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北海道出土鉄製刀剣類の自然科学的分析結果

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Academic year: 2021

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(1)

北海道出土鉄製刀剣類の自然科学的分析結果

AChemical Study of lron Swords Excavated in Hokkaido

齋藤 努・高塚秀治

1.はじめに

 北海道内で出土した鉄製の刀剣類5点から一部を採取し,側面部および断面部の金属組織と介在

物,硬度の分析を行った。

2.資料

 分析に供した資料および分析試料採取部位は表1および図1の通りであり,古代から中世の資料である。

3.分析方法

 採取した試料を,側面部が分析面となるようにしてエポキシ樹脂中に固定し,研磨して金属面を 露出させ,ダイヤモンド・ペースト(0.3μm)で鏡面仕上げした。表面を5%ナイタールでエッチ ングしたのち,試料表面に炭素を蒸着させ,エネルギー分散型特性X線検出器付走査型電子顕微鏡

(SEM−EDS)で,金属組織1)および介在物組成の分析を行った。また同試料を用いて,マイクロビ

ッカース法による硬度の測定を行った。

 次いで,試料を取り出して,断面部が分析面となるようにエポキシ樹脂内に固定し,上記と同様

の分析を行った。

4.結果

(1)資料番号「2384」(鉾)

 図2a, bに側面部の,図2cに断面部のSEM−EDS分析結果を示した。介在物(図2a)は刀身の長 手方向に延びており,鉄の原料がこの方向に引き延ばされて製作されたことがわかる。介在物は図 3のような組成をもつガラス質ケイ酸塩が大部分であった。

 金属組織は,フェライトとパーライトが混在している。マイクロビッカース硬度測定結果(図4)

は162〜200とややばらつきのある値を示している。これらから,この資料中の炭素濃度は0.5〜

0.6%程度と推定される。断面部で,表面からの深さによる材質の相違は見られなかった。

(2)資料番号「2387」(刀子)

 図5a, bに側面部の,図5cに断面部のSEM−EDS分析結果を示した。介在物(図5a)は刀身の長

(2)

手方向に延びており,鉄の原料がこの方向に引き延ばされて製作されたことがわかる。図5aで介在

物が線状に連なっていることと,介在物中から図6aのウスタイト(図5bの介在物中で,白っぼく

見える球状結晶)の他に,図6bに見られるような,カルシウム濃度が高く,リンを含むガラス質ケ イ酸塩(図5bの介在物中で黒く見える部分)が検出されていることから,介在物の多くは鍛接面を 示していると判断される(カルシウムおよびリンは鍛接の際にフラックスとして使用した灰汁に由 来すると考えられる)。以上より,本資料は鉄素材を層状に鍛接して製作されたことが分かる。

 金属組織はフェライトが大部分を占め,その結晶粒界に若干のパーライトが見られる。マイクロ ビッカース硬度(図7)も100程度と低く,炭素濃度0.1〜0.2%の軟鉄であると考えられる。断面 部で,表面からの深さによる材質の相違は見られなかった。

(3)資料番号「2391」(方頭大刀)

 図8a, bに側面部の,図8cに断面部のSEM−EDS分析結果を示した。介在物(図8a)は刀身の長 手方向に延びており,鉄の原料がこの方向に引き延ばされて製作されたことがわかる。図8bの介在 物中に見える二種の鉱物結晶のうち,小さく,暗灰色に見えるものの元素分析結果を図9aに,また 比較的大きく,やや白っぼく見えているものの結果を図9bに示した。前者はファヤライト,後者は ウルボスピネルと考えられ,特に後者の存在から,砂鉄を原料とする鉄を用いて製作された資料と

推測される。

 金属組織は,フェライトとパーライトが混在する様子が観察された。マイクロビッカース硬度測

定結果(図10)は142〜179とややばらつきのある値を示している。パーライトの割合が資料

「2384」よりも少なく,これに対応するように硬度も若干低くなっており,この資料中の炭素濃度

は0.3〜0.4%程度と推定される。断面部で,表面からの深さによる材質の相違は見られなかった。

表1 分析を実施した資料

資料番号 資料 出土地 試料採取部位・採取量 年代 所蔵

2384 網走市モヨロ貝塚出土 刀身・0.60399 中・近世 函館市立博物館

(児玉コレクション)

2387 刀子 網走市モヨロ貝塚出土 刀身・0.50559 中・近世  函館市立博物館

(児玉コレクション)

2391 方頭大刀 網走市モヨロ貝塚出土 刀身・0.74859 中・近世 函館市立博物館

(児玉コレクション)

3909 蕨手刀 恵庭市茂漁付近出土 把部・2.55049 9〜10世紀? 旭川市立博物館

なし 蕨手刀 枝幸町目梨泊遺跡

第34号土墳墓出土 把部・4.10309

オホーツク文化後期

12〜13世紀 枝幸町教育委員会

(4)資料番号「3909」(蕨手刀)

 図11a〜cに側面部の,図11d, eに断面部のSEM−EDS分析結果を示した。介在物は刀身の長手

方向に延びており(図11a),鉄の原料がこの方向に引き延ばされて製作されたことがわかる。図 11bの介在物中からは,ガラス質ケイ酸塩部分にチタンが含まれ(図12b),また鉱物結晶としては ルチルと思われるチタン酸化物が検出されている(図12a)ので,砂鉄を原料として高温・高還元 雰囲気下で製錬された鉄を使用して製作された資料と考えられる。

(3)

 金属組織は,大部分がパーライト組織であるが,結晶粒界にわずかに網状セメンタイトが認めら れ,またマイクロビッカース硬度測定結果(図13)で23(L269という数値を示していることから,

炭素濃度は0.9〜1.0%程度と推定される。高温・高還元雰囲気下での製錬の結果が,比較的高い炭 素濃度にも反映されたと見ることができる。

(5)目梨泊遺跡34号墓出土(蕨手刀)

 図14a〜cに側面部の,図14d〜iに断面部のSEM−EDS分析結果を示した。介在物は刀身の長手

方向に延びており(図14a),鉄の原料がこの方向に引き延ばされて製作されたことがわかる。図 14bの介在物中からは,ガラス質ケイ酸塩部分にチタンが含まれ(図15b),また鉱物結晶としては ルチルと思われるチタン酸化物が検出されている(図15a)ので,砂鉄を原料として高温・高還元 雰囲気下で製錬された鉄が本資料の製作に用いられたと考えられる。

 側面部では,フェライトが大部分を占め,その結晶粒界に若干のパーライトが見られる。マイク ロビッカース硬度測定結果(図16a)では100〜127であり,0.1〜0.2%程度の炭素濃度を含む金属 組織を示している。また,断面部で見ると,深さ方向に,炭素濃度の異なる金属組織が層状に認め

られる(図14d:上辺部分で側面部の分析を行った)。表面から深さ方向に各部分の組織を観察し たのが図14e〜iである。観察を行った層は,図14dに矢印をつけて表示してある。断面部のマイク ロビッカース硬度測定結果(図16b)と併せて各部の炭素濃度を推定すると下記の通りになる。

 図14e:最表面では部分的にフェライトの組織がみられる。その箇所では硬度も91.1と低いこと     から炭素濃度は0.1%以下と考えられる。

 図14f:フェライトの結晶粒界にパーライトがわずかにあらわれている。硬度は100前後で,炭

    素濃度0.1〜0.2%程度と考えられる。

 図14g:フェライトの結晶を囲むようにパーライトがあらわれ,硬度は120〜130となっている。

    炭素濃度0.2〜0.3%程度と考えられる。

 図14h:フェライトとパーライトがほぼ伺量観察される。硬度は150〜160程度であり,炭素濃度     約0.4%と考えられる。

 図14i:フェライトとパーライトが混在しているが,パーライトの量が図14hよりも少ない。硬

     度も120〜130の範囲になっており,炭素濃度は約0.3%と考えられる。

 これらを見ると,炭素濃度は表面から中心部にいくに従って,徐々に増加していることが分かる。

また図14dおよび図16bで,中心部からさらに下がり,反対側の資料表面部の方に近づくと再び炭

素濃度が減少している。このような現象が起こる理由としては,1)炭素濃度の異なる素材を鍛接 によって層状に重ねた,2)炭素濃度の高い鉄を加熱することによって表面から脱炭した,の2つが 想定できる。この資料の場合,炭素濃度の変化の起こり方が連続的で,それらの境界に鍛接面を示 す介在物が観察されないこと,介在物中に高温・高還元雰囲気下で製錬されたことを示すルチルが 存在し,製錬後の鉄は高炭素であったと思われること,中心部の炭素濃度が最も高く,表面に近づ

くにつれて炭素濃度が下がる傾向を示していること(ただし,図14dおよび図16bにおける下の方

の部分(図14a〜cで分析した部分の反対側の側面)は錆化が進んでおり,資料のもともとの表面

部分は観察されない),などの理由から,上記の2)の可能性が高い。すなわち,比較的濃度の高い

(4)

鉄を,表面から二次的に脱炭することによってこのような金属組織が生成したと思われる。

5.結論

 北海道内で出土した鉄製の刀剣類5点から一部を採取して自然科学的分析を実施した。資料はい ずれも,介在物が刀身の長手方向に延びており,鉄素材をこの方向に引き延ばして製作されたと思 われる。使用されている鉄はいずれも鋼であるが,炭素濃度は資料ごとに大きく異なっている。分

析資料のうち,方頭大刀1点と蕨手刀2点の介在物からチタンを含む結晶鉱物が検出され,原料と

して砂鉄が使用されたと考えられる。また,蕨手刀の中に,炭素濃度の比較的高い鉄を加熱するこ とによって表面から脱炭して製作したと推測される資料が検出された。

参考文献

1)佐藤知雄編 1985 『鉄鋼の顕微鏡写真と解説』丸善

齋藤 努(国立歴史民俗博物館情報資料研究部)

高塚秀治(東京工業大学大学院社会理工学研究科)

(5)

a.資米↓2384  鉾 d.資料3909 蕨手刀

b,資料2387 刀子

e,目梨泊遺跡第34号土墳墓出土 蕨手刀

c.資料2391 方頭大刀

図1 分析試料の採取部位

(6)

         一 ◆●、r     一へ       . 一岬▲r−

    a.側面部(介在物の方向,×50)

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  b.側面部(介在物および金属組織,×400)

      図2

      ■  =N2384

c.断面部(金属組織,×400)

資料2384(鉾)の走査型電子顕微鏡観察結果

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図3 資料2384(鉾)中の介在物の組成分析結果

図4 資料2384(鉾)側面部のマイクロビッカース硬度測定結果

(7)

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    a.側面部(介在物の方向,×50)

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b.側面部(介在物および金属組織,×400)

c.断面部(金属組織,×400)

     図5 資料2387(刀子)の走査型電子顕微鏡観察結果

ρ、 =N2387 ∩  =N2387

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図6 資料2387(刀子)中の介在物の組成分析結果

図7 資料2387(刀子)側面部のマイクロビッカース硬度測定結果

(8)

   

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    a.側面部(介在物の方向.×50)

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c.断面部(金属組織,×400)

b.側面部(介在物および金属組織,×400)

       図8 資料2391(方頭大刀)の走査型電子顕微鏡観察結果

合  =N2391 F㍉ =N2391

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 図9 資料2391

臼 EDR×       (∂CNT   の.②の×E)

(方頭大刀)中の介在物の組成分析結果

10e)ノch ■ ED(×

図10 資料2391(方頭大刀)側面部のマイクロビッカース硬度測定結果

(9)

    a.側面部(介在物の方向,×50)

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b.側面部(介在物および金属組織、×400)

c.側面部(金属組織.×400)

d,断面部(金属組織,×400)

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e.断面部(金属組織,×3.000)

     図11 資料3909(蕨手刀)の走査型電子顕微鏡観察結果

       ∩  ⇒39の9

      slK

     レペキ

      のCNT   の.ののKEU

図12 資料3909(蕨手刀)中の介在物の組成分析結果

       腹側

1¢芭Wch合ED臼X E

背側

図13資料3909(蕨手刀)側面部のマイクロビッカース硬度測定結果

(10)

  。、_に 竺・.._・・↓

   蚕  ・鰍

  寧  、

撫。、

    a.側面部(介在物の方向,×50)

       碑隣

c.側面部(金属組織,×400)

b.側面部(介在物および金属組織,×400)

⁝↑

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9

  叶

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d.断面部(金属組織,×15)

e.深さ方向による金属組織観察結果1(×400) g.深さ方向による金属組織観察結果3(×400)

f深さ方向による金属組織観察結果2(×400)       h.深さ方向による金属組織観察結果4(×400)

   図14 目梨泊遺跡第34号土墳墓出土(蕨手刀)の走査型電子顕微鏡観察結果

(11)

      i.深さ方向による金属組織観察結果5(×400)

    図14 目梨泊遺跡第34号土墳墓出土(蕨手刀)の走査型電子顕微鏡観察結果(続)

       合 =B⇔NGO N合S−

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E 図15 目梨泊遺跡第34号土墳墓(蕨手刀)中の介在物の組成分析結果

C側

D側

 x111 109x

 x104

106X  x109 121X  x132 153x  x153164x  x123   127

    a.側面部       b.断面部

図16 目梨泊遺跡第34号土墳墓(蕨手刀)のマイクロビッカース硬度測定結果

(12)

AChemical Study of Iron Swords Excavated in Hokkaido SAITo Tsutomu and TAKATsuKA Hideharu

We analyzed the pieces taken from 6ve iron swords of various kinds, which were excavated in Hokkai−

do. From the metallurgical structures of the surface and cross−section, the chemical compositions of inclusion and micr(トvickers hardness we found the fbllowings;

1.Inclusion in a玉l the samples lengthened in the longitudinal direction, which meant that material iron was forged皿t in this direction.

2.All the sword was made with steel and the concentration of carbon varied in each sample.

3.Three of the samples, No.2391,3909 and the sample without iden面cation number ,contained inclu−

sion with iron−titanium oxide. They were considered to have been smelted with iron sand as raw mat←

dal.

4.From the metallurgical structure of the sample with皿t ident迅cation number ,a服rab∫fe sword, we found the concentradon of carbon decreased gradually丘om inside to surface. It was estimated to have been manufactured with a decarbonizing process of steel with higher carbon content.

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