中国人学習者の漢字読み仮名表記と聴く練習
著者 川森 めぐみ
雑誌名 同志社大学日本語・日本文化研究
号 12
ページ 185‑200
発行年 2014‑03
権利 同志社大学日本語・日本文化教育センター
URL http://doi.org/10.14988/pa.2017.0000013491
要 旨
上級レベルの学習者は、自己の学習ストラテジーを構築している。それゆえ、
授業中に間違えたところが概ね自己修正され、復習型テストが有効に機能してい る。しかし、漢字の読み仮名テストに限ると、中国人学習者の中には常に混乱し ていて、修正が難しい者もいる。であれば、現状の「何度も読み仮名を見る」と いう視覚に頼るだけの学習方法を変える必要があるのではないだろうか。筆者は、
さまざまな学習法のうち、教師の支援が必要な、音声弁別からモーラを体得する 練習を実践した。その結果、長音のモーラの確立に問題があることがわかった。
そのデータとして、一中国人学習者の練習開始から終了までの内省と、比較対照 のため、二名の学習者に行なったインタビューを提示した。
あわせて、漢字が読めるという二つの側面、すなわち、読み仮名表記と発音を 結びつけるいくつかの提案をした。
キーワード
日本語 中国人学習者 読み仮名 モーラ 発音 気づき
1 はじめに
筆者は同志社大学日本語・日本文化教育センター及び留学生別科の集中日本語コー ス(日本語学習を主目的とする学習者のコース。以下、本コース)で、上級前期に当 たるⅦレベル「総合」という科目を担当している。本コースの日本語科目は、「総合」
と「技能別科目」からなる。前者は本文、文型や副詞のシート、漢字のカードを毎日 学習するもので、必修ではないが、ほとんどの学習者が受講する。後者は選択科目で、
文章表現、口頭表現、読解、語彙などを、それぞれ週に 1 乃至 2 時間学習する。
上級レベルになると、漢字語彙の共通性と学習者数の規模1から、中国人学習者(以 下、中華人民共和国、台湾、香港などの中国語圏学習者の総称として使用)の比率が 高くなる。
漢字に読み仮名(「読み仮名」「振り仮名」「ルビ」は概念の差異があるが、本稿では 書名や引用以外は「読み仮名」に統一)をふるテストでの正答率が、他国からの学習
中国人学習者の漢字読み仮名表記と聴く練習
Reading Japanese Kanji and Listening Practice;
In Case of Chinese Learners
川森 めぐみ
者と比べて、ある傾向を持って芳しくない中国人学習者がいる2。彼らの読み方は間違っ ているのだが、間違いが固定しているのではなく、常にゆらいでいる。同じ漢字につ いて、前回のテストでは正答であったが、今回のテストでは誤答であるというように、
誤りの化石化というより、混乱の化石化を起こしているように見える。
中国人学習者の読み仮名表記、発音、聴きとりの問題点は、阿久津(1993)、内田(1993)、
兒島(1998)などの先行研究や、本センターのテスト結果からも、次のようにまとめ られる。
①長音か長音でないかの区別がついていない(以下、長短の区別)。
②促音があるかないかの区別がついていない(以下、促音の有無)。
③清音か濁音かの区別がついていない(以下、清濁の区別)。
前二者がモーラと関係する問題で、後者が有声音か無声音かという問題である。こ の問題点はつとに指摘され、現在もテストや機器を使った調査結果が報告されている。
しかし、調査結果が継続的な実践に活かされている報告は少ない。そこで本稿では、
まず、読み仮名の学習法を整理する。次に筆者が行なった、音声弁別からモーラを体 得する練習の実践と、そこで明らかになったことを述べる。また、学習者から見た読 み仮名ふりについての内省を報告する。すなわち、自分の読み仮名の問題点をどう把 握しているか、学習法が適切かどうかの判断、練習の過程での内省、結果に対する自 己評価などを記述する。さらに、読み仮名ふりの正確さと発音の正確さを結びつける ための提案をする。
2 漢字読み仮名テストの現状と問題点
Ⅶレベル「総合」では、各課が終わるごとに 7 種の復習テスト(以下、課末テスト)
がある。復習型のテストの目的は、「何ができなかったかを明らかにし」「できなかっ たところをできるようにする」ことで完結する。前者は採点結果で明らかになる。後 者は、返却された結果をよりどころに学習者が再定着をはかることで達成される。
授業中の観察では、中国人学習者は間違えたところに対する説明をよく消化し、課 末テスト実施時にはすでにほとんど修正ができている。しかし、漢字の読み仮名に限っ ては、学習者の努力に委ねているだけでは修正が難しいようである。
筆者は 2012 年度に数回、2013 年度春学期から毎回、本文漢字読みテスト(本文の漢 字に読み仮名をふるもの)を担当した。担当者は問題をゼロから作るわけではなく、
過去の問題を微調整する。最初に担当した際、たとえば、「高校」などの漢字ははずし てもいいのではないかと提案した。それに対して、長く本コースに携わっている同僚は、
「できないから何度でも問う必要がある」と答えた。出題すると、なるほどできない。「こ うこ」「ここう」などの誤答が出てくる。新出漢字語彙よりも「お風呂」(おふろう)
の誤答率がはるかに高かったという課もあった。
こうした誤りについて、兒島(1998)は、学習の早い時期から現われると報告して
いる3。筆者の観察では、誤りが化石化して、いつも同じ間違いをするわけでもない。
本文漢字読みテストでは正しく読めた漢字が、漢字カード読みテストでは間違ってい るというように、常に不安定なのである。この原因は何だろうか。中国語の影響はも ちろんあるだろう。それとともに、単なる学習時間不足なのか、何度も取りこぼすう ちに、読み仮名学習への意欲が弱まってしまったのか。あるいは、学習方法が適切で はないのか。いずれにせよ、漢字読みテストに関しては、「できなかったところをでき るようにする」という面がうまく機能していない学習者が存在しているといえる。
このような事態に対して、対処法は二つある。一つは、「高校」や「お風呂」は上級 者ならば、これまでに何度も口頭で使い、そこで問題が生じておらず、とりたてて平 仮名表記する機会もない。それゆえ、あえて読み仮名は問わないという対処である。
竹内(2007)は、英語に即してだが、外国語学習全般の問題として、「われわれの多く が英語を学ぶのはコミュニケーションのためであり、決して音と文字の対応関係を見 いだしたり、音を識別したり、ルールを見いだしたりするためではない」と述べている。
二つ目は、初級の既習語であっても、正確な表記を定着させるという対処である。本コー スは後者であるが、問題は、出題を繰り返すだけでは学習効果が見られない学習者も いることである。
前者のような対処法の背景には、学習の評価基準がCEFR(Common European Framework of Reference for Languages)で示されている「コミュニケーション活動 ができるかどうか」に変わりつつある現状がある。「総合」で学習していることが、コミュ ニケーション活動によりつながる方向を探ることもできるのではないだろうか。
3 学習法の考察 3.1 教師の観察機会
授業中、学習者がどのように漢字を読んでいるかを、教師が観察する機会は本コー スでは主に二つある。
一つ目の機会は、漢字に特化しているものではないが、ディクテーションである。
読み仮名テストに近い形式で、読み仮名表記をチェックできる。前日学習の復習とし て行なわれるが、当日の学習項目が多いと実施できない。
中込(1995)は中上級学習者に対して、聴解授業の一形態として、おおまかな内容 把握の練習とともに、初めて聞く内容のテキストを細部まで正確に聞くディクテーショ ンが効果的であったと報告している。しかし、ディクテーションという練習法そのも のについて、学習者のレベルや目的により、さまざまな見解がある。
もう一つの観察機会は、テキストの音読である。本コースの学習者は、意味の切れ 目でポーズを置いて読む習慣がついている。よって、教師はこの点に言及する必要が ない。筆者がもっと注意を払うよう促しているのは、アクセント、母音の無声化、稀 に鼻濁音という発音の問題である。筆者の聞こえ方からすると、中国人学習者も、清
濁や長短の区別、促音の有無に特に問題があるようには思えない。あらかじめ「こう 発音される」とわかっているからだろうか。しかし、現実に読み仮名表記は不正確な のだ。それを正確なものへと修正、固定するためには、漢字の学習法を考えてみる必 要があると思われる。
3.2 学習法 1 知識の利用
中国人学習者の漢字読み仮名表記に役立つ知識として、どのようなものがあるだろ うか。
①清濁の指標を明示的な知識として示す。阿久津(1993)は、「語頭の清濁の区別は つきやすい。なぜなら、日本語の語頭の清音・濁音が、音声的には主に、それぞれ、
弱い有気無声音・無気有声音であるため、中国語の有気音(送気音)・無気音(不送気音)
の対立の枠組みで捉えられるから」と述べている。
②学習者のつくった中間言語規則を修正するための知識を提供する。中村(2009)は、
上級中国人学習者 20 人を対象に調査し、たとえば、「図書館」「辞書」「教科書」の 3 つの「書」のうち、「しょ」であれ「しょう」であれ、すべて同一の読み方をしたのは 9 人であるという結果を得た。そして、「中国人学習者は 1 つの漢字の読みを語彙に応 じて長音化あるいは短音化するのを許容する傾向がある」と解釈している。ここで、
中村が「許容」といっているのは、「1 つの漢字には長音の読み仮名も短音の読み仮名 もある」との認識である。現実にそのようなことはないという知識を与えて、規則の 修正を促すのである。
③後続する子音と促音の関係、連濁、転音の知識を与えれば、無用の試行錯誤を回 避することができる。
これらの方法のよい点は、広範な読み方をカバーできることである。よくない点は、
それだけではカバーできない点があることである。また、知識の前提となる現象の分 析が十分でない点がある。
①について、同じく阿久津によると、「語中や語尾では、(日本語は)清音・濁音と も音声的に無気音になることが多く、中国語の有気音・無気音の枠組みで捉えられな くなる」というように語頭にしか使えない。また、李(1987)も、送気音・無気音の 枠組みだけでなく、声帯の振動によって起こす[b][dz][d]などの練習が必要であると指 摘している。
②長短について 1 つの読み方しかないという知識は非常に有効なものである。しかし、
その知識さえ与えれば問題は解決するのだろうか。「日本語で 1 つの漢字がある時には 清音、ある時には濁音で読まれたり、促音化したりするから、長短もどちらの読み方 があるという規則を学習者は立てた」という中村の推察した解釈でいいのだろうか。
本コースの中国人学習者の読みはゆらいでいる。中村の学習者にもう一度同じ調査を しても、今回と同じ読み仮名をふるだろうか。中国人学習者が長短、清濁、促音の読
み仮名表記を見ていないはずがない。にもかかわらず、読み仮名表記が不正確な原因を、
文中の漢字を見ただけで意味がわかってしまうからという不注意さに、帰結していい のだろうか。また、「短音が長音に表記される傾向がある」と報告している現象は、短 音が長い音として認識されて起こる問題なのか明らかではない。それでは、何が中国 人学習者の音声弁別を妨げているのだろうか。
3.3 学習法 2 漢字ごとに音訓を覚える
ある漢字にどのような読み方(音訓)があるかを覚える方法もある。この方法のよ い点は、正確な読み方が身につくことである。よくない点は、時間がかかることである。
それから、教材も辞書のようなつくりで、短文練習以上の文脈がない。したがって、
学習が単調になり、効率的ではない。
効率性についてより詳しく説明する。改訂常用漢字表の漢字の音読みを、筆者が数 えたところ、2136 字のうち、つくりが同じなら音読みも同じ形成文字は、合計約 200 種類、約 515 字である。たとえば、「愛」と「曖」で 1 種類、文字数は 2 字とカウント する。残りの約 1600 字強の音は個別に覚えていかなければならない。ゆえに、形成文 字の知識は重要だが、数的にはそれほど汎用性があるともいえない。
個々の漢字の音訓を整理している教材も多い。『Basic Kanji Book』が代表で、本コー スの「漢字カード」もこの形式である。『Basic Kanji Book』はどのテキストにも依拠 していない。一課ごとに「趣味」「仕事」などのカテゴリーがある。それに対して、漢 字カードは、本文のことばと同じ漢字を使う語彙を挙げ、練習問題が付けてある。練 習問題は、文脈と合致することばを選択し、その文法的な形(テンス・アスペクト・ヴォ イスなど)を整えて空欄に記入するようになっている。語彙学習を意味的な学習に終 わらせず、文としてのout-put活動を取り入れているのである。こうした語彙教育に、
本コースは重点をおいている4。
しかし、教材として使いにくい点もないわけではない。親字は本文に依拠するものの、
そのカードで学習する語彙範囲が広い。この問題は、文型・副詞シートにもいえるこ とである。筆者は扱っている対象全体をカバーする文脈がつくれず、ぶつ切り的な授 業の組み立てになってしまうという経験をしている。
3.4 学習法 3 視覚情報の強化
学習者が慣れ親しんでいる視覚的情報のin-putをもっと強力にして、テストという out-putの正確さを高める方法も考えられる。
① 苦手な音の部分に、印をつけたり、マーカー塗りをしたりリストを作ったりして何 度も見る。
② まず、自分が思っている音(表記)でスマホ辞書を引く。そこで、違う漢字やエラー が出たら、①のような作業をする。
③ 本橋(2010)が促音で実験したように、パソコンに波形を出し、視覚的にモーラを 捉える。
①②のよい点は、長短や清濁の区別、促音の有無のいずれにも使える点である。そ れから、自習できることである。よくない点は、耳で聴いたことばにはあまり向かず、
文字表記されたことばの学習に、より有効である点である。もっとも、それでテスト の成績が上がれば、学習全体の意欲も上がる。
③の方法は、近い将来、標準化されたソフトをダウンロードする形5で実現するかも しれないが、現状では一教師が作るには手間暇がかかりすぎるという問題がある。
3.5 学習法 4 聴き方を変える
読み仮名情報の取得を、表記という視覚情報から、音声という聴覚情報に変える方 法を検討してみる。
聴覚という音声的要素を加えた学習法のよい点は、視覚を使うよりも短時間に大量 の対象に触れられる点である。また、視覚を使う方法は「頭で直接読み仮名表記を覚 える」ものだが、聴覚は「体や感覚で音声をとらえ」「間接的に読み仮名表記につなげる」
方法である。だから、一度体得できれば汎用性がある。よくない点は、独習できずネ イティブスピーカーの支援が必要なことである。しかし、これは支援さえあればでき るともいえることである。
音声教育は、通常、清濁や長短の区別あるいは促音の有無を、アクセント型も同じ ミニマルペアで行なわれる。しかし、内田(1993)は、「『賭け、家計、脚気』のよう に特定の 1 つの単語を基準として、長音と促音の双方に対立する単語の組を選択する ことが、中国人学習者への音声教育をする上で留意すべき点の一つ」と述べている。
内田はこれ以上言及していないが、「首都、周到、出頭」のようにアクセント型の異な るものを混ぜたら、学習者はどのような反応を示すだろうか。
本橋(2012)は、英語を第一言語とする学習者に、英語から日本語に翻訳して短文 全部を平仮名で書かせるという方法で調査した。そして、英語のアクセント型によっ て平仮名表記の難易があることを明らかにした。中国語の場合、四声が日本語の発音 や表記と関係しているという報告は、管見の限りではなかった。
では、どのような練習を提供したらいいのか。筆者は簡便性を最重要視した。練習 の対象を一つに絞り、特別な装置を使わず、短い時間でできるようにした。まず、対 象を語末のモーラだけに絞った。単語だけでは語末の長音は聴こえない音である。次 の音があってこそ、長短の区別がつく。たとえば、「一緒」「一生」で練習するのでは なく、「一緒に一度行きましょう」「一生に一度行きましょう」という文にして練習する。
ことばを助詞まで聴いたり発音したりすることによって、モーラの感覚を体得し、違 いを弁別できるようにする。練習の素材は文であり、現実の活動により近いものになる。
管見ではこのような「助詞も視野に入れて聴いたり発音したりする」という方法を提
示している論考はなかった。それゆえ、効果があるかどうか実践してみようと考えた。
4 学習者の漢字読みテストや学習法についての考え 4.1 インタビュー対象者のプロフィール
当の学習者は漢字読みテストや学習法について、どのような考えを持っているのだ ろうか。それを知るために、三人の学習者にインタビューをした。そのプロフィール を簡単に紹介する。
一人目Aは、2013 年度春学期を通じて学習方法改善練習のモニターを務めてくれた 中国人学習者である。日本語は初級から教師について学んでいる。
二人目Bは中国語との接点がまったくない学習者である。両親の一方が日本人であ るが、もう一方の親は日本語を解さない。育った環境も日本ではない。しかし、日本 の祖父母、在外日本人との交流は多かった。日本人学校の補習クラスにも 6 年間通った。
とはいえ、日本語の使用範囲は家庭内での話し言葉が中心で、読み書きはもっぱら育っ た国の言語で行なっている。カリキュラムに従って日本語を学習したのは 1 年ほど前 からである。それまでは日本語で手紙も書いたことはなかった。
三人目Cは、幼児期の話し言葉は民族語で、教育を受けた言語は中国語である。民 族語でもコミュニケーション活動はできるが、抽象度の低い話題に限られる。中級の 半ばまでの日本語は、中国でCD付教科書を使って独習した。
三人とも、漢字読みテストの得点はそれほど大きくは変わらない。
4.2 到達イメージ
最初の質問は、「読み仮名ふり能力が向上すると、自分では何ができるようになると 思っているか」である。
Aは、「(全部読めれば)テストの成績がよくなる。点数がいいと、勉強が楽しくなる。
あと、会話がうまくなる」と述べた。何がどう出題されるかには言及していない。
Bは、「ニュース(新聞)やエッセイ、小説などが読めて、書かれたものから情報を 得られるようになる。今は第一言語で情報をとってしまう。この漢字が読めるかどう かに気をとられていると、内容が掴めなくなるので、読める漢字が多くなれば、内容 理解に集中できるだろう」と言った。やはり、何が出題されるかには言及していない。
出題形式については、「補習校で習い始めたときからずっとこういうもの(漢字に読 み仮名をふるもの)だったので、特に疑問を持ったことはない」と話した。
Cは、「日本語能力が全般に高まり、それは社会人になったらとても役に立つだろう。
読み方も含めて漢字学習の必要性は、手紙を書くときなどに痛感する。漢字は読み仮 名さえふれればいいとは思わない。日本語の字形やアクセントなどが、自分の漢字学 習の 60%を占めているかもしれない。訓読みの意味範囲と漢語の意味範囲を知ること はおもしろい」と話した。「漢字の読みでも何でも学習したことは全部使えるようにな
らなければ意味がない」とまとめた。
出題の形式に関しては、「中国語の習い方と少し似ている」と言った。小学校に入学 すると、漢民族でも低学年では、ちょうど日本語をまず平仮名で表記するように、話 している音声をピンインで表記することを学ぶ。そして、徐々にピンインに漢字をあ てはめていくが、漢字にピンインをふるテストはないそうだ。
読み仮名学習でできるようになることについて、Bは具体的な言語活動を想定して いる。Aは結果(テストの成績)と、「話すこと」と限定しているものの、抽象的な言 語活動を想定している。Cの想定も抽象的であるが、いつ役に立つかが具体的であり、
日本語の言語活動全体の中に読み仮名学習を位置づけていることがうかがえる。
4.3 問題点の自己認識
次の質問は、「自分自身の読み仮名ふりの問題点は何か」である。
Aは、「てんてん(について)はあるかないかわかる。長いか短いかが一番苦手。あ と小さい『つ』もちょっと」と自分の弱点を説明した。
Bは、「漢字(字形)を見ても読み方も意味もわからない場合がある点。漢字の勉強 は読み方だけではなく、書くこと(字形)と並行させたほうが覚えやすい。書きテス トがないと本気で書く練習しない、かな」と述べた。Bは育った言語環境から、文字 表記も含めて語彙の片寄りが最大の課題と自覚しており、音と意味の結びつきだけで は、文章から情報がとりたいという目標達成には不十分で、形、音、意味を同時に学 習したいと考えている。
発音弁別プリント(Aが練習した要素を入れた短文)をBは、モーラもアクセント も正確に読める。しかし、「この漢字、全然、読めない。意味もわかりません」という 箇所もあった。
Cは、「できない漢字は日常的に接する頻度が低いもの。それと、ヒントがない漢字。
ヒントは自分なりのもので、漢字の意味はわかるから、訓読みを覚える際に役立てる。
たとえば『導く』は中に『道』があるので訓読みを想起しやすい。『試みる』場面では『こ ころ』がわくわくすることに着目して、『こころみる』と覚える」と説明した。
Cの民族語には長短の区別、すなわちモーラがある。民族語にはない促音の有無も モーラの感覚から聴き分けられる。しかし、清濁の区別、特にタ行とダ行、時々サ行 とザ行の聴きとりも発音も弁別が難しいと言った。Bと同じプリントを読んだ際にも、
自己申告の通りだった。たとえば、「完全」の「ぜ」がやや「じぇ」に近く、「京都」
と「郷土」のどちらも「ど」に近い発音だった。聴き分けも、「だめです。同じように 聞こえます」と言った。
三人とも、自分のできる点、できない点を具体的に掴んでいることがうかがえる。
4.4 学習法
最後の質問は「今はどのように漢字の読み方を勉強しているのか」である。
Aは、「全部を何回も見る」ということだった。「テストはいろいろなテストがある から、読み仮名の勉強時間はじゅうぶんではないかもしれない」と言った。質より量 の問題として捉えている。しかし、時間をかけるだけで点数が伸びるのだろうか。自 己流の勉強法以外のやり方を探ってみてもいいのではないだろうか。また、Aは読み 方を「平仮名で表記するもの」としてだけ捉えており、「音声面」に目を向けていない。
それは、最終目標である「会話がうまくなること」に対して適切な姿勢かどうか検討 していない。
Bは、「継続して漢字の勉強をしてなくて、テスト前にあわててやっている。方法は、
新しめの言葉の平仮名部分をマーカーで塗って強調する。補習校時代からずっと続け ている方法で、慣れている。一番覚えられない漢字は、それが含まれている文を書く。
でも、それは、ほんとに、たまに」と説明した。Bのとっている学習法は、漢字の形 と音をむすびつけられたかどうかのチェックが中心である。そこに清濁の区別や促音 の有無、長短の区別という問題は生じない。
また、「自分の目標の中で、漢字の読み習得が占める比率はそれほど大きくない。自 分ではこのぐらいの点数なら悪くないと思っている」と、学習時間や範囲が少なめで あることは自覚しているが、自己評価基準を持っていることを述べた。
Cは、「漢字のテストはたくさんあったから、いつも勉強している状態だった。テス トの前には、紙に漢字を書き、翌日の朝、読み仮名をふる。自己チェックし、その日 の午前中のうちにもう一度記憶しなおす。漢字は書かないときちんと覚えられないの で、どのレベルでも書くテストもあったほうがいい。テストは復習する際、送り仮名 がどうなっているか確かめるのにも役立つ。たとえば、『滑る』なのか『滑べる』なの かなど」と説明した。Cもテストのための学習の際には、読み仮名を主に視覚で確認 していることがうかがえる。
5 聴く練習の実践 5.1 目標と方法
Aは筆者の担当する「総合」の学習者である。Aは聴き方を変える練習法を「やっ てみる」と即答した。自分のやり方に固執していたわけではなさそうだった。練習は 授業終了後 5 分から 7 分で、春学期 15 回のうち計 7 回行なった。Aが一番苦手だという、
長短の区別を「語末に現れるものに限り、助詞を含めて聴くことによって、弁別でき るようになる」ことを目標とした。
語末の長音は、実際には聞こえない 1 拍分の音であり、次に「です」や「は」「が」「の」
「に」「で」などがつくものは、2 拍分の音を聴かなければならない「を」がつくものよ り弁別しやすい。たとえば、「一生に一度行く」「そんな一生は楽しい」「一生の友だち」
は易しいタイプである。「寂しい一生を生きる(「うを」の 2 拍分を聴く)」「寂しい一 生を終える(「うをお」の 3 拍分を聴く)」は難しいタイプである。
5.2 練習の実践
練習は、次のようなスケジュールで行なった。
① 4 月第 4 週 学習者の現状認識とスケジュール・内容決定 ② 5 月第 2 週 清濁の区別
③ 5 月第 3 週 長短の区別
④ 5 月第 4 周 アクセントの違う長短の区別
⑤ 5 月第 5 週 ここまでの練習や効果についての自己評価 ⑥ 6 月第 1 週 促音の有無
⑦ 7 月第 1 週 再び長短の区別
①はこれまで書いてきたようなことを確認した。
②は、清濁の区別である。Aの申告によれば「かなりわかる」ものである。「格好」「学 校」のような語頭の清濁の区別も、「書道教育」「初等教育」のような語中の清濁の区 別も、Aは正しく弁別できた。Aの自己モニターはかなり正確であった。
③いよいよ問題の長短の区別の練習である。まず、筆者の後について言わせたが難 しい。次に、「一生の友だち」は「いっしょ」→机を叩く→「の友だち」のように、間 に動作を入れて「時間を作る」仕掛けをしたが、うまくいかない。一番効果的で、A が自分の発音の傾向に気づいたのは、「せーの」で一緒に文を言うやり方であった。
中村(2009)が報告した「表記上、長音で書かれる傾向」とは、たとえば、「思慮」
を「しりょう」と表記するものである。しかし、「思慮がない/資料がない」のミニマ ルペアの文にしてAと一緒に発音すると、「思慮がない」は筆者の発音の速度と一致し ている。ところが、「資料が」の「が」をAは筆者よりかなり早く発音する。体得して いる長音より、もっと長く次の音を待たなければならないことにAは気づき、短音の文、
長音の文を一人で何度も繰り返した。そして、時折、筆者に「もう一度一緒に」と促 す積極性が出てきた。この現象はAに限らず、2013 年度秋学期の学習者 4 名に試した 際も、長音の長さが十分ではなかった。
ここに中村のいう「許容」現象の原因があると考えられる。つまり、学習者が長音 として表記するものは、短音を長音として認識しているのではない。実際の長音より 短いモーラでも長音と認識してしまう反映なのである。視覚より聴覚からの影響が読 み仮名表記に現れていると考えられる。短音のゆれは長音のモーラが未確立であるこ とから起こる現象である。ということは、長音のモーラが確立したなら、時間的にそ れに達しない音は短音と認識されることになる。
内田(1993)は実験結果から、次のように解釈をしている。中国人学習者は日本人 のように安定したモーラの時間を持っておらず、典型的な 2 音節(「過程」「勝手」で
はなく「糧」)の内的基準から逸脱していると、長音や促音であると判断しているようだ。
これは、筆者の考察とも合致しており、「思慮」が少しでも長く聞こえると「しりょう」
と表記する。「思慮がない」と「資料がない」を弁別するためには、長音の内的基準を 持つことが必要である。その結果として、読み仮名表記が正確になる可能性がある。
④③の長短の区別は、アクセントの型が同じミニマルペアで行なった。この回は、「転 倒の危険性を考える」「テントの危険性を考える」のようにアクセント型が違うものを 使った。「これ、もう全然だめ」と言うほど、Aには非常に難しかったようだ。
⑤ 2 回目の課末テストが返却されてきた。これからも練習を続けていくかどうかを Aに訊いてみた。「効果はあると思う」ということだった。
⑥促音の有無練習は、「切ってください」「来てください」のような同じアクセント 型のもので行なった。Aは、「これは易しい。先生の声はよくわかる」と言った。モー ラの感覚ができてきたのかもしれない。あるいは、筆者のような関東弁話者は、上記 の例でいえば、「て」の無声歯茎破裂音が鋭いので聞きやすかったのかもしれない。今 回は、Aの目標である「長短の区別」を優先したが、まず促音から練習した方が有効だっ た可能性がある。
⑦この時点で、3 回目の課末テストの結果が出ていた。Aは長短の設問だけが不正解 であった。このことについて、「やっぱり長い短いは難しい。でも、他はだいじょうぶ。
あとはこれだけ」と言った6。この回では、③④に加え、「虚偽」「協議」のように語中 に長短の違いがあるものや、「高度を確認する」「行動を確認する」のように 2 拍のモー ラがあるものを混ぜた。完全ではないものの、Aの長短の弁別力は以前より精度を増 した。この回を以て、練習は終了した。
5.3 テストに見られる順位の推移
課末テストの点数に、上記の練習の効果が反映されたかどうかは、簡単には言い切 れない。以下、Aの本文漢字テストの誤答数の推移を示す。Ⅶレベル全体(55 名)で、
Aより誤答数が多かった学習者数も記しておく。課末テストの満点はその都度違う。
たとえば、65 点満点のテストでAが 60 点(誤答数 5)だったとしたら、59 点以下の 学習者の数を記した。
A の誤答数 A より誤答数が多かった学習者数 第 1 回(4 月 3 週目) 3 3
第 2 回(5 月 3 週目) 3 9 第 3 回(6 月 3 週目) 5 12 第 4 回(7 月 2 週目) 4 15
また、漢字カード読みテストの結果も記す。
A の誤答数 A より誤答数が多かった学習者数 第 1 回(5 月 3 週目) 3 6
第 2 回(6 月 3 週目) 3 23 第 3 回(7 月 2 週目) 3 25
これを見ると、Ⅶレベルの中で下位から始まったAの順位はじわじわと上昇してい る。しかし、これは脱落していった学習者の存在とも解釈できる。第 3 回のテストで の誤答はすべて長短の区別の問題であった。つまり、依然として、Aにとって長短の 区別は難しいものであり、目標は達成されていない。
6 読み仮名と「読める」ことの関係 6.1 真正性から見た読み仮名ふり
4.2 から 4.4 までのインタビューからわかるように、学習者は、漢字に読み仮名をふ るという形式で、漢字が読めるかどうか評価されることに、違和感や疑いを持ってい ない。日本語教育が始まった時点からこういう形式の読み仮名テストがあるからだろ うか。現に漢字読みテストを実施している以上、なぜ、こういう形式でテストをする のかという意義を、はっきりさせておかねばならない。
国際交流基金『学習を評価する』では、次のように述べている。
真正性を考えると、日常生活では、漢字に読み方を書くことはありません。では、
このようなテストはなぜ行われるのでしょうか。
例 2 次の漢字の読み方をひらがなで書きなさい。
わたしは兄が一人います。
ひとり
ひらがな・かたかなと同じように、漢字を 1 人 1 人に直接音読させて確認していて はかなりの時間がかかってしまいます。そこで、テストでは効率性を優先させ、間接 的な方法にはなりますが、例 2 のように、ひらがな・かたかなが音を表すことを利用し、
読み方を書かせることで音読の代用をさせています。
ここでは、読み仮名ふりは「音読の代用」と考えられている。そして、真正性から みて、現実社会で外国人が日本語に読み仮名をふるという行動(可能性も含めて)が ないから、読み仮名ふりは教室の中だけで行われる特異な行動だというのだ。ここで 言う「真正性」とは同書で以下のように説明されている。
真正性とは、そのテストに解答することが実際の言語使用をどれだけ反映している かということです。たとえば、会話テストの際に、学習者が経験する可能性のある場
面のロールプレイを設定するとか、読解や聴解のテキストとして学習が日常生活の中 で読んだり聞いたりする可能性のあるものを選ぶことによって真正性を確保すること ができます。
しかし、日本人、外国人を問わず、講義中のノートテイキングで、専門語など聞き 慣れない漢語に読み仮名をふることは多々あるのではないだろうか。また発表用原稿
(特に引用箇所)に読み間違わぬように読み仮名をふっておくこともある。それゆえ、
読み仮名ふりに真正性がないとは、必ずしも言い切れない。
6.2 必要性から見た読み仮名ふり
近世からの読み仮名の歴史を今野(2009)からまとめると、次のようになる。
江戸時代 読み物が大衆化する。読み本は振仮名だらけ 明治時代 大衆向けの小新聞は総ルビ
昭和 13(1938)年 山本有三「振仮名禁止論」7提唱 昭和 21(1946)年 「当用漢字表」を内閣が告示
1850 字に制限・あて字はかな書き・ふりがなは原則として使わない 「現代かなづかい」が内閣訓令によって公布
昭和 56(1981)年「常用漢字表」を内閣が告示 1945 字/2187 音・1900 訓 平成 22(2010)年「改訂常用漢字表」を内閣が告示 2136 字/2352 音・2036 訓 当用漢字表(現在は改訂常用漢字表)が日本語表記全般の規範であり、現在、ほと んどの出版物はこの範囲内なら読み仮名はつけない。それらを理解するために、漢字 学習の最終到達度の目安もここに置く必要がある。その量についての議論はあろう。
しかし、今の学習者が日本語を使う時期は、議論に決着がつく遠い将来ではない。改 訂常用漢字表内の漢字がわからなければ、それだけ日本語でできる活動がせばめられ てしまう。それゆえ、読み仮名ふりも到達目標に至る一つの手段といえる。
6.3 テストの条件から見た読み仮名ふり
『学習を評価する』では、読み仮名ふりは音読の代用として位置づけられていた。し かし、音読によって「読める」かどうかを評価するテストには、いくつかの問題点が ある。まず、フィードバックがしにくい。どこをどう間違えたかの確認は、たとえ録 音を聴いても難しいし、手間がかかる。また、判定の公平性(評価者によって長音や 促音の判定が微妙に違う)が確保できない。それゆえ、現在の読み仮名をふるという 方法が、一番妥当であると考えざるをえない。
6.4 コミュニケーション活動から見た読み仮名ふり
しかし、一方で、読み仮名が正しくふれることだけでは、口頭のコミュニケーショ
ン活動に直接役立つとはいえない。たとえば、ゼミでの発表時に読み仮名をただ音声 化しただけでは、聞き手によく伝わらない。つまり、調音、モーラ、アクセント、無 声化など、「発音」に問題があると、聞き手にはたいそう聞きづらい。国際交流基金『音 声を教える』で述べているように、マイナスの評価を受けるなど、損をする可能性が ある。
本コースには交換留学生をはじめ、初級から中級くらいまで本国でその国の教師に 習ってくる学習者が多い。筆者は 1990 年から 1997 年まで国際交流基金日本語国際セ ンターの「海外日本語教師長期研修」に携わっていた。そこでの外国人日本語教師は、
文法などを効率よく教えられるし、発話を促すゲームやロールプレイなどの活動への 関心も高い。しかし、音声教育には二の足を踏む。それならば、音声教育を本コース が担うことは、学習のarticulation(接続)上も好ましいのではないか。
今回の実践では、Aが苦手だという長短を区別するために、モーラに焦点を当てた。
しかし、実際のところ、発音を形成する要素のうち、最優先させるものに順位がある のだろうか8。その答えはだれが出すのだろう。筆者は、学習者の「気づき」に任せる のがよいと思う。そこから、また次の「気づき」へと展開していけばいいのだ。
一方、教師の役割は、「気づき」を促す機会を提供したり、「気づき」から目標になっ たことを支援したりすることである。たとえば、『音声を教える』で分析しているように、
学習者がどのような場面9で日本語を使っているかに着目させてみる。学習者自身が問 題ないと思っているのは、問題が生じない場面でだけ言語活動をしているからかもし れない。本稿で検討したさまざまな知識および学習法を示すことや、実践した長音の モーラを体得させることも、読み仮名表記に役立つだろう。
本コースの教材に即して考えれば、漢字カードの読み仮名を示す際、アクセント記 号も書きこんだり、発音練習をしたりするのはどうだろうか。すでに、国際交流基金
『まるごと 日本のことばと文化』の語彙シートにはアクセント記号が入っている。し かし、あらかじめ印刷しておくよりも、教室で教師の発音を聴いて書きこむほうが記 憶に残りやすいであろう。
テストが学習のインセンティブとなるなら、「語彙」のテストに次のような出題をし てはどうだろうか。
次のことばは 6 拍のことばです。アクセントが違うものに〇をつけなさい。
①介抱する ②歓迎する ③翻訳する ④成熟する 「さくら」より
一人一人に合わせた支援が必要なら、「発音クリニック」を開くのもいい。筆者は経 験上、発音練習は中級以降の方がたやすいと思う。なぜなら、本稿に登場した学習者 たちのように、自身の「気づき」を持っているからである。初級は覚えることがたく さんあり、コミュニケーションすることに精いっぱいで、発音にまで気が回らない。
現に、最初から日本で日本人教師に習った学習者が、格段に発音がいいわけではない。
現在でも、テキスト本文を吹き込んだCDがある。それだけで正しい発音が身につ く学習者もいるだろう。また、日本で生活しているうちにきれいな発音になる学習者 もいるだろう。しかし、一つ一つの調音、モーラ、アクセントも強化した方が効果的 な学習者も確実にいる。
本コースの漢字カードの練習がout-put活動を取り入れているように、漢字カード の読み仮名と音声練習も相互につなげ、より「総合」的に日本語に触れる機会を提供 することが重要であると考えられる。
7 まとめ
以上、2013 年度春学期に行なった中国人学習者に対しての「聴く練習からモーラを 体得し、読み仮名を正確にふれるようにする」練習の過程と結果を報告した。学習者 は自分の問題点に気づきながらも、学習法の改善は独力では難しい場合がある。筆者 が実践した練習は順序、回数、目標達成度に問題はあるにせよ、効果があることが明 らかになった。それから、特に、長音のモーラを体得させることが重要であることが わかった。この結果は、教材や教授法の改善につなげていくことができるものと思わ れる。ケースを増やし、実践を積み重ねることが今後の課題である。
最後に忙しい中、練習を繰り返し、率直に感想を語り、こうして報告することを快 諾してくれたAに、また、インタビューに応じてくれたB、Cに深く感謝したい。
注
1 国際交流基金の統計によると、2012 年における日本語学習者数 3,984,538 人のうち、中国(大 陸)が 1,046,490 人で世界第 1 位。台湾が 232,967 人で第 5 位である。
2 中村(2009)は拓殖大でも、初級・上級レベルで非漢字圏学習者の方が中国人学習者より、
読みが正確であることを報告している。
3 兒島(1988)は、香港中文大学で 97 年度二年次生 137 名の漢字読みテストの誤答を紹介し ている。中間と期末の合計 274 名分のサンプルのうち、誤答は 268 あり、音韻上の誤答が 224(83.5%)と一番多い。詳細に見ると、長短音の混乱が 31(13.84%)、清濁音の混乱が 131(58.48%)である。
4 平弥悠紀(2013)「同志社大学日本語・日本文化教育センター・留学生別科における日本語 教育」同志社大学日本語・日本文化教育センターの国際シンポジウム「国際化時代の日本語 研究と日本語教育」での講演。
5 国際交流基金(2013)『まるごと 日本のことばと文化』はポータルページで、練習用の動 画をダウンロードすることができる。
6 Aの問題点が長短の区別に収束していく過程は、かつて筆者と柴原(1998)で考察したような、
漢字の定着の傾向に似ている。たとえば 50 の漢字を練習する。その結果のテストではでき ないものもたくさんある。さらに 50 の漢字を練習して 100 の漢字についてのテストをすると、
最初に学習した 50 の漢字ができるようになっているという傾向である。Aの場合も、長短 の区別の問題は残ったが、他の問題は解決したと考えることができるかもしれない。
7 山本(1938)は、その国の文字で書いた文章がルビなしでは国民の大多数が読めない例は他 国になく、文明国とはいえない。だから、「本文の漢字を廃して、すべての文字を仮名で書く」
か、「漢字を制限してルビをやめること」を主張した。
8 筆者が見た、韓国人女優主演『Jinx!!!』(2013)、中国人俳優主演『呉清源 極みの棋譜』(2007)
や『東京に来たばかり』(2013)の日本語のセリフを聴いていると、「外国人らしさ」はアク セント、清濁の曖昧化、無声化のないぽきぽきした感じで示されるが、モーラは正確である。
9 同じ発音でも場面によって、意味が伝わりやすい場面と伝わりにくい場面がある。それぞれ の要件として、次の三つを上げている。一つ目は、相手とのやりとりがあるかないか(ある と伝わりやすい)。二つ目は、相手がどんな人か(外国人と話した経験がある人には伝わり やすい)。三つ目は、場面のフォーマリティー(あまり公式的ではないほうが伝わりやすい)。
参考文献
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内田照久(1993)「中国人日本語学習者における長音と促音の聴覚的認知の特徴」『教育心理学研究』
第 41 号 4 巻,日本教育心理学会,pp.414-423.
加納千恵子・清水百合・竹中弘子・石井恵理子(1989)『Basic Kanji 500 vol1.vol.2.』凡人社 川森めぐみ・柴原智代(1998)「漢字の自律学習システム―その成果と課題―」『日本語国際センター
紀要』第 8 号,国際交流基金 日本語国際センター,pp.19-34.
国際交流基金(2009)『音声を教える』日本語教授法シリーズ 2,ひつじ書房
―(2011)『学習を評価する』日本語教授法シリーズ 12,ひつじ書房
―(2013)『まるごと 日本のことばと文化』,三修社
兒島慶治(1998)「香港広東語話者への漢字の読み教育について―香港中文大学日本研究学科の 自作教材の分析を通して―」『日本學刊』第 2 号,香港日本語教育研究会,pp.1-28.
今野真二(2009)『振仮名の歴史』,集英社新書
竹内理(2007)『「達人」の英語学習法―データが語る効果的な外国語習得法とは』,草思社 中込明子(1995)「中上級日本語学習者を対象とするディクテーションの利用について」『言語文
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中村かおり(2009)「中国語を母語とする学習者の漢字の読みにおける課題」『拓殖大学日本語紀要』
19 号,拓殖大学国際部,pp.41-53.
本橋美樹(2010)「促音聞き取りにおける視覚情報の効果」『関西外国語大学留学生別科 日本語 教育論集 20 号』,関西外国語大学,pp.43-52.
―(2012)「日本語学習者による文字表記の誤用と音声知覚の関連性」『関西外国語大学 留学生別科 日本語教育論集 22 号』,関西外国語大学・関西外国語短期大学,pp.53-62.
山本有三(1938)「この本を出版するに當つて―國語に對する一つの意見―」『戦争と二人の婦人』
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李活雄(1988)「成人日本語学習者の聞き取り問題をめぐって―私の学習体験を中心に―」『日本 語教育 64 号』,日本語教育学会,pp.154-158.