マウス体外成熟由来2細 胞期胚を用いた冷蔵輸送 ・保存方法の検討
西 村 愛 美1、 中 牟 田裕 子a3、 福 本 紀 代 子a3、 近 藤 朋 子a3、 春 口幸 恵 罰 、 竹 下 由 美a3、 土 山 修 治2、
石 川 裕 子4、 石 東 祐 太4、 細 井 美 彦L45、 三 谷 匡5、 竹 尾 透2、 中 潟 直 己2、 安 齋 政 幸5
要 旨
遺 伝 資 源 と して の生 殖 細 胞 の保 存 お よび輸 送 方 法 の確 立 の た め に 、従 来 の超 低 温 下 に よ る凍 結 保 存 に変 わ る技 術 と して 、新 た に私 た ち は 初 期 胚 の 低 温 保 存 お よび 冷蔵 輸送 方 法 を 開発 した 。 本 研 究 で は 、排 卵 に 至 らない 卵 巣 内 に存 在 す る未 成 熟 卵 子 を用 い て 得 られ た 体 外 受 精 由来2細 胞 期 胚 の 冷 蔵 輸 送 方 法 お よ び産 子 へ の 発 生 能 を検 討 した。 成 熟 マ ウス 卵 巣 内 よ りGV期 卵 子 を回 収 し体 外 成 熟 後 に発 生 したMH期 卵 子 (1,72211,920:90%)を 透 明 帯 穿 孔 処 理 に よ り体 外 受 精 を お こな っ た と こ ろ56%(5521992)の 受 精 成 績 で あ り、83%(4571552)が2細 胞 期 胚 へ と発 生 した。 これ らの胚 は 、近 畿 大 学 先 端 技 術 総 合 研 究所(和 歌 山)か ら熊 本 大 学 ・CARD(熊 本)冷 蔵 輸 送 した と ころ 、約48時 間 後 にお け る冷 蔵 保 存 胚 は 、100%(2401240) の 生 存 成 績 で あ り、そ れ らの 一 部 の 胚 を移 植 した結 果 、10%(211213)の 産 子 を得 た。 以 上 の 結 果 よ り、体 外 成 熟 由来2細 胞 期 胚 の 冷 蔵 輸 送 ・冷 蔵 保 存 が 可能 で あ る こ とが 示 され た。
1.緒 論
現在、様 々な動物種 において生殖 工学技術の開発が進展 し、特 に、実験動 物で あるマ ウスでは体外受精 や初期胚 の培養技術 は確 立 され てお り(1)、効率 よく個 体を作製す るこ とが可能 になってい る②。この体外受 精操作 に用い られ る卵子 は、過剰排卵処理 にて得 られ る第二減数分裂 中期 の卵子 を供 してい る③。しか し、
排 卵 され る卵子 は一部 であ り、卵巣内に存在す るそ の多 くの未成熟 な卵子 は回収 され るこ とな く死 滅す る 運命 にある とされ てお り④、 このよ うな未成熟卵子 か らの受精卵作 出技術の構築 が進 め られ てい る。
一方、 これ まで開発 され てい る疾患モデル や遺伝子操作動物 の多 くには、性 成熟前 に死亡 した り性 成熟 に達 しても交尾行 動が出来 ない ために繁 殖障害 となる系統 も多 く認 め られ る⑤。 さらに、マ ウス にお ける 体外成熟卵子 か らの産子作 出の報 告は、Eppigら ⑥ によって報告 され てい るものの、その殆 ど全 てが交雑 種系統 由来 あ り(畑、遺伝 的に均 一な近交系か らの受精卵 の作 出お よび産子 への発 生お よび供給 システ ムの 確 立が急務 である。
私た ちは、このよ うな低 い繁 殖能 を呈す る遺伝子操作マ ウスか ら卵巣 を回収す るこ とで得 られ た未成熟 卵子か ら、初期胚 を作製す るこ とに成 功 し効率的 な産子 の作出 を報告 した⑨。また 、 これ まで報告例 のな い近交系マ ウスか らの未成熟卵 子の体外成熟操作(1①お よび産子へ の発生能 を明 らかに した(11)。本研究 では、
卵巣 内に存在す る未成熟卵子 の有効利 用 を 目的 に、遺伝資源保存 のためのバイオ リソース研究 として新 た に開発 した冷蔵輸送 ・冷蔵保存操作 を、私 たちが開発 した近交系マ ウス を用い た体外成熟 由来2細 胞期胚 へ も適用 し、それ らの発 生能 を検討 した。
原 稿 受 付2011年ll.月24日
1.近 畿大学大学院生物理工学研究科 生物 工学専 攻 〒649‑6493和 歌山県紀の川 市西三谷930 2.熊 本 大学生命 資源 研究 ・支援セ ンター 動 物資源 開発 部門(CARD)〒860‑0811熊 本 市本 荘2‑2‑1 3.九 動株 式会社 〒841‑0075佐 賀県鳥栖 市立石 町惣楽883‑1
4.近 畿大学生物理工学部遺伝子工学科 〒64%493和 歌 山県紀の川市西三谷930 5.近 畿大学先端技術総合研究所 〒642‑0017和 歌山県海 南市南赤坂14‑1
2.材 料 と方 法 2.1供 試 動 物
供試 動 物 と して 、マ ウス は成 熟齢 に達 したC57BL16J(日 本 ク レア(株))を用 い た。 ま た 胚 移 植 お よび 里 親 マ ウス に はMCH(ICR)(日 本 ク レア ㈱)を 用 い た。 これ らの マ ウス は 、 入 荷 後1週 間 以 」頻 化 をお こ な い
(明期:7:00〜19:00、 暗期:19:00〜7:00)供 試 した。 ま た飼 育 条件 と して 、 室 温23±2℃ 、湿 度50%の 飼 育 環 境 下 にお い て 、飼 料(500N:日 本SLC㈱)お よび 飲 水 を 自由摂 取 させ た。
な お 、 本 実 験 に 際 して動 物 実 験 の 立 案 お よび 実 験 動 物 の飼 養 と管 理 に つ い て は 、 近 畿 大学 動 物 実 験 規 定 に準 じて 実 施 した。
2.2未 成 熟 卵 子 の 回 収
未 成 熟 卵 子 の 回収 は 、佐 東 らの 報 告 に従 っ て行 っ た(1①。成 熟 齢 に 達 したC57BL16J雌 マ ウス を、妊 馬血 清 陸1生腺 刺 激 ホル モ ン(あ す か製 薬(株))を7.5単 位 腹 腔 内 投 与 し、投 与 後46時 間 後 に卵 巣 を摘 出 した。
続 い て 、0.1%ビ アル ロニ ダ ー ゼ を含 ん だmCZB‑HEPES培 地 中 にお い て 、 注 射針 を用 い て 卵 巣 を細 切 す る こ とで 、 卵 巣 か ら卵 丘 細 胞 を含 む 卵核 胞 期 卵 子(GV期 卵 子)を 回 収 した。 続 い て 回収 したGV期 卵 子 は 、 同馳 中 に て ピペ ッテ ィ ン グ に よっ て 卵 丘 細 胞 を除 去 した後 、㎜ と αMEMを1:1に て混 合 した 肱M培 地 に5%FBSを 添 加 した修 工EThM培 地(以 下 、mTaM培 地)に 移 し、1ド ロ ップ50μL中 に30
〜50個 のGV期 卵 子 を炭 酸 ガ ス イ ンキ ュ ベ ー ター 内(37℃ 、5%CO2inair)で 、16時 間 培 養 をお こ な い 成 熟 させ た 。 そ の後 、顕 微 鏡 下 で 卵 子 の確 認 をお こ ない 核 膜 崩壊 が 見 られ た もの を、 第 二 減 数 分 裂 中期 へ 発 生 した 体 外 成 熟 卵 子(MII期 卵 子)と した 。
2.3体 外 成 熟 卵 子 の 透 明 帯 レー ザ ー 穿 孔 処 理 操 作
MH期 へ 成 熟 した体 外 成 熟 卵 子 は 、 レー ザ ー 光 に よ る透 明 帯 穿 孔 処理 法 ⑫ に従 い 、透 明 帯 に僅 か な穿 孔 処 理 を施 した。mTaM培 地 下 に て 回 収 した 体 外 成 熟 由来MII期 卵 子 を レー ザ ー 穿 孔 装 置(XYClone:ニ ッ
コー ・ハ ンセ ン ㈱)を 取 り付 けた 倒 立 顕 微 鏡(D(70:オ リンパ ス(株))のス テ ー ジ上 に移 動 させ た。 続 い て 卵 細 胞 質 と囲卵 腔 との ス ペ ー ス が 最 も広 い1ヶ 所 に 照 準 を合 わ せ 、 レー ザ ー 波 長 お よび 出力 は そ れ ぞ れ 1,480㎜ 、300mWと し、 照 射 時 間 は 、120μsec.に て 赤 色 レー ザ ー 光 を 照射 した。 レー ザ ー 穿 孔 処 理 後 の 卵 子 は、 透 明帯 に それ ぞれ 直径 約6μmの 穿 孔(図1.,2.)を 確 認 した後 、 生存 卵 子 は 、 引 き続 きm距M 培 地 中で 媒 精 直 前 ま で炭 酸 ガ ス イ ンキ ュベ ー ター 内で 静 置 した。
図1.レ ー ザ ー 穿 孔 前 のMII期 卵 子 Scalebar=50μm
図2.レ ー ザ ー 穿 孔後 のMH期 卵 子 矢 印 は 穿 孔 箇所(直 径 約6μm)を 示 す 。
Scalebar=50μm
2.4体 外 成 熟 由 来 卵 子 の 体 外 受 精 操 作
体 外 受 精 は豊 田 らの方 法 に ほ ぼ 準 じて お こな った ⑬ 。 同系 統 の成 熟 雄 マ ウス の 精 巣 上 体 尾 部 よ り採 取 し た 新 鮮 精 子 は 、2mMハ イ ポ タ ウ リンを 添 加 ω した修 正HTF培 地(ア ー ク ・リソー ス(株))に て 、 1.5時 間培 養 し受 精 能 を獲 得 させ た。 次 に透 明帯 穿 孔処 理 を施 した 体 外 成 熟 卵 子 へ 媒 精(精 子 濃 度:8.0×
1021μL)を お こ な っ た。 媒 精 後6時 間 で 雌 雄 前 核 形 成 の有 無 を確 認 した 後 、KSOM培 地(ア ー ク ・リ ソ ー ス(株))で 卵 子 の 洗 浄 をお こ ない
、引 き続 き炭 酸 ガ ス イ ン キ ュベ ー タ ー 内 で18時 間培 養 し2細 胞 期 へ 発 生 させ た 。 体 外 受 精24時 間 後 に 得 られ た 工E常な2細 胞 期 胚 を洗 浄後 、冷 蔵 輸 送 ・保 存 お よび ガ ラ ス化 保 存 に供 した。
2.5冷 蔵 輸 送 ・保 存 操 作 お よ び ガ ラ ス化 保 存 操 作
体 外 受 精 後 、2細 胞 期 へ 発 生 した胚 の冷 蔵 輸 送 お よび 冷 蔵 保 存 操 作 は 、Nishimuraら の 方 法 に準 じて お こな った ⑮ 。得 られ た2細 胞 期 胚 をM2培 地 に て潴 争した 後 、少 量 のM2培 地 と共 に胚 をテ ス トチ ュー ブ へ 移 し予 め冷 却 した梱 包 箱 へ格 納 した 。 冷 蔵 輸 送 方 法 は 、梱包箱 を保冷状 態 にて クール宅配便 による、近 畿 大学 先 端 技 術 総 合 研 究所(和 歌 山)か ら熊 本 大 学 ・CARD(熊 本)へ の 冷蔵 輸 送 を実 施 した。 ま た 、到 着 後 の これ らの胚 は 、胚 移 植 を お こな うま で 冷 蔵 庫 内 に て約24時 間保 存 した。
一 方、 簡 易 ガ ラ ス化 法 に よ る2細 胞 期 胚 の保 存 操 作 ⑯ は 、2細 胞 期 胚 を1MDMSO(inPB1)溶 液 に て 平 衡 状 態 に した後 、凍 結 チ ュ ー ブ に5μLの1MDMSOと 共 に胚 を移 した。 続 い て0℃ に設 定 した冷 却 装 置(CHILLHEATIWAKDに て5分 間凍 結 チ ュー ブ を冷 却 した 。 次 に 、予 め0℃ に冷 却 したガ ラ ス化 保 存 液DAP213(2MDimethylsu丘bxide,1MAcetamaide,3MPropyleneglycolinPB1)を95μL添 加
し、 さ らに5分 間 冷 却 した 後 、 液 体 窒 素 中(‑196℃)に 浸 漬 す る こ とに よ り超 急 速 的 に お こな った 。
2.6冷 蔵 輸 送 ・保 存 操 作 胚 お よ び ガ ラ ス化 保 存 胚 の 胚 移 植 操 作
冷 蔵 輸 送 され た胚 の 回収 方 法 は 、テ ス トチ ュ ー ブ か ら全 容 量 のM2培 地 と共 に2細 胞 期 胚 を 回 収 し、予 め通 気 して い たKSOM培 地 に て3回 洗 浄 後 、 胚 の形 態 学 的観 察 をお こな った 。
一 方、 ガ ラ ス化 保 存 した胚 に つ い て は 、 保 管 容 器 か ら凍 結 チ ュ ー ブ を 取 り出 し室 温 下 に て20〜30秒 静 置 した 後 、 予 め37℃ に 温 めて い た0.25MSucrose(inPB1)酒 夜をす ばや く、凍 結 チ ュ ー ブ 内 に900μ
L注 ぎ、 ピペ ッテ ィ ン グ に て加 温 した 。 回 収 され た2細 胞 期 胚 をKSOM培 地 に て3回 洗 浄 後 、 胚 の形 態 学 的 観 察 をお こ な っ た。 そ れ ぞれ の 生存 胚 は 、約1時 間炭 酸 ガ スイ ン キ ュベ ー ター 内 で 回 復 培 養 をお こ な った 後 、 偽 妊 娠 第1日 目の レシ ピエ ン ト雌(Jcl:MCH(ICR))マ ウス の 卵 管 内へ 移 植 し(1つ、 産 子 へ の発 生 につ い て 検 討 した。
3.統 計 学 的 処 理
本 実 験 操作 にお い て 、冷 蔵 輸 送 ・保 存 胚 とガ ラス 化 保 存 胚 との 回収 成 績 、 生 存 成 績 お よび 移 植 成 績 に お け る統 計 処 理 は 、 それ ぞれ 分 散 分析 値 を求 めた 後 、FisherのPLSDに よ り解 析 した(StatWew‑J5.0)。
4.結 果
C57B]ソ6Jマ ウス にPMSG投 与 後46時 間 で卵 巣 か ら未 成 熟 卵 子 を 回収 し、修 正 覧M培 地 を用 い た体 外 成 熟 成 績 をTable1.に 示 す 。 形 態 学 的 に観 察 し、卵 核 胞 の崩 壊 を認 め た そ れ らの 体 外 成 熟 率 は90%
(1,72211,920)と 高 い 体 外 成 熟 成 績 を示 した。
Table1.C57BI/6J由 来 体 外 成 熟 卵 子 を用 い た体 外 成 熟成 績
GV期 卵子数 MH期 卵子発生数 成熟率(%)
1,920 1,722 90
Table2.に は 、 体 外 成 熟 後 に正 常 に発 生 した 卵 子 を レー ザ ー 穿 孔 処 理 に よ り透 明 帯 穿 孔 を施 した 後 、体 外 受 精 に 供 試 した 結 果 を示 した 。 こ の 体 外 成 熟 卵 子 を 用 い た 同 系 統 雄 マ ウ ス との 体 外 受 精 率 は56%
(5521992)で あ り、 そ の 後 の2細 胞 期 胚 へ の発 生 は83%(4571552)で あ っ た。
Table2.C57BI/6J由 来体 外成 熟 卵 子 を用 い た体 外 受 精 お よび 初 期 胚 発 生 成 績
供試卵子数
受精卵子数(%) 多精 子卵子数(%) 2細 胞期 胚発生数(%)992
552(56) 13(1) 457(83)
図3に は 、 これ ら発 生 した2細 胞 期 胚 の 冷 蔵 保 存 お よび ガ ラ ス化 保 存 を適 用 した そ れ ぞ れ の 回収 成 績 と 生 存 成 績 を示 した。M2培 地 で 洗 浄 した 後 、 同 培 地 を含 む テ ス トチ ュ ー ブ に移 した 胚 を、 近 畿 大学 総 合 研 究 所(和 歌 山)か ら、熊 本 大 学 ・CARD(熊 本)ま で 約24時 間 を要 し冷 蔵 で輸 送 し、冷 蔵 時 間 が48時 間 に な る ま で4℃ で 保 存 した とこ ろ 、 輸 送 後 の 冷 蔵 胚 は100%(2401240)を 回 収 す る こ とが で き 、100%
(2401240)の 生 存 率 で あ っ た 。 ま た 、 これ ま で 多 く輸 送 形 態 と して使 用 され て い るガ ラ ス化 保 存 操 作 を 用 い た 、 体 外 成 熟 由来2細 胞 期 胚 の加 温 後 に お け る回 収成 績 は 、99%(1181119)で あ り、 そ れ らの胚 の 生 存 成 績 は86%(1021118)で あ っ た(図3.)。 な お 、両 者 間 にお け る胚 の 回収 お よび 生 存 性 に は有 意 差 は 認 め られ な か っ た(P>0.05)。
■冷 蔵 輸 送 ・保 存 ガラス化 保 存
図3.体 外成熟 由来2細 胞期胚 を用いた各保 存操作 にお ける回収お よび生存成 績
Table3.に は 、 そ れ ぞ れ の保 存 条 件 下 に お け る、 体 外 成 熟 卵 子 を用 い た体 外 受 精 由 来2細 胞 期 胚 の移 植 成 績 を示 した。 回収 した2細 胞 期 胚 をKSOM培 地 で 洗 浄 し回復 培 養 を お こな い 形 態 学 的 に正 常 と認 め ら れ た 一 部 の胚 を移 植 した と ころ 、冷 蔵 輸送 ・保 存 胚 で は10%(211213)。 一 方 、 ガ ラス 化 一加 温 後 の移 植 成 績 は6%(5179)の 産 子 率 で あ り、 両 者 間 に て有 意 な 差 は 認 め られ な か った(p>0.05)。
Table3.冷 蔵 輸 送 後 のC57BI/6J体 外 成 熟 由来2細 胞 期 胚 の移 植成 績
試験区 移植胚数 移植匹数 着床匹数
産子数(%) 雌雄♀ ♂
冷蔵輸 送 ・保 存 ガ ラス化 加 温
213
79
11
4
10
3
21(10) 5(6)
813
2 3
5.考 察
卵巣 内未成熟卵子 の体外成熟 操作は、培地 によって大 き くその成熟成 績お よびその後 の発生率 を左右 す るこ とが知 られ ているω 。また体外成熟培養 は、未成熟卵子周 囲に存在す る卵丘細胞の有無 によ り培養条 件 は変化す る⑲ 。M面 ら⑳ は、交雑種 系統 にお ける裸 化卵子 を用 いて良好 な体外成熟成績 を示すTaM複 合培地 を開発 し、浸透 圧作用 に よ り発 生阻害 に左右 され る こと無 く、内在 す る ミ トコン ドリアや微小管 の 分布 が改善 され 、体外で の成熟成績 お よび発生能が 向上す るこ とを報告 した。私 たちは、TaM複 合培地 に 少量のFBSを 添加 した修正T宜M培 地 を開発 した。 これ は、FBS内 には様 々な成 長因子や ホルモ ンが含 まれ、卵胞液 中に存在す るMidkineやLeptinな どの成長 因子 は細胞質成 熟 を促進 す るこ とが示 され てい るe1,22)。また、血清 中に含 まれ るFetujnは 透 明帯硬化 を和 らげ る効果が ある と示 され てお り㈱ 、近交 系 に由来す る本実験 において も細胞 質内変性 を抑制 し高い成熟成績 を得 られ ることが確 認 され た。
マ ウス な ど哺乳類 では、卵子側 のZP3に 含 まれ る0結 合オ リゴ糖 が精子 と透 明帯 を接着す るこ とが知 られてお り、接着が起 こるこ とで精子頭部 の先体反応が誘導 され る と示唆 され てい る図 。先体反応 ではア クロシン、 コラゲナ ーゼ な ど多 くの加 水分解酵素が放 出 され る。特 にア クロシンは、先体 内容物 の放 出を 促進 させ るこ とで、先体 か らのタ ンパ ク質の放 出が精子 の透 明帯 を通過す るた めに重要で あるこ とが示唆 されてい る㈲ 。 しか しなが ら、透明帯 を除去 した卵子 では受精 をお こな えるこ とか ら、透 明帯 は受精 を起 こす為 に必須 な活 陸化 を起 こさせ るわ けではない㈱。一方 、体外成熟卵子 は透 明帯の硬化 によって受精 率 が低率 になるこ とも示 され てい る⑳。本実験 では、体外成熟卵子 の体外受精成 績は レーザー穿孔処理 をお こない、精子濃度 を8.0×1021μLにす ることで、安定 して50%以 上の成績 を得 るこ とができてい る。 これ らは、培地 内の精子濃度 を濃 くす ることで、卵子 に接着す る精子 の数 の増加 に伴い、培地 内で透 明帯通過 を行 うた めの先体 内容物 の増加 が透 明帯硬 化の起 こった体外成熟卵子 の透 明帯通過 を容易 に している と考 え られ る㈱。
遺伝資源 の保存 と供給 に関 してマ ウスや ラ ッ トで は、胚 ・配偶子凍結保存技術凶3ωが 開発 され 、飼育 ス ペースや労力 な どの観 点や 系統管理侶1)さらに輸送 の簡 便 性か らも有用性 が高 い(32)。しか しなが ら、ガラス 化保 存 され たマ ウス胚 は、‑140℃ を超 えて加温 して しま うと胚 の生存 性が著 しく低 下す るた め加 温操作
には一定 の習熟 が必要 とされ る(謝。 この よ うな問題 点を解決す るた め、近年 では初期胚 を冷蔵状態 で輸送 す る技術 が普及 しつつ ある㈹ 。 この技術 は初期胚 を4℃ 下 の状態 で輸送 で き、その後の産子作 出が可能 で あるこ とが報告 され ている図 。加 えて、胚到着後 の融解 あ るいは加 温作業 を必要 としないため、到着後す ぐに胚移植す るこ とが可能 な こと、凍 結胚 と比較 して、輸送 コス トが安い こ とが上 げ られ てい る(32)。これ らの こ とを組み合 わせ る ことに よ り依頼者の 日程や要望 に応 えた、初期胚 を冷蔵 での輸送 にて実施す る こ とは、依頼者 が体外受精操作や 得 られた初期胚の凍結保存技術 な どの煩雑 な作業 をお こな う必要 がな く、
貴重 な胚 の死滅や紛失 な どが軽減 され、 さ らに安定 した初期胚 の供給 が可能 にな ると思われ た。
本実験 にお いて、ガラス化保 存胚 と冷蔵輸送 ・保存操作 をお こなったいず れの胚で も、生存成績お よび 産子発生成1に 顕著 な差 は認 め られず、保 存期間が短期 間の場合 、冷蔵 輸送 ・保 存が有用 であるこ とを認 め、 さらに冷蔵 輸送で は胚 の死滅や紛失 が殆 ど起 こらない こ とを認 めた。近年、体外発育一体外成 熟 由来2 細胞期胚 のガラス化一加温 操作後 の産子 作出報告が されてお り、2細 胞期胚 で保存 した場 合、胚盤 胞期 の内 部細胞塊数 や栄養外胚葉 数 は変化せ ずガ ラス化一加 温後 も高 い産 子成績 を示 してい る圃 。 しか しなが ら、
C57BL16系 統 を用 いて低 温保 存処理 をお こなわない産子成 績 と比較す ると低率で あった(11)。これ は、近交 系マ ウス を用い た場 合、卵子核や細胞質成熟 が不完全 であ ると報告㈱ され てい るた め、体外成熟 由来2細 胞 期胚 はガ ラス化保存 または冷蔵 輸送 ・保 存下 にお ける低温 ス トレスを受 けやす く、そ の後 の発生 成績 に 影 響 した可能 性が考 え られ た。
マ ウス体外成熟卵子 か ら作成 された初期胚 を用いた保存操作 の殆 どは、幼若齢 の交雑種マ ウスが用 い ら れてい る(諭。成熟齢 に達 した近交系マ ウス か らの体外成熟 由来初期 胚 を用いた冷蔵輸送 ・保存操作 におけ る産子作 出の報告 は今 までにな く、今回私た ちが初 めてお こなった。 上述 の よ うに、爆発的 な勢 いで作 出 されてい る様 々な遺伝子操作 マ ウスや疾患モデルマ ウスの多 くの系統 には、成 熟齢 に達 し排卵障害や 妊孕 性 を失 う場 合があ り、系統 維持 と保 存そ して供給が損 なわれ る。今 回示 した卵巣内 に存在す る未成熟卵子 を体外成熟 して得 られ る効 率的な2細 胞期胚 の作製方法お よび冷蔵輸送 ・保 存 あるい はガ ラス化保存 にお けるそ の後 の個体供給体制 が可能であ るこ とは、今後 の系統維持方法 の改善お よびバイオ リソー ス化 が十 分 に期待で きる と思 われ る。
6.引 用 文 献
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