
(EMTは、TGF-などのシグナルにより運動性の高い間葉系細胞の表現系を獲得し、転移を起こしや
すくなった状態であり、それにはE-カドヘリンの減弱やSnailの核内移行などが指標とされる。今回の 実験では検索していないが、我々が過去に行った研究でTPD54のノックダウンによってE-カドヘリン の発現は抑制されなかったため、TPD54のノックダウンによりEMTが誘導されている可能性は否定的 と考える。)
高見委員の質問とそれらに対する回答:
1.ケモタキシス、ハプトタキシス、細胞浸潤アッセイの結果から推察されるTPD52, 53, 54の扁平上皮癌 における役割について考察せよ。
(TPD52、53はケモタキシスおよび細胞浸潤を増強する機能を持つことが予想される。ケモタキシスは 癌周囲組織あるいは遠隔臓器より産生されたケモカインに対し走化性を示すものであり、癌の浸潤や遠 隔転移を亢進すると考えられる。しかしこれらの作用は TPD54 強発現下では抑制されており、TPD54 は細胞浸潤や転移を抑制する役割を有することが考えられた。ハプトタキシスはコラーゲンやフィブロ ネクチンといった細胞外基質への接着を求めて癌細胞が遊走する作用であるが、これについては有意差 がなかったことから、おもに TPD52 ファミリーが口腔扁平上皮癌細胞の遊走に与える影響として、
TPD52、53が癌細胞のケモカインレセプター等の発現に変化を与え、それにより癌細胞の遊走能に変化
を与えている可能性が考えられた。しかし、これについて今回は検討を行っていないため、今後の研究 課題としたい。)
2.腫瘍組織の転移および増殖におけるTPD52, 53, 54の役割についてin vitroとin vivoの結果に基づいて考 察せよ。
(本実験の結果より、TPD52、53は腫瘍の増殖や浸潤を亢進することが考えられる。過去の文献から、
TPD52はAkt経路のリン酸化を亢進させる報告があるため、おもにTPD52が細胞増殖に関与している
ものと考えられる。TPD53は細胞分裂周期のG2、M期で発現が上がることが報告されているが、直接 的に細胞増殖に影響を与えるという報告は認められない。コロニー形成アッセイにおいて、TPD54は腫 瘍形成抑制能を有し、in vivoにおいても腫瘍体積の増加を抑制したことから、TPD54は増殖に関して抑 制的に働いていることが考えられる。転移について、TPD54は細胞遊走、浸潤アッセイにおいて抑制的 な作用を示すことから、癌細胞の転移を抑える役割があると考える。)
両副査は、上記を含めた質問に対する回答が、いずれも満足のいくものであることを確認した。
主査 上條委員の質問とそれらに対する回答:
1.TPD54が強発現するとTalin-1の発現が抑制されるメカニズムはなにか。
(Talin-1はインテグリンシグナル複合体を形成するタンパクのひとつである。本実験において、TPD54 の強発現によりTalin-1の発現抑制が見られた。また我々の予備実験から、TPD54のノックダウンによ りAkt経路のリン酸化が亢進することを見出した。インテグリンシグナル経路はMAPKやAkt経路と クロストークするという報告があるため、TPD54はこの経路を介してTalin-1の発現を制御している可 能性が考えられた。しかしながらTPD54がAkt経路のどの部位に作用するかは全く解明されておらず、
今後その解明を行っていく必要があると考える。)
主査の上條委員は、両副査の質問に対する回答の妥当性を確認するとともに、本論文の主張をさらに確認 するために上記の質問をしたところ、明確かつ適切な回答が得られた。
以上の審査結果から、本論文を博士(歯学)の学位授与に値するものと判断した。