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芥川龍之介の童話における比喩表現 : 被喩辞を中 心に(下)

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(1)

芥川龍之介の童話における比喩表現 : 被喩辞を中 心に(下)

著者 陳 智瑜

雑誌名 同志社日本語研究

号 15

ページ 1‑10

発行年 2011‑09‑30

権利 同志社大学大学院日本語学研究会

URL http://doi.org/10.14988/pa.2017.0000012779

(2)

芥 川 龍 之 介 の 童 話 に お け る 比 喩 表 現

― 被 喩 辞 を 中 心 に ― ( 下 )

チン

同 志 社 大 学 大 学 院 博 士 課 程 前 期 課 程 修 了 生 [email protected]

キ ー ワ ー ド

比 喩 表 現 , 指 標 比 喩 , 芥 川 龍 之 介 , 童 話 , 被 喩 辞

1 . 要 旨

前稿、陳(2011)「芥川龍之介の童話における比喩表現―被喩辞を中心に―(上)」では、芥川 作品を扱い、題材別に指標比喩を考察した。その結果、芥川作品内では、指標比喩が全体的に多 く見られるが、題材による傾向が見られることが明らかになった。例えば、量的側面では、「童話」

と「現代物」では、指標比喩の分布が平均しているのに対して、「説話物」と「切支丹物」では、

作品による差が見られることがわかった。また、質的側面では、芥川作品全般において、「身体」

の頭部のものを被喩辞として用いることが特徴である。題材別に見ていくと、「説話物」と「童話」

では、「動物」に対して比喩を用いることが他の題材より多く見られ、「説話物」と「切支丹物」

では、「身体」のものを広く用いている傾向が見られる。その中で、「童話」は、指標比喩の量が 全題材の中で最も多く、被喩辞が動物の鳴き声や身体部位に関する語も多く見られる特徴である と考えられる。

このように、前稿では、芥川作品内で芥川の童話作品における指標比喩の特徴が明らかになっ た。本稿では、前稿で明らかになった芥川童話作品における指標比喩の特徴について、他作家の 童話作品や小説と比較し、芥川童話作品に見られる指標比喩の特徴を検討する。比較の対象とし て、『学年別赤い鳥』(以下赤い鳥とする)と『新潮文庫の 100 冊』(以下新潮 100 冊とする)を取 り上げる。

2.『学年別赤い鳥』に所収されている比喩表現との比較 2.1指標比喩指標比喩における一例あたりの文数

本章では、『学年別赤い鳥』に収録された作品と芥川の童話作品とを比較していきたい。まず、

『学年別赤い鳥』の「一例あたりの文数」を見ていくと、表 8 のように示している。

表 8 のように、全六学年の作品は 58 作品、文は 7304 文である。この 58 作品の中、指標比喩の 比喩例数は 177 例、全体の平均一例あたりの文数は 41.27 である。

(3)

表8

学年 比喩例数 文数 一例あたりの文数 三年生(10) 55 1276 23.20 六年生(12) 46 1786 38.83 一年生(10) 10 469 46.90 二年生(5) 14 692 49.43 五年生(13) 36 1841 51.14 四年生(8) 16 1240 77.50 合計(58) 177 7304 41.27

( 一 例 あ た り の 文 数 = 文 数/比 喩 例 数 、「 学 年 」 欄 の ( ) の 中 で は 該 当 学 年 の 作 品 数 )

学年別に比喩使用頻度の高い順番で見ていくと、一例あたりの文数は 23.2 の三年生は一位であ る。全部で 10 作品あり、1276 文中指標比喩の用例数は 55 例見られる。指標比喩は、約 23 文あた り一例表れ、全学年の中で指標比喩が一番出現しやすい学年だということが判明した。次に高い のは六年生で、一例あたりの文数は 38.83 である。全 12 作品中、文数は 1786 文で、比喩例数は 46 例である。以上の二学年の中に見られる指標比喩の一例あたりの文数は平均値の 41.27 より低 いことが判明した。つまり、この三年生と六年生の二学年に見られる指標比喩の一例あたりの文 数は平均値より高いと言える。

続いて、三位を占めているのは、一例あたりの文数が 46.9 の一年生である。全 10 作品 469 文 の中で、10 例の指標比喩例が見られる。四位は、一例あたりの文数が 49.43、の二年生である。

全 692 文中、指標比喩例数が 14 例である。三位と四位の二学年の数値から見ると、このに学年の 一例あたりの文数の数値は平均値に近いと言えるだろう。五位は、全 1841 文中、指標比喩例数が 36 見られる五年生である。一例あたりの文数は 51.14 である。その中で、最下位なのは四年生で 一例あたりの文数は 77.5 である。全 8 作品 1240 文中、指標比喩例数は 16 見られる。この学年に 見られる一例あたりの文数の数値は平均値より高く、指標比喩が一番出現しにくい学年であると 調査の結果で明らかになった。

このように、表 8 の結果から、『学年別赤い鳥』は学年とともに、指標比喩が増加するのでは ないことが分かった。使用頻度が上位二位を示しているのは、それぞれ低学年と高学年である一 方、最下位は高学年の四年生である。すなわち、『学年別赤い鳥』は、実際に学年ごとに調査を 行い考察していくと、比喩の使用傾向は学年別との相関性はないと判断できる。そこで、ここで は 6 学年のデータを一括して扱い、これを芥川作品の結果と比較し、量的側面と質的側面から芥 川の童話作品に見られる指標比喩の特徴を探っていくことにする。

芥川作品と赤い鳥作品の指標比喩における一例あたりの文数を比較した結果は以下の表 9 に示 している。表 9 では、赤い鳥作品の調査結果とともに芥川作品 4 題材の結果も示している。

表 9 によると、赤い鳥作品の文数は全学年を併せて 7304 文で、その中で指標比喩は 177 例が見 られ、「一例あたりの文数」は 41.27 である。この結果を芥川作品の結果と比べてみると、前稿

(4)

で明らかになった芥川の全作品に見られる指標比喩における一例あたりの文数の平均値32.59 で、

赤い鳥作品の「一例あたりの文数」の数値より低い。すなわち、芥川作品は全体的に赤い鳥作品 より指標比喩が出現しやすい傾向が窺える。

表9

比喩例数 文数 一例あたりの文数

童話(7) 70 1434 20.49

切支丹物(15) 83 2378 28.65 説話物(10) 109 3815 35.00

現代物(7) 19 1530 80.53

赤い鳥(58) 177 7304 41.27

( 一 例 あ た り の 文 数 = 文 数/比 喩 例 数 )

なお、題材ごとに見ていくと、「現代物」以外の 3 題材は全て赤い鳥作品より低い数値が見ら れる。その中で、赤い鳥作品と同じ題材である「童話」の数値は倍程度低い。つまり、芥川の童 話作品は同題材他作家の作品の中でも指標比喩が出現しやすい傾向がある。

以上のように、赤い鳥作品に見られる指標比喩における一例あたりの文数は芥川作品の「童話」

「切支丹物」「説話物」より低いが、大きな差は見られない。つまり、赤い鳥作品および芥川作 品の「童話」「切支丹物」「説話物」は積極的に比喩表現を用いる題材であると言える。それに 対して、「現代物」は指標比喩が全般的に少なく、この中で最も比喩表現を使用しにくい題材で あると言えよう。次節では、赤い鳥作品における指標比喩の被喩辞を分類し、芥川作品に見られ る指標比喩の被喩辞と比較しながら考察していくことにする。

2.2被喩辞の分類

本節では、被喩辞の分類に焦点を当て、赤い鳥作品の結果から見る赤い鳥作品の被喩辞の傾向 を明らかにする。さらに、その傾向を芥川作品と比較し、芥川の童話作品の指標比喩に見られる 被喩辞の特徴を明らかにする。以下の表 10 は芥川作品の被喩辞の分類結果と赤い鳥作品の分類結 果を示している。

芥川作品と赤い鳥作品の被喩辞の分類結果を比べてみると、以下のことが分かった。

まず、表 10 によると、赤い鳥作品では「自然」に関する語は被喩辞として最も使用されている。

全 32 例が見られ、全体の 18.1%を占めており、赤い鳥作品の被喩辞の分類の中で 1 位となってい る。なお、この類の語は、作品の舞台および素材から影響を受けたことが考えられる。例えば(以 下は二重下線の部分が被喩辞、一重下線の部分が喩辞を示す)、

(15)氷がとつぜん二つにわれて、しかもそれが、矢を射るように、沖のほうへ流れていってし まうということは、めったにあるものでない。(6 年生「黒い人と赤いそり」)

(16)ふと対岸の福浦岬の上にあたって、むくむくと灰色の古綿のような雲が上って来たのを見 とめた時、為吉は、「南東風だ!」と思わず叫びました。(6 年生「少年と海」)

のように、用例(15)の「黒い人と赤いそり」は、寒いところの人たちが海に出てから帰ってこ

(5)

なかった話で、用例(16)の「少年と海」は少年が海の天気を観察する話であるため、「自然」

に関する語が多く見られる。このように、作品の舞台および素材にちなんで「氷」「海」「雲」

「大浪」などといった被喩辞が多く、芥川作品と同じ傾向が見られる。

表10

説話物 切支丹物 童話 現代物 赤い鳥 自然 15(13.8%) 10(12.0%) 10(14.3%) 4(21.1%) 32(18.1%) 植物 0(0.0%) 6(7.2%) 3(4.3%) 0(0.0%) 14(7.9%) 動物 8(7.3%) 0(0.0%) 14(20.0%) 0(0.0%) 5(2.8%) 人間 13(11.9%) 16(19.3%) 19(27.1%) 6(31.6%) 19(10.7%) 身体 19(17.4%) 17(20.5%) 7(10.0%) 3(15.8%) 19(10.7%) 精神 11(10.1%) 6(7.2%) 0(0.0%) 2(10.5%) 7(4.0%) 言語 12(11.0%) 5(6.0%) 3(4.3%) 2(10.5%) 7(4.0%) 社会・文化 1(0.9%) 1(1.2%) 1(1.4%) 0(0.0%) 5(2.8%) 製品 5(4.6%) 3(3.6%) 6(8.6%) 2(10.5%) 18(10.2%) 抽象的関係 14(12.8%) 2(2.4%) 3(4.3%) 0(0.0%) 19(10.7%) 活動 7(6.4%) 13(15.7%) 4(5.7%) 0(0.0%) 25(14.1%) 状態 4(3.7%) 4(4.8%) 0(0.0%) 0(0.0%) 7(4.0%) 合計 109(100.0%) 83(100.0%) 70(100.0%) 19(100.0%) 177(100.0%) 次に、「活動」に関する語は被喩辞になるものも多く見られる。全 25 例で、全体の 14.1%を占 めている。例えば、

(17)と、それが十分間とたたないうちに、ホロホロと、まるで雨がふるようにちりはじめまし た。(3 年生「ビワの実」)

(18)しだいに遠く、しだいに小さく、そしてついに沖合の一点となったかと思うと、やがてス ーッと煙が消えるように消えうせてしまった。(6 年生「生きた絵の話」)

のように、用例(17)の被喩辞は「ちりはじめました」で、用例(18)の被喩辞は「消えうせて しまった」である。こういった類の被喩辞は芥川の「切支丹物」にも多く見られる。例えば、

(19)……まるで死んだ人のやうに、すぐに寝入つてしまつたとか云ふ事です。(「黒衣聖母」)

(20)「如何に「れぷろぼす」おぬしは何として、かやうな所に居るぞ」とあつたれば、山男は 今更ながら、滝のやうに涙を流いて、(「きりしとほろ上人伝」)

のように、用例(19)では「寝入つてしまつた」で、用例(20)では「涙を流いて」である。し たがって、「活動」に関する語は被喩辞として使用されるのは、赤い鳥作品と「切支丹物」の共 通の傾向である。

また、「抽象的関係」に関する語は被喩辞として 19 例が見られ、全体の 10.7%を占めている。

例えば、

(21)……ふと見ると、地べたには、なにか重いものをひきずったようなあとがついていますし、

(6)

よく見ると、窓にも、なにか大きなものがむりにとおったらしいきずがついています。(3 年生「わに」)

(22)なんだかぼうしのようなものをかぶっていたようだったからね。(6 年生「かっぱの話」)

のように、用例(21)の「あと」のような位置を表す語や用例(22)の「もの」のような未知の 事物に対して分かりやすく描写する際に、比喩表現が用いられる。また、芥川作品では、この類 の被喩辞は「説話物」のみに多く見られる。例えば、

(23)太郎は、群る犬の中に、隕石のやうな勢で、馬を乗り入れると、小路を斜に輪乗りをしな がら、叱咤するやうな声で、かう云つた。(「偸盗」)

(24)かう云ふ例外を除けば、五位は、依然として周囲の軽蔑の中に、犬のやうな生活を続けて 行かなければならなかつた。(「芋粥」)

のように、用例(23)の「勢」や用例(24)の「生活」のような抽象的な概念をもつ語が見られ る。しかし、赤い鳥作品では、「もの」「あと」などといった未知な事物を表す語が多いのに対 して、「説話物」ではそれ以外に、「勢」「生活」などといった「力」や「人生」などを表す語 も多く見られる。

最後に、「動物」に関する語は芥川の童話作品で被喩辞が多く見られるが、赤い鳥作品では僅 か 5 例しか見られず、全体の 2.8%にすぎない。赤い鳥作品における被喩辞の分類の中で最も少な い結果である。例えば、

(25)小さな、白い、五せんだまのようなちょうちょうです。(2 年生「まほう」)

(26)お宮のお祭りのときのみこしの上についているあのかざりのような鳥でした。(3 年生「ビ ワの実」)

のように、赤い鳥作品では、用例(25)の「ちょうちょう」や用例(26)の「鳥」などといった

「動物」に関する語が被喩辞としての割合は少ない。

以上のように、芥川作品と赤い鳥作品の被喩辞の分類結果を比較し、異なった傾向を表すカテ ゴリに焦点を当てた。次章では、芥川作品をさらに新潮 100 冊と比較し、比喩表現による芥川童 話の特徴を探る。

3.『新潮文庫の 100 冊』に見られる比喩表現との比較 3.1指標比喩における一例あたりの文数

本章では、より芥川童話の表現特徴を明らかにするために、『CD-ROM 版新潮文庫の 100 冊』(1995 年 12 月)の所収作品と比較する。なお、本比較は、童話と非童話小説における比喩表現の相違を 探るために、新潮 100 冊に収録されている童話、エッセイや日記など小説以外の作品を対象外と する。また、外国翻訳文学も今回の調査から省くことにする。調査の結果は表 11 の通りである。

表 11 に示した結果のように、新潮 100 冊作品の全文数は 212901 で、その中で指標比喩は 2489 例が見られ、「一例あたりの文数」は 85.54 である。前稿の調査では、芥川作品に見られる指標 比喩の「一例あたりの文数」の平均値は 32.59 である。この結果を新潮 100 作品の調査結果と比 べてみると、新潮 100 冊作品に見られる指標比喩の「一例あたりの文数」の数値は芥川作品の平

(7)

均値より高い。すなわち、芥川作品は全体的に新潮 100 作品より指標比喩が出現しやすいことが 分かった。さらに、芥川作品の各題材の調査結果を新潮 100 冊作品の平均値と比べてみても、新 潮 100 冊の「一例あたりの文数」の数値は芥川作品のどの題材よりも高い。このことから、芥川 は作品の中で積極的に比喩表現を扱うことが窺える。

表11

比喩例数 文数 一例あたりの文数

童話(7) 70 1434 20.49

切支丹物(15) 83 2378 28.65

説話物(10) 109 3815 35.00

現代物(7) 19 1530 80.53

新潮100(65) 2489 212901 85.54

( 一 例 あ た り の 文 数 = 文 数/比 喩 例 数 、)

以上のように、新潮 100 冊は、芥川の「童話」だけではなく、「切支丹物」「説話物」「現代 物」よりも比喩表現の出現が低い。また、新潮 100 冊作品と同題材にあたる「現代物」は、4 題材 の中で、新潮 100 冊と一番近い数値を示しているが、「一例あたりの文数」は「現代物」の方が やや少ない。つまり、芥川作品全体は、指標比喩を積極的に使用することが窺える。

3.2被喩辞の分類

本節は、新潮 100 冊に見られる比喩表現の被喩辞と芥川作品を比較し、両者の被喩辞の使用傾 向を明らかにする。調査結果は表 12 に示す。

表12

説話物 切支丹物 童話 現代物 新潮100 自然 15(13.8%) 10(12.0%) 10(14.3%) 4(21.1%) 372(14.9%) 植物 0(0.0%) 6(7.2%) 3(4.3%) 0(0.0%) 60(2.4%) 動物 8(7.3%) 0(0.0%) 14(20.0%) 0(0.0%) 63(2.5%) 人間 13(11.9%) 16(19.3%) 19(27.1%) 6(31.6%) 476(19.1%) 身体 19(17.4%) 17(20.5%) 7(10.0%) 3(15.8%) 440(17.7%) 精神 11(10.1%) 6(7.2%) 0(0.0%) 2(10.5%) 142(5.7%) 言語 12(11.0%) 5(6.0%) 3(4.3%) 2(10.5%) 93(3.7%) 社会・文化 1(0.9%) 1(1.2%) 1(1.4%) 0(0.0%) 64(2.6%) 製品 5(4.6%) 3(3.6%) 6(8.6%) 2(10.5%) 334(13.4%) 抽象的関係 14(12.8%) 2(2.4%) 3(4.3%) 0(0.0%) 189(7.6%) 活動 7(6.4%) 13(15.7%) 4(5.7%) 0(0.0%) 176(7.1%) 状態 4(3.7%) 4(4.8%) 0(0.0%) 0(0.0%) 80(3.2%) 合計 109(100.0%) 83(100.0%) 70(100.0%) 19(100.0%) 2489(100.0%)

(8)

以上表 12 で示したように、新潮 100 冊では、被喩辞として最も使われているのは「人間」に関 する語である。全 476 例で、全体の 19.1%を占めている。例えば、

(27)何と云ったって聖人や、神のような人は偉い、一時的の波瀾の為に浮き沈みする人間は尊 敬することは出来ない。(「友情」武者小路実篤)

(28)老齢に加うるに持病のぜんそくがひどかったせいもあって、蟷螂のように瘠せた南嶽の晩 年は意志だけが生きのこっているように思えた。(「雁の寺」水上勉)

のように、用例(27)の「人」や用例(28)の「瘠せた南嶽」のような「人間・人物」に関する 語が見られる。「人間」に関する語を、被喩辞として多く使われるのは、芥川作品の中でも同様 の傾向が見られる。

次に多く見られるのは、「身体」に関する語と「自然」に関する語である。それぞれ 440 例と 372 例で、全体の 17.7%と 14.9%を占めている。例えば、

(29)メデタシ、メデタシの好きな、虫のいい空想と、ヒロイズムとセンチメンタリズムが、海 綿のような私の頭をひたしてしまった。(「放浪記」林芙美子)→「身体」

(30)烈々とした空の下には、掘りかえした土が口を開けて、雷のように遠くではトロッコの流 れる音が聞えている。(「放浪記」林芙美子)→「自然」

のように、用例(29)の被喩辞は「私の頭」のような「身体」を表す語で、用例(30)の被喩辞 は「土」のような「自然」に関する語が見られる。このように、「身体」「自然」に関する語は、

新潮 100 冊作品も芥川作品と同様に被喩辞として多く使用されている。

新潮 100 冊では、「製品」に関する語を被喩辞として多く使われている。全 334 例で、全体の 13.4%を占めている。例えば、

(31)昼食時になると、蟻の塔のように材木を組みわたした暗い坑道口から、泡のように湧いて 出る坑夫達を待って、幼い私はあっちこっち扇子を売りに歩いた。(「放浪記」林芙美子)

(32)たとえば、ゆれ動く樽のような形をした家……ほんのわずか、廻転すれば、かぶった砂を はらいおとし、すぐまた表面に這い上る(略)(「砂の女」安倍公房)

のように、用例(31)の被喩辞は「材木を組みわたした暗い坑道口」で、用例(32)の被喩辞は

「形をした家」のような「製品」に関する語が見られる。このように、「製品」に関する語は新 潮 100 冊では、被喩辞として多く使われている。

以上のように、新潮 100 冊では、「人間」「身体」「自然」に関する語を被喩辞として多く使 用されることは、芥川作品と同じ傾向を示している。一方、「製品」に関する語については、新 潮 100 冊の方が多く使われている傾向が窺える。また、「動物」に関する語は、芥川作品と比べ て、新潮 100 冊作品で被喩辞として使われることが少ない。全 63 例で、全体の 2.5%を占めてい る。この結果と「赤い鳥」作品の結果を照らし合わせてみると、「動物」に関する語を被喩辞と して積極的に使うのは芥川童話作品の傾向であると言えよう。

4.まとめ

前稿、陳(2011)「芥川龍之介の童話における比喩表現―被喩辞を中心に―(上)」では、芥川

(9)

作品を扱い、題材別に指標比喩を考察した結果、芥川の童話作品は、全題材の作品の中で指標比 喩の量が最も多く、被喩辞が動物の鳴き声や身体部位に関する語も多く見られることが明らかに なった。その結果を踏まえて、本稿では、芥川作品、赤い鳥作品と新潮100冊作品に見られる比 喩表現を量的側面と質的側面から比較してきた。その結果、芥川は、自ら積極的に比喩を用いる 作家であることが分かった。特に、「童話」においては、赤い鳥作品と新潮100冊作品と比べて、

高頻度で指標比喩が使われている。また、被喩辞については、「人間」「身体」「自然」に関する語 は、三者とも同じ傾向を示しているが、「動物」に関する語のみ、芥川童話作品の中で高頻度であ る。これらの結果により、芥川は「童話」を意識して、積極的に「動物」に関する語について比 喩を用いる傾向があることが窺えた。なお、赤い鳥作品でも見られるのだが、「動物」について積 極的に比喩を用いる点に芥川の特徴が窺える。また、比較調査の中で、芥川作品のみ「動物」の 身体部位や鳴き声に関する語が被喩辞となることが見られる。このように、芥川は「童話」にお いて、「動物」に関する語に強く関心を示し、詳しく描こうとする傾向が窺える。

【参考文献】

岡村和江(1963)「近代作家の文体の展望」森岡(1963)pp.238-261

陳 智瑜(2011)「芥川龍之介の童話における比喩表現―被喩辞を中心に―(上)」『同大語彙研究』14、pp.13-25 中村 明(1977)『比喩表現の理論と分類』国立国語研究所

中村 明(1991)『日本語レトリックの体系』岩波書店 中村 明(1995)『比喩表現辞典』角川書店

橋本仲美(1969a)「比喩の表現論的性格と『文体論』への応用(1)『国文学解釈と教材の研究』14-11、pp.210-213 橋本仲美(1969b)「比喩の表現論的性格と『文体論』への応用(2)『国文学解釈と教材の研究』14-12、pp.204-208 森岡健二(1963)『講座現代語第5巻 文章と文体』明治書院

【テキスト】

『芥川龍之介全集』(1995 岩波書店)

『学年別赤い鳥』(1979-1980 新装版2008

『CD-ROM版 新潮文庫の100冊』(1995年 新潮社)

【資料】

(1)『学年別赤い鳥』作品一覧

【一年生】柴野民三「あしを そろえて」、佐藤春夫「おおぐま ちゅうぐま こぐま」、三美三郎「おとう ふうやさん」、鈴木三重吉「おなかの かわ」、島崎藤村「おべんとう」、大木篤夫「おんどり・めんどり」、

茶木七郎「きんとと」、寺門春子「こうさぎ」、堀田由之助「しろい おうま」、大山義夫「みかんやさん」

【二年生】堤文子「おふろ」、秋葉喜代子「こうま」、木内高音「ふうせんだまうり」、坪田譲治「まほう」、

小川未明「金魚うり」

【三年生】久保田万太郎「きこりとその妹」、豊島与志雄「てんぐわらい」、鈴木三重吉「とらとこじき」、

(10)

坪田譲治「ビワの実」、平塚武二「まほうのテーブル」、小野浩「わに」、丹野てい子「丘の家」、小川未明

「月夜とめがね」、新美南吉「正坊とクロ」、今井鑑三「大時計」

【四年生】島崎藤村「おもちゃは野にも畑にも」、新美南吉「ごんぎつね」、久米正雄「どろぼう」、有島生 馬「ばあやの話」、森田草平「もちつき」、江口渙「やかんぐま」、大木篤夫「ろうそくをつぐ話」、細田民 樹「三びきの小牛」

【五年生】小川未明「あめチョコの天使」、小島政二郎「ふえ」、中村星湖「むじなの手」、有島武郎「一ふ さのぶどう」、塚原健二郎「海からきた卵」、相馬泰三「休み日の算用数字」、豊島与志雄「手品師」、伊藤 貴麿「水面亭の仙人」、宮島資夫「清造と沼」、宇野浩二「雪だるま」、楠山正雄「祖母」、坪田譲治「木の 下の宝」、鈴木三重吉「老博士」

【六年生】平塚武二「Q」、坪田譲治「かっぱの話」、木内高音「くまと車掌」、寺田寅彦「ちゃわんの湯」、

小川未明「黒い人と赤いそり」、佐藤春夫「実さんの胡弓」、加能作次郎「少年と海」、鈴木三重吉「少年駅 夫」、下村千秋「生きた絵の話」、水木京太「生きた切符」、吉田絃二郎「沈んだ鐘」、森銑三「通し矢」

(2)『新潮文庫の100冊』の作品一覧

有島武郎「小さき者へ」、有島武郎「生れ出づる悩み」、阿川弘之「山本五十六」、安部公房「砂の女」、有 吉佐和子「華岡青洲の妻」、赤川次郎「女社長に乾杯!」、石川達三「青春の蹉跌」、石川淳「焼跡のイエス」、

石川淳「処女懐胎」、井伏鱒二「黒い雨」、伊藤左千夫「野菊の墓」、泉鏡花「歌行燈」、泉鏡花「高野聖」、

井上靖「あすなろ物語」、井上ひさし「ブンとフン」、五木寛之「風に吹かれて」、池波正太郎「剣客商売」、

遠藤周作「沈黙」、大岡昇平「野火」、大江健三郎「死者の奢」、大江健三郎「飼育」、川端康成「雪国」、

梶井基次郎「檸檬」、開高健「パニック」、北杜夫「楡家の人びと」、倉橋由美子「聖少女」、沢木耕太郎「一 瞬の夏」、志賀直哉「小僧の神様」、志賀直哉「城の崎にて」、島崎藤村「破戒」、司馬遼太郎「国盗り物語」、

曽野綾子「太郎物語」、谷崎潤一郎「痴人の愛」、太宰治「人間失格」、竹山道雄「ビルマの竪琴」、立原正 秋「冬の旅」、高野悦子「二十歳の原点」、壺井栄「二十四の瞳」、筒井康隆「エディプスの恋人」、夏目漱 石「こころ」、中島敦「李陵」、中島敦「山月記」、新田次郎「孤高の人」、野坂昭如「アメリカひじき」、

野坂昭如「火垂るの墓」、林芙美子「放浪記」、樋口一葉「にごりえ」、樋口一葉「たけくらべ」、堀辰雄「風 立ちぬ」、堀辰雄「美しい村」、星新一「人民は弱し官吏は強し」、松本清張「点と線」、三島由紀夫「金閣 寺」、三浦哲郎「忍ぶ川」、水上勉「雁の寺」、水上勉「越前竹人形」、三浦綾子「塩狩峠」、宮本輝「錦繍」、

武者小路実篤「友情」、森鴎外「山椒大夫」、森鴎外「高瀬舟」、山本有三「路傍の石」、山本周五郎「さぶ」、

柳田国男「遠野物語」、吉行淳之介「砂の上の植物群」、吉村昭「戦艦武蔵」、渡辺淳一「花埋み」

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Metaphor Expression in the Children's Stories of Akutagawa Ryunosuke : Focusing on Topic (Part Two)

Chen Zhiyu Keyword: Metaphor Expression,Simile, Akutagawa Ryunosuke, Children’s stories, Topic

This study attempts to illuminate the characteristics of expressions occurring in the children’s stories of Akutagawa Ryunosuke through an examination (from the aspects of both quantity and substance) of the author’s use of simile in his works.

The results of the study make it clear that of these four genres, Akutagawa’s children’s stories are the most likely to contain the use of simile. In addition, the topics of such expressions are most often humans, animals, or related images.

参照