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『ミッションスクールと戦争

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Academic year: 2021

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老川慶喜・前田一男 編著

『ミッションスクールと戦争    ─立教学院のジレンマ─

東信堂 2008 年 A5 判 499 頁 ¥5800 (税抜)

油井原 均

 以前,松平信久先生(立教学院長)が,沖縄や 広島・長崎への修学旅行について「近年は,語り 手に対する失礼にも気をつけないとならない」と おっしゃっていたことを記憶している。その後気 をつけていると,平和学習を行っていた学校の生 徒が,戦争体験の語り手に対してきわめて冷淡な,

あるいは侮蔑的な態度をとり問題となったという 記事が目につくようになった。

 過酷な戦時下生活を体験した者にとって,その 体験はおそらく一生涯消えない鮮烈なものであろ う。筆者の両親もいわゆる「国民学校」世代であ り,その思い出語りを聞いたことがしばしばある。

まがりなりにも現在教育に携わる仕事をしている 者にとって,それらの話が身近で貴重な体験談に なっていることは疑いない。だが一方で,繰り返 されるそれらの話に素直に共感できないこともあ った。

 体験談は,現在の視点からの回想という性格を もたざるをえない。さらに,語り手当人が「わが こと」として感じているであろう同時代性と感覚 を,聞き手がそのまま感じとることはきわめて困 難である。あえて強引に一般化して述べれば,戦 争あるいは戦時下を物語り記録する際に,当事者 の体験・経験への依拠にとどまらない,どんな方 法がありうるか,ということが,問われているの ではないか。冒頭でふれた生徒たちの様子は,そ のような課題の存在を暗示しているように筆者に は思えるのだ。

 その点で,本書所収論文には,戦時下を語る上 での新たな方法論の模索がかいまみられるように 感じられた。それらの模索は萌芽的なものかもし れないが,筆者は強い共感をおぼえた。

 本書は,2000 年に設立された立教学院史資料

センターが,その創設以来取り組んできた共同研 究プロジェクトの成果を集約した論文集である。

戦時期における自校史が「そもそも研究対象とし て心理的に成り立ち得ない」「客観的な批判的研 究ができる環境が整わなかった」(本書 p.4)時期 を経て,本書でそれらは,あらためて向き合う必 要性と責任が存在する研究対象として把握されて いる。本書は存在する責任への一つの応答とみる こともできるだろう。

 本書の特徴として,周到な資料収集に基づきな がら,他大学・他機関との比較の観点が分析と論 述に際して強く意識されていることがあげられ る。そのような方法意識のもとに浮かび上がって くる戦時下の立教学院は,文部省に代表される政 策遂行・国家権力との単純な対立関係あるいは抑 圧的関係のなかにおかれるのではない。米国聖公 会に代表される世界的なミッションの動向,他の キリスト教主義学校の動向などと相互に結びつけ られながら,政策遂行・国家権力側との関係性も 再検討される存在として学院は描き出されてい る。結果として,「戦後からの一方的な告発裁断」

という単純な構図を避けつつ,当事者たちがどの ような時代状況のなかでどのような判断を行った のか,さらには判断自体の妥当性をも内在的に問 おうとしている。先に述べたように,筆者が最も 共感したのは(必ずしも執筆者全員に共有されて いるわけではないようにも思われるが)この方法 意識の存在であった。

 戦時に至る動向や戦時中の経過についての詳細 な記述にもかかわらず敗戦時以降の学院の動向に ついてほとんど記述がないこと,基本史資料の評 価について章ごとに少なからぬ振幅が認められる ことなどの疑問も感じた。しかし,本書によって 他大学・機関との研究的往還が生じ,さらに戦時 下研究が進展することが期待できる。なによりも,

現在の日本の大学が置かれた状況のなかで,戦時 中の自校の責任と果たすべき義務を自覚し,それ を研究成果として世に問うことのできる,研究機 関としての「基礎体力」を示したことには,きわ めて大きな価値があると考えるものである。

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