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著者 畑 良亮, 土田 道夫

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(1)

【同志社大学労働法研究会】内部告発を契機とする 懲戒降格処分と出向命令の効力

著者 畑 良亮, 土田 道夫

雑誌名 同志社法學

巻 70

号 5

ページ 1757‑1792

発行年 2019‑01‑31

権利 同志社法學會

URL http://doi.org/10.14988/pa.2019.0000000361

(2)

◆同志社大学労働法研究会◆

内部告発を契機とする懲戒降格処分と 出向命令の効力

大王製紙事件 東京高裁平成28年8月24日判決 労働 判例ジャーナル57号35頁

原審 東京地裁平成28年1月14日判決 労働判例1140 号68頁

上告審 最高裁第二小法廷平成29年6月28日決定

畑   良 亮  土 田 道 夫 

Ⅰ 事案の概要

1 Yは、紙・板紙・パルプおよびその副産物の製造加工ならびに販売等を 目的とする株式会社である。Xは、Yに雇用され、中国やベトナムへの出向 を経て、平成24年9月10日、Y本社の経営企画本部経営企画部に異動となり、

同部の課長として勤務していた。

 Aは、Yの社長および会長を歴任し、その後顧問の職にあったが、平成23 年10月にいったん解嘱され、平成24年6月26日に再びYの顧問に就任した。

しかし、Yの経営陣に対して批判的であり、そのことをXも認識していた。

 Aは、平成24年11月28日以降、Aの私的秘書の役回りをしていたLに伝え られた情報をもとに作成された文書をYと取引のあった銀行へ送付した。そ の内容は、経営企画部員しか幅広く知らないものであった。Yは、XがAに

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その職務により知りえた情報を提供した疑いがあるとして、人事異動を検討 した。その結果、Xが管理職(M1)であり、Y総務部総務課での経験等が あったことから、平成24年12月26日Yの子会社であるH社に取締役総務部長 として出向することを命じた(以下「本件出向命令」)。

 Xは、本件出向命令を受けた後の12月28日ごろ、Aに対して「告発状」と 題する文書(以下「本件告発状」)を交付した。Yの顧問であったAは、平 成25年1月7日、Yの複数の役職員らに対し、本件告発状を送付した。これ を受けてYは、本件告発状の記載内容について調査する必要があるものと判 断し、同日、Xに本件出向命令を取り消す旨を伝えたうえ、同月8日、同月 1日付けで総務人事本部人事部付課長への配置転換を命じた(以下「本件配 転命令」)。

2 こうした中、同年1月11日ごろ製紙業界の業界新聞である紙業新報に「大 王製紙問題 内部告発が表面化へ」という記事が掲載された。上記記事は、

Aから提供を受けた原稿を掲載するものであり、具体的には、Yにおいて、

関係部署等が共謀して決算予想数値を改ざんしており、海外法人についても 同様であること等を内容としていた。なお、同年2月1日および同月11日に も、本件告発状の記載内容が2回に分けて掲載された。

 そこで、Yは懲戒委員会を開催し、Yの社員就業規則22条1項、2項、懲 戒規程6条2号、9号に該当するとして、同年2月1日、Xを管理職1級か ら管理職2級(

M

2)に降格させる旨の懲戒処分(以下、「本件降格処分」と いう)を決定し、通知した。またその際、Xに対して、O社に出向し、北海 道赤平市所在のB営業所において、同月12日までに着任し、所長として勤務 することを命じた(以下「B営業所出向命令」)。なお、Y就業規則22条1項 は、「社員は、会社の名誉を毀損してはならない。」、2項は、「社員は、業務 上知り得た会社の秘密を他に漏らしてはならない。」と規定し、懲戒規程6 条は、同条各号に該当する場合は過去の事例を参考に減給、出勤停止または 降格・降職とする旨定め、同条2号は「就業規則その他会社の諸規定に定め る服務規律に違反してその程度が重いとき、同条9号は「会社の秩序や風紀

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を乱す行為があったとき」と規定している。

 しかし、Xがこの出向命令に応じなかったため、Yは、Xが今後もB営業 所に赴任して就労しない場合には、懲戒規程7条14号に基づいて諭旨解雇ま たは懲戒解雇する旨を通知した。その後もXはB営業所に赴任しなかったと ころ、同年3月11日、Yの人事異動辞令に基づく出向を拒否したものとして 同日付でXを懲戒解雇した(以下「本件懲戒解雇」)。

 なお、Yの主要株主であったG株式会社の要請を受けて、Yは外部委員会 を設置して検証を実施したところ、平成25年5月11日、いくつかの検出事項 はあったが、不正、事実の隠ぺい、意図的な決算操作と考えられる事象、重 要なコンプライアンス違反、投資判断に重要な影響を及ぼす事象は確認され なかったと報告があった。

3 Xは、Yに対して、本件配転命令、本件降格処分、本件出向命令、本件 懲戒解雇はいずれも無効であると主張し、労働契約上の権利を有し降格処分 前の地位(管理職1級)にあること、配置転換先および出向先に勤務する労 働契約上の義務がないことの確認請求ならびに未払賃金とこれに対する遅延 損害金の支払いを求め、また、YがXの内部告発に関するプレスリリースを 発出したことによりXの名誉を毀損し、合理性のない配転命令等を乱発し、

無効な降格処分をするなどした一連の行為が、民法709条または715条に基づ き、Xに対する不法行為を構成すると主張して、損害賠償金およびこれに対 する遅延損害金の支払いを求め訴訟を提起した。

 原審(東京地判平成28・1・14)は、労働契約上の地位確認請求、出向先 に勤務すべき労働契約上の義務がないことの確認請求、未払賃金請求を認容 し、その余の請求を棄却したところ、Xは、原審が棄却した請求のうち、降 格処分前の管理職1級の地位にあることの確認および賞与請求部分に限り、

一方、Yは、原審が認容した部分について、それぞれ控訴した。なお、本件 については、Yから上告受理申立てがなされたが、上告棄却・不受理となっ た(最二小決平成29・6・28労働判例ジャーナル67号19頁)。

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Ⅱ 判   旨

1 原判決 一部認容、一部棄却

⑴ 本件降格処分の有効性

ア 就業規則22条1項違反(名誉毀損)

 Xが作成した本件告発状に記載されていた内容(Yが経常利益見込みを意 図的にかさ上げして公表したこと、Yの平成25年3月期の営業収支が赤字の 見込みであること、Yが独占禁止法違反行為を行っていること等)について、

「全体としてYの名誉を毀損するものであることは明らかである」上に、A がYの経営陣と対立関係であったこと、「現にAがXから受け取った本件告 発状の記載内容をYの役職員、取引銀行および業界新聞の発行会社に広く流 出させていることに照らしても、Xが本件告発状を交付した当時、Aが受領 した本件告発状の記載内容を広く第三者に流出させる客観的な可能性があっ たものと認められ」、就業規則22条1項に違反するというべきである。

 その上で、Xが主張する内部告発としての正当性について、以下のとおり 判断する。まず、「Xの陳述書等は、……Yの従業員から聞いたという伝聞や、

Xが業務上見聞きした断片的な情報に基づく推測を根拠としていて、自ら確 認をしていないものであるし、直接体験したという事柄についても客観的な 裏付けを欠いているのであって、容易に採用することができないものといわ ざるを得ない。そうすると、上記各記述が真実であったとは認めるに足りず、

Xがこれらの事実を真実であると信ずるについて相当な理由があったと認め ることもできないというべきである。」

 また、XがLに交付していた書面の記載によれば「Xは、Y社長を失脚さ せたいと考えており、Lを通じたAへの情報提供の目的は、Yの経営陣と対 立関係にあったAがY社長を含むY経営陣を失脚に追いつめるための材料を 提供することにあり、本件告発状のAへの交付もその一環であったと認める

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のが相当である。そうすると、Xが本件告発状をAに交付した目的について も、正当性を欠くものであったというべきである。」

 さらに、Xは、AはYの内部者ないし内部者に準じる立場の者であるから Aに本件告発状を交付することは手段の相当性があると主張したが、「Aが 本件告発状の記載内容を広く第三者に流出させる客観的な可能性があったこ と、Xが当該可能性を認識していたことは、前記認定判断のとおりであり、

Yの名誉を毀損する記載を含む本件告発状をAに交付して第三者への流出の おそれを生じさせることが、内部告発の手段として相当であったということ ができないのは明らかである。」

 以上のとおり、「Xの行為が正当な内部告発であるということもできない から、XのAに対する本件告発状の交付は、Yの名誉を毀損する行為として、

就業規則22条1項に違反するというべきである。」

イ 就業規則22条2項(秘密漏えい)

 「業務上知り得た会社の秘密」であるかについて、本件告発状の記載内容 のうち「Y又はY関係会社の予算、売上げ、収支、資金繰り、投融資、事業 計画等に関するものであり、Yが法令等により開示を義務づけられていた情 報であるとも、既に公になっていた情報であるとも認められず、その性質上、

従業員が外部に漏えいすることが予定されていない情報であるということが できるから、……『業務上知り得た会社の秘密』に該当する」。

 XがAに本件告発状を交付したことが「会社の秘密を他に漏らし」たこと に当たるかについて。上記行為は、当然には「会社の秘密を他に漏らし」た ことになるとはいえないが、「Aは、Yの経営陣と対立関係にあり、雑誌の 取材に応じてY経営陣を公然と批判してもいて、Aが本件告発状の記載内容 を広く第三者に流出させる客観的な可能性があったところ、Xは、当該可能 性を認識しつつ、あえてLに本件告発状を交付したものであり、A本件告発 状の記載内容を取引銀行及び業界新聞の発行会社に流出させたことによっ て、本件告発状に記載された会社の秘密が外部に漏れることになったのであ

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る。このような事実経過を一連のものとしてみれば、Xが『業務上知り得た 会社の秘密を他に漏らしたと評価することができ……、就業規則22条2項に 違反したものというべきである。」

ウ 本件降格処分の有効性

 本件告発状は、「Yが法令違反行為や犯罪行為を行い、又はこれらを行う おそれがあるとの印象を読み手に与えるものであるところ、この内容が取引 銀行及び業界新聞の発行会社に流出したことにより、現にYの名誉が毀損さ れたものである上、本件降格処分の時点において、この内容が業界新聞に掲 載されて広く流布することでYの名誉が著しく毀損される高度の蓋然性が生 じていたということができる。……また、秘密の漏えいの点についても、X が漏えいすることとなったYの秘密に属する情報は多岐にわたっていて、こ れを軽視することはできないというべきである。そうすると、Xが就業規則 22条1項及び2項に違反した程度は重いということができるから、Xは、懲 戒規程6条2号に該当するものと認められる。また、Xは、Y経営陣の失脚 という背信的な目的で本件告発状をAに交付し、上記のとおり重大な結果を 生じさせたものであるから、Xの行為は、会社の秩序を乱すものとして、懲 戒規程6条9号にも該当するというべきである。」

 「従業員に対して降格処分をするには、それに見合う程度の重い非行が存 在しなければならないと解される。この点、……Xの非行は、その目的にお いて背信性が高く、その結果も重大であって、程度の重い非行というべきで ある。他方において、本件降格処分は、Xを管理職1級(

M

1)から管理職 2級(M2)に降格させるというものであり、降格によって就くことのでき る役職に違いが生じるものの、降格後もXが管理職であることに変更はなく、

降格前に就いていた課長の職に就くことも可能であり、Xが降格に伴って賃 金の減額等の具体的な不利益を受けた旨の主張立証もない。以上のようなX の非行の程度と本件降格処分の内容とを比較衡量すれば、本件降格処分が今 後のXの人事考課等における有形無形の不利益を伴うものであろうことを考

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慮しても、本件降格処分が重すぎて不当であるとは認められないというべき であり、ほかに本件降格処分が懲戒権を濫用したものであると解すべき事情 は認められない。以上によれば、本件では、就業規則所定の懲戒事由に該当 する事実が認められ、本件降格処分が懲戒権を濫用したものであるとも認め られないから、本件降格処分が無効であるということはできない。したがっ て、Xが管理職1級の地位にあることの確認を求めるXの請求は理由がない ということになる。」

⑵ B営業所出向命令の有効性

 Yは、「本件配転命令をした当時から、ヒアリング等の調査が終了した後 に再度Xを配置転換することが予定されていたということができる。その上 で、Xは、Yの経営企画部に在籍していた間に業務の遂行上取得したYの秘 密に属する情報を、Yに無断でYの経営陣と対立関係にあるAに伝達し、ま た、本件告発状をAに交付することによってYの秘密を外部に漏えいさせた のであるから、Yにおいて、Xの再配置先を検討するに当たり、重要な機密 情報を取り扱わない部署に配置する必要があると判断したことにも、一定の 合理性があるということができる。」

 「しかしながら、他方において、B営業所は、D製紙から委託を受けた製 品及び資材の保管、入出庫及び運送の業務のみを取り扱っており、しかも本 件業務を専ら下請業者に再委託して行っていて、所長が自ら一人で本件業務 の受託と再委託に伴う実務を行っているものであるところ、Xは、Yに就職 してからB営業所出向命令までの約25年間、物流部門における勤務をほぼ経 験することがなかったのであるから、業務内容という観点からみたときに、

XをB営業所に配置することに合理性があったとは認め難い。……そうする と、人材育成等の目的による場合を別にして、物流業務の実務に携わった経 験の乏しい者をB営業所所長に配置することに合理性があったとは認められ

……ないというべきである。」

 上記のように業務内容の観点から合理性が認められないことに加え、「Y

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は、約3000名の従業員を擁し、50を超える関係会社を有していたのであるか ら、重要な機密情報を取り扱わない部署に限定しても、Xの配置転換先とな り得る役職がB営業所所長のほかになかったというのはおよそ考え難いこ と、……B営業所所長以外の配置転換先は全く検討の対象にならなかったこ と……からすると、Yにおいて、配置転換先の決定に当たり、Xの経験、適 性等を踏まえた配置転換先の選定作業が行われてはいなかったことが推認さ れる。」

 また、「B営業所所長は、所長という肩書ではあるものの、実質的には、

D製紙の業務課に所属する物流業務の一担当者にすぎない役職であったと評 価せざるを得ず、関係会社の取締役総務部長を歴任したXの配置転換先とし ては、Xが本件降格処分を受けたことを考慮しても、余りに不相応であった というべきである。……これらの事情に、B営業所出向命令が、本件降格処 分を告知した直後にその場で発せられたものであり、Yにおいて、懲戒処分 の検討と平行してXの配置転換先の検討が進められたと考えられることをも 併せ考慮すれば、Yは、懲戒事由に該当する非行をしたXの処遇として、本 件降格処分とB営業所出向命令とを併せて決定したものであり、実質的にX を懲戒する趣旨で赤平出向命令を発したとの評価を免れないというべきであ る。そうすると、B営業所出向命令は、その動機・目的が不当なものである といわざるを得ないことになるから、出向命令権を濫用したものとして、無 効であるというべきである。」

⑶ 本件懲戒解雇の有効性

 「B営業所出向命令は、出向命令権を濫用したものとして、無効である。

そうすると、XがB営業所出向命令に従わなかったことをもって、Xが懲戒 規程7条14号の『配置転換、転勤、出向などを拒否したとき』に該当すると いうことはできないから、本件懲戒解雇は、就業規則所定の懲戒事由を欠き、

その効力を生じないというべきである。」

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2 本判決 原判決一部変更

 本判決は、基本的には原判決を支持し、Xが労働契約上の権利を有するこ との確認、出向先に勤務すべき労働契約上の義務がないことの確認および未 払賃金等の支払を求める限度でXの請求を認容した。

 控訴審において、Yは、本件出向命令に業務上の必要性がある旨主張する とともに、原判決が本件出向命令について不当な動機・目的の存在を認定し たことに対し以下のとおり主張した。すなわち、「使用者は、労働者が企業 秩序を乱す非違行為を犯した場合、当該労働者に対し、乱された企業秩序を 回復するために懲戒処分を課すこともできるし、業務上必要な命令を発する こともできるほか、その双方を実施することもできるのであって、懲戒処分 と業務上の命令がほぼ同時に発せられたとしても、そのことだけで当該業務 命令が懲戒処分としての性格を帯びるものではない。したがって、B営業所 出向命令には、……業務上の必要性があったのであるから、本件降格処分と 併せて決定されたからといって、懲戒処分としての性格を帯びたことにはな らず、不当な動機・目的の存在は認められない」。

 この補充主張に対して、本判決は以下のとおり判断した。「Xが非違行為 を犯したため、Yには、Xを重要な機密情報を取り扱わない部署に配置する 業務上の必要性が存在したことは、原判決が……認定したとおりである。ま た、非違行為を犯した労働者に対し、懲戒処分と業務上必要な命令を同時に 発したことのみをもって、当該業務命令が懲戒処分としての性格を帯びると 認めることができないことは、Yが……主張するとおりである。」

 「しかし、Yは、約3000名の従業員を擁し、50を超える関係会社を有して いたのであるから、重要な機密情報を取り扱わない部署に限定しても、Xの 配置転換先となり得る役職がB営業所所長のほかになかったというのはおよ そ考え難く、Yは、配置転換先の決定に当たり、Xの経験、適性等を踏まえ た配置転換先の選定作業を行わなかったと認められること、B営業所長は、

所長という肩書ではあるものの、実質的には、D製紙の業務課に所属する物

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流業務の一担当者にすぎない役職であって、従前のXの担当業務、役職に照 らすと、Xの配置転換先としては余りに不相応であったことに照らすと、B 営業所出向命令は、実質的にXを懲戒する趣旨で発せられたとの評価を免れ ないとした原判決の判断は相当であって、B営業所出向命令に不当な動機・

目的は存在しないとのYの主張は採用できない。」

Ⅲ 検   討

1 本判決の意義

 本件は、内部告発を契機とする懲戒処分(降格処分)の有効性を判断する 前提として、当該内部告発が正当性を有するものか否かが問題となった事案 である。加えて、内部告発後に出された出向命令の有効性について、動機・

目的の不当性を中心に、権利濫用か否かが本件降格処分の正当性と関連して 問題となった。

 本件の事案上の特色は、告発先(A)がYの元経営者であり、告発当時、

使用者と経営に関する顧問契約を締結する者であったという点にある。従来 の裁判例では、使用者とは何らの法的関係性も有していないマスコミや行政 機関等への告発が問題となっていた。これに対して、本件では、告発先と使 用者が上記のような一定の契約関係にあり、純粋な外部者とは言えない側面 があるという点に特色がある1)。こうした点から、本件では、内部告発の正 当性に係る真実相当性について特徴的な判断が示されている。

 また、本件内部告発は、Y内部の権力争いの一環いう側面を有しており、

1) もっとも、純粋な外部者とはいえない告発先への内部告発の正当性が問題となった事案は以 前にも見られた。生協職員が副理事長等役員の不正行為を告発する文書を匿名で生協組合員の 総代会に送付した事案(大阪いずみ市民生協事件・大阪地裁堺支部平成15・6・18労判855号 22頁)では、当該内部告発先が総代や理事等の生協内部の機関および他生協の役員等であり、

生協関係者に広く及んでいた。本件は、これとはいささか異なり、告発先であるAがYの顧問 であり、より内部者に近いにもかかわらず、Xによる第三者への内部告発と判断された点に特 色がある。

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内部告発それ自体が自己完結的なものとは言えない点にも特色がある。従来 の裁判例においては、内部告発が公益性を有するか否かの判断要素として当 該内部告発の内容の公共性の有無・程度を考慮するかについて判断が分かれ ていた。この点、本件では、上記のような内部告発の性質から、告発に至る プロセスを審査するのみで、告発内容を審査しないまま目的の公益性を否定 するという特徴的な判断が示されている。

 さらに、本件は、内部告発・降格処分後に僻地への出向命令が出されたと いう点にも特徴がある。一般に、出向命令の有効性判断については、業務上 の必要性と労働者の不利益を比較衡量する判断枠組みが示されており、本判 決も、基本的にはこうした判断枠組みを踏襲している。その上で、不当な内 部告発に対する降格処分後に出向命令がなされた経緯に鑑み、業務上の必要 性を認めつつも、人選の相当性がなく労働者の不利益が著しいことに加え、

出向命令の動機・目的が不当なものとされた点に特色がある。

 以下、それぞれについて学説・裁判例を整理したうえで、本判決の分析を 行う。

2 内部告発の正当性

 内部告発とは、企業外の第三者に対して、公益保護を目的に、企業内の不 正行為を開示することをいう2)。そのため、本来、内部告発は企業秘密の漏 洩行為として守秘義務・誠実義務違反に当たり、企業秩序違反行為または会 社の名誉侵害行為として懲戒の対象となるが、一定の要件を満たせば正当性 が認められ、懲戒事由該当性を否定される3)。内部告発の正当化根拠につい ては多様な見解があり、学説では、内部告発は法的には労働者が自己の人格 権を防衛する自救的な行為として正当性を有するという見解4)や、内部告発 は公益を優先させる観点から、一定の範囲内で正当化されるという見解5)

2) 土田道夫『労働契約法[第2版]』(有斐閣・2016)495頁。

3) 土田・前掲注2)書495頁。

4) 島田陽一「判批」労判840号(2003)15頁。

5) 土田道夫「判批」判時1834号(2003)202頁。

(13)

存在する。一方、裁判例においても、内部告発が公益性を有する点、組織体 質の改善を通して長期的に見て使用者の利益になる点、労働者の表現の自由 等が根拠として挙げられている。また、複数の規範的根拠を挙げる裁判例も 見られる6)

 こうした内部告発の正当性要件について、大阪いずみ市民生協事件(前掲 注1)は、従来の裁判例によって形成されてきた枠組みを踏襲し、内部告発 についてより一般的な枠組みを提示した例として注目される7)。具体的には、

①告発内容の真実性もしくは真実と信ずるについて相当の理由があるか、② 目的に公益性があるか、③内部告発手段・方法の相当性、④内部告発の当該 組織体にとっての重要性という要素を総合して判断し、内部告発が正当と認 められれば、「当該告発により、仮に名誉、信用を毀損されても、これを理 由として懲戒解雇をすることは許されない」という判例法理を確立した点に 意義がある。

 その後の裁判例は、上記①~③の各要素を重視しつつ、③において労働者 が企業内部において不正行為の是正に努めたか(内部通報前置)という要素 を含め、これらの要素を総合考慮して告発の正当性を判断している8)。この 点、学説においても、裁判例と同旨の見解を採用しているものと解される9)

3 本判決の評価〔結論一部疑問、理由に一部疑問〕10)

 本判決が示す内部告発の正当性判断については、Xの内部告発には目的の 公益性が認められるものの、内容の真実性・真実相当性を欠いており、告発 の手段・態様においても相当性を欠くことから、結論において妥当と考える。

6) 土田道夫=安間早紀「内部告発・内部通報・公益通報と労働法」季刊労働法249号(2015)

137頁。

7) 奥田香子「判批」ジュリスト1269号(2004)231頁。

8) 学校法人田中千代学園事件・東京地判平成23・1・28労判1029号59頁、首都高速道路公団事件・

東京地判平成9・5・22労判718号17頁など。

9) 菅野和夫『労働法[第11版補正版]』(弘文堂・2016)655~656頁、西谷敏『労働法[第2版]』

(日本評論社・2013)195~196頁など。

10) 以下、特に断らない限り、原審および本判決を纏めて「本判決」という。

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しかし、本判決の判断枠組みについては、目的の公益性および手段の相当性 における判断において結果の妥当性を欠く結論になるおそれがあるため、一 部疑問がある。以下では、上述した①~③の考慮要素を踏まえつつ、本判決 について検討する。

⑴ 内容の真実性・真実相当性 ア 学説・裁判例

 内部告発における内容の真実性・真実相当性について、学説においては、

告発者の人格権ないしは人格的利益や表現の自由といった内部告発の正当化 根拠に鑑み、内部告発の真実性・真実相当性を不可欠の要件と解する見解が ある11)。労働者の表現の自由や公益保護の価値は重要であるが、虚偽のもの であれば、企業の社会的評価が低下し、公益にならず社会に混乱を生じさせ るおそれがある。したがって、内部告発を正当化する重要な要素と解し、こ れを満たさない告発は、原則として正当性は否定されるべきであるとされて いる12)。すなわち、学説・裁判例は、既述した各要素を総合考慮する立場で あるが、内容の真実性・真実相当性は不可欠の要件であると解される。

 ここで問題となるのは、内容の真実性・真実相当性がどの程度要求される かである。真実性を過度に要求した場合、労働者にとって真実性を立証する 手段が乏しいケースでは内部告発自体が困難となり、公益の追求や企業の法 令遵守の促進という高次の価値を実現できなくなる13)。そこで、前掲大阪い ずみ市民生協事件(注1)は、内部告発の根幹的部分が真実ないし真実と信 じるについて相当の理由があればよい(真実相当性)としており、厳格に要 求すべきでないと判示している14)

 ところで、こうした真実性・真実相当性の判断基準は、告発先によって異

11) 奥田・前掲注7)判批232頁。

12) 土田=安間・前掲注6)論文140頁。

13) 土田・前掲注2)書497頁。

14) 同旨、三和銀行事件・大阪地判平成12・4・17労判790号44頁。

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なるかという問題も生ずるところ、厳密な意味での外部への告発ではないケ ースと、マスコミなどの外部機関への告発の場合では、求められる真実性の 程度には差があると考えられている15)。また、企業外の第三者へ直接告発を 行った場合には、当然に内部告発であるが、告発先が厳密な外部とはいえな い場合、内部通報ではなく内部告発であると性質決定する方向に働く要素は 何かが問題となる。後述のとおり、内部通報と内部告発とでは正当性の判断 枠組みが大きく異なるからである。

 以下では、両者の裁判例の判断枠組みについて概観しつつ、内部告発と内 部通報とを区分するメルクマールについて分析する。

 まず、内部告発先がマスコミ等の外部第三者であった場合について。テレ ビ局への内部告発の類型であるアワーズ(アドベンチャーワールド)事件16)

は、内容の真実性・真実相当性を判断する際に、テレビ局への告発行為から 番組の放送行為までを一連の内部告発行為として捉えた上、告発の重要部分 をどのように確定するかを判断した点に特色がある。マスコミなどの第三者 に対する内部告発において、ビデオテープなどの情報素材が持ち込まれた後 にテレビで放送される場合、当該放送の作成者により意図的な編集がなされ る可能性があるため、必ずしも真実がそのまま伝わるわけではない。判決は、

こうした告発先の特殊性を考慮して、最終的に放送された部分の内容だけで なく、告発者の発言内容なども加味した上で、番組視聴者が持つであろう(あ るいは告発者が持たせようと意図した)印象は何かという観点から真実性・

真実相当性を厳格に判断し、結論として否定した。また、告発の「重要部分」

について、マスコミに持ち込まれた情報が虚偽の事実を示していないことは、

内部告発の正当性を認定するための当然の前提となる17)

15) 奥田・前掲注7)判批232頁。

16) アワーズ(アドベンチャーワールド)事件・大阪地判平成17・4・27労判897号26頁。会社 が経営する動物園に勤務していた労働者が、園内のゾウに対する被告の調教方法等に問題があ るとしてテレビ局に内部告発をした後に、被告が原告を懲戒解雇した事例であるが、内容の真 実性・真実相当性の要件が満たされないとして内部告発の正当性を否定し、懲戒解雇を有効と 判断した。

17) 佐藤等「判批」季刊労働法212号(2006)226頁参照。

(16)

 これに対し、告発先が純粋な第三者でない場合については、内部通報に類 似する事案として類型化される。内部通報とは、労働者が企業内部の機関(内 部通報窓口など)に企業の不正行為を通報することをいう。この場合におい て、学説では、原則として正当行為であると評価したうえで、通報が著しく 不当な内容・目的・態様をもって行われた場合、例外的に誠実義務に違反す る行為と評価すべきであると解されている18)

 骨髄移植推進財団事件19)は、財団の総務部長が理事長に対し、常務理事 のセクハラ行為等に関する報告書を提出したところ、的確な調査も行わない まま告発者に対して降格人事された事案であり、判決は、内部告発と同様の 判断枠組みを採用しつつも、その判断基準を内部告発より緩やかに適用して いる20)。このように判断された背景として、告発者が、降格人事に対する反 発や組織的な隠蔽に対する危惧感を有していたことを理由として、多数の者

(ボランティア団体幹部らや厚生労働省幹部らなど)にセクハラ行為等に関 する報告書の内容を伝達するに至っており、第三者への情報流出が偶発的で あったという事案の特殊性がある。その上で、具体的な判断にあたっては、

報告書を外部に漏えいさせた行為と報告書を提出した行為を分離した上、報 告書の提出自体について、総務部長の職責から何ら問題となる行為ではない こと等を理由として懲戒事由該当性が否定された。他方、報告書に記載され た内容を外部に伝達した行為についても、情報管理義務に関する懲戒事由に 該当すると判断されたものの、財団が的確な調査も行わず、報復人事を行っ たことを理由に、降格処分の相当性を否定した。

 また、海外漁業協力財団事件21)は、告発文書が会社内部の全非常勤理事 や監事など財団内部者に送付された事案であり、そもそも外部に告発内容が 流出していないことを理由として、内部告発の正当性判断の手法を用いた上

18) 土田=安間・前掲注6)論文149頁。

19) 東京地判平成21・6・12労判991号64頁。

20) 石田信平「労働者の内部通報をめぐる法的諸問題―骨髄移植推進財団事件(東京地判平成 21・6・12労判991号64頁)を素材として」季刊労働法230号(2010)232頁。

21) 東京地判平成16・5・14労判878号49頁。

(17)

で懲戒処分の有効性を比較的緩やかに判断している。もっとも、この判断に 対しては、告発文書を送付する行為の本質が苦情申立ての性質であるから、

手段・態様の合理性・相当性を考慮して、通常認められる苦情申立てからど の程度逸脱していたかを検討すべきと指摘する学説もある22)

 以上のとおり、裁判例は、内部通報に類似した事案においても、従来の内 部告発に関する判断枠組みを採用した上、その適用段階で判断基準を緩和す ることで内部告発の法的規律との差異を設けている23)。そして、その場合の 考慮要素として、告発内容が企業外部に流出しているか、また、企業情報の 流出に告発者がどの程度関与しているのかを重視しているものと解される。

すなわち、企業内部への情報提供と企業外部への情報流出行為が告発者によ る一連の行為として認定された場合、内部告発の事案として真実性・真実相 当性が厳格に判断されるものと解される。

イ 本判決の分析・評価  ⅰ 分析

 本件は、企業の内部抗争の過程で内部告発が用いられ、告発を受けた会社 顧問(A)がその内容を外部に流出させた事案であることから、従来の裁判 例とは異なり、いわば間接的に内部告発が成立している点に事案の新規性が ある。

 本件において、Xが本件告発状を交付したAは、正式な内部通報先ではな い一方、Yの会長などを歴任し、現在はYと顧問契約を締結するY内部の立 場にある。しかし他方、Aは月刊誌のインタビューでYの現経営陣を批判し たり、実際にもYと取引関係にある銀行に本件告発状の内容を流出させるな ど、現経営陣と対立関係にあったという事情がある。加えてXが、Aが告発 内容を第三者に広く流出させる可能性をも認識していたという事実も存在す る。この結果、Yと対立していたAに告発する行為は、外部に情報を漏えい

22) 神吉知郁子「判批」ジュリスト1335号(2007)132頁。

23) 土田=安間・前掲注6)論文150頁。

(18)

する蓋然性の高い内部者への情報提供と認定されたものと解される。

 すなわち、判旨は、Xが、Yと顧問契約を締結していたAに告発した行為

(企業内部への情報提供)のみならず、AをしてYの取引銀行や業界新聞の 発行会社に告発内容を流出させた行為(企業外部への情報流出行為)をXに よる一連の行為と捉え、内部告発と性質決定した上で、内容の真実性・真実 相当性を厳格に判断し、懲戒事由該当性を肯定したものと解される。以下、

この判断について、告発者を雇用する使用者と告発先との関係性に着目して 検討する。

 一般に、告発先としては、企業と何らかの契約関係にある場合と、第三者 の場合(マスコミや行政機関等)が想定しうるところ、前者の典型例として、

当該企業の労働者や取締役等が挙げられる。第三者に対して内部告発を行う 場合は、告発者が告発内容を直接外部に流出させることから、当該告発者の 行為として認定することには何ら問題はない。これに対し、告発者が企業と 何らかの法的関係に立つ者に情報提供を行い、その者から外部に告発がなさ れた場合、どこまでを告発者の行為として認定するかにより、内部告発か内 部通報かという性質決定に違いが生ずるものと解される。すなわち、企業と 何らかの契約を締結した告発先が、当該企業に対してどのような法的義務を 負うのかによって、告発者の情報提供行為が内部通報と判断される場合があ り得ると考えられる。

 まず、告発先が当該企業の労働者の場合は、労働者は、信義則上、「使用 者の正当な利益を不当に侵害してはならないよう配慮する義務」(誠実義務)

を負う24)ので、企業外の行動であっても、これら利益を現実に侵害し、ま たはその具体的危険があると認められれば、懲戒規程の存在を前提に懲戒の 対象となる。したがって、企業に対して誠実義務を負う労働者へ告発した場 合、告発先から外部の第三者への情報流出が想定されておらず、内部通報で あると判断される蓋然性が高い。

 次に、告発先が取締役の場合について。取締役は、会社と委任の関係にあ

24) ラクソン等事件・東京地判平成3・2・25労判588号74頁。

(19)

り(会社330条)、法令・定款ならびに株主総会決議を遵守し、会社のために 忠実にその職務を行わなければならない旨が規定されている(同355条)。そ して、取締役がその職務を怠ったとき(任務懈怠)は、会社に対して、これ によって生じた損害を賠償する責任を負う(同423条1項)ものとされ る25)。取締役がこうした注意義務・忠実義務を会社に対して負っていること に鑑みると、取締役から第三者への告発は、企業秘密の漏洩や企業の社会的 評価の毀損を生じさせる行為であることから、損害賠償責任の対象となると 解され、内部通報であると判断される蓋然性が高い。

 以上の検討を踏まえて、本件の事実関係に着目するに、本件で告発先とな ったAはYの社長・会長を歴任した上、顧問の職にあり、Yとの間の顧問契 約上、守秘義務等を負う人物ではあるものの、現経営陣と対立関係にあり、

雑誌等において経営陣を公然と批判してきた人物であって、Aが本件告発状 の内容を広く第三者に流出させる客観的可能性があり、かつ、XはAが告発 内容を外部に流出させる蓋然性が高かったことを認識していたという特色が ある。原審および本判決は、こうした事実関係を踏まえて、Xの告発行為に ついてY内部への情報提供とY外部への情報流出行為という一連の行為とし て捉え、本件を内部通報類似事案ではなく、文字どおり内部告発と性質決定 したものと解される。その上で、本判決は、具体的な真実性・真実相当性に ついて、上述した事案の特殊性を考慮し、内部告発の正当性判断の枠組みを 採用した上で厳格に判断した。すなわち、「Yが65億円の経常利益見込みを 80億円に意図的にかさ上げして公表した」とのXの告発内容につき、Yが見 込んでいた経常利益の額(65億円)が虚偽であるという証拠はなく、業績予 想の決定方法および開示額の決定方法は適切である一方、告発内容の大半は Xが伝聞した内容や業務上知った断片的な情報に基づく推測であり、直接体 験したことについても客観的な裏付けを欠くものであったと判断し、告発内 容の真実性・真実相当性を否定した。

25) 具体的には、①注意義務・忠実義務に違反した場合と②具体的な法令に違反した場合がある と解されている(伊藤靖史ほか『会社法[第3版]』[有斐閣・2016]230頁)。

(20)

 ⅱ 評価〔結論、理由づけともに賛成〕

 以上の本判決については、結論、理由づけともに妥当と考える。上記のと おり、本判決は、内容の真実性・真実相当性を判断するに際して、内部告発 における正当性の判断基準を採用して厳格に検討している。これは、XがA という告発先によって第三者へと情報が流出する蓋然性を認識していたこと に起因しており、それゆえにXの行為についてY内部への情報提供とY外部 への情報流出行為という一連の行為と把握したものと考えられる。XがAに 対して本件告発状を交付した行為がなければ、第三者に流出しえなかったこ とから、その行為の性質上一連の行為として認定することは妥当であると解 される。

 もっとも、こうした判断に対しては、AがYと顧問契約を締結する内部者 であると同時に現経営陣と対立関係にあるという事実を重視するあまり、A による外部流出行為の認識可能性という主観的要件を事後的に認定すること で、内部告発という法的評価を広範囲に認めすぎているとの批判も考えられ る(3イ参照)。しかし、前記のとおり、AがYに対して守秘義務を負うも のの、Yの経営陣と対立関係にあり、Aが情報を第三者に流出させる蓋然性 をXが認識していたと推認されることから、これら一連の経緯についてはX の一連の行為として判断すべきものと解される。以上から、本判決は相当と 評価することができる。

⑵ 目的の公益性 ア 学説・裁判例

ⅰ 内部告発の目的については、法令違反や不正の是正など公益目的である ことが求められる。犯罪・法令違反に関する告発や、人の生命・健康・安全 に関する告発事案においては、目的の公益性が認められる傾向にある。

 学説では、目的の公益性をどのように正当化要素と位置づけるべきかにつ いて見解が一致していない。まず、①告発の正当化要件に目的の公益性を含 めないとする見解がある。すなわち、社会的に意義ある公共性に関する通報

(21)

に関しては、その行為自体からのみ判断されるべきであり、その目的は不問 にすべきであると解する26)。また、②目的の公益性を消極的な要素として位 置づける見解がある。実際に公益目的の実現のためだけに告発を行うとはい えないことや、公益実現目的を立証することも困難であることから、消極的 に加害目的であると推認されるときは保護されない、あるいは保護されない と判断される一要素として考えるべきと説く27)。さらに、③積極的に公益を 実現するという目的を要件として設定する見解がある。同説は、内部告発が 結果として重大な公益性を有する(社会的に有益である)場合であっても、

本人の動機を問わなくてよいとは考え難く、それが私的な利益を得る目的な らば法的保護の必要性はないと説く28)

ⅱ 一方、目的の公益性に係る判断方法については、告発内容の公共性と密 接に関連するため、内容の公共性の有無・程度に即して検討する必要がある と解されている29)

 こうした内部告発の動機・目的の認定につき、従来の裁判例では内容の公 共性の有無・程度を考慮するかについて違いが見られる。前掲学校法人田中 千代学園事件(注8)は、内部告発の内容に着目し、「被告学校法人の経営 等に対して強い不満とそれなりの改革意識を有していた」と認定しつつも、

内部告発に至る経緯から、その主たる目的において公益性は認められないと 判断した。また、トナミ運輸事件30)においても同様の判断枠組みがとられ ており、告発内容の公共性の有無・程度について考慮した上で、告発に至る 経緯をも勘案して目的の公益性を肯定している。

26) 豊川義明「内部告発権の法理的検討と法制化に向けての課題」労働法律旬報1545号(2003)

 18頁。

27) 島田陽一=諏訪康雄=山川隆一「鼎談 企業秘密と内部告発」労判858号(2004)20頁〔山 川発言〕。

28) 島田=諏訪=山川・前掲注27)鼎談20頁〔島田発言〕。

29) 土田=安間・前掲注6)論文141頁。

30) 富山地判平成17・2・23労判891号12頁、大手貨物運送会社であるYの従業員であるXが、

Yが他の同業者との間でヤミカルテルを締結しているなどと内部告発したところ、Yがこれを 理由として長期間にわたり昇格させないなど、Xに対し不利益な取扱をした事例。

(22)

 これに対し、甲社事件31)は、内部告発に至る経緯は検討しているものの、

内容の公共性(会社が顧客に詐欺行為を働いているとの告発内容)について 検討していない。すなわち、内部告発に至る経緯における労働者の発言意図 につき、同人に対する未払い賃金を早急に支払ってもらうことや、本件告発 をしない代わりに会社から解決金を支払ってもらうこと等にあると推認した 上、私益が主たる目的であったと認定している。

 次に、内部告発において公益目的と私益目的が併存する場合については、

主たる目的が公益目的にあり、また、もっぱら図利加害目的の告発でない限 り、目的の公益性を否定すべきでないとする見解が有力である32)。裁判例に おいても、前掲学校法人田中千代学園事件(注8)は、「内部告発の目的と して公益的要素とそれ以外の要素が併存する場合には、その主たる目的が公 益的要素にあることが必要である」と判示している。また、前掲トナミ運輸 事件(注30)は、2件の内部告発についてそれぞれ公益性の有無・程度を判 断した上で、「内部告発については、Yに対する感情的な反発もあったこと がうかがわれるが、…仮にこのような感情が併存していたとしても、基本的 に公益を実現する目的であったと認める妨げとなるものではない」として目 的の公益性を認定している。すなわち、組織に損害を与える目的もあったが、

公益を図ることが主たる目的であるとして目的の公益性が肯定された。

イ 本判決の分析・評価  ⅰ 分析

 以上の判断枠組みを踏まえた上で、本判決を検討するに、目的の公益性に 係る判断方法(本項アⅱ)について、もっぱら、内部告発に至る経緯を検討 する枠組み(前掲甲社事件〔注31〕参照)を採用しており、当該内部告発内 容の公共性に関して何ら考慮を払っていない。すなわち、本判決は、XがL に交付した書面における記載内容から、Xは、Y社長を失脚させたいと考え

31) 東京地判平成27・11・11労経速2275号3頁。

32) 土田・前掲注2)書497頁。

(23)

ており、Yの経営陣と対立関係にあったAがY社長を含むY経営陣を失脚に 追い込むための材料を提供するために本件告発状をAへ交付したものと認定 し、Yおよびその株主、従業員、取引先等の利害関係者のために公益目的で 行ったとは認定できないと判示した。

 このように、本判決が告発の経緯に重点を置いた判断を行った背景として、

Xが会社内部における勢力争いの手段として告発を行ったという事情が存在 することが挙げられる。すなわち、Yは告発内容自体に公益性がないと主張 しているわけでもなく、この点については当事者間に争いがないのであるか ら、主たる争点としては、Xが現経営陣を失脚させる目的を有していたか、

そしてLを通じた情報提供もしくは本件告発状の交付を行ったことは、Aに 現経営陣を失脚させる目的であったか否かに集約されうる。本判決は、本件 告発に至った経緯に照らして、XにY社長の失脚目的があることを認定し、

目的の公益性を否定した。

 しかし一方、本件内部告発の内容を見ると、本件告発状においては、経常 利益見込みのかさ上げ(不正会計)に係る指摘、Yが独占禁止法違反行為を 行っているとの指摘、Yの海外事業においてマネー・ロンダリングの犯罪要 件が構成されているとの法令違反に関する内容が含まれており、公共性を有 する内容と認定することが可能である。こうした告発内容に着目すると、そ れが株主や消費者の利益になりうることから、告発内容の公共性を考慮した 場合、目的の公益性が肯定される余地がある。

 一方、内部告発の正当性判断における目的の公益性の位置づけ(本項アⅰ)

については、本判決は、前記③説と同様、目的の公益性を内部告発の積極的 要件と解する立場に立つものと解される。上記のとおり、本判決は、XがL に交付した書面における記載内容からXの告発を私益目的によるものと認定 し、公益目的を否定しており、③説と同様、目的の公益性を厳格に要求する 立場と解される。

(24)

 ⅱ 評価〔理由づけに疑問。結論に疑問の余地がある〕

 目的の公益性については、原審および本判決の理由づけに疑問があり、結 論に疑問の余地がある。

 まず、内部告発の正当性判断における目的の公益性の位置づけ(本項ⅰ)

について、目的の公益性を内部告発の積極的要件と解した点は相当と解され る。前記のとおり、目的の公益性の位置づけについては学説が対立している ところ、①目的の公益性を正当化要件に含めることを否定する見解および② 目的の公益性を消極的要素に位置づける見解は適切でなく、③公益の実現と いう目的を積極的要件として設定する見解が妥当である。①説については、

告発内容に高い公共性が認められれば、不当な目的が存していても内部告発 は正当と評価されることになり、不当な目的をもってなされた内部告発を保 護する余地を残している点で適切でない33)。また、②説については、内部告 発が加害目的によるものと推認される場合について正当性を否定する点では 相当であるが、他方、告発の正当化根拠である公益性を一切求めない結果を もたらしうる点で妥当性を欠く34)。以上から、目的の公益性については、公 益の実現目的を内部告発の積極的要件として設定する解釈(③説)が妥当で あり、したがって、③説と同旨と解される判旨は妥当と評価できる。

 これに対し、内部告発における目的の公益性の判断方法に関する判断には 疑問がある。前記のとおり、本判決は、内部告発に至った経緯を考慮するの みで、告発内容の公共性の有無・程度について何ら考慮していない。類似す る判断を行う裁判例(前掲甲社事件〔注31〕)も存在するものの、こうした 判断手法は妥当ではないと解される。その理由は以下の2点である。

 第一に、「目的」という主観的な要素の立証・判断は困難を極めることから、

内容の公共性という客観的事実を公益性の判断基準の一つと位置づけるのが 相当であり、告発に至る経緯のみで目的の公益性を判断することは適切では ない35)

33)土田=安間・前掲注6)論文142頁。

34)土田=安間・前掲注6)論文142頁。

(25)

 第二に、内部告発において公益目的と私益目的が併存する場合については、

主たる目的が公益的要素にある場合は目的の公益性を否定すべきでないと解 される(本項ⅱ)ところ、判旨は、この点についても考慮していない。上記 のとおり、本判決は、XがLに交付した書面における記載内容からXの告発 を私益目的によるものと認定しつつ、直ちに公益目的を否定しており、主た る告発目的が公益目的・私益目的のいずれにあったのかについて判断してい ない。本判決がこうした判断に至ったのは、上記のとおり、告発内容の公共 性の有無・程度について全く考慮しないことによるものであるが、この判断 に疑問があることは上述したとおりである。

 以上から、目的の公益性を判断するにあたっては、公益の実現目的を内部 告発の積極的要件として設定する(③説)一方、その判断に際して告発内容 の公共性を考慮し、かつ、本件のように公益目的と私益目的が併存している 場合は、私益目的が認定される場合も、告発内容の公共性から主たる告発目 的を公益目的と推認できないかについて慎重に判断する必要がある。したが って、本判決がXによる告発内容の公共性について考慮せず、また、主たる 告発目的の所在について十分認定・判断を行っていない点については疑問が ある。

 そこで以下、本件告発状の公共性の有無・程度および内部告発に至った経 緯の両面について検討する。Xの本件告発状の記載内容における公共性の有 無・程度を見ると、前記のとおり、Yによる法令違反(独禁法違反、不正会 計)等の公益性を有する内容が含まれている。これら告発内容は、人命に関 するものではないものの、粉飾決算等の不正行為の告発を内容とするもので あるから、Yの株主や従業員、取引先等の利害関係人だけでなく、一般投資 家や業界全体に派生する可能性があり、公共性を認定されるものと解される。

35) 土田=安間・前掲注6)論文141頁。なお、前掲注31)甲社事件も、従業員の告発内容によ れば、会社の詐欺行為を明らかにするとの目的がなかったとはいえないと判示しており、告発 内容の公共性を全く考慮していないわけではない。この判断と比較しても、本判決は、目的の 公益性をもっぱら告発に至った経緯によって判断する姿勢が際立っており、疑問がある。

(26)

したがって、内容の公共性を含めて目的の公益性を検討した場合、XにはY 経営陣の失脚目的(私益目的)があり、それとの競合がみられるものの、目 的の公益性が肯定される余地がある。それにもかかわらず、本判決のように、

本件告発内容の公益性を判断することなく、また、主たる告発目的の所在に ついて判断することなく目的の公益性を否定することは、会社内部での勢力 争いという特殊な事情があるとはいえ、妥当性を欠く判断と解される。また、

この判断を推し進めると、内容の公共性ではなく当該告発に至る経緯を過度 に重視することになり、公益目的と私益目的が併存する場合であっても、目 的の公益性が肯定される事案が大きく減少する可能性がある。

 以上から、本判決の理由づけには疑問があり、結論にも疑問の余地がある と解する。

⑶ 手段・態様の相当性 ア 学説・裁判例

 内部告発の手段は、情報収集の手段と内部告発の手段の2つに分かれ る36)。そして、これら手段はともに目的達成のために必要かつ適切であり、

法を遵守したものでなければならないのであって、それを欠く行為は目的が 正当であっても、手段の点で誠実義務・守秘義務違反となり、懲戒・解雇の 対象となると解すべきであるとされる。手段・態様の相当性は、告発目的・

内容と相関関係にあり、不正融資等の経済的情報の場合は、公益性が低下す ることから、手段・態様を厳格に解するべきであるとの見解がある37)。また、

内部告発の濫用が企業の利益や従業員の雇用に負の影響を及ぼしうることを 考えると、内部通報前置を基本と考えるべきだとされている38)。ただし、内 部努力が客観的に見て期待不可能な場合にまで要求されない39)

36) 前者の類型に関する裁判例として、宮崎信用金庫事件・福岡高宮崎支判平成14・7・2判時 1804号131頁、後者の類型に関する裁判例として、前掲注31)甲社事件、群英学園事件・東京 高判平成14・4・17労判831号65頁など。

37) 土田・前掲注2)書499頁。

38) 土田・前掲注2)書498頁。

(27)

イ 本判決の分析・評価  ⅰ 分析

 本件では、上述した手段・態様の相当性が問われる2場面のうち、告発手 段の相当性が問題となった。この点、本判決は、XはAが本件告発状の記載 内容を広く第三者に流出させる客観的な可能性を認識していたことから、「Y の名誉を毀損する記載を含む本件告発状をAに交付して第三者への流出のお それを生じさせることが、内部告発の手段として相当であったということが できない」と判断している。前記のとおり(3(1))、本判決は、本件内部 告発について、告発状が流出するまでの経緯をXによる一連の行為として捉 え、内部通報類型ではなく内部告発類型に位置づけた上、その枠組みに沿っ て正当性を厳格に判断したが、この判断を手段・態様の相当性においても一 貫させたものである。

 本判決の事実認定によれば、Xが、Aによって告発内容が第三者へ流出す ると認識していたと判断された論拠は、以下の3点に求められる。第一に、

月刊誌の記事において、Aが顧問契約を締結した後に、AによるYの現経営 陣に対する批判的な発言が掲載されていたこと、第二に、XはAがそうした 批判的な立場であることを認識していたこと、第三に、Aは、Yと取引のあ った銀行に対し、AがLを通じて提供された情報をもとに作成した書面を送 付し、その記載内容がXの所属する部署の所管であったこと等から、YはX が執務により知りえた情報をAに提供している疑いが強いと判断したことの 3点である。以上の事実に鑑みると、告発先がYの顧問という立場であった Aであっても、告発内容を第三者に流出させる客観的可能性があり、またX はそうした可能性を認識していたという特殊性が認められ、内部告発の手段 の相当性を欠くと判示されたものと解される。

39) 前掲注36)群英学園事件では、マスコミ報道とその影響について過去の認識から知っていな がら、被控訴人らがマスコミに公表すると申し入れたことについて、内部の検討諸機関に調査 検討を求める等の手順を踏むべきだったとした。一方、前掲注30)トナミ運輸事件は、Yを含 む運送業界全体で不正が行われていたことから、内部努力が十分であっても、内部で改善措置 等は行われた可能性が低いとし、告発の方法を不当とまではいえないと判断した。

(28)

 ⅱ 評価〔結論賛成。理由づけに疑問の余地がある〕

 本判決の判断は、本件限りでは妥当性を欠くものではなく、結論に賛成で あるが、理由づけには疑問の余地がある。前記のとおり、本判決によれば、

告発先が第三者に告発内容を流出させる可能性を認識していたかという基準 を充足した場合、内部告発と認定されるとともに、手段の相当性を否定され るものと解される。この点、本件のように、労働者が第三者への流出の可能 性が高いことを現実に認識しつつ告発した場合は、以上のように評価されて もやむをえない。したがって、本判決の結論には賛成である。

 しかし一方、外部へ告発内容を漏えいすることについて認識可能であった かを客観的事情から事後的に評価するという本判決の判断手法には疑問の余 地がある。すなわち、本判決によれば、内部者への告発当時に、告発者にお いて当該告発先がその後外部へ流出させることを認識・予見できなかった場 合であっても、内部告発として評価される可能性があり、企業内部での不正 行為是正を目的とする内部通報まで抑制する結果をもたらしかねない。すな わち、こうした判断手法によれば、内部告発の外延が過度に拡大する一方、

企業の自浄作用を促進する内部通報を萎縮させ、妥当性を欠く結果をもたら すおそれがある。ただし、本件に関する判断としては異論はないので、指摘 にとどめる。

4 懲戒降格(降格処分)

⑴ 学説・裁判例

 懲戒処分とは、業務命令や服務規律に違反した労働者に対して、使用者が 制裁として行う不利益措置をいい、就業規則において、譴責、戒告、減給処 分、出勤停止、降格、諭旨解雇、懲戒解雇として制度化されている。労働契 約法15条は、懲戒権濫用法理を立法化した規制を設けているが、懲戒権の法 的根拠については、学説と判例は一致していない。

 学説においては、懲戒については労働契約上の特別の根拠を要するものと 解し、懲戒権は、労使間の合意や就業規則によって契約内容となってはじめ

(29)

て発生すると解する見解40)(契約説)が通説である。一方、判例41)は、労働 者は労働契約の締結によって労働義務とともに「企業秩序を遵守する義務を 負い、使用者は、広く企業秩序を維持し、もって企業の円滑な運営を図るた めに、……労働者に対し、一種の制裁罰である懲戒を課すことができる」と 判示し、懲戒権の根拠を企業の固有権である企業秩序定立・維持権限に求め ている。もっとも、判例は、国鉄札幌運転区事件42)において、使用者は企 業秩序の違反行為に対して、「規則に定めるところに従い制裁として懲戒処 分を行うことができる」と判示し、またフジ興産事件43)では、「使用者が労 働者を懲戒するには、あらかじめ就業規則において懲戒の種別及び事由を定 めておくことを要する」と述べていることから、就業規則の規定を懲戒権の 発生要件とする契約説と同様の見解と解されている44)

 以下では、こうした懲戒処分の中でも、本判決で争点となった降格処分に ついて概観する。一般に、降格とは、労働者の職能資格または職位(役職)

を低下させること(人事異動としての降格)をいうが、前者は基本給の引き 下げを伴うことから労働者の同意または就業規則上の明確な根拠規定が必要 であり、後者は使用者に存する人事権(労務指揮権)を行使することで降格 を命ずることができると解されている45)

 一方で、上記の降格とは異なり、懲戒処分としての降格(降職)が行われ ることがある。懲戒処分としての降格は、人事異動としての降格とは異なり、

就業規則上の根拠を要するとともに、労働契約法15条所定の懲戒事由該当性

40) 菅野・前掲注9)書660頁、土田・前掲注2)書472頁など。

41) 関西電力事件・最判昭和58・9・8判時1094号121頁。

42) 最判昭和54・10・30民集33巻6号647頁。

43) 最判平成15・10・10労判861号5頁。

44) 土田・前掲注2)書468頁、近時の裁判例も契約説と同様、懲戒権の法的根拠を明示の合意 または就業規則に求める傾向にある。たとえば、倉田学園事件・高松地判平成2・5・10労判 579号44頁、十和田運輸事件・東京地判平成13・6・5労経速1779号3頁、学校法人B事件・

東京地判平成22・9・10労判1018号64頁、日本通信事件・東京地判平成24・11・30労判1069号 36頁など。

45) 土田道夫『労務指揮権の現代的展開―労働契約における一方的決定と合意決定との相克』(信 山社 1999)578頁。

参照

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