ベトナム人の海外就労
送出地域の現状と日本への看護師・介護福祉士派遣の展望
新美達也
はじめに
ベトナムから海外への労働者送出が進んでいる。1991 年以来、国営企業の傘下の労働者 斡旋企業などを通じて約 50 万人の一般労働者が世界 40 か国・地域に送り出された。また、 2008 年に調印された日本ベトナム経済連携協定(以下、「日越 EPA」)ではベトナム人看護師 を日本に送り出すことが決まった。日越 EPA は、関税の撤廃・削減、サービス貿易の自由 化および関連分野の連携強化を図り、両国間貿易の拡大、投資活動の促進、経済連携の強 化をめざすものである。これはベトナムにとって最初の二国間 EPA である。同協定の「自 然人の移動」(「日本ベトナム経済連携協定」附属書 7 第 5 節)を根拠として、「看護師・介護福 祉士(候補者)」の相互移動が可能となった 1)。これにより、ベトナムは従来からの一般労 働者の送出に加え、高度人材である看護師の海外送出への道を開いた。また、同じ時期に ドイツとの間でも「ベトナム・ドイツ戦略的パートナーシップ」に基づき、ベトナム人看 護師をドイツに送り出し、ドイツで介護人材を養成する事業が始まっている 2)。日本にお ける看護師・介護福祉士 3)候補者の受け入れは、インドネシア、フィリピンに次いでベト ナムが 3 番目となる。ベトナムからの第 1 陣として 150 名が選考され、現地での 12 か月間 の日本語研修を経て、2014 年 6 月に来日する運びとなっている。 ベトナムからの第 1 陣が来日することとなったが、これまでのところ、この制度のもと でのベトナム人看護師・介護福祉士の海外送出に関する研究はみあたらない 4)。もっとも、 国際的な労働力移動の視点から、ベトナム人労働者の海外送出に関して、これまで多くの 研究がなされている。たとえば、Cao(1994)は 1980 年から 1990 年までの政府間の取り決 めに基づく労働協約制度の時代から民間による送出への制度転換について論じている 5)。 新制度のもとにおける法整備の問題を論じた石塚(2012)や、ベトナム人の海外就労の現 状と課題を指摘した新美(2006)の研究もある。 本稿では、日本への看護師・介護福祉士候補者の送出を含むベトナム人の海外就労につ いて、送出元である農村地域での調査をもとに、送出地と現地の労働者の実態を明らかに する。ベトナムの海外就労の送出地に注目した実証研究は管見の限り見当たらない。本稿 で取り上げるゲアン省は近年海外就労の最大の送出元となっている。海外就労者からゲア ン省への送金も多額にのぼり、それによって同省と急速な経済発展が進むハノイやホーチ ミン市などとの格差拡大に一定の歯止めがかかっている。本稿の目的は、第 1 に、ベトナムからの海外就労の主要な送出元であるゲアン省での調 査によって、ベトナムの海外就労者の派遣先国別の特徴を明らかにすることである。今後 送り出される看護師たちもベトナムにとって貴重な海外就労人材であり、その送出地域も ゲアン省など地方の農村である。ゲアン省における海外就労経験者に対する調査は、ベト ナムの海外就労全般に対する理解にもつながるであろう。第 2 に、送出の対象となるベト ナムの医療従事者を取り巻く環境と日越 EPA に基づく看護師・介護福祉士の送出について 考察することである。 本稿の構成は以下の通りである。第Ⅰ節ではベトナム人労働者の海外送出制度と送出 先、海外就労の問題点について整理する。第Ⅱ節ではゲアン省での海外就労経験者に対す る調査結果について報告する。第Ⅲ節ではベトナムの医療従事者を取り巻く環境につい て、また第Ⅳ節では日越 EPA に基づいて来日する予定の看護師・介護福祉士候補者につい て、現地の新聞報道や所管局である労働傷病兵社会省海外就労管理局(DOLAB)などが公 表しているデータから明らかにする。
Ⅰ ベトナムの労働者海外送出制度とその問題点
1. ベトナムの労働者海外送出制度 ベトナムによる労働者の海外送出は、かつては政府間の労働協約制度によって行われて いたが、1991 年から民間による送出に移行した。海外送出を行う目的は国内における雇用 機会の不足を補い、貧困層を救済することである。1991 年以降のべ約 50 万人の労働者を 40 以上の国・地域に送り出してきた 6)。近年では年間約 8 万人をマレーシアや台湾、韓国、 日本などに送り出している。この送出数は東南アジアの他の労働力送出国に比べて少な い。たとえば、2012 年のフィリピンの海外送出数は 180 万 2,031 人 7)、インドネシアは 18 万 8,059 人 8)である。この 2 か国はともに、日本との間で EPA を締結し、看護師・介護福 祉士候補者をすでに日本に送り出している。ただ、台湾や韓国、日本などの外国人労働者 の受入国側から見ると、ベトナム人労働者の数がフィリピン人やインドネシア人と同程度 または上回っていることもある。ベトナムと競合する国々ではベトナムの労働者送出制度 への関心も高まっている。たとえば、ベトナムの海外就労促進の取組に対して脅威を感じ たインドネシア政府は、2008 年に職員をベトナムに派遣して大手仲介業者の事前研修プロ グラムを含む労働派遣制度を調査させた(奧島、2011: 98)。 2013 年に新規に海外で就労したベトナム人は 8 万 9,000 人であった。韓国が受け入れ後 の失踪が多いことを理由にベトナム人労働者の受け入れを中断する一方、台湾への送出が 全体の約半数を占め、その数は 4 万人を超えた(Dau Tu, 2013 年 12 月 20 日)。近年ベトナム 人労働者を大量に受け入れている台湾と韓国の動向がベトナムの労働者の海外送出数を左 右している。ベトナム政府のなかで海外就労を担当しているのは労働傷病兵社会省海外就労管理局 (DOLAB)である。「海外就労管理局の機能、任務、権利の及ぶ範囲、組織に関する労働傷 病兵社会省決定第 1012 号 /QD-LDTBXH」(2013 年 7 月 8 日)のなかでその役割として、① 海外就労に関する法令整備・普及、②外国人労働市場の調査・研究・市場開拓、③仲介業 者の審査・許可、④海外就労者への資金的支援・戦略立案など 22 項目が定められている。 1991 年の制度転換の当初はラオスや日本などに数百人程度を送り出すに留まっていた。 その後、韓国やリビアへの送出が増え、1996 年には 1 万人を超え、2000 年には 3 万人に達 した。また台湾への送出も 2000 年に急増し、2002 年にはマレーシアへの送出だけで 2 万 人近くになっている(DOLAB 内部統計資料、2002 年 12 月 31 日)。この流れのなかで、ベトナ ム共産党政治局は「労働および専門家の海外送出」に関する 41 号指示(41-CT/TW、1998 年 9 月 22 日)を行った。そのなかで、労働および専門家の海外送出は国内の雇用問題の解決 にとって重要かつ長期的な戦略の 1 つであり、ベトナムの工業化・近代化に向けた労働者 層の育成に資するものであるとし、労働者の海外送出事業の重要性を認めている。またベ トナム人労働者の海外送出は国際協力の一部でもあり、各国との長期的な友好関係の強化 にも益すると捉えている。さらに 5 年間の労働者の海外送出事業を総括して、海外労働市 場の新規開拓を積極的に実施し、韓国や日本、リビア、ラオスに加え、マレーシアへの労 働者の送出実績を高く評価した。最近のベトナムの主要な労働者送出先はマレーシアから 台湾、韓国、日本へ移行している(表 1)。これらの国々でベトナム人労働者は主に機械、 電子、農水産、建設、縫製、家事介護などの業種に従事している(Dao, 2012)。 2. 海外就労者の送出元 上述のベトナム共産党政治局 41 号指示のなかで、Thai My 社(ホーチミン市 Cu Chi 県)や Cuong Gian 社(ハーティン省 Nghi Xuan 県)などが農村部から若年労働者数千人を海外に送 り出したことにふれている。これまでの海外就労者の 7 割が農村部の出身であり、個々の 家計のみならず農村地域の基盤整備にも貢献していることが指摘されている。他方で、海 外就労者が貧困家庭から出てくる例はわずかしかないことも示している。 2001 年の第 9 回党大会で決定された「2001–2005 年の 5 か年計画目標概要」では、海外 就労について「より多くの労働者を送り出すこと以上に、農村部、貧困層、国に貢献のあっ 表 1 ベトナムの主な労働者送出先と送出実績 (人) 2008 年 2010 年 2011 年 2012 年 マレーシア 26,704 11,741 9,977 9,298 台湾 23,640 28,499 38,796 30,533 韓国 12,187 8,628 15,214 9,228 日本 5,517 4,913 6,985 8,775 総計 86,990 85,546 88,298 80,320
た地域の子女に対して海外就労機会を与える。海外就労は雇用問題の解決や貧困削減に寄 与するのみならず、工業化・近代化に向けた農村部の就業構造の転換に寄与するものでも ある」とし、海外就労を通じて国内の貧困削減を進めたいとしている(Nguyen, Thi Hang, 2003: 40–43)。さらに、2009 年には政府首相決定第 71 号 /2009/QD-TTg「2009–2020 年期の 貧困県において貧困削減強化に向けた労働力の海外送出推進支援策案」(2009 年 4 月 29 日) を承認し、貧困県として指定された 61 地域の貧困率を海外就労によって削減する数値目 標を掲げている。 海外就労者からの外貨送金は農村部の発展に貢献する。海外の労働者からの送金額は 2013 年には約 10 億ドルと推測され、労働者 1 人あたり年間 2,500 ドルを仕送りしているこ とになる。海外就労者を含む在外ベトナム人からの送金は、在外ベトナム人が多く住むア メリカ以外に、就労者が多い台湾や韓国からが多い。送金先は従来は都市部が多かったが、 近年はゲアン省やタインホア省など海外へ労働者を多く送出している地域に移っている。 (http://www.vietnamplus.vn/kieu-hoi-nam-2013-van-on-dinh-du-kinh-te-kho-khan/239159.vnp、2014 年 1 月 10 日確認)。つまり、海外就労者の増加に伴って送出地域への送金も増加傾向にある。 DOLAB の資料から、海外就労者の出身地域を確認する。2011 年に最も多くの海外就労 者を送り出した地域はゲアン省(1 万 3,460 人)、次いでタインホア省(9,920 人)、ハーティ ン省(5,648 人)であった(表 2)。 ベトナム政府が公認した海外就労の仲介企業は現在178社にのぼる(DOLAB「海外送出企業」、 2014 年 2 月 1 日最終確認、http://www.dolab.gov.vn/BU/Index.aspx?LIST_ID = 1371&type = hddgdh&MENU_ ID = 246&DOC_ID = 1561) 9)。これらの企業は、労働者の派遣に際しての契約書作成や派遣先 との取引、市場開拓など手がけている。しかし、なかには高額な斡旋料を労働者から徴収 したり、管理体制がずさんで、送出先で多数の失踪者を出すなど問題のある企業も多い。 こうした問題が原因で営業停止や認可取り消しなどの処分を受けた企業は 43 社にのぼ る 10)。こうした問題によって送出先の受入条件が厳しくなる結果、ベトナムの海外就労を 制約している。そこで、次項では、特にベトナムにとって重要な外国人労働市場であり、 問題が深刻化した韓国と台湾での事例を中心に取り上げて、ベトナムの海外就労が抱える 問題について考察を加えたい。 3. ベトナム人労働者の受け入れ先でのさまざまな問題 海外就労の仲介業者による不当な手数料や保証金の徴収、そして送出先での労働者の失 表 2 海外就労者の主な出身地域(2011 年) (人) 出身地 ゲアン省 タインホア省 ホーチミン市 ハーティン省 ハノイ市 全国 送出数 13,460 9,920 6,816 5,648 3,990 88,298 対全国比 15.2% 11.2% 7.7% 6.4% 4.5% 100% (出所)DOLAB 資料より筆者作成
踪といった問題は繰り返し起きている。そのたびに、送出先国からベトナム人労働者の受 け入れ停止処置がなされる。これまでも台湾や韓国がたびたび受入を停止してきた。 (1)失踪問題 韓国は 1991 年に「産業技術研修制度」を開始し、日本の旧「研修生制度」と同様に、「研 修生」として外国人労働者の受入を進めてきた。しかし、外国人労働者の不法就労の急増 と人権保護の観点から、2004 年に「雇用許可制」が実施されることになった。この新制度 のもとでこれまで約 7 万人のベトナム人労働者が韓国で就労している(Tien Phong, 2013 年 9 月 17 日)。韓国が雇用許可制によって受け入れている 15 か国の労働者のうち、ベトナム人 は勤勉で手先が器用だと評価されている(Tuoi Tre, 2012 年 9 月 4 日)。 しかし、Dao(2013: 8)によれば、2012 年第 2 四半期には韓国におけるベトナム人労働者 の 57.4%、同年第 3 四半期には 55.6%、同年第 4 四半期には 53.1% が失踪しており、なか でも 11 の市・省出身者の失踪が飛び抜けて多い。ゲアン省の 69.75% やハーティン省の 61.94%、タインホア省の 59.71% など、北中部地域出身者の失踪率が高い。そのため、韓 国政府は 2012 年 8 月よりベトナム人労働者の新規受入を停止した。 DOLAB は失踪した労働者の出身集落を特定し、自治体に対して失踪対策を取ることを 指示した。また、政府は 2013 年 8 月に政府首相決定第 1465 号 /QD-TTg「韓国雇用許可制 度に基づき韓国で就労する労働者に対する保証金制度の導入試行に関する決定」を公布し た。この決定により韓国での就労者は 1 億ドン(約 4,800 米ドル)を保証金として預けなけ ればならなくなった。ただし、就労者は社会政策銀行から同額の資金を借り入れることが できる。保証金は以下の場合には手数料を差し引いたうえで利子をつけて就労者に返済さ れる。すなわち、①派遣労働者が契約満了後帰国した場合、②契約期間中に死亡した場合、 ③不慮の事故等によってやむを得ず契約満了前に帰国した場合、および④韓国での就労を 中止した場合である。しかし、契約満了前に契約違反などで帰国した場合、就労期間中に 失踪した場合、契約満了後に帰国せずに不法就労した場合には、保証金は返済されず、損 害賠償に充てたり、各省・中央直轄市の雇用問題解決基金に納付される。社会政策銀行か ら借り入れている場合には同銀行に返済される。この制度は 2013 年 11 月 10 日から施行さ れ、12 月 2 日現在、109 人の派遣労働者が社会政策銀行に 109 億ドンの保証金を預託し、 うち 35 人はすでに韓国で就労している (http://baodientu.chinhphu.vn/Doi-song/NHCSXH-noi-ve-ky-quy-xuat-khau-lao-dong/187462.vgp、2014 年 1 月 28 日最終確認)。 こうしたベトナムの失踪対策の実施を受けて、2013 年 12 月 31 日にベトナムと韓国の間 で「ベトナム人労働者の送出および受入に関する覚書」を交換し、2014 年よりベトナムか らの労働者の新規受入を再開することとなった。また、2013 年 9 月 15 日にベトナムは韓 国にベトナム人労働者管理センターを設立し、韓国で働くベトナム人に対する各種情報提 供や相談の受付を行っている (http://baodientu.chinhphu.vn/Thi-truong/Mo-canh-cua-thi-truong-xuat-khau-lao-dong-moi/190018.vgp、2014 年 1 月 18 日最終確認)。
(2)保証金・斡旋料問題 仲介業者によって、労働者から不当に保証金や斡旋費用が徴収されている問題に対し て、2006 年の「契約による海外就労ベトナム人労働者法」第 23 条「労働者保証金」およ び労働傷病兵社会省通達第 21 号 /2013/TT-BLDTBXH「労働者と仲介業者間の派遣先と保 証金額上限に関する規定」によって、海外就労者の派遣先と職種ごとの保証金の上限が示 された。たとえば派遣先が台湾の場合、工場と建設現場での就労ならば 1,000 米ドル、家 事・介護職ならば 800 米ドルとされている。マレーシアで働く場合は職種を問わず上限は 300 米ドルである。日本で実習生となる場合は職種を問わず上限は 3,000 米ドルとなって いる。この上限を上回る保証金を海外就労者に預けさせることは違法である。 また、仲介業者に支払う海外就労の斡旋料と手数料については、労働傷病兵社会省およ び財政省合同通達第 16 号 /2007/TTLT-BLDTBXH-BTC「契約による海外就労ベトナム人労 働者派遣にかかる斡旋料および手数料に関する具体的規定」(2007 年 9 月 4 日)で定められ ており、労働傷病兵社会省決定第 61 号 /2008/QD-BLDTBXH「一部労働市場への労働者が 仲介業者へ支払う斡旋料目安に関する決定」(2008 年 8 月 12 日)で、派遣先と職種ごとの斡 旋料の上限が示されている。たとえば、台湾で工場や建設現場で就労する場合には 1,500 米ドル、家事・介護職の場合は 800 米ドル、マレーシアでの就労ならば男性は 300 米ドル、 女性は 250 米ドル、日本で就労する場合は職種を問わず 1,500 米ドルと上限が定められて いる。海外就労するベトナム人労働者が渡航前に用意すべき金額は、保証金、斡旋料、そ の他の手数料を合計すると、日本に行く場合には 5,000–10,000 米ドル、韓国の沿海漁業で 就労する場合は 1 万米ドル以上、韓国の他の職種なら 3,000–4,000 米ドル、台湾で就労す る場合は 5,000–7,000 米ドルと言われる(Tuoi Tre, 2013 年 2 月 19 日)。海外就労者の多くは渡 航に必要な資金を借金によって準備する。 ベトナム人労働者の失踪や保証金の問題は韓国だけでなく日本でも起きている。日本の 場合も、2000 年代初頭にベトナム人技能実習生の失踪率が高まった 11)ことから、送出機 関が海外就労者に対して高額な保証金を預託させたうえに自宅の土地の使用権証を担保と して提出させたことがある。厚生労働省が 2007 年 5 月 17 日に発表した「研修・技能実習 制度研究会中間報告」では、「送出し機関の多くが、失踪防止等を目的として、本人から 保証金(15 ∼ 30 万円と言われる)や違約金を徴収したり、身元保証人を求めたりしている」 とし「本人からの保証金等の徴収は、失踪防止の観点からは、一定の効果が認められるも のの、一方で、高額な保証金を払うために借金をしているケースもあり、本人が『できる だけ多く稼ぐ』ことを優先させ、研修中の残業(研修時間外の活動)や不法就労を助長して いる面がある」との認識を示している。第一東京弁護士会による「外国人研修生・技能実 習制度に対する意見書」(2007 年 3 月 10 日)も、この点を問題点の 1 つとして指摘している。 その結果、法務省入国管理局の「技能実習生の入国・在留管理に関する指針の概要」(2013 年 12 月改訂)では「送出し機関が技能実習生本人やその家族等から保証金を徴収するなど して金銭その他の財産を管理している場合には、その送出機関の技能実習生の受入は認め
られません」との指針を示している 12)。高額な保証金や斡旋料・手数料の負担がかえって 労働者の失踪を誘発している一面がある。 (3)台湾のケース 台湾はベトナムにとって重要な労働者の送出先である 13)。近年ではベトナムの海外就労 者の 3 割から 4 割程度が台湾に向かっている(Phan, 2013: 13)。ベトナムから台湾への労働 者送出が本格的に始まったのは 1999 年 11 月に労働者の送出に関して在台北ベトナム経済 文化事務所と在ハノイ台北経済文化事務所の間で協定が結ばれて以降である。それ以降、 2013 年までにベトナムから台湾へは累計で 35 万人以上が送り出されたが、そのうち約 70% は家事労働に就いており(Nguyen, Xuan Tao, 2013)、ベトナム農村部出身の女性が中心 である。しかし、1999 年から 2013 年 9 月までの間に台湾で就労するベトナム人労働者約 6 万 8,000 人が行方不明となり、台湾の行方不明外国人労働者の 42% を占めるような状況に なったため、2005 年にベトナム人の家事・家庭内介護職への受入が停止された。ただ、そ の後も他の職種での受け入れは続き、年間 2 万 5,000 人程度送り出されている。2005 年以 降は約 75% が製造業に就労し、残りの 25% は病院や介護施設などでの介護職などに就労 している。 台湾の統計資料(職業訓練局「産業及社福外籍労工人数按開放項目及国籍分」中華民国 102 年 12 月底、http://www.evta.gov.tw/home/index.asp よりダウンロード)によれば 2013 年末時点の外国 人労働者数はインドネシア人が 21 万 3,234 人、ベトナム人が 12 万 5,162 人、フィリピン人 が 8 万 9,024 人となっている。その内訳をみると、製造業分野ではベトナム人労働者がもっ とも多くて 10 万 4,590 人、次いでフィリピン人が 6 万 7,442 人、タイ人が 6 万 964 人、イ ンドネシア人が 4 万 5,919 人となっている。一方、家事および看護など社会福祉分野にお ける外国人労働者は、インドネシア人が 16 万 7,315 人と最も多く、フィリピン人(2 万 1,582 人)、ベトナム人(2 万 572 人)がこれに次ぐ。台湾で働くインドネシア人の 76.7% がこれら の分野である。しかし、家事および看護など社会福祉分野のなかの「施設内看護工」(介護 職)に限ればベトナム人が圧倒的に多く(8,487 人)、インドネシア人(2,226 人)、フィリピ ン人(1,068 人)を大きく引き離している。この分野で就労するインドネシア人のほとんど は「家庭内看護工」(介護職)(16 万 3,582 人)となっている。ベトナム人労働者の失踪問題 によって家事・家庭内看護職では受け入れられなくなったため、インドネシア人は家庭内 看護、ベトナム人は施設内看護 14)に分かれている。 4. 帰国後の再就職課題 海外就労者の帰国後の再就職に対するベトナム政府の関心が高まっている。帰国した海 外就労者に対しては、2006 年の「契約による海外就労ベトナム人労働者法」第 3 章第 4 項 「帰国後の労働者対策」の第 59 条「就労支援」と第 60 条「就労促進」において、労働傷 病兵社会省が責任をもって国内の求人情報を提供し、各企業に対して帰国海外就労者の雇 用あるいは再海外就労を促進するよう指導することになっている。また、国は帰国した海
外就労者の起業のための条件を整備して促進することや、労働者が困難な状況にある場合 には規定にそった優遇融資によって就労を支援することと謳っている。この法が制定され た背景には 2005 年に帰国海外就労者の再就職問題が顕在化したことがある。当時、Nguoi Lao Dong(2005 年 5 月 31 日)が「ホーチミン市およびそのほかの地域出身の帰国海外就労 者の 8 割が不安定な雇用あるいは失業状態にあり、わずか 2 割程度しか再就職できていな い」と伝えていた。 労働傷病兵社会省は 2010 年および 2011 年に台湾、マレーシア、日本、韓国での海外就 労の経験者を対象に調査を実施したが、それによれば帰国後約 1 か月以内に何かしらの職 に再就職できたものは 90.39% にのぼるが、調査時点で就労していた者のうち 57.3% は単 純作業に従事しているに過ぎなかった。海外就労前に農業に従事した者(調査対象全体の 57.48%)のうち帰国後に離農した割合は 18.4% にすぎなかった。また、もともと単純作業 に従事していた者(同 71%)のうち帰国後により専門的な業務に従事することができた割 合は 13.7% であった(http://baodientu.chinhphu.vn/Home/90-lao-dong-xuat-khau-co-tich-luy-khi-ve-nuoc/ 20127/142320.vgp、2014 年 1 月 30 日最終確認)。 2006 年に帰国者の就労支援に関する法律が制定されたこともあって 2005 年に比べて再 就職が順調に進んでいるとみられるものの、海外就労経験を活かした就職に成功している とは言いがたい。海外就労は必ずしもキャリア・アップにつながっておらず、海外で習得 した技能を国内で活かす環境が十分に整備されていない。 次節では海外就労者の主たる送出元であるゲアン省で筆者が 2010 年に実施した海外就 労経験者への調査結果を分析する。
Ⅱ 海外就労者の送出地・ゲアン省
1. 調査地の概要 ベトナム北中部の沿岸部に位置するゲアン省は、海外就労者の主要な送出元の 1 つと なっている。人口は国内の省のなかで 4 番目に多く約 310 万人で、そのうち労働力人口は 180 万人である。毎年約 3 万人が新たに労働市場に加わっている。しかし同省の失業率は 必ずしも高くなく、特に農村部では全国農村部の平均(2.35%)を下回る 1.97% である。一 方、2009 年の人口・住居センサスによれば、人口 1000 人あたり 46.4 人(女性のみでは 53.6 人) が流出しており、メコンデルタ地域のいくつかの省や、海外就労の多いタインホア省や ハーティン省などの近隣地域に次いで流出量が多い 15)。これは、ゲアン省で農業従事者の 割合が高いことに起因すると考えられる。つまり、表面上は農業などに就業しているもの の実際には偽装失業とみなすべき余剰労働力が存在することを示している。ゲアン省の産 業別就業人口をみると、農林水産業が 66.2% と大半を占めている。工業・建設業はわずか に 14.3% で、サービス産業も 19.5% と少ない。新規に労働市場に参入する労働力を吸収する産業が十分に育っていない。そのため海外への就労を促進するか、工業化が進むホーチ ミン市などの南部経済圏あるいはハノイなどの北部経済圏への出稼ぎを促進することにな る。2009 年にゲアン省で新規に就労した 3 万 3,700 人のうち 8,825 人が海外で就労し、1 万 人余りが北部や南部の工業地帯で就労したとの報告がある(ゲアン省「2009 年の労働者の海 外送出実施結果および 2010 年の任務」)。ゲアン省が海外就労を積極的に支援し、年間約 30 億 ドンの予算を海外就労希望者に対して貸し付けるなどした効果が現れたと言える。 ゲアン省のもとには 20 の市と県があるが、そのすべてに「海外就労指導委員会」が設 立されている。この委員会は地域自治体および団体に対する労働者と専門家の海外送出に 関する指導と監督を行う。各地の人民委員会は海外就労計画を作成し、省から県、社(コ ミューン)のレベルに至るまで「海外就労指導委員会」を設立して、海外就労推進体制の 確立と事業監査を実施し、定期的な概要報告および総括を行うことになっている。党中央 からは社や坊(集落)のレベルで海外就労の成功モデルを確立し、地域の貧困削減に寄与 すべきだとの指示がなされており(Nguyen, Thi Hang, 2003: 45)、ゲアン省はこれを忠実に実 行している。 ゲアン省には海外就労の仲介業者が 28 社あり、各級行政と連携して海外就労を支援し ている。省内には末端行政単位として 320 の市、区、社があるが、それらで送り出される 労働者の選抜が行われている。ゲアン省の海外就労者の主要な送出先国・地域は台湾とマ レーシアで、全体の 3 割から 4 割を占めている(表 3)。 2014 年現在海外で就労しているゲアン省出身の労働者は 4 万 5,000 人余りである。海外 就労者から家族等への送金は 2009 年には約 8,500 万ドルにのぼる 16)。この額は、省政府の 歳入の約半分に相当する。労働者が直接現金を持ち帰ったり、知人などを通じた送金も含 めると実際の送金額はさらに多いとみられる。 2. ナムダン県での海外就労経験者調査 ナムダン(Nam Dan)県はゲアン省のなかでも海外就労者が多い地域で、2006 年以降毎 年 1,000 人前後の労働者が海外で就労している。ナムダン県は、ゲアン省の省都ヴィン市 (TP.Vinh)の東 21 km に位置し、国道 15 号線および国道 46 号線が県内を通過している。県 の面積は約 300 km2で、48% が農業用地となっている。人口は 15 万人で、労働力人口は 8 万 6,765 人である。このうち農業従事者は 6 万人余りで約 7 割を占めている。 2008 年の統計によればナムダン県からの海外就労者は 1,112 人で、うち男性が 869 人で、 表 3 ゲアン省の労働者海外送出実績 (人) 台湾 マレーシア 韓国 中東 その他 2008 年 2,632 2,046 451 1,876 4,306 2009 年 1,665 1,144 775 880 4,361 (出所)ゲアン省「2008 年海外送出結果報告書」および「2009 年の労働者の海外送出実施結 果および 2010 年の任務」より筆者作成。
女性の 243 人を大きく上回っている。ナムダン県からの送出先は台湾が 496 人、次いでマ レーシアが 138 人、韓国が 84 人、中東諸国が 69 人となっている。また、海外就労者のう ち政策的支援対象者や功労者世帯員が 88 人、貧困家庭出身者は 101 人だった(ゲアン省労 働傷病兵社会局「2008 年海外送出報告」資料)。 (1)就労先・業種別特徴 筆者はナムダン県の 2 つの社において 2010 年 3 月 1 日∼ 16 日の期間に、帰国後 3 年以内 の海外就労経験者を対象としたアンケート調査を実施した。両集落で 93 人から回答を得 た(うち A 社は 50 人、B 社は 43 人)。93 人の就労先はマレーシアがもっとも多くて 43 人、 次いで台湾が 36 人、韓国が 10 人、中東諸国が数名であった(表 4)。この分布は表 3 でみ たゲアン省全体の傾向と同じである。海外で就労した職種は、マレーシアで就労した人々 では工場勤務が大半を占めた。台湾では家事・介護職のほか、漁業に就労していた人も多 かった。韓国では工員、建設業、漁業に就労していた。また、台湾に行った人々はマレー シアや韓国に行った人々に比べて出国時の平均年齢が高かった(A 社の平均年齢は 32.75 歳)。 マレーシアや韓国で就労した労働者は大半が男性で、平均年齢は 28.9 歳だった。 海外就労者の学歴をみると、すべてが 9 年ないし 12 年の教育を修了している。韓国の 場合には 12 年の教育課程を修了していることが就労の条件であるため全員が 12 年以上と なっている。海外の就労先での収入を比べると、マレーシアが最も低く、同じ工員でも韓 国の 3 分の 1 程度である。台湾における収入はそれほど高くないものの、A 社には 6 年間 の就労で 4 億ドン(2010 年の為替レートで約 2 万米ドル)を貯蓄した人もいた。総じてみれば、 韓国では収入が高く、貯蓄も可能であるが、台湾に就労した場合でも貯蓄できた人が多い。 N 図 1 調査地ゲアン省ナムダン県
一方、マレーシアに就労した人の場合、4 年間働いても貯蓄ができず、結局渡航するのに 費やした費用を回収することができなかったケースもあった(表 4)。 (2)海外就労前後の所得の変化 調査対象となった海外就労経験者の 9 割余りはそれ以前には農業に従事しており、現金 収入はわずかであった。帰国後も農業に従事するものがほとんどで、韓国から帰国した者 のなかには農業にも従事せずに求職中との回答もあった。また、帰国後は安定した職に就 くことができず、海外就労以前の 75% 程度しか収入がないといった回答もあった。 ただ、台湾からの帰国者の多くは派遣前より帰国後の方が収入が増えている。特に A 社 から台湾に就労した者は、派遣前には収入がなかったものが多く、帰国後に大幅な収入増 加を遂げている点が興味深い。A 社から台湾へ就労している者の多くは家事・介護職であ る。また、平均年齢も 32.75 歳と高い。この職に就くのは女性であり、派遣前には家事お よび農業を手伝っていたと推察できる。そのため、実質的な現金収入はなかったが、帰国 後に農業以外の副収入が得られるようになったとみられる。 以上のように、海外就労経験者の再就職は難しく、海外で得ていた収入を帰国後に維持 表 4 ゲアン省ナムダン県 A 社および B 社アンケート結果 就労先国 台湾 マレーシア 韓国 その他 (上段 A 社) (N=13) (N=31) (N=4) (N=2) (下段 B 社) (N=23) (N=12) (N=6) (N=2) 出国時年齢(才) 32.75(4.6) 27.55(5.4) 30(4.4) 26(1.4) 25.3(6.8) 25(5.5) 25.8(8.0) 20(n.a.) 性別(男:女) 3:10 12:18 *nd=1 3:1 1:1 19:3 *n.d.=1 11:1 6:0 2:0 修学年数(単位:年) 10.07 9.06 12 12 9.0 8.1 9.8 9 海外就労年数(単位:年) 3.65 3.98 7.25 2.4 3.86 3.37 4.8 3 海外就労時の月収 (単位:千ドン) 4050(2045.6)4461(2368.4) 2219(747.6)2850(1274.6) 7450(4886.4)8666(8712.2) 5750(6010.4)6000(n.a.) 平均貯蓄額 (単位:百万ドン) 110.5(111.4)79.5(60.1) 41.1(29.6)65.88(63.0) 482.5(179.5)158(29.3) 60(42.4)50(n.a.) 職業 工員 3 29 3 1 0 8 0 0 建設 0 2 1 0 0 4 1 1 家事・介護 10 0 0 0 3 0 0 0 漁業 0 0 0 0 20 0 5 0 その他 0 0 0 1 0 0 0 1 (注 1)表内の“n.a”は計算できないこと、n.d はデータの欠落を表す。 (注 2)表のカッコ内は標準偏差
するのはさらに困難である。特に、韓国からの帰国者の多くは韓国で工場や建設業など農 業以外に就労していたので、帰国後に韓国と同様の職に就くことは稀である。 調査地のナムダン県 A 社と B 社にはいずれも「海外就労センター」があり、海外就労や 手続きに関する情報を労働者に提供し、海外就労を推進している。しかし、就労先として もっとも多いマレーシアからの帰国者からの回答をみると、マレーシアでの就労が必ずし も家族の生計を向上させたとはいえないことがわかる。韓国で就労した人は現地での収入 が多く、貯蓄額も多く、就労期間が長い(A 社では 7.25 年、B 社では 4.8 年)のが特徴的であ る 17)。台湾は韓国とマレーシアの中間で、A 社では大半が女性の家事あるいは介護職、B 社では大半が男性の漁業従事者といった違いがあるものの、収入と貯蓄の点で韓国とマ レーシアの中間である。
Ⅲ ベトナムの医療従事者を取り巻く環境
1. ベトナムの保健医療環境 本稿冒頭でふれたように、今後ベトナムから日本に看護師・介護福祉士候補者が送り出 されてくる。本節では彼らが送り出されてくる背景をみるためにベトナムの医療従事者が どのような状況にあるのかを検討する。 2013 年 11 月 1 日にベトナムの人口は 9,000 万人に達した。この人口規模は ASEAN10 か 国のなかでインドネシア、フィリピンに次ぐ。ベトナムの人口増加率は 2011 年に 1.04% で、 合計特殊出生率は 2.0 をわずかに下回る 1.99 となっている。65 歳以上人口は全人口の 7% を占めている。世界保健機構(WHO)などの推計では 2050 年には 65 歳以上人口が全体の 18% を占めると予測されており、高齢者介護への関心も都市部を中心に高まりつつあ る 18)。国際連合によって 1999 年に制定された国際高齢者年を契機として、ベトナムでも 2002 年に「高齢者法」(政府議定第 30 号 /2002/ND-CP)が制定された。 ベトナムには各地域で医療サービスを提供する保健所(Tram Y te)が存在する。最小行 政単位である社(農村部)に保健所が 1 万 1,020 か所あり、民間や企業内に併設されたその ほかの保健施設が 710 か所ある。保健所には医師あるいは補助医師 19)と初級から短大・専 門学校卒レベルの看護師が配置されており、集落内の医療に対応しているが、必ずしも十 分とは言えない。その上級施設として、市町あるいは省の中央総合病院がある。しかし、 これらの施設においても十分な医療サービスが提供されていると言えず、近隣の大都市 (ハノイ市、ホーチミン市、ダナン市、フエ市など)へ、患者を搬送しなければならないことも 多く、診察や治療のために患者が集中しているのが現実である。たとえば、ホーチミン市 内の中央病院 A では、病床は 1,400 床であるところ、病床利用率は 139% で、外来患者が 毎日 5,000 人ある。また、報道でも「省や市の中央病院では 1 つのベッドを 2 人から 3 人 の患者で共用しなければならないほど混雑している。たとえば、K 中央病院の病床利用率は 170% 超、バックマイ病院でも 168%、チョーライ病院は 139% などとなっている。さら に専門科に至っては、K 中央病院の総合手術科で 341%、同病院胸部手術科で 326%、放射 線科で 282% となっている。また、診察のため朝 5 時から並んで 11 時になっても順番がま わってこない」と伝えている(Sai Gon Giai Phong, 2012 年 4 月 19 日)。
2. 医療従事者の配置 ベトナムの人口 1 万人に対する医師(歯科医師を含む)の数は 7.33 人、看護師は 10.02 人 となっている 20)。医師も少ないが、看護師の不足はさらに深刻である。図 2 は、人口と医 師・看護師の分布を示している。人口が集中する北部ハノイ市や南部ホーチミン市を中心 に医師および看護師、特に学士の看護師が集中していることが見てとれる。ホーチミン市 に至っては、学士の看護師だけでなく短大・専門学校卒や初級看護師も一極集中してい る。一方、北部山間部や中部全域の医師および学士の看護師の不足は顕著である。 現場での看護師の不足は明らかで、日勤の看護師 1 人が担当する患者数は 10 人から 15 人、夜勤の場合 30 人から 40 人にものぼる。そのため、実際には患者に家族などの付き添 (注)この図は中央政府所属の病院の医師・看護師を除く各省・市その他に属する医師・看護師の分布 を示している。中央政府所属の病院数は全国に 46 施設あり、医師は 6,157 人、看護師は学士・短 大・専門学校・初級を含めて 9,166 人いる。これら中央政府所属の病院は主として都市部(ハノ イ市やホーチミン市など)にある。
(出所)Statistical Yearbook of Vietnam 2011, Statistical Publishing House より筆者作成。 図 2 ベトナムの人口と医師・看護師の地域分布(2011 年)
いが不可欠である 21)。図 3 は医療従事者数の変化であるが、医師および学士看護師の増加 に比べ、短大および専門学校卒の看護師数は急である。これは 2007 年頃からの専門学校 での看護師育成コース(2 年間)の急増によるものと考えられる。看護学生の急増に対して、 看護教育者の供給が追いつかず 22)、その結果看護学生が十分な訓練を受けられない現実が ある。そのため医療機関は、短期間で養成された専門学校卒の看護学生を採用しない傾向 にある。たとえば、ホーチミン市には 27 の医薬系大学・短大・専門学校(うち 5 校が公立) があり、それらで学ぶ看護学生は 3,530 人であるが、その大半を占める私学の卒業生の 40~50% 程度しか看護師の仕事に就けない。たとえば、ホーチミン市では、2013 年に Phuong Nam 専門学校が看護学生として 800 人の昼間生と 200 人の夜間生を募集し、Hong Duc 医薬専門学校でも 450 人、Quang Trung 専門学校でも 350 人募集しており、看護師がや や粗製濫造されているきらいがある (http://petrotimes.vn/news/vn/xa-hoi/nghich-ly-thua-thieu-cac-dieu-du%E1%BB%A1ng-vien-cham-soc-suc-khoe.html、2013 年 12 月 13 日確認)。このような専門学 校での看護学生の急増の結果、短大・専門学校卒の看護師数も増えている。いずれにせよ、 現場では看護師の不足は明らかで、早急な看護教育者の育成と短期大学あるいは学士の看 護師の養成が現場では求められている。 (注)看護師(初級)、助産師(初級)とは、補助医師同様に、特に地方僻地などにおいて 6 か月間程 度の教育を受けることで修了証を取得できることになっている。
(出所)Statistical Yearbook of Vietnam 2011, Statistical Publishing House より筆者作成。 図 3 ベトナムの医療従事者数
Ⅳ 日越 EPA による看護師・介護福祉士候補者の受け入れ
1. 受け入れの枠組 日越 EPA の取り決めに基づき、日本での「看護師および介護福祉士候補者」受け入れの 枠組が決まり、2012 年 9 月にベトナムで候補者の募集が始まった。同制度を所管する DOLAB は、交換公文締結前の段階で、遠隔地域の労働者に対して研修費用などを優遇す る考えを示した。また、日本でベトナム人技能実習生が 2011 年の東日本大震災後もベト ナムに帰国しなかったので日本企業から高く評価されていると指摘し、ベトナム人労働者 の日本でのさらなる活躍と看護師・介護福祉士候補者の派遣への期待を表明している(Tin Tuc, 2011 年 11 月 21 日)。 同じ制度で先行して来日したインドネシア人とフィリピン人の看護師国家資格試験の合 格率が低いことから 23)、ベトナム人候補者に対しては 12 か月の訪日前日本語研修が用意 されている 24)。そして、12 か月間の日本語研修中もしくは研修終了後に日本語検定試験の N3 レベルを取得することが日本に行く条件となっている。この 12 か月間は、食費と住居 費、生活費が候補者全員に支給される。また応募の条件として、35 歳以下の健康な男女で あること、看護師候補者は大学(4 年制)あるいは短期大学(3 年制)において看護教育を 修了し、少なくとも 2 年間の看護実務経験を有し、ベトナム政府より看護師業証明書 25)を 受けられる者であることが求められている(表 5)。介護福祉士候補者は、実務経験と看護 師業証明書が不要なので新卒者の応募も可能と考えられる。 第 1 陣の募集は 2012 年 8 月に始まった。応募期間は約 2 週間で、書類選考および筆記試 験などにより 150 人(看護師候補者 25 人と介護福祉士候補者 125 人)が選ばれた。筆者の第 1 陣候補者数名からの聞き取りでは、いずれも家族・知人から同制度について知らされて応 募したとのことである 26)。 2. 看護師・介護福祉士候補者 ベトナムからの看護師・介護福祉士候補者の第 1 陣は 2014 年 6 月に来日する予定であ る。第 2 陣の募集と選考もすでに終わり、2013 年末に研修が始まっている。看護師・介護 福祉士候補者の送出を所管するベトナムの DOLAB の公開情報 27)によれば第 2 陣の応募者 の属性は次の通りである。 第 2 陣の書類受付は 2013 年 9 月に始まり、受付期間は 30 日間だった。書類選考にパス したのは看護師候補者が 61 人、介護福祉士候補者が 480 人である。その後、筆記試験と 面接試験を経て、日本語事前研修受講者が決定された。第 2 陣の定員は 180 名であったが、 最終的に看護師候補者 30 人、介護福祉士候補者 165 人が選抜された。看護師候補者に選 抜された者の男女比は 1 対 1.3、介護福祉士候補者は 1 対 4.5 だった。最終選考通過者の平 均年齢は看護師候補者が 25.1 歳、介護福祉士候補者が 22.3 歳であった。実務経験 2 年以上が応募条件となっている看護師候補者の方が 3 歳ほど平均年齢が高くなっている。 出身地別にみると、ハノイを中心とする紅河デルタ部とダナン市を中心とする北中部沿 岸部の出身者で大半が占められている(表 6)。看護師候補者の書類選考をパスした者をみ ると、北中部沿岸部のタインホア省が 8 人で最も多く、次いでゲアン省の 7 人となってい る。介護福祉士候補者ではハノイ市が 68 人で最も多く、次いでゲアン省が 50 人、北部山 間部のバックザン省が 49 人、タインホア省が 48 人となっていた。看護師候補者、介護福 祉士候補者のいずれも海外就労者が多いゲアン省とタインホア省の出身者が多いことが特 徴的である。最終選考でも看護師候補者にゲアン省とタインホア省から 3 人ずつ合格して いる 28)。介護福祉士候補者では、ハノイ市出身者が最多で 26 人、次いでタインホア省が 16 人、バックザン省が 15 人で、南部からの合格者はわずかしかいなかった。 第 2 陣の書類選考通過者および事前研修選抜者の情報から、ハノイ市やホーチミン市の 都市部からの応募が多数あったこと、なかでも介護福祉士候補へのハノイ市出身者の応募 が最多であったことがわかる。これは公募や介護福祉士についての情報へのアクセスで有 利だったからかもしれない。ゲアン省やタインホア省などもともと海外就労が盛んな地域 からの応募が多いことはこうした地域での海外送出圧力の高さを伺わせる。他方、南部地 表 5 日越 EPA によるベトナム人看護師・介護福祉士候補者の待遇 受入職種 看護師候補者 介護福祉士候補者 受入調整機関 国際厚生事業団 定員 150 人(第 1 陣) 応募条件・待遇 年齢 35 歳以下 学歴 看護系大学(4 年)・短大(3 年) 実務経験 2 年以上(9 か月間の実習期間を含む) 不要 事前研修制度 左同 事前研修内容 日本語学習 事前研修期間 12 か月間 研修期間待遇 学費・居住費・食費免除+生活費補助(不明) 派遣条件 日本語能力試験 N3 派遣後の待遇 派遣後研修期間 2–3 か月間(日本語等) 研修期間待遇 研修費用・住居費・食費等免除 就労・研修 各派遣先病院にて看護研修業務 各派遣先高齢者介護施設にて介護福祉 士研修業務 就労・研修期間待遇 13–14 万円 / 月 * 税金・生活費等自己負担 14–15 万円 / 月* 税金・生活費等自己負担 契約更新 1 年毎更新(最大 3 年) 1 年毎更新(最大 4 年) 国家資格取得後在留延長可能
(出所)ベトナム労働傷病兵社会省海外就労管理局資料 Chuong Trinh Dua Ung Vien Dieu Duong, Ho Ly Sang Lam Viec Tai Nhat Ban(日本で勤務する看護師、介護福祉士候補生送出計画)募集パンフレット、 http://vnexpress.net/tin-tuc/thoi-su/lao-dong-vn-co-the-nhan-luong-50-trieu-dong-o-duc-2411024.html)、 厚生労働省「ベトナム人看護師・介護福祉士候補者の受け入れについて」(2014 年 1 月 30 日最 終確認、http://www.mhlw.go.jp/bunya/koyou/other47/)から筆者作成。
域からの選抜者が少ないのは情報が浸透していないことに加えて、北中部地域に比べて多 様な就労機会があるからだと考えられる。専門学校卒レベルの看護師の就職は容易ではな いものの、図 2 からもわかるように南部での医療従事者数は多く、特に短大卒・学士レベ ルの看護師への需要は高い。だから、必ずしも海外に職を求める必要性はないということ かもしれない。 今後、日本だけでなくドイツや他の ASEAN 諸国でも看護師や介護職に対する需要が増 えるだろうから、さまざまな学歴や技能レベルのベトナム人が海外で就労できる可能性が 広がる。海外就労の増加によって送出元への外貨と技術の還元も期待できる。しかし、国 内の医療現場ではスタッフの不足と偏在は顕著で、特に高学歴の看護師の育成は喫緊の課 題である。看護師・介護福祉士候補の海外流出は国内の医療環境をさらに悪化させること につながるのではないかと危惧する。
おわりに
ベトナムは、フィリピンやインドネシアと比較すれば、それほど多くの労働者を海外へ 送り出してはいない。しかし、韓国や日本、台湾などではベトナムからの就労者がフィリ ピンやインドネシアと競合するほど増えている。さらに、日越 EPA によって、インドネシ アとフィリピンに次いでベトナム人の看護師・介護福祉士候補を日本に受け入れることに なった。本稿では、ベトナム人の海外就労の現状と送出地域の状況、保健医療環境と今後 日本に向けて送り出されるベトナム人看護師・介護福祉士候補について考察した。これま での議論をまとめると以下の 3 点が重要であると思われる。 第 1 に、ベトナムで海外就労する労働者全般およびこのたび日本に向けて送り出される 看護師・介護福祉士のいずれにおいても、送出元として北中部沿岸部のゲアン省やタイン ホア省が重要である。海外で働くベトナム人から出身地への外貨送金は農村地域の経済を 支えている。農村から一般労働者に加えて高学歴労働者として看護師が送り出される仕組 みができたことは、ベトナム農村地域の雇用確保の観点から重要な意味をもつものと考え 表 6 看護師・介護福祉士候補者第 2 陣の地域別の合格者数 (人) 看護師: 書類選考通過者 看護師:最終合格者 介護福祉士:書類選考通過者 介護福祉士:最終合格者 紅河デルタ部 19 11 196 79 北部中山間部 10 3 86 25 北中部沿岸部 22 10 171 55 中部高原部 0 0 11 4 東南部 7 5 11 0 メコンデルタ部 3 1 5 2 (出所)DOLAB 資料より筆者作成。られる。特に、日本とドイツに看護師・介護福祉士候補として赴く場合、一般の海外就労 者のような保証金や斡旋費用などが不要なので農村部に住む家族にとって負担が軽い。 ただし、先に来日したインドネシア人やフィリピン人の国家試験合格率が低いことか ら、ベトナム人候補者も半数以上は看護師・介護福祉士の国家試験に合格せず、最大 3 年 から 4 年の就労期間を終えて帰国することが予測される。しかし、それでもその間に得ら れる収入は技能実習生と同等ないしそれ以上なので、地元への送金も期待できる。 第 2 に、海外就労者の再就職や海外での経験を生かしたステップアップは容易ではない。 海外で経験を積んだ高学歴の看護師に対する需要が高いことは、ベトナムの医療・看護の 水準からみて十分に考えられるが、就労環境の違いを乗り越えて海外で得た技術や知識を 国内の医療介護施設で活かすことができるかが課題となる。日本に向かう介護福祉士候補 者は看護師候補者の 5 倍もいる。しかし、ベトナムでは高齢者法が制定されるなど高齢者 介護への関心が一部で高まりつつあるものの、なお高齢者介護に対する認識が広まってい るとは言い難く、高齢者介護施設も少ない。そのため、介護福祉士候補者が日本から帰国 した後に技能を活かせる場が現時点では限られている。ドイツや日本で習得した看護や介 護技術の国内移転という観点から、海外で看護や介護を経験した者が活躍できる環境を整 える必要がある。 第 3 に、ゲアン省での調査からみて、台湾での就労は保証金や斡旋料などの渡航前費用 が比較的少なく、学歴に対する要求も高くない。台湾の施設内介護職に多くのベトナム人 労働者が就労しており、日本への介護福祉士候補の送出が始まることとも相まって、今後 介護という職業がベトナムで確立することにつながることが期待される。そのことは雇用 機会の創出にもなり、国内外への就労機会を増加させることにもつながる。 台湾で介護職として就労する人々と、ドイツと日本へ送り出される看護師とでは学歴に 差がある。しかし、台湾の高齢者介護施設でベトナム人労働者が従事する仕事と、日本の 高齢者介護施設での仕事には大きな差異はない。ドイツや日本で実習をしたベトナム人看 護師が仮に国家試験に不合格となったとしても、台湾などで同じ職業に就くことも考えら れる。また、台湾で実務経験を積んだベトナム人労働者に対して日本で介護福祉士の国家 試験受験の機会を与えることも検討する価値はある。 ベトナムの海外就労は送出元における就業の促進などの効果がある一方で、就労先国で の労働者の失踪や高額の保証金・斡旋料といった問題も起きている。日本への看護師・介 護福祉士候補の送出が始まり、ベトナム側の期待も大きいが、それがベトナム国内の医療 現場にいかなる影響を与えるのか、海外就労する労働者の出身地にはどのような影響があ るのかにも注意する必要がある。 (付記)本稿の内容はすべて執筆者自身の観点に基づく私見であり、執筆者が所属する機関の 意見を何ら代表するものではない。
(注) 1) 「看護師及び介護福祉士の入国及び一時的な滞在に関する日本国政府とベトナム社会主義共和国との間 の交換公文」(2012 年 4 月 18 日)による。なお、同書簡Ⅱでは「ベトナムにおいて看護師若しくは介護 福祉士としてのサービスの提供又はこれに関連する活動に従事する日本国の自然人の入国及び一時的な 滞在」に関する取り決めもなされている。 2) ドイツが看護師をヨーロッパ諸国外から受け入れるのはベトナムが最初となる。日本との違いは、ベ トナムでの語学研修期間が短い(5 か月間)こと、訪独した後に 2 年間の専門教育を受ける機会が与えら れること、その後国家試験に合格すれば、さらに 3 年間の雇用契約を結び、ドイツにおいて就労が可能 となることである。そして 3 年間の雇用契約満了後は帰国することも新たに雇用契約を更新することも 可能となっている。 3) 日本における「介護福祉士」は「社会福祉士及び介護福祉士法」第 2 条第 2 項において「身体上又は 精神上の障害があることにより日常生活を営むのに支障がある者につき心身の状況に応じた介護を行い、 並びにその者及びその介護者に対して介護に関する指導を行うことを業とする者をいう」と規定されて いる。一方、ベトナムには「介護福祉士」という職業は存在しないので、ベトナムで介護福祉士候補者 を募集する際には、ベトナム語で “Ho ly” と表現されている。”Ho ly” を直訳すれば「補助員」となる。 保健省通達第 7 号 /2011/TT-BYT「医療施設における看護に関する看護業務ガイドライン」(2011 年 1 月 26 日)第 22 条「補助員の看護補助業務」において、「実務において、看護通常業務のために医療施設は 補助員に看護補助を指示する」、また「保健省大臣が公布した補助員教育課程の修了証を習得し、看護師 および助産師の専門業務を行うことはできない」とあり、看護師の指示のもとで病室や手術室、浴室な どの病院内の清掃、整理整頓のほか、看護師の看護補助全般、患者の移動、医療機器等の修理を担うこ とになっている(http://www.dieutri.vn/quyche/23-9-2012/S2481/Ho-ly-chung-nhiem-vu-quyen-han.htm 2013 年 1 月 4 日確認)。また、その資格取得には、中学校(9 年生)卒業後に 6 か月間(435 時間)の教育を受 けることが必要である(http://nurse.com.vn/noi-dung-dao-tao-dieu-duong-ho-ly/?lang=ja 2014 年 1 月 31 日確 認)。つまり ”Ho ly” いう言葉は必ずしも日本語の「介護福祉士」には対応していない。また上記「医療 施設における看護に関する看護業務ガイドライン」通達 7 号第 17 条の「看護能力」2 項で「医療施設は、 適した専門性を有する看護師および保健師のクラス分けをし、施設の差別化を図ること。政府が 2006 年 12 月 8 日に ASEAN 各国と締結した看護サービスに関する協定にそって、短期大学および大学レベルの 看護師、保健師の割合を確保すること」となっており、同ガイドラインにおいて、ASEAN 経済統合の際 の「熟練労働者の自由な移動」を念頭に入れているものとなっている。そのため、医療サービスは優先 的分野に含まれており、熟練労働者の移動促進のために 2015 年までに必要な技能のコアコンピテンスを 開発することになっている(Association of Southeast Asian Nations, Roadmap for an ASEAN Community 2009-2015,26-30、2013 年 12 月 20 日、http://www.asean.org/resources/publications/asean-publications/item/roadmap-for-an-asean-community-2009-2015 よりダウンロード)。 4) インドネシアやフィリピンからの看護師・介護福祉士候補者の受入と送出に関する研究は進んでいる。 たとえば、インドネシアの医療人材の送り出しの背景と日本・インドネシア間での同制度の成立過程、 来日したインドネシア人候補者の実態を分析したもの(奧島、2010)や労働力の海外送出先進国である フィリピンについて、日・フィリピン EPA の枠組みに加え日本の介護職に就く多様なフィリピン人につ いて論じているもの(カルロス、2010)、来日後のインドネシア人看護師候補者の日本語学習と国家試験 への取り組みに関する研究(Setyowatiet als., 2012)などがある。また Ohno(2012)は域内の労働力移動 のなかでの EPA による医療人材の送出と受入について概観し、インドネシアとフィリピンの送り出し側 の背景と受入国である日本で候補者が直面している諸問題について包括的に分析している。 5) 制度移行期の研究として小高(2001)がある。 6) 海外就労の発展と同時に、海外就労に関する法の整備が行われており、多数の法令や規定が公布され ている。1994 年には労働法の一部を改正され、1999 年に「有期海外就労ベトナム人労働者及び専門家に 関する規定」政府議定第 152 号 /1999/ND-CP(1999 年 9 月 20 日)が公布された。その後、2006 年には「契 約による海外就労ベトナム人労働者法」第 72 号 /2006/QH11 の制定に至った。同法の内容については石塚 (2012)が詳しい。
7) “2008–2010 Overseas Employment Statistics”, 2014 年 2 月 1 日最終確認、http://www.poea.gov.ph よりダウン ロード。 8) 2014 年 2 月 1 日最終確認、http://www.bnp2tki.go.id/statistik-penempatan/6756-penempatan-per-tahun-per-negara- 2006-2012.html。 9) 海外就労仲介業者は 1992 年には 37 社だったので 12 年の間に約 5 倍に増えている(石塚、2012: 10)。 10) DOLAB「営業停止処分企業」(http://www.dolab.gov.vn/BU/Index.aspx?type=dgdh&LIST_ID=1144&MENU_ ID=246&DOC_ID=1561)、および「再申請・認可取り消し企業」(http://www.dolab.gov.vn/BU/Index.aspx? type=nlth&LIST_ID=1145&MENU_ID=246&DOC_ID=1561)ともに 2014 年 2 月 1 日最終確認)。
11) ベトナム人技能実習生のうち 2 号申請者数に対する失踪者数の割合は 2002 年に 33.6%、2003 年には 31%、ベトナム人実習生全体に対する割合は 2002 年 6%、2003 年 5.7% であった。ちなみに、「2 号申請者」 とは技能習得を主とする 1 年間の実習を終え、就労を主とする 2 ∼ 3 年目の実習への移行を申請したもの を指す。 12) 日本におけるベトナム人労働者(研修・技能実習生)に関して分析したものに Niimi(2011)がある。 13) 「在台湾ベトナム就労管理委員会は、台湾は外国人労働者受入政策を修正し、さらなる外国人労働者の 受入業種と工場労働者枠の拡大を実施しようとしており、ベトナム人労働者に対しても、家事労働職の 再受入を検討しているとの情報を伝えている。また労働傷病兵社会省海外就労管理局の Nguyen Ngoc Quynh 局長も台湾の労働市場はベトナム人労働者にとって重要な市場であり、2014 年には 4 万 5,000 人か ら 5 万人を送り出すことを目指すとしている」、さらに、「サウジアラビアも外国人労働者受入を拡大す るとのことで、ベトナムとの間で労働協力に関する覚書を結んでおり、われわれも 2014 年は中東諸国へ の送出を積極的に進めたい」としている(Dau Tu, 2014 年 1 月 20 日)。 14) 台中市にある高齢者介護施設の管理者によれば、台湾人介護職員の雇用は困難であり、インドネシア 人とベトナム人職員を雇用している、インドネシア人職員もベトナム人職員もともに入所者からの評価 は高い、とのことであった(2011 年 3 月 8 日、筆者ヒアリングによる)。 15) 失業率は 15 才以上人口から確定できない人数を減じたもので失業者数を除したものから算出した。 『2009 年ベトナム人口住居センサス』(Tong Dieu Tra Dan So va Nha O Viet Nam Nam 2009, ハノイ、2010 年)
に基づく。 16) ゲアン省でも仲介業者が海外就労の希望者から違法な仲介料を徴収したり、観光ビザで就労者を派遣 したり、就労希望者がだまされる事件や、海外就労者が派遣先で失踪するなど多くの問題が発生してい る。1999 年から 2004 年までの失踪者数はハイズオン省(986 人)、ハーティン省(756 人)に次いでゲア ン省は 3 番目(673 人)に多い(労働傷病兵社会省海外就労管理局公報第 2983 号 /LDTBXH-QLLDNN、 2004 年 8 月 27 日)。 17) ゲアン省は、2012 年第 4 四半期において韓国での就労者の失踪率が高い 11 地域の 1 つとして公表され ている(Dao, 2013)。 18) 2013 年 8 月 6 日にホーチミン市開発研究所主催の「ホーチミン市における高齢者介護の実態と対策」 と題するセミナーが開催された。また、ハノイでも 2013 年 10 月 26 日に「ベトナム高齢者に関する国家 委員会」と「国際看護師センター」が「ドイツおよび台湾でのベトナム人看護師の研修と就労」と題す るセミナーを開催している。このセミナーでは高齢者介護の専門家やドイツや台湾への看護師(介護職 員)送出実務者、そのほか学生やその父兄などが参加した。特にベトナムから台湾への研修生や介護職 分野への送出は 15 年の経験があり、月収も 650 米ドル程度になることから、台湾で介護分野に関して学 び、就労することはベトナムにとって先行投資となるとしている。 19) 補助医師(Y si)は、専門学校などで 1 年程度の初歩的な医療教育を受けて、医師の補助的な役割を医 療機関において担っている。 20) 日本の場合、2012 年末時点で人口 1 万人に対して医師は 23.8 人、看護師および准看護師は 53.9 人であ る(厚生労働省「平成 24 年医師・歯科医師・薬剤師調査の概況」、「平成 24 年衛生行政報告例(就業医 療関係者)の概況」より筆者算出)。 21) Tin Tuc 紙上においてベトナムの看護師について「看護師不足、患者にしわ寄せ」と題した特集記事が 3 回にわたって掲載された(2012 年 11 月 11 日、11 月 12 日、11 月 14 日)。その第 1 回目の記事で、「患者 の看護は医療機関の役目であるが、人材不足、特に看護師が不足しているために看護は患者の家族に任 せているのが現実である」として「小児中央病院内科及び新生児リハビリテーション科において、看護 師 1 人が日勤では 10 人から 15 人、夜勤では 30 人から 40 人を担当しなければならない」事例を挙げてい る。 22) 上記の第 2 回目の記事(2012 年 11 月 12 日)では看護教育に携わる約 7 割が看護教育が専門でない医師 であり、看護教育人材が不足していることを指摘している。 23) 第 102 回看護師国家試験では経済連携協定に基づいて来日した受験者全体の合格率は 9.6%、うちイン ドネシア人は 11.6%、フィリピン人は 7.2% であった。ちなみに、日本の受験者も含めた試験の合格率は 88.8% であった。また第 25 回介護福祉士国家試験では、来日受験者の合格率は 39.8% で、うちインドネ シア人は 46.7%、フィリピン人は 30.4% であった。 24) インドネシアとフィリピンからの看護師・介護福祉士候補者に対しては、訪日前に 6 か月と訪日後に 6 か月の日本語研修が用意されている。訪日後のベトナム人候補者には 2 ∼ 3 か月の日本語研修と導入研修 が予定されている。 25) 「診察および治療法」第 40 号 /2009/QH12(2009 年 11 月 23 日)第 3 章「診察および治療行為者」第 1 節 「行為者に対する条件」第 17 条の「施行者証明書申請者」及び第 18 条「ベトナム人に対する施行者証明 書発給条件」、同 24 条「実務経験の認定」、同 25 条「行為者証明」等に従い、同証明書の発給を申請し、
発給される。
26) 2012 年 11 月 28 日に Hung Yen 省にある LOD 工芸技術短期大学で開催された候補者を対象とする事前 日本語研修開講式において筆者が数名の候補者から聞き取りをした。
27) DOLAB, “Thong bao thoi gian va dia diem chon ung vien Ho ly, Dieu dung vien sang lam viec tai Nhat Ban theo Chuong trinh EPA”(EPA に基づいて日本で就労する介護福祉士および看護師候補者選抜日時に関する報 告)(2014 年 1 月 6 日最終確認、http://www.dolab.gov.vn/New/View2.aspx?Key=1134)添付書類審査通過者 リスト、DOLAB, “Thong bao nhap hoc doi voi cac ung vien dieu duong, ho ly trung tuyen di lam viec tai Nhat Ban theo chuong trinh VJEPA”(日越 EPA による日本での就労看護師および介護福祉士候補者として研修受入に 関する報告)(2014 年 1 月 6 日最終確認、http://www.dolab.gov.vn/New/View2.aspx?Key=1222)添付最終選 抜者リスト、DOLAB, “Thong bao nhap hoc tieng Nhat bo sung doi voi ung vien dieu duong, ho ly”(看護師およ び介護福祉士候補者の日本語研修追加受入に関する報告)(2014 年 1 月 6 日最終確認、http://www.dolab. gov.vn/New/View2.aspx?Key=1244)添付追加者リスト。 28) 最も多かったのはホーチミン市出身者(5 人)で、ハノイ市出身者は 3 人だった。 (参考文献) 日本語 石塚二葉(2012)、「ベトナムにおける国際労働移動―政策、制度と課題」(山田美和編『東アジア における人の移動の法制度』調査研究報告書、アジア経済研究所)2013 年 10 月 20 日、http://www. ide.go.jp/Japanese/Publish/Download/Report/2011/2011_115.html よりダウンロード。 奧島美夏(2010)、「インドネシア人介護・看護労働者の葛藤―送出背景と日本の就労実態」『歴史 評論』722 号、64–81 ページ。 ―(2011)、「東アジア域内の移住労働―製造業から医療福祉へ、外国人労働者から移民への模 索」(『和解と協力の未来へ 1990 年以降』岩波書店)、85–106 ページ。 小高泰(2001)、「ベトナムの労働力輸出政策とその変遷―国家補助金制度から市場経済制度への 移行の間の中で」『国際情勢』第 72 号、167–185 ページ。 カルロス、マリア・レイナルース・D.(2010)、「日本におけるフィリピン人介護労働者の 3 つの軌跡」 (佐藤誠編『越境するケア労働 - 日本・アジア・アフリカ』日本経済評論社)、39–61 ページ。 新美達也(2006)、「ベトナムの人的資源―労働力輸出の現状と将来」『VIETNAM Today』7 月号、 54–55 ページ。 ―(2013)、「ベトナムの工業団地開発と農村非農業就労機会の増加」(坂田正三編『高度経済成 長下のベトナム農業・農村の発展』アジア経済研究所)、177–205 ページ。 春木育美(2010)、「韓国の外国人労働者政策の展開とその背景」東洋英和女学院『人文・社会科学 論集』28 号、93–105 ページ。 英語
Nghe An Statistic Office (2011), Statistical Yearbook Nghe An 2010, Nghe An: Nghe An Statistical Publishing House.
Ohno, Shun (2012), “Southeast Asian Nurses and Caregiving Workers Transcending the National Boundaries: An Overview of Indonesian and Filipino Workers in Japan and Abroad,”Southeast Asian Studies, 49(4), pp. 541–569.
Setyowati, Shun Ohno, Yuko O. Hirano, and KrisnaYetti (2012), “Indonesian Nurses’ Challenges for Passing the National Board Examination for Registered Nurse in Japanese: Suggestions for solutions,”Southeast Asian Studies, 49(4), pp. 629–642.
ベトナム語
Cao, Van Sam (1994), “Hoan Thien He Thong To Chuc va Co Che Quan Ly Xuat Khau Lao Dong o Nuoc Ta trong Giai Doan Toi”,(将来における我が国の海外就労組織体系および管理体制の改善)経済学副博 士論文(未刊行)。
Cuc Thong Ke Nghe An Chi Cuc Thong Ke Huyen Nam Dan (2011), Nien Giam Thong Ke Huyen Nam Dan 2005–2010(2005–2010 年ナムダン県統計年鑑), Nghe An: NXB.