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長   谷   川

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(1)

貨幣価値の変動と実現概念の展開

  目   次

問題の所在

伝統的実現概念

貨幣価値の変動と実現概念の展開

むすびにかえて

長 谷 川

貨幣価値の変動と実現概念の展開

一 問題の所在

 そもそも会計なるものは︑社会からの一定の要請に基づき︑これを満足させるが故をもって︑その社会的存在を容

認されているものである︒したがって︑その理論構築にあたっても︑会計のかかる手段的性格から︑一定の社会的要

請の最も合理的な満足を志向して︑それが行なわれているはずである︒

 ところで︑今日︑社会から会計に対して向けられている要請にはいろいろあろう︒が︑会計理論の構築にあたって

は︑そのなかでも特に︑投資家達からの要請が最も主要なものとして一般に捕捉されている︒投資家は︑まず第一に

は︑企業に投下したその資金について︑企業の維持運用の状況および運用の成果たる利潤からの分配分に関する情報

を入手するために︑そして第二には︑投資に関する意思決定︑つまり現在所有している株式を売却して投下資金の飼 皿

(2)

収を計るべきか否か︑それともさらに係有しつづけるべきか否か︑あるいはまた︑さらに買い増して資金を投下すべ 42      紛        1きか否か︑かような点についての意思決定に必要な情報を入手するために︑会計を要請しているのである︒かかる投

資家からの要請をも含めて︑会計に対する社会からの要請を︑会計の側からみたとき︑一般にこれを会計目的と呼ぶ

が︑ここでは仮りに︑父老の理由による要請を受託責任目的︑後者のそれを意思決定目的と呼ぶことにしよう︒

 会計は︑主としてかような二つの目的に少なくともなんらかの形で応えてきたが故に︑これまでその社会的存在を

容認されてきたわけであるが︑これまでの会計においては︑社会的経済的環境が許容していたので︑かかる二つの目

的のうち︑制度的にその実施を強制されている前者の受託責任目的のための会計が︑後老の意思決定目的のためにも

充分な有用性をもっており︑いかなる形にせよ︑これら二つの目的を厳密に区別して会計を行なう必要性はほとんど

なかったのである︒このため︑これまでの会計理論の体系も︑必然的に︑両目的を明確に認識することなく︑単に受

託責任目的のみの最も合理的な遂行を可能ならしめるような理論体系として構築されてきたわけである︒

 しかるに︑最近極みに顕著になってきているクリーピング・インフレーションと呼ばれる︑里民価格の恒常的騰貴

を伴う貨幣価値の非回帰的・傾斜的下落という事実に直面し︑これまでの受託責任目的会計の理論体系それ自体のな

かに種々の不備欠陥が露呈するに従って︑当然のことながら︑かかる会計理論の体系をもってしては︑いま一つの会

計に対する重要な要請である意思決定目的にも︑もはや充分に応えられなくなってきたのである︒そこで︑最近︑こ

れまでの会計理論の体系に︑受託責任目的の視角からはもちろんのこと︑意思決定目的の視角からも多くの再検討が

加えられてきているわけである︒これから本稿で取り上げようとする実現概念も︑かような最近の会計理論研究の潮

流にあって︑これまでの受託責任目的会計の理論体系のもとにおける損益計算構造の再検討の一環として︑多くの論

者によって検討を加えられてきている問題の一つである︒

(3)

 そこで以下︑本稿では︑まず.会計でいう実現なる概念のもつ本来の意義内容を把握する手がかりとして.伝統的

実現概念について明らかにし︑ついで︑貨幣価値の非回帰的・傾斜的下落という事実に直面して︑それがどのように

展開されていったかを︑AAA一九五七年会計原則︑F・W・ウィンダル︑およびAAA一九六四年度概念および基

準調査研究委員会・実現概念小委員会におけるそれぞれの所論の検討を通じて明らかにし︑最後に︑実現という概念

についての筆者なりの理解を明らかにしてみたいと考える︒

貨幣価値の変動と実現概念の展開

ω OhΩΦo﹁㎎oO﹂≦餌ざ周ぎ帥旨︒陣営︾08ロ尊爵ロ伽qHり繕ら︒層O・ら︒︵木村重義訳﹁財務会計﹂六頁y 僧昌ユ︼≦o冨︒昌野︒犀Φ﹁\.︾o・

 oo⊆暮ぎ磯↓げ①o﹁団帥昌Ω︼≦β一己且①幻ΦOo曇日σqO9①oユ<①ω︑.魎︵ぎ寓︒﹃8貝田︒犀①び︼≦oα⑦﹁ロ︾80信巨貯oq↓け㊦o﹁ざド㊤①9b●

念㊤︶願

② Oh︾︾鋭Oo配員津け①⑦oづ︾80口暮ぼoqOoま88きαω母ロΩ帥a︒︒b︑.>80信馨貯oq9昌島図①Ooユ凶づoqω$ロユ餌a︒︒ho﹁Oo7

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 聞ぎロ昌9巴ooけ四審ヨΦ暮ω9ロユ勺﹃8①ユ冒西ωけ讐①日①同房9昌Oω煽O宜①ヨ︒昌冨︑b.﹃︶︵中島省吾訳編﹁増訂 A・A・A・会計原

 則﹂訳文︑ 一四〇〜一四一頁ソ ︾︾︾㌧Ooヨヨ淳8①o昌Oo昌︒Φb$9づ山ω富昌α9﹁αωi日︒昌oq.目<①畠︾ωωΦ叶ρ︑︑︾oooロ力添oqho村

 ピ9づρ切巳置ぎσqω㌧⇔づα国ρロなヨ︒昌け︑︑︑6ゲΦ>80信ロけ口西幻Φ≦oミb臼巳鴇お①倉娼・8ω︑騨昌αωoo戸

⑧ 投資家が会計を必要とする理由には︑このほかにもいろいろあるかもしれないが︑そのなかでも主要なものはこの二つに限

 られよう︒Ω・08﹁mq①O・﹈≦僧ざob・o一什;鳴O●目O〜b⊃bっ︵木村重義訳︑前掲書︑二五〜二九頁︶9昌ユωooP

㈲ このように︑これまでの会計においては︑その理論構築にあたって︑二つの目的を明確に区別して認識せず︑むしろ︑無意

 識のうちに受託責任目的のみを前提にしてそれを行なっていたといえる︒というのは︑制度的にその実施を強制されている受

 託責任目的のための会計を行なっておりさえずれば︑それがいま一つの意思決定目的のためにも充分に機能しうるような社会

 的経済的環境が存在していたために︑意思決定目的のもつ重要性が受託責任目的の背後に隠れてしまい︑会計理論の構築にあ

 たってこの目的を顧慮することの必要性をそれほど痛感しなかったからである︒

㈲ 最近における貨幣価値の非回帰的・傾斜的下落の事実については︑我国を始め各国の各種物価指数の統計を参照されたい︒       43⑥ ちなみに︑最近の会計関係の雑誌を悪くと︑なんらかの形で物財価格や貨幣価値の変動に関する問題を取り上げている論文 1

(4)

 が︑必ず二︑三編はみられる︒      44       1ω 本稿では︑AAA一九五七年会計原則︵﹀﹀﹀Ooヨヨ騨け①ooβ>80きθ冒咀Oo昌08房ρp畠ω$コ畠舞畠ω・oO・9け二︵冨

 ﹀︾鋭ob●9けこU・目hh・︶︶の発表以前において︑ 一応通説的に固まっているとみなされている実現に関する考え方を︑伝統

 的実現概念と呼ぶことにする︒

⑧︾﹀鋭Oo日ヨ葺Φ08>88暮ぎ吟Oo巳8けω鋤巳ω什き量aωbo︐9什こ︵5︐ ︾﹀♪8●o帥叶ご︐一下V

⑨ 固︒旨芝●≦冒α鉾↓冨︾80§けぎひqO808叶oh凋①巴貯掌︒菖︒戸目り2・

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 00昌8冥︑︑M↓げΦ︾80ロ昌二昌oq男Φ︿冨ミ︑︾O弓留一㊤緕●Pω這hh

二 伝統的実現概念

 実現なる概念は︑AAAから一九五七年会計原則が公表される前までは︑収益または利益の認識に特有の概念であ

るとする考えが︑一応︑定説的に固まっていたようである︒実現に関するかような考え方を︑われわれは︑すでに述

べたように︑一応︑伝統的実現概念と呼ぶことにしたわけであるが︑かかる実現概念を主張しているとみられる所論

について二︑三簡単にみてみるとつぎの如くである︒

 まず︑SRM会計原則書では︑損益計算書原則のBで︑財貨の販売または用役の提供によって実現した利益のみを

損益計算書に計上すべきであって︑未実現の利益は︑直接︑間接のいかんを問わずいかなる方法によっても計上すべ

きではないとしている︒また︑ペイトン・リトルトンの﹁会社会計基準序説﹂では︑﹁第四章収益﹂のところで︑

収益というものは︑企業の全営業過程を通じて稼得されるものではあるが︑その金額に確実性と客観性が欠けるため

に︑通常は︑商製品が売渡され︑現金またはその他の確実な資産に転換されたときに実現すると述べ︑その場合にお

ける実現のテストとして︑﹁法的な販売または同様な過程による転換﹂と﹁流動資産の取得による確定﹂の二つをあ

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貨幣価値の変動と実現概念の展開

げている︒また︑AAAの一九四一年会計原則では︑﹁基本的仮定﹂という節の﹁B 収益﹂という項で︑前述のペ

イトン・リトルトンの ﹁会社会計基準序説﹂と同じような実現に関する考え方を述べている︒さらにまた︑我国の

﹁企業会計原則﹂では︑損益計算書原則の︑一のA︑三のB︑および三のFで︑収益は実現主義の原則に従って計上

し︑未実現の収益は計上すべきでないと規定している︒

 伝統的実現概念を述べている所論は︑以上のほかにもまだ多数みられ︑また︑各所論で説いている実現の内容を詳

細に検討してみると︑異なる点も多々出てこようが︑これらに共通的にみられる︑いわば伝統的実現概念の特徴を抽

出してみれぽ︑つぎの点を指摘できよう︒

 まず第一には︑実現という概念それ自体の定義を直接行なわずに︑収益または利益の定義の一部に実現という言葉

を用いているという欠点はみられるが︑いずれの場合においても︑実現という概念を︑商製品などの販売による収益

または利益の認識のみに限定して用いていることである︒

 第二には︑対価として入手すべき資産の内容について︑現金もしくは現金等価物︑流動資産もしくは流動性資産︑

または現金もしくはその他の確実な資産などと︑若干の差異はみられるが︑いずれの場合においても︑なんらかの特

定資産の取得を実現の要件にしていることである︒

 第三には︑いずれの場合においても︑未実現の収益または利益を損益計算から排除せんとしていることである︒

 そして第四には︑前述の第二および第三の点と関連することであるが︑いずれの場合においても︑会計目的の重点

を受託責任目的に置いて理論を展開せんとしているとみられるために︑実現という概念は︑取得原価主義と結びつい

て︑いわゆる分配可能利益の算定に関係をもっているということである︒

伝統的実現概念のもつ特徴点は以上の通りであるが・これまでの考察によ・てかかる実現概念の輪郭をある程度浮蜘

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彫りにできたことと思う︒ところで︑論点はかわるが︑実現なる概念は︑いつ︑いかなる意義内容をもって︑会計思 46       1考の世界に登場してきたのであろうか︒AIA︵AICPAの前身︶の企業所得研究委員会︵ω9身Ω﹃808      ω切二ω営①ωωぎooヨ①︶によれぽ︑実現なる概念は︑少なくとも第一次世界大戦以前にはまったく認められておらず︑      圖一九二〇年のアイスナi対マコンパー事件︵国一ωづ︒同く●竃pooヨσ臼8ω①︶の判決において︑配当課税の問題と関連

して利益の有する属性を明らかにするためにこれを取り上げたのが初めてで︑そこでは︑実現なる概念の核心的要

件として︑これを利益の計上に導入したときには︑それに資本からの分離可能性︑いいかえれば企業外部への分配可

能性という属性を付与できるという点を強調していたのである︒したがって︑実現なる概念の生成当初の意義内容に

      ヘ  ヘ  ヘ  ヘ  へ立ち返ってみれば︑この概念のもつ本質として︑これの導入による利益への分配可能性なる属性の付与という点を︑

われわれは決して忘れてはならないであろう︒そして︑かような実現概念の当初の意義内容に照らしてみれぽ︑伝統

的実現概念が︑前述の第二︑第三︑および第四の特徴点からみて︑ほぼ本来の姿を保持しているものといえよう︒

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 省吾訳﹁会社会計基準序説︵改訳版︶﹂七九〜入五頁y

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(7)

 oPo搾噛P㎝ら︶︵中島省吾訳編︑前掲書︑訳文︑四七頁︶.

ω﹀一﹀・ωε匹団Ω﹁o⊆Ooロしdβω一昌①ωωぎooヨρOげきびqヨαqOo昌︒Φロ易oh切玩旨①ωωぎooBp蔓紫OO・b︒ω〜卜︒劇︵渡辺進・上

 村久雄共訳﹁企業所得の研究﹂四三頁︶.

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三 貨幣価値の変動と実現概念の展開

貨幣価値の変動と実現概念の展開

 伝統的実現概念は︑前述したように︑実現なる概念の生成当初の意義内容をほぼ全面的に踏襲しているものである

が︑しかるに︑最近︑企業をとりまく社会的経済的諸環境の著しい変化︑特にこれまでにはみられなかったクリーピ

ング・インフレーションと呼ばれる︑物財価格の恒常的騰貴を伴う貨幣価値の非回帰的・傾斜的下落という事実と関

連して︑それが︑特に意思決定目的の視角からみて充分に機能しなくなってきているとみられるために︑これまでの

受託責任目的中心の会計理論の体系下における損益計算構造の再検討の一環として︑その再検討が試みられつつある

わけである︒AAA一九五七年会計原則︑F・W・ウィンダル︑およびAAA一九六四年度概念および基準調査研究

委員会・実現概念小委員会などにみられる実現概念に関する研究は︑かような会計理論の研究動向にあって試みられ

た研究の代表的な成果であるが︑これらのうち前二者は︑再検討の結果︑実現なる概念を拡大化せんとするものであ

り︑また︑最後のものは︑これまで通り伝統的実現概念を墨守せんとするものである︒つぎに︑それぞれの説いてい

るところを少しく詳細にみてゆくことにしょ究       即

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 まず︑AAA一九五七年会計原則で説いているところをみると︑そこでは︑実現なる概念を基礎概念の一つに掲 48      1げ︑﹁実現の本質的な意味は︑資産または負債における変動が︑会計記録上での認識計上を正当化するに足るだけの

確定性と客観性とを備えるに至ったということである﹂と定義し︑その要件として確定性と客観性という二つの要素

を重視することにより︑実現を︑これまでのように収益または利益の認識基準として限定することなく︑資産または

負債の変動を伴うあらゆる会計事象を認識するための︑いわぽ会計的認識の一般的な基準にまで昇華せしめていると     りいわれている︒確かに︑この実現の定義部分だけをみれぽ︑実現の内容が質的にも量的にも拡大されているとの印象

を受けるのであるが︑しかしなんらかの形で実現なる概念に触れている具体的な個々の規定をみると︑必ずしもそう

はいえない︒というのは︑たとえぽ︑﹁資産﹂という節の﹁測定﹂という項をみると︑せっかく資産の本質を用役潜

在性︵ω薄く一〇Φ09Φ暮一巴︶に求めながら︑従来からの取得原価主義を固執しカレント・コス・︐による測定を排斥し

ているし︑﹁利益の算定﹂という節の﹁収益﹂という項をみると︑収益の認識は︑伝統的実現概念に基づいて︑原則と

していわゆる販売基準に準拠して行なうべきことが示されているし︑また︑﹁表示の基準﹂という節の﹁表示の程度﹂

という項をみると︑投資家の意思決定に必要な会計資料は︑それが重要なものである限り︑すべて報告すべきである

との前提に基づいて︑資産または負債の変勤についても︑それが重要なものである限り︑実現・未実現のいかんを問

わずすべて報告すべきであるとしておりながら︑損益計算にあたっては未実現の変動部分は算入してはならないとし

ている如く︑﹁基礎概念﹂の節でせっかく実現概念の拡大化を意図しておりながら︑具体的な個々の規定になると︑

それが不徹底に終ってしまい︑従前の伝統的実現概念の考え方とまったく同じになってしまっているからである︒

 かようなAAA一九五七年会計原則における実現概念に関する考え方の不徹底さは︑この原則の不備を補足すると

いう意図のもとに出された︑後述するAAA一九六四年度概念および基準調査研究委員会・実現概念小委員会の追補

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貨幣価値の変動と実現概念の展開

勧告書にいたって︑実現概念をめぐる論旨の混乱とさえなって再現されるのであるが︑なぜこの原則の実現概念の考

え方にこのような不徹底さがみられるのか︑その原因を探ってみると︑それはつぎのような点に求められよう︒すな

わち︑この原則では︑立論の出発にあたって措定すべき会計目的の重点を意思決定目的に置きながらも︑なお従来か

らの受託責任目的への考慮を捨て切れずに︑これら両目的を同等に充足しようとしたところに根本原因があるといえ

る︒というのは︑前者の目的のためには︑当該企業における経営活動の良否の判定と将来の趨勢の予測を可能ならし

めるような︑いわゆる経営成果利益の算定が︑また︑後者の目的のためには︑当該企業が稼得した利益のなかから外

部へ分配しうる︑いわゆる分配可能利益の算定が︑それぞれ必要となるが︑これらのうち︑前者の利益はいわゆる発

生概念により︑また︑後老の利益は実現概念により︑本来︑それぞれまったく異なった認識概念によって求められる

べきものなのに︑唯一個の実現という認識概念によってこれらを求めようとしたからである︒この原則でかように二

つの会計目的を充たそうと意図している事実は︑﹁利益の算定﹂という節のまえがき的部分において︑利益として企

業の純利益と株主の純利益とを明確に区別し︑財務報告を行なう場合︑これらのうちのいずれについて行なうのかを

明示すべきことを強調している点からみても明らかであるが︑W・J・ヴァッターも︑この原則に対する反対意見に

おいて︑かように二つの利益概念を利益算定の対象とすることは混乱を招くと批判しているように︑ここにこそこの

原則における実現概念をめぐる曖昧さの根源があるといえるのである︒

 以上のようなAAA一九五七年会計原則の実現概念に関する考え方と同じ方向をとって︑実現概念の拡大化を試み

たいま一人の代表的な論者としてF・W・ウィンダルがいる︒ウィンダルは︑実現概念についてつぎのように述べて

いる︒すなわち・まず・ウ・ンダルは・前述のAAA一九五七年会計原則の実現概倉関する考え方を全面的露遣し・.囎

(10)

実現の要件としてそこで掲げている客観性と確定性という二つの基本的要素を︑それぞれ測定可能性︵日︒①ω霞㌣

σ一一一な︶と不変性︵O①吋5口餌⇒①づOΦ︶という要素に発展させ︑つづいて︑かかる要素を具現化した詳細な実現基準を収

益︑費用︑損失︑資産︑負債︑および資本などの変動を伴うあらゆる会計事象ごとに設定し︑これらの具体的な基準

が充たされたときに︑いいかえれば測定可能でかつ不変的になったときに︑客観性と確定性の要件を備え︑会計的認

識を受けうるに足る充分な条件を具備するにいたった︑つまり実現したと主張するのである︒

 かようなウィンダルの主張している実現概念の特徴点を抽出してみれぽ︑つぎのようにいえるかもしれない︒すな

わち︑ウィンダルは︑AAA一九五七年会計原則の実現概念に関する考え方を受け継いではいるが︑現行実務を顧慮

することなくそれを会計上の一般的認識基準にまで質的にも量的にも矛盾なく昇華せしめているために︑そこには︑

AAA一九五七年会計原則にみられたような曖昧さや混乱はみられないということである︒ただ︑ウィソダルの所論

においては︑その主張している実現概念と現在の会計理論との関係についてまったく触れられていないので︑そこで

考えている実現概念を従来の損益計算の構造のなかにどのように位置づけるのかという点に疑問が残るし︑また︑ウ

ィンダルは︑いかなる会計目的を前提にして理論を展開しているのか明らかではないので︑その考えている実現概念

がいかなる会計目的と結びつけられそのように展開されたのかという点にも疑問が残るのである︒

 ところで︑このような実現概念を拡大化しようという動きのあるなかで︑一九六四年の四月差︑AAAの概念およ

び基準調査研究委員会・実現概念小委員会というところがら︑前述の内容のあまり明確でなかった︑一九五七年会計

原則の実現概念を補足するという意図のもとに︑追補勧告書が出された︒これは︑AAAの正式な承認を得たもので

はないが︑そこでは︑実現概念についてつぎのような考えが示されている︒すなわち︑追補勧告書では︑まず一九五

七年会計原則の実現概念に関する考え方を受け継ぎ︑これを補足修正するという意図のもとに︑収益取引といわゆる

150

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貨幣価値の変動と実現概念の展開

保有利得・損失の両者をめぐる測定と表示上のいろいろな問題との関連で︑実現概念に検討を加え︑その結果︑一応︑

前述したような伝統的実現概念を提唱しているといわれている︒

 しかしながら︑その内容を詳細に吟味してみると︑必ずしも伝統的実現概念を主張していると断言してしまってよ

いものかどうか︑はなはだ疑問に思われる︒むしろ︑一九五七年会計原則における実現概念の曖昧さが︑この追補勧

告書にいたって一層明らかになったとみたほうが妥当ではないかと思われる︒というのは︑たとえば︑﹁収益取引と

実現﹂という節で︑収益取引の場合の実現の要件として検討を加えている﹁対価として受入れた資産の性格﹂︑﹁市場

取引の介在﹂︑および﹁給付の遂行された度合い﹂という事項をみてみると︑第一の﹁対価として受入れた資産の性

格﹂という点については︑流動性よりも測定可能性が実現の要件として重要であるとして︑伝統的実現概念からの離

脱が試みられているようにもみうけられるが︑第二︑第三の﹁市場取引の介在﹂とか︑﹁給付の遂行された度合い﹂

という点になると︑従来と同じように実現の要件として販売という事実を重視し︑伝統的実現概念と同じ考え方を固         面執しているからである︒そして︑かような警護さの傾向は︑この追補勧告書で最も力を入れているとみられる︑﹁保

有利得・損失﹂という節にいたってますます明確になってくるようにみうけられる︒すなわち︑保有利得・損失を会

計上認識し測定しなけれぽならないという点については︑小委員会の全員がこれを承認し︑そうするよう勧告してい

るが︑これを損益計算に算入し当期の純利益のなかに含めるか否かという点になると︑一部の委員を除いて大多数の

委員は︑実現した保有利得・損失のみを当期の純利益に含め︑未実現のそれは含めるべきではないとしているのであ

る︒かように︑保有利得・損失を認識し測定するという段階では︑実現概念を拡大化しようとしている徴候もみうけ

られるが︑いざこれを損益計算に算入するか否かという段階になると︑従来からの伝統的実現概念と同じ考え方にな

ってしまい︑実現概念を検討せんとしたせっかくの意図も不徹底に終ってしまっているとの感じを受けるのである︒

151

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 ところで︑なぜ︑この追補勧告書における実現概念についての考え方が︑このようになってしまったかというと︑ 52      1それは結局︑この追補勧告書においても︑すでに述べた一九五七年会計原則と同じ方向をとろうとしたからにほかな

らない︒すなわち︑この追補勧告書においても︑一九五七年会計原則と同じ会計目的の立場を採るとして︑その重点       圃を意思決定目的に置きながらも︑なおこの目的からのアプローチのみに徹底しきれず︑いま一つの受託責任目的への

考慮をも捨象しきれなかったためである︒

 以上︑AAA一九五七年会計原則︑F・W・ウィンダル︑およびAAA一九六四年度概念および基準調査研究委員

会・実現概念小委員会のそれぞれの所論を通じていいうることは︑具体的な内容については多くの差異もみられる

が︑物書価格の恒常的騰貴を伴う貨幣価値の非回帰的・傾斜的下落という事実に直面して︑不備欠陥の露呈している︑

これまでの受託責任目的中心の会計理論体系における損益計算構造の再検討は︑実現概念については︑その拡大化と

いう方向で問題の解決を図ろうとしているということである︒

ω ︾︾♪OO日ヨ葺Φ①O昌︾08G暮冒騎Ooロ8艮ωきOω富昌α偶aρo℃.O一ダ︵陣P>︾︾OO︒O一什こbも◎︶︵中島省吾訳編︑前掲

 書︑訳文︑ 一三二頁︶・

② たとえば︑罵村合雄稿﹁伝統的実現主義への反省﹂︵山桝忠恕編著﹁現代会計と測定構造﹂所収︑五三頁︶などを参照︒

③ ﹀﹀﹀・Oo皇基醒酔Φ①oロ>ooo戸5認昌ΦqOo昌︒Φ冥ωp︒5αωβ昌α曽三︒︒㌧o掌息一こ︵一同︾︾﹀植O︼U曾 O一什・︑O・ も︒︶︵中島省吾訳編︑前掲

 書︑訳文︑ 二三一〜二三二頁︶・

ω H三P噂憎O・海〜切︵同 右︑一三三〜ご二六頁︶・

⑤ hσ己ごO戸切〜①︵同 右︑ ニ乱舞〜一三七頁Y︾昌αoh.Ω①o﹁oq①いω叶即売σ¢の︑︑︑Ooヨ白Φ暮ωo昌.︾08¢暮貯αqo昌α菊⑦Oo答・

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⑥ ﹀﹀♪Ooヨ日葺①①oコ︾ooo二三5ぴqOoロ︒①冥ω帥昌飢ω3昌島鋤aρo℃.9け.℃︵一昌﹀︾︾︑O℃O一什こO.◎Q︶︵中島省吾訳編︑前

(13)

貨幣価値の変動と実現概念の展開

 掲書︑訳文︑一四一〜一四二頁︶.

Qり@Oh﹂寓匹・bや¶︵同 右︑一四〇〜一四一頁︶■

⑧ これまでの損益計算の体系では︑かような二つの利益概念を明確に識別してはいなかった︒それは︑企業をとりまく社会的

 経済的諸環境が許容していたので︑制度的にその算定を強制されている分配可能利益のみを求めておりさえずれば︑それが経

 営成果利益にもほぼ一致していたために︑両者を明確に識別する必要性がなかったからである︒なお︑以上の点については︑

 拙稿﹁貨幣価値の変動と資本維持﹂︵福島大学経済学会 商学論集 第三十七巻第四号 七六〜七七頁︶を参照されたい︒

⑨ ﹀﹀︸Oo三雲随菖①①o昌︾oooロ暮冒αqO§8冥ωmづαω$ロ山面乙ρo︐9け・︑︵博P>﹀﹀悔OO.O囲けこ眉.㎝︶︵中島省吾訳編︑前掲

 書︑訳文︑ 一三六頁︶. ︾昌αoh.O①o﹁mqo9ωけロ鐸σ賃ρo嘗9梓こウト⊃bo噂9昌α﹀答げロ同O.閑Φ目①団\.O︒ヨヨ①口θω︒昌序①HりO﹃

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⑳︾﹀﹀る︒目鼻§8︾︒8こ口・ぴ・088冨・準ω§α胃αρβ§︑︵貯︾﹀︸8・︒帥梓もpδ〜=︶︵中島省吾訳

 編⁝︑前掲書︑訳文︑ 一四五〜一四六頁︶●

⑳ 固︒網ユ芝●≦ぎα巴︑ob.9什・︑OP置〜♂・

⑫ 臣凶P鳩︒︐ミ〜c︒Sなお︑F・W・ウィンダルの所論については︑佐藤教授もつぎの論文などで論じておられるので併せて 参照されたい︒佐藤孝一稿﹁会計学上の実現概念﹂会計 第入十五巻第三号 一二頁以下 同  稿﹁実現概念と費用への適

 用問題﹂産業経理 第二十四巻第四号 一四頁以下

⑬︾﹀鋭H㊤罐088箕︒︒︒巳ω富民paω幻Φω︒霞gωけ垂目︒︒Ba§①一↓冨寄州§け一︒昌O︒ロ8罫︒︐︒罫唱・ωHb︒・

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㈲ たとえば︑若杉 明稿﹁保有利得および損失について﹂企業会計 第十七巻第八号 七七頁などを参照︒  ﹀﹀﹀し㊤賃Oo昌8冥ω鋤巳ω仲き匿乙︒・幻ΦωΦ錠9ωε身Oo日巨暮ΦΦ一↓冨菊①巴貯讐一〇ロO自898・鼻こ冒戸ωに〜

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153

(14)

四 むすびにかえて

154

 以上︑実現なる概念について︑伝統的実現概念の検討から出発して︑AAA一九五七年会計原則における実現概

念︑F・W・ウィンダルの述べている実現概念︑およびAAA一九六四年度概念および基準調査研究委員会・実現概

念小委員会の実現概念という順序で考察を加えてきたが︑最後に︑筆者なりの実現という概念に関する考えを述べて

むすびにかえたいと思う︒

 結論から先にいうと︑もともと実現という概念は︑最初に述べた伝統的実現概念という意味でしか存在しえず︑こ

れを拡大化しようなどという試みはすべて徒労に終ろうということである︒というのは︑実現なる概念は︑元来︑受

託責任目的の遂行と結びついて生成してきた概念だからである︒すなわち︑すでに述べたように︑今日︑会計は︑受

託責任目的と意思決定目的という二つの主要な目的から必要とされているのであるが︑いずれの場合においても︑そ

の目的の遂行は︑主として利益という数値の把握と伝達を通じて行なわれる︒そしてその場合︑前者の目的のために

は︑利益数値の具体的な内容は︑分配可能利益となるであろうし︑また︑後者の目的のためには︑それは経営成果利

益となるであろうが︑いずれの場合においても︑それぞれの意図する利益を最も合理的に把握できるような損益計算

の構造が形成されているはずである︒そして︑実現.なる概念は︑すでに触れたように︑生成史的にみて︑資本からの

分離可能性または外部への分配可能性という性格を利益に付与せんがために生まれてきたものであるから︑この場

合︑当然の帰結として︑前者の目的のための損益計算の構造のなかに︑つまり︑受託責任目的の遂行のために必要と

される︑分配可能利益を把握する損益計算の構造のなかに位置づけられるわけである︒したがって︑実現という概念

は︑かような受託責任目的という会計目的の遂行に特有の概念であると言い切ってしまっても過言ではないかもしれ

(15)

ない︒いいかえれば︑実現なる概念には︑本質的に︑前述の伝統的実現概念のみしか存在しうるはずがないというこ

とである︒その証拠に︑これまでにみてきたように︑実現という概念を拡大化せんとした試みは︑いずれの所論をみ

てもすべて失敗に終っているのである︒結局︑実現という概念の性格からみれば︑まったく異質と思われる︑意思決

定目的という会計目的の達成を意図して︑この概念を取り上げたこと自体︑すでに誤りであったということである︒

 とすると︑意思決定目的という視点から現実に会計が要求されていることは厳然たる事実であるし︑また︑最近で

は︑会計理論の構築にあたって︑むしろこの目的のほうが受託責任目的よりも重要視されてきている傾向さ︑兄もみら

れるか触︑これを最も合理的に充足しうる如き損益計算の構造を措定し︑実現とは異なったなんらかの認識概念を明

らかにしなければならないことになろう︒この点については︑今後の研究に待ちたいと思う︒

 ω たとえば︑新井清光稿﹁株式投資家の変容と会計情報﹂早稲田商学 第二〇四号 三三頁以下などを参照︒

賃幣価値の変動と実現概念の展開

155

参照

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