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古代琴柱の実用性

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Academic year: 2021

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奈文研紀要 2016

はじめに  琴柱は琴の弦を承ける調律具であると同時 に、「木製模造品」としても理解されている。琴柱には ふたつの性格が与えられ、実用品と祭祀具とを峻別する 必要性がある。もちろん、日常用具が祭祀に用いられる こともあるので、両者を区分することは難しい。しかし、

一定の基準を見出し、実用品として確実な事例を示して おく必要はあろう。

 本稿では、平城宮・京跡の琴柱をもとに実用品を峻別 する基準を示し、実用品のいくつかを提示したい。なお、

ここでは琴に装着し調律の機能を発揮しうるものという 意味で、実用品という用語を使用しておく。

研究史―法量の基準  従来、おもに法量をもとに非実 用性を推量していたようだが、具体的な数値は示されて いない。たとえば、「構造上の問題」、あるいは「大きす ぎるもの(隣の弦に触ってしまうであろう)、背が高すぎる もの、極端に薄いもの、きちんと上を向いて立たないも の」といった表現にとどまる 1)

 また、木簡の転用品がみられることが一時的な使用を 示すとして、非実用性の根拠とされる 2)

弦承け溝の使用痕  実際に琴に装着し弦を張って長期 間使用したのであれば、琴柱の弦承け溝に使用痕がみら れるはずである。これまでにも一部の発掘調査報告書の なかで、言及されてきた。

 いくつかの例をみてみよう(図37)。1は、弦承け溝 に複数条の圧痕が観察できる。圧痕は糸のように細く、

弦のあたりと判断できる。また、2では、弦承け溝が摩 滅しており、弦によって擦れたもので使用痕といえる。

いっぽう、3では、弦承け溝をつくる際に切り取り損ね た断片が残されている。弦を張って長期に使用したとは 思われない。未使用の琴柱であろう。

 ただし、実用目的で製作されたとしても、未使用であ れば、あるいは短期的な使用の場合には、使用痕は残ら ない。弦承け溝にみる痕跡は、琴柱の実用性を判断する 際の絶対条件にはなりえない点には注意を要する。

 なお、1は実用の琴柱であるが、両端には折り取った 痕跡を残し、粗製である。厚さも0.6㎝と厚く直立するが、

形態だけからでは実用性をうかがいにくい。

番付を記す琴柱  伝世品の正倉院御物(図39-6)と法隆 寺献納宝物(同7)では、下辺の抉り中央に番付を示す 漢数字の墨書をもつ。また、後期難波宮跡から出土した 筝柱には、刻書で「二」と記されている 3)。実際に使用 された琴柱には番付を記すことがあったのである。

 平城宮跡から出土した琴柱のなかに、「二」の墨書を もつ例がある(図38)。弦承けには明確な使用痕がないも のの、番付の墨書を重視して実用品と判断できよう。

 ただし、平面形が台形状であること、厚さが0.4㎝と 薄いことなどは、非実用性をも思わせる。しかしむしろ、

形態や法量だけからでは実用性を判断しにくいことを示 していると考えられるのではないだろうか。

新羅琴の琴柱  正倉院御物に伝わる新羅琴の琴柱と類 似する出土例があることは、すでに知られている 4)。新 羅琴柱は黒漆塗りで、側辺が内湾し、下辺の刳り込み

古代琴柱の実用性

図₃₇ 琴柱の弦承け溝にみる使用痕

図₃₈ 番付の墨書をもつ琴柱 3㎝

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1. 使用痕の事例1【弦のあたり】 平城宮跡東院 SD5785(44 次)

2. 使用痕の事例2【磨滅】 平城京跡左京三条二坊 SD5100(200 次)

3. 未使用の事例 平城宮跡東院 SD4951(39 次)

0 3㎝

赤外線写真

表面 表面 裏面

平城宮跡基幹排水路 SD2700(172 次)

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Ⅰ 研究報告

が二段となる点を最大の特徴とする(図39-5~7)。また、

厚さが1.0㎝前後と厚いことも大きな特徴といえる。

 出土例では、白木の4例がみられる(同1~4)。伝世 品との形態差はややあるが、上記の特徴を備えている。

新羅琴の琴柱を模しており、実用品と判断したい。

 ただし、使用される樹種は両者で異なる。伝世品では

「黒柿」・「紫壇」・「山吹」の可能性が指摘され、樹種の

選択性を読み取れる。他方、出土品はヒノキが多く

5)、 平城宮跡で出土する木製品と同じ傾向を示す。単純に比 較できないが、相違点として注意しておきたい。

おわりに  琴柱の実用性を判断する、3つの視点を提 示した。いずれも絶対条件とはならないが、実用性を読 み解くひとつの基準とはなろう。なかでも、弦承け溝の 観察は、多くの個体で可能であり有効でもある。また、

形態や法量だけからでは、実用性を判断するには充分で はないことも確認できた。

 琴柱の出土例は大幅に増加し、和琴の琴柱も確認され るようになった。今まさに、分類と編年を再検討できる 時機を迎えている。他日に期したい。  (和田一之輔)

1) 金子裕之「木製模造品」『神道考古学講座』第3巻、雄山 閣、1981。笠原潔『埋もれた楽器』春秋社、2004。

2) 伊藤律子「琴柱―その出現から衰退の検証―」『東海の路』、

2004。また、伊藤は、琴柱が一枚の薄板材から連続的に 製作されることをあきらかにした。

3) 野川美穂子「難波宮跡出土のコト柱について」『大阪城址

Ⅲ』(財)大阪府文化財センター、2004。

4) 町田章編『木器集成図録―近畿古代篇』奈良国立文化財 研究所、1985。

5) 図38と図39-1・3の樹種同定は、藤井裕之氏に実施いただ いた。針葉樹は柾目面のみ、広葉樹の場合はさらに木口面、

板目面の切片を採取し、生物顕微鏡下で観察する方法を 採った。上記以外の樹種は、各報告書等の記載に拠った。

5㎝

0

1. 平城宮跡基幹排水路 SD2700(21 次西)/広葉樹 2. 平城宮跡基幹排水路 SD2700(21 次西)/ヒノキ 3. 平城宮跡東方官衙 SK19189(440 次)

            /ヒノキ科

7. 法隆寺献納宝物(金箔押新羅琴柱)

4. 平城京跡左京三条二坊 SD4750(193 次 E)

      /ヒノキ

6. 正倉院御物(金箔押新羅琴柱)

5. 正倉院御物(金泥絵新羅琴柱)/黒柿

図₃₉ 出土品と伝世品にみる新羅琴の琴柱

図₄₀ 新羅琴の琴柱と番付の墨書をもつ琴柱

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