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毛筆 を生 か した漢字指導の試み ― “読みやすい "漢 字書字に向けて一

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(1)

毛筆 を生 か した漢字指導の試み

― 読みやすい "漢 字書字に向けて一

 

非漢字圏タイ人 日本語学習者 を対象 に 読みやすい "漢 字書字 を目指すための試み として、書写教育の考えに 基づいて毛筆 を利用 した漢字指導 を行 った。 読みやすい "漢 字には字形 を整 えることが必要であるが、字形 を 支 える要素である「点画」「全体の整 え方」「点画の組合せ方」「部分の組み立て方」は毛筆 を利用することで学 習者に意識化することが可能である。 さらに、漢字の字形認識の際には学習者の母語文字の影響 を受けることも 示唆で きた。

キーワー ド :書 写教育 ・毛筆 ・字形・非漢字圏・タイ人 日本語学習者

1.は じめ に

本稿では、書写教育における毛筆指導方法 を日本語教 育の漢字指導に取 り入れた試みを取 り上げ、毛筆指導の 有効性 を提示 してい く。

日本語教育における4技能 として「聞 く・話す0読0 書 く」が挙げられているが、基本的に「書 く」の項 目に は、「手で文字 を書 く(以下、書字)」 とい う概念が含 ま れているとは考えに くい。実際に「文字指導」 として行 われているのは、初期の段階のひらがな・カタカナ指導 であ り、漢字指導になると、書字 を対象 とした ものでは な く、多 くが「語彙指導」「造語指導」等 を対象に した ものである (月1998)。 漢字 を覚 えることに対する学 習者の負担軽減であった り、PC機器の普及で実際に書 字することが少な くなっていることなどが背景 として挙 げ られる。 しか し、 日常の中では、手紙 を書いた り、メ モを残 した りなど書字を行 うことは多々ある。 日本語教 育の文字指導における問題点は、教師佃10学習者側が「読 む相手の存在 を考慮に入れた 読みやすい "文 字」 を書 けるようにするという認識 を持って、文字指導・文字学 習に取 り組めていない点であろう。その結果、学習者の 書 く文字が非常にバ ランスの悪い文字 とな り、何 とか判 読で きるような文字 を書いて しまうことにつながってい る。既刊の漢字学習教材にも書字練習 を取 り入れている もの もあるが、単に手本 を模写 した り、上か らなぞった りするだけの練習に留 まっている。

学習者が「読む相手の存在 を考慮に入れた 読みやす い "文 字」を書 く能力は、コミュニケーシ ョンの立場か ら必要 とされる ものである。青 山 (2003)で、「 文字 を書 く"とい う、いわば字画構成ス トロークの連続は、

書 き手が思いを表出するための、もっとも根元的な行為、

所作、営みである (中)。 人は、一つ ひとつの字画 を 連続的に書 き表す ことによって、 自己の思いや思考 を継 続 させて対象物 に書 き表 している」とされているように、

文字で書かれた集合体 (文)などは自身の思いや考え であ り、それを文字 を通 して相手に伝 えようとした場合、

書字行為はコミュニケーシ ョン手段 となる。書字が有効 なコミュニケーシ ョン手段 となるためには、相手が確実 に判読で きる文字を書 くことが必須である。 日本語教育 の文字指導は、この視点か らの指導が十分に行われてい ない と考える。

本稿では、非漢字圏であるタイ人 日本語学習者 (以下、

タイ人学習者)を対象 とした漢字指導 を取 り上げる。漢 字は非常に構築的な文字であ り、非漢字圏学習者にとっ ては、書字に困難 を伴 う文字である。 タイ入学習者 を対 象に取 り上げることで、アルファベ ッ トなど他の文字体 系 を母語 とする学習者の漢字指導 にも繋げ られると考え る。

2.研究の背景

2‑1.書写教育における毛筆

国語科教育 における「書写」で は、「文字の正 しさ、

読みやす さ、書 きやす さ、速 さ等が求め られ」1)て る。 さらに、書写の時間に毛筆が導入 されるのは小学校 3学年か らであるが、あ くまで も毛筆 を利用 し、「硬 筆による書写能力の基礎 を養 う」②ことを目的としてい る。文字を毛筆で大 きく書 くことで、文字 を形成する点 画や字形 を意識 し、硬筆へ と反映することが狙いである。

芸術や文化的な側面 を全 く考慮にいれないわけではない が、書写においては指導時の中心項 目とはされていない。

今回の試みでは、書写教育の「読みやす さ」 を目指 した 文字教育の考え方に基づ き、毛筆 を日本語教育の漢字指 導に取 り入れた。

三重大学教育学部 国語教育講座

‑31‑

(2)

また、予備調査 として、タイ人 日本語学習者 を対象 に 筆ペ ンを使用 した漢字指導 を行い、筆ペ ン使用が漢字書 字の運筆練習に有効であることを示 したの。今回の試みで は、文字を書 く際に大 きな筆 を使用することで、さらに 漢字書字に対する学習者の意識付 けを行 えると考 えた。

2‑2.日本語教育における漢字テキス ト

日本語教育 における漢字指導 テキス トは数冊 出てお り、代表的なもの として以下の ものが挙 げ られる。

Basic Katti B00k VOl。1,v01.2』 (1989)

『漢字はむずか しくない』(1993)

1日 15分 の漢字学習』(1999)

『ス トーリーで覚える漢字300』 (2008)

字源や独 自の漢字ス トーリー、使用する場面 との関連 などの工夫することで、学習者の記憶定着 を図つている。

また、Pcの様 々なフォン トを取 り上げ、字体の違い (例 えば、教科書体 :大 学、明朝体 :大学、ゴシック体:大 )に注意 を喚起 しているもの もある。

全てのテキス トに筆順 は書かれているが、漢字全体の 中で、それぞれの点画 をどの ように位置づけるのかにま では配慮がされていない。点画の位置づけを表す一つの 方法 として、マス ロを利用することが挙げられるが、 日 本語教育用の漢字テキス トではマス ロの活用がなされて いない。

マスロの例

2‑3.漢字 とタイ文字

非漢字 圏学習者が漢字書字 をす る際 に、母語文字 の影 響 は避 け られ ない。漢字 とタイ文字で は、以下の ように 大 き く異 なる点が多 い。

識す る文字である。一方、 タイ文字 は横書 きである こと と、縦線 の上下 の高 さに よって文字 の違い を表す文字 ⇒ である ことか ら、上下 の高 さを非常 に重視 す る文字であ る。

3.字形 を支 える要素のから見たタイ人学習者 書字 による漢字の問題点

3‑1.漢字字形 を支 えるもの

読みやす い "漢 字 を書字す るため に必要 な ものは、

漢字の字形 を整 えることが重要 と考える。

漢字字形 を支 える要素 としては、「点画」「全体の整 え 方」「点画の組合せ」「部分の組み立て方」が挙げられる。

各要素の内容 を細か く見 ると以下のようになる。

(1)′点画 :線

(2)全体の整 え方 :概 形、中心

(3)点画の組合せ方 :長 短、画 と画の間、方向、

接 し方、交わ り方 (4)部分の組み立て方 :左右、上下、内外

3口2.タイ人学習者の漢字書字の問題点

3‑1.で表 した漢字字形 を支 える要素か らタイ入学習者 の書字 による漢字 つを具体的に挙 げ、問題点 を見てい くと共 に、 タイ文字 との比較 も行 う。なお、(  )内

の漢字は書字時の手本 となる教科書体の楷書文字で表 し た ものである。(点線部分は筆者による)

(1)点画 :線

「大」では、左右の払いが十分 にで きていない。左右 ともそ りの書 き方がほとんどで きてお らず、ほぼ直線 に なっている。 さらに右払いの特徴的な書 き方 もされてい ない。「山」では、2画 目の折 れの点画が しつか り書 け てお らず、書字による「山」 としては不適切である。 タ イ文字の場合、左右の払いを用いた書 き方はな く、 タイ 入学習者 には意識 を向けさせ る指導のポイン トである。

また折れの点画はタイ文字にも存在するが、漢字のよう な左→右→下 に折れ、上→下→横 に折れといった点画は ないため、漢字の折れへの意識付 けも必要であろう。

「畑」では、4画目の止 めが十分 にで きてお らず、偏 ではな く「火」一文字のように書字 している。点画の終 筆 を払 うか止めるかは、漢字書字には非常 に重要な点で あるが、 タイ文字の場合全て軽 く止める書 き方である。

また、「畑」の場合の問題点は、点画の問題だけではな く、

左右の部分の組み立て とも関連 している。

漢字 とタイ文字

文字 を構 成す る点画 については、漢字 は直線が 中心で あ るが、 タイ文字 は直線 と共 に曲線が 占め る割合が大 き い。点画の組 み合 わせの点では、漢字の場合 は様 々な点 画 の組 み合 わせ か ら成 る文字であるが、 タイ文字の場合 はほ とん どが一筆書 きであ り、点画の組 み合 わせ を必要 と しない。文字全体 の概形 の捉 え方 は、漢字の場合 は長 方 形、 三角 形 な ど様 々のであ るが、 タイ文字 は長方形 か正方形であ り、漢字 に比較す る と慨形 を意識す ること は稀 であろ う。

また、 中心 と長 さに関 して も、両者 には大 きな違 いが あ る。漢字 は縦書 きか ら発達 して きた ことか ら中心 を意

日 本

理鷺

‑32‑一

(3)

(火)

(2)全体の整 え方 :概 形、中心

概形では大 きく捉 え方が問題 となる ものはなか った が、点画の組合せや部分の組み立て との関係か ら、概形 がの整 え方が不十分 な ものが見 られる。例 えば、「水」

{、 1に 、「四」は│̲̲̲̲̲1に収 まるように字形 を考え るが、「水」のように一つの点画が極端に長かった り、「四」

のように全体的な形の把握が確実に行われていない例が 挙げられる。タイ文字は長方形か正方形の概形である が、漢字は様々な概形が当てはまることで、タイ学習者 にとつては概形の把握は非常に困難を要するであろう。

画 と画の間を均等 に保つ ことも、漢字の楷書体で書字 す る場合 に非常 に重要 な点である。 しか し、実際には、

「百」の ように等間隔ではない漢字 を書字することが多 い。

(1≡)

点画の始筆か ら終筆の方向は、右→左、上→下、左上

→右下、右上→左下など様々な方向があ り、一つの方向 だけに絞 り込むのは難 しい。 しか し、左→右方向の横画 の場合、多少の右上が りで書字することが漢字の特徴 と して挙 げられるが、 タイ入学習者の漢字では「田」のよ うにほ とん ど右上が りが見 られない ものが多い。 また、

「七」の ように右上が りの角度が大 きくな りす ぎて も不 適当 と判断 される。

(田) (七)

(ノ() (フ)

中心 の捉 え方 は、左右対称 の構 造か ら成 る漢字 (「土」

な ど)の場合 は比較 的 中心 を捉 えやす い。 しか し、実際 には左右対称 の漢字であって も中心 を十分 に捉 えてい る とはい えない。さらに、中′となる縦角 を上か ら下 にまっ す ぐ書 くとい う意識 も十分で はない。

(半)   (村

左右対称 の構 造 を持 った漢字で さえ も、 中心 を しっか り捉 え られ ない こ とか ら、左 右 対 称 で ない漢字 (「心 」 な ど)の場合 や部分の組 み立 てか ら成 る漢字の場合 には、

中心把握が よ り困難 になるであろ う。 タイ文字 は正確 な 左右対称 の文字ではないが、基本的 に文字全体 を左右 に 等分 した箇所が 中心 と考 え られ、漢字 の ように複雑 で は ない。

(3)点画の組合せ方:長短、画 と画 の間、方向、接 し方、

交 わ り方

先述 した ように、 タイ文字の場合、一筆書 きが基本 と なるため、点画の組 み合 わせ を意識す る必要が ない。そ のため、漢字 における点画の組 み合 わせの重要性 に気づ か ない ことが多い。

2本以上の横画が並ぶ場合には、一画だけを強調する ように書字 を行 うが、ほとんど意識 されていない場合が ある。「土」「車」共、一番下に配置 される横画 を長 く強 調するべ きであるが、全て同 じ長 さで書かれている。

点画の接 し方は、曖味 なまま書字 を行 って しまうと、

結果的に非常 に漢字が乱 れて しまうことにつ なが るた め、注意が必要である。「百」は縦画 と横画の接 し方が 不適切である。横画が少 し出ているが、本来は縦画が出 る部分である。「五」は最終画の横画が全 く接 してお らず、

漢字の乱れにつながるであろう。

(百)    (五

交 わ り方 は、交 わっている箇所 にのみ注 目す るのでは な く、漢字全体 とのバ ラ ンスで考 える必要が ある。「体」

の「本」 の部分 は、縦画 と左右 の払 いが交 わってい るが、

本 来 で あれ ば両者 は約45度の角度 で交 わ る こ とが望 ま しい。 しか し、縦画 と左払 い との交 わ りは十分 な角度が 確保 されてい ない。

(4)部分 の組 み立 て方 :左右 、上下、 内外

漢字 は大 き く単独 文字 と複合文字 に分 け られる。単独 文 字 とは構 造 の上 で二 つ 以上 に分 け られ ない漢字 で あ り、複合文字 とは分 ける ことがで きる漢字である。例 え ば、「口」 は単独 文字であ り、「味」 は「口」 と「未」の 左右 に分 け られ る複合文字である。 ここで取 り上 げる部 分の組 み立 て方が影響す る漢字 は、複合文字である。部 分 の組 み立 て方 は、左右 、上下、内外 の3つに分 け られ

( )    (車)

(4)

る。 タイ文字 も、部分の組み合わせによる文字 としての 特徴 を持 っているが、数種類の一種の記号のようなもの を各文字 に付加するだけであ り、漢字の ように複雑 なパ ター ンの組み立てがあるわけではない。そのため、組み 立て時の間隔に対する意識や部分の変形 についての意識

を持つ ことは非常 に困難であろう。

左右の組み立てでは、単独文字が偏で使用 される場合 の字形変化に注意 を向ける必要がある。多 くの場合、偏 で使用 される場合 には、横幅が狭 まり縦長 とな り、右上 が りが強 くなる。 しか し、「明」「好」における偏 として の「 日」 と「女」は、芳の「月」 と「子」 と同 じ大 きさ であ り、偏 としての十分な形が作 られていない。 また、

「明」の場合は、偏 と芳の間隔が開 きす ぎであ り、「 日」「月」

が別々の漢字 として読 まれて しまう可能性 もある。

(明) (好)

上下の組み立てでは、「冠」や「脚」が漢字の部分 と して含 まれることになる。「冠」や「脚」は、左右の組 み立ての場合の「偏」 とは異な り、横長の形 を成す こと が多い。「岩」の場合 は、本来であれば「山」 を横長に すべ きである。「男」の場合 は、上 に配置す る「田」 を 横長にするパ ター ンではな く、上下 を同 じ程度の大 きさ で上下に配置する組み合わせが適 した漢字である。

(岩)     (男)

また、「森」の場合 は、「木」 と「林」の組み合わせで あるが、「木」が3つ集 まった ように捉 えてお り、3つ の間隔 も詰め られていないため「森」 としては非常にバ ランスの悪い漢字 となっている。

(祠

内外 の組 み立 てで使 われ る部分 には、 門構 えや国構 え な どが挙 げ られ る。 門構 えであれ ば、「Fl」 の 中の間隔 をある程度狭め、その中心に囲む文字 を配置するよう に組み合わせる。「間」の場合、門構 えが左右に離れ過

ぎているため、「日」は門構えの中心に位置 しているが、

文字としては若干のバランスの悪さを感 じる。

(間)

部分 の組 み立 て に よって字形

を整 えるのは非常 に困難であることがわかる。例 えば、

単独文字 として「山」「石」が既習であれば、「岩」は「山」

と「石」 を上下に配置すればよいとの理解は当然のこと である。複合文字の一部分になった場合に、 どのように 字形 を変化すべ きかの判断は、非常 に困難なようである。

以上、漢字字形 を支える要素 を基に、タイ入学習者の 書字による漢字の問題点を取 り上げ、タイ文字の特徴 と の比較 も簡単 に行 った。漢字 とタイ文字 との字形上の差 異が大 きいことか ら、漢字書字時に注意すべ き点につい ては、指導時に注意 を促す ことがなければ、タイ入学習 者 に とっては気がつ くことが非常 に難 しい と考 え られ る。そ して、実際の書字で表す場合 には、さらに困難 を伴 い、教師による指導の下で書字練習 を行 う必要があろう。

4.実践 方 法

タイの大学で 日本語 を主専攻 とするタイ入学習者 を対 象に毛筆 を導入 した文字指導 を行った。

対象者)タイ人大学生 日本語学習者 人数)2、 3年 48名

実施時期)2009年 1月 実践方法)

1)書風 に対する調査

2)「大地」 を硬筆で書 く (手本なし) 3)筆による基本点画の導入 と運筆練習 4)「大地」 を筆で書 く (手本あ り)

5)好きな文字 を筆で書 く

6)アンケー ト (5段 階選択・記述)記

基本点画 として取 り上げたのは、「横画」「縦画 (→ )」「左払い」「右払い」「折れ」「点」「曲が り(→はね)」

「そ り (→はね)」 である。漢字 として「大地」 を取 り入 れたのは、基本点画 として取 り上げた点画を多 く含むか

らである。

5。 実践結果 と考察

5‑1.書風 について

漢字の手本のあ り方 として、 日本人を対象 とするもの と日本語学習者 を対象 とするものを区別する必要がある か どうかを明確 にするため、書風 に対する好みの調査 を 行 った。 日本人 との比較 を行 うために、以前 に行 った 日 本人大学生 を対象 とした調査 の と同 じ質問内容 を使用

した。( )内%。

日本人大学生 とタイ人学習者の書風 に対する好みを比 較すると、好みに差はな く、両者 とも「多宝塔碑」の書 風 を好 むことがわかった。 このことか ら、漢字の手本 と して提示するものの書風 に、 日本人 0学 習者 という区別 をする必要がない と言える。特 に、 日本語学習者 を対象 タイ入学習者 に とって、

‑34‑一

L

(5)

ヽレ

書風に対する好み 法帖名 7L子

廟堂碑

九成宮 酷泉銘

雁塔

聖教序 多宝塔碑 書風例

「大」

日本人 32名

3 (9)

9 (28)

4 (13)

16 (50)

タイ人 48名

5 (10)

7 (15)

5 (10)

31 (65)

とした毛筆 に よる漢字手本 は市販 されてい ないが、手本 と して は 日本 人対 象 に書 か れた もの の使 用 が可 能 で あ る。

5‑2.全体の整 え方(概)と部分 の組み立て方 における 変化

同 じ学 習者 に よる、手本 な し硬 筆書 字 に よる「大地」

と毛筆書字 による「大地」 を比較す るこ とで、毛筆 に よ る効果 を見 てい く。

硬筆A   (地 )碑=常 F出

硬筆Aの問題ノ点】

①概形の適否

②「土」と「也」の組み立ての位置・大 きさの適否

③右上が りの適否

毛筆Aの改善点】

①硬筆Aでは概形が横長の長方形であったが、毛筆A

では正方形に近い長方形となっている。

②③「土」と「也」の組み立てと大 きさは、右上が りと の関係が大 きい。硬筆Aでは、「土」の一画 目の右上 が りの不十分さが、全ての点画に影響を与えている。

しかし、毛筆Aで一画目が右上が りになったことから、

全てが右上が りとな り、字形が整えられている。 また、

毛筆Aでは「土」が偏 として細長 く書かれているこ とか ら、「也」を偏 に近付 けて組み立てが行われている。

5‑3.点画 と点画の組合せ方における変化

硬筆B・ cの 問題′点】

①点画「左払い」「右払い」「折れ」「はね」の適否

②「大」の一画目と二画日、「也」の一画目と二画目の

点画の組合せ方の適否

毛筆Bocの改善点】

①硬筆B・cでは曖味な書 き方であった点画が、毛筆B0

Cではしつか りと点画を意識 した書 き方 となってい る。硬筆Bでは左右の「払い」が「止め」になって い たが、毛筆Bでは確 実 に払 われ て い る。 また、硬

(ジ)

Cでは、「也」の「折 れ」が曖味で、「 はね」 は全 く表現 されていなか ったが、毛筆Cでは十分 な「折 れ→はね」が表れている。

②硬筆Bでは、一画 目と二画 目の交 わ りが非常 に直線 的であったが、毛筆Bでは二画 目が柔 らかい線 とな り、

「大」の点画の交わ り方 として適切 なものになってい る。硬筆Cでは、「也」の二画 目が倒れて書かれてお り、「也」の点画の交わ り方 としては適 していないが、

毛筆Cでは垂直 に書かれてお り、一画 目との交わ り 方に変化がある。

5‑4.全体の整 え方 (中)の捉 え方の問題点

実践の最後に自由に文字 を書 くことを行い、 タイ入学 習者が どの ように漢字の中心 を把握 しているのかを調査 した。書かれた文字は多岐にわたるが、書 く前に中心 を 意識するように紙 を半分に折 り、線 を入れた(点線部分)。

毛筆D       毛筆E

毛筆DoEと も中心線 に合 わせ たの は、縦 画 で あ る。

漢字全体 の 中心 を意識 してい るのではな く、一本の長い 縦画 に中心 を合 わせ る傾 向が窺 える。 これは タイ文字が 縦画 を重視 す る文字であ ることも関係す る と思 われ る。

0ヽ

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Lヒ

]J

硬筆C

‑35‑―

(6)

5‑5.アンケー トによる回答

アンケー ト結果か ら、今回の実践内容における毛筆使 用 に対するタイ入学習者の意識 を見てい く。( )内%

を表す:

毛筆の使用時には、「漢字を注意 して書 く」に対 し「そ う思 う」 と答 えた学習者がloo%を占める。毛筆で大 き く書 くことで、点画 を意識せ ざるを得ないこと、自分の 文字 を客観的に見 なが ら書 くことの表れ と考 えられる。

5‑2〜 4.で取 り上 げた ように、実際に硬筆では意識 さ れていなかった点画が、毛筆時にははっきりと書かれて いた│とか らも、毛筆 を導入することが漢字の点画や字 形に注意 を向けることにつながると言える。

「漢字の形が きれいになる」 に対 して「そ う′思う」 と 答えたのは、58%であるが、これは学習者に毛筆 を取 り 入れる意義 を伝 えることは故意に行わなかったことも要 因にあると考えられるOしか し、半数以上が「漢字の形 が きれいになる」 と感 じることがで き、実際に硬筆 と毛 筆の漢字 を比較すると、字形が よくなっていることか ら、

毛筆 を漢字書字学習に導入することには意義があるであ ろう。

「漢字の練習によい」 とした者 も71%であ り、毛筆 を 導入することによって、漢字の練習その ものへの関心度

も高 まると考えられる。

アンケー ト結果①

質問 段 階

漢字 を注意 して 書 く

27 (56)

21 (44)

漢字の形が きれ いになる

14 (29)

14 (29)

12 (25)

8 (17) 漢字 の練 習 に よ

14 (29)

20 (42)

11 (23)

3 (6)

毛筆を使用することに対 し、92%が「楽 しい」として いることから、毛筆使用への興味関心度は高いといえる。

一方で、毛筆が「難 しい」と感 じた学習者は92%、「慣 れるのに時間がかかる」 としたものは9o%であ り、毛 筆で書 くことは技術的に困難を感 じているようである。

しかし、これは点画を表現 しようと意識をし、毛筆で表 現 しようとした結果、「書 きにくい」「難 しい」と感 じた のではないだろうか。

アンケー ト結果②

質 問 段 階

楽 しし 27

(56) 17 (36)

4 (8)

難 しい 26

(54) 18 (38)

4 (8)

慣 れ るの に時 間 がかか る

24 (50)

19 (40)

5 (lo)

 

6.ま とめと今後の課題

今回の実践 と結果 を通 して、書写教育の考え方に基づ いた毛筆指導の導入が、 日本語学習者の字形向上を中心 とした漢字指導 にも有効的であることを示唆 した。毛筆 で大 きく書 くことで、 まず、母語文字 と漢字の違いを意 識化することが可能になる。タイ人学習者の場合、タイ 文字の縦画の特徴か ら、漢字字形の中心 を縦画に合わせ る傾 向が見 られた。学習者の母語文字の持つ特徴 によ り、漢字字形 を把握する基準が異なる点に注意が必要で ある。

更 に、漢字字形 を支 える要素である「点画」「全体の 整 え方」「点画の組合せ」「部分の組み立て方」に対 して も、硬筆では意識化 されなかった部分に、毛筆時には意 識が向け られ、文字に表現 されていた。

毛筆 を漢字指導 に取 り入れることが、これまでの漢字 指導では到達で きなかった 読みやすい "字 形の漢字書 字能力の習得へ とつながる一つの方法 として有効である

と考えられる。

毛筆使用による漢字指導のイメージ

しか し、毛筆 を単 に導入すればいいのではな く、教 師 側が毛筆 の意義 を十分 に認識 した上 で導入す る必要があ る。

さ らに、2‑2.で触 れた よ うに、現在 の 日本語教 育 に お ける漢字 テキス トの問題点 も改善 されなければな らな い。マス ロを利用 した書字 を導入す ることで、中心の把 握 、点画の組合せ方、部分 の組 み立 て方 な どを図上 を通

して理解 を促 せ るはずである。

今 回の試 みでは、字形 を支 える もの として取 り上 げた 要素 は非常 に大 まか な ものであ り、 タイ入学習者書字 に よる漢字 との組 み合 わせか ら、 よ り詳細 に分析 を行 う必 要性 が あ る。 さらに、毛筆 の導入後 の硬筆書字 による漢 字字形 の変化 につ いて も調査 を行 ってい く予定である。

1)2)文部科学省 平成 20年 小学校学習指導要領国語 編の「書写に関する」事項を参照

3)拙稿「日本語教育書字指導での筆ペン使用の有効性 一タイ入学習者を対象としたパイロット調査から一」

『日本語教育方法研究会誌vol.15 No。2』 (2008) ‑36‑一

L

(7)

一 F

毛筆 を生か した漢字指導の試み

﹄  睡 珊

4)全国大学書写書道教育学会編 『新編書写指導』萱原 書房 (2006)pp.lo7よ り漢字の概形の捉 え方の一例

IIII:工心、 :… 1目糸、 =華 開頭、

.∴ 土毛、lF丁万、 itギ千冬

5)タ イ文字の場合、a… a'、 b―ぢの ように、上が出るか 出ないかによつて、異なる文字 となる。

参考引用文献

青山浩之 (2003)「子 どもをとりまく文字世界」『子 ども の生活世界へのまなざし』丸善株式会社

月崎美智子 (1998)「 日本語教育 における文字分野研究 の動向 と課題」『書写書道教育研究』全国大学書写書 道教育学会

高木祐子 (1995)「初 めて漢字学習 を行 う非漢字系 日本 語学習者のための漢字指導」『日本語教師のための漢 字指導 アイデアブック』創拓社

 

今回の試みにおいて、タイ国チュラロー ンコTン大学 文学部東洋言語学科 日本語講座の池谷清美先生には甚大 なるご協力 をいただ きました。深謝いた します。

レ i Щ

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