労働契約法20条の解釈と「同一労働同一賃金」 : メトロコマース事件を契機として
著者 土田 道夫
雑誌名 同志社法學
巻 69
号 7
ページ 2840‑2783
発行年 2018‑02‑28
権利 同志社法學會
URL http://doi.org/10.14988/pa.2019.0000000296
労働契約法20条の解釈と
「同一労働同一賃金」
――メトロコマース事件を契機として――
土 田 道 夫
Ⅰ 本稿の目的
Ⅱ 労働契約法20条・パートタイム労働法8条
Ⅲ 同一労働同一賃金
Ⅳ 労働契約法20条の解釈方法と「同一労働同一賃金」
Ⅴ メトロコマース事件の検討
Ⅵ 結 語
Ⅰ 本稿の目的
本稿は、労働契約法(以下「労契法」ともいう)20条と「同一労働同一賃 金」との関係性を探りつつ、20条の解釈に際して「同一労働同一賃金」が有 する意義について考察するとともに、最近の裁判例(メトロコマース事件)(1)
について検討することを目的とする。
周知のとおり、最近、有期契約労働者の労働条件格差をめぐる紛争が生じ ており、そこでは、労契法20条の解釈適用のあり方が最大の争点となってい る。20条は、有期契約労働者の雇用・労働条件保護を目的として行われた 2012年の労契法改正によって立法化された規定である。
2012年の労契法改正は、非正規労働者(有期契約労働者、パートタイマー、
(1)メトロコマース事件・東京地判平成29・3・23ジャーナル62号2頁
派遣労働者)の激増(2016年で全雇用者の37.5%を占める)という雇用社会 の急激な変化を踏まえて実現した。この点、有期契約労働者の法的保護に関 する課題は大別して、ⓐ契約期間の満了に伴う労働契約終了(雇止め)から の保護、ⓑ契約期間中の労働契約終了(中途解雇)からの保護、ⓒ賃金・労 働条件の保護に分かれる。このうち、ⓑについては、2007年制定の労働契 約法17条1項が中途解雇を「やむを得ない事由」がある場合に制限する規定 を立法化した。これに対し、ⓐ・ⓒに関する法制度は長らく存在しなかった が、2012年に至って労契法の改正が成就し、ⓐについては、判例法理とし ての雇止め規制法理をほぼそのまま踏襲する立法が整備される(19条)とと もに、有期労働契約が5年を超える場合の無期労働契約への転換規定(18条)
が導入された。そして、ⓒについて、無期契約労働者(正社員)との間の不 合理な労働条件相違を禁止する規定として導入されたのが20条である。
後に見るとおり(Ⅱ)、労契法20条は、有期契約労働者の労働条件相違に ついて、3つの考慮要素を設けて「期間の定めがあること」を理由とする不 合理な相違を禁止する規定であり、「均衡待遇ルール」を規定したものである。
20条は、無期契約労働者(正社員)との間の賃金・労働条件格差の是正を求 める有期契約労働者の訴訟が複数提起されるに及んで脚光を浴び、2016年 には、2件の高裁判決が示されるに至った(ハマキョウレックス[控訴]事 件・大阪高判(2)、長澤運輸[控訴]事件・東京高判(3))。そして、本年(2017年)、
前掲メトロコマース事件東京地裁判決(注1)が下され、9月14日には、日 本郵便事件東京地裁判決(3a)が下された(本稿「追記」参照)。
一方、2016年には、政府の「働き方改革実現会議」が発足し、「同一労働 同一賃金など、非正規雇用の処遇改善」を重要テーマに掲げ、検討を開始し た。「同一労働同一賃金」政策は異例のスピード感をもって進み、2016年12 月20日、「同一労働同一賃金ガイドライン案」(以下「ガイドライン案」)(4)が
(2)大阪高判平成28・7・26労判1143号5頁。
(3)東京高判平成28・11・2労判1144号16頁。
(3a)東京地判平成29・9・14労判1164号5頁。
公表され、本年(2017年)3月28日には「働き方改革実行計画」が公表さ れた(以下「実行計画」)(5)。「実行計画」は、長時間労働の是正(時間外労働 の上限規制)とともに、非正規雇用の処遇改善(同一労働同一賃金)を主要 な柱としており、その後の労働政策審議会「同一労働同一賃金に関する法整 備について(建議)」(2017年6月9日。以下「建議」)は、より具体的な立 法構想を提示するに至っている(6)。これを受けて、2018年には、関係労働法 令の改正法案が国会に提出される可能性がある(本稿「追記」参照)。
ところで、「同一労働同一賃金」は、その本来の語義によれば、職務内容 が同一の労働者に対しては同一の賃金を支払うべきであるとのルール(均等 待遇ルール)を意味する。しかし、現在提案されている「同一労働同一賃金」
は、それとは一致しない。後述するとおり(Ⅲ1)、「同一労働同一賃金」は、
賃金を含む労働条件・処遇に関して合理的理由のない格差を禁止しつつ、合 理的理由があれば許容するルールであり、「均等待遇ルール」を含むものの、
全体としては「均衡待遇ルール」を内容とするものである。この意味で、「同 一労働同一賃金」は、「不合理な労働条件相違の禁止」(労契20条、短時労8 条[Ⅱ1])を前提に、これを明確化しつつ、その実効性を高めようとする ものである。
それでは、「不合理な労働条件相違の禁止」と「同一労働同一賃金」はい かなる関係に立つのか。また、現在争われている労契法20条(不合理な労働 条件相違の禁止)をめぐる訴訟において、「同一労働同一賃金」の考え方を 活かすことはできないのか。換言すれば、20条の解釈に際して、「同一労働 同一賃金」はいかなる意義を有するといえるか。本稿では、学説・裁判例を 整理し、上記の論点について理論的に考察した上、メトロコマース事件につ いて立ち入った検討を行いたいと考える。
(4)http://www.kantei.go.jp/jp/singi/hatarakikata/dai5/siryou3.pdf
(5)http://www.kantei.go.jp/jp/singi/hatarakikata/dai10/siryou1.pdf
(6)http://www.mhlw.go.jp/file/05-Shingikai-12602000-Seisakutoukatsukan-Sanjikanshitsu_
Roudouseisakutantou/0000167397.pdf
Ⅱ 労働契約法20条・パートタイム労働法8条
1 意 義(7)
労契法20条は、「有期労働契約を締結している労働者の労働契約の内容で ある労働条件が、期間の定めのあることにより同一の使用者と期間の定めの ない労働契約を締結している労働者の労働契約の内容である労働条件と相違 する場合においては、当該労働条件の相違は、労働者の業務の内容および当 該業務に伴う責任(以下この条において「職務の内容」という。)、当該職務 の内容及び配置の変更の範囲その他の事情を考慮して、不合理と認められる ものであってはならない。」と規定する。また、2014年に改正されたパート タイム労働法(短時間労働者法)8条は、パートタイマー(短時間労働者)
について、労契法20条とほぼ同一内容の規定を設け、「不合理な待遇相違の 禁止」を規定している。
労契法20条について一致して認められている点は、以下のとおりである。
第1に、20条は、私法的効果を有する強行法規である(8)。2007年制定の同 法制定時に盛り込まれた「均衡考慮の原則」(3条3項)が訓示規定にとど まるのに対し、20条は、「均衡考慮の原則」を強化して私法的強行法規とし て規定されたものである。
第2に、20条は、2014年改正パートタイム労働法9条のように、有期契 約労働者の差別的取扱いの禁止(均等待遇原則)を規定したものではない。
すなわち、パートタイム労働法9条は、「通常の労働者と同視すべき短時間 労働者に対する差別的取扱いの禁止」と題して、職務内容および雇用の全期
(7)労契法20条については、土田道夫『労働契約法[第2版]』(有斐閣・2016年)790頁以下、
荒木尚志=菅野和夫=山川隆一『詳説労働契約法[第2版]』(弘文堂・2014)228頁など参 照。パートタイム労働法8条については、土田・前掲書815頁以下、櫻庭涼子「公正な待遇 の確保」ジュリスト1476号(2015)22頁など参照。
(8)荒木=菅野=山川・前掲(7)書228頁、櫻庭凉子「労働契約法20条 期間の定めがあるこ とによる不合理な労働条件の禁止」荒木尚志編著『有期雇用法制ベーシックス』(有斐閣・
2014)116頁。裁判例として、前掲(2)ハマキョウレックス[控訴]事件、前掲(3)長 澤運輸[控訴]事件。
間における人材活用の仕組み(職務内容・配置の変更の範囲)が通常の労働 者と同一であることを要件に、賃金をはじめとして、労働時間を除く待遇(労 働条件)に関する一切の差別的取扱いを禁止している(9)。これに対して、労契 法20条は、有期契約労働者の労働条件相違について、①労働者の職務の内容
(業務の内容・当該業務に伴う責任)、②職務の内容および配置の変更の範囲
(人材活用の仕組み)および③その他の事情(後述)を考慮要素として「期 間の定めがあること」を理由とする不合理な相違を禁止している。つまり、
20条は、有期契約・無期契約労働者間の労働条件格差を認めつつ、それが不 合理なものでないことを命ずる規定であり、「均等待遇ルール」ではなく、「均 衡待遇ルール」を規定したものである。
第3に、20条は、有期労働契約を締結している労働者(有期契約労働者)
に適用される。したがって、有期契約労働者であれば、雇用管理上の名称を 問わず、また、労働時間面でパートタイマーかフルタイマーかを問わず適用 される(他方、無期契約転換労働者[労契18条]や、有期契約労働者間の労 働条件の相違には適用されない)。「労働条件」は、賃金、労働時間のほか、
災害補償、服務規律、教育訓練、付随義務、福利厚生等、労働者の待遇一切 を包含する包括的概念とされている(10)。
第4に、20条所定の労働条件相違の不合理性の判断に際しては、①労働者 の職務の内容(業務の内容・業務に伴う責任の程度)、②職務の内容・配置 の変更の範囲、③その他の事情を考慮した上、「期間の定めがあることによ」
る不合理な相違か否かを判断するものとされる。このうち、①中の「業務に 伴う責任の程度」としては、業務に伴い付与される権限の範囲・程度として 決済権限、部下の数、業務の成果について求められる役割、トラブル発生時 の対応、臨時・緊急時の対応、ノルマ、所定時間外労働の有無・程度等が挙 げられ、②職務の内容および配置の変更の範囲(人材活用の仕組み)は、今 後の見込みも含め、転勤・昇進等の人事異動や本人の役割の変化等(配置の
(9)パートタイム労働法9条については、土田 ・ 前掲(7)書816頁以下参照。
(10)労契法の施行通達(平成24・8・10基発0810第2号)6(2)イ。土田・前掲(7)書793頁。
(11)土田 ・ 前掲(7)書794頁以下参照。
変更を伴わない職務内容の変更を含む)の有無・範囲を意味する。また、③ その他の事情としては、合理的な労使慣行や労働条件の設定手続・労働者側 との交渉経緯のほか、有期契約労働者の均衡待遇に関して考慮される多様な 要素が含まれるものと解される(有期契約労働者・無期契約労働者間の属人 的な要素の違い[年齢、勤続年数、経歴]、拘束度の違い[労働時間・休日・
休暇設定の自由度、所定外労働の有無、兼職の自由の有無]、個々の企業の 人事戦略等)(11)。ただし、上記①ないし③の軽重に係る位置づけについては争 いがある(本項2⑴参照)。
2 「不合理な労働条件相違の禁止」ルールの要件・効果
以上に対して、労契法20条の中核的要件を成す「不合理と認められるもの であってはならない」の意義および同条違反の効果については鋭い理論的対 立がある。
⑴ 要 件
まず、要件面では、3つのレベルでの対立が見られる。
第1に、20条が「合理的な労働条件と認められなければならない」ではな く、「不合理と認められるものであってはならない」と規定したことの意義 をどう解するかが問題となる(以下「論点ⓐ」ともいう)。この点、両者の 違いが労働条件相違の不合理性に関する主張立証責任に関連することは明確 である。すなわち、有期契約労働者の労働条件が「合理的な労働条件と認め られなければならない」との規定であれば、労働条件が期間の定めを理由と する合理的なものであることを基礎づける事実について使用者が主張立証責 任を負う。これに対し、「不合理と認められるものであってはならない」と の規定であれば、有期契約労働者は、労働条件が期間の定めがあることを理 由とする不合理なものであることを基礎づける事実(評価根拠事実)を主張
立証する一方、使用者は、不合理性の評価を妨げる事実(当該労働条件が期 間の定めを理由とする合理的なものであることを基礎づける事実=評価障害 事実)に関する主張立証責任を負うことになる(12)。
問題は、この2つの規定振りの違いによって実体法上の差異(法的規律の 強弱)まで肯定すべきか否かである。この点については、「不合理と認めら れるものであってはならない」は、実体法上は「合理的理由のない労働条件 格差の禁止」と同義と解する見解(合理的理由説)(13)と、「合理的理由のない 労働条件格差の禁止」より緩やかな(弱い)規律と解し、労働条件の相違に 合理的理由があることまで求める趣旨ではないと解する見解(著しい不合理 性説)(14)が対立している。
著しい不合理性説によれば、労契法20条は、有期契約労働者の労働条件が 無期契約労働者の労働条件に比して単に低いだけでなく、法的に否認すべき 程度に不公正に低い場合に限定する趣旨に立つものとされる。この結果、労 働条件の相違については、①合理的理由がある場合、②合理的理由はないが、
不合理な相違とまではいえない場合、③不合理である場合の3つが想定され、
①②については20条違反が否定されることになる(15)。これに対し、合理的理由 説は、労働条件の相違が「不合理と認められるものであってはならない」こ とと「合理的と認められるものでなければならない」ことは、主張立証責任 はともかく、実体法上は同一の意義と考える。これによれば、20条の「不合 理な労働条件相違の禁止」ルールは、実質的には「合理的理由のない労働条 件・処遇格差の禁止」ルールを意味することになる。裁判例の傾向は必ずし
(12)施行通達第5の6(2)キ。同旨、荒木=菅野=山川・前掲(7)書235頁。裁判例として、
前掲(2)ハマキョウレックス[控訴]事件。
(13)土田・前掲(7)書795頁以下、緒方桂子「改正労働契約法20条の意義と解釈上の問題」
季労241号(2013)24頁、奥田香子 「改正パートタイム労働法と均等・均衡処遇」 季労246 号(2014)22頁、西谷敏『労働法[第2版]』(日本評論社・2013)452頁。
(14)菅野和夫『労働法[第11版補正版]』(弘文堂・2017)337頁以下、荒木=菅野=山川・前 掲(7)書234頁。
(15)緒方桂子「労契法20条解釈の視座―『不合理性』の意味を中心に―」日本労働法学会誌 128号(2016)52頁参照。
も明らかでないが、後述するとおり(⑶)、著しい不合理性説を採用したと 見られる例があり、メトロコマース事件も同説を採用している。
第2に、労契法20条が労働条件相違の不合理性の判断基準として掲げる① 職務の内容、②職務の内容・配置の変更の範囲および③その他の事情の3要 素の位置づけについても対立がある(以下「論点ⓑ」ともいう)。この点に ついては、有期契約労働者・無期契約労働者の間で①・②に違いがない場合 につき、20条が「不合理性」の判断要素として①・②を明示していることを 重視して、労働条件の格差(相違)が不合理と解される可能性が高まると解 する見解(職務の内容・配置の変更の範囲重視説)と、①・②とともに③に ついても同程度の重みをもつ要素と解し、3要素を総合的に考慮して不合理 性を評価すべきであると説く見解(3要素総合判断説)が対立している。裁 判例では、長澤運輸事件一審(16)が職務の内容・配置の変更の範囲重視説に近い 判断を示したのに対し、同[控訴]事件(注3)は、3要素総合判断説を採 用して判断している。
第3に、有期契約労働者・無期契約労働者間で上記①ないし③に明確な違 いがある場合に、労働条件相違(格差)の不合理性の程度を問題とすべきか 否かについても見解が分かれうる(以下「論点ⓒ」ともいう)。この点は、
特に基本給・賞与等の中核的労働条件について問題となるが、一方では、こ れら中核的労働条件は①職務の内容・②職務の内容および配置の変更の範囲 によって決定されることから、有期契約・無期契約労働者間でこれら2要素 に違いがあれば、労働条件相違の不合理性を否定する見解(相違の程度非考 慮説)が考えられる。他方、これに対しては、両労働者間に上記の点で違い がある場合も、その違い以上に基本給等の労働条件に著しい相違がある場合 は不合理性が肯定されると解する見解(相違の程度考慮説)が見られる(17)。相 違の程度考慮説によれば、有期契約・無期契約労働者の間で①ないし③に違
(16)東京地判平成28・5・13労判1135号11頁。
(17)土田・前掲(7)書800頁。同旨、緒方・前掲(13)論文24頁、奥田・前掲(13)論文22頁。
荒木=菅野=山川・前掲(7)書237頁も基本的に同旨。
いがあり、労働条件相違を設けることに合理的理由がある場合も、その相違 は相当な範囲内にとどまることを要し、当該違いを超えて労働条件に著しい 相違が生じている場合は、労働条件相違の不合理性が肯定されることになる。
以上のほか、労契法20条が定める「期間の定めがあることにより」の意義 についても争いがある(以下「論点ⓓ」ともいう)。すなわち、①期間の定 めの有無と労働条件相違の間の因果関係を求める独立の要件と解する見解 と、②これを独立の要件と解する必要はなく、有期契約・無期契約労働者間 に労働条件の相違があれば、まずは20条の審査対象とした上で、期間の定め による相違か否かは不合理性の審査において判断すべきと解する見解の対立 である(18)。裁判例は、①説に近い立場を採用しつつ、要件の内容を緩やかに解 している(本項⑶(ウ))。
⑵ 効 果
労契法20条は、私法的効力を有する規定であるから、同条違反の効果とし て、不合理と認められる労働条件を定めた労働協約・就業規則・労働契約の 定めは無効となり、当該定めによる取扱いは不法行為(民709条)として損 害賠償責任を発生させる。したがって、基本給等の賃金の相違が不合理と判 断された場合、有期契約労働者は、過去の差額賃相当額(逸失利益)の損害 賠償を請求することができる(19)。
(18)山本陽大「長澤運輸事件判批」季労254号(2016)140頁参照。
(19)土田・前掲(7)書802頁、荒木=菅野=山川・前掲(7)書244頁、櫻庭・前掲(8)論文 117頁、西谷敏=野田進=和田肇編『基本法コンメンタール労働基準法・労働契約法』(日 本評論社・2012)431頁[野田進]、緒方・前掲(13)論文28頁。不法行為による損害賠償 責任の肯定例として、前掲(2)ハマキョウレックス[控訴]事件。
なお、労契法20条によって労働条件の相違が不合理と判断された場合の救済範囲につい ては、○ⅰ当該労働条件(賃金であれば、無期契約労働者との間の賃金差額)全体が不合理 と判断され、労働者は差額賃金相当額全部を請求できるとする見解と、○ⅱ当該労働条件の 一部(賃金であれば、たとえば無期契約労働者の賃金の8割以下となる格差部分)が不合 理とされて無効と判断され、労働者は当該差額賃金相当額を請求できるとする見解(割合 的認定説)がありうる。私は、20条が①職務の内容、②職務の内容・配置の変更の範囲、
③その他の事情を不合理性の考慮要素と規定している以上、これら要素に基づく賃金の相
これに対し、労契法20条によって無効とされた労働条件について同条の直 律的効力を肯定し、有期契約労働者の差額賃金請求権を肯定すべきか否かに ついては争いがある。この点、施行通達(第5の6⑵カ)は、20条違反の効 果について、「無効とされた労働条件については、基本的には、無期契約労 働者と同じ労働条件が認められる」と述べて直律的効力を肯定しており、こ れによれば、有期契約労働者は、差額賃金相当額の損害賠償ではなく、差額 賃金それ自体を請求できることになる(20)。一方、これに対しては、労契法20条 が同法12条や労基法13条に相当する直律効規定を設けていない以上、直律 的効力を肯定することは適切でないと説く否定説も有力である。これによれ ば、20条固有の直律的効力とは別に、労使間の具体的規範(労働協約・就業 規則・労働契約)の合理的解釈によって当該無効部分を補充することは可能 であるが、それが困難な場合は、不法行為による差額賃金相当額の損害賠償 の救済にとどめることが適切とされる(21)。私は、否定説を支持する(22)。
⑶ 裁判例
裁判例としては、本稿が対象とするメトロコマース事件のほか、ハマキョ ウレックス[控訴]事件および長澤運輸事件(一審)・長澤運輸[控訴]事 件が重要である。
ア ハマキョウレックス[控訴]事件(23)
まず、ハマキョウレックス[控訴]事件(注2)は、貨物運送会社の契約
違は正当化されるものと解し、○ⅱ説(割合的認定説)が妥当と考える(土田・前掲(7)
書802頁)。
(20)西谷・前掲(13)書453頁、野田・前掲(19)解説431頁。
(21)菅野・前掲(14)書239頁、荒木=菅野=山川・前掲(7)書245頁。裁判例として、前掲
(2)ハマキョウレックス[控訴]事件。
(22)土田・前掲(7)書803頁。本稿では、労契法20条の要件の理論的考察を課題とするので、
同条の効果論についてはこれ以上立ち入らない。
(23)ハマキョウレックス[控訴]事件については、毛塚勝利[判批]法時89巻9号(2017)
130頁、山本陽大「判批」労判1148号(2017)12頁、小西康之「判解」ジュリスト1498号(2016)
4頁、相澤美智子「判解」ジュリスト1505号(2017)242頁など参照。
社員ドライバー(有期契約労働者)と正社員ドライバー(無期契約労働者)
の間の賃金・労働条件の相違の不合理性が争われた事案である。具体的には、
無事故手当・作業手当・給食手当・住宅手当・皆勤手当・家族手当は正社員 にのみ支給され、通勤手当は正社員5000円、契約社員3000円とされ、一時金・
退職金も契約社員には原則として支給されず、定期昇給も原則として行われ ない。一方、正社員と契約社員の間で業務内容に大きな相違はないが、正社 員については、等級・役職への格付けを通して処遇・配置が行われ、教育訓 練の受講義務があり、配転・出向を含む全国規模(場合によっては海外)の 広域移動の可能性があり、将来、支店長や事業所管理責任者等の会社の中核 を担う人材として登用される可能性がある者として育成されるのに対し、契 約社員の場合は配転・出向を予定されず、会社の中核を担う人材として登用 される可能性がある者として育成される地位にないという違いがある。
判決は、正社員と契約社員の間には、職務遂行能力の評価や教育訓練等を 通じた人材の育成および等級・役職への格付や、これらを踏まえた広域移動 や人材登用の可能性等の人材活用の仕組みの有無に基づく相違が存在すると ころ、労働条件の相違が労働契約法20条所定の「不合理と認められるもの」
に当たるか否かについては、同条所定の考慮事項(①職務の内容・②職務の 内容および配置の変更の範囲・③その他の事情)を踏まえて、個々の労働条 件ごとに慎重に検討しなければならないと述べる。その上で、無事故手当・
作業手当・給食手当・通勤手当の格差については、上記①および②との関連 性が乏しいことを理由に労契法20条違反と判断し、不法行為に基づく損害賠 償請求を認容した。一方、住宅手当については、正社員は転居を伴う配転を 予定しており、配転を予定しない契約社員と比べて住宅コストの増大が見込 まれることを理由に不合理性を否定し、皆勤手当については、乗務員の精勤 を奨励する趣旨であるから、正社員にのみ支給することは合理的とはいえな いが、契約社員についても、全営業日に出勤した場合は昇給や時間給の増額 が行われていることから直ちに不合理とは評価できないと判断している。さ らに、家族手当、一時金、定期昇給および退職金については、労契法20条が
直律的効力を有しないことや、就業規則の合理的解釈によって正社員に関す る規定の適用を認めることはできないこと(本項⑵参照)を理由に、同条違 反の成否について判断することなく、契約社員が正社員と同一の権利を有す る地位にあることの確認請求を棄却した。
本判決は、有期契約労働者の賃金(特に諸手当)に関する重要な裁判例で あり、先例性が高い。この点、本件一審判決(24)は、労契法20条所定の「不合理 と認められるもの」とは、有期契約労働者と無期契約労働者間の労働条件の 相違が当該企業の経営・人事制度上の施策として不合理と評価せざるをえな いものを意味すると述べ、論点ⓐに係る著しい不合理性説を採用した上、通 勤手当を除くすべての賃金・手当に関する相違の不合理性を否定する判断を 示していた。この判断と比較すると、本判決は、論点ⓐに関する立場は明確 でないものの、賃金・労働条件格差の不合理性について積極的な司法審査を 行う判断であり、参照価値が高い。ただし、特に住宅手当・皆勤手当の格差 について不合理性を否定した判断には異論がありえよう(25)。
イ 長澤運輸事件
長澤運輸事件は、高年齢者雇用安定法上の高年齢者雇用確保措置(継続雇 用制度[9条1項参照])によって再雇用されたタンク車乗務員(有期契約 労働者)と正社員乗務員(無期契約労働者)の賃金格差(2割強)が争われ た事案である。正社員乗務員の賃金は、基準内賃金と基準外賃金によって構 成され、このうち基準内賃金は、基本給(在籍給・年齢給)、職務給、精勤 手当、役付手当、住宅手当、無事故手当および能率給であり、基準外賃金は 家族手当、超勤手当、通勤手当から成るほか、月例賃金以外に基本給5ヶ月 分の賞与および退職金が支給される。他方、嘱託社員の賃金は、基本賃金(12 万円強)、歩合給、無事故手当、老齢厚生年金の報酬比例部分が支給されな
(24)大津地彦根支判平成27・9・16労判1135号59頁
(25)土田・前掲(7)書801頁参照。
い期間についての調整給、通勤手当、時間外手当から成り、賞与・退職金の 支給はない。本件がハマキョウレックス事件と異なるのは、有期契約労働者 と無期契約労働者の間で業務内容(バラセメントの配送)に違いがないのみ ならず、ともに業務の都合により配転を命じられる立場にある点でも同一で あり、両者は、労契法20条が考慮要素と定める①職務の内容、②職務の内容 および配置の変更の範囲が同一であったという点である。
一審判決は、この点を重視して賃金格差の不合理性を肯定した(26)。その際、
判旨は、20条は「不合理性」の考慮要素として①・②を明示している以上、
同条がこれらを特に重要な要素に位置づけていることは明らかであること、
パートタイム労働法9条が、通常の労働者と同視すべきパートタイマーにつ いて、上記①・②が通常の労働者と同一である限り、その他の事情を考慮す ることなく賃金を含む待遇について差別的取扱いを禁止していることに鑑み ると、有期契約労働者・無期契約労働者間で①・②が同一であるにもかかわ らず、賃金額について相違を設けることは、その相違の程度にかかわらず、
これを正当と解すべき特段の事情がない限り、不合理との評価を免れないと 判断している。そして、具体的判断としても、有期契約労働者の賃金格差に ついて、上記①・②の同一性を認定した上、賃金格差を正当化する特段の事 情を否定して、正社員就業規則の適用を受ける労働契約上の地位を確認した。
この判断は、有期契約労働者・無期契約労働者の間で①職務の内容・②職 務の内容・配置の変更の範囲が同一である限り、原則として(特段の事情が ない限り)不合理と解する判断であり、前述した論点ⓑとの関係では、職務 の内容・配置の変更の範囲重視説に近い判断を示したものである。労契法20 条の実効性を高める判断と評価できるが、③その他の事情を等閑視して判断 した点には疑問がある(Ⅳ6参照)(27)。
(26)前掲(16)。本判決については、竹内(奥野)寿「判解」ジュリスト1495号(2016)4頁、
山本・前掲(18)判批140頁、山田省三「判批」労旬1869号(2016)44頁、荒木尚志「判批」
労判1146号(2017)5頁など参照。
(27)このほか、本判決については、有期契約労働者・無期契約労働者間の賃金相違の不合理
これに対し、長澤運輸[控訴]事件(注3)は、一審判決を取り消して賃 金格差の不合理性を否定し、適法と判断した(28)。判決は、一審と同様に①・② の同一性を認定しながら、③その他の事情によって賃金格差の不合理性を否 定している。判旨は、③その他の事情について、○ⅰ本件のような定年後継 続雇用制度における有期労働契約では、職務内容や変更の範囲が同一であっ ても、定年前より賃金額が減額されることは一般的であり、社会的にも容認 されていると判断し、また、○ⅱ会社が無期契約労働者の能率給に対応する ものとして有期契約労働者に歩合給を設け、老齢厚生年金の報酬比例部分の 不支給期間に調整給を支払うなど、正規雇用労働者との賃金差額を縮める努 力をしたことや、○ⅲ継続雇用後の賃金について組合との間で不十分ながら 団体交渉を行っていること等を理由に賃金格差の不合理性を否定している。
この判断は、①・②の同一性を認定しながら、③その他の事情によって賃 金格差の不合理性を否定しており、論点ⓑとの関係では、3要素総合判断説 を採用したものと見られる。しかし、後述のような疑問がある(Ⅳ6)(29)。 上記2事件以外の裁判例としては、宅配会社で運行業務に従事する有期契 約労働者と正社員間における賞与の査定・支給方法の相違につき、①職務の
性に関して、20条とは規範としての性格が全く異なるパートタイム労働法9条(均等待遇 原則)を援用して判断している点にも疑問がある(土田・前掲(7)書797頁、山本・前掲
(18)判批147頁参照)。
(28)長澤運輸[控訴]事件については、水町勇一郎「判解」ジュリスト1501号(2016)4頁、
山川隆一「判批」論究ジュリスト20号(2016)104頁、荒木・前掲(26)判批5頁、本久洋 一「判批」法時89巻4号(2017)129頁、緒方桂子「判解」ジュリスト1501号(2017)239 頁など参照。
(29)このほか、本判決については、有期契約労働者と無期契約労働者の賃金構成全体の不合 理性を対象に判断する点についても疑問が生じうる。すなわち、労働条件相違の不合理性 は、本文の①~③を考慮して個々の労働条件ごとに判断されるべきものと解されている(施 行通達第5の6(2)オ)。前掲(2)ハマキョウレックス[控訴]事件、本稿で取り上げ る前掲(1)メトロコマース事件はこのような判断方法を採用している)ところ、本判決は、
基本給、諸手当等の多様な給付を含む賃金体系全体について判断している。しかし、一口 に賃金といっても、個々の給付の性格が異なる以上、賃金の不合理性については、個々の 給付ごとに判断すべきものであろう(同旨、長澤運輸事件[一審]につき、山本・前掲(18)
判批148頁)。
内容・②職務の内容・配置の変更の範囲に違いがあることを前提に、支給月 数の差は格別大きくないため不合理とはいえず、また、査定の方法の違いも 不合理とはいえないとして労働契約法20条違反を否定した例(30)や、長澤運輸事 件と同様、定年後継続制度によって再雇用された車両管理者(有期契約労働 者)と正社員車両管理者間の賃金格差につき、労働者による同一価値労働同 一賃金原則の主張を斥けて不合理性を否定した例(31)がある。
ウ 論点ⓓに係る判断
前述した論点ⓓについては、裁判例は、①説と同様、労契法20条が定める
「期間の定めがあることにより」を独立の要件と解しつつ、その内容を緩や かに解する立場を採用している。たとえば、長澤運輸[控訴]事件(注3)
は、上記文言については、有期契約労働者と無期契約労働者の間の労働条件 の相違が期間の定めの有無に関連して生じたものであることを要するとの趣 旨と解すべきであるが、この点を超えて、使用者がもっぱら期間の定めの有 無を理由として労働条件の相違を設けた場合に限定すべき根拠は乏しいと判 断する。その上で、本件における有期契約・無期契約労働者間の賃金の相違 について上記関連性を肯定し、賃金の相違は定年後再雇用を理由とするもの であり期間の定めの有無による相違に当たらないとの使用者主張を斥けてい る。この判断は、①説を採用しつつ、当該要件について強い因果関係を示す
「より」ではなく、弱い連関関係を示す「関連して」と解釈することによっ て独立要件性を弱める判断であり、実際には②説に近い立場といえよう。こ の点については、同事件一審判決(注16)およびハマキョウレックス[控訴]
事件(注2)も同旨である。
(30)Y社事件・仙台地判平成29・3・30労経速2312号30頁。
(31)L社事件・東京地判平成28・8・25労判1144号25頁。
Ⅲ 同一労働同一賃金(32)
1 意 義
⑴ 均衡待遇ルール
「同一労働同一賃金」は、上述した「不合理な労働条件相違の禁止」(労契 20条、短時労8条)を前提に、これを明確化しつつ、その実効性を高めよう とするものである(33)。
もっとも、「同一労働同一賃金」は、その本来の語義によれば、職務内容 が同一の労働者に対しては同一の賃金を支払うべきであるとのルール(均等 待遇ルール)を意味する。しかし、現在提案されている「同一労働同一賃金」
は、それとは一致しない。すなわち、「同一労働同一賃金」は、賃金を含む 労働条件・処遇に関して合理的理由のない格差を禁止しつつ、合理的理由が あれば許容するルールであり、「均等待遇ルール」を含むものの、全体とし ては、「均衡待遇ルール」を内容とするものである。
この点を「実行計画」およびそれに先立つ「ガイドライン案」によって確 認すると、「実行計画」は、「同一労働同一賃金」は、「正規雇用労働者(無 期雇用フルタイム労働者)と非正規雇用労働者(有期雇用労働者、パートタ イム労働者、派遣労働者)の間の不合理な待遇差の解消を目指すものである」
と述べる。また「実行計画」は、「ガイドライン案」中、基本給の均等・均 衡待遇の確保について、基本給が職務対応・職能対応・勤続対応で支給され るなど、「趣旨・性格が様々である現実を認めた上で、それぞれの趣旨・性 格に照らして、実態に違いがなければ同一の、違いがあれば違いに応じた支 給を求める。すなわち、均衡だけでなく、均等にも踏み込んだものとしてい る」と述べた上、昇給、賞与、役職手当、教育訓練について同旨を述べてい
(32)本項については、土田道夫「『働き方改革』の過去・現在・未来―同一労働同一賃金、長 時間労働の是正―」法学教室443号(2017)67頁も参照。
(33)同一労働同一賃金については、山田久『同一労働同一賃金の衝撃』(日本経済新聞出版社・
2017)、土田・前掲(32)論文71頁以下、土田道夫「同一労働同一賃金-非正規労働者の 公正処遇ルール」労旬1890号(2017)9頁など参照。
(34)る
。これらの文書からは、「同一労働同一賃金」が基本的に「均衡待遇ルール」
であることを読み取ることができる。
具体的に見ると、「ガイドライン案」は、使用者が基本給を労働者の職業 経験・能力に応じて支給する場合、無期雇用労働者と同一の職業経験・能力 を蓄積している非正規雇用労働者には、「職業経験・能力に応じた部分につき、
同一の支給をしなければならない。また、蓄積している職業経験・能力に一 定の違いがある場合は、その相違に応じた支給をしなければならない」とす る。労働者の業績・成果に応じて支給する場合や、勤続年数に応じて支給す る場合も同様である。この結果、正規・非正規労働者間の「職業経験・能力」
「業績・成果」等の違いに基づく基本給格差は、上記の違いに応じた格差で あれば許容される反面、上記違いを超える格差であれば合理的理由を否定さ れることになる。一方、「職業経験・能力」等が同一であれば同一の支給を 求める点は、「均等待遇ルール」を採用したものであるが、基本給全体とし ては、基本給に対応する労働の各要素の違いに応じた合理的格差を許容する ので、「均衡待遇ルール」(「合理的理由のない労働条件・待遇格差の禁止」
ルール)を採用したことに帰着する。「同一労働同一賃金」の用語に着目す れば、それは厳密には「同一労働の要素・同一賃金」ルールであるといえよ う。
一方、「実行計画」「ガイドライン案」は、各種の手当(特殊作業手当、特 殊勤務手当、精皆勤手当、時間外労働手当の割増率、深夜 ・ 休日労働手当の 割増率、通勤手当・出張旅費、食事手当、単身赴任手当、地域手当)および 福利厚生については、非正規労働者に対して正規労働者と同一の給付を行う
(34)すなわち、「実行計画」は、昇給について勤続による職業能力の向上に応じて行う場合、
同様の職業能力の向上には同一の昇給を、違いがあれば違いに応じた昇給を求め、賞与に ついて会社の業績等への貢献に応じて支給する場合、同一の貢献には同一の支給を、違い があれば違いに応じた支給を求め、役職手当について役職の内容、責任の範囲・程度に対 して支給する場合は、同一の役職・責任には同一の支給を、違いがあれば違いに応じた支 給を求め、教育訓練について現在の職務に必要な技能・知識を習得するために実施する場 合、同一の職務内容であれば同一の実施を、違いがあれば違いに応じた実施を求めている。
ことを求めており、均等待遇ルールを採用している。
⑵ 使用者の説明責任
次に、「同一労働同一賃金」は、正社員・非正規労働者間の賃金格差に関 する使用者の説明責任を強化する考え方を示している。すなわち、「実行計画」
は、「無期雇用フルタイム労働者と有期雇用労働者又はパートタイム労働者 の間に基本給や各種手当といった賃金に差がある場合において、その要因と して無期雇用フルタイム労働者と有期雇用労働者又はパートタイム労働者の 賃金の決定基準・ルールの違いがあるときは、無期雇用フルタイム労働者と 有期雇用労働者又はパートタイム労働者は将来の役割期待が異なるため、賃 金の決定基準・ルールが異なるという主観的・抽象的説明では足りず、賃金 の決定基準・ルールの違いについて、職務内容、職務内容・配置の変更範囲、
その他の事情の客観的・具体的な実態に照らして不合理なものであってはな らない」と述べ、「ガイドライン案」も同旨を述べている。
この立法政策は、正社員・非正規労働者間の賃金格差については、将来の 役割期待の違いや、それを前提とする雇用管理区分を理由とするステレオタ イプな説明では不十分と解し、「不合理な労働条件相違の禁止」(労契20条・
短時労8条)の考慮要素を踏まえた具体的説明を求める趣旨と解される。注 目すべき立法政策といえよう。
2 法改正の方向性
ついで、「実行計画」は、法改正の方向性について、「ガイドライン案」の 実効性を担保するため、労働者が裁判における救済を求める際の根拠を整備 する法改正を行う旨明言する。そして、その後の労働政策審議会「同一労働 同一賃金に関する法整備について(建議)」(注6)は、具体的な法整備の方 向性を提示している。
特に重要な点を紹介すると、「建議」は、①司法救済の根拠規定の整備に ついて、パートタイム労働者・有期契約労働者につき、ⓐ有期契約労働者に
関する均等待遇規定を整備すること、ⓑ正規労働者との間の待遇差の不合理 性については、個々の待遇ごとに当該待遇の性質・目的に対応する考慮要素 で判断することを明確化すること、ⓒ労契法20条・パートタイム労働法8条 は、①職務の内容、②職務の内容および配置の変更の範囲を明記するにとど まり、③その他の事情の解釈による範囲が大きくなっていることから、③そ の他の事情について、「職務の成果」「能力」「経験」を例示として明記する とともに、労使交渉の経緯等が個別事案に応じて含まれうることを明確化す ること、ⓓ比較対象となる正規労働者については、労契法に合わせて同一の 使用者に雇用される無期契約労働者に統一すること、ⓔ派遣労働者について は、間接雇用の特質に鑑み、派遣先労働者の関係における待遇改善か、派遣 元の労使協定による一定水準を満たす決定による待遇改善かの選択制とする こと、ⓕ均等待遇規定・均衡待遇規定の解釈の明確化を図るため、ガイドラ イン(指針)の策定根拠となる規定を設けることが適当と述べる。
次に、「建議」は、②事業者の説明義務について、パートタイム労働者・
有期契約労働者・派遣労働者の雇入れ後、その求めに応じ、比較対象となる 正規労働者との待遇差の内容・理由等に関する説明義務を課すとともに、事 業者に説明を求めたことを理由とする不利益取扱いの禁止を規定すべきこと を掲げる。また、待遇差の比較対象となる正規労働者については、一般に、
非正規雇用労働者と同一の事業所に職務内容が同一または類似の無期雇用フ ルタイム労働者が考えられるが、画一的に法定することはせず、事業主に説 明を求めた非正規労働者と職務内容、職務内容・配置変更範囲等が最も近い と事業主が判断する無期雇用フルタイム労働者(集団)との待遇差およびそ の理由ならびに当該判断を行った理由を説明させることが適当と述べる。な おこの場合も、非正規雇用労働者が司法判断の根拠規定に基づいて不合理な 待遇差の是正を求める際の比較対象は当該無期雇用フルタイム労働者(集団)
に限られるものではないとしている。
さらに、「建議」は、③行政による法の履行確保(報告徴収・助言・指導・
勧告等)および裁判外紛争解決(行政ADR)の整備と関連して、有期契約
労働者に係る均衡待遇規定は契約法(私法)に属する労契法20条に置かれて いるため、行政による履行確保や行政ADRが行われないことに鑑み、有期 契約労働者についても、パートタイム労働者と併せてパートタイム労働法に 諸規定を移行することで行政的関与を可能とすることが適当と述べる。
3 評価と課題(35)
⑴ 評 価
「同一労働同一賃金」の立法政策は、非正規労働者の公正な待遇を促進す る政策として妥当な政策と評価することができる。雇用の多様化が進行する 今日、労働者が非正規雇用という働き方を選択したことによって発生する不 利益を規制し、公正な待遇を提供することはもとより重要な課題である。ま た、この課題を実現するために、「不合理な労働条件相違の禁止」(労契20条、
短時間8条)を継承して「均衡待遇ルール」を選択したことも適切と解され る。すなわち、長期雇用制度(終身雇用制)の下で形成されてきた正社員の 賃金体系は、「労働」だけを要素とするわけではなく、年齢・勤続年数・学歴・
能力・成果・経験・責任・拘束性、企業の人事施策等の多様な要素によって 決定されているため、その職務が非正規労働者の従事する職務と同一である からといって、賃金を直ちに同一に設定することは困難を伴う。この結果、
「同一労働同一賃金」は、これら多様な要素に起因する賃金・労働条件の合 理的格差を容認するルールとならざるをえないのであり、これが「均衡待遇 ルール」であって、現実的かつ妥当な立法政策と評価できる。
また、「同一労働同一賃金」は、比較対象となる正規労働者との賃金等の 待遇差の内容・理由等に関する使用者の説明責任を強化し、具体的説明義務 を課している。この点、現行労働契約法・パートタイム労働法・労働者派遣 法は、いずれもこうした説明義務を規定していないことから、労使間の情報 格差を是正する立法政策として有意義な政策と評価できる。
(35)土田・前掲(32)論文73頁以下も参照。
⑵ 課 題
ア 考慮要素の整理
一方、課題も多い。第1に、「同一労働同一賃金」は、「不合理な労働条件 相違の禁止」を継承したものであるが、両ルールは、考慮要素においては大 きな違いを示している。すなわち、「不合理な労働条件相違の禁止」が①職 務の内容、②職務の内容・配置の変更の範囲および③その他の事情を考慮要 素とするのに対し、「同一労働同一賃金」は、「職業経験・能力」「業績・成果」
「勤続年数」(基本給の場合)や「会社の業績等への貢献」(賞与の場合)を 考慮要素としているため、両者の関係を整理する必要がある。この点、「建議」
は、「不合理な労働条件相違の禁止」における「その他の事情」として、「同 一労働同一賃金」における「職務の成果」「能力」「経験」のほか「労使交渉 の経緯等」を明記する方向性を掲げており、両ルールの考慮要素の関係の明 確化を図る試みといいうる。
しかし、この立法政策には疑問がある。すなわち、「職務の成果」「能力」
「経験」は、日本の賃金制度において、基本給・昇給・賞与を決定する際の 基本的な要素であり、それにもかかわらず、これら要素を付随的考慮要素で ある③その他の事情に位置づける政策は適切でない。また、この政策は、基 本給について、「職業経験・能力」「業績・成果」を主要な要素として均衡待 遇ルールを規定する「同一労働同一賃金」の基本的考え方(「ガイドライン案」)
とも整合しないと解される。確かに、労契法20条・パートタイム労働法8条 が考慮要素として明示しているのは①・②にとどまるため、③その他の事情 の解釈の機能が拡大し、法的安定性を欠く結果をもたらしていることは「報 告」が説くとおりである。しかし、そうであるなら、「職務の成果」「能力」
「経験」については、「不合理な労働条件相違の禁止」における基本的要素で ある①職務の内容の要素に位置づけるのが筋であろう。その結果、「職務の 成果」「能力」「経験」は、「業務の内容」「当該業務に伴う責任の程度」とと もに、①職務の内容の要素として20条・8条の基本的要素に位置づけられ、
両規定の安定的解釈に寄与するとともに、日本の賃金制度の実情にも整合的
な規律を意味することになる。他方、「建議」のように、「職務の成果」等を
③その他の事情に位置づけることは、その他の事情を肥大化させ、かえって
「報告」の意図に反する結果をもたらすものと解される(36)。 イ 各種手当等に関する一律均等待遇ルール
第2に、「同一労働同一賃金」は、各種手当や福利厚生については一律に 均等待遇(同一の給付)を求めている(Ⅲ1⑴)ため、「不合理な労働条件 相違の禁止」より厳しいルールとなることが予想される。この種の手当にお ける格差の不合理性に関する裁判例の立場が分かれていること(Ⅱ2⑶)を 考えると、そのインパクトは相当に大きいといえよう。他方、企業が正社員 に対して各種手当の支給や福利厚生を手厚く行う背景には、長期雇用によっ て雇用する正社員への厚遇策を提供することで定着を図るという人事戦略が 存在すると解される(労契20条との関係では、③その他の事情に含まれる[Ⅱ 1])ところ、こうした人事戦略を度外視して一律に均等待遇ルールを設け ることについては、過度に硬直的なルールであるとの批判も考えられる。
この点、本稿が対象とするメトロコマース事件は、後述するとおり、賞与・
退職金・住宅手当・永年報償に関する相違の不合理性を否定する理由として、
正社員への厚遇策を提供することによって有為な人材の獲得・定着を図るこ との必要性・合理性を繰り返し掲げており(正社員厚遇策合理性論)、この 判断は抽象的かつステレオタイプな判断として批判を免れないが(Ⅴ4⑸)、
他方、企業がこうした目的から正社員に諸手当を支給することの必要性・合 理性を完全に否定することも適切でない。この観点からは、「同一労働同一 賃金」が各種手当等について採用する一律均等待遇ルールは、企業の実情に 照らして過度に硬直的と解される。この点については、むしろ、「実行計画」
が基本給について提示するルール(Ⅲ1⑴)と同様、個々の手当等の趣旨・
(36)なお、「建議」は、「同一労働同一賃金」の重要な構成要素である「職務の成果」「能力」
「経験」を「不合理な労働条件相違の禁止」における③その他の事情に位置づけているこ とから、前述した論点ⓑとの関係では、3要素総合判断説に近い立場と解される。しかし、
後述するとおり(Ⅳ6)、3要素総合判断説には疑問がある。
性格に即して、労働を構成する各要素(「職業経験・能力」「業績・成果」等)
の同一性・相違性や上述した企業の人事戦略を考慮して、有期契約労働者に 対する合理的範囲内での手当支給・福利厚生を求める(均衡待遇ルール)と ともに、正社員への厚遇策を提供することの必要性・合理性について具体的 に説明する責任を使用者に課す立法政策(説明責任[Ⅲ1⑵])を採用する ことを検討すべきであろう。
ウ パートタイム労働法への規定の移行
第3に、「建議」は、有期契約労働者に係る均衡待遇規定を労契法(20条)
からパートタイム労働法に移行させる構想を示しており(2)、これによれば、
上記均衡待遇規定は、契約法(私法)である労契法から政策立法であるパー トタイム労働法へと法体系上の性格を大きく変更することになる。「建議」は、
その理由を、行政による履行確保や行政ADRの対象とする必要性に求めて いる。
しかし、労契法20条が私法的効果を有する強行規定と解されてきたのは、
まさに同法が契約法(私法)と理解されてきたからである。これに対し、パ ートタイム労働法は、基本的にはパートタイム労働者の雇用管理の改善を目 的とする行政政策立法であり、有期契約労働者に係る均衡待遇規定を同法に 移行させることは、かえって同規定の私法的強行規定としての性格を不明確 なものとする危険を有している。また現在、労契法20条違反の基本的効果は 不法行為(民709条)の成立に求められている(Ⅱ2⑵)ところ、同条を行 政政策立法であるパート法に移行させれば、私法規範である不法行為規定と の関係も同様に不明確なものとなりかねない。
のみならず、有期契約労働者とパートタイム(短時間)労働者(無期労働 契約を締結しているパート労働者を含む)とでは属性が大きく異なるため、
「同一労働同一賃金」の在り方も異なるはずであり、両者を一括して取り扱 う立法政策の妥当性は疑わしい。たとえば、有期契約労働者が高度専門的な 研究職に従事しつつ、契約期間5年間は研究業務に応じた高額の固定給与を 支給されている場合の労働条件相違の不合理性判断(同一労働同一賃金の在
り方)と、無期パートタイム労働者が正社員と同一または類似の業務に従事 しながら、雇用管理区分に応じた低額の給与しか支給されていない場合の不 合理性の判断(同一労働同一賃金の在り方)は自ずから異なるはずであり、
かつ、この違いは、有期契約労働者と無期パート労働者間の基本的属性の違 いに起因するところが大きいと考えられる。すなわち、前者のケースにおい て有期契約労働者が高額の固定給与を支給されるのは、高度な研究業務従事 を目的として有期労働契約によって雇用されたこと(労契法20条との関係で は、①職務の内容が高度であること)によるものであり、いわゆる「有期プ レミアム」として有期契約労働者に固有のケースであることを考えると、有 期契約労働者とパートタイム労働者(後者のケース)を一括して取り扱う法 政策は人為的との評価を免れない。再検討を要する事項といえよう。
Ⅳ 労働契約法20条の解釈方法と「同一労働同一賃金」
1 問題の所在
前記のとおり(Ⅱ)、労契法20条の中核的要件を成す「不合理と認められ るものであってはならない」については、3つのレベルで理論的対立が見ら れる。論点ⓐに関する合理的理由説と著しい不合理性説の対立、論点ⓑに関 する職務の内容・配置の変更の範囲重視説と3要素総合判断説の対立、論点
ⓒに関する相違の程度考慮説と非考慮説の対立である。パートタイム労働法 8条についても、労契法20条と同一内容の規範であるため、同一の対立を想 起することができる。
私は、論点ⓐおよびⓒについては、それぞれ合理的理由説、相違の程度考 慮説を支持する。労契法20条については、雇用の多様化が進行する今日、有 期契約労働者が不当に不利益を被ることを規制し、公正な処遇を保障するた めには20条の実効性を高める解釈論を構築する必要があると考えるからで ある。そして、両説を支持する理由としては、現在、議論されている「同一 労働同一賃金」ルールを援用することが可能であると考える。具体的には、
以下の4点が挙げられる。
第1に、論点ⓐについて、「同一労働同一賃金」は、「不合理な労働条件相 違の禁止」(労契20条、短時労8条)と同様のルール(均衡待遇ルール)を 設定しつつ、その実効性を高めることを意図しており、この結果、合理的理 由説を採用することが可能となる。第2に、論点ⓒについては、「同一労働 同一賃金」は相違の程度考慮説に親和的な立場と解される。第3に、「同一 労働同一賃金」は、労働条件相違の不合理性について、使用者により具体的 な説明責任を求めており、この点も援用可能である。第4に、そもそも「同 一労働同一賃金」を現行法(労契20条、短時労8条)の解釈に際して援用可 能なルールと解しうるかが問題となるが、「実行計画」「ガイドライン案」お よび「建議」が公表され、非正規労働者の労働条件格差に関する積極的規律 の方向性が示されたことを踏まえると、この方向性を現行法の解釈に反映さ せることは可能と考える。
以上に対し、論点ⓑについては、「建議」は「同一労働同一賃金」につい て3要素総合判断説に近い立場を採用しているが(注36参照)、私は、基本 的には職務の内容・配置の変更の範囲重視説を支持する。以下、敷衍する。
2 「同一労働同一賃金」と合理的理由説の関係
前記のとおり(Ⅲ1)、「同一労働同一賃金」は、基本給・昇給・賞与・役 職手当・教育訓練については、均衡待遇と均等待遇を組み合わせたルールを 提示している。基本給についていえば、それは、正規労働者・非正規労働者 において「職業経験・能力」「業績・成果」「勤続年数」が同一であれば同一 の支給を求め、それらの点に違いがある場合はその相違に応じた支給を命ず ることを内容とするルールであり、「合理的理由のない労働条件・待遇格差 の禁止」ルールを採用したものである。「同一労働同一賃金」の意義がこの ようなものだとすれば、その前提を成す「不合理な労働条件相違の禁止」(労 契20条、短時労8条)についても「合理的理由のない労働条件・待遇格差の 禁止」ルールと解し、実体法上は両者を同義と解すること、すなわち、合理
的理由説を採用することが可能となると考える。
また、「同一労働同一賃金」は、各種手当や福利厚生については一律に均 等待遇を求め、より厳しいルールを採用している。この点からも、「不合理 な労働条件相違の禁止」についてより厳しい解釈を示す合理的理由説を採用 することが可能となる。
もっとも、ここで問題となるのは、「実行計画」「建議」ともに、「同一労 働同一賃金」について「合理的理由のない労働条件・待遇格差の禁止」とい う表現を用いず、「不合理な待遇差の解消」という表現を用いていることで ある。このため、新たな立法においてもこの表現を継承して「不合理な労働 条件・待遇相違の禁止」という規定が維持されれば、現行法が有する規範内 容の不明確さ(「合理的理由のない労働条件格差の禁止」ルールとの関係の 不明確さ)という問題点が存続する可能性が高い。したがって、新立法にお いては、規定振りを見直すことが望ましい。また、仮にそれが困難というの であれば、少なくともガイドラインにおいて、「合理的理由のない労働条件・
待遇格差の禁止」ルール(合理的理由説)の趣旨を明確化した内容の規定を 設ける必要があろう。また、前記のとおり、現行法(労契20条、短時労8条)
と「同一労働同一賃金」間の考慮要素の整理も重要な課題となる。
3 「同一労働同一賃金」と相違の程度考慮説の関係
この点については、「同一労働同一賃金」は、相違の程度考慮説に親和的 と解される。前記のとおり(Ⅲ1⑴)、「ガイドライン案」は、基本給を労働 者の職業経験・能力に応じて支給する場合、非正規雇用労働者の職業経験・
能力が正規労働者と同一である場合は同一の、一定の違いがある場合はその 相違に応じた支給を求めると述べた上、具体例(問題とならない例)として、
「基本給について労働者の職業経験・能力に応じて支給しているA社は、あ る職業能力の向上のための特殊なキャリアコースを設定している。無期雇用 フルタイム労働者であるXは、このキャリアコースを選択し、その結果とし てその職業能力を習得した。これに対し、パートタイム労働者であるYは、
その職業能力を習得していない。A社は、その職業能力に応じた支給をXに は行い、Yには行っていない」という事例を掲げる。また、基本給を労働者 の業績・成果に応じて支給する場合、無期雇用労働者と同一の業績・成果を 出している非正規労働者には「業績・成果に応じた部分につき、同一の支給 をしなければならない。また、業績・成果に一定の違いがある場合は、その 相違に応じた支給をしなければならない」と述べた上、具体例(問題となら ない例)として、「B社において、無期雇用フルタイム労働者であるXは、
パートタイム労働者であるYと同様の仕事に従事しているが、Xは生産効率 や品質の目標値に対する責任を負っており、目標が未達の場合、処遇上のペ ナルティを課されている。一方、Yは、生産効率や品質の目標値の達成の責 任を負っておらず、生産効率が低かったり、品質の目標値が未達の場合にも、
処遇上のペナルティを課されていない。B社はXに対しYに比べ、ペナルテ ィを課していることとのバランスに応じた高額の基本給を支給している」と いう事例を掲げている。
前記のとおり(Ⅲ1⑴)、これらルールおよび具体例は「均衡待遇ルール」
を採用したものであるが、「均衡」の意義については、相違の程度考慮説に 立脚するものと解される。すなわち、これらルールは、正規労働者・非正規 労働者間に「職業経験・能力」「業績・成果」「勤続年数」の違いがある場合 は、その相違に応じた支給を命ずることを内容としており、これは、当該相 違に応じない支給格差(相違を超えた支給格差)を許容しない趣旨と解され る。2つの具体例を見ても、「問題とならない例」とされているのは、「A社 は、その職業能力に応じた支給をXには行い、Yには行わ」ないことや、「B 社はXに対しYに比べ、ペナルティを課していることとのバランスに応じた 高額の基本給を支給」することであり、これを反対解釈すれば、A社がXに 対してその職業能力に応じない支給(過大な支給)を行う場合や、B社がX に対し、ペナルティを課していることとのバランスに応じない支給(過大な 支給)を行う場合は「問題となる例」と評価されることになる。要するに、
「同一労働同一賃金」は、基本給に対応する労働の各要素の違いに応じた基