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中国研究開発者の創造的行動を促進する  リーダーシップに関する研究

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Ⅰ 問題意識

競争の激しい世界市場環境において,企業は競 争優位を発揮し,持続的に成長できるため,商品 やサービスを絶えず開発し,提供し続けることに 重点を当てる必要がある。しかし,グローバル化 の進展に伴い,類似商品の登場や競合他社によ り,各企業が市場に導入した新商品やサービスの 優位性を保ち続けるのも容易なことではない。

2000 年代から,世界市場において重要な役割 を果たしてきた中国は,2010 年から資源や土地 の開発を中心とする高度成長から製造業を中心と する安定成長へ移行している。中国の製造業は

「質と効率の向上」が要求されている。しかし,

中国の製品というと,「偽物」や「模倣品」など のマイナスなイメージがよく付与されている面も ある。これまで,「創造力」ではなく,「生産力」

のみを重視している中国系企業は,新たな技術や 新しい製品を開発する能力が欠如していることが 窺える。

したがって,中国の製造業が,激化している国 際競争の中で,引き続き競争力を発揮していくた めには,各企業に所属している研究開発者が重要 となる。とりわけ,研究開発者の技術力や開発力 にかかわる創造性の発揮を促進するために,研究 開発者の創造的行動を引き出すことが重要な課題 となる。

従業員の創造的行動に影響を与える要因は様々 であるが,リーダーシップはその中でも最も重要 な要因の 1 つであることが,Yukl(2002)によ

って指摘されている。これは,研究開発者の場合 にも同様で,リーダーシップが研究開発者の創造 的行動に影響を与えていることが明らかにされて いる(石川,2006, 2007;Gupta & Singh, 2014)。

フォロワーの創造的行動に及ぼすことが指摘 されているのが変革型リーダーシップである

(Bass, 1985)。変革型リーダーシップとは,フォ ロワーに新しい視点を与え,明確なビジョンや目 標を伝え,彼らの態度や価値観を変化させ,より 高い貢献意欲や能力を引き出すことにより,組織 に優れた成果をもたらすというリーダーシップで ある。変革型リーダーシップは,職務態度,業績 だけでなく,フォロワーの創造的行動にも有意な 影響を与えることが,多くの実証的研究によっ て明らかにされている(Dumdum et al., 2002;

Barling  et  al.,  1996;Howell  &  Avolio,  1993;

Yammarino  &  Dubinsky,  1994;Tse  &  Chiu,  2014)。

ただし,変革型リーダーシップと創造的行動の 関係を明らかにした研究の多くは欧米で行われて いる。しかし,欧米での先行研究の結果が,文 化的価値観が違う中国においても,そのまま当 てはまるとは言えない(Kirkman et al., 2009;

Newman & Butler, 2014)。それにもかかわらず,

中国企業を対象とした実証的な研究が少ないた め,変革型リーダーシップが中国研究開発者の創 造的行動にいかに影響を及ぼすのか,という問題 点に対して実証的に明らかにしていくことが必要 となると考えられる。

一方,中国は集団主義が強く,権力格差が非 常に大きい国であり,中国企業における多くの 管理者は,従業員に対してコントロール的な管

������������������������������������������������������������������������������������� 論 文

中国研究開発者の創造的行動を促進する  リーダーシップに関する研究

成     龍

* せい りゅう 立教大学大学院経営学研究科博士課程後期課程

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理行動をしようとする傾向があると指摘されて いる(House et al., 2004;Chhokar et al., 2007;

Hofstede et al., 2010)。期待される態度や行動を 明示的にフォロワーに伝え,タスクの達成方法 を具体的に指導し,やるべきスケジュールを設 定するというリーダーの行動スタイルは,指示 型リーダーシップとして定義されている(House,  1996)。

なお,欧米の研究では,指示型リーダーシップ が,高い能力や豊富な経験を持つ従業員に煩わし く感じられるため,彼らの満足度と業績をもたら すのが難しくなることが指摘されている(House,  1996)。

ただし Hofstede et al.(2010)によって,従業 員の満足度や生産性などに対するリーダーの行動 の有効性が,国民性に強く左右されることが示 唆されている。また Nye & Forsyth(1991)は,

支配的で統制的なプロトタイプを有するフォロ ワーは,タスク指向的な行動を取るリーダーに対 してその有効性を高く評価する傾向があるのを示 唆している。このため,権威者に支配されるのを 期待し,権威者の指示や指導に従う傾向が高い中 国従業員は,指示型リーダーに対し,煩わしく感 じにくく,指示型リーダーシップの有効性を高く 評価する可能性が高いと考えられる。つまり,権 力格差が小さい欧米とは異なり,指示型リーダー シップが中国従業員に正の効果を持つ可能性があ る。それにもかかわらず,中国企業を対象とした 実証的研究は驚くほど少ない。したがって,指示 型リーダーシップが中国研究開発者の創造的行動 に対してどのような効果を持つのか,という点を 実証的に明らかにしていくことが必要となる。

そこで本研究は,変革型リーダーシップと指示 型リーダーシップを取り上げ,これらが,中国企 業の研究開発者の創造的行動にどのような影響を 及ぼすのかを明らかにする。なお,本研究では,

George & Zhou(2001)に従い,創造的行動を,

創造的なアイデアや解決策を創ることだけではな く,それらを製品やプロセスになるまで,アイデ アや解決策を提出して他人に説明すること,およ び計画化して実施することを含める行動であると 定義した。なお,一般に,創造的行動を引き出す ことができれば,その結果として,創造的成果が 高まることが指摘されている。

Ⅱ 先行研究と仮説の構築

1 変革型リーダーシップ

様々な研究者によって,変革型リーダーシップ に関する理論構築および実証的研究が行われて きた。その中で最も理論的な整備がされている のが,House(1977)によるカリスマ型リーダー シップ理論を取り込み,Burns(1978)の理論を さらに発展させ,理論化を行った Bass(1985)

によって構築された理論であると考えられる。

Bass(1985) は,Burns(1978) の 変 革 型 リ ー ダーシップと交換型リーダーシップとの区別に従 って両者を検討し,この 2 つのリーダーシップを 対概念として構築した。交換型リーダーシップと は,リーダーがフォロワーの成功や失敗に対して 何らかの報酬や処罰を与えることによって,フォ ロワーに影響を及ぼし,彼らの組織への貢献意欲 を引き出すことを目的としているリーダーシッ プのことである。また,交換型リーダーシップ は,リーダーとフォロワーの間に,経済的な交 換,あるいは社会的な交換関係が成り立っている ことを前提としている。それに対して変革型リー ダーシップは,リーダーはフォロワーに対し,影 響力を行使することだけではなく,高いモラル性 を持ち,フォロワーの価値観や態度を無条件に変 化させるリーダーシップである。ただし,この 2 つのリーダーシップは互いに背反ではなく,フォ ロワーの組織への貢献行動を引き出すために両方 のリーダーシップが求められるとしている。さ らに,Bass & Avolio(1990a, 1990b, 1992)によ って,変革型リーダーシップと交換型リーダーシ ップを測定する項目として,MLQ(Multifactor  Leadership Questionnaire)が作成されたのであ る。変革型リーダーシップ理論では,7 つの行動 因子が下位概念として理論的に構築されている が,MLQ を用いた分析によって安定した因子構 造が確認されている。なお,その 7 つの因子は,

変革型リーダーシップ,交換型リーダーシップ,

自由放任型リーダーシップの 3 つにカテゴリー化 されている。

交換型リーダーシップに分類されたのは,「随

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伴的な報酬」,「例外による管理」という 2 つの因 子である。「随伴的な報酬」とは,フォロワーの 努力に対する報酬の契約を交換し,より高い業績 に対する報酬を約束し,業績を評価することであ る。また,「例外による管理」とは,規則や基準 から逸れることを監視し,修正する行動であり,

基準が満たされない場合や間違った方向に向かっ た場合にのみ,介入することである。

自由放任型リーダーシップに分類されたのは,

「放任主義」という因子である。この因子は,責 任や決定を回避することであり,介入することへ の拒否や,決定や行動が遅れるといったリーダー シップの欠如を反映している。

変革型リーダーシップに分類されたのは,「理 想化された影響」,「モチベーションの鼓舞」,「知 的な刺激」,「個別的な配慮」という 4 つの因子 である。「理想化された影響」は,ビジョンある いは使命の意味を提供し,フォロワーに誇りを詰 め込み,彼らの感情を高め,リーダーとの一体化 を促進する行動である。「モチベーションの鼓舞」

は,フォロワーに対してビジョンや目標を伝え,

彼らの努力を集中させるシンボルを使用し,適切 な行動をモデル化する行動である。「知的な刺激」

は,フォロワーの問題に対する認識力,思考力や 解決力を喚起させ,新しい視点から問題を捉える ことを促進する行動である。「個別的な配慮」は,

フォロワーに対して必要な能力を開発するため に,フォロワーごとに対してサポートし,コーチ ングを行う行動である。また,個人的な注意を提 供し,アドバイスし,勇気づけるという行動も含 まれている。

前述した通りに,これまで,Bass の変革型リー ダーシップ理論に基づいて,様々な実証的研究 が行われてきた。そして変革型リーダーシップ が,職務態度,業績や OCB などのアウトプット 要因に積極的な影響をもたらすことが明らかに さ れ て い る(Dumdum et al., 2002;Barling et  al., 1996;Howell & Avolio, 1993;Yammarino & 

Dubinsky, 1994;Podsakoff et al., 1990)。

これに加えて,研究開発者についての実証研究 もいくつか行われている。Keller(1992)は,変 革型リーダーシップは研究開発者の業績に正の影 響を与えることを明らかにしている。Shin& Zhou

(2003)は,韓国企業の研究開発者を対象に,変

革型リーダーシップとフォロワーの創造的成果と の関係に対して,実証的な研究を行った。その 結果,フォロワーの内発的モチベーションを通 じて,変革型リーダーシップは彼らの創造的成 果に正の影響を及ぼすことを明らかにしている。

Berson & Linton(2005)によって,変革型リー ダーシップが職務満足にもたらす影響が,管理業 務に従事している従業員と比べて研究開発者の方 がより強いことを明らかにしている。石川(2006,  2007a)は,変革型リーダーシップが研究開発者 の創造的成果に正の影響を及ぼすことを明らかに している。

一方,石川(2009)は,米国企業の場合と違い 日本企業においては,変革型リーダーシップが,

正の影響だけでなく,負の影響も持つ可能性があ るという問題意識に基づき実証的な研究を行っ た。その結果,変革型リーダーシップは,チーム 効力感を通じて研究開発チームの業績に正の影響 を及ぼすものの,コンセンサス維持規範を通じて 負の影響も及ぼすことが明らかにされた。

なお,これらの研究の従属変数は,研究開発業 績であったり,創造的成果であったり,直接創造 的行動を測定しているわけではない。しかし,研 究開発業績や創造的成果を高めるためには創造的 行動が欠かせない。従って,変革型リーダーシッ プは創造的行動に重要な影響を及ぼすと考えられ る。

2 指示型リーダーシップ

初期に指示型リーダーシップに着目したのは,

パス・ゴール理論(Path Goal Theory)である。

指示型リーダーシップとは,期待されることをフ ォロワーに教え,タスクの達成方法を具体的に指 導し,やるべきスケジュールを設定する行動で ある(House, 1996)。また,Cruz, Henningsen & 

Smith(1999)は,指示型リーダーシップをタス ク指向的な行動であり,議論を制御し,タスク達 成において個人的に指示する強い傾向であると指 摘している。そして,時間管理,目標実現のため のプレッシャー,細部までの厳しい管理も,この リーダーシップ・スタイルの特徴として見られて いる (Schmidt & Yeh, 1992)。

House(1971)は,リーダーの行動がフォロ ワーに受け入れられるのは,それが即時的ある

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いは将来的な満足をもたらす場合であると指摘し ている。なお,House(1996)は,フォロワーの 条件と環境条件という 2 種類の条件適合変数が,

リーダーシップに影響を及ぼし,その有効性を決 定すると考えた。フォロワーの条件とは,能力,

経験,行動決定の源泉が自分にあると認識してい るかどうかという個人的特徴である。環境条件と は,仕事の複雑度,定型・非定型度合い,指揮命 令,権限体系の明確度などである。

近年,指示型リーダーシップに関する実証的研 究は,変革型リーダーシップとくらべて驚くほど 少ない。また,数少ない研究のほとんどが,指示 型リーダーシップが,チーム意思決定(Peterson,  1997),チーム内のコミュニケーション(Cruz,  Henningsen & Smith, 1999), 組 織 市 民 行 動

(Podsakoff et al., 2000), 主 体 的 行 動(Martin,  Liao & Campbell, 2013)などのアウトプット要 因に負の影響を与えることを指摘している。

一方,Euwema, Wendt & van Emmerik(2007)

は,指示型リーダーシップの影響力が文化的次元 によって左右されていることを指摘している。具 体的には,集団主義の場合と比べ,個人主義の 場合に,指示型リーダーシップと集団レベルの OCB(組織市民行動)との負の関係性は強くな ることを明らかにした。また,権力格差が大きい 場合,両者の負の関係性が弱くなることも指摘し ている。

また,Nye & Forsyth(1991)は,フォロワー が有するリーダーシップのプロトタイプがリー ダーの有効性に対する評価にどのような影響を及 ぼすのかについて,研究を行った。その結果,フ ォロワーが有するプロトタイプとリーダーの行動 が適合であればあるほど,リーダーの有効性が高 く評価されることを明らかにしている。具体的に は,支配的で統制的なプロトタイプを有するフォ ロワーは,タスク指向的な行動を取るリーダーに 対し,その有効性を認めている。このことから,

同様のプロトタイプを有するフォロワーに対して 指示型リーダーシップが有効であることが推察さ れる。

3 リーダーシップと創造的行動

先行研究を考慮すると,リーダーシップは,研 究開発者の創造的行動に対して重要な規定要因と

考えられる。ただし,両者をどのような変数が媒 介しているのかは,あまり明らかにされていな い。この点について,自己決定感は重要な媒介変 数であると考えられる。

自己決定感(Self-Determination)とは,人が 他者に行動や判断の自由を制限されず,自発的に 行動をしている感覚であり,内発モチベーション の中心概念としている(Deci et al., 1989)。また 組織行動分野において,自己決定感は心理的エン パワーメントの中核的要素として研究されてい る。Spreitzer(1995)は,心理的エンパワーメ ントを,有意味感,コンピテンス,自己決定感お よび影響感という認知状態によって形成された心 理的状態であると定義している。この 4 つの認知 状態は認知した仕事の価値,自己効力感,影響能 力および仕事自律性にそれぞれ関連していると指 摘している。

自己決定感は,研究開発チームにとって重要で ある。研究開発者は,創造的なアイデアや解決策 をより有効的に実行できるため,把握する情報や 知識をメンバー間で交換し,積極的に意思決定に 参加することが必要となるのである。また,不確 実性が高い研究開発の場合には,タスクにおける 遂行プロセスに関する意思決定を自ら行う必要も ある。一般に,高い自己決定感を有する人は,意 思決定への参加意欲が増加し,新しいアイデアや 意見を積極的に提供する。また新しい知識のベー スとなる様々な情報を自ら収集し,他の利害関係 者と共有する傾向が高いと示唆している(Deci,  Connell & Ryan, 1989;Ryan & Deci, 2017)。

リーダーシップと創造的行動の関係において,

自己決定感は重要な役割を果たしている。石川

(2007a)は,非指示型リーダーシップが内発モチ ベーションを高めることを通じて,研究開発者の 創造的成果に正の影響を及ぼしていることを実証 的に明らかにしている。Zhang & Bartol(2010)

は,エンパワリング・リーダーシップが,心理的 エンパワーメントを通じて創造的成果に正の影響 を与えることを明らかにしている。同様に,Sun  et al.(2012)は,心理的エンパワーメントが,

変革型リーダーシップと従業員の創造的成果の関 係を媒介していることを明らかにしている。

なお,これまで挙げた実証的研究は,媒介変数 に自己決定感を想定していない。ただし,心理的

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エンパワーメントと内発的モチベーションは,い ずれも自己決定感と強く関わる心理的概念であ り,これらの概念が創造的成果に影響を及ぼすと いうことは,自己決定感も創造的成果に重要な影 響を及ぼすと考えられる。

ちなみに,これらの研究も創造的成果に着目し ており,創造的行動には言及していない。しかし,

前述したとおり,創造的成果が高まっていること は,その必要条件である創造的行動を促進してい ると考えられる。

一方,変革型リーダーシップは,自己決定感に 正の影響を与えると考えられる。なぜなら,変革 型リーダーは,影響力があるコミュニケーション で,タスクや目標の価値を明確的に伝えることを 通じて,フォロワーに仕事の意味を提供しようと する。このような行動により,自分の仕事が有意 義であると認識したフォロワーは,仕事自体に強 くコミットし,タスクや目標の達成において主体 的に動くようになる。このように,主体性を持つ ようになったフォロワーは,業務の遂行やタスク の達成における意思決定を行うのがリーダーだけ ではなく,自分自身もそれにおける重要な一員で あると考え,自己決定感が高まる可能性が高いと 考えられる。

また,変革型リーダーシップは,フォロワーに 対し,彼らの特徴に応じて仕事における挑戦の機 会を与え,フォロワーの能力を向上し,発揮させ ようとする。このように,業務について自分の判 断で推進することが促進されたフォロワーは,自 分が業務において大幅な裁量権を持っていると認 識する。さらに,変革型リーダーシップは,フォ ロワーが問題の発見,その問題における解決や提 案を自発的に行うことを重視し,そのような行動 を行うフォロワーを奨励し,支援する。このよう に,革新的な発想や提案が常に認められ,アイデ アや意見が尊重されているフォロワーは,自分が タスクの推進や業務の改善に関する意志決定に関 わっている不可欠な一員であると認識し,高い自 己決定感を有するようになる可能性が高いと考え られる。

実際に,Deci et al.(1989)は,変革型リーダー は,フォロワーに仕事の意味を伝え,意思決定へ の機会を提供し,彼らの観点や見地を認め,自己 主導を促進しようとすることを指摘している。研

究開発者が所属している研究開発チーム全体の目 標を自分自身の目標のように認識し,仕事のやり 方を決定する際に大幅な自律性を持つことを感じ られる。したがって,変革型リーダーシップは研 究開発者の自己決定感に有効に作用すると考えら れる。

仮説 1: 変革型リーダーシップは,中国の研究 開発者の自己決定感に対する正の影響 を通じて,彼らの創造的行動に正の影 響を及ぼす。

上述した通り,先行研究の多くは,指示型リー ダーシップが従業員の主体的行動やチーム内のコ ミュニケーションに負の影響をもたらすと指摘し ている。しかしその一方で,本研究では,指示型 リーダーシップは研究開発者の自己決定感に正の 影響を及ぼす可能性があると指摘している。その 理由は2つあると考えられる。中国研究開発者が,

リーダーの指示的行動に対して統制されていると 感じられにくいこと,およびそのような行動を自 由裁量の範囲を示すシグナルであると認識する可 能性が高いことである。

Deci(1980)は,人が感じた「自分が統制され ているかどうか」の程度が,彼らの「選択」に対 する認識によって左右されることを指摘してい る。いわゆる,「選択」の幅が広いと認知するこ とが,自己決定感を向上させることに対して,「選 択」の余地がないと認知することが,自己決定感 を低下させるのである。

しかし,国民性は物事に対する人の認知を強 く左右していることが指摘されている(Hofstede  et al., 2010;Hofstede, 2001)。Hofstede(1991)

によって,権力格差が大きい社会では,人は権威 者に敬意を持ち,依存し,そして権威者による指 示に従う傾向があることが指摘されている。ま た,Euwema, Wendt & van Emmerik(2007)は,

権力格差が低い社会と比べ,権力格差が高い社会 では,リーダーによる指示的行動がより受け入れ やすい傾向がある。そして,指示型リーダーシッ プは,より適切で有効的な行動と認知されること を指摘している。つまり,権力格差が高い中国に おいて,従業員が仕事における「選択」に対して 強く意識しない傾向があり,彼らにとって重要な 他者であるリーダーによる指示的行動は,「仕事

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において統制されている」という感覚を生みにく いと考えられる。したがって,彼らの自己決定感 は,指示型リーダーシップによって阻害されにく いと言える。

不確実性や曖昧性が高い状況である研究開発の 場合,リーダーが,仕事やタスクに関してすべて のことに関与することは不可能である。遂行プロ セスにおいて,一番把握している研究開発者は,

タスクの達成および問題の解決において,自ら判 断して問題解決や業務遂行を行う必要がある。し かし,Hofstede(2001)によって,権力格差の大 きい国では,従業員が,業務に関して,自ら判断 して遂行することが,リーダーの権威に挑戦する という危険な行為であると考える傾向があると示 唆されている。つまり,権力格差の大きい中国で は,「どのようなことを自ら裁量で決められるの か」が判断できないフォロワーは,不安で自発的 に行動しにくくなり,逆に「自由裁量が制限され ている」と感じられる可能性が高い。特に,不確 実性が高い仕事環境であればあるほど,このよう な可能性が更に高まると考えられる。

この点,指示型リーダーは,仕事内容の設定と 分配を行い,目標達成において定期的なフィード バックを提供することが指摘されている(Pearce 

& Sims, 2002;Matsui, Okada & Inoshita, 1983)。

そのようなリーダーの行動を通じて,不確実性が 高い状況に置かれた中国研究開発者は,仕事やタ スクにおいてリーダーに認められている裁量範囲 を察知することが可能となる。つまり,彼らにとっ てリーダーの指示的行動は,「統制」の意味ではな く,「どの程度の自由裁量権を持つのか,意思決定 に何処まで参加できるのか」を示していると認識 される可能性がある。このため,中国研究開発者 は,指示型リーダーシップを通じて自由裁量がで きる範囲を判断し,タスク遂行における自発的な 行動をより安心で積極的に行うことが可能となる。

したがって,指示型リーダーシップは,中国の 研究開発者の自己決定感に対して,負の影響では なく,正の影響を及ぼすことが考えられる。

仮説 2: 指示型リーダーシップは,中国の研究 開発者の自己決定感に対する正の影響 を通じて,彼らの創造的行動に正の影 響を及ぼす。

4 モデレータとしての権力格差志向

リーダーシップの有効性を考察する際に,コン テクスト,フォロワーの性格や認識など個人的 な属性の影響を考慮する必要があると指摘され ている(Shin & Zhou, 2003;Euwema, Wendt & 

van Emmerik, 2007;Kirkman et al., 2009;Liu 

& Liao, 2013)。

そこで,本研究では,権力格差志向(Power  Distance Orientation)をモデレータとして取り 上げる。権力格差志向とは,個人が組織におけ る権力の不平等な分配を受け入れる程度である

(Clugston, Howell & Dorfman, 2000)。ここで言 う権力格差志向とは,社会レベルの文化的価値観 である権力格差とは異なり,個人レベルの価値観 である(Kirkman et al., 2009)。

権力格差志向は,変革型リーダーシップおよ び指示型リーダーシップの有効性に重要な影響 を及ぼすと考えられる。なぜなら,権力,権威 およびステータスというのは,組織において常に 存在し,フォロワーがリーダーの行動をどのよう に解釈して対処するのかを左右するからである。

実際に,文化比較研究およびリーダーシップ研 究(Hofstede, 2001;Kirkman, Lowe & Gibson,  2006;Gelfand, Erez & Aycan, 2007)において,

文化的価値観である権力格差は,フォロワーの仕 事への反応に重要な役割を果たしていることが指 摘されている。また,Kirkman et al.(2009)は,

個人が有する権力格差志向は他の文化的価値観と 比べ,フォロワーのリーダーシップに対する反応 をより強く左右することを指摘している。

具体的には,権力格差志向が高い人は,支配さ れることを期待することが示唆される(Bandura,  1995;Chen & Aryee, 2007)。実際に,Farh, Hackett 

& Liang(2007)は,権力格差志向の高い人がリー ダーの指示や命令に服従することを認め,期待す ることを明らかにしている。また,Kirkman et  al.(2009)によって,権力格差志向の高い人は,

リーダーによって命令,指示およびアイデアが与 えられることを期待し,また,それに対し,疑 いなく服従することが指摘されている。さらに,

Bandura(1995)は,権力格差志向が高い人が,

自己評価をする際に,権威者のフィードバックや 行動が重要な根拠となることを指摘している。

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権力格差志向が高いフォロワーは,変革型リー ダーシップに対して,あまり高い自己決定感を感 じないと思われる。なぜなら,権力格差志向が高 い人は,与えられたタスクにおいて,問題解決な どに関して自ら意思決定を行い,遂行するのでは なく,リーダーに報告して許可をもらう形で進め たいと感じている。また,権力格差が高い人は,

リーダーが仕事における意思決定を行うべきであ ると考えるため,リーダーに意識決定に参加させ ても,あまり積極的に反応しない傾向にある。こ のようなフォロワーは,仕事においてリーダーの 判断や指示が必要であると認識しているために,

自由裁量権を与えられたとしても,大幅な自己決 定感を感じにくいと考えられる。

これに対して,権力格差志向が低いフォロワー は,変革型リーダーシップに対して高い自己決定 感を感じると考えられる。なぜなら,変革型リー ダーシップは,仕事における参加と関与を重視 し,フォロワーに対して思考と決定を求めるから である。このため,フォロワーは,自由裁量度が 高いと感じるだろう。

一方,指示型リーダーシップに対しては,権力 格差志向が高いフォロワーは,相対的に高い自己 決定感を感じるだろう。権力格差志向が高い人 は,権威者に支配されるのを期待しているため,

権力格差志向が高いフォロワーは,タスク達成に おいて個人的指示や細部までの厳しい管理などと いう指示型リーダーの行動を当たり前なことと見 なす。また,権威者へ強い敬意を持つため,彼ら にとって権威者の指示やフィードバックが必要な 行動や決定のための重要な根拠となる。このた め,権力格差志向が高いフォロワーに対する指示 型リーダーシップは,リーダーに認められた安全 な行動範囲を示すシグナルであると考えられる。

この行動範囲内では,自由裁量が認められている ため,その範囲内での自己決定感が高まる。逆に 指示を受けないと,どこまで自己裁量で行って良 いか分からず,却って自己決定感を下げてしまう 可能性がある。

したがって,高い権力格差志向を有する研究開 発者の場合,変革リーダーシップに与えられる影 響力が弱まり,指示型リーダーシップの影響力が 強まる。低い権力格差志向を有する研究開発者の 場合,変革リーダーシップに与えられる影響力が

強まり,指示型リーダーシップの影響力が弱まる と考えられる。

仮説 3-a: 変革型リーダーシップと自己決定感 の関係は,権力格差志向にモデレー トされる。研究開発者の権力格差が 高い場合,変革型リーダーシップの 影響力は弱まるが,権力格差が低い 場合,その影響力が強まる。

仮説 3-b: 指示型リーダーシップと自己決定感 の関係は,権力格差志向にモデレー トされる。研究開発者の権力格差が 高い場合,指示型リーダーシップの 影響力は強まるが,権力格差が低い 場合,その影響力が弱まる。

Ⅲ 分 析

1 調査方法

中国の山西省の産業用部品メーカー 12 社に所 属している研究開発者に対して質問紙調査を実施 した。有効サンプル数は 271 人であった。サンプ ル対象の平均年齢は31.8 歳で,うち161人(59.6%)

が男性であり,110(30.4%)人が女性である。ま た,22 人(8.1%)が修士以上の学位を取得してい る。そして,管理職が 70 人(25.8%),一般職 201 人(74.2%)である。

中国全体を調査対象地区として調査を行うこと が非常に困難であるため,本研究では,山西省を 調査対象地区とした。2006 年 3 月から実施され た「中部崛起(中部振興策)」という戦略の影響 で,山西省はハイテク産業の発展と伝統的な製造 業の改革に重点を置き,多くのハイテク産業基地 を建設し,技術開発力を高め,製造業の競争力 が高まるように変革してきた(陳,2009;加藤,

2011)。また山西省では,外国系企業の進出が非 常に少ないため,外国からの影響をあまり受けて いないと考えられる。つまり,山西省には,比較 的競争力があり,外国系企業の影響を受けていな い製造業が多く所在している。したがって,中国 企業の製造業における研究開発者の創造的行動に 着目している本研究にとって,山西省を調査対象

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地区とすることは適切であると考えられる。

調査対象は正社員の研究開発者とした。また,

役職について,経営者および役員層,部長層は外 し,課長,係長・主任,一般社員層とした。正社 員に焦点を絞った理由は,派遣労働者,パートタ イマー等の非正規社員は働き方に対する価値観,

意識等にばらつきがあると想定されるからであ る。部長層以上の幹部層を除外した理由は,部長 層以上の幹部層は,一線の研究開発活動を行って いないと考えられるためである。

変革型リーダーシップおよび指示型リーダーシ ップの測定については,フォロワーから見たリー ダーのリーダーシップ発揮度を質問した。中間管 理職層である課長層は除外することも検討した が,多くの企業において課長層はリーダーである と同時に上司から影響を受けるメンバーでもある ことから,最終的に本調査に含めることとした。

2 変数測定

アンケート調査による変数の測定は,すでに実 証されている先行研究の質問項目を作成した。個 人属性以外の質問項目は,全て,「1:そう思わな い」,「2:ややそう思わない」,「3:どちらとも言 えない」,「4:ややそう思う」,「5:そう思う」の 5 点尺度を用いた。

変革型リーダーシップの測定には,Bass & Avolio

(1992)が用いた MLQ(Multifactor Leadership  Questionnaire Form 6S)の 12 項目を活用した。

MLQ は,変革型リーダーシップを測定する項目 として最も多く使用されており,また,その信頼 性や妥当性も確認されている(Tejeda, Scandura 

& Pillai, 2001)。

指示型リーダーシップの測定には,Euwema,  Wendt & van Emmerik(2007)が用いた 7 項目 の質問項目を用いた。これは Litwin & Stringer

(1968)が用いた OCQ(Organizational Climate  Questionnaire)をベースとして作成された測定 項目である。

自己決定感の測定には,Spreitzer(1995)が 用いた 3 項目を用いた。創造的行動の測定に は,George & Zhou(2001)が用いた 13 項目を 用いた。権力格差志向の測定には,Kirkman et  al.(2009)が用いた 8 項目を用いた。

なお,それぞれの変数に関する質問について,

中国研究開発者への調査であることを鑑み,原文 の質問の趣旨やコンテクストに沿った訳となるよ う確認した上で,中国語に翻訳して質問を実施し ている。

3 分析結果

各変数の平均値,標準偏差,信頼性係数(

α

),

および各変数間の相関関係は表 1 の通りである。

表 1 から,創造的行動は,変革型リーダーシッ プ(r = 0.53, p < 0.01),指示型リーダーシップ

(r = 0.53, p < 0.01),自己決定感(r = 0.58, p < 0.01),権力格差志向(r = 0.32, p < 0.01)と有 意な正の相関関係がある。また,自己決定感は,

変革型リーダーシップ(r = 0.38, p < 0.01),指 示型リーダーシップ(r = 0.34, p < 0.01),権力 格差志向(r = 0.33, p < 0.01)と有意な正の相関 関係がある。そして,権力格差志向は,変革型 リーダーシップ(r = 0.43, p < 0.01),指示型リー

表 1 変数の記述統計および相関分析

平均値 標準偏差 α 1 2 3 4 5 6 7 8 9

1 性別(ダミー変数 男:1 女:0) 0.61  0.53

2 年齢 31.79  6.43 -0.01 

3 役職(ダミー変数 一般:1 管理:0) 0.74  0.44 -0.01  -0.15*

4 学歴(ダミー変数 大学院:1 

大学院以外:0) 0.08  0.27 0.09   0.02  0.05 5 在籍期間(ダミー変数 5 年以上:1 

5 年以下:0) 0.48  0.50 0.07   0.47** -0.13* -0.07  6 変革型リーダーシップ 3.50  0.60 0.87 -0.09  -0.01  0.07 -0.03  -0.10  7 指示型リーダーシップ 3.62  0.57 0.71 -0.05  -0.03 -0.01 -0.08  -0.03  0.60**

8 自己決定感 3.70  0.69 0.77 0.02   0.00 -0.04 -0.02  -0.02  0.38** 0.34**

9 権力格差志向 3.13  0.69 0.82 -0.02  -0.03 -0.05 -0.06  -0.02  0.43** 0.41** 0.33**

10 創造的行動 3.68  0.54 0.87 0.02  -0.03 -0.04 -0.04  -0.03  0.53** 0.53** 0.58** 0.32**

注:*p < 0.05,**p < 0.01

(9)

ダーシップ(r = 0.41, p < 0.01)とそれぞれ有意 な正の相関関係がある。

表 2 は,変革型リーダーシップと自己決定感 の関係,また,指示型リーダーシップと自己決定 感の関係を明らかにするために,コントロール変 数(性別,年齢,在籍期間,役職,学歴)も含め た重回帰分析の結果である。表 2 から,決定係数 が有意であることが分かる(r2= 0.17, p < 0.01)。

また,変革リーダーシップ(

β

= 0.28, p < 0.01)

および指示型リーダーシップ(

β

= 0.17, p < 0.05)

は,いずれも自己決定感と有意な正の関係にある ことが明らかとなった。

表 3 は,変革型リーダーシップ,自己決定感と 創造的行動の関係,指示型リーダーシップ,自己 決定感と創造的行動の関係を明らかにするため に,創造的行動を従属変数とした階層的回帰分析 の結果である。

モデル 1 は,コントロール変数,変革型リー ダーシップと指示型リーダーシップを独立変数と

して投入した結果である。決定係数は有意である

(r2= 0.35, p < 0.01)。また,変革型リーダーシ ップ(

β

= 0.34, p < 0.05)および指示型リーダー シップ(

β

= 0.32, p < 0.01)は,いずれも創造的 行動に対して有意な正の関係を示した。

モデル 2 は,モデル 1 に加え,自己決定感を独 立変数として投入した。決定係数は有意である

(r2= 0.49, p < 0.01)。また,自己決定感は創造 的行動との有意な正の関係を示した(

β

= 0.40, p

< 0.01)。さらに,変革型リーダーシップと創造 的行動は,有意な正の相関を示したものの,モデ ル 1 の場合よりもその

β

値は低下している(

β

= 0.23, p < 0.01)。同様に,指示型リーダーシップ と創造的行動の関係も,有意な正の相関を示した ものの,モデル 1 の場合よりもその

β

値は低下 している(

β

= 0.25, p < 0.01)。

表 4 は,権力格差志向が,変革型リーダーシッ プと自己決定感の関係,また,指示型リーダーシ ップと自己決定感の関係に及ぼすモデレータ効果

表 2 自己決定感を従属変数とした重回帰分析の結果 自己決定感

性別(ダミー変数 男:1 女:0)  0.05 

年齢  0.00 

役職(ダミー変数 一般:1 管理:0) -0.06  学歴(ダミー変数 大学院:1 大学院以外:0)  0.00  在籍期間(ダミー変数 5 年以上:1 5 年以下:0)  0.00 

変革型リーダーシップ  0.28**

指示型リーダーシップ  0.17* 

R2  0.17 

調整済み R2  0.15 

F  7.70**

注:表中には,標準化係数を示している。

*p < 0.05,*p < 0.01

表 3 創造的行動を従属変数とした重回帰分析の結果 モデル 1 モデル 2 性別(ダミー変数 男:1 女:0)    0.07     0.05 

年齢   -0.03    -0.03 

役職(ダミー変数 一般:1 管理:0)   -0.06    -0.04  学歴(ダミー変数 大学院:1 大学院以外:0)    0.00     0.00  在籍期間(ダミー変数 5 年以上:1 5 年以下:0)    0.01     0.01 

変革型リーダーシップ    0.34**     0.23** 

指示型リーダーシップ    0.32**     0.25** 

自己決定感    0.40** 

R2    0.35     0.49 

調整済み R2    0.34     0.47 

20.64**  31.08**

注:表中には,標準化係数を示している。

*p < 0.05,*p < 0.01

(10)

を検証するために,自己決定感を従属変数とした 階層的回帰分析の結果である。

モデル 1 では,コントロール変数に加えて変革 型リーダーシップ,指示型リーダーシップ及び権 力格差志向を独立変数として投入した。決定係数 は有意であり(r2= 0.19, p < 0.01),変革型リー ダーシップ(

β

=0.23, p<0.01)および指示型リー ダーシップ(

β

= 0.14, p < 0.05)は,いずれも自 己決定感と有意な正の関係にあることが明らかと なった。また,権力格差志向も自己決定感と有意 な正の関係を示した(

β

= 0.18, p < 0.01)。

モデル 2 では,モデル 1 に加えて変革型リー ダーシップと権力格差志向の交差項および指示型 リーダーシップと権力格差志向の交差項を独立変 数として投入した。決定係数は有意であり(r2= 0.21, p < 0.01),変革型リーダーシップ(

β

= 0.20,  p < 0.01),指示型リーダーシップ(

β

= 0.18, p < 0.05),権力格差志向(

β

= 0.17, p < 0.01)のいず れも自己決定感と有意な正の関係を示した。加え て,変革型リーダーシップと権力格差志向の交差 項は,有意な負の関係(

β

= -0.16, p < 0.05)を,

指示型リーダーシップと権力格差志向の交差項は 有意な正の関係(

β

= 0.15, p < 0.05)を示した。

以上の分析結果から,以下のことが言える。第 1 に,自己決定感は変革型リーダーシップおよび 指示型リーダーシップと創造的行動の関係を媒介 している。具体的に,変革型リーダーシップおよ び指示型リーダーシップが,いずれも自己決定感 に正の影響を及ぼし,自己決定感が創造的行動に

正の影響を及ぼしている。変革型リーダーシップ および指示型リーダーシップが,いずれも自己決 定感および創造的行動の両者に正の影響を与える が,変革型リーダーシップ,指示型リーダーシッ プおよび自己決定感を同時に独立変数とし,創造 的行動を従属変数として分析すると,変革型リー ダーシップおよび指示型リーダーシップの創造的 行動に対する影響が弱くなった。このことは,変 革型リーダーシップおよび指示型リーダーシッ プと創造的行動との関係を,自己決定感が媒介 していることを示唆している(Baron & Kenny,  1986)。

第 2 に,変革型リーダーシップおよび指示型 リーダーシップは,いずれも自己決定感に有意な 正の影響を及ぼすものの,その影響力が権力格差 志向にモデレートされる。すなわち,権力格差志 向が高い場合,変革型リーダーシップの影響力は 弱まるのに対し,指示型リーダーシップの影響力 は強まる。

以上から,仮説 1,仮説 2,仮説 3-a および仮 説 3-b が検証されたと言えよう。

Ⅳ 考 察

本研究の分析から,以下のことが明らかになっ た。第 1 に,変革型リーダーシップはフォロワー である中国研究開発者の創造的行動に正の影響を 及ぼすが,その影響力は権力格差志向によってモ 表 4 自己決定感を従属変数とした重回帰分析の結果

モデル 1 モデル 2

性別(ダミー変数 男:1 女:0)  0.05   0.05

年齢  0.01   0.02

役職(ダミー変数 一般:1 管理:0) -0.04  -0.05 学歴(ダミー変数 大学院:1 大学院以外:0)  0.00   0.00 在籍期間(ダミー変数 5 年以上:1 5 年以下:0)  0.00   0.00

変革型リーダーシップ  0.23**   0.20**

指示型リーダーシップ  0.14*   0.18*

権力格差志向  0.18**   0.17**

変革型リーダーシップ×権力格差志向 -0.16*

指示型リーダーシップ×権力格差志向  0.15*

R2  0.19   0.21

調整済み R2  0.17   0.18

F  7.88**   6.84**

注:表中には,標準化係数を示している。

*p < 0.05,*p < 0.01

(11)

デレートされる。すなわち,高い権力格差志向を 有する中国研究開発者にもたらす変革型リーダー シップの影響力は弱まるのに対して,低い権力格 差志向を有する中国研究開発者にもたらす変革型 リーダーシップの影響力は強まるということであ る。

これまでのリーダーシップ研究において,コン ティンジェントを想定しないという大きな特徴を 持つ変革型リーダーシップは多くの注目をされ てきた。実際に,変革型リーダーシップは,ど のような状況であるかにかかわらず,職務態度,

OCB や業績という従属変数に正の影響を及ぼす ことが明らかにされている。

それにもかかわらず,中国研究開発者の場合,

変革型リーダーの影響力が,権力や権限に関わる フォロワーの価値観によって制約されることが分 かった。本研究において,個人が有する権力格差 志向により変革型リーダーシップの創造的行動に 対する影響力がモデレートされる可能性を示唆す ることができたことは,今後の研究に対する貢献 と言える。

第2に,中国研究開発者の創造的行動に対して,

指示型リーダーシップは負の影響ではなく,正の 影響をもたらすことが明らかになった。これま でのリーダーシップ研究においては,指示型リー ダーシップがフォロワーの自律性,OCB および主 動的行動に負の影響を及ぼすことを指摘している。

それにもかかわらず,本研究は,中国研究開発 者の場合,指示型リーダーシップが自己決定感を 高めることを通じて,創造的行動を促進すること を明らかにした。「自由」と「平等」を強調し,

権力格差が小さい米国と違い,儒教思想に深く根 付き,権力格差が大きい中国において,階層序列 が強調されるため,中国企業は集権的な傾向が強 く,上下関係を重視することが示唆されている

(Hofstede et al. 2010;Cheng et al., 2003)。その ため,中国では,たとえ研究開発者であっても,

上司の指示的行動を当然なこととして考えている のだろう。その結果,統制されても,それを自由 が制限されているとは意識しなかったと考えられ る。

研究開発者は,タスクの達成および問題の解決 において自ら判断して問題解決や業務遂行を行う 必要がある。しかし,リーダーの指示を受けずに

業務を遂行したり,意思決定に自ら参加したりす るのは,リーダーの権威に挑むという危険な行為 としてみなされる可能性もある。このため,研究 開発者はこのような行為を行う前に,「何を」,「ど こまで」,「どの程度」というリーダーに認められ た「範囲」を明確にすることが必要となる。この ため,リーダーの行動は,中国研究開発者にとっ てその暗黙の「範囲」を想定できる重要なシグナ ルとなる可能性が高い。指示型リーダーにより

「範囲」が察知できた彼らは,その「範囲」内で タスク遂行における自発的な行動をより安心に積 極的に行うであろう。実際に,本研究において,

研究開発者の権力格差志向が高ければ高いほど,

指示型リーダーの影響力が強くなるのを明らかに したことは,この説の重要な証左と言える。

本研究において,指示型リーダーシップと創造 的行動の関係について明らかにすることができ た。これまで,指示型リーダーシップと創造的行 動の正の関係について実証的に明らかにした研究 がなかったことを考えると,リーダーシップ研究 に対して,大きく貢献できたと考えられる。

近年,中国研究者や中国企業は,米国の理論や 研究の影響を受け,指示型リーダーシップを批判 している。一方,中国企業の多くは,米国で提唱 されているリーダーシップや管理方法に傾倒し,

その効果について検討されることなく,そのまま 導入されることが少なくない。特に,変革型リー ダーシップ理論をベースとした教育プログラムは 積極的に実施されている。

しかし,米国と中国は,文化,企業の構造,お よび従業員の価値観などに差異があるため,米国 で提唱されたリーダーシップ理論が中国企業にお いて,米国と同様な有効性や影響力が期待できる とは言えない。実際に,本研究は,指示型リー ダーシップが研究開発者の創造的行動に正の影響 を及ぼすこと,変革型リーダーシップの影響力が 権力格差志向に左右されることを明らかにした。

このため,少なくとも,中国企業の研究開発部門 においては,そのような教育プログラムに対する 修正が必要となる。

第 3 に,リーダーシップと創造的行動の関係に は,自己決定感が重要な役割を果たすことが明ら かになった。内発モチベーション,創造的役割,

希望,心理的エンパワーメントなどはリーダーシ

(12)

ップと創造性や創造的行動の間を媒介する変数と して,従来の研究においてみなされてきたが,本 研究において,自己決定感を通じて創造的行動に 影響をもたらす可能性を示唆できたことは,今後 の研究に対する貢献と言えよう。

中国企業における研究開発部門の人材選抜や採 用にとって,創造性の資質が常に重要な判断基準 である。しかし,創造的なパーソナリティーや思 考能力などを有する人が,必ずしも創造性を発揮 し成果を上げるとは限らない。そのため,創造的 な人材の選抜や採用という人的資源管理施策を実 施することだけではなく,研究開発者の創造性を 十分に引き出す環境の構築も重要である。また研 究開発者の創造的行動を促進するためには,実際 の仕事の場面において,研究開発者に,ある程度 の裁量権を与え,能力開発を支援する新しいアプ ローチを常に提供することも不可欠である。

本研究により,このような重要な知見が見いだ されたものの,本研究には,いくつかの課題も残 されている。まず,権力格差志向以外のモデレー タ要因を検討していない点である。中国企業で は,職場の人間関係が非常に重視される。このた め,リーダーシップの有効性をモデレートする要 因の 1 つとして人間関係にも着目すべきである。

実際に,石川(2007b)は,中国と同じく,リー ダーとフォロワーの人間関係を重視する日本企 業では,LMX がリーダーシップの影響力に大き な影響を及ぼすことを指摘している。また,中 国企業に特有な職場関係として挙げられている

「上司と部下の Guanxi」も,リーダーシップの影 響力を左右する可能性が示唆されている(Liu & 

Wang, 2013)。今後は,リーダーシップの有効性 を検討するために,これらの要因がどのようなモ デレータ効果を持つのかについても明らかにして いく必要がある。

また,本研究では中国の研究開発者のみを対象 として研究を行った。しかし,グローバル化が推 進される中,日中交流の増加に伴い,日中両国は 益々経済的に緊密な関係になっている。日本企業 にとって中国は,生産の場だけではなく,人材確 保の場でもある。一方,中国企業側も,日本企業 との事業提携,日本への子会社の設立を積極的に 行っている。これらの背景のもとで,日中両国企 業における異なる価値観や信念を有する従業員

を,いかにリードするのかというのが重要な課題 であると考えられる。しかし近年,リーダーシッ プ研究において国際比較に関する研究が行われて きたが,その中の多くの研究は,せいぜい 2,3 カ国のサンプルを収集し,米国研究者によって提 出された理論や分析モデルが,他国でも適用でき るかどうかという観点から行われた研究である。

管見の限りに,リーダーシップに関する日中比較 の研究が極めて少なかった。

したがって,日中両国の企業に特有の現象を明 らかにするために,日中両国の文化や独自の経営 システム上の特徴を考慮に入れて,リーダーシッ プに関する日中の比較研究を行うことが益々必要 となっている。この点についても今後の課題とな る。

以上のような限界はあるものの,本研究は,中 国企業において,研究開発者の創造的行動を促進 するリーダーシップを検討する上で重要な貢献を 行うことができたと考えられる。

謝辞

指導教授の石川淳先生には,大変貴重なアドバ イスをいただきました。ここに記して感謝申し上 げます。

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参照

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