異文化トレーニングを体験した学生の変容 -振返り
から認識した異文化コミュニケーション-著者
伊藤 恵美子
雑誌名
東邦学誌
巻
42
号
2
ページ
1-14
発行年
2013-12-10
URL
http://doi.org/10.20728/00000316
異文化トレーニングを体験した学生の変容
-振返りから認識した異文化コミュニケーション-
伊 藤 恵美子
東邦学誌第42巻第2号抜刷 2 0 1 3 年 1 2 月 1 0 日 発 刊愛知東邦大学
異文化トレーニングを体験した学生の変容
-振返りから認識した異文化コミュニケーション-
伊 藤 恵美子
目次 1.はじめに 2.教養科目「異文化コミュニケーション」 3.受講生の特徴 4.授業 4-1.注意事項 4-2.授業の進め方 5.受講生の自己評価 5-1.調査方法 5-2.選択式アンケートの結果と考察 5-3.自由記述の結果と考察 6.おわりに1.はじめに
2012年4月に本学に赴任し担当した「異文化コミュニケーション」について、15回目の授業後 に行ったアンケートを基に、異文化に対する知識や態度や行動など受講生が個々に自己認識した 変容について質的な分析を試みた。分析結果と受講生の自由記述による生の声から、全入時代の 大学教育における中等教育との連関1、及び基礎科目の位置づけ、さらに大学を巣立っていく学 生が社会人として期待されるコミュニケーション力について考えてみたい。2.教養科目「異文化コミュニケーション」
『SYLLABUS 2012 経営学部地域ビジネス学科』によれば2、本学の開講科目は総合基礎科目 と専門科目に大別され、総合基礎科目は東邦基礎力科目・教養科目・スキル科目・資格取得科目、 専門科目は基礎科目・基幹科目・応用科目・関連科目・ゼミナールに区分される。教養科目は、 さらに人間と社会、人間と文化、人間と自然に3区分されている3。 「異文化コミュニケーション」は総合基礎科目の授業科目として人間と文化に配置され4、1 ・2年次配当、2単位、選択科目、半期講義科目である。なお、「異文化コミュニケーション」 は2011年度以降入学生の科目名であり、2010年度以前入学生の科目名は「世界の表情」である。 ここで「異文化コミュニケーション」の授業について、『SYLLABUS 2012 経営学部地域ビジ 東邦学誌 第42巻第2号 2013年12月 論 文ネス学科』から概観する。 【授業の目的と概要】 異文化コミュニケーションという言葉から、皆さんは何を連想しますか?外国語での 会話でしょうか?異文化コミュニケーションはアメリカで生まれた学問ですが、異なる 文化を持っているのは、外国人に限りません・・・興味があったら、「異文化コミュニケー ション」の扉をたたいてみてください。どうぞ、教室へ。 この授業では、社会人として場面に応じた適切なコミュニケーションができる力を養 成します。価値観・世界観・行動のパターンなどについて理解を深めながら、態度や行 動が具体的に変わるよう実践的に学んでいきます。毎回の授業でエクササイズを行いま すので、主体的に参加する受講者を歓迎します。 【各回の内容】 第1回:オリエンテーション(授業の進め方・出席・課題・評価等について説明) 第2回:異文化コミュニケーションとは? 第3回:コミュニケーション・モデル 第4回:コミュニケーション・スタイル 第5回:言語メッセージ 第6回:発表(1) 第7回:非言語メッセージ 第8回:文化の価値観 第9回:文化の価値志向 第10回:自文化中心主義と文化相対主義 第11回:発表(2) 第12回:カルチャー・ショックと異文化適応 第13回:発表(3) 第14回:配慮表現 第15回:まとめ 【授業の到達目標】 異文化に対する理解を深め、他者に共感し、適切な行動ができるようになる。 【事前・事後学習】 テキストに沿って授業を進めていくので、予習してから授業に参加すること。 授業で学んだことは、振返り(復習)を行うこと。
【成績評価方法と評価基準】 定期試験(40%)と課題提出(20×3=60%)で評価する。 自主的努力を示すもの(授業への積極的な参加)があれば、追加加点(+α)する。 定期試験は記述式で、持込みは不可とする。 【テキスト(3冊まで)】 八代京子・町惠理子・小池浩子・吉田友子(2009)『異文化トレーニング[改訂版]: ボーダレス社会を生きる』三修社 【参考図書(3冊まで)】 伊佐雅子(監修)(2007)『改訂新版 多文化社会と異文化コミュニケーション』三修 社 古田暁(監修)(1996)『異文化コミュニケーション[改訂版]』有斐閣
3.受講生の特徴
授業の出席者は、開講初日1・2年生108人、3年生以上85人の合計193人であったが、 『SYLLABUS 2012 経営学部地域ビジネス学科』に沿って授業の概要を説明したところ、最終 的な「異文化コミュニケーション」の登録者数は1・2年生38人、「世界の表情」の登録者数は 3年生以上62人、合計100人と半減した。 近年シラバスに目を通さないで授業を選択し教室に来る学生が多いこと、及び筆者が赴任して 初年度の授業なので学生が前任者の授業内容と混同している恐れがあることから、授業・出席・ 評価等について詳細な説明を行った。授業については、日常生活で遭遇するコミュニケーション 障害を理論に基づき内省して毎回授業後に800字にまとめること、英語論文を(日本語で)要約 ・発表すること、グループワークを行うことを3本柱として進めること、出席・成績については 4年生であっても特別扱いをしないことを明言した。4年生の扱いについて周知徹底したのは、 受講生の平等を担保するうえで改めて言うまでもない当然のことであるが、成績評価の算出時に 予想される陳情等の事態に備えてのことである。また、選択科目という性格上、異文化コミュニ ケーション(及び、その周辺分野)に関心を持って受講してくれることを大いに歓迎するとアナ ウンスした5。 初回のオリエンテーション(授業説明)を聞いた後の、最終的な履修登録者100人の内訳は、 表1のとおりである。表1 履修登録者の内訳
経営学部 人間学部 合計 1年生 24 0 24 2年生 8 6 14 3年生 3 2 5 4年生 41 16 57 合計 76 24 100(人) 上述のように「異文化コミュニケーション」は1・2年次配当科目であるが、受講生の約2/3 が上級生、4年生は実に過半数を超えている。この4年次の学生は、厳密に言えば4年次以上の 学生を含んでいる。要するに、卒業要件を満たすため、平たく言えば卒業単位のために受講を決 心した学生がマジョリティを占めた。 初回のオリエンテーションを聞いて受講を断念した学生に対しては、成績の点で不利益になら ないよう履修登録の取消し・削除を勧告したにもかかわらず、面倒に思ったのか手続きをしなか った者が大勢いた。また、5時限開講ということで欠席が続く学生も多かった。よって、毎週授 業に出席する学生は最終的には30人前後で推移し、グループワークが行える規模に落ち着いた6。4.授業
4-1.注意事項 授業の到達目標は、「異文化に対する理解を深め、他者に共感し、適切な行動ができるように なる」ことである。この目標を達成するため、つまり大学の授業を行うために、受講生に教科以 前のこと、所謂マナーについて説明しなければならなかった。毎週のように注意した主なことを、 次に挙げる。 ・教科書を準備すること ・筆記用具を持ってくること ・遅刻して入室するときは後ろのドアから入ること ・教室で座っているだけでは授業に参加したことにならないこと ・授業中に他の科目の宿題や書類書きや私語をしないこと ・前を向いて椅子に座ること ・かばんを机の上に置かないこと ・携帯電話等は音がしないようにすること ・授業中は必要があるとき以外は携帯電話等電子機器に触らないこと ・教室は飲食禁止であること ・科目未登録者は許可なく授業中に入室しないこと大学は義務教育ではなく、学びたい者が集い議論を交わすなかで学問のみならず人間的にも成 長する場であろう。したがって、キャンパスでは中等教育にありがちな管理教育を払拭し、学生 が自由な環境で自律性を身に付け社会に飛び立っていくのを温かく見守り、必要があれば援助す るのが教員の本来の務めであろう。しかし、自由の真の意味が理解できていない受講生が大多数 を占める教室は、初等教育で指導するようなマナーについてまで一つひとつ言わなければならな い状況であった7。 4-2.授業の進め方 「異文化コミュニケーション」は、異なる文化を背景に持つ人と円滑にコミュニケーションす るためにはどうしたらいいかを考え、実践できるようになることを目標とする科目である。しか し、家庭・中等教育までの学校教育で身に付いているはずのマナーが不十分で自覚もなければ、 自分の好き放題にすることが異文化なのだと非常に短絡的に誤解してしまう恐れがあった。そこ で、生い立ちや言葉遣い(敬語)など身近なテーマから、異文化とは何か?を考えさせることに した。 具体的な授業の進め方は、次のとおりである。第一に、毎回の授業で勉強した内容について振 返りを行い、理解したことを800字以内で文字化するように指導した。上級生でも原稿用紙の書 き方を知らない学生がかなりいたため、初年次教育の復習を兼ねる形となった。 第二に、他人の意見やテクニカルタームを分からないまま引用するのではなく8、自分で考え たことを自分の言葉で相手に正確に伝えられるようにするために、教員が話すだけの一方的な講 義形態ではなく、授業では学生が絶えず考えて答えなければならないように問いかけを続けた。 第三に、大学の授業なので英語論文を参考資料に用いて(Blum-Kulka and Olshtain 1986; Sargent 2004)、英語が得意な学生には異文化コミュニケーション研究の一端をダイレクトに理解 する面白さを味わわせるとともに自尊心が高まるようにした9。この英文要約は、英語が苦手な 学生に配慮するためだけでなく、協働学習における学びを引き出すという積極的な効果も視野に 入れ、グループワークとして行った。 このように大学生らしい勉学の観点から外書講読を部分的に採り入れる一方、受講生に上級生 が多いことに鑑み社会人に必要な言葉遣いやレポート作成が復習できる機会を設けて、授業を構 成した。
5.受講生の自己評価
5-1.調査方法 授業最終日の2013年1月17日に、受講生を対象に選択式の自己評価と自由記述による感想から 成るアンケートを無記名式で行った。アンケート項目は、『SYLLABUS 2012 経営学部地域ビジ ネス学科』で示した授業の到達目標「異文化に対する理解を深め、他者に共感し、適切な行動が できるようになる」を踏まえて、次のように設定した。(1) 異文化について理解が深まった 1──────2──────3──────4──────5 理解が深まった 全然変わらない (2) 自分と違う文化の人に共感できるようになった 1──────2──────3──────4──────5 共感できるようになった 全然変わらない (3) 自分と違う文化の人(異なる常識)に対して、適切な行動ができるようになった 1──────2──────3──────4──────5 適切な行動ができるようになった 全然変わらない (4) 授業に参加しての感想 5-2.選択式アンケートの結果と考察 有効回答は授業最終日の出席者26人である。アンケート項目(1)~(3)において、選択肢1~5 を選んだ人数を表2に示す。なお、有効回答が十分な量ではないため、統計的な処理は行ってい ない。 (1)「異文化について理解が深まった」について、選択肢の1を選んだ受講生が9人、選択肢 の2を選んだ受講生が8人であった。(2)「自分と違う文化の人に共感できるようになった」に ついて、選択肢の2を選んだ受講生が10人、選択肢の1と3を選んだ受講生が各6人であった。 (3)「自分と違う文化の人(異なる常識)に対して、適切な行動ができるようになった」につい て、選択肢の2と3を選んだ受講生が各8人であった。
表2 選択式のアンケート
選択肢1 2 3 4 5 平均 モード (1) 理解の深まり 9(人) 8 6 2 1 2.15 1 (2) 他人に共感 6 10 6 3 1 2.35 2 (3) 適切な行動 3 8 8 3 4 2.88 2と3 結果から、(1) 理解の深まりに関しては多くの受講生が選択肢の1を選んでいるが、(2) 他人 に共感に関しては選択肢の2、(3) 適切な行動に関しては選択肢の2と3、と徐々に授業の到達 目標の程度が低くなる(選択肢の大きい数字が選ばれる)傾向が見られる。異文化理解の段階は、 知識から、感情、そして行動へと向かうとされている。本アンケートにおいて受講生の異文化理解は理論に一致する傾向が確認できたので、授業は計画どおり進捗し、企図した教育効果が認め られた。 5-3.自由記述の結果と考察 大学主催の授業評価アンケートにも自由記述欄があるので、本稿のアンケート(4)「授業に参 加しての感想」は調査内容が重複していると思われる向きがあるかもしれない。しかし、記述欄 のスペースや回答時間の関係からだろうと思われるが、大学主催の授業評価アンケートの自由記 述は一言でまとめられており、そこから受講生の心の推移を推し量るのは容易くない10。 そこで、筆者が授業最終日に行ったアンケート「授業に参加しての感想」の自由記述から、受 講生の生の声を列挙する。記述内容を全て転記するのが望ましいだろうが、紙幅の関係もあり、 26人全員の記述から一番伝えたいと思って強調している部分を引用することにする。なお、表記 ミスが散見されるが、そのまま転記する(順不同)。 ・最初におどろいたのは、この学校らしくない少し厳しい授業だった。厳しいと思う事がお かしいいことなのだろうが。一回目の授業に比べ、今は800字近く文字で書く事にも、時 間はかかるが慣れ最初の方に比べると苦ではなくなった。・・・出席した授業をふまえて、 自分以外の人との価値観や物の考え方は親兄弟であっても違うだろうから、他の人の価値 観等を受け入れる強さを今まで以上に身に付けたいと感じた。もし、その強さが身に付か なかったとしても、話し合う事で理解しあえるような柔軟さを身に付けたい。 ・私は単位が足りないので、稼ごうという気持ちで最初は選んだ、簡単に取れそう、そう思 っていたのだが実際は800字の文を書いたり、英文を訳したりと決してラクとはいえない 内容の講義であったのだが、振り返ってみるとどの講義よりも内容が詰まっていて、自分 の力につながる物ばかりであった。英文スピーチでは班員が少ない中での和訳やスピーチ、 その中でも数人の人と連携を取る事で新たな友人を作る事が出来た。その中でこの講義の 有意義や意味性を理解する事が出来た。 ・グループに別れ、同じグループの子達とも協力し合い発表した事も、なかなか他の授業で はやらないので、とてもいい経験である。また、一人ひとりが違うように、価置観も全く 違う。私はこの授業で、いろんな考え方の人達を知り、その中で自分にはないものをもっ ているから、それを吸収して自分のこれからの人生につなげていきたい。・・・人と人がつ ながるのは、コミュニケーションだ。せっかく、話す口、うごく手があるのだから、表現 しなきゃもったいないのだ。私は、あと少しで社会人になるので、この授業で学んだ事を 生かしていきたいと思う。最低限のマナーは、必要だ。
・自分にとっての文化とはとてもおもしろいテーマであり、そう言われて考えたり友人と話 していたりすると自分の中だけで生まれた自文化であり、同じ国籍や県だからといってこ こまで違うということに気づけたことは大変興味深かった。 ・この講義を通じて自分が一番変化したと思うのは、以前より広い心を持てているなという 所だ。育ってきた場所も環境も違うのだから全く同じ考えになる事の方がおかしいだろう と思えるようになったのが大きな理由だろう。 ・私は、授業にあまり今まで参加することの意味、というものが分からなかった。しかし教 科書を読んで、毎回トレーニングのような実験を行い、どんどん自分の考え方にバリエー ションが増えていく事が楽しく、授業に行くことが楽しみになったのである。学ぶこと、 周りの意見、先生の話しを聞いて、1回の講義の中でどれだけ自分が知識を吸収すること ができるか、それが授業に参加する意味なんだ、と知った。・・・「異文化だから仕方な い」という一言で済ませるのではなく、その異文化を理解しようという広い心、そして自 分の異文化を少しでも分かってもらうような、懸命な努力が人々の間に必要ではないか、 とこの授業を学んで痛感したのである。 ・自分が当たり前だと思っている一つ一つのことが、他の文化の人からしてみれば共感でき ないものがあるとわかった。今の自分が他の文化とふれ合う機会があったとしても、適切 な行動をとることができるかどうかわからないが、今日の講義を受けたことによって、異 なる文化に対する見方が変わった。・・・この授業をとって、文章を書くということがそこ まで苦ではなくなったし、とても学ぶことが多かったので、この授業をとってよかったと 思った。 ・自分の新たな一面、自分はこんな性格だったのかと、新ためて見つめ直すことが出来た。 この授業は一つ一つしっかりとしていて、考えさせられる事がとてもたくさんあった。異 文化に対するイメージも変わったし、新たな自分も見つけた。単純に楽しい授業だった。 これから先絶対に役に立つものが勉強出来て良かった。異文化とのコミュニケーションに ついては、これからも理解を深めたいと思う。 ・この授業で自分が一番印象に残ったことは「権力格差」「女性らしさ-男性らしさ」「不確 実性の回避」についての自己分析を行ったことである。自分が想像していた結果とは全く 違ったのでとても驚いた。客観的に自分を見るということを普段することがないのでとて もいい経験になった。
・私はコミュニケーションをとることが苦手な方だったけど、コミュニケーションの大切さ を学ぶことが出来たと思う。得意になったかはわからないけど、相手には自分の意見を言 わなければ何も伝わらないし、逆に相手の気持ちもわからないままになってしまうので、 コミュニケーションをとることはより良い人間関係を築き、良い間柄でいるということに 対しては、欠せないものなんだと感じることができたのでとても良かった。 ・自分は今まで異なる文化のことなど考えたこともなかったが、この授業に参加することに よって以前よりは文化というものに興味がわいた気がする。毎回の授業で読んでいる教科 書には、様々な文化が例として書かれており、今まで考えたことも聞いたことすらない自 分とは異なる文化の存在を知ることが出来て、ためになったと思う。また、教科書にある トレーニングも楽しかった。 ・この年になると、国だけの文化の違いだけでなく同じ日本人同士でも「あ、違うな」と思 うことがよくある。こう言う話は自分の価値感と他人の価値感の違いで、自分がムリしな い範囲で理解しようと思う気持ちでいる。 ・私はもともと異文化に興味があり、どういう講議を受けられるのか楽しみにしていた。私 は去年、半年間アメリカに留学をした経験があり、異文化に触れる機会があった。この授 業で教えてもらった後に向こうに行っていれば、もっと良い状態からスタートできると思 った。 ・和訳をしなければならないという所が非常に面倒臭かったし、大変だったのだが、グルー プワークだったのでどうにかやり遂ごすことができた。この学校の授業は、グループワー クという事をすることが少ないので、良い経験になりました。・・・トレーニングをして、 人と自分との価値感の違いを見ることができた。それがすごく楽しかった。全く同じ解答 をしている人を見て、この人とは価値感が似ているんだ!と、思えたし、逆に全く違う解 答をしている人を見ると、この人とは価値感が違うんだ!と思えたのである。そして、価 値感が違う人にどうしてこのような解答になったのか、何を考えているのかを聞いて、こ んな考え方・見方があるのか!と思えたのもすごく楽しかった。 ・心を広くするトレーニングは、自分が今まで常識だと思っていたこととは反対のことを新 常識としてかいていくことで、本当に心が広くなるのかと思いながらやっていたが、やっ ていくうちに、もしかしたら自分とは逆に思っている人は自分とはまったく違った価値感 や考え方なのかもしれないと思うようになったり、こう考えることで心が広くなることに つながるのかと一人で考えながらやっていた。授業で、このような内容にふれることは少
ないと思っていたので、楽しかったと思う。 ・毎回、1回は自分が考えて周りの人と意見を話し合って、みんなに発表するというやり方 がとても楽しく、1番好きな時間であった。他の授業に比らべ、自分自身で考えることが 多く、とても楽しくあっという間に時間もすぎてしまうという感じがする授業であった。 ・トレーニングはとても楽しかった。心理テストのようなものにも興味があり、自分のこと、 他人のことを観察するのが好きなので、この授業でしたトレーニングはとてもおもしろか った。ここでは世界のことだけでなく、自分が知らない自分に出会えたとも思う。 ・授業の回数が増えていくと、先生の授業の進め方何も違和感がなく、楽しく学ぶことがで きた。気が付いたら800字の感想文も簡単に書けるようになっており、これは先生のおか げだと思っている。社会人になると800字だけじゃすまない文を書くときがあると思うの で、今回はとても良い経験ができたと思う。・・・英文を和訳したときも英語の授業では見 たことのない単語などがでてきたりと、大変でしたが終った後の達成感がとてもよかった。 自分のためになった授業だと思う。 ・この異文化コミュニケーションの授業を受けて一番自分の為になったのは「言葉遣い」に ついて学べたと思う。今まで普通に使ってきたことばというのを見直すべきかなと思えた。 ・・・英語の訳の宿題が2回も出たときはつらかったがその英語を逃げずにやってこれた ので成長したことが実感できた。 ・まだ、違う文化の人に共感できるようになったとは、はっきりと答えられない。しかし、 「どんな考え方をする人なんだろう」とか、「どうゆう価値感なんだろう」と、前向きに 相手と向き合えるようになった。この授業を通して、心が成長した事は事実だろう。 ・こうやって講議を聞いて自分で考えて、自分の考えたことを思った通りに文章に書いてみ ることが得意になった気がした。異文化コミュニケーションの講議をとる前、私は800字 なんて書くことができなかった。しかし、今日で15回の講議を終えて、800字という文字 が今では少なく感じる。1回目の時に比べ、シャープペンを動かすのを早くなっている。 さらに、自分の頭で文章を整理するということも、スラスラできるようになった。・・・私 は人前で発表するのが苦手で、ましてや長文の英語の和訳をすることなんてやってもみな かった。英語和訳の発表を2回したことによって、自分でもやればできる。調べて、理解 した単語、表現方法などがたくさん勉強できたのでいい経験であった。
・この授業を取って、自分の文化と相手の文化についてしっかり考えるようになった気がす る。心を広くするためにやった問題がとても役に立つと思う。自分は自分と思うこともあ るけど、相手の文化にしっかり目を向けて、相手を理解できるようになりたいと感じた。 まだ完璧とは言えないが、前より冷静に相手を理解しようとすることができているのかと も感じている。 ・最初の方は800字も書けない。と思っていたけど時間がたつにつれて800文字が普通に書け るようになってきました。授業の内容も毎回ちがっていて、みんなの興味を引くような授 業が多くて私はコンピューターの授業が好きだけど異文化コミュニケーションも同じくら い好きであった。 ・私はこの授業をうけて文化のちがいはとても大きいものだなと思った。しかしこれは海外 もそうだが、同じ日本の文化のちがいだけではない。もちろん海外もそうだが、同じ日本 の中にも私たちとちがう文化はあった。 ・この授業を通して、広く人とコミュニケーションをとってみようと思いました。そうする ことで、いろんな人の考え方を知り、ふれることで、こおゆう考え方もあるんだなと知る 事もでき、どうゆう人なのかを知ることができるのである。 ・授業の内容は書くことと読む両方に分かれていた。読むのを先生1人だけではなく生徒一 人一人に読ませることで寝る時間もあたえないように、音読をさせることで頭に入りやす くするという狙いがあったのでははないか。と義問に思ったり、いい考えだと思うことが 多々あったが、先生と生徒の考えの違いでお互それをぶつけ合うのは良い事と思うので先 生のスタイルが嫌いではない。先生の授業は異文化のためというより、大人へ成長するた めのスキルをつけるものだろうと感じた。 以上、(4)「授業に参加しての感想」における学生の自由記述を転記、特に書き手の感情が表 出していると思われる箇所に筆者が下線を付した。半期15回の授業を思い返した感想から、学生 の気持ちの変化が読みとれる。授業の3本柱として提示した、振返りを800字にまとめること、 英語論文を和文要約すること、グループワークを行うことは確実に支持されたことが理解できよ う。コミュニケーションの重要性・言葉遣い・マナーについては、期待したとおり受講生の認識 が変わった。トレーニングを経験して、新たな自分を発見したことへの驚き・広い心を持てるよ うになった自分自身の気づきを表した受講生も多かった。また、800字の文字化・負荷の大きい 英文要約を成し遂げたことで達成感を味わった受講生がいたことは、単なる教科の教育効果とい うより人間的成長という観点から非常に喜ばしい。加えて、授業に参加する意味を知った受講生
もいた。一方的な講義よりエネルギーの要る双方向の授業を実践した教員にとって、この感想は 予想外のうれしいリアクションである。最後に引用した受講生は洞察力のある学生のようで、 「授業は異文化のためというより、大人へ成長するためのスキルをつけるものだろう」と筆者の 意図、つまり授業の目的を理解している。現代の若者は、有益であっても苦しいだけのことはし ない。「楽しかった」の感想が多かったのは、授業担当者への最大の賛辞であろう。
6.まとめ
『SYLLABUS 2012 経営学部地域ビジネス学科』によれば、2007~2010年度入学生のカリキ ュラムには東邦基礎力科目として「基礎演習」が開講されている。2011~2012年度入学生に対し ては、「基礎演習」に加えて「東邦基礎」も用意されている。中等教育で学習済みの項目、例え ば原稿用紙を使って文章を書くというような基本的な内容は、大学教育への橋渡し科目で再度学 習しているはずである。ところが、コース開始時、受講生の大半は記述内容が大学生としてふさ わしいか否かのレベルではなく、段落を取ること、文体を統一すること、常用漢字を用いて漢字 仮名交じりで表記することさえできなかった。初年次教育の効果を検証する必要が早急にあるだ ろう。 また、受講生の過半数は4年生だったにもかかわらず、わずか800字の文章を書くのに非常に 苦労していた。昨今卒業論文を卒業要件に課していない大学が増えており、本学もその潮流にあ る。しかし、3年半の大学教育で卒業論文を書く経験をしなかったとしても、レポート提出は過 去に求められたはずである。800字さえ書けない学生が、果たしてどうやって3年半の間レポー トを書いてきたのだろうか。 2010年7月22日に日本学術会議が『回答 大学教育の分野別質保証の在り方について』で、教 養教育について答申している(日本学術会議2010:ⅲ)。 大学がユニバーサル化した現代にあっては、かつての「豊かな人生」へのパスポートとし ての教養概念は既に失効して久しい。市民性を、社会の公共的課題に対して立場や背景の異 なる他者と連帯して取り組む姿勢と行動として再定義した上で、現状の課題や困難を、未来 において作り変え、改善されるべき対象と考えるような想像力、構想力を培うことが教養教 育の重要な内容となる。 コミュニケーション能力については、次のように説いている。 コミュニケーション能力の育成に関しては、一方的な情報伝達ではない「対話」という視 点を重視すべきである。そこでは、自らとは異なる意見、感覚を持つ人々と出会い、「聴 く」能力の育成が課題となる。同時に、合意できないものは合意できないままに協働の可能 性を探る、あるいは意見の対立を残しつつ決定する、といった「賢慮」を培うことも忘れてはならない。 「異文化コミュニケーション」は、双方向の授業を行い、受講生に考えることを習慣づけるよ うにしてきた。トレーニングを行い、グループで意見を交換し、グループの意見をクラスで発表 させ、授業の終わりにその過程を振返り記述させた。この一連のタスクを15回続けることで、受 講者は原稿用紙の書き方を身に付け、自分の考え・気持ちを800字で表現する術を習得した。つ まり「異文化コミュニケーション」は、教員との「対話」あるいはグループで行った「対話」を 通じてコミュニケーション能力を育成しながら、「現状の課題を・・・改善されるべき対象と考える ような想像力、構想力を培う」教養教育の使命を果たしたと、結論づけられる。
注
1.連関とはアーティキュレーションのことで、つながりや関連するクラス・プログラムの目標、活 動内容、評価などの関連性を言う(當作, 2010: 133-139; 當作, 2012: 60-61)。 2.本稿は2012年度に実施した授業について分析するものなので、執筆時の2013年度ではなく、2012 年度のシラバスから引く。 3.副題を添えた正式な区分は、人間と社会-人間社会を拓く-、人間と文化-多様性を紡ぐ-、人 間と自然-心身を鍛える-である。 4.人間と文化には「異文化コミュニケーション」のほかに、「名古屋文化論」、「食文化-食べる、自 分を創る-」、「ボランティア論」、「ジェンダー論」、「世界の音楽」、「世界の美術」が開講されて いる。 5.「異文化コミュニケーション」は、教務サイドからの要請を考慮した授業構成、つまり体験学習を 念頭に少人数教育を想定した内容であり、グループに分かれてのトレーニング活動を中心に授業 を組み立てていた。ところが、開講初日200人近い学生が階段教室に現れた。双方向の、受講生の 内面の変化をねらいとする活動内容の授業にもかかわらず、受講生を収容するために通常一方通 行の講義が行われる大教室が準備されていた。浅生卯一学科長に相談し、シラバス執筆時の想定 と大きく異なる状況を翌週の授業日までに現実的に授業ができる状態にするための方策を考えた。 先ずはシラバスを読んできていない情報不足の学生や、昨年までの授業と同じだろうと混同して いる学生や、留学生担当の教員の授業なのでラクショウだろうと思い込んでいる学生の認識を改 めること、次に授業に関する詳細な説明を行って受講に際しての心構えを促すこと、さらに履修 登録者が100人を超す場合は2クラス開講で対応することとした。 6.最終的に受講生数が決まるという状況より、開講時から一定数で安定しているほうが、毎週出席 する学生の教育効果が高くなることは言うまでもない。 7.1・2年次配当科目なので、1年生の受講が多ければ、高校の延長のような意識が抜けていない のだろうと解釈できる。ところが、最終的な登録者は1・2年生38人、3年生以上62人と上級生 のほうが多いので、理解に苦しむ。異文化コミュニケーションは総合基礎科目なので学部合同ク ラスとして開講されているが、経営学部・人間学部を問わず上級生が多数を占めている特徴は変 わらない。 8.GDPなど専門科目で耳にする用語を呪文のように唱えるが、説明を求めると、答えられないこと があった。 9.初回の授業で「(愛知)東邦(大学の学生)だから・・・無理」と異口同音に自信のない発言をする 学生が、所属に関係なく少なからずいた(括弧内は学生が省略した言葉を筆者が補ったもの)。20歳前後の前途洋々であるはずの若者が自信なく下を見て呟く姿に、教員としてショックを受けた。 卒業するまでに1回でもいいから、「(今まで無理とあきらめていた難しいことでも、頑張った ら)できた!」と達成感を味わわせてやりたい、自尊心をもたせてやりたいと、心から思った。 10.大学主催の授業評価アンケートにおいては、3人が次のように自由記述した。 ・おもしろかった ・異国や個人間の違いを自分で考えてこたえを導き出すのが楽しかった ・分かりやすく、楽しい授業でした アンケート用紙に通り一遍のチェックをする学生が多いなか、わざわざ感想を書いてくれたのは 授業を評価してくれた受講生であることは間違いない。ところが、一言の感想からは15回の授業 を受けた一人ひとりの表情が、生の声が、残念ながら伝わってこない。
参考文献
愛知東邦大学.2012.『SYLLABUS 2012 経営学部地域ビジネス学科』 當作靖彦.2010.「中等・高等教育における日本語教育のアーティキュレーションの達成:今後の支援 活動・交流活動のアクションプラン」『2010 ICJLE世界日本語教育大会予稿集』133-139. 當作靖彦.2012.「世界と日本をつなぐ日本語教育:留学生のための日本語教育のアーティキュレーシ ョン(連関)」『2012年日本語教育国際研究大会プログラム』60-61.Blum-Kulka, Shoshana and Olshtain, Elite. 1986. Too many words: Length of utterance and pragmatic failure.
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Sargent, Trevor. 2004. Cross cultural adjustment of westerners in Japan: Comparing expatriates with “overseas experiences”. Human Communication Studies. 32.(抄録)
日本学術会議(2010)『回答 大学教育の分野別質保証の在り方について』 http://www.scj.go.jp/ja/member/iinkai/daigaku/(2013年9月30日参照)