1.はじめに 当時の教育界において、耳慣れない「組織マネジメント」という語句が、中央教育 審議会答申や文部省(現文部科学省)関係の報告書の中で用いられるようになったのは、 今次の教育改革が俎上にのった約 10 年前のことである。 直接的には、2000 年 12 月に発表された「教育改革国民会議報告∼教育を変える 17 の 提案∼」(座長:江崎玲於奈氏、以下、「国民会議報告」と記述)の中で示された。 その第 4 節「新しい時代に新しい学校づくりを」の「③学校や教育委員会に組織マネ ジメントの発想を取り入れる」として、次のコメントが付記されているのがそれである。 「学校運営を改善するためには、現行体制のまま校長の権限を強くしても大きな効果 は期待できない。学校に組織マネジメントの発想を導入し、校長が独自性とリーダーシッ プを発揮できるようにする。組織マネジメントが必要なのは、学校だけでなく、教育行 政機関も同様である。行政全体として、情報を開示し、組織マネジメントの発想を持つ べきである。また、教育行政機関は、多様化した社会が求める学校の実現に向けた適切 な支援を提供する体制をとらなくてはならない。」(1) (注:下線は筆者)と。 似たような文言は、1998 年 9 月 中央教育審議会答申「今後の地方教育行政の在り 方について」(以下、「16 期答申」と記述)の中にも見出せる。 16 期答申は、教育界のいわゆる「56 年体制」(1956 年制定の「地方教育行政の組織 及び運営に関する法律」を中軸に、長期にわたって教育行政や学校教育を統制してきた 体制)のその「基調を基本的に転換させる意味合いを持っている」(2) と言われている。 規制緩和、地方分権を改革原理とする教育行政の在り方を提言した答申として、今次 の教育改革路線を明確に方向づけたのである。 「学校の自主性・自律性の確立」に向けた「具体的改善方策」の 1 つとして、 「ク、校長、教頭の学校運営に関する資質能力を養成する観点から、例えば、企業経 営や組織体における経営者に求められる専門知識や教養を身に付けるとともに、学校事 務を含め総合的なマネジメント能力を高めることができるよう、研修の内容・方法を見 直すこと。」(注:下線は筆者)が挙げられている。 筆者の問題意識としては、「56 年体制」下における「画一的横並び指向」・「行政依存」 の強い経営姿勢(以下、「従前型学校経営」という)が当然視されていた時代での学校
「組織マネジメントの発想」
導入と学校経営者の新たな役割
∼ 公立小での体験的実践からの考察 ∼
長谷川 邦義
HASEGAWA Kuniyoshi
管理職が果たしてきた役割と、新たに「学校の自主性・自律性確立」が求められるよう になった今後の学校経営(以下、「自律型学校経営」という)における学校経営者が果 たすべき役割とは、自ずと異なるものがあるという認識である。 研究の目的は、以下の 2 点である。 第 1 点は、「『組織マネジメントの発想』導入によって、学校経営者の果たすべき新た な役割としてどのようなものがあるか」を考察することである。これは、筆者自身 1986 年に管理職(教頭)になって以来、20 年にわたる学校(行政)管理職生活の体験から考 えることでもある。 第 2 点は、いわゆる「07 以降問題」とも絡む「次期学校経営者への継承と育成の問題」 に考察を加えることである。 本稿では、紙幅の関係上、この「『組織マネジメントの発想』導入」を今次の教育改 革を示す象徴的な文言ととらえ、この導入と自律型学校経営との関係の概要を主に記し、 学校経営者の新たな役割に触れることとする。 2.「学校経営者」とは誰か 通常、「学校管理職」と言えば、法制上の権限と責任を持つ校長職と教頭職を合わせ てそのように呼称することが一般的である。学校教育法第 28 条では、その位置づけと 職務内容を明確に規定している(06. 12 法改正により「副校長職」を新設。08.4 から施行)。 それに対し、「学校経営者」には特段、法律的な規定はない。現在においては、「自律 的学校経営のもとでの学校経営者は、単位学校の経営主体及びその経営結果の責任主体 として、教育的リーダーシップを発揮して学校改善を推進するスクールリーダー(校長、 教頭、主幹・主任、事務長・事務職員、影響力のある一般教員)に限定されるべき」であり、 「このような学校経営者=スクールリーダーという意味の確定と共通理解が、まずは研 究者レベルで必要である」(3) という段階であり、まだ学会においても確定されてはいな いようである。 筆者は、兵庫教育大学教授 加治佐哲也のこの考えに賛成である。そのために英文表 記も、「経営者」に通常使用される 「Administrator」の意ではなく、より指導者の意味 合いが強い「Leader」の意を汲み使用している。これらを踏まえ、本論文においては「管 理職」は校長・教頭を意味し、「学校経営者」という場合は、「管理職」と中堅層の「ミ ドルリーダー」(主幹・基幹的な主任、事務長・事務職員、影響力のある一般教員)を 合わせた概念として以下に論述していく。 なぜ、「ミドルリーダー」まで含めるのかと言えば、彼らの中から次代を担う「学校 管理職」が生まれるからである。その意味で、早い段階から「経営」意識や感覚を体得 しておく必要があると考えることによる。
3.従前型学校経営の特徴 公立の学校組織は、一方で行政的な組織体系に組み込まれた中での「公教育の実施機 関」であり、その枠組みや意思決定の基本は行政機関によって与えられている。そのこ とから教育委員会側は、学校経営そのものを関係法規の適用対象(規制や干渉など)と してとらえようとする傾向が強まる。 他方、学校はその適用対象であることを内包しつつも同時に、それとは全く異なる教 育の事実行為に基づいた教師と児童生徒との個別的・相互的関係を基盤に成立してい る。そのことから教育活動に対して大幅な自己決定権や裁量権の所有を求めるという関 係になる。教育行政の中央集権化が進行した「56 年体制」下では、この「学校の相対 的自律性」(4) の確保を、国はほとんど顧みることがなかった。 その体制下における学校経営の特徴を、大阪教育大学教授 大脇康弘は「学校経営の 五層構造」と指摘し、その問題点を浮き彫りにした。即ち、 ①大枠としての行政依存的な学校経営 責任回避主義の浸透 ②慣行重視の学校経営への傾斜 日常的活動におけるコンフリクトの回避 ③学年セクト・教科セクト主義の優位 ルーズな学校組織運営 ④対症療法的学校経営の不可避性 教育病理への対応の模索 ⑤閉鎖的な学校経営 学校責任の不明確さ を挙げ、「総合的に見て自律的であるとは言い難い」と結論づけている(5) 。 その背景を遡れば、今もなお学校現場にその影響を残す「学校経営の単層・重層構造 論争」(6) があり、その源流には、戦後日本が抱えた時代背景(東西冷戦構造、左右イデ オロギー対立、旧文部省と日教組の根強い対立、経済界の要請等々)が横たわっていた。 「論争」は、まさに対立する両者を代表する代理論争の様相を呈していたと考えられる。 そこにおける学校経営の基調は、一方では、外に対し本来堅持すべき「相対的自律性」 を実質的に失い、自らの専門的判断を優先させるよりも、大綱的な基準に従って行われ る「指示・命令」、「指導・助言」に基づく行政の意向に従おうとする、無難な「行政依 存・責任回避型・横並び主義」(大脇)とならざるを得なかった。 他方、校内においては、意思決定権限の所属を巡り(主な争点は職員会議の位置づけ) 職員団体との対立を極めた。 そこでの組織原理には大別して 2 つあり、1 つは専門性の原理である。それは、学校 組織は教育の専門組織であるから、企業組織や一般組織における原理とは自ずと異なる 組織原理が機能すべきであるという考えに基づく。これは、組織として判断し、意思決 定する際にはトップの意思が優先されるのではなく、教育の専門家集団が議論し意思決 定していくことに意義を見出そうとし、合議制(むしろ多数決論理)の原理と一体化し ている。それ故、多数を制しようとする職員団体の組織拡大運動と連動しがちである。 2 つは官僚制の原理である。専門性の原理では、統一のとれた責任ある学校運営遂行 に支障が生じる。或いは責任者である校長のリーダーシップが発揮しにくくなるという 考え(責任制の原理)から、これを組織原理とはしない。むしろ対極の位置にある官僚 制の原理を採用する考えである。これは、トップの意思を実現するために「ライン組織」 の関係で校内組織を編成し、それに従って意思決定を図ろうとするものである。
前者を主張する立場は、職員会議を学校自治の担い手とみなし「教育的決議機関」(7) と位置づける。そこでは、校長の単独での意思決定を許さない。「学校自治説」を叫ぶ 職員団体員の有力な論拠となった。 後者は、職員会議を「補助機関」と位置づける。学校法 28 条に規定されるように校 長は「校務を司り、所属職員を監督する」立場にある。従って、校長の職務遂行に関し て職員会議は意思決定する立場にはないとする(「補助機関説」)。 このような 2 つの対立する組織原理に基づく、「56 年体制」下での学校経営を筆者は「従 前型学校経営」と呼んでいる。 外に対して「行政依存・責任回避型・横並び主義」で、内に対しては「コンフリクトの 回避」に向けた「慣行重視の経営」(大脇)を特徴とするこの「従前型学校経営」は、70 年代以降 80 年代に始まった社会の変化や子ども達が抱えた諸問題(8) に「対症療法的な処 置」以外に有効な手立てを講じることができず、いたずらに時間のみを経過させた。保護 者・市民から、その「教職専門性」や「当事者能力」に疑問符が付けられるようになった。 「従前型学校経営」の持つ組織原理や意思決定のあり方が問い直されたのである。そ こには、次のような課題があると考えられる。 ア、学校の主体的な力量形成をいかに図るのか。 イ、教育行政側はそれに対して、いかに対応すればよいのか。 ウ、 社会的要請(情報開示や経営参加要望、説明責任への対応など)に、学校組織は いかに対応するのか。 エ、教職員との権限関係を含め、学校経営者のリーダーシップをいかに発揮するのか。 4.中教審答申と「自律型学校経営」 今次の教育改革(学校改革)の全体的方向を明示した第 16 期答申は、学校の組織や 組織運営改革に初めて言及した中央教育審議会答申でもある。 従って、この答申が従前型学校経営の「経営基調を変えた」(小島)と評価され、筆 者は答申以降のそれを「自律型学校経営」と呼び、区分けしている。 では、具体的にはどのような影響を与えたのか、その意義を含め、以下にまとめてみる。 象徴的と思えるのが、「56 年体制」下=「従前型学校経営」で指摘した上記課題ア∼エ とそれらが符合することである。その主要な事例を挙げておきたい。 (1)教育委員会と学校の関係 答申により、教育委員会の関与(組織編制・教育課程編成や、その実施にかかわる許 可、承認、届け出、報告事項など)が整理縮小されるに伴い、学校では、これまで以上 に創意ある教育活動の展開が可能になった。それに即して委任される様々な事務を含め、 学校には、これらに自ら責任を持つ形で判断し、実施していけるだけの主体的な力量を 持つことがいよいよ急務になった。 この答申(「地域住民の学校運営の参画」など)により、学校教育は、教育委員会と 学校以外に、今後は保護者・地域住民を含めた三者の関係で捉えねばならなくなった。
これは、我が国の義務教育において画期的なことである。また、それらを含めて学校に は、自律型学校経営への脱皮が求められるようになった。 (2)管理職と教職員の関係 校長(学校裁量)権限が高まることにより、経営上、学校の意思を校内外に向けて明 確にし、具体的な形で説明責任(結果責任)を果たせるようにすることが重要な課題と なる。そのために、校長は校内において教職員との合意形成を図れるよう、その経営手 腕や指導性が日常的に求められる。それは同時に、「管理職対教職員」というような対 立の構図解消に向けた努力を相互に求めることを意味する。 56 年体制下、常に「対立の構図」を維持することが「学校自治」への戦いの如く考え てきた一部教職員や、個業性の中に閉じこもり勝ちで、学校全体のことを考えようとも しなかった教職員などの動きや意識に変化・転換を余儀なくするように迫った。 又、校内組織の見直しと工夫・改善、権限や責任の所在の明確化、意思決定の適正な 在り方、機動的で効率的な組織運営の在り様など、まさに「専門家集団としての自律性」 を発揮できる学校の組織特性や組織原理をいかに機能させていけばよいのかが、これを 機会に具体的な形で検討・促進していかざるを得なくなった(00. 1 学校法改正により「職 員会議」の法的位置づけが明確になる)。 (3)新しい経営概念への取り組み それらに伴い、従前型学校経営では取り上げられなかった概念や、形式化・形骸化さ れ実質的に機能していなかったものが、学校現場で始動するようになった。 例えば、「保護者らによる学校経営への参加・参画」、「情報公開」、「学校評価」、「学 校評議員」、「説明責任・結果責任」、「組織マネジメント」等々の新たな概念が持ち込ま れ、それらを統合した形での経営実現を迫られるようになった。 それは、いずれも学校の「組織力」「経営力」の改善と推進により、「上質な教育」の 実現・保証をめざすことを意味している。 (4)学校経営者へ新たな経営感覚の要請 最後に、(1)∼(3)については、同時に「学校改革をいかに進めるか」という意味で、 責任者である校長に新たな経営感覚を要請することになった。中でも、明確な教育ビジョ ンの設定能力や主体的な問題解決能力などでの指導性発揮が必須となった。 「校長の権限拡大」とは、そうした意思を主体的に持った学校でこそ初めて効果を上 げるのであって、あの「国民会議報告」が厳しく指摘した(9) ように、その意思もないと ころに付与しても期待する効果はなく、かえって弊害を招くだけである。その意味では、 校長自身の意識変革を迫っているのである。 5.「学校組織マネジメント」の概要 このような「自律型学校経営」を実現するために「組織マネジメントの発想」が必要
であるとされた。中央研修のテキスト(10) を中心にその概要を以下のようにまとめてみた。 学校組織マネジメントの展開図 (文部科学省「学校組織マネジメント研修テキスト」平成 15 年度改訂版、P. 2-1) 当時、研究協力員であった木岡一明(現 名城大学大学院教授)は、この内容につい て次のように説明している(11) 。 「学校における組織マネジメントとは、学校の有している能力・資源を開発・活用し、 学校に関与する人達のニーズに適応させながら、学校のミッション(存在価値)を達成 していく過程(活動)であるといえる。ただし、その具体的な様は、学校の置かれた環 境状況の違いによって一様ではなく、むしろ個々の学校によって、またその時の状況に よって最も適切な有り様は異なってくる。組織マネジメントの展開は、一般解ではなく 特殊解の探索であるといわれるのは、こうした意味である。」 そして、「この基本的な考え方や手法などは、そこで使用される語句やより実際的な 手法にまで具体化されているという点で従来と違和感があるかも知れないが、これまで の学校経営で言われてきたことと変わらない。」と述べた上で、「あえて従来の経営観と 比較すると、次の点を学校組織マネジメントは強調している」と述べている。即ち、 ①環境との相互作用、中でも外部の支援的要因と内なる強みの連合 ② 計画(Plan)−実施(Do)−点検・評価(Check)−更新(Action)のマネジメント サイクル、とりわけ次の一手(Action) ③その過程を円滑化するスキル(技術)やストラテジー(戦略や方略) ④ 進むべき方向を示すミッション(職責)とビジョン(目指すところ) の 4 点を挙げている。
学校における組織マネジメントのサイクル (前掲書、P.2-18) 筆者がここで問題視するのは、環境分析のための「SWOT 分析」手法や PDCA の組 織マネジメントサイクルなどを、「従前型学校経営」の中で機能させようとしても現実 的には無理があると考えていることである。なぜならば、木岡も言うように、従来にお いても同様な実態分析や「PDS」サイクルで経営を機能させてきた経緯がある。しかし、 それらはいずれも形式化・形骸化し、経営改善にまではなかなか結びつかなかったので ある。 このままでは同じ轍を踏むことになりかねない。「自律型学校経営」には、それに相 応する経営原則や組織原理が必要であり、それとの有機的結合を図ってこそ、この組織 マネジメントサイクルを有効に機能させることができると考えるからである。 6.「自律型学校経営」の特徴 有効に機能できないと考える根拠は、従前型学校経営の特徴である閉鎖性に基づく経 営原理がそのまま温存されているからである(次図参照)。つまり、そこではマネジメ ントサイクルのいずれの段階も内部だけで処理できてしまい、評価本来の機能である次 なる改善に活かす・Action(具体的改善策)面において曖昧さを許容しているからである。
経営原則とマネジメント〈従前型経営に見る P-D-S〉 その曖昧さには、「内部論理優先」の組織風土や職員間の軋轢が重なり、次なる改善 に繋がることのないまま、いつしか「評価はするだけ…」となって形式化・形骸化へと 進行し、やがて書類の中に埋没する。外部に公開されることもなく、すべて内部だけで 処理される。その繰り返し(負の連鎖)が継続されていたと言って過言ではない。つまり、 マネジメントサイクルでいう Action の部分を欠落させたままなのである。 このように従前型学校経営には、組織マネジメントや学校評価を活かした経営スタイ ルを、実効性あるものとして受け入れきれない構造上の弱点・問題点がある。 それに対し、自律型学校経営を特徴づける新たな経営原則として、筆者は自らの実践 (千葉県柏市立中原小学校在任時)をもとに次の 5 点を挙げる。 「透 明 性」: 情報(現場)公開の徹底。双方向交信で課題の共有化と相互理解に努 める。 「説 明 責 任」:正確な情報提供と質問等への誠実・丁寧な対応。関係者の理解を獲得。 「適 法 性」:全ては法律遵守とそれに基づく執行、経営に努める。 「学校統治性」: 説明された事柄が適正に実施されているかどうか、関係者自らが身を もって検証できるシステムを自ら校内に整備・確立。彼らの参加・参 画を促進。 「創 造 性」: 本来堅持すべきであった「専門家集団としての自律性」発揮が機能し やすい教育活動・組織システムを創りあげる。 いわゆる PDCA の組織マネジメントサイクルは、これらの経営原則と複合的に組み合 わせることによって初めて有効に機能することを、経営実践の中から明らかにできたと 考える。それは全ての経営段階において、次表のように有機的関連性を持ち、スパイラ ルに連動させることで、「専門家集団としての自律性」を発揮しやすい学校の新たな組 織特性や組織原理(学校風土)を生み出すことができるのである。
経営原則との具体的連動(自律型) 自律型学校経営では、この新たな経営原則をすべての教育活動実施の基軸に据えるこ とによって、学校組織や運営を活性化させることができ、有効に機能していくことがで きると考える(次図参照)。同時にそれは、本来、学校の組織文化が持つべきであった「専 門家集団としての自律性・同僚性・協働性」(専門性原理)発揮を、本来の意味で職場 の中に芽生えさせる効果を生んだ。 経営原則とマネジメント〈自律型(的)経営に見る P-D-A〉 組織マネジメント手法である PDCA サイクルや WHDCA サイクルを、自らの教育実践 の中で身につけた教職員が、その手でサイクルを回したいという意識と力を示したとき、 「自律型学校経営」は実現するのである。それは、毎年度実施した 46 項目に及ぶ保護者 による学校評価で、90%を超える「満足度」を 5 年間継続できたことからも言えよう(12) 。
7.学校経営者の新たな役割 「自律型学校経営」実現の最大の課題は、学校管理職を含めた教職員の意識改革である。 管理職への意識調査(13) で、組織マネジメント導入にあたって一番障害となっている ものが、自校の「教職員」にあるという回答が実に 77%もあった。それに対し、管理職 自らの理解・力量不足を挙げた者は僅か 10%程度に止まった。 聞き取り調査においては、障害になっている主な理由として ①管理職登用年齢が 56 歳と高いので、その経営意欲に問題がある。 ②管理職の同一校勤務年限が 2 ∼ 3 年間と短期に過ぎる。 ③管理職自身の学校組織マネジメントに対する理解不足。 の 3 点が挙げられていた。これらの調査結果に、学校改革への管理職自身の戸惑いや 理解不足を読み取ることができる。 次に、改革の具体的な進め方について、ハーバード大学教授 コッターが提示した「8 段階モデル」や、変革期における「マネジメント機能」と「リーダーシップ機能」との 差を浮き彫りにした彼の主張(14) には強い共感を覚えた。 即ち、改革のプロセスにおいて強く求められるのは、「プロセスを管理する」マネジ メントよりも、「プロセスをリードする」リーダーシップであるという説は、現在の学 校改革にも大きな示唆を与えるものと受けとめた。 それを参考に、筆者は、学校経営者の役割を導き出す視点として下記 3 点を考えた。 ①従前型学校経営においては、この「プロセスを管理する」ことが重視され、調整機 能重視型のいわゆる管理職としての校長が生み出されたこと。 ②今後、自律型学校経営においては、「プロセスをリードする」ことのできる経営戦 略型の学校経営者(School Leader)としての校長が求められていること。 ③従って、これら両者の機能を経営の中に統合し、改革の「プロセスをリードする」 ことのできる強いリーダーシップの発揮こそが従前以上に求められること。 では、そのような経営者の育成はいかに行えばよいのか。 現在、教育経営研究者を中心に、「大学院における校長の資格・養成構想」が実現に 向かっている(15) 。今後の選択肢の 1 つとなるであろう。しかし、筆者は次期学校経営者 の育成にあっては、学校現場での育成が不可欠であると考える。 しかも、従前型学校経営下での育成ではなく、自律型学校経営をめざすそのプロセス での育成こそ重要なポイントと考える。それに関して、筆者と実践を共にした主要メン バーの意見集約(16) をしたところ、下記 5 点を抽出することができた。 ①経営参画に意欲的な意識で臨めるようになったこと(モチベーション) ②全校的視野に立って物事を見るようになったこと(マネジメント力) ③権限委譲により責任感を高揚させたこと(意思決定) ④改善に向かって連携意識が働いたこと(協働意識) ⑤仕事に取り組むことが人材育成につながること(エンパワーメント) これら項目は、「(企業)経営者に求められるコンピタンシー」(17) とも共通する要件ば かりである。これらが今後の学校経営者の必須要件となることは確実であり、しかも学 校現場でなければ獲得できない要件であることを考えると、管理職が、この人材育成に
果たす役割や責任は極めて大きいものがあると指摘せざるを得ない。 貴重なことは、彼らが自らの実践を振り返り、このような気づきを得たことである。 それこそが、学校現場における人材育成の優位性を示す、何よりの証拠ではないかと考 える。 8.まとめ 以上の考察から、「組織マネジメントの発想」導入は、企業マネジメント手法の学校 への単なる移入ではなく、実は、従前型学校経営を変えていくためのシステム改革=自 律型学校経営の確立に向けた教育改革戦略の決め手であると言える。その認識の上で、 求められる学校経営者の「新たな役割」を以下 3 点にまとめてみた。 ①明確な経営戦略に基づき「自律型学校経営」を推進していくこと。 ②マネジメント機能を統合させながら、改革の「プロセスをリードする」ことのでき るリーダーシップを発揮すること。 ③自らを含めた教職員の意識改革と次期管理職育成を強力に推進すること。 現在、「自律型学校経営の確立」そのものが実践的な経営課題である。学校経営者には、 相応する新しい経営感覚の獲得と主体的に課題解決できる見識・力量が問われている。 この経営スタイルが、今後の公立学校における通常の経営体制となり、保護者・市民 の参加・参画を得る中でその信頼を回復させ、21 世紀における日本の公教育のめざす 方向(学校づくり)として広く支持されることを願わずにはいられない。 ■註 (1) 教育改革国民会議著「教育改革国民会議報告∼教育を変える 17 の提案∼」(座長:江崎玲於 奈)、2000. 12, PP. 8-9 (2) 小島弘道『現代の学校経営改革の視野』日本教育経営学会編「自律的学校経営と教育経営」 玉川大学出版部、2000. 12、P. 17 (3) 加治佐哲也『「学校経営者」の拡大と限定』日本教育経営学会紀要第 47 号、2005. 5 P. 5 (4) 堀内 孜『学校経営組織』「新教育学大辞典」第1巻、1990 第一法規 (5) 大脇康弘『学校の自律性と教育委員会の権限・役割』「公教育の変容と教育経営システムの 再構築」日本教育経営学会編、玉川大学出版部、2000. 9 P. 172 以降参照 (6) 小島弘道『学校の教育意思と教職の専門性』吉本二郎編著「学校組織論」、第一法規、1976. 9 P. 256 以降参照 (7) 兼子 仁著「教育法(新版)」有斐閣 1978 年、PP. 453-465 参照 (8) 神田文人他編「戦後史年表」小学館、2005. 12 P. 139 (9) 教育改革国民会議報告 2000.12 PP.8-9 (10) 「(モデルカリキュラム)学校組織マネジメント研修 平成 16 年3月 (これからの校長・教 頭等のために)」文部科学省 HP 参照 (11) 「学校組織マネジメントとは何か」木岡一明編『学校組織マネジメント研修』教育開発研究 所 2004. 11 PP. 30-32 (12) 拙文(修士論文)PP. 84-87 参照 調査票は PP. 136-137 参照のこと (13) 拙文(修士論文)PP. 90-94 参照
(14) J.P. コッター著「企業変革力」日経 BP 社、2002. 4 (「本書は、1997. 6 に同社から刊行された『21 世紀の経営リーダーシップ』を改題、一部改訳したもの」との注がある)PP. 45-51 (15) 小島弘道編著「校長の資格・養成と大学院の役割」東信堂、2004. 1 松村千鶴著「大学院における学校管理職養成講座の運営と今後の展望」日本教育経営学会紀 要 第 48 号、2006 年 に詳しい。 (16) 拙文(修士論文)PP. 106-116 参照 (17) 大沢武志著「経営者の条件」岩波書店、20004. 9. PP. 87-90