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さらに真値よりも遠い方に認識される特性があること などが報告されている (4) しかし 一般的に距離感とは 経験に基づく記憶や 学習に基づいて認知されて得られる認知距離と 単に大きさや物体の形状から得られる知覚距離の両方を総称したものと言え (5)(6) 船上での航海経験の多少や個人の特性によっても

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Academic year: 2021

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(1)

海上における相手船の目視観測距離の推定誤差について

八木 光晴

1

・楠本 成美

1

・山脇 信博

1

・清水 健一

2

Distance to Encountered Ships Estimated by Visual Observation

during Cruises

Mitsuharu YAGI, Narumi KUSUMOTO,

Nobuhiro YAMAWAKI and Kenichi SHIMIZU

Abstract

Judging the distance between one’s own ship and other ships is more difficult at sea than on land, because landmarks or reference objects are scarce at sea. Although we can now measure the precise distance to an encountered ship using nautical instruments, such as a radar distance indicator or the automatic identification system, ship crews occasionally judge distances by visual observation, particularly in the case of obstacle avoidance. These estimated distances are typically used for making decisions regarding collision risk, and errors might be influenced by experience. In this study, we evaluate errors in the distance to encountered ships estimated by visual observation. Estimated distances were more precise for experienced crew than were those for trainees. There were tendencies to overestimate the distance to encountered ships with increasing ship size, and to underestimate the distance with decreasing actual range. The colour of the ship did not affect the estimated distance. These results may contribute to ensuring safe ship operation.

Keywords

: MET, distance by visual observation, rate of error, distance perception

キーワード:教育・訓練、目視観測距離、誤差率、距離感 1 正会員 長崎大学水産学部附属練習船長崎丸 (〒852-8521 長崎県長崎市文教町 1-14) yagi-m@nagasaki-u.ac.jp 2 正会員 長崎大学大学院水産・環境科学総合研究科 (〒852-8521 長崎県長崎市文教町 1-14)

1.はじめに

船舶が沿岸を航行する場合、付近に既知の高さの 物標があれば、その仰角を六分儀で計測することに より距離を求める仰角距離法というものがある(1)。 しかし、一般的には海上では陸上と比較して相対的 な目安となるものがないため、距離を目視により把 握するのは困難である。今日では、レーダーや AIS 等の航海計器の発達により距離をほぼ正確に把握で きるが、避航操船や着岸操船では最終的には従来の 方法による操船者の目視により判断が行われている (2) 海上における目視観測の推定誤差については過 去において目視による距離の推定を行いレーダー距 離と比較したものがある(3)。この実験では54 人の乗 船経験者を対象に、眼高約4.8m、視程約 9N.M.時に おいて 500m 付近までは比較的正確に目測できるが それ以上になると過大に測りやすく 1000m を越え るとその傾向が強くなることが報告されている(3)。 また、最近では相手船までの相対距離を目視観測で 調査し、観測距離の誤差特性を解析した事例もある (4)。この報告では、目視観測距離の絶対値平均誤差 は、航海士で約 21%、訓練生で約 46%であること、

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さらに真値よりも遠い方に認識される特性があるこ と、などが報告されている(4)。しかし、一般的に距 離感とは、経験に基づく記憶や、学習に基づいて認 知されて得られる認知距離と、単に大きさや物体の 形状から得られる知覚距離の両方を総称したものと 言え(5)(6)、船上での航海経験の多少や個人の特性に よっても目視による距離の推定には誤差が発生する と考えられる。 そこで本研究では目視観測による距離の推定誤 差を海上経験の多少と関連づけて傾向を明らかにす ると共に、どういった場合に誤差が大きくなるのか を明らかにすることを目的とした。

2.方法

2.1 目視観測による距離の推定

長崎大学水産学部附属練習「長崎丸」(総トン数 842 トン)の船橋(眼高 9m、船橋から視水平線まで の距離6 マイル)において、2015 年 4 月~12 月に乗 船した専攻科進学希望の学生11 名と、長崎丸で船橋 当直業務に従事している乗組員8 名を対象に、昼夜 を問わず他の船舶(以下「相手船」とする)が視野 内に認識できた場合に相手船までの距離を目視およ びレーダーにより同時に計測した。ここで「視野内 に認識できた」とは、必ずしも初認というわけでは なく、視程の状態に拘わらず船橋から見た視水平線 の内側にあると認められる船舶とした。あらかじめ 測定日時、船の種類、船体の色、海上気象、及びAIS により判別できた場合に船体の長さ等について記入 する観測野帳を用意しておき、被験者は任意の時刻 に自己の判断で観測野帳にその時に推定した距離と その後同時にレーダーにより正確な距離を計測し、 野帳に記録した。ただし、目視観測を行う際には他 の観測者の影響を排除するため、被験者自身が必ず 目視観測の推定距離を記録した後にレーダーにより 距離を求めることとし、また推測した距離について 他の観測者とは会話をしないようにした。また、同 一の船舶を複数回観測はしないこととした。 併せて、被験者全員に対してアンケート調査によ り視力を把握するとともに、乗組員8 名に対しては、 現在は船橋当直に従事していない船長も含めて、他 船も含めた通算の乗船年数、長崎丸の乗船年数、長 崎丸で船橋当直に従事した年数をそれぞれ調査した。

2.2 距離誤差と誤差率

本研究ではレーダーにより計測した相手船まで の距離(LR)を真の値とし、目視観測により推定し た距離(LV)との差を距離誤差(LE)として、以下 の①式により求めた。

L

E

= L

V

− L

R ・・・① 一方、推定した誤差を比較する場合、例えば誤差 が2 マイル、といった時に真距離が 6 マイルの時と 2 マイルの時では誤差の意味が異なってくる。そこ で本論では誤差の絶対値ではなく、こうした真の距 離に対する誤差を表現する手法として誤差率で表し た。ここで、誤差率は以下の②式により前述のレー ダーにより計測した真の距離(LR)に対する距離誤 差(LE)の割合とした。①式、②式において、符号 のプラスは目視観測から推定した距離(LV)がレー ダーにより計測した距離(LR)よりも大きい、すな わち実際よりも遠くに推定していることを示す。反 対にこの値がマイナスであるときは実際よりも近く に推定していることを示す。求めた誤差率は船の長 さとの関係や船体の色、相手船までの実際の距離と の関係性について調べた。

Error =

L

E

L

R

×100 (%)

・・・②

3.結果

3.1 被験者

本研究における被験者19 名の各要素について表 1 に示す。被験者 A~H の 8 名は乗組員、I~S の 11 名は学生を示している。表は左から順に各被験者の 年齢、通算の乗船年数、長崎丸の乗船年数、長崎丸 において船橋当直に従事した年数、視力(カッコ内 は矯正視力を示す)、データ数を並べたものである。 学生については年齢 21 歳~23 歳で、乗船経験年 数はいずれも実験開始時で 0 年(1 ヶ月未満)~実 験の終了時で 0.5 年(5 ヶ月)であった。ただし、 被験者M と被験者 Q~S の 4 名については取得した データの数が少なかったため、本研究ではこれら 4 名を除外した7 名の結果について以下に述べる。 一方、乗組員については年齢や通算の乗船年数、 長崎丸での船橋当直年数に幅が見られ、長崎丸での 船橋当直従事年数について、短い人では1 年程度か ら、多い人では30 年以上に及ぶ被験者もいた。 乗組員については被験者E や F でデータの数が少 なくなっているがこれは現在では船橋当直に従事し ていないためである。

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表 1 被験者の属性

3.2 学生と乗組員の誤差率の違いについて

図1 に学生 7 名の目視観測における誤差率の結果 を示す。図1 は横軸に観測回数、縦軸に誤差率を示 したもので、縦軸の「0」を誤差ゼロとし、プラス方 向をレーダー距離より遠くに見た場合の誤差率、マ イナス方向をレーダー距離より近くに見た場合の誤 差率として表したものである。ただし、同じ船を全 ての学生が同時に観測した訳ではないため、図の横 軸は個人毎の期間中における目視観測した船舶の通 し番号を示したものである。 図1 より、学生 L や学生 N のように誤差率の振れ 幅が観測回数を重ねる毎に小さくなる被験者が見ら れた一方で、学生I や学生 J のようにはじめと同じ ような誤差率の振れ幅が見られ、観測回数を重ねて も誤差範囲が安定しない被験者もいた。被験者毎に 比較した場合において図1 中の(A)、(B)および(C) のように誤差がプラス方向に突出して大きいデータ、 すなわちレーダー距離と比較して遠くに見た船舶に 着目したところで船体の長さがわかったものについ ては共通して船体の長さが約 50m の船舶であった。 反対に、図1 中の(D)および(E)のように誤差が マイナス方向に突出して大きくなっていたデータ、 すなわち実際よりも近くに見ていた船舶に着目した ところは、船体の長さが約200m 以上の船舶であり、 水平線よりも遠くにある船舶であった。 一方、図2 に乗組員の目視観測における誤差率の 結果を示した。図の見方は先ほどと同様である。図 2 より、乗組員の場合では学生と比べ誤差率のばら つきが小さく安定していた。さらに、学生の場合と 同様に誤差の大きかった船舶について船の長さとの 関係について調べたところ、乗組員の場合も学生と 同様に船体の長さが約 50m の船舶は誤差がプラス 方向に大きく実際よりも遠くに推定しており(図 2 の船員 C における図中③)、反対に船体の長さが約 200m 以上の船舶は誤差がマイナス方向に大きく、 すなわち実際の距離より近くに推定していた。(図2 の船員G における図中①や船員 B における図中②) 図 1 学生の目視観測結果の誤差率 図2 乗組員の目視観測結果の誤差率

3.3 相手船の長さによる誤差の傾向

3.2 で前述したように、相手船の船体の長さが目 視観測による距離の推定誤差に影響を与えることが 示唆されたため、船の長さに着目した場合の目視観 測距離の推定結果について、図3 及び図 4 に示す。 図3 は学生の場合、図 4 は乗組員の場合において、 横軸には相手船の長さ、縦軸に緑色で実際よりも船 を遠くに見た人の割合を、実際と同じ距離だった人 の割合を赤色で、実際よりも近くに見た人の割合を 青色で表したものである。なお、船の長さの区切り については 100m 以上の大型船はデータの数が少な くなってしまったため、できるだけデータの数を揃 える必要があると考え、長さ 100m 以上の大型船の 場合には長さを100m 毎に区切っている。 図3 に示すように相手船の長さ 100m を区切りと して、それよりも小さな船舶の場合には遠くに見る 人の割合が多く、反対に大型船の場合には近くに見 年齢(歳) 通算乗船 年数(年) 長崎丸乗船 年数(年) 長崎丸当直従事 年数(年) 視力 (矯正) データ数 A 36 3.5 3.5 3.5 (1.5) 6 B 36 10 8 8 (1.0) 8 C 31 2 2 1 1.5 9 D 63 48 7.5 7.5 1.1 6 E 60 40 12 11 (1.2) 2 F 65 41 14 11 0.9 2 G 36 12 3 3 (1.2) 16 H 43 16 4 3 1.5 7 I 21 0~0.5年 0~0.5年 0~0.5年 (1.0) 47 J 22 0~0.5年 0~0.5年 0~0.5年 (1.0) 22 K 21 0~0.5年 0~0.5年 0~0.5年 (1.0) 18 L 23 0~0.5年 0~0.5年 0~0.5年 1.2 22 M 23 0〜0.5年 0〜0.5年 0〜0.5年 (1.0) 2 N 23 0~0.5年 0~0.5年 0~0.5年 (1.0) 16 O 23 0~0.5年 0~0.5年 0~0.5年 (1.0) 8 P 23 0~0.5年 0~0.5年 0~0.5年 (1.0) 8 Q 23 0〜0.5年 0〜0.5年 0〜0.5年 (1.0) 6 R 23 0〜0.5年 0〜0.5年 0〜0.5年 (1.0) 6 S 23 0〜0.5年 0〜0.5年 0〜0.5年 (0.8) 7 学生 船員

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る人の割合が多くなった。さらにこの傾向は図4 で 示した乗組員の方がより顕著であった。 図3 相手船の長さによる遠近の割合の傾向(学生) 図4 相手船の長さによる遠近の割合の傾向 (乗組員)

3.4 相手船までの実距離による誤差の傾向

次に、相手船までの実距離と目視観測の見え方の 違いについて、学生の傾向を図4 に、乗組員の場合 を図5 にそれぞれ示した。図はいずれも横軸にレー ダーで観測した相手船までの実距離(マイル)を、 縦軸には観測した船の距離を実際より遠くに見た人 の割合を緑で、実際と同じ距離だった人の割合を赤 色で、実際よりも近くに見た人の割合を青色で表し たものである。 乗組員の場合にはデータの数が少ないが、学生、 乗組員いずれの場合も、相手船までの実距離が0~2 マイル未満の場合には実際より遠くに見る人の割合 が多く、反対に相手船までの実距離が増すごとに近 くに見る人の割合が増加している傾向があることが わかる。

3.5 対象船の色による誤差の傾向について

本研究では夜間の観測結果がほとんど得られなか ったため、相手船の船体の色とそのときの誤差率の 図5 対象船までの実距離による遠近の割合の傾向 (学生) 図6 対象船までの実距離による遠近の割合の傾向 (乗組員) 大きさについて比較した。図7 に本研究で得られた 全観測データ240 件のうち、船体の色別隻数(図中 上段の値)と全体に占める割合(図中下段の値)を 示す。図に示すように、白、黒、青の3 色で全体の 92%を占めていたため、本研究では船体の色による 誤差の比較についてはこの3 色で行った。 図7 は学生について、図 8 は乗組員について横軸 に船体の色を白、青、黒の場合に分けて縦軸に相手 船の距離を実際よりも遠くに見た人の割合を緑色で、 実際と同じ距離だった人の割合を赤色で、実際より も近くに見た人の割合を青色で表したものである。 学生と比較して乗組員の場合にはデータの数が少な く、確定的なことは言えないが、乗組員では船体が 青の色の場合に実際よりも近くに見る人の割合が多 く、反対に白色の場合に実際よりも遠くに見る人の 割合が多くなっていた。学生では遠くに見た人と近 くに見た人の割合はほぼ同じであり、船体の色の違 いによる明確な違いは見られなかった。

(5)

図6 相手船の船体の色の割合 図7 船体の色の違いによる遠近の割合の傾向 (学生) 図8 船体の色の違いによる遠近の割合の傾向 (乗組員)

4.考察

4.1 学生と乗組員の誤差率の違いについて

本研究では学生7 名と乗組員 8 名で目視観測によ る距離の推定誤差について誤差率を比較したところ、 乗組員と比べ観測回数を重ねても誤差範囲が安定し ない被験者もいた。距離感とは、経験に基づく記憶 や学習によって得られる認知距離と、物体の大きさ や形から得られる知覚距離の両方を総称したものと され(5)(6)、洋上経験の少ない学生の場合は認知距離 よりも知覚距離に近いと考えられる。従って乗船中 に距離感に慣れてきたと感じても一旦下船するとそ れまでに培った距離感がリセットされてしまい、観 測回数を重ねても誤差範囲が安定しないと考えられ た。 一方、乗組員の方では長崎丸での当直従事年数は 少ない人もいたがいずれの被験者も学生より乗船経 験年数が多くなっており、普段からブイや漁具・観 測機器の回収、さらには出入港等で目視によって距 離を推定する訓練の回数が多かったものと考えられ る。このことからどちらかと言えば認知距離のウエ イトが大きくなり、乗下船を繰り返しても推定誤差 の幅のブレが学生より小さくなっていたものだと考 えられる。したがって目視による距離の推定精度を 向上させるには単に乗船経験の長短ではなく、日頃 から目視での距離の推定を行う訓練を数多く経験す ることが大切であることがわかる。 観測誤差の分布の範囲と平均誤差については本研 究と被験者の年齢は異なるものの、過去において乗 船経験9 ヶ月程度の学生と乗船経験 6 年の航海士で 行われた調査がある(4)。この報告によると観測誤差 は 航 海 士 の 場 合 で-40%~100%、訓練生で-50%~ 230%程度の誤差が生じることなどが報告されてい る。本研究では学生の乗船経験は5 ヶ月程度であっ たが、図1 を見るとこの結果とほぼ同程度になって おり、知覚距離としての距離感の涵養には比較的短 期間の乗船でも十分養成されるものと考えられる。 今後はこうした知覚距離としての距離感から認知距 離としての距離感をいかに養っていくかということ について、乗船経験の多少という観点から更に検討 していく必要がある。

4.2 相手船の長さによる誤差の傾向

図 3、図 4 より、学生、乗組員ともに相手船の長 さが大きなものは実際よりも近くに見誤る傾向があ り、反対に相手船が小型の場合は過小評価の傾向が あることが示された。 このことは相手船の長さは経験の多少にかかわ らず目視観測距離に影響を与える要因の1 つである ことを示しており、目視観測において距離を推定す るに当たっては知覚距離の影響も大きいことを示唆 している。この場合において操船者は、相手船まで の実距離が近い場合に、相手船までの距離を数値と しては遠くに見誤る可能性があることを知っておく 必要があるといえる。 白 103 43% 黒 72 30% 青 45 19% その他 20 8%

(6)

4.3 相手船までの実距離による誤差の傾向

図4、図 5 より学生、乗組員ともに相手船までの 実距離が遠いほど近くに見える傾向があり、反対に 対象船までの実距離が近いほど遠くに見る傾向があ ることがわかった。 これは過去の同様の研究(4)ともある距離を境に過 小評価と過大評価という誤差の傾向が変わるという 点で定性的には同じようなことを示している。しか し、学生、乗組員ともに同様の傾向を示したことか ら相手船までの実距離は乗船経験の長短によらず距 離の推定に大きな影響を与えていることが示唆され た。したがって、目視により相手船までの距離を推 定する際には相手船の大きさと共に、相手船が本船 の近傍にある場合には特にレーダーも併用するなど して目視だけに頼らない操船を心がける必要がある と考えられる。

4.4 相手船の色による誤差の傾向について

図7 及び図 8 より、本研究において相手船は主と して船体の色が白、黒、青であり、これらの中で明 確な違いは見られなかった。しかし一般的に色の違 いは見え方の違いとなって現れるため(7)、これによ り視認距離が異なることも想定される。この点につ いて本研究では調査の段階で考慮していなかったた め十分な検討を行えなかったが、例えば天候の違い や太陽を背にして相手船を見た場合と、太陽に向か うようにして相手船を見る場合とでは見え方は大き く異なると考えられるため、こうしたことも目視に よる距離の推定に影響を与えると推察される。従っ て相手船の色による誤差の傾向を把握するためには さらにデータを増やすと共に、気象・海象条件も合 わせて考慮していく必要があると考えられる。

5.まとめ

本研究では目視観測により相手船までの距離を 推定する際の誤差を海上経験の多少と関連付けて傾 向を明らかにすると共に、どういった場合に誤差が 大きくなるのかについて、調査を行った。その結果、 以下の点が明らかになった。 (1)乗組員と比べ海上経験の少ない学生は、相手船の 大きさや形状から得られる知覚距離のウエイト が距離を推定する際乗組員と比べると相対的に 大きく、このため乗船中に距離感に慣れてきたと 感じても一旦下船するとそれまでに培った距離 感がリセットされてしまい、観測回数を重ねても 誤差範囲が安定しない。したがって目視による距 離の推定精度を向上させるには経験に基づく記 憶や学習によって得られる認知距離の精度を向 上させる必要があり、そのため単に乗船経験の長 短ではなく、日頃から目視での距離の推定を行う 訓練を数多く経験することが大切である。 (2)船の長さ(大きさ)は目視による推定距離に誤差 を与える要因の1 つであることがわかり、小さい 船舶の場合は実際より遠くに見る傾向、反対に大 きな船舶の場合には近くに見る傾向が認められ た。したがって操船者は、相手船までの実距離が 近い場合に、相手船までの距離を数値としては遠 くに見誤る可能性があることを知っておく必要 がある。 (3)相手船の船体の色と誤差率との明確な関連性に ついては認められなかったが今後さらにデータ を増やすと共に、気象・海象条件も合わせて考慮 していく必要があると考えられる。 本研究では海況との比較や夜間の観測における 傾向について明らかにすることができなかった。特 に夜間の観測では、航海灯、集魚灯、作業灯など灯 火の種類により見え方が異なるため、昼間とは違っ た傾向が現れる可能性も考えられる。今後この点に ついても明らかにしていく必要がある。

謝辞

本研究を行うに当たり調査に御協力いただいた 長崎丸乗組員一同及び長崎大学水産学部4 年次生の 皆さまに厚くお礼申し上げます。

参考文献

(1) 長谷川健二:新訂 航海科算法, 海文堂出版株 式会社, pp.107-109, 東京, 1964. (2) 長畑 司:避航の判断と操船者の特性, 日本航 海学会論文集, Vol.48, p.77-85, 1973. (3) 長畑 司:海上における遠近感と目視距離, 日 本航海学会論文集, Vol.66, pp.47-55, 1982. (4) 有村 信夫, 福戸 淳司, 丹羽 康之, 森 勇 介:目視観測距離の調査, 日本航海学会論文集, Vol.117, pp.167-173, 2007.

(7)

(5) 田崎 京二, 大山 正, 桶渡 涓二編:視覚情 報処理, 朝倉書店, 東京, 1979. (6) 大山 正:視覚心理学への招待-見えの世界への ア プ ロ ー チ-, 株 式 会 社 サ イ エ ン ス 社 , pp.216-231, 東京, 2000. (7) 朝海なつき, 山下三平, 松延直幸:距離の変化 にともなう色彩の見え方に関する基礎的研究, 土木学会第 59 回年次学術講演会講演予稿集, pp.4-165, 2006. http://library.jsce.or.jp/jsce/open/00035/2004/59-4/ 59-4-0165.pdf (2016.11.)

表 1	 被験者の属性	 	 	 	 	 	 	 	 	 	 	 	 	 	 3.2	 学生と乗組員の誤差率の違いについて	 	 図 1 に学生 7 名の目視観測における誤差率の結果 を示す。図 1 は横軸に観測回数、縦軸に誤差率を示 したもので、縦軸の「0」を誤差ゼロとし、プラス方 向をレーダー距離より遠くに見た場合の誤差率、マ イナス方向をレーダー距離より近くに見た場合の誤 差率として表したものである。ただし、同じ船を全 ての学生が同時に観測した訳ではないため、図の横 軸は個人毎の期間中における目視観測
図 6	 相手船の船体の色の割合  図 7	 船体の色の違いによる遠近の割合の傾向  (学生)  図 8	 船体の色の違いによる遠近の割合の傾向  (乗組員)  	 	 4.考察	 4.1	 学生と乗組員の誤差率の違いについて 	 本研究では学生 7 名と乗組員 8 名で目視観測によ る距離の推定誤差について誤差率を比較したところ、 乗組員と比べ観測回数を重ねても誤差範囲が安定し ない被験者もいた。距離感とは、経験に基づく記憶 や学習によって得られる認知距離と、物体の大きさ や形から得られる知覚距離の両方を

参照

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