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平成 29 年度 漁場環境 生物多様性保全 総合対策委託事業 平成 29 年度赤潮 貧酸素水塊対策推進事業 瀬戸内海等での有害赤潮発生機構解明と予察 被害防止等技術開発 報告書 平成 30 年 3 月 瀬戸内海赤潮共同研究機関

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平成29年度

赤潮・貧酸素水塊対策推進事業

「瀬戸内海等での有害赤潮発生機構解明と

予察・被害防止等技術開発」

報告書

平成30年3月

瀬戸内海赤潮共同研究機関

平成29年度 漁場環境・生物多様性保全 総合対策委託事業

29

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目次

1.研究開発の概要 (1)目的 ...1 (2)目標設定の妥当性 ...1 (3)研究開発の実施体制 ...2 (4)研究開発の内容 ...3 2.研究開発結果 1)魚介類の斃死原因となる有害赤潮等分布拡大防止のための発生モニタリングと 発生シナリオの構築 ① 瀬戸内海東部海域 ...9 ② 瀬戸内海西部・豊後水道海域 ... 39 ③ 土佐湾海域 ... 98 ④ 伊勢湾・三河湾・英虞湾海域 ... 117 ⑤ 日本海西部海域 ... 157 2)カレニア等有害赤潮の高度モニタリング技術開発,発生機構解明,予察技術開発 および被害防止対策 ① カレニア属等有害赤潮鞭毛藻の簡易検出,同定・定量法の開発 ... 170 ② 光合成活性を指標としたカレニア等有害赤潮鞭毛藻の現場増殖活性評価手法の 開発 ... 181 ③ カレニア等有害鞭毛藻の生理・生態特性の把握による発生機構の解明 ア. カレニア等有害赤潮鞭毛藻の物理・化学的要因に対する増殖特性, 生活史応答の把握 ... 194 イ. 現場ミクロコズムを用いたカレニア等有害赤潮鞭毛藻の動態と環境条件 との関係の解明 ... 211 ④ カレニア等有害赤潮鞭毛藻による魚介類斃死機構の解明と斃死防止技術の開発 ア.カレニア等有害赤潮鞭毛藻による斃死原因の特定とアッセイ系の構築 ... 225 イ.有害赤潮鞭毛藻類の遊泳特性を利用した新規赤潮防除技術の開発 ... 236 ウ.ヘテロカプサ赤潮被害軽減に向けた底泥接種法現場適用の検討 ... 258 エ.ヘテロカプサ等有害赤潮の分布拡大機構の解明と防止技術開発 ... 266 ⑤ 現場珪藻類休眠期細胞の有効活用による有害赤潮防除対策 ... 272

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3)ノリ色落ち珪藻の発生モニタリング,発生機構解明,予察技術開発 ① 瀬戸内海東部海域におけるノリ色落ち原因珪藻の出現諸特性の解明と 発生予察 ... 282 ② ノリ色落ち原因珪藻の生物学的諸特性の解明 ア. ノリ色落ち原因珪藻類の物理・化学的要因に対する増殖特性,生活史応答 の把握 ... 322 イ. ノリ色落ち原因珪藻類による栄養塩摂取特性の把握と現場栄養塩環境の 予測技術開発 ... 336 4)栄養塩類等の水質環境が低次生産生物に及ぼす影響解明 ① 海域の栄養塩環境が低次生産に及ぼす影響解明 ア. 播磨灘における基礎生産簡易測定技術の開発 ... 343 イ. 大阪湾における基礎生産簡易測定技術の開発 ... 351 ウ. 広島県海域における基礎生産簡易測定技術の開発 ... 360 エ. 栄養塩環境が動・植物プランクトンに及ぼす影響解明 ... 377 ② 海域の栄養塩が二枚貝の生産に及ぼす影響調査 ア. 海域の栄養塩環境が二枚貝生産に及ぼす影響調査 ... 394 イ. 下水処理管理運転が二枚貝生産に及ぼす影響調査 ... 412 5)事業検討会および有害プランクトン同定研修会の開催 ... 429

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1 研究開発の概要

(1)目的 生物多様性は,生態系が提供する機能,いわゆる「生態系サービス」の基盤である。地球 温暖化などの気候変動,生息・生育場所の変化,侵略的外来生物,資源の過剰利用,汚染に よって生態系や生物多様性の状況が大きく変化することは,現在人類が享受している生態系 サービスの質及び量の変化を意味するとともに,これまで被ることのなかった影響の発生や 増大を示唆するものである。とりわけ水産業は,生態系サービスのうち供給サービスを利用 する産業であり,持続可能な漁業生産を維持するためには,生産の場である海域に健全な生 態系および生物多様性が維持されることが不可欠である。COP10 の結果を踏まえて策定され た「海洋生物多様性保全戦略」においても,海洋生態系の健全な構造と機能を支える生物多 様性を保全し,海洋の生態系サービスを持続可能な形で利用することが求められている。 近年,沿岸域の開発や長期の気候変動等に起因する有害赤潮や貧酸素水塊の発生は,海洋 生態系の単純化をもたらし,その不安定化の原因となるのみならず,本来,人類が享受する べき生態系の供給サービス低下の原因となっている。特に,養殖漁業の盛んな瀬戸内海およ びその周辺海域では,夏季のカレニア赤潮や冬季の珪藻赤潮により,養殖魚介類やノリ養殖 に甚大な被害が頻発しており,迅速,高感度かつ客観的な赤潮プランクトンのモニタリング 手法,漁業被害の防止対策および軽減技術の開発が強く求められている。一方,瀬戸内海を 中心に海域によっては貧栄養化したことによる水産資源への影響が指摘されており,赤潮に よる被害軽減とともに海域の生産力の向上を図るための研究・開発を推進していく必要があ る。 そこで本事業では, 瀬戸内海およびその周辺海域等を主要なフィールドとして,国立研究 開発法人水産研究・教育機構,府県,国立大学法人,公立大学法人から組織される研究機関 が,広域共同モニタリングや各種調査・研究を実施することにより有害赤潮による漁業被害 の防止と健全な海洋生態系の保全に資することを目的とする。 (2)目標設定の妥当性 現在,全地球規模で有害赤潮の発生頻度の増加,分布域の拡大,およびそれに伴う漁業被 害が深刻な問題となっている。瀬戸内海域も例外ではなく,赤潮発生件数は,栄養塩の排出 規制等の効果により高度経済成長期に比べ減少したものの,年間 100 件程度で推移し,赤潮 による年間の漁業被害件数も 10 件程度と減少には至っておらず,有害赤潮は依然として重要 な問題として認識されている。2000 年代以降,これまで赤潮の発生がほとんど無かった日本 海の広範囲に有害赤潮が発生し大きな被害をもたらしており,これまで無害とされてきた珪 藻赤潮による養殖ノリ色落ち被害も頻発するようになっている。気候変動に関する政府間パ ネル(IPCC)による第 5 次評価報告書にみられるように,今後,地球温暖化による海洋環境 への影響は必至であり,新たな赤潮原因生物の移入や潜伏種の顕在化,魚毒性の増大などが 大いに懸念される。一方で,1970 年代から実施されている排出規制は,近年,一部の海域で 窒素やリンなどの栄養不足である貧栄養化を招いており,ノリの色落ちや漁獲量低下といっ

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た水産資源への影響の可能性が指摘されている。平成 27 年 10 月に施行された改正瀬戸内海 環境保全特別措置法では,瀬戸内海における栄養塩類の減少,偏在等の実態の調査,それが 水産資源に与える影響に関する研究に努めるものとされている。栄養塩の減少によって,海 域の生産力は低下しているのか,生産力向上のためにはどのような方策が必要か,といった 観点からの調査・研究は,赤潮対策とともに,安心・安全な水産物の安定確保と健全な海洋 生態系の保全を図る上で極めて重要な課題である。 そこで本事業では,以降に示す調査・研究課題を設定し,瀬戸内海およびその周辺海域等 における有害赤潮等発生監視と発生機構の解明,有害赤潮モニタリング技術の高度化および 発生機構の解明・予察技術等の開発,ノリ色落ち原因珪藻の発生モニタリング・発生機構解 明・予察技術開発,および栄養塩類等の水質環境が低次生産生物に及ぼす影響解明に資する ことを目標としている。また,有害赤潮に対応するには,現場モニタリングを充実させ,正 確かつ迅速な同定・計数を行う必要があり,原因プランクトンに関する豊富な知識と経験, および高度な技術を有する人材の育成が要求される。そのため本事業では,都道府県担当者 等を対象に研修会を開催し,講義と実習を通して,有害・有毒プランクトンの採集・試料処 理・保存方法,種の同定法を習得させることにより,現場モニタリング技術の向上を図るこ とも目標としている。 本事業課題の目標は,課題の解決と新たな展開に向けた研究開発や未来を切り拓く基礎 的・基盤的研究を目指す農林水産省「農林水産研究の重点目標」や,水産資源の回復・管理 および積極的な増養殖の推進に関する研究開発や基盤となる基礎的・先導的研究開発および モニタリング等の推進を目指す水産庁「水産研究・技術開発戦略」等の施策方針に合致する ものである。 このように本事業では,上記の行政ニーズ,社会ニーズ等を踏まえるとともに,これまで の長年にわたる赤潮対策事業で得られた成果に新たな技術開発要素を取り入れた目標を設定 している。さらに,本事業における技術的課題は,研究分野が多岐にわたっているため,高 度で専門的な知見と技術が要求される。そこで本事業では,各分野で先進的な研究を展開し ている担当者が互いに連携しながら効率的に研究を推進する体制を構築してその実施にあた ることとしている。 以上のことから,本事業課題における目標の設定は妥当であると判断される。 (3)研究開発の実施体制 本事業課題を共同連帯して実施するため,国立研究開発法人水産研究・教育機構を代表機 関とする共同研究機関を設けた。構成員は,国立研究開発法人水産研究・教育機構,国立大 学法人広島大学,国立大学法人高知大学,国立大学法人北海道大学,国立大学法人愛媛大学, 国立大学法人埼玉大学,公立大学法人県立広島大学,徳島県立農林水産総合技術支援センタ ー,兵庫県立農林水産技術総合センター,岡山県農林水産総合センター,香川県赤水産試験 場(香川県赤潮研究所),地方独立行政法人大阪府立環境農林水産総合研究所,福岡県(福 岡県水産海洋技術センター豊前海研究所),山口県(山口県水産研究センター),大分県農

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林水産研究指導センター,宮崎県水産試験場,愛媛県農林水産研究所,広島県(広島県立総 合技術研究所水産海洋技術センター),高知県(高知県水産試験場),三重県(三重県水産 研究所),愛知県(愛知県水産試験場),鳥取県(鳥取県栽培漁業センター,鳥取県水産試 験場,鳥取県立とっとり賀露かにっこ館),島根県(島根県水産技術センター),佐賀県(佐 賀県有明水産振興センター)である。 (4)研究開発の内容 瀬戸内海およびその周辺海域において,広域共同モニタリング調査や各種研究開発を実施 することにより,有害赤潮等に対する監視体制の強化,有害赤潮発生シナリオの構築や原因プ ランクトンの生理・生態特性に基づく発生機構の解明と発生予察技術の開発,および被害防 止技術の開発を行うとともに,栄養塩類等の水質環境が低次生産生物に及ぼす影響解明を行 う。また,有害プランクトン同定研修会を開催して各研究課題から得られるモニタリング技 術などの成果を普及することにより,現場におけるモニタリング技術の高度化を目指した。 本事業課題は以下に示す課題構成で推進した。まず,5 つの大課題1)~5)を設定し, その下に中課題(①,②,③…),小課題(ア,イ,ウ…)を立てる構成とした。各課題の 具体的内容は以下の通りである。 1)魚介類の斃死原因となる有害赤潮等分布拡大防止のための発生モニタリングと発生シナ リオの構築 瀬戸内海およびその周辺海域において水産業に甚大な被害を及ぼす有害赤潮に対応するた め,現場調査および長期にわたって蓄積されてきたデータに基づき,当該海域の海洋環境お よびそこに出現する赤潮原因プランクトンの生物特性を総合的に解析することにより,赤潮 発生のシナリオを構築する。それに基づき,有害赤潮の発生機構を解明するとともに,赤潮 の発生予察や漁業被害軽減に資することを目指す。 ① 瀬戸内海東部海域 各機関が連携して大阪湾,播磨灘および備讃瀬戸を主海域とする瀬戸内海東部海域を対象 として,夏季(6〜9 月)に 20 点程度の観測定点において 6 回以上の調査を行い,水温・塩 分等の海況,プランクトン細胞数,クロロフィル,および栄養塩等の海洋モニタリングを実 施する。また,既存データ等を用いたデータ解析によって当該海域における有害赤潮発生シ ナリオを構築し,赤潮発生予察や漁業被害軽減に資する。 ② 瀬戸内海西部・豊後水道海域 各機関が連携して周防灘,豊後水道および広島湾を主海域とする瀬戸内海西部海域を対象 として,夏季(6〜9 月)に 40 点程度の観測定点において 4 回以上の調査を行い,水温・塩 分等の海況,プランクトン細胞数,クロロフィル,および栄養塩等の海洋モニタリングを実 施する。あわせて,有害赤潮プランクトンであるカレニアに対処するため,春・夏(4〜9 月)

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および冬季(12~2 月)に周防灘および豊後水道の 6 点程度の観測定点において 5 回以上の 調査を行い,分子生物学的手法も含めた高感度監視を実施する。また,既存データ等を用い たデータ解析によって当該海域における有害赤潮の発生シナリオを構築し,赤潮発生予察や 漁業被害軽減に資する。 ③ 土佐湾海域 土佐湾およびその周辺海域等を主な対象水域として,夏季(5〜11 月)を中心に 5 点程度 の観測定点において14 回以上の調査を行い,水温・塩分等の海況,プランクトン細胞数,ク ロロフィル,および栄養塩等の海洋モニタリングを実施する。また,既存データ等を用いた データ解析によって当該海域における有害赤潮の発生シナリオを構築し,赤潮発生予察や漁 業被害軽減に資する。 ④ 伊勢湾・三河湾・英虞湾海域 各機関が連携して伊勢湾,三河湾,英虞湾等を主な対象として,周年(契約月〜翌 3 月) に計25 点程度の観測定点において月 1 回以上の調査を行い,水温・塩分等の海況,プランク トン細胞数,クロロフィル,および栄養塩等の海洋モニタリングを実施する。また,ノリ色 落ち原因珪藻の出現諸特性の解明を目的として,同海域において冬季(10 月〜翌 3 月)に計 30 点程度の観測定点において月 1 回以上の調査を行い,周年調査と同様の観測項目について 海洋モニタリングを実施する。さらに,既存データ等を用いたデータ解析によって当該海域 における有害赤潮の発生シナリオを構築し,赤潮発生予察や漁業被害軽減に資する。 ⑤ 日本海西部海域 各機関が連携して日本海南西部を主な対象水域として,夏季(7〜9 月)を中心に 30 点程度 の観測定点において30 回以上の調査を行い,水温,塩分,透明度,水色等の海況およびプラ ンクトン細胞数等の海洋モニタリングを実施する。また,既存データ等を用いたデータ解析 によって当該海域における有害赤潮の発生シナリオを構築し,赤潮発生予察や漁業被害軽減 に資する。 2)カレニア等有害赤潮の高度モニタリング技術開発,発生機構解明,予察技術開発および 被害防止対策 平成24 年夏季に豊後水道において大規模な赤潮を引き起こし 13 億円に上る甚大な漁業被 害をもたらした赤潮渦鞭毛藻カレニアについて,モニタリング技術の開発,生理・生態特性 に基づく発生機構の解明および光合成等の生物活性に基づく予察技術の開発を目指すもので ある。また,漁業者から切望されている赤潮被害の防止対策として,カレニアによる魚類斃 死機構の解明とその防止対策およびカレニア等有害赤潮鞭毛藻の生態学的競合者である珪藻 類や,それらを溶藻させるウイルスなどの微生物を用いた環境に優しい赤潮防除策の開発を 目指す。

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カレニア属等有害赤潮鞭毛藻の簡易検出,同定・定量法の開発 カレニア属および近年,低密度で漁業被害をもたらすディクチオカ藻等の形態の変化が大 きく同定が困難な無殻渦鞭毛藻等を対象として,各種の分子生物学的手法による簡易検出, 同定法の開発を行う。LAMP 法については定量的検出を目指すとともに,NASBA 法を用いて 増殖活性を有する細胞の検出手法を検討する。現場調査によって,これらの手法を用いた越 冬細胞の検出を試み,その有効性を検証する。必要に応じて形態観察による種同定も実施す る。さらに,現場担当者への技術導入を図るため,分析用標準品の作製および分析マニュア ル作成を進める。 ② 光合成活性を指標としたカレニア等有害赤潮鞭毛藻の現場増殖活性評価手法の開発 カレニア等有害プランクトン現場個体群の増殖活性を評価するためパルス変調型蛍光光度 計(PAM)等を用いた光合成活性測定法の開発・実用化を目指す。 ③ ア. カレニア等有害赤潮鞭毛藻の物理・化学的要因に対する増殖特性,生活史応答の把握 カレニア等有害赤潮鞭毛藻類の基本的増殖特性,生残および生活環のシフトに及ぼす物 理・化学的環境条件の影響を明らかにすることにより,有害赤潮の発生機構を解明する。 ③ イ. 現場ミクロコズムを用いたカレニア等有害赤潮鞭毛藻の動態と環境条件との関係の 解明 現場ミクロコズム実験および光合成活性計測装置(Water-PAM)や細胞周期マーカー等を 用いた生理活性計測によって,カレニア等有害赤潮渦鞭毛藻の現場個体群の生残・増殖,他 生物群との共存・競合,捕食-被捕食関係とそれらに及ぼす諸環境条件との関係を定量的に明 らかにする。これにより,カレニア等有害赤潮鞭毛藻の赤潮発生機構を解明する。 ④ ア. カレニア等有害赤潮鞭毛藻による斃死原因の特定とアッセイ系の構築 カレニア等有害赤潮藻の魚毒性を安定的かつ高効率・高再現性で評価するため,魚類鰓由 来の培養細胞を用いたアッセイ系の開発を目指す。また,マグロ等,将来的な大型魚類の斃 死試験に供するため,様々な有害赤潮藻について大量培養法を検討する。 ④ イ. 有害赤潮鞭毛藻類の遊泳特性を利用した新規赤潮防除技術の開発 赤潮鞭毛藻類の遊泳を光照射によって分散・集積させることにより養殖魚との接触を軽減 して斃死を防止する技術,および中層に定位するカレニア等赤潮鞭毛藻を人為的に表層に上 げ,強光阻害等を誘導してそれらの増殖を抑制する技術の開発を検討する。 ④ ウ. ヘテロカプサ赤潮被害軽減に向けた底泥接種法現場適用の検討 ヘテロカプサ赤潮防除を目的とした殺藻微生物を含む底泥散布法の現場への適用に向け,

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現場環境中におけるヘテロカプサと殺藻微生物との関係を把握するとともに,現場メソコズ ムを用いた天然ヘテロカプサ赤潮に対する底泥接種試験によって殺藻微生物の効果や効率的 な散布法について検証を行う。 ④ エ. ヘテロカプサ等有害赤潮の分布拡大機構の解明と防止技術開発 マイクロサテライトマーカーによるヘテロカプサの集団遺伝学解析により,地域集 団間の遺伝的連結性を明らかにする。また,稚貝種苗中のヘテロカプサの検出および 生存を確認することにより,種苗の売買・移植による海域間の移送実態を把握する。 それらの結果から,人為的な要因による有害赤潮の海域間移送の有無・特定とその原 因を解明する。 ⑤ 現場珪藻類休眠期細胞の有効活用による有害赤潮防除対策 現場海底泥中に大量に存在する珪藻休眠期細胞を活用した赤潮防除法を開発するため,各 種実験条件下における休眠期細胞の発芽・復活の状況を明らかにする。また,赤潮鞭毛藻類 との混合試験により,鞭毛藻赤潮の発生を予防するために必要な水柱への添加条件を明らか にする。小規模な現場において実証試験を試み,発生した珪藻のその後の挙動を把握するこ とにより,本防除法の安全性の効果の評価を行う。 3)ノリ色落ち珪藻の発生モニタリング,発生機構解明,予察技術開発 冬季に発生して養殖ノリに色落ち被害を及ぼす珪藻類について,現場調査による出現諸特 性の解明と発生予察を目指している。また,鞭毛藻に比べて知見が乏しい珪藻類について, 分子生物学および植物プランクトン生理・生態学的なアプローチにより,その生物学的な諸 特性の究明と知見の集約を目指す。 ① 瀬戸内海東部海域におけるノリ色落ち原因珪藻の出現諸特性の解明と発生予察 瀬戸内海東部海域におけるノリ色落ち原因珪藻類の出現と環境要因との関係を明らかにす ることにより,発生予察技術の開発を目指す。大阪湾,播磨灘,備讃瀬戸および燧灘を主海 域とする瀬戸内海東部海域を対象として,冬季(11〜2 月)に 25 点程度の観測定点において 4 回以上の調査を行い,水温・塩分等の海況,プランクトン細胞数,クロロフィル,および 栄養塩等の海洋モニタリングを実施する。 ② ア. ノリ色落ち原因珪藻類の物理・化学的要因に対する増殖特性,生活史応答の把 握 室内実験および現場調査を実施し,原因珪藻類について,環境要因と関連付けて,増殖, 浮上・沈降,生活史などの生理生態学的特性を明らかにする。 ② イ. ノリ色落ち原因珪藻類による栄養塩摂取特性の把握と現場栄養塩環境の予測

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技術開発 ノリ色落ち原因珪藻類等ならびにその競合種である鞭毛藻類による栄養塩摂取に関わる特 性を明らかにし,それらの結果に基づき,珪藻類が出現した際の現場栄養塩環境を予測する 技術を開発する。 4)栄養塩類等の水質環境が低次生産生物に及ぼす影響解明 海域が貧栄養化したことによる水産資源への影響が指摘されている瀬戸内海において,栄 養塩等の海域の水質環境調査とともに動・植物プランクトンや二枚貝などの低次生産生物に 関する調査を行い,水質環境が海域の生産力に及ぼす影響を把握する。海域の生産力の向上 を図るために,栄養塩類等の水質環境が低次生産生物に及ぼす影響解明に向けた基礎調査を 実施するとともに,簡易に現場の基礎生産速度を測定する技術の開発を目指す。また,海域 の栄養塩環境や下水処理施設等の人為的影響が二枚貝生産に及ぼす影響を把握する。 ① ア.播磨灘における基礎生産簡易測定技術の開発 播磨灘において,栄養塩等の海域の水質環境および動・植物プランクトンに関する調査を 行う。また,栄養塩管理の影響をより正確かつ簡易に評価するために,基礎生産の簡易測定 手法を確立する。 ① イ.大阪湾における基礎生産簡易測定技術の開発 大阪湾において,栄養塩等の海域の水質環境および動・植物プランクトンに関する調査を 行う。また,栄養塩管理の影響をより正確かつ簡易に評価するために,基礎生産の簡易測定 手法を確立する。 ① ウ.広島県海域における基礎生産簡易測定技術の開発 広島県海域において,栄養塩等の海域の水質環境および動・植物プランクトンに関する調 査を行う。栄養塩管理による基礎生産性の向上と漁場環境の改善を念頭に,海底耕耘等の影 響評価も実施する。また,栄養塩管理の影響をより正確かつ簡易に評価するために,基礎生 産の簡易測定手法を確立する。 ① エ.栄養塩環境が動・植物プランクトンに及ぼす影響解明 東部瀬戸内海において,栄養塩添加が低次生産に及ぼす影響を明らかにする。また,動物 プランクトンの種組成やバイオマスに関する長期的な変化を明らかにする。 ② ア.海域の栄養塩環境が二枚貝生産に及ぼす影響調査 栄養塩濃度の異なる複数の二枚貝漁場において現場調査を行い,栄養塩等の海域の水質環 境と二枚貝生産との関係を明らかにする。

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イ.下水処理管理運転が二枚貝生産に及ぼす影響調査 室内実験および現場調査を実施し,下水処理場の栄養塩管理運転が二枚貝の生産や餌生物 に及ぼす影響を明らかにする。 5)事業検討会および有害プランクトン同定研修会の開催 瀬戸内海およびその周辺海域に関する海洋環境および有害赤潮プランクトン分野に精通し た有識者3 名(広島大学・山本民次教授,長崎大学・松岡數充名誉教授,香川大学・多田邦 尚教授)を検討委員とした共同機関内の結果および結果検討会を開催し,検討・議論を行う。 有識者からの指導・助言を調査・研究計画,成果の取りまとめおよび報告書に反映すること により,より良い調査・研究成果の発信を目指す。また,都道府県等において有害プランク トンおよびシストと,それらが発生する海域の環境調査に従事する職員等を対象に,有害プ ランクトン同定研修会を開催する。研修会では,有害・有毒プランクトンの発生動向,生理・ 生態,形態・分子分類,検索に関する講義,および有害・有毒プランクトンの採集法,試料 処理法,保存法,種の同定法の実習を行い,最新の知見および分類・同定技術を習得させる。 本事業等で開発した各種の同定技術の普及とPCR プライマー,DNA 標品などの配布を行う ことにより,現場における有害プランクトンのモニタリング技術の高度化を図る。 (水産研究・教育機構 瀬戸内海区水産研究所 鬼塚 剛)

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1) 魚介類の斃死原因となる有害赤潮等分布拡大防止のための発生モニタリングと発生シ

ナリオの構築

①瀬戸内海東部海域

香川県赤潮研究所 長谷川尋士,本田恵二 岡山県農林水産総合センター水産研究所 山下泰司,濱﨑正明 兵庫県立農林水産技術総合センター水産技術センター 宮原一隆,原田和弘 大阪府立環境農林水産総合研究所水産技術センター 秋山諭,山本圭吾,田中咲絵 徳島県立農林水産総合技術支援センター水産研究課 住友寿明,池脇義弘 1 全体計画 (1) 目的 近年,瀬戸内海東部海域では有害赤潮プランクトンによる漁業被害が生じている。赤潮 による漁業被害を未然防止および軽減するためには,赤潮発生海域を網羅した広域連携調 査を実施する必要がある。本課題では,瀬戸内海東部において,各機関が連携して広範な 調査を実施し,有害プランクトンの発生状況および海洋環境を監視するとともに,既存デ ータも含めたデータ解析によって当該海域における有害赤潮の発生シナリオを構築し,赤 潮発生予察や漁業被害軽減に資することを目的とする。 (2) 試験等の方法 有害赤潮が発生する 6 月から 8 月まで共同提案機関がそれぞれに有する海洋観測調査船 または傭船を用いて広域的な海洋調査を実施し,瀬戸内海東部海域における有害赤潮種の 出現特性を明らかにする。また,上記およびこれまでに取得した既存データ等に基づいて, 当該海域における有害赤潮発生と気象条件・海洋環境との関係を解析し,有害赤潮発生シ ナリオを構築する。 2 平成29 年度計画および結果 (1)目的 全体計画と同じ。 (2)試験等の方法 全体計画と同じ。 1)広域共同調査

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当該海域に計 24 点の調査定点を配置し(図 1),6 月から 8 月までに計 8 回以上,海洋 環境(水温,塩分,栄養塩等)およびプランクトン細胞密度等のモニタリング調査を実施 する(表 1,表 2)。 調査定点(24 定点,図 1) 岡山県 5 点(OY1,OY2,OY3,OY4,OY5) 兵庫県 6 点(H2,H28,H30,H31,Bz1,Bz2) 香川県 7 点(K1,K2,K3,K4,K5,K6,K7) 徳島県 3 点(T4,T1,St.4) 大阪府 3 点(OS1,OS2,OS3) アンダーラインは,珪藻の全数計数を行った定点を示す。 調査実施月日 岡山県 6/12,6/26,7/3,7/10,7/18,7/24,8/1,8/15 兵庫県 6/12,6/26,7/4,7/10,7/18,7/24,8/2,8/9 香川県 6/5,6/12,6/19,6/26,7/3,7/10,7/18,7/24,7/31,8/9,8/14,8/21 徳島県 6/12,6/19,6/26,7/3,7/10,7/20,7/24,7/31,8/9 大阪府 6/12,6/26,7/6,7/10,7/19,7/25,8/1,8/9 観測層および調査項目等 観測層および調査項目を表 1,2 に示した。水温および塩分は,多項目 CTD により 測定した。採水は,北原式採水器,バンドーン式採水器またはニスキン式採水器にて 行い,栄養塩,クロロフィル a,溶存酸素,プランクトン細胞密度の測定に供した。各 調査項目の測定および分析方法を表 2 に示した。プランクトンの細胞密度は,原則と して試水 1 mL を検鏡した。また,代表点の表層において全珪藻数の測定を行った。 気象データとして,気象庁気象統計情報(http://www.jma.go.jp/jma/menu/report.html) から姫路特別地域気象観測所(兵庫県姫路市)における気温,風速,降水量および日照 時間の観測値と平年値(昭和 56 年~平成 22 年)を解析に用いた。 2)既存データの解析と有害赤潮発生シナリオの構築 平成 28 年度までに,府県海域ごとに,統計解析により抽出した気象・海象データによ る有害赤潮発生シナリオを構築し,作成した統計モデルをロジスティック曲線にあては めることで,高い確率で的中する有害赤潮発生モデルを開発することができた。それら のモデルについて過去の環境データを用いた解析を行い,また過去の赤潮発生シナリオ (岡山県ほか 1990)で近年のデータを用いた解析を行うことで,それらを比較し,有害 赤潮発生シナリオの転換点を検討した。 (3)結果および考察 1)広域共同調査 ①気象

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日頃(平年: 7 月 21 日頃)に梅雨明けした。6 月上旬から中旬は,梅雨前線が日本の南 海上に停滞したため晴れた日が多かったが,同下旬から 7 月上旬に梅雨前線の影響で 雨の日が多くなった。7 月中旬から 8 月にかけては高気圧の影響等で晴れの日が多く なったが,大気が不安定となり大雨が観測された所もあった。また本年は,調査期間中 に近畿や四国地方に台風 3 号(7 月 4 日)と 5 号(8 月 7 日)が上陸し,特に 5 号の気 象,海象への影響が大きかった。 姫路特別地域気象観測所観測結果: 6~8 月の気温,日平均風速,降水量および日照時間の 旬平均値と旬平年値の推移を図 2~5 にそれぞれ示した。気温は,6 月下旬から 8 月下 旬までは概ね平年並みか平年より高めで推移し,平年を下回ることはほとんどなかっ た(図 2)。日平均風速は,特に台風の影響があった 8 月上旬に平年を上回ったが,そ の他の期間は概ね平年並みであった(図 3)。降水量は, 6 月上下旬,7 月上旬,8 月 上旬は梅雨前線や台風の影響もあり平年より多く,その他の期間は平年より少なく, 特に 6 月中旬,8 月下旬はほとんど降水が観測されなかった(図 4)。日照時間は,6 月 上中旬及び 7 月中旬は平年より多く,7 月下旬は平年より少なく,その他の期間は概ね 平年並みであった(図 5)。 ②海象 水温: 6 月上旬の表層水温は 19~20 ℃前後で,その後概ね徐々に上昇し,特に大阪湾で は 7 月上旬から中旬にかけ大きく上昇した。また 8 月上旬には降雨や台風通過の影響 と思われる表層水温の一時的な低下や水温成層の弱まりが見られた(図 6)。8 月中旬 から下旬は晴天により表層水温は上昇した。 塩分: 7 月上旬及び 8 月上旬に,台風通過に伴う河川水の流入の影響と思われる表層塩分 の大きな低下が播磨灘北部および大阪湾で見られた。播磨灘南部では,強い塩分低下 は観測されなかった(図 7)。 透明度: 播磨灘北部は約 3~9 m,播磨灘南部は約 8~16 m,大阪湾では約 3~7 m で推移 し,播磨灘南部で比較的高めに推移した(図 8)。 ③水質 栄養塩: 大阪湾を除き概ね低めで推移した。DIN については,岡山県,徳島県海域では表 層と底層の層間差は概ね小さく,その他の海域では比較的大きい傾向にあり,PO4-P と SiO2-Si についても徳島県海域で層間差が小さかった。また大阪湾では 6 月下旬~7 月 中旬と 8 月上旬,播磨灘北部では 7 月と 8 月の各上旬,各海域の表層で降雨に伴う河 川水の流入の影響と思われる DIN の上昇が見られた(図 9~11)。 クロロフィルa: 大阪府海域では 7 月中旬から下旬,兵庫県海域では 7 月上旬の表層を中 心に高い数値を示した。一方他の海域では期間を通じて低く推移し,特に播磨灘南部 では低めであった(図 12)。 DO: 期間を通じて表層は高く,底層は低く推移した。大阪湾の底層においては 7 月下旬 に 50 %を下回る期間があり,やや貧酸素な状態となったが,長期間継続することはな かった(図 13)。

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④有害赤潮種

Chattonella antiqua および C. marina: 6 月上旬に播磨灘南部香川県海域で 0.33 cells/mL の

密度で初認した。その後,播磨灘北部(兵庫県および岡山県海域)では 6 月下旬から増 加し始め,7 月中旬頃にピークに達し(最高細胞密度:378 cells/mL(7/10)兵庫県海域 H30 表層),一部の海域で赤潮状態となった。その後は減少し,7 月下旬にはほとんど 見られなくなった。一方,大阪湾と播磨灘南部では全般に出現量が少なめで,最高細胞 密度はそれぞれ 6 cells/mL(7/10 大阪府海域 OS3 表層)と 5.67 cells/mL(6/19 香川県 海域 K3 及び K6 水深 5m)で,その他の期間はごく低密度の出現であった(図 14,図 18)。調査定点外では,播磨灘北部(7/18 兵庫県海域 室津港地先 表層)で C. antiqua が最高 979 cells/mL,C. marina が最高 105 cells/mL を記録した。またその他の海域では

6 月下旬C. antiqua の 2 cells/mL(備讃瀬戸の香川県海域),C. marina の 19.3 cells/mL (燧灘の香川県海域)が最高であった。

Chattonella ovata: 6 月中旬に兵庫県,徳島県,香川県各海域で 0.02~0.67 cells/mL の密度

で初認した。その後 7 月上旬に岡山県および大阪府海域でも出現した(図 15,図 19)。 ただ調査期間中の最高細胞密度は 6 cells/mL(7/10 播磨灘北部兵庫県海域 H31 表層) で,調査定点外では大阪湾の大阪府海域の 16 cells/mL(7/10)が最高で,その他の海域 でもほとんど出現がなく,全般に 28 年度に比べるとかなり少なかった。 Karenia mikimotoi: 調査定点においては,7 月上旬に播磨灘北部で初認して以降,7 月下旬 から 8 月中旬に播磨灘南部でも散見されたが,期間を通じてかなり低密度で推移した (最高細胞密度 2cells/mL:8/14 香川県海域 K5 水深 0.5 m(図 16,図 20))。大阪湾で は出現せず,調査定点外やその他の海域でも期間を通じて出現しなかった。 Cochlodinium polykrikoides: 調査期間中,播磨灘北部及び南部において低密度に出現した (最高細胞密度 5 cells/mL:7/31 香川県海域 K4 水深 5 m)。調査定点外では,7 月下旬 に香川県海域の志度湾口で 8 cells/ mL 出現したが,高密度化することはなかった。 Heterocapsa circularisquama: 本年度は出現しなかった。 その他: Skeletonema 属や Chaetoceros 属等で構成された珪藻類が優占して出現した(図 17)。特に兵庫県沿岸部(6 月下旬~8 月上旬)および大阪湾(7 月中旬~7 月下旬)に おいて密度が高かった。 平成 29 年 6~8 月の東部瀬戸内海における赤潮発生状況を表 3 に示した。発生件数 は 3 件で,うち 2 件が有害種のChattonella 属(C. antiqua が主体)によるもので,播磨 灘北部(兵庫県および岡山県海域)での発生であった。この赤潮により,兵庫県海域で メバル,カサゴ等の天然魚介類がへい死し,また岡山県海域では定置網や建網漁業の 漁獲物等に漁業被害が発生した。いずれも被害金額は不明であった。 ⑤まとめ 平成 29 年度は,播磨灘南部及び大阪湾では調査期間を通じて Chattonella antiquaC.marinaC.ovata の出現量は少なめであったが,播磨灘北部(兵庫県および岡山県海 域)では 6 月下旬からC. antiqua および C.marina が増加し始め,特に C. antiqua を主

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cells/mL:3 種計,7/18 兵庫県室津港地先 前述)。 当時の気象状況として,6 月下旬と 7 月上旬に平年を上回るまとまった降水量があ り,7 月上旬には播磨灘北部の表層塩分が大きく低下した。この降水により河川水等を 通じて海域に栄養塩が供給され,その後播磨灘北部では概ね晴天が継続したが,6 月中 旬以降卓越していた珪藻類が 7 月上旬から中旬に減少したことや,海域によってはそ れ以前から珪藻類の出現が低調であったことからC. antiqua と C. marina の増殖が促さ れ,特に閉鎖性の強い内湾等で増殖量を大きくしたことが赤潮形成の一因と推測され た。 ただ,減少していた珪藻類の出現量が 7 月下旬にかけて増加に転じたため,赤潮の さらなる高密度化や長期化には至らなかったことが考えられた。 一方,7 月上旬以降播磨灘北部で南寄りの風が卓越していたことから,同海域で発生 した赤潮の播磨灘南部への流入の影響はほとんどなかったことが推測された。 なお平成 28 年度に播磨灘のほか備讃瀬戸や燧灘の広い範囲で高密度に発生した C. ovata については,本年度においては大きな増殖は見られず(西岡ほか 2017), Cochlodinium polykrikoides についても調査期間中の高密度化は確認されなかった。 2)既存データの解析と有害赤潮発生シナリオの構築 平成 28 年度までに,府県海域ごとに,1999~2014 年の気象・海象データから統計解析によ り抽出した要素による有害赤潮発生シナリオを構築し,作成した統計モデルをロジスティック 曲線にあてはめることで,高い確率で的中する有害赤潮発生モデルを開発することができた。 今年度は,それらのモデルを用いて 1999 年以前の環境データを対象に解析を行い,有害赤 潮発生シナリオの転換時期を検討した。判別式により判別可否の二段階で 16 年間の判別率を 求め,1 年ずつ遡っていくことで,判別率の推移を求めた。ただし,赤潮発生年/非発生年そ れぞれの過去データの各説明変数の分布形状は 1999~2014 年と変化しないと仮定し,判別方 法は 1999~2014 年と同じ線形判別/非線形判別で統一した。各府県海域における解析結果は 以下のとおり。 ①香川県海域 1.赤潮発生シナリオの見直し 昨年度までに作成した統計モデルの見直しを行い,Spearman の順位相関により,赤潮発生と 統計的に有意な関係のある環境要素を抽出した。5~7月の日照時間や降水量などの気象条件 と,水温や DO,栄養塩濃度などの海象条件の計 74 のデータについて解析を行ったところ,い ずれも 5 月の,降水量(r= 0.539(n=16,以下同じ),引田アメダス),塩分(r= 0.538,表層・ 10m・底上 1m の三層平均,浅海定線調査全定点平均),PO4-P 濃度(r= -0.661,表層,浅海定 線調査全定点平均)の 3 つの要素が抽出された(p< 0.05)。これらに加え,比較的弱いが相関の ある要素(p< 0.10)や,昨年度までに作成した赤潮発生シナリオを勘案すると,以下のような 香川県海域におけるシャットネラ赤潮発生シナリオが考えられる(図 21)。 ア)5 月上旬までに珪藻類が出現することで栄養塩類が消費されている状態で(5 月表層 DSi 濃 度:r= -0.434,p< 0.10),5 月中に多量の降雨がある。 イ)降雨に伴う陸水の流入により,海域の栄養塩濃度が上昇し,珪藻類が増殖する。これに伴

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い栄養塩類が消費され,栄養塩濃度が再び低下する。 ウ)栄養塩濃度の低下により珪藻類が減少した後,風の影響で海水の鉛直混合が促進され,シ ャットネラの増殖が活発になり表層付近で赤潮を形成し,これにより 7 月の表層クロロフィ ルa 濃度が高くなる(r= 0.469)。 2.判別分析の遡り解析 今回作成した判別式を用いて,1976~1991 年から 1998~2013 年までの環境観測データを使用 し,過去の赤潮発生への予察の適応を検討した。 一例として,判別式の作成段階で最も判別率の高かった 5 月の降水量と PO4-P 濃度の組み合 わせを用いた結果を図 22 に示した。過去のデータが揃っている 1982~1997 年まで 1 年ずつ遡 り解析を行った結果,徐々に判別率が低下し,1989~2004 年以前には統計的に有意と言えない 判別率 25~75%の範囲となった。このことから,本事業で開発した「1999~2014 年の気象・海 況条件を説明変数として用いたモデル」では,1990 年以前の赤潮発生予察には適さない可能性 が大きいと考えられた。 瀬戸内海東部海域を対象として 1990 年に作成された赤潮予察技術は,近年において当てはま らなくなっていることは,本事業でも報告されている(高木ほか 2014)。これらから,赤潮発生 は海洋環境とその変化により大きく左右される可能性が示唆された。今回作成したモデルにつ いても今後適合しなくなる可能性が考えられるため,今後も現場モニタリングを継続し,海況の 変化を把握したうえで予察モデルの最適化を行っていく必要がある。 3.予察技術の検証 今年度改めて作成した予察モデルについて,2015~2017 年の環境データをあてはめ,予察技 術の検証を行った。要素間の多重共線性と分布形状に留意し,それぞれの要素単変量 3 通りと, 降水量と PO4-P 濃度,塩分濃度と PO4-P 濃度の 2 通りの組合せの計 5 通りについて,赤潮発生/ 非発生の線形判別分析を行った。また同時に,それぞれの判別得点を求めた。その結果,降水量 と PO4-P 濃度の組合せで 100%判別が成功した。また,降水量のみで 87.5%,塩分のみと,塩分 と PO4-P の組合せで 81.3%,PO4-P 濃度のみで 75%の判別率となった。 加えて,判別得点を用いてロジスティック回帰式を作成し,発生確率が 80%より大きい場合 を「○」,20~80%を「△」,20%未満を「×」と設定し,2015~2017 年のデータがどの範囲に 含まれるのかを検討した。偏回帰係数が収束せずロジスティック関数を求めることができなか った場合には,判別分析の結果から「○」,「×」の 2 群のみを設定した(表 5)。解析結果の例 として,塩分濃度と PO4-P 濃度の組み合わせによる結果を図 23 に示す。3 ヵ年ともに「×」と 判別され,2015,1017 年については的中したが,2016 年については予察が外れた。2016 年に シャットネラ赤潮が発生したが,それについてはシャットネラの栄養細胞の動向から備讃瀬戸 方面から高密度化した状態で流入したことにより発生したものと考えられ,従来の発生パター ンとは全く異なっていたため予察が外れたものと考えられる。その他の組み合わせによる予察 についても同様の結果となっており,今後はさらなる気象・海象要因を検討し,より実用的な 予察技術の開発を行う必要が考えられる。

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1.判別分析の遡り解析 岡山県海域における判別解析において,精度が最も良かった OY2 の 5 月表層塩分,同水温, 6 月降水量(姫路,気象庁データ)による予測モデルを遡り解析に用いた。判別率は判別期間 1988~2003 年の間が最も高く,それ以前に遡るにつれて低下したことから(図 24),過去に多 発(1976~1984 年の 9 年間中 6 年で発生)していた赤潮の判別には当てはまらず,発生機構に おける海況の変化を示唆するものと考えられた。一方,近年にかけても判別率の低下がみられ たことから,今なお海況が変化している可能性とモニタリングの継続による判別式の精度確認 が必要と考えられた。 2.予察技術および赤潮発生シナリオの検証 今年度,岡山県海域(播磨灘)でシャットネラ赤潮が発生したことから,前年度に作成した予 察技術と赤潮発生シナリオについて検証した。 予察結果の一覧を表 5,代表的な予察例として 5 月表層塩分,同水温,6 月降水量(姫路,気 象庁データ)を用いた結果を図 25 に示した。これによる 2017 年の予察は発生確率が 10~90% の「△」となり,中間的な予察結果となった。使用したデータがいずれも平年並みの値であった ことから明確な予察が困難であったと考えられた。 岡山県海域の赤潮発生シナリオ(図 26)では,6 月に降雨量が少ないと DIN の供給不足によ り珪藻の増殖が抑制されシャットネラ赤潮が発生するとした。今年度,6 月 21 日から 7 月 5 日 にかけてまとまった降雨があった(DIN が供給されたと考えられる)が(図 27),珪藻の増殖は 一時的で,その後,シャットネラ赤潮が発生した(図 28)。降雨と珪藻との関係はシナリオが合 致しなかった部分であり,珪藻の増殖要因が課題として残った。シャットネラは,栄養塩を巡る 競争者として圧倒的な強者である珪藻類の不在時に鉛直混合による栄養塩環境の好転によって 赤潮化するとされており(今井 2017),珪藻との競合関係は重要である。その増殖要因に加えて, 風による鉛直混合の影響なども解析した上で,より詳細なシナリオを検討する必要があると考 えられた。 ③兵庫県海域 1.判別分析の遡り解析 平成 28 年度までに実施した 1999~2014 年までの環境条件データセットを用いた解析では, 兵庫県海域における判別解析において,播磨灘 H2 の 5 月表層水温,同底層水温,7 月の珪藻密 度を説明変数として用いた場合に予測的中率が高かった。さらに,珪藻類密度の異常年(= 2012 年:観測直前の気象擾乱のために珪藻類密度が極めて低く観測されたが,前後する調査で は高密度出現が観測されていた年,宮原ほか 2015)を除去すると,判別可否(○×)の二段階 評価による的中率は 100%となり,過去の解析で最も予察確度の高い組み合わせであった。そ こで,1976~1998 年以前の同様の海況条件を用いて,遡って予測モデルをあてはめてみた。 図 29 のとおり,時期を遡るほど判別率が低くなり,特に 1990 年代以前においては二項分布 のp= 0.5 での信頼区間である 25~75%の範囲に含まれる結果となった。本事業で開発した 「1999~2014 年の海況条件を説明変数として用いたモデル」では,1999 年以前,特に 1990 年 代以前の赤潮発生予察には適さない可能性が大きいと考えられた。

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本海域で 1980~1990 年代に開発された赤潮予察技術が,近年においては当てはまらなくなっ ていることは,本事業の解析結果として報告されている(高木ほか 2014)。赤潮の発生は海域 特性に依存するとともに,環境条件の年代別変化やトレンドにも大きく依存することから,今 回開発した赤潮予察の統計モデルについても,今後のレジームや海況条件の変化によって,判 別可能性が大きく変化する恐れがある。今後も,赤潮発生に関わる海洋環境モニタリングを継 続実施し,海況の年代的な変化を適切に把握したうえで,予測モデルのチューニングや改良を 進めることが重要である。 2.予察技術の検証 昨年度,播磨灘北部の観測データの月別相関関係を基礎とし,予測手法のより早期の適用,ま た,段階的な情報(短期的な予測に加えて 1 カ月前程度の中期的な予測)の提供による予察技術 の高度化を目指し,7 月に獲得される観測変量(沖合いの H2 地点における珪藻密度を使用)の 代わりに 6 月に獲得される観測変量(=早期予察:沿岸の H28 地点の珪藻密度)を用いた判別 分析(線形判別分析)を試みた。その結果,予測精度とのトレードオフ(100%→81.3%)とはな ったが,予測実現時期の約 1 か月の早期化が可能と考えられた。以降,7 月段階での予察を直前 予察,6 月段階での予察を早期予察とする。 今年度は,過去の解析で最も予察確度の高かったデータセット(1999~2014 年)を用いて, 2015 年(発生:予察的中),2016 年(非発生:予察的中)に引き続き,2017 年の赤潮発生予察を 試みた。用いた予察モデルは,早期予察および直前予察とした。 判別解析の結果を図 30 に示した。2017 年は,早期予察,直前予察とも非発生であることが見 込まれたが,結果として本海域で小規模なシャットネラ赤潮が発生し,予察非的中となった。判 別が失敗した原因については,本年夏季における珪藻類の出現が局地的であり,定点や海域によ ってばらつきがあったことや珪藻密度が急減する海域や時期があったこと,シャットネラ赤潮 の初期段階が珪藻との混合赤潮状態であったこと等が考えられた。統計モデルである以上,説明 変数の設定分布範囲や仮定から外れたケースでは,一定の確率で予察が的中しないことは想定 される。今後は,単独定点での珪藻出現状況ではなく,ある程度広い海域の出現状況を網羅する 説明変数を探し出す必要があろう。 ④大阪府海域 1.判別分析の遡り解析 平成 28 年度までに実施した 1999~2014 年までの環境条件データを用いた解析では,7 月上旬 10m 層水温,大阪管区気象台観測による 5~6 月合計降水量,同 6 月下旬~7 月上旬合計日照時間 のうち 2 変量を組み合わせて説明変数として用いた場合に判別率が高かった。そこで,同様にこ れらのうちから 2 変量を選択し,1972~1987 年から 1998~2013 年のデータを用いて遡り解析を実 施した。 結果の一例として,7 月上旬 10m 層水温と 6 月下旬~7 月上旬合計日照時間を用いた解析結果 を図 31 に示した。時期を遡るほど判別率が低くなり,特に 1980 年代後半以前において急激に低 下し,二項分布のp= 0.5 での信頼区間である 25~75%の範囲に含まれる結果となった。本事業 で開発した「1999~2014 年の気象・海況条件を説明変数として用いたモデル」では,1999 年以

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通りの説明変数の組み合わせによる解析でも同様の結果となり,1980 年代後半以前に判別率が 急低下した。1970 年代後半から頻発していたシャットネラ赤潮の発生は,1980 年代後半を境に 頻度が低下しており(表 4),このころに発生フェーズから非発生フェーズに転換しているよう に見える。今回開発した赤潮予察の統計モデルについては,近年の非発生フェーズに適応してい る可能性がある。 赤潮発生は海域特性に依存するとともに,環境条件の年代別変化やトレンドにも大きく依存 することから,本事業で開発した赤潮予察の統計モデルについても,今後判別率が大きく変化す る可能性が高い。今後も,赤潮発生に関わる海洋環境モニタリングを継続し,海況の年代的な変 化を適切に把握したうえで,予測モデルの更新方法や更新頻度を検討する必要がある。 2.予察技術の検証 前年度までの判別分析に用いた 7 月上旬 10m 層水温,5~6 月合計降水量,6 月下旬~7 月上旬 合計日照時間のうち 2 変量を組み合わせて判別解析に使用し,これに 2017 年のデータをあては め予察技術の検証をおこなった。5~6 月合計降水量と 6 月下旬~7 月上旬合計日照時間の組み合 わせの場合のみ非発生「×」であると予測され,それ以外の 2 通りでは発生確率 5~95%の「△」 であると予測された。2017 年夏季にはシャットネラ赤潮は発生せず,概ね的中となった(表 5, 図 32)。 大阪府海域の赤潮発生シナリオ(図 33)では,5~6 月に降水量が多いと陸水由来の栄養塩が 供給され,6~7 月の高水温により植物プランクトンの増殖ポテンシャルが高くなると考えられる。 6 月下旬から 7 月上旬にかけて日照時間が長く,穏やかな気象の日が連続すると,珪藻類の増殖 により栄養塩が消費される。連続的に栄養塩が供給される湾奥部以外では,表層における栄養塩 濃度の低下により,珪藻類が減少する。表層において栄養塩競合種である珪藻類が減少したこと でシャットネラが増殖し赤潮化する,としている。2017 年夏季の気象・海況条件では,7 月の水 温は高めであったものの,5~6 月に降水量が比較的少なく,6 月下旬から 7 月上旬にかけて日照 時間が比較的短かったこと,また 7 月は大阪湾の広い範囲で珪藻類による赤潮が発生していた ことから,シャットネラの増殖に至らなかったものと考えられる。 シャットネラ赤潮には,競合種である珪藻類の在不在が大きく寄与するとされる(今井 2017) が,大阪府海域での発生シナリオでは,珪藻の影響は推定にとどまり,変数としては採用してい ない。珪藻類の寄与は不可欠であり,時空間的に珪藻類の消長を予察できれば,より有効な予察 技術の開発へつながると考えられる。 ⑤徳島県海域 1.判別分析の遡り解析 遡り解析の結果を図 34 に示した。遡り解析に用いた環境条件のうち,降水量は遡った 16 年間 すべての値が得られたが,他の要素は 16 年間の連続したデータが得られず,遡り解析が途中ま でとなった。しかしながら,1989~1995 年頃を境として判別率が大きく低下していることが示 唆され,これ以前は今回開発した予察技術が適合しないと考えられる。これらの結果,1990 年 前後に気候や海洋環境等が大きく変化し,今回開発した予察技術が適合するようになった可能 性が示唆された。しかしながら,気候や海洋環境等の変化によって今回開発した予察技術の精度 が低下する可能性も考えられる。今後も,モニタリングを継続することで海洋環境の変化をいち

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早く察知し,予察技術の改良や再構築を検討する必要がある。 2.予察技術の検証 前年度までの判別分析に用いた 1999~2014 年の環境条件(水温(6 月,定点 St.4,1 m 層), DIN(6 月,定点 St.4,10 m 層),珪藻細胞数(7 月上旬,定点 St.4,0~5 m 層),降水量(5 月,徳島)),計 4 要素のデータを解析に使用し,これに 2017 年のデータをあてはめ予察技術の 検証をおこなった。解析方法については,まず,各要素の分布形状や等分散に考慮し,「線形判 別分析」もしくは「マハラノビス距離による判別分析」をおこない,判別得点を求めた。その 後,判別得点を用いてロジスティック回帰式を作成し,発生確率が 90%より大きい場合を 「○」,10~90%を「△」,10%未満を「×」と設定し,2017 年のデータがどの範囲に含まれる のかを検討した。なお,偏回帰係数が収束せず,ロジスティック関数を求めることができなか った場合には,判別分析の結果から「○」,「×」の 2 群のみを設定した。代表的な解析例とし て,水温と DIN を用いた解析結果を図 35 に,その他の組み合わせによる解析結果を含めた一 覧を表 5 に示した。これらによる 2017 年の予察はいずれも「×」に含まれ予察が的中した。 2017 年は,5 月の降水量が非常に少なく,夏季における徳島県海域の DIN も非常に少なかった 為,シャットネラが増殖しづらい環境だったと考えられる。なお,シャットネラ赤潮発生シナ リオの模式図と予察の流れを図 36 に示した。6 月上旬には,5 月の降水量をもとにした早期予 察による早めの注意喚起が可能となる。7 月には直前予察が可能となり,早期予察と併せて総 合的にシャットネラ赤潮発生の有無を判断できる。今後,シャットネラ赤潮発生の有無と併せ て発生時期の予察が可能となれば,より効果的な予察技術となる。 3 5 ヵ年のまとめ 平成 25 年度からの 5 ヵ年で,有害プランクトンの発生状況の監視も含めた現場海域のモニ タリングを実施し,それにより得られたデータや既存の環境データの解析により,シャット ネラ赤潮の発生シナリオを構築した。また,それにより赤潮の発生予察を行う統計モデルを 作成した。 1.広域共同調査 当該海域に計 24 点の調査定点を配置し,6 月から 8 月までの期間で 5 ヵ年にわたり,延べ 226 回のモニタリング調査を実施した。期間中に延べ 57 件の有害赤潮の発生を確認し,臨時 調査等の対策を講じた。これらによって得られたデータは,遅くとも翌日には漁業者に提供 し,また関係機関の間で共有することにより,魚類養殖の適切な管理に役立てられた。 2.シャットネラ赤潮発生シナリオの構築と発生予察技術の開発 過去に作成された予察技術(岡山県ほか 1990)による近年の赤潮発生の予察的中率は低か った。また,後述する方法により,近年の赤潮発生判別に適した統計モデルを用いて過去の 赤潮発生/非発生の判別を行ったところ,府県によりばらつきはあるものの 1980 年代中盤か ら 1990 年代序盤にかけて判別率が低下した。これらから,海況の変化により瀬戸内海東部海 域における赤潮の発生シナリオは過去から変化しており,予察技術の再検討を行う必要性が

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が見られたものの,東部海域全域に及ぶような赤潮は発生していなかった。このことから, 赤潮発生シナリオの構築と発生予察技術の開発については地先海域ごとに行うことが適当で あると考えられた。1999 年から 2014 年の環境データセットを作成し,それから赤潮発生と 関係のある環境要素を抽出し,新たに府県海域ごとにシャットネラ赤潮の発生シナリオを構 築した。また,それらの環境要素により,赤潮発生予察技術の開発を行った(図 37)。 ①シャットネラ赤潮発生シナリオの構築 まず,シャットネラ赤潮の発生シナリオを構築するにあたり,そのシナリオを構成する環 境要素の抽出を行った。海域ごとにシャットネラ赤潮の赤潮発生/非発生基準を定め,類型化 を行った。つづいて,赤潮発生以前に入手でき,継続的な観測が期待でき,さらに海域を代 表し得るデータであることを前提に,気象・海象要素のデータセットを整備した。データセ ットの中から,赤潮発生/非発生の類型との間に統計的に有意な相関がある環境要素を抽出し た。抽出した要素を中心に,その他の環境要素も勘案しながらシャットネラ赤潮の発生シナ リオを構築した。構築したシナリオは図案化を行った。 構築したシナリオは府県ごとに異なるものであったが,隣接する府県では同様の環境要素 が抽出された。例えば,岡山県と兵庫県では 5 月の表層水温,徳島県と香川県では 5 月の降 水量が共通しており,実際の赤潮発生状況と同様に,隣接する海域では発生シナリオの類似 性が見られた。また,全ての府県が作成したシナリオで珪藻類の消長がシャットネラ赤潮の 発生に及ぼす影響について触れられており,シャットネラが高密度化する過程で関係がある ものと考えられた。 ②シャットネラ赤潮発生予察技術の開発 ①で抽出した環境要素について,単変量および多変量による判別分析を行った。多変量に よる分析は,要素間の多重共線性に注意して組合せを決定した。分析の方法は,要素の分布 形状や分散共分散行列の等質性に注意し,線形判別分析又は非線形判別分析(マハラノビス 距離による判別分析)を用いた。 分析の結果,各府県で高い水準の判別率を持つ統計モデルを作成することができた。しか しながら,判別閾値近傍に位置するデータも多く,判別率への影響が懸念されたため,中間 的な評価を設けることとした。得られた統計モデルから判別得点を求め,これをもとにロジ スティック回帰式を作成し,予察の的中率の範囲を任意に定め,○,△,×の三段階の評価 を作成した。これにより,赤潮発生年が赤潮非発生と判別される件数が減少し,的中率向上 に一定の効果が得られた。これらにより,一定の精度で赤潮発生予察の的中が期待できる統 計モデルを開発した。しかしながら,予察技術としては未だ開発段階であり,中間的な評価 の基準の検討や,早期予察を目指すさらなる先行指標の探索など,改良の余地がある。 加えて,一部の海域では,予察に用いる環境要因の獲得時期(観測時期)別に段階的な予 察に取り組むことが可能となった。早期予察+直前予察等のステップを経て,毎年の赤潮発 生を総合的に判断することが可能となり,今後の予察精度の向上が期待される。 3.まとめ 以上のように,モニタリングにより得たデータをもとに,赤潮発生シナリオと赤潮発生予

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察技術の開発を行った。検討を行う中で,海洋環境の変化により赤潮発生シナリオも変化す ることが示唆された。今回開発した予察技術が今後適合しなくなる可能性が考えられるため, 統計モデルの更新方法やその頻度などの検討を行っていく必要がある。また,現在の予察技 術では赤潮発生の長期的な予察は可能だが短期的な予察は難しく,有害赤潮への対策や被害 の軽減のためには,現場モニタリングによるプランクトンの動向の監視は重要である。今後 も,現場モニタリングによりデータを収集し,赤潮対策や予察技術の改善に努めていく必要 がある。 引用文献 今井一郎.有害有毒プランクトンの発生機構と発生防除に関する研究.日本水産学会誌 83, 314-324, 2017. 宮原一隆, 原田和弘, 山本圭吾, 中嶋昌紀, 秋山諭, 池脇義弘, 西岡智哉, 大山憲一, 本田恵 二, 高木秀蔵, 渡辺新.平成 26 年度漁場環境・生物多様性保全総合対策委託事業赤潮・ 貧酸素水塊漁業被害防止対策事業報告書「瀬戸内海等での有害赤潮発生機構解明と予 察・被害防止等技術開発」報告書.瀬戸内海赤潮共同研究機関, 2015, 8-27. 西岡智哉, 池脇義弘, 長谷川尋士, 本田恵二, 山下泰司, 濱﨑正明, 宮原一隆, 原田和弘,秋 山諭, 山本圭吾,田中咲絵.平成 28 年度漁場環境・生物多様性保全総合対策委託事業 赤潮・貧酸素水塊漁業被害防止対策事業「瀬戸内海等での有害赤潮発生機構解明と予 察・被害防止等技術開発」報告書.瀬戸内海赤潮共同研究機関, 2017, 9-36. 岡山県, 兵庫県, 大阪府, 和歌山県, 徳島県, 香川県, 新日本気象海洋株式会社, 株式会社富 士総合研究所.東部瀬戸内シャットネラ赤潮広域共同調査報告書.水産庁, 1990, 130-156. 高木秀蔵, 石黒貴裕, 宮原一隆, 原田和弘, 山本圭吾, 秋山諭, 斎浦耕二, 西岡智哉, 吉松定 昭, 大山憲一.平成 25 年度漁場環境・生物多様性保全総合対策委託事業赤潮・貧酸素水 塊漁業被害防止対策事業報告書「瀬戸内海等での有害赤潮発生機構解明と予察・被害防 止等技術開発」報告書.瀬戸内海赤潮共同研究機関, 2014, 9-22.

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表 1 観測層および調査項目 *: プランクトンは原則として試水 1mL 中の有害赤潮種の細胞数を計測する。 兵庫県: 水深 10m 前後の 3 定点(H28,H30,H31)は 3 層(0,5,B-1m )で観測。 岡山県: 水深 10m 前後の 4 定点(OY1~4)は 3 層(0,5,B-1m )で観測。 水深 20m 前後の 1 定点(OY5)は 3 層(0,10,B-1m )で観測。 府県名 兵庫県 岡山県 徳島県 香川県 大阪府 観測層 0.5, 5 or 10, B-1m 0.5, 5 or 10, B-1m 1, 5, 10, B-1m 0.5, 5, 10, B-1m 0.5, 5, 10, B-1m 調査定点数 6 5 3 7 3 調査回数 8 8 9 12 9 ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ Chattonella antiqua, C. marina, C. ovata ○ ○ ○ ○ ○ Karenia mikimotoi ○ ○ ○ ○ ○ Cochlodinium polykrikoides ○ ○ ○ ○ ○ Heterocapsa circularisquama ○ ○ ○ ○ ○ プ ラ ン ク ト ン * 調   査   項   目 水温 塩分 透明度 NH4-N クロロフィルa DO NO2-N NO3-N DIN PO4-P SiO2-Si

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表 2 測定・分析方法一覧 *: 多項目 CTD の蛍光値をアセトン抽出吸光法で補正。 表 3 平成 29 年 6~8 月に調査機関が確認した赤潮発生状況(珪藻のみによる赤潮は除く) 府県名 兵庫県 岡山県 徳島県 香川県 大阪府 水温・塩分 多項目CTD ○ ○ ○ ○ ○ 透明度 透明度板 ○ ○ ○ ○ ○ NH4-N インドフェノール青吸光光度法 ○ ○ ○ ○ ○ NO2-N ナフチルエチレンジアミン吸光光度法 ○ ○ ○ ○ ○ NO3-N 銅カドミウムカラム還元 ナフチルエチレンジアミン吸光光度法 ○ ○ ○ ○ ○ PO4-P モリブデン青(アスコルビン酸還元) 吸光光度法 ○ ○ ○ ○ ○ SiO2-Si モリブデン青(アスコルビン酸還元) 吸光光度法 ○ ○ ○ ○ ○ アセトン抽出蛍光法 ○ ○ 多項目CTD ○* ○ ○* DO 多項目CTD ○ ○ ○ ○ ○ クロロフィルa 番号 発生時期 発生海域 構成種名 府県名 発生状況および発達状況 (cells/mL)最高細胞数 漁業被害 1 7/7~7/25 播磨灘北部沿岸 域(相生湾~姫 路市地先) Skeletonema spp. Chaetoceros spp. Chattonella antiqua Chattonella marina Chattonella ovata 兵庫県 海域内の一部でパッチ状に着色。 小型珪藻類とシャットネラの混合赤 潮(ただし、小型珪藻類がやや衰退 した期間中にシャットネラが増殖) Skeletonema spp. 43,000 Chaetoceros spp. 9,000 Chattonella antiqua 979 Chattonella marina 105 Chattonella ovata 14 有 (天然魚のへ い死) 2 7/10~7/24 播磨灘北部 備前市及び瀬戸 内市地先 Chattonella antiqua Chattonella marina 岡山県 鹿久居島南東海域で確認された 後、片上湾奥や日生港内で観測さ れた。高密度海域では着色が確認 された。 Chattonella antiqua 515 Chattonella marina 41 有 (定置網,建網 の漁獲物等の へい死) 3 7/31~8/1 播磨灘南西部 Mesodinium rubrum 香川県 志度湾口の北側の潮目にオレンジ色の着色域あり 18,000 無

表 1  観測層および調査項目  *:  プランクトンは原則として試水 1mL 中の有害赤潮種の細胞数を計測する。  兵庫県:  水深 10m 前後の 3 定点(H28,H30,H31)は 3 層(0,5,B-1m  )で観測。  岡山県:  水深 10m 前後の 4 定点(OY1~4)は 3 層(0,5,B-1m  )で観測。  水深 20m 前後の 1 定点(OY5)は 3 層(0,10,B-1m  )で観測。府県名兵庫県岡山県徳島県香川県 大阪府観測層0.5, 5 or 10, B-1m0.5, 5
表 2  測定・分析方法一覧  *:  多項目 CTD の蛍光値をアセトン抽出吸光法で補正。  表 3  平成 29 年 6~8 月に調査機関が確認した赤潮発生状況(珪藻のみによる赤潮は除く)     府県名兵庫県岡山県徳島県香川県大阪府水温・塩分多項目CTD○○○○○透明度透明度板○○○○○NH4-Nインドフェノール青吸光光度法○○○○○NO2-Nナフチルエチレンジアミン吸光光度法○○○○○NO3-N銅カドミウムカラム還元ナフチルエチレンジアミン吸光光度法○○○○○PO4-Pモリブデン青(アス
図 1  調査定点位置    ■:  兵庫県実施定点    ●:  岡山県実施定点    ▲:  香川県実施定点  ◆:  徳島県実施定点    □:  大阪府実施定点 図 2  気温の旬平均値の変動  (気象庁気象統計情報から引用)       図 3  日平均風速の旬平均値の変動  (気象庁気象統計情報から引用)    図 4  降水量の旬平均値の変動  (気象庁気象統計情報から引用)     図 5  日照時間の旬平均値の変動 (気象庁気象統計情報から引用) T4T1St.4OS3OS2OS1K4K5
図 8  透明度の変動  図 9  DIN の変動 024681012146/56/126/196/267/37/107/177/247/318/78/148/21透明度(m)岡山県(5定点平均)0246810121416186/56/126/196/267/37/107/177/247/318/78/148/21透明度(m)香川県(7定点平均)024681012146/56/126/196/267/37/107/177/247/318/78/148/21透明度(m)大阪府(3定点平均)0246810121
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参照

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