理について
著者 鈴木 靖
出版者 法政大学国際文化学部
雑誌名 異文化. 論文編
巻 8
ページ 119‑130
発行年 2007‑04‑01
URL http://doi.org/10.15002/00004521
外国語教育へのブレンド型学習導入のための 学習管理について
鈴木靖
0はじめに
教室での対面学習と自宅でのeラーニングを組み合わせた学習方
法をブレンド型学習(blendedlearning)と呼ぶ。ブレンド型学習は、
教室学習と自宅学習のすみわけと連携を行なうことで、授業時間数を 増やすことなく、学習内容の充実とゆとりの拡充という相矛盾する 二つの要求を実現する教育方法として今後一層の普及が期待されてい
る。
その一方で教育現場へのeラーニングの導入には、いまなお多くの
課題があることが、独立行政法人メディア教育開発センターの調査’によって明らかになっている。表1は同センターがeラーニングを導 入している全国の高等教育機関を対象に行なったアンケートの結果で ある。予算不足や支援体制の不備といった財政・制度上の課題はひと まず置くとして、注目したいのは回答者の半数以上が「遠隔地受講者 の学習の進捗状況の管理が困難」(55.4%)、「学生の単位取得までの 学習継続が困難」(50.8%)、「遠隔地受講者の本人確認が難しく、出
外国語教育へのブレンド型学習導入のための学習管理について’111
席やテストの不正が心配」(61.7%)といった学習管理に課題がある と回答していることである。
筆者は過去5年間にわたり、本学部において外国語のブレンド型学 習のためのeラーニングシステムの開発と授業での実践を試みてき た。そして、その過程で同様の問題に直面し、その解決のための技術 開発と授業との連携方法について検討を進めてきた。
eラーニングに求められる学習管理には、学生自身が行う自己管理 と、教員が行う遠隔管理の二つがある。前者は学生がモチベーション を維持し、効果的な学習を継続するために必要であり、後者は教室で の学習指導や成績評価に不可欠となる。
本稿では、この二つの学習管理を支援するために開発したJustfbr meとBigbrotherという技術および小テストによる授業との連携につ
いて報告したい。
l201鈴木靖
表1eラーニングの実施上の課題
(「よくあてはまる」+「ある程度あてはまる」(%))
lⅡl典】IH口典奈・吉In文「大学におけるピラーニングの実想に関する因在研究~IT利11】に関する調査研究」(NIME研 究柧告節13号、独立行政法人メディア敬汀開発センター、2006年3月)pl6よ'此綱かけ()は;|用者。
外国語教育へのブレンド型学習導入のための学習管理について’121 合計 国立 公立 私立
教材作成やシステム運用のための予算が+分にない 86.2 91.3 100.0 83.7 著作権の処理などで不安や困難がある 82.5 81.3 80.0 832
教員の楓極的な協力が得られない 74.1 78.5 80.0 72.0 十分な通信を行うための通信帯域や設備が用意でき
ない 494 51.3 40.0 48.9
対面授業と比べて、魅了的な教育が行えない 508 51.9 40.0 50.5 教材内容や評価方法などの規範について、学部内で
の合意形成が困難である 63.0 52.6 80.0 67.0 ネット上の個人情報の取扱いに関して不安や困難が
ある 61.8 55.7 80.0 63.9
電子掲示板での識論活動を成綱肝価に反映させる方
法が確立していない 77.7 83.3 80.0 75.1 科目の履修や単位の発行について、従来の教務事務
との連挽が困難 46.6 380 60.0 500 週隔地受謂者に、図凹館などのキャンパス施設と同
等の環境を保証することが困難である 68.7 66.7 80.0 69.3 対面授業による実験や実習に取トノ組めないため、十
分な教育が行えない 72.2 72.2 80.0 72.0 教員やTAに、eラーニング授業を行うためのスキ
ルが不足している 81.0 86.1 400 79.9 履修及び利用を希望する学生が少ない 32.8 35.5 400 31.5 コンピュータの技術的トラブルが多く、安定した教
青活勤を提供できない 34.3 35.9 200 34.1
 ̄
迩隔地受鱗者の学習の進捗状況の管理が困難である 55.4 62.3 80.0 51.7 学生の単位習得までの学習継続が困難である 50.8 50.6 20.0 51.7
TAなどの学習の支援者が+分に用意できない 69.8 805 80.0 65.0 還隔地受鋼者の本人確關が難しく、出席やテストで
の不正が心配 61.7 67,1 80.0 58.8
l学習の自己管理とJust-fOr-me
学生がモチベーションを維持し、効果的な学習を継続するためには、
学習の自己管理が求められる。具体的にいえば、
1長期的な学習目標を立てるとともに、それをいくつかの短期的 な学習目標に分け、それらを一つ一つ達成しながら学習を進め
る
2学習の過程で習得したものと未習得のものを選り分け、後者の 復習に時間を傾斜配分し、学習の効率化を図る
とはいえ、これらの点に注意を払いながら学習を進めるというのは 容易なことではない。学習の自己管理は学習本来の目的ではないから、
何らかの方法でこれを自動化できれば、学生個々の自己管理能力に依
存することなく、学力のボトムアップを図ることができよう。eラーニングの特長の一つは、学習の双方向性(Interactivi[y)に
ある。eラーニングは一方的に教材を提示するのではなく、学生から の反応(トレーニングの解答など)を記録・解析して、最適化された 学習プログラムを提供したり、学習の進捗状況を本人に知らせたりすることが、技術的には可能である。
そこで、筆者は学習の自己管理を支援するための技術を現在授業で 利用しているeラーニング・システムの中に組み込み、その運用実験 を行なっている。それがJust-fbr-meである。
Jus[-fbr-meは次のような手順で学習者の自己管理を支援している。
①反復トレーニング
ドイツの心理学者エビングハウス(EbbinghausH.,1850-1909)が
明らかにしたように2,記憶は時間の経過とともに負の加速度曲線 を描いて減少する。(図1)このため当初は急速に減少するものの、1221鈴木端
その速度はしだいに緩やかとなり、一部は長期記憶(Long-Tbrm Memory)となって保持される。
トレーニングを繰り返せば、記憶の保持率は高くなる。(図2)し かし、一定時間が過ぎるまでは、記憶のどの部分が保持され、また保 持されないかを予測することはできない。このため、むやみにトレー ニング回数を増やしても効率的な学習はできない。
こうした記憶のしくみを踏まえて、Jus[-fbr-meでは1つの問題に
つき連続3回正解できるかどうかを記銘の基準とし、記銘された問題 は出題の優先順位を下げて、他の問題をすべて連続3回正解するまで 出題しないようにしている。これにより学習者が記銘しにくい問題に、より多くの学習時間を傾斜配分しているのである。
②記憶のチェックと再トレーニング
いつぽう記銘された問題は、最初のトレーニングから1ケ月が経過 した時点で再び出題され、記憶されているかどうかがチェックされる。
そして、不正解だった問題だけを抽出して、再び連続3回正解するま でトレーニングを繰り返す。(図3)
記憶のチェックまで1ヶ月間の猶予期間をおくのは、一時的な記憶
が完全に消去されるのを待つためである。近年の脳科学の成果によれ ば、記憶は一時的に脳の中の海馬という部位に保存され、そこから他 の部位に転送されて長期保存されるものと、そのまま消去されるもの に選別されると考えられている。この海馬での記憶の保存期間がおよそ1ヶ月なのである。
こうした一連の作業を自動処理することで、Just-fbr-meは最小限
のトレーニング回数で最大限の学習成果をあげることを可能にしている。図5は問題をランダムに出題した場合とJust-fb-meを利用した場
合とのトレーニング回数の違いを示したものである。毎日新たな課題 を学習していく場合、問題をただランダムに出題するだけではすべて外国語教育へのブレンド型学習導入のための学習管理について’123
の課題を習得するのに必要なトレーニング回数は経過時間に比例して 増加していってしまう。しかし、Just色fbr-meを使って1ケ月ごとに忘 却した問題だけを再トレーニングするようにすれば、トレーニング回 数は忘却率に応じて一定の数に収束させることができるのである。も ちろん、一度習得した課題も時間の経過とともに緩慢ではあるが忘却
されていく。このため、jus[-fbr-meは、すべての課題を連続3回正解
した後、正解日時の古いものから優先的に出題することにより、記憶 の保持率を高めている。
③学習の進捗状況を示す棒グラフ
こうした学習の効率化を支援するための機能に加えて、Just-fbr-me
は学習者の内発的動機づけを支援するため、学習の到達目標と進捗状 況(連続3回正解した問題と2回の問題、1回の問題、未正解の問題 の割合)をグラフ化し、トレーニング画面上に常時表示する機能を備 えている。(図5)2学習の遠隔管理とBigBrother
eラーニングのもう一つの特長は、インターネットを通じて`情報の 遠隔管理が可能な点にある。この特長を利用して、教員による学習の
遠隔管理を支援しているのがBigBrotherである。
BigBrotherには次の4つの機能がある。
(1)学習データのモニター機能
教員用のメニューから学習状況一覧を選択すると、クラスのト レーニング別(単語とフレーズの聞き取りと外国語訳)の正答 数.誤答数.習得率(3回連続正解した問題の割合)を一覧表
1241鈴木燗
示することができる。(図6)
さらに、学習状況一覧の中の個人別データをクリックすると、
当該学生の問題ごとの正答数.誤答数.習得率を一覧すること ができる。また、誤答数のデータをクリックすると、当該学生 が具体的にどのように間違えたのかを過去に遡って一覧するこ
とができる。
(2)アクセス・ログ表示
アクセス・ログー覧を選択すると、学生がいつ、どのくらいの 頻度でeラーニングにアクセスしたかを一覧することができ
る。
(3)メール送信機能
学習状況一覧の中のメール・アイコンをクリックすると専用の メーラーが起動し、メールを通じて当該学生と随時連絡を取る ことができる。専用メーラーはutf8/BASE64でエンコードし ているため、日本語、英語のほか、ドイツ語、フランス語、ロ シア語、スペイン語、中国語、韓国語などの混在したメールを 送ることができる。
こうした遠隔管理の主たる目的は、自宅での学習のようすを把握し、
教室での指導に役立てることにある。前述の「遠隔地受講者の学習の 進捗状況の管理が困難」という課題は、これによりほぼ解決すること ができよう。
また、こうした遠隔管理の機能は、「学生の単位取得までの学習継 続が困難」という課題の解決にも一定の効果をあげている。教室での アンケートによれば、学生の65%が「学習状況をモニターされてい ることがeラーニングの継続にプラスになっている」と回答している。
"BigBrotheriswa[chingyour(あいつが見てるぞ)という心理的圧力
が、学生の学習継続を後押ししているのである。
外国語教育へのブレンド型学習導入のための学習管理について’125
3授業内小テストとの連携
ブレンド型学習のeラーニングはそれだけで完結するものではな く、授業との連携によってはじめて十分な効果をあげることができる。
自宅でのeラーニングの成果を確認するため、筆者は毎回授業のはじ めに小テストを行なっているが、こうした授業との連携もeラーニン グの継続に効果的である。
次頁の表2はeラーニングと小テストに関するアンケートの結果で ある。これによれば、すべての学生が「eラーニングは学習に効果が ある」と考えているにも関わらず、その中の70.6%が「小テストが なければ学習を継続できない」と回答している。有用`性の認識という 内発的動機づけだけではeラーニングの継続は困難であり、授業との 連携が重要なことが理解できよう。
表2eラーニングと小テストに関するアンケート結果
l261鈴木端
効果がある 効果がない
続けられる 29.4% 0%
続けられない 70.6% 0%
4結論
はじめにも述べたとおり、ブレンド型学習は授業時間数を増やすこ となく、学習内容の充実とゆとりの拡充という相矛盾する二つの要求 を実現することができる画期的な教育方法である。とりわけ外国語科 目のようにトレーニングに多大な時間を要する科目には効果が大き い。とはいえ、教育現場へのeラーニングの導入にはここに紹介した ような学習管理のしくみや授業との連携の工夫が不可欠であることも 改めて強調しておきたい。
外国語教育へのブレンド型学習導入のための学習管理について’127
図1エビングハウスの忘却曲線
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経過lWilm(日数)
図2反復トレーニングとその効果
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記憶の保持率
126 6回
経過時1m(日敬)
図3記憶のチェックと再トレーニング
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10000000000 %09876543ワ】111
遮線3回正解するまでトレーニング
妃憶の保持車
126 31
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図4課題の習得に必要なトレーニング回数
課題の習得に必要なトレーニング回数
(経過時間に比例して蝋加する)
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図5トレーニング画面と学習の進捗状況を示す棒グラフ
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2エビングハウス箸、宇津木保訳・望月衛側「記憶について」(誠信書腸、1978年)
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