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―intelligibility に関する研究の整理―

勅使河原 三保子

1.はじめに

 日本企業による英語の公用語としての採用、外国人居住者の増加などにより、 日本人が英語で話さなければならない機会はますます増えているのに、自分の 英語の発音で言いたいことが相手に通じているのかと不安を抱く日本語母語話 者(Native Japanese Speakers;以下 NJS)は少なくない。一方で、教育現場では、 相変わらず伝統的な英語圏(inner circle)の母語話者の発音をモデルとしながら も、いわゆる「カタカナ発音」が容認され、そこでは学習者が英語の分節音を 同一または類似の日本語の分節音で代用して(カタカナに置き換えて)発音し ており、英語の発音教育は十分であるとは言えない(手島 2011)。  このようなNJS の英語の発音に関する現状を改善し、不安を解消するため には、第一にNJS が直面している現状、すなわち英語を主に母語話者とだけ ではなくむしろ非母語話者との国際共通語(English as a Lingua Franca;以下 ELF)として用いる機会が多い現状を踏まえ、NJS の英語発音が英語母語話者 を含む非日本語母語話者に対してどの程度実際に「通じる」のかを把握しなけ ればならない。そのためには、NJS による英語発音の実態を音声学的に記述、 測定し、NJS による英語発音のどのような音声的特徴が他の言語の母語話者に 対して通じる、あるいは通じない要因になるのかまず調査する必要がある。  第二に、NJS の英語発音に関する不安を解消するためには、NJS の発音に対し てNJS 自身や非日本語母語話者が持つ言語態度(language attitude)を認識すること によって、自分の発音を客観視させることも必要であろう。非母語話者英語に

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対する言語態度に関する研究は近年さかんになりつつあるが(e.g., Jenkins, 2007; McKenzie, 2010)、Jenkins(2007)は実際の英語音声を伴わない調査で、McKenzie (2010)の NJS による英語音声に対する言語態度の評定者は NJS に限られている。  第三に、NJS に対する英語の発音教育も改善する必要がある。そこでは英語 の発音を英語母語話者に近づけることではなく、ELF として通じるために必要 十分な英語の音声的特徴を学習者に身に付けさせることが重要である。この立 場に立ってJenkins(2000)は異なる母語を持つ学習者間でのやりとりにおける 勘違いのデータに基づいて全ての母語の学習者が学ぶべきELF の発音(Lingua Franca Core)を提唱した。NJS が学ぶべき ELF の発音についても清水(2011)が Jenkins(2000)を含む先行研究に基づき、ガイドラインを提唱している。(詳細は Jenkins[2000]および清水[2011]を参照されたい。)しかし、Jenkins(2000)が提 案する、全ての学習者が共通に学ぶべきELF の発音には、全ての母語の学習者 にあてはまるのか疑問視されるものも含まれており、また清水(2011)の提案は 実証データに基づいていないという問題もある。NJS の英語発音の実態および NJS の英語発音に対する言語態度に基づいたガイドラインの提唱が急務である。  そこで本論文では上記の研究の第一段階として、NJS による英語音声の音声 的特徴を “intelligibility”(Kachru & Smith, 2008; Munro, Derwing & Morton, 2006; Nelson, 2011; Smith, 1992)との関連から記述した先行研究を精査し、NJS の英 語の発音が非日本語母語話者に通じる、あるいは通じない要因を音声学的にあ ぶり出す手法を再考する。そのためにまず、次節で英語の文献で頻繁に用いら れるintelligibility という用語を明確にとらえ直し、3 節で NJS による英語音声 のintelligibility に関する研究を一つずつ吟味し、4 節で NJS による英語音声の 通じやすさ・通じにくさを適切に測るための手法を提案する。

2.Intelligibility に関する先行研究

 World Englishes(世界の様々な英語)や ELF という概念が広まると共に、 様々な英語を話す話者間で話す英語が通じるか、そしてどれくらい通じるの

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かということが重要になってくる。そのような日常生活における相手に通じ る、伝わる、理解されるというおおまかなintelligibility の概念を、Larry E. Smith をはじめとする研究者は学術的に① intelligibility、② comprehensibility、 ③interpretability という三つの概念に分けて長年追究してきた(e.g., Smith & Nelson, 1985; Smith, 1992; Kachru & Smith, 2008, Chapter 4)。ここではまず上記 の三つの理解・認識の各状態について豊富な具体例を用いて説明し、測定する 方法にも言及したKachru and Smith(2008, Chapter 4)を用いて、この Smith を はじめとする研究者が用いる三つの概念を整理する。(Intelligibility と関連語に 関する日本語による解説として他に大和[2012]も参照されたい。)

  ま ず、Kachru and Smith(2008, p. 61)で は intelligibility は「 発 話 に お け る 語や文レベルの要素の認識」(the recognition of a word or another sentence-level element of an utterance)と定義されている。Intelligible である発話の例として、 “anyone lived in a pretty how town” という e. e. cummings の詩の第 1 行を聞いた 者は、これが六つの英単語から成り立っていることがわかる状態を挙げている。 Intelligibility の測定の手段として一般的に用いられるのは、口頭での繰り返し、 書き取り(dictation)やクローズ・テストである。この定義によると、仮にその 発話全体の意味がわからなかったとしても、発話を構成する語が正しく再現で きればその発話のintelligibility は良いと言える。

 次の段階であるcomprehensibility を Kachru and Smith(2008, p. 62)は「語や発 話に込められた意味、すなわち社会文化的背景における言葉の文脈的意味の認 識」(the recognition of the meaning attached to a word or utterance, i.e. the contextual meaning of a word in a sociocultural setting)と定義している。上記の詩の一行と 同じようにintelligibility には問題がないが comprehensibility に問題がある例と して、Cervi and Wajnryb(1992)の以下のエピソードを挙げている。イギリス 英語の話者であるCervi がオーストラリアに着いた直後、形式ばらないパー ティーに招かれたのだが、オーストラリア英語で「“plate” を持ってきてほし い」と言われたのを(すなわちplate という語は認識できたので intelligibility に 問題はない)、「一皿の料理」の意味だったのに容器の皿と勘違いしてしまった

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(comprehensibility に問題あり)という話である。Comprehensibility は聞き手(読 み手)に発話を言い換えさせたり、内容理解の質問を尋ねたりすることによっ て測定できる。(なお、Smith[1992, p. 79]では comprehensibility を測定するの には多肢選択問題を、interpretability を測定するためには被験者に指定部分の 言い換えを課している。)

 三つめのinterpretability を Kachru and Smith(2008, pp. 63–64)では「聞き手 や読み手による発話の意図や目的の認識」(the recognition by the hearer / reader of the intent or purpose of an utterance)と定義している。Kachru and Smith による と、interpretability をある程度良くするには受け手が発話の文化的文脈を知ら ないといけないので、interpretability は三種類の「理解」において intelligibility やcomprehensibility よりも複雑である。たとえば、“Is Sean there?” と電話で尋 ねられて、実際にSean が在宅している場合、聞き手が “Yes, he is.” と答えるだ けでは不十分で、電話の主がSean と話すためにこの発話をしているのだと認 識し、“One moment please.” と答えて初めて発話の interpretability が良いと言え るという例が紹介されている。  Intelligibility 等の語は Smith らの枠組みの中のみで、いつも同じ定義で用 いられるならば話は簡単だが、実際は複数の研究者が様々な定義でこれらの 語を用いている。Intelligibility と関連する語(上記の comprehensibility および interpretability)の概念を整理し、その他世界の様々な英語や ELF としての英語 のintelligibility を取り巻く環境について一冊の著作にわたって詳細に記述して いるNelson(2011)では、他の研究者が用いる intelligibility および関連する語 の概念についても吟味し、欠点を指摘している。ここでは特に、様々な英語の intelligibility を実験によって測定することで知られる Munro と同僚の用いる関 連語とその定義について整理したい。(Nelson[2011, pp. 72–74]で取り上げら れているのは、数あるMunro らの研究のうち Munro, Derwing & Morton[2006] であるが、Munro らは 1990 年代から[e.g., Munro & Derwing, 1995]一貫した 語の定義で研究を行っている。)まず、Munro et al.(2006, p. 112)では intelligibility をSmith らの枠組みでの測定と同じように、聞いたものの書き起こしで測定す

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る1にもかかわらず、定義では “the extent to which a speaker’s utterance is actually understood” すなわち「話者の発話が実際に理解される程度」としている。さら に厄介なことに、Munro らの枠組みには comprehensibility という用語も存在す る が、 そ れ は “the listener’s estimation of difficulty in understanding an utterance” すなわち聞き手が発話を理解するのにどれだけ困難だったかの聞き手の主観 による評定であり、単語の直接の意味から想像できるような「理解(される) 可能性」とは関係がない。Nelson(2011, p. 72)は、このような概念を表すな らば、comprehensibility という言葉ではなく、たとえば Perceived Intelligibility Difficulty(発話認識の困難さ(の主観))とでもした方が、被験者や読者にとっ ても混乱が生じにくいのではと述べているが、筆者も同感である。  翻って、intelligibility およびその関連語の訳語を見てみると、大和(2012, p. 41)によると「明瞭性」で代表される intelligibility に当たる概念として日本語では 著者によってその他「分かりやすさ」、「通じる発音」、「理解可能性」、「伝わる発音」 といった様々な用語が用いられており、一貫性がない。これらの言葉が指す内 容も、実は訳語であるはずのintelligibility の内容一つには集約されず、むしろ本 節で最初に出した一般的なintelligibility、すなわち Smith らの枠組みで言うとこ ろのintelligibility、comprehensibility、そして interpretability の三つが合わさったも のであると解釈できよう2。大和(2012)は日本の英語教育界に流通するこれら の用語に対して定義を確認した上で用いるよう注意を促しており、筆者も同感 するところである。本論文では以降、intelligibility を Smith らの枠組みにおける 定義で用いるが、各先行研究における用語についてはその都度説明をほどこす。 1 Munro et al.(2006, pp. 112–113)では intelligibility を測定する手段として他の研究 者が行ったものも含めて他にクローズ・テスト、音声資料への反応としての絵の選択、 要約の作成、正誤問題を例として挙げている(うち正誤問題は本人らの過去の研究で も利用)。Munro ら自身はもっぱら書き起こしを測定方法に利用しているようだが、 ここに挙げたうち、クローズ・テスト以外はSmith らの枠組みでは comprehensibility もしくはinterpretability を測定する方法として言及されており、測定方法に関する考 え方でもSmith らと Munro らの間にはずれがあるようだ。

2 一方、大和(2012)では Smith らではなく Munro らの intelligibility と comprehensibility の概念の定義を採用して議論を進めている。

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 次節ではintelligibility の観点から NJS の英語発音の音声的特徴に言及した研 究を一つずつ精査する。

3.日本語母語話者による英語音声の intelligibility に関する先行研究

 NJS による英語音声の特徴に関する既存の研究は決して少なくないが、 intelligibility に言及してどのような音声的特徴が intelligibility の評価に影響 を及ぼすか追究した研究はさほど多くない。以下にNJS による英語音声の intelligibility に関連する先行研究を概観する。

 この種類に属する最も先駆的な研究はSuenobu, Kanzaki and Yamane(1992) である。Suenobu et al. は 80 人の日本人大学生が行った 5 分間のスピーチを音 声的に記述し特徴を明らかにした上で、非標準的な発音がなされた単語を含む 52 文を抽出し、48 人のアメリカ人を対象に聴取実験を行った。各文から単語 のみを抽出して聞かせた場合(文脈なし)と、文全体を聞かせた場合(文脈あり) において、調査の対象となる単語の書き起こしをさせ、単語が正しく書き起こ された割合(すなわちintelligibility)を算出し、書き起こしの誤りのパターンを 場合に分けて分析している。ほとんどの単語において文脈がある方がない場 合より書き起こしの正答率が高まったが、文脈の有無によるintelligibility の改 善の程度は語によって異なった。発音誤りと書き起こしの正答率を比較して、 Suenobu et al. は子音の脱落(全誤り 52 個中 5 個と少ないが)が intelligibility に 最も影響を及ぼしたとしている。(子音の脱落を伴う単語は文脈なしでの正答 率が23.3%、文脈ありでも 48.3% にしか達しなかったが、それに対して母音 挿入、母音の置き換え、子音の置き換えはいずれも文脈なしで40% 台、文脈 ありでは7 割前後の正答率に達している。)

 NJS による英語音声の intelligibility に関する研究で Kashiwagi and Snyder の 一連の研究は欠かせない存在である。まずKashiwagi and Snyder(2008)では、 TOEIC200 点台後半~ 600 点台前半の日本語を母語とする女子大学生 20 名に 英語の教科書から選択された平均50 語弱の文章を 2 文ずつ音読させた。そし

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て、3 人のアメリカ人英語教師(英語音韻論の知識あり)と 3 人の日本人英語教 師(米国でTESOL 修士を取得、英語音韻論の知識あり)が 40 の録音音声(全て 異なる文章の音読音声)を聞き、書き起こしをし(原文との単語の一致の割合を intelligibility の値とする)、訛りの程度を評定した。数日後著者らが英語教師に 対して聞き取り調査を行った。そこでは、英語教師に書き起こしの結果とその 原文を提示し、NJS による音読音声を再度聞かせ、intelligibility にとって問題と なった発音の特徴を指摘させた。Kashiwagi and Snyder(2008)では一連の実験の 結果から、まずintelligibility と訛りの程度の評定は必ずしも相関しないことがわ かった。以下、本論文で特に関心のあるintelligibility に関連するところだけ言及 すると、intelligibility に影響を与える発音誤りは単音(母音、子音)であり、母音 挿入も他の問題と結びつくとintelligibility に影響を与える。語の強勢の誤りは強 勢のある音節とない音節の間の強度の差が小さいことが原因であり、不規則な 複合語や「形容詞+名詞」の句の強勢の誤りもintelligibility に影響を与えた。し かしながら、Jenkins(2002)では母音より子音の誤りの方が intelligibility に影響 を与えると報告されているが、その結果とは異なり、Kashiwagi and Snyder(2008) では子音より母音の方がintelligibility に深刻な影響を与えたと報告されている。  2 年後、Kashiwagi and Snyder(2010)は Kashiwagi and Snyder(2008)の音声 資料に簡便な音響分析を施した結果を補い、統計的に分析した結果を報告して いる。Intelligibility(書き起こしの正答率)と訛りの程度の評定の両方について アメリカ人と日本人の評定者の結果に対して別々に重回帰分析を行った。その 結果、アメリカ人と日本人の評定者の間で評定結果の決め手となった音声的特 徴が異なり、intelligibility に関しては、アメリカ人の場合母音の間違いのみが、 日本人では話す速度、ピッチ幅、母音の間違いが重要であった。一方、訛り の程度に関しては二つの評定者グループで子音の間違いと話す速度のみが一致 し、あとはアメリカ人教師では強度(intensity)と母音の間違いが、日本人教師 の場合はピッチの高さと強勢の間違いが重要だった。このように同じ評定対象 であっても母語の異なる評定者だと手がかりにしたと想定される音声的特徴が 違うという報告は、Riney, Takagi and Inutsuka(2005)の主観評価による訛りの

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程度と音声学の訓練を受けた評定者が受聴による分析を行った結果との相関を 報告した研究でも同様であった3。

 Kashiwagi and Snyder(2008, 2010)の結果は子音よりも母音の方が intelligibility に よ り 強 く 影 響 を 及 ぼ す と い う 点 がJenkins(2000, 2002)の指摘と異なり 興味深い。ただし、これらの研究の先駆けとなる、同様の手法で行われた Kashiwagi, Snyder and Craig(Kashiwagi et al., 2006, Table 5)の書き起こしに基づ く聞き誤りの分析を見ると疑問が残る。まず、母音が原因とされる誤解として 列挙されている聞き誤りのうち2 音節以上の語句(たとえば原文で attacked で あるはずの単語がdirected と書き起こされた)に関してはどの音節がより影響 を及ぼしたのか、著者らの分類によると/æ/(すなわち attacked の第 2 音節)で はあるが、疑問の余地がある。また、単音節の語であっても影響を及ぼした のは母音だけなのか子音も影響を及ぼしたのか(原文でdrank、bag、found で あるはずの単語が各々tried、work、got on と書き起こされ、子音が大きく異な るものも含まれる)は、元の音声を聞かないと断定できない。その辺りが続く Kashiwagi and Snyder(2008, 2010)では改善されたのかは論文に提示されたデー タのみからでは定かではないが、一連の結果に関しても、真にintelligibility や 訛りの程度の評定に影響を及ぼした音声的特徴を洗い出すためには、評定者に 行った聞き取り調査との対応を検討するだけでなく、音声学的手法に基づいて 各々の音読音声の音声的な特徴を記述、数値化し、正答率や訛りの評定値との 相関を調査する必要があると考えられる。  より最近になって柏木・スナイダー(2013)は新たに収録した日本人大学 生19 名の英語音読音声をアメリカに在住している英語母語話者 3 名、非母 語話者3 名(在アメリカ歴 20 年以上)に聞かせ、intelligibility(それまでと同 様に聞いた短文の書き起こしの原文との一致率で算出)と訛りの程度の主観評

3 Riney et al.(2005)は NJS 英語の intelligibility ではなく訛りの程度の主観的評定と 音声的特徴の関連を調査した。Riney et al. によるとアメリカ人の訛りの評定は単音(特 に/r/・/l/ の対立)に影響を受けたのに対し、日本人の評定はイントネーション、流暢性、 話す速度に影響を受けた。

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価のデータを収集した。母語話者の評定者の書き起こし結果でも著しく低い intelligibility の値となった NJS の音読音声が複数あり、それらは評定者の母語 によらずintelligibility が悪かった。3 名の非母語話者は実験当時、全員 20 年 以上アメリカで英語を使って生活していたにもかかわらず、うち2 名の書き 起こしの結果は母語話者に及ばず、NJS の発音の聞き取りに、より困難を感じ たことだろうと推察している。これを受け、柏木・スナイダーは「『日本語訛 りがあっても通じる』という論理はネイティブ・スピーカーを聞き手とする場 合は妥当かもしれないが、ノンネイティブ・スピーカーを聞き手とする際には 通用しない可能性があり、このことを日本で教える英語教師は意識する必要が あろう」としている。今までNJS の英語発音の intelligibility に関する研究で、 intelligibility に悪影響を及ぼす音声的特徴がわかる形で結果を報告しているも のの中には、英語の非母語話者を評定者として採用したものはなかったのでそ の点で意味があるが、この研究の中に評定者の母語によるintelligibility の違い と音声的特徴の直接の関係を把握するのに十分なデータは示されていない。  Tsuzuki and Nakamura(2009)は Suenobu et al.(1992)と Kashiwagi et al.(2006) の研究の問題点を指摘した上で、実験の環境をよりNJS が実際に英語を用い る環境(著者らは理工系の研究者が国際会議で口頭発表する状況を想定)に近 付けるため、音読の素材をKashiwagi et al. のような日常的な英語教材からでは なくNew York Times と Time 誌の科学技術のセクションから 10 文選択し、21 人の学部生・大学院生に3 文ずつ音読させた。そして 63 の収録音声から任意 に選んだ10 の音声に英語母語話者が音読した 1 文を加え、計 11 の音声を 11 人の英語母語話者(アメリカ人、イギリス人、カナダ人)である大学英語教員 に提示した。文音声の書き起こしをさせた上、意思伝達に支障をきたすと思 われる単音や超分節的特徴についてコメントさせた。さらに5 段階尺度を用 いてunderstandability(“1 Not at all understandable; I could not get a word.” から “5 Perfectly understandable; very easy to understand. I could get the message easily.” ま での5 段階で、理解しやすいかしにくいか、そして理解できたかの主観評価) を評定させた。以下にTsuzuki and Nakamura(2009)の主な結果をまとめる。ま

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ず11 人中 2 人以上の評定者が誤って書き起こした語句について原因を整理 したデータによると、子音の発音間違い(置き換え、脱落等)が最も多く(全 体の6 割強に相当)、続いて母音に関する間違い(置き換え、長短の長さの間 違い等で26%程度)、そして超分節的特徴はさらに少なかったことがわかる (1 割弱)。さらに子音の置き換えについて見てみると、/r/・/l/ の対立だけでな く、破裂音(/p, d/ が例に挙がっている)の関わるものも多く起こったことがわ かる。破裂音に関しては、有声音が無声音に聞こえることの他に、語頭の無声 音が無気音であるせいで有声音に聞こえるという説明をほどこしている。次 に、著者らはKashiwagi et al.(2006)他でも利用されている書き起こしの単語 の一致率(intelligibility)を算出し、評定者に評定させた understandability のス コアの平均と比較し、良いunderstandability のスコアが付与されても必ずしも 高い正答率につながるとは限らないと述べている。著者らはその食い違いを、 understandability のスコアが良かった、母語話者らしい発音の特徴(強勢拍のリ ズムや連続音声の特徴)を取り込んだ話者(J)よりも、一単語ずつをはっきり 発音した話者(A)、(K)の方が高い正答率につながったようだと説明している4

 Tsuzuki and Nakamura(2009)の研究は NJS 理工系研究者が実際に英語を用いる 環境に似せるために選んだ文を発音させているが、63 の音読音声のうち 10 の音 声を聴取実験の刺激音に選んだ理由が不明である。たとえば、1 文につき収録し た3 人の発話音声のうち 2 人が NJS に特徴的な同一の非標準発音をする単語が 見つかったりするならば、そのような発音を含む音声を選んで残しても良かった のではなかろうか。そうでないと、任意に選んだ10 の音声に偶然含まれていた 4 Tsuzuki and Nakamura(2009)の 音 読 資 料 の 語 数 は 14 ~ 25 語、 平 均 19.5 語 と Kashiwagi et al.(2006)の 25 ~ 47 語と比較すると短く、必然的に全般的に 1 語の誤り が正答率に及ぼす影響が大きくなる。また、ここで問題になっている理解しやすい音 声であると評定されたにもかかわらず正答率がそれほどよくないという音声(J)(15 語)の比較の対象となっている(A)、(K)は各々 23 語、22 語で、文の発音を議論する 前に素材自体に差が内在することを指摘しておきたい。全く別の見方として、(J)の ような発音が英語母語話者である評定者にとってなじみのある発音であるから実際の intelligibility を伴わずに understandability が良くなった可能性もあるのではないか(本 論文脚注6 参照)。

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発音誤りが結果で強調されることにもつながるのではないか5。(また、10 文そ のものには理工系の内容であると必ずしも言えないものが含まれているように見 受けられる。)そもそも、もし評定者による聞き誤りの潜在的理由(potential causes of misperception)自体を著者らが実際の音声を聞いて原因を特定しているのではな く、原文と書き起こしの不一致と評定者のコメントのみに基づいて推測している だけだとすれば、やはりNJS の音声的特徴の何がそのような評定者の書き起こ しの結果につながったのか明確には説明できないのではないか。  ここまで本節でNJS の英語音声の intelligibility を扱った研究を検討した結果 を表にまとめる(表1)。これらの点を踏まえ、次節では NJS による英語発音 が英語母語話者を含めた非日本語母語話者に対して「通じる」程度を音声的な Suenobu et al. (1992) Kashiwagi et al. (2006); Kashiwagi & Snyder (2008, 1010); 柏木・スナ イダー (2013)

Tsuzuki & Nakamura (2009) Intelligibility の定義 言及なし Munro らの定義 言及なし Intelligibility の 測 定 方法 単語の書き起こしの一致率 発話の書き起こしの一致率 発話の書き起こしの一致率 音声資料 スピーチの一部 英語教材の音読音声 科学技術に関する文の音読音声 発音誤りの判断基準 ・音声記述 ・原文と書き起こしの食い違い ・評定者のコメント ・原文と書き起こしの食い 違い ・評定者のコメント 音声分析 なし 簡便な音響分析(2010) なし Intelligibility に 与 え た影響が大きいと推 定される発音誤り (大きい順) 子音の脱落 1. 母音 2. 子音 3. 超分節的特徴 1. 子音 2. 母音 3. 超分節的特徴 評定者 英語母語話者 英語母語話者と日本語母語 話 者(2006, 2008, 2010); 英語母語話者を含む非日本 語母語話者(2013) 英語母語話者 注:結果から音声的特徴が類推できる研究を検討の対象とした。 表1:日本語母語話者による英語発音の intelligibility を扱った研究 5 たとえば、(G)の studies、(J)の drying における、元の発音での子音の脱落が想 定される書き起こし誤り((G)cities、(J)dying/died)について見てみると、Suenobu et al.(1992)に音節末の /ld/ から /d/ が抜け落ちた例はあるが、NJS の英語発音の特徴と してはむしろ語頭の子音連続に母音を挿入して子音を保つ方が一般的であるので(た とえばJenkins[2000]参照)、音声を聞かずに決定的なことは言えないが、これらがコー パス全体を代表しない特異な例だった可能性も考えられる。

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根拠に基づいて測定する方法を提案する。

4.日本語母語話者による英語音声の「通じやすさ」の測定に向けて

 現存するNJS による英語音声の intelligibility に関する研究には前節で指摘し たように複数の点で一貫性がないことが判明した。まず、一般的なNJS が想 起する「通じる」英語の発音を科学的に記述するためには、Smith らの枠組みに おける少なくともintelligibility と comprehensibility の測定が必要となる6。その ためには、まずintelligibility の測定のために書き取りもしくはクローズ・テスト、 そしてcomprehensibility の測定のために内容把握問題を含める必要がある。  次に聞き取りの対象となる音声資料の種類であるが、それは原稿を読み上げ る時のNJS による英語発音の通じやすさか、普段自然に即興で話す時の通じ やすさのどちらを扱いたいのかによって、決めるべきではなかろうか。しかし、 通常職場や学校、あるいはプライベートで非日本語母語話者と英語でやり取り する機会を考えると、原稿を読む国際会議のような場面は圧倒的に少ないと 思われるので、できるだけ現実に近い形で研究を行うならば即興で話した音声 を扱う方が良いのではないか。ただし、そのような場合、実験条件の均一化が 困難になるのは避けられない(たとえばCoetzee-Van Rooy[2009]参照)。また、 実験の前に予め発話を書き起こしておく作業も必要となる。そのためには、話 者が意図した発話との食い違いを避けるために、第三者ではなく話者自身が発

6 2 節で指摘したように Munro et al.(2006)における comprehensibility は評定者がど れだけ音声を理解しにくいと感じたかの主観を評定するので、ここでは該当しない。 しかし、その尺度自体の利用には一定の意味があると考えられる。たとえばSmith (1992)は実際に①話者を理解するのがどのくらい易しかった・難しかったか、②会話 を全体のどの程度理解したか、といった主観評価も含めている。そして、それらが話 者の話す英語の種類や話題に対する評定者のなじみの程度から予測される結果と、実 際のcomprehensibility や interpretability との不一致を説明するのに寄与している。(話者 の話す英語の発音になじみがあると感じた場合には理解しやすかったと回答している ものの、comprehensibility や interpretability の結果は他の英語の種類のそれと比べて良 くはなかった。)

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話を書き起こす方が良いだろう。  さらに、NJS のどのような英語発音が非日本語母語話者に「通じる」の か調査するためには、音声資料の音声的特徴の記述、分析は欠かせない。 Intelligibility の測定に用いる部分の音声を IPA 記号で表記し、評定者の発音に 関する所見を尋ねるか否かは別として、評定者の書き起こしの結果と話者が意 図した発話との間に食い違いが生じたら、少なくとも当該個所の音声的特徴に 言及して分析すべきである(たとえば、/d/ と発音すべき音を無声化させている ならば、[d○] と表記するなど)。さらに必要ならば大和(2012, p.45)にも言及さ

れているようなVOT(Voice Onset Time:声の出だしまでの時間)、フォルマン ト周波数や基本周波数といった数値化が可能な音響的特徴量と照らし合わせて もよいだろう。このようにして、実現された発話音声を何らかの形で客観化、 数量化しないと、大まかな傾向は示せるだろうが(たとえば、非日本語母語話 者はNJS の破裂音を聞くと有声・無声を混同する、など)、いつまでたっても 話者の意図と聞き手の受け取り方が食い違うという事実だけで、話者の発音の 何が原因でそのような食い違いが起こっているのかの解明にはつながらない。 さらに、NJS の英語発音と一口に言ってもかなりの多様性があることは明確だ が、ランダムに選んだ音声資料に偶然にNJS の代表的な音声的特徴が含まれ ることを期待するのではなく、音声資料として実際に聴取実験に用いる音声以 外に様々な話者を収録し、音声分析を行った上で注目したい音声的特徴が現れ る音声を予め特定し、刺激音として用いるのが音声学的手法としてはふさわし いだろう。  最後に話者と評定者についてであるが、World Englishes の中の一変種である NJS 英語が、ELF として用いられる際の英語音声の通じやすさを測定する目的 ならば、現実的に日常生活において英語を非日本語母語話者と用いる可能性が 高いNJS 英語話者の英語力(たとえば CEFR(ヨーロッパ言語共通参照枠)の B2 以上)を持つ話者が現実的なタスクを与えられて話す音声を、同等以上の英語 力を持つ様々な母語を持つ聞き手に評定させるのが理想的であると考える。

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5.おわりに

 本論文では非日本語母語話者に「通じる」NJS の英語音声の特徴を音声学 的に抽出する研究を行うため、まず「通じる」という概念をKachru and Smith (2008)の intelligibility、comprehensibility、interpretability という三つの概念を 用いて学術的に整理した。次に、既存のNJS による英語音声の intelligibility に関する研究を精査し、問題点や反省点を指摘した。それらを基に前節では、 intelligibility および comprehensibility に照らした NJS の英語音声の特徴抽出の ため、考慮せねばならない項目を挙げ、各々について理想的な条件を考えてみ た。以上に挙げたような条件を一つ一つ満たしていくのは決して容易ではない が、本論文を足がかりとして今後さらに非日本語母語話者に「通じる」NJS の 英語音声の特徴を追究していきたい。

参考文献

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謝辞

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