『ハーモニカと七日間の妖精』 登場人物 緒川日乃(オガワ ヒノ) 高校2年生。面倒くさがり。ピノ。 月島美羽(ツキシマ ミウ) 日乃のクラスメート。ミュウ。 火下賢(ヒオロシ ケン) 日乃のクラスメート。ヒゲ。 水野明菜(ミズノ アキナ) 日乃のクラスメート。中森。 松木健吾(マツキ ケンゴ) 日乃のクラスメート。マツケン。 金城司(キンジョウ ツカサ) ハーモニカの妖精。 土裏居武(ドリーム) ハーモニカの持ち主。 すれ違う男性 ラーメン屋の店員 医師 看護婦
《月曜日》
暗闇。電車のガタガタという音が聞こえてくる。 うっすらと明かりがつく。 電車の中。緒川と、何人かがまばらに座っている。 ある男性にスポットが当たる。顔は帽子に隠れて見えない。 電車が駅に到着し、全員が立ち去っていく。 スポットの中にハーモニカが置いていかれる。それに気付く緒川。 緒川 お、おい、これ…。 その席に座っていたと思われる男に声をかけるも、下車した後で声は届かなかった。 ハーモニカを持ち、立ち尽くす緒川。 とりあえず、という感じでハーモニカを にしまい、立ち去る。 電車のガタガタという音が遠のいていく。 暗転。
《火曜日》
明かりがつく。学校の近くの公園。小鳥が鳴いている。 ベンチとゴミ箱がある。ゴミ箱には新聞が刺さっている。 緒川が出てくる。 緒川 腹へったー。ベンチに座り、 の中を探る。小銭を手に取り、それを見つめる。 緒川 うわ、今月、やばいな。 さらに の中を探ると、前日に拾ったハーモニカを見つける。 緒川 何だこれ…あ、そういえば、昨日。あーあ、ハーモニカより、金が欲しいんだけどなあ。 ハーモニカを手に取り、いろいろな角度から眺めてみる。 試しに、少し吹いてみる。音が出る。 緒川 なつかしいな、この音。(ベンチの下に何かを見つけて)ん? ベンチの下を探す。宝くじを一枚見つける。 緒川 宝くじじゃん。しかも最近のだ。 隣のごみ箱に目がいく。新聞を手に取り、広げる。 緒川 いや、まさか載ってるわけないよな。そんな展開、ありえないよな。 新聞をめくると、当選番号が載っている。 緒川 嘘!「サマーチャンス賞 五万円」?(新聞と宝くじを何度も確認しながら)昨日の新聞だよな。今年のだ よな。第七十六回サマージャンボ…合ってる。番号合ってる。全部合ってる、合ってる合ってる。マジかよ。 何でこんなの落ちてんだ?五万円って、やばいだろ。超大金だよ。だって五万円って言ったら…
金城が現れる。 金城 五円チョコ、一万個分だ。 緒川 そうそう、五円チョコ一万個分。 金城が通り過ぎる。 緒川 誰? 松木と水野がやってくる。 松木 (緒川に)なんだピノ、またお前、授業サボってんな。 水野 (松木に)あんたもね。 松木 (水野に)お前もな。 緒川 おお、マツケン、中森。ちょっとお前ら、見た?いま、すげえやばい感じのおっさんがいたんだ。見た? 水野 見てないけど。 松木 見てないな。やばいって、どれくらいだ? 緒川 なんだろう、こう…口では言い表せない…。 松木 中森とどっちがやばい? 水野 ちょっと、それどういう意味よ。 緒川 とにかくキャラの濃い感じのおっさんだったんだ。アイスで言うと、ハーゲンダッツくらい。 松木 濃厚だな。 緒川 格好が、夏なのに黒い帽子に黒いコートで。 水野 別にいいじゃない、そのおっさんは。もう会わないよ、きっと。
緒川 そうだといいけど。 松木 (緒川の手の中にあるものに気づいて)ピノ、それ何だ? 緒川 そうだった!聞いてくれ。なんと、宝くじを拾った。(と、宝くじを差し出す) 水野 は? 緒川 で、五万円当たった。 松木 何言ってんだこのバカチンが。 緒川 本当なんだ。第七十六回サマージャンボ宝くじ、サマーチャンス賞。ほら、あの、組とか関係ないやつ。 松木 何かの間違いだろ。ああ、それ、去年のサマージャンボか。第七十五回。 水野 どうせ、番号の見間違いとかでしょ。当たりくじが落ちてるわけないし。 緒川 いや、本当なんだよ。(二人に新聞と宝くじを見せて)ここ。間違ってないだろ? 松木 その新聞がニセモノなんじゃないか? 水野 宝くじがニセモノかも。 松木 なるほど。 緒川 お前ら、友達を信じる気持ちは微塵もないんだな。 松木 やめとけやめとけ。そんなもの持って行って、中森の言うとおりニセモノだったら、警察に連れて行かれるか もしれない。 水野 私たちは、友達が刑務所に行くのを引き止めないほど、悪じゃない。 緒川 違う。違うってば。いままさに、友達が幸せを掴みかけているんだぞ。一緒に喜んでくれよ。 水野 人間、冷静さを失ったらそこで終わりなのよ。 松木 五万くらい、親に頼めばいいだろ。 緒川 うるさい、金持ち。じゃあ、もしこれが五万円だったら、どうしてくれる。 松木 馬鹿なこと言うな。本当だったら、三回回って「ワンダフル」って言ってやる。 水野 (松木に)あんたねえ。 緒川 よし、行ってくる。
緒川が走り去る。 水野 ちょっとピノ、本当に行くの?(松木に)追いかけないと。 松木 あいつとは短い付き合いだったが、楽しかった。 水野 何言ってんの、もう。行くよ。 水野が松木を引っ張って、緒川の後を追う。 暗転。 舞台中央にスポットが当たる。音楽。 そこに松木が現れる。 松木 (三回回って)ワンダフル! 明かりがつく。 緒川が、五万円をこれ見よがしに片手に持って出てくる。 もう一方の手には携帯電話。 緒川 やっべ、当たっちゃった。 水野も後から出てくる。 水野 信じらんない。まさか本当に当たりくじだなんて。 緒川 (松木に)あ、いまのムービーで撮っといたから。おまえの妹の美遊ちゃんに送信するけど、いいかな? 松木 勘弁してください。 水野 ねえ、ピノが五万円も持ってるのって、実は人生初なんじゃない? 緒川 よく気付いたな。一万円札を手に取ることが、三年ぶりくらいだ。なんかどうしよう、はにかみすぎて、自分
の顔が気持ち悪いのがわかる。 松木 うわ、気持ち悪い。 緒川が携帯電話のボタンを打ち始める。 緒川 ええっと、マツケンの妹のアドレスは、と。 松木 あっ…か、かっこいい。ピノくんかっこいいよ。よっ、男前。 緒川 ついに来た、俺の黄金期。 松木 良かったな。この際だ。俺が貸しているピノの借金額を、半額免除にしてやるよ。 緒川 半額免除!本当か? 松木 ああ。友達の奇跡を目の当たりにして、俺もおかしくなったようだ。それで、そのムービーを消すって約束し てくれないか。 緒川 消す消す。いま消す。(携帯電話を取り出し、操作して)はい消した。これでいいだろ? 松木 はー、良かった。人生終わったかと思ったよ。 緒川 これで「約束は無し」なんてダメだからな。中森が証人だ。(と、水野を見る) 水野 はい、聞きました。 松木 おいおい、俺がそんな心の小さい人間に見えるか?男に二言は無い。 緒川 借金半額免除か…今日はなんていい日なんだ。よっしゃ、これで借金生活ともおさらばだ。(松木に)それ で、残り、いくら返せばいい? 松木 そうだな…(電卓を取り出し)貸してた金額の…合計を…二で割ったら…ああ、五万七十五円だ。 緒川 松木健吾の鬼!悪魔! 水野 宝くじ、拾った意味無いじゃん。というか、ピノ、マツケンに十万も借りていたの?というよりマツケン、ピ ノに十万も貸していたの? 松木 なぜか出会った時から、俺の財布、イコール、ピノの財布だ。ちなみに今年は、俺がピノにお年玉をやった。 水野 あんたは金持ちの親戚か。
松木 ま、半額になったんだ。(緒川から五万円を取り上げて)これはいただくがな。 緒川 ああっ、俺の五万が。 水野 元はと言えば、あんたのじゃないでしょ。 松木 だが、これで借金はほぼ完済だ。よかったな。もう少し友達の譲歩に感謝してもいいんじゃないか。肩もんで くれるとか。 緒川 そりゃ、そうだけど…いや待て、冷静に考えると、半額免除っておかしくないか? 松木 そんなことないさ。 緒川 そんなことあるって。俺が言うのもなんだけど、結局おまえの損失、約五万円だぞ。いくら金持ちとはいえ、 普通ならありえないだろ。裏があるな。 松木 裏なんてないさ。俺が嘘ついたことなんてあったか? 緒川 嘘ついてばかりの人生だろ。 松木 なんて口の悪い高校生なんだ。 緒川 おまえには言われたくない。 水野 マツケン、そろそろ戻らないと、時間やばいよ。 松木 あ、そっか。じゃあな。 水野と松木が去ろうとする。 緒川 おい、どこ行くんだよ? 水野 六限の物理は出ないとまずいからね。 緒川 なんだ、授業か。サボればいいのに。 松木 悪いが、君と違ってこっちは大変なんだよ。じゃあな、文系。 緒川 うるせえ、理系。 水野と松木が去る。
緒川 くそ…せっかく五万も手に入れたのに、一円も使えないなんて。どうせなら一億円当たっても良かったのに。 金城が現れる。 金城 金が手に入ったんだ。贅沢言うな。 緒川 (驚いて)…出た、ハーゲンダッツ。 金城 ハゲから始まる単語を人の呼び名にするんじゃない! 緒川 誰なんすか、あんた。あ、もしかして…この五万円の持ち主になるはずだった人とか。 金城 違う。聞いて驚け、私の名は、オーランドブルーム。 間。 緒川 さ、ゲーセン行こうかな。 金城 もうちょっと会話しようよ。 緒川 …夏なのにその格好、あなた、大丈夫ですか。 金城 暑いに決まってるだろ。しかしキャラ的に、この格好じゃないとダメなんだ。出来ればこの出会い、冬が良か った。 緒川 冬が良かったって…まるで出会うことが決まってたって言い方だ。 金城 ああ、その通りだ。お前がハーモニカを拾った瞬間から、お前はこの物語の主人公だ。そしてこれは、物語に 必要な要素①『出会い』。 緒川 え?主人公? 金城 そうだ。申し遅れたが、私は、お前が持ってるハーモニカの妖精だ。 緒川 妖精? 金城 もう気付いただろう。お前が拾ってしまったハーモニカ、それがこの物語の であるということに。
間。 緒川 ごめん。俺、そういうの面倒くさいんだよね。 金城 え…っえ?あれ?今までのケースだとそんなリアクションは…。え、マジですか? 緒川 マジです。いや、なんか、そういうのは性に合わないっていうか。厄介ごとに巻き込まれるのは勘弁。 金城 こ、困るなあ。こっちはそういう態度でこられるのを予想していないんだよ。(テキストを出す)ほら、妖精 にもマニュアルがあるし。しかも、ほら、君用にピンスポットまで用意してある。 金城が指を鳴らす。 それに合わせて緒川にスポットが当たり、消える。 金城 そのうえ、ほら、お客さんに配ったパンフレットには、君が主人公っぽく書いちゃってるんだよ? 緒川 申し訳ないけど、他の人探してくれない? 金城 本気で言ってるのかね? 緒川 それ、俺の台詞。 金城 そっかあ…。わかったよ。じゃあ…帰るわ。これ返して。(と、緒川からハーモニカを取り上げる) 緒川 ちょ、ちょっと。それ、あんたの? 金城 まあな。(去りながら)あーあ。このハーモニカを吹けば、どんな願いも叶えられるのになあ…。 間。 金城 残念だ。 緒川 待って! 金城 (振り返って)何?
緒川 それ、一番最初に言ってくれよ。 金城 だって君、やる気なさそうだったから。 緒川 違うんだ。実は、俺は面倒くさがりじゃなくて「ラクしたがり」なんだよ。 金城 どっちもいいもんではないが。で、どうするんだ? 緒川 やります!俺、主人公やります! 音楽。 緒川にピンスポット。 緒川 こうして俺は、不思議なハーモニカと変態のおっさんに出会った。まさか俺がこんな面倒なことをやるなんて 予想外だけど、願いが叶うハーモニカだぜ!これは使わない手はない。その妖精が変態ってのが残念だけど、 それは我慢しよう。まあ物語に変態はつきものだから… 金城が別スポットで現れる。 金城 こら!私はまだ変態の部分を出していない! 緒川 「まだ」ということは、自分が変態ってことを認めるんだな。 金城 しまった! 金城のスポット、消える。 緒川 (ハーモニカを取り出す)それで、このハーモニカなんだけど。俺以外の人間には見えないし、音色も聞こえ ない。使い方は簡単。このハーモニカを吹く前に叶えたい願いを言葉にして、吹く。それだけでいいらしい。 金城にスポットが当たる。
金城 しかし。願いを叶えるのは妖精の私である。つまり私が承認したこと以外、叶えられない。私にも出来ること と出来ないことがある。この条件の下で、彼はハーモニカを使えるというわけだ。 緒川 そんな条件要らないのに。おっさんは「宝くじの一等が当たる」とか「透明人間になる」とかは叶えてくれな いらしい。そこまでの能力がないとかなんとか。あくまで現実的などうたらこうたらっていう… 金城 あくまで現実的な奇跡を起こす!by妖精。 緒川 それって奇跡と言わないんじゃないか? 金城 態度がでかいな。それが願いを叶えてもらう側の態度か。 緒川 くっ…すみません。(緒川のスポット、消える) 金城 それでいい。ふっ、一時はどうなることかと思ったが、特に、私のキャラがどうなることかと思ったが。どう やら話は順調に進んでいきそうだ。(緒川のいた方を見て)彼がどんな物語を作るのか、見ものだな。 暗転。
《水曜日》
明かりつく。 午前の授業終了後の教室の風景。緒川、松木、水野がいる。 教室内はざわめいている。 松木 ピノ、購買でパン買ってきて。 緒川 何言ってんだ。自分で行ってこいよ。 松木 借金、半額にしてもらったのは?緒川 俺です。くそ、行けばいいんだろ。 松木 そういうこと。(緒川にお金を渡して)焼きそばパンと伊右衛門、頼む。 火下が現れる。 火下 どうしよう、自転車のサドルが無いんだけど…。 緒川 (火下に)ヒゲ!ちょうどいいや。焼きそばパンと伊右衛門買ってきてくれない?(と、お金を渡す) 松木 (緒川に)おいおい、ヒゲに行かせるつもりか? 緒川 (火下に)サドルが無くなったって?焼きそば食って元気出せ! 松木 いや、食うの俺だろ。 火下 それでサドルが返ってくるなら… 水野 返ってこないわよ!(松木に)というか、あんたが食べるなら自分で買ってきなさいよ。 松木 そうしたら借金半額にした意味が無いじゃないか。 水野 もとからピノをパシリとして利用するつもりだったのね。 松木 五万円分、しっかり働いてもらわないと。 緒川 (火下に)な、さっと行ってくるだけじゃないか。 火下 でも、それはピノが行っても同じじゃない? 緒川 同じじゃない。なぜならヒゲ、お前は五十メートル六秒二。俺は十二秒八。 水野 ピノってそんなに足遅かったっけ? 松木 あいつ、体育の授業で本気出すことないからな。典型的な「やる気無し人間」だからな。 火下 でも、購買まで走る人いないよ。 松木 (ピノに)諦めて行って来い。借金男。 緒川 …くそ、いつか自己破産してやる。 教室を出ようとする緒川。
そこに月島が入ってくる。 月島 あ、ピノ。 緒川 月島。四時間目、どうしたの?サボり? 月島 (笑って)ピノじゃないんだから。保健室で寝てた。 緒川 調子悪いのか?帰って寝てたほうがいいよ。月島、調子悪くても無理するところあるだろ。 月島 大丈夫、大丈夫。寝たらスッキリした。 水野 (月島に)ミュウ、四時間目のノート取っといたよ。見せてあげる。 月島 ありがとうアキ、助かる。(と、水野の下へ駆け寄る) 火下 ねえミュウ、僕のサドル知らない? 月島 えっ、知らない。 水野 知っているわけないでしょ。 松木 (緒川に)ほら、お前は早く買って来い。 緒川 へいへい。 緒川が去る。それを見送る四人。 月島 ピノ、どうしたの? 火下 マツケンにパシられたみたいだよ。 松木 …いつも思うんだけど、あいつわかりやすいな。 水野 本当にね。 月島 何のこと? 松木 秘密。月島には言えないな。 水野 ミュウは察せないタイプだもんね。 月島 何よ二人して。ねえ、ヒゲは知ってるの?教えて。
火下 最近、わかった。でも教えない。 松木 おお、お前もこっち側か。(火下を招く)いらっしゃい。 火下 お邪魔します。 火下が松木サイドに座る。(三対一の構図になる) 火下 いいね、こっちからの眺めは。 月島 何のことかさっぱりわからない。もういいよ、昨日の小テストの話でもしよう。 松木 頼む、その話は勘弁してくれ。 水野 何点だったの? 火下 マツケンは五十点中、五点だったの。 緒川が教室に突っ込んでくる。 手にはレジ袋。荒い息。 緒川 かっ…買って来たぜ。 火下 早っ! 松木 お前、走ってきたのか?馬鹿だなあ。(と、緒川から袋を受け取る) 火下 おかしくない?ピノが校舎内で走るっておかしくない?明日は雪かも! 水野 なにも、走って買ってこなくてもいいのに。 月島 きっとピノは、マツケンを待たせたくなくて急いで買ってきたんだよ。すごい奉公の精神なんだよ。 水野 それこそ雪が降りそうね。 松木 おい、なんだこれ。(と、クッキーの袋を取り出す) 緒川 俺用のクッキーだ。 松木 ピノ、おまえがクッキーを愛しているのは知っているが、勝手にお駄賃をもらおうとするんじゃない。
水野 それくらい、許してあげなさいよ。 松木 (取り出して)おい、生茶じゃねーか!伊右衛門って言ったろ。(ペットボトルを緒川に渡して)はい、買い なおし。取り替えてきて。 火下 なんて酷いことを…。 水野 暴君ね。 松木 ほら、行って来い。 緒川 …のやろう。あ、そうだ。松木を黙らせろ。(と、ハーモニカをポケットから取り出し、吹く) 松木 (緒川に)おい、いま何て言いやがった。俺を黙らせろだと?なんだ、やんのか? 金城が現れる。 金城 コンドルが、めりコンドル。 間。 緒川 たしかに黙ったけど…方法間違ってるだろ。みんなも黙っちゃったよ。 松木 (金城に)あ、あんた、誰だ? 金城 アンジェリーナジョリーだ。 緒川 オーランドブルームじゃなかったのかよ。 金城 手短に言えば、妖精だ。 緒川 手短すぎるぞ。(小声で金城に)というか、あんたの姿は俺にしか見えないとか、そういうのじゃないのか? 金城 思い込みもいいところだ。私はけっこう寂しがりやだから、みんなに見える設定にした。 緒川 無茶苦茶だな、おい。 月島 (水野に)先生呼んできたほうがいいかな…。 金城 待ちたまえ。私は怪しいものではない。そう、つまり私は、願い事…
緒川 ねがいんしつ、根が陰湿なんだってさ! 金城 いきなりそんな紹介しちゃうのかい? 火下 (ひそひそと)ピノの知り合いっぽいね。 松木 (ひそひそと)この時期にあの格好はやばいな。 水野 (ひそひそと)ホームレスかな。 金城 (水野を指して)そこの君!今のはいただけないな。私はホームフルでハートフルだ。なにより、その発言は ホームレスの方々に失礼だ。 水野 ご、ごめんなさい。 月島 (金城に)つまるところ、あなたは誰なんですか? 金城 ああ、私は… 緒川 あー、この人は、俺の伯父さんだ。 火下 え? 緒川 いつもは、うん、埼玉に住んでるんだけど、出張の関係で、昨日からウチに泊まってるんだ。仕事は明日から で、今日は休みらしい。服装は鬱陶しいけど、こういうポリシーなんだとさ。わかってやってくれ。 松木 本当かよ? 緒川 本当だ。 間。 松木 なんだ、早く言えよ。 月島 (金城)そうだったんですか。失礼しました。 金城 (緒川に小声で)お前の友達はみんな、詐欺に引っかかりそうだな。 松木 それで、あなたの本当の名前は? 金城 私は…そうだな、成宮傑だ。 月島 成宮さんですか。よろしくお願いします。
火下 ちょっと今「そうだな」って言ったよ?おかしくない? 水野 お仕事は何をされているのですか? 金城 仕事は、そうだな、ヤマダ電機の販売員だ。 月島 へえー、そうなんですか。 火下 今また「そうだな」って言ったけど!しかもこんな人が店員だったらちょっとやだ… 金城 (火下を指して)そこの君!今のはいただけないな。私は敏腕社員だ。傾きかけた店舗を一週間で建て直すそ の姿からついたあだ名が「妖精」。 緒川 もう、満足だろ?(四人に)じゃあ俺、伯父さん送ってくから。(と、金城を引っ張る) 松木 お、おう。 緒川と金城が去る。 松木 ハーゲンダッツのような人だな。 月島 ピノの親戚って、初めて会ったね。 水野 言われてみれば、そうだ。家族も兄弟も、見たことがないよね。 火下 マツケンは、誰か会ったことあるの? 松木 あいつは一人っ子だから、兄弟はいない。親父さんは、昔一度だけ見かけたことがある。 月島 …そうなんだ。 火下 (松木の手の中を見て)結局、生茶のままだね。 松木 あの野郎。(火下に)じゃあヒゲ、替えてきて。 火下 言わなきゃよかった。 明かり消える。代わりに、別の明かりが緒川と金城を照らす。 緒川 なんで出てきたんだよ。
金城 お前がハーモニカを使ったからだろう。 緒川 そうじゃなくて。なんでみんなの前で姿を現したのかってこと。 金城 だから言っただろう。寂しかったって。 緒川 あんたは子供か。 金城 そう言うなら、もうみんなの前には出てこないが。お前がハーモニカを吹かない限り、な。 緒川 なんだよ、その言い方。 金城 どうせお前はハーモニカを使うだろう。昨日も散々使ったじゃないか。まあ、どれも失敗していたが…。お前 がハーモニカを吹く時ぐらい、出てきてもいいだろう。 緒川 別にいいけど。もうみんなの前では吹かないから。 金城 どうだかな。(と、歩き出す) 緒川 おい、どこに行くんだよ。 金城 ヤマダ電機に、「iPhone」を買いに行く。 緒川 …。 金城が去る。 明かり消え、代わりに四人を照らす明かりがつく。 教科書を持った緒川が入ってくる。 教師(声) 何しているんだ緒川、もう授業始まっているぞ。 緒川 すいません、トイレ行ってて遅くなりました。 教師(声) 早く席に着きなさい。 ※教壇は舞台袖にある、という設定。 そのまま席に着く。 五人の席は固まっている。
松木 ピノ、後でちゃんと焼きそばパンに取り替えてこいよ。 緒川 売店があいていたらな。 月島 ねえ、結局、おじさんは何しに来たの? 緒川 ああ、なんか忘れ物を届けにきてくれた。英語のファイル。 水野 ふーん。 火下 何歳なの?よく見たら、けっこう若く見えたけど。 緒川 …たぶん今年で三十二。 火下 母親の?それとも父親の?年齢的に、弟さん? 緒川 そんなこと、どうでもいいだろ。 松木 そういえば、おまえの父親も髪長かったよな。じゃあ父方か? 緒川 (机を叩き、立ち上がって)うるせえな!どうでもいいって言ってるだろ。 緒川の態度に驚き、一瞬黙る四人。 教師(声) 緒川。静かにしなさい。 不機嫌そうに席に着く緒川。 間。 教師(声) 課題のプリント、今日までだったな。全員、提出。 クラス(声) えー。 教師(声) ほら、早く出しにこい。 生徒が動き回る時のざわめき。
緒川と月島以外の三人も立ち上がって教壇に提出しに行く。 月島 ほら、私たちさ、ピノの家族とか親戚とか、あまり話聞いたことないから。ピノのことを知りたかっただけ で…。ごめんね。 月島が教壇に提出しに行く。 一人座っている緒川。ため息。 課題プリントを探す。 緒川 あれ、ない。やばい、これ出さないと、そろそろ成績が…(ポケットからハーモニカを取り出し)…仕方な い、使うか。 「非の打ち所のない、今日提出の課題プリントが欲しい」 ハーモニカを吹く。 金城がプリントを持って現れ、先生のもとへ向かう。 (金城が舞台を横切って袖へ行く) 金城 すみません先生、これ、緒川のプリントです。 緒川 あんたが出すのかよ! 教師(声) 誰ですか、あなたは。 金城 緒川日乃の叔父です。忘れ物を届けに来まして。 教師(声) ああ、そうでしたか。ありがとうございます。 金城 お邪魔してすみません。では、失礼します。 金城が舞台を横切って去る。
緒川 みんな、咎めろよ。不審者だぞ。 四人が帰ってくる。 松木 伯父さん、送っていったんじゃなかったのか。 水野 どうして忘れ物、英語のファイルと一緒にもらわなかったの。 月島 すごい堂々と教室に入ってきたね。 火下 コート脱げばいいのに。 教師(声) 緒川、プリントの名前が「金城司」になってるぞ。 緒川 もおおぉぉぉーーー! 緒川、教壇の方へ去る。 明かり消える。代わりに、別の明かりがつく。 そこは緒川の家。しかし、誰かがいる気配はない。 金城が現れる。緒川の気配に気付き、物陰に隠れる。 を持った緒川が、ドアを開けて現れる。 緒川 (ため息をついて)…ただいま。 を放り、ソファに腰を下ろす。 遠くを見つめる。間。 金城が物陰から現れる。 金城 おかえり。 緒川 (驚いて)なんだよ、いたのか。
金城 今日はハーモニカを使って、はじめてまともに願いが叶ったな。 緒川 小さな願いだけどな。…というか、あんた、姿現さなくていいだろ!しかも直接提出しやがって。大体な、俺 のプリントに変な名前書くなよ。「金城司」って誰だ。 金城 私だ。「金城司」って、なんかカッコいいだろう。 緒川 成宮傑じゃなかったのか? 金城 人は日々、変化していくものだ。 緒川 意味がわからない。 金城 そういえば、さっきこれを見つけたんだが。 緒川 ほら、困ったらすぐ話題を変える。 金城が、写真立てに入った写真を見せる。 それは、緒川と家族の写真。緒川とその両親の家族三人が仲良く写っている。 緒川 …触るな! 緒川が金城から写真を奪い取る。 金城 寂しいのは、私じゃなく、お前のほうじゃないか? 緒川 …。 金城 家族のこと、どうして友達に話さないんだ。 緒川 別にいいだろ。 金城 同情されたくないから。違うか? 緒川 あんたには関係ない。 金城 おまえの友達は、お前のことを知りたがっている。楽しいことも、つらいことも、分かち合いたいと思ってい る。
緒川 どうしてあんたにそんなことがわかるんだ。 金城 妖精だからな。 緒川 …。 間。 金城 特に月島美羽は、そう強く思っているはずだ。 緒川 月島が…? 金城 おまえ、気になっているんだろう? 緒川 ち、ちげーよ。 金城 隠さなくてもいいぞ。夢見てるんだろう?あの子と付き合って、ディズニーランドに二人で行く日を。 緒川 いや、そこまでは。 金城 そのうえ、スプラッシュマウンテンでシャッター切られる瞬間にキスしちゃって、その写真をちょっと高いけ れど買っちゃって、それを部屋に飾って眺めちゃうんだろう! 緒川 何言ってんだ。 金城 (緒川の言葉は耳に入らず)それだけじゃない。ゆくゆくは結婚して、子供は十一人で、サッカーチームを作 るんだ。四女がクリアしたボールを、次男がドリブル。長女がパスして、六男がスルー。それを長男がシュー トして決めるんだ!ゴーール! 緒川 …。 金城 (咳払いして)まあ、そういう可能性も… 緒川 ゼロとは言えないな。 金城 ゼロとは言えないだろう。 緒川 …なんだか、あんたが来てから息つく暇もない。 金城 いいだろう、こういうキャラも。 緒川 本人が言う台詞じゃない。
金城 さあ、今日は二人で映画でも見よう!(去りながら)さっきお前のベッドの下で面白そうなDVDを見つけ たんだ。 緒川 ちょっと待て、それは違う… 緒川が金城の後を追う。 暗転。
《木曜日》
朝の教室の風景。 明かりつく。松木、水野、火下がいる。 松木 …っつーわけだ。これはもう間違いないだろ。 火下 なるほど、さすがマツケン。 松木 おい中森、話聞いてるか? 水野 ああ、ごめんごめん、聞いてなかった。 松木 聞いてくれよ。 火下 (時計を見て)二人、遅いね。寝坊かな。 水野 今日の言い訳はなんだろうね。 月島が教室に入ってくる。 月島 ごめん!ローソンの近くの歩道橋で、通りかかったお婆さんの荷物を持ってあげてたら、遅くなっちゃった。水野 寝坊でしょ。 松木 寝坊だな。 火下 寝坊だね。 月島 うっ…それはそうと、話し合い、どこまで進んだ? 水野 まだ、全然。 月島 えー、じゃあ二十分間、何してたの? 松木 お前の言う台詞じゃない。 月島 ご、ごめんなさい。 水野 じゃあ、ぼちぼち始めようか。ミュウも来たことだし。せっかく朝から集まってるのに何も決まらなかった ら、意味無いものね。 火下 ちょっと待って。ピノがまだだけど。 松木 そろそろ来るだろ。 金城が現れる。 金城 おはよう。 火下 違う人が来ました。 月島 伯父さん!今日も仕事休みですか? 金城 いやいや、今日は出勤が遅くてもよいのでね。出社前に日乃の輝かしいスクールライフでも見ようかと思って 立ち寄ったのだが…。 水野 まだ来てません…というか、ピノと一緒に住んでいるのでしょう? 金城 あれ、おかしいな、あいつのほうが先に家を出たのだが。 火下 それに、この時間はまだ学校始まってませんよ。今日は朝早くに集合して、学園祭の話し合いをしているんで す。 金城 それは面白そうだな。聞いていてもいいかい?
松木 構いませんけど、(時計を指して)いいんですか? 金城 大丈夫だ。時間になったら失敬するよ。 水野 じゃあ、始めよっか。 話し合いが進行する。 月島 …いい案、出ないね。 水野 どうしようか。 金城 ちょっといいかな? 月島 何ですか? 金城 どうして君たちだけで、学園祭の出し物を決めるんだい?クラスメート全員で考えるものではないのかい? 水野 クラス全体で話し合ったら、話がなかなか進まなかったんです。そしたら「実行委員を作って、そこで話し合 ってもらえばいい」ってことになって。それで今のこの状況になったというわけです。 月島 他のみんなは部活の大会が近いしね。しょうがないよね。 火下 うーん…。 金城 ちょっといいかな? 松木 何ですか? 金城 そろそろ、お客さんも君たちのあだ名の由来を知りたいと思っている時間帯だと思うのだが、教えてくれない かな? 松木 お客さん? 火下 ええ、いいですよ。(松木を指して)マツケンは、松木健吾を略して「マツケン」。 金城 松山ケンイチもしくは松平健とかぶるな。 松木 (水野を指して)中森は、本当は水野明菜って言うんですけど、中森明菜にちなんで「中森」って呼ばれてま す。 金城 おまえたち、本当に高校生か?
水野 (月島を指して)ミュウは、下の名前の美羽を言い続けてると「ミュウ」になる、という由来です。 金城 子どもが出来たら「ミュウツー」だな。 松木 で、こいつは火下。ファイヤーとアンダーで、火下。だから「ヒゲ」です。 水野 髭、生えてないのにね。 火下 僕だけでいいから、あだ名、変えてよ。ヒゲって呼ばれて、嬉しい人いる? 水野 いまさら無理よ。 月島 (金城に)ピノは、日乃からちょっと変わっただけですね。 金城 なるほど。じゃあなぜ、松木君は月島さんをあだ名で呼ばないんだい? 松木 それは… 月島 マツケンの妹さんが美遊<ミユ>って名前だから。 水野 妹を呼んでる気がしちゃうそうです。 火下 (ぼそっと)シスコン。 松木 うるせえハゲ。 火下 ヒゲです。 金城 フッ、面白いねえ、君たちは。(時計を見て)おっと、そろそろ行かなければ。余計な一言かもしれないが、 映画を撮るなんて面白いかもしれないぞ。では、また。 金城が去る。 間。 松木 映画か、いいかもな。 水野 思いつかなかった。 火下 面白そう! 月島 いいじゃん!映画、撮ろうよ! 松木 よし、決まりだ。当日は映画の上映にしよう!
火下 舞台挨拶なんかしちゃってさ。 月島 ラストはお客さんがドキドキするような、ラブラブなシーンにしちゃってさ。 水野 主題歌要るよね。何にしようか… 松木 お前ら、ちょっと待て。 三人が松木を見る。 松木 順序良く決めていこう。 火下 …どうしたの。いつになく真面目に。 水野 どうせ何か企んでるんでしょう。 月島 いや、でもほら、一応リーダーだし。 松木 まず!ラブストーリーにしたいと思う。 間。 火下 まさかマツケンの口から「ラブストーリー」という単語が出てくるとは。 松木 うるさいな。いいだろ別に。 月島 いいね!私は激しく賛成します! 水野 …ははあ、なるほどね。いいんじゃない? 松木が水野を見てニヤッとする。 松木 それで、ヒーロー、つまり主人公はピノにやってもらおうと思う。 火下 ピノはどうかなあ。やる気ないし。 水野 でも、実行委員から出さないと、クラスのみんな、文句言うわよ。
月島 そもそも、ピノが実行委員っていう状況が奇跡だよね。 松木 あいつは今日も遅刻しているわけだし、文句言えないだろう。 火下 かと言って、ピノにできるのかな。台詞とか覚えられなさそう。 松木 そう言うお前にも無理だろうな。 水野 (松木に)そう言うあんたもね。 火下 ピノが主役か…。あれ?待てよ…はっ!そういうことか! 火下が松木と水野を見る。二人がうなずく。 火下 …いいんじゃない?ピノで。 松木 よし。じゃあピノでいこう。月島もそれでいいか? 月島 みんなが推すなら。 松木 オッケー。次にヒロインだけど… 緒川が教室に駆け込んでくる。 緒川 ごめん。ローソンの近くの歩道橋で、通りかかったお婆さんの荷物を持ってあげてたら、遅くなった。 火下 言い訳が…ミュウと全く同じだ…。 緒川 なんだと…? 松木 お前がお婆さんの荷物持ってたって?「油田掘り当ててました」のほうがまだ信じられる。 水野 ミュウはさっき、嘘ついたのかしら? 月島 た、多分あのお婆さん、忘れ物したんだよ。だからきっとUターンしたんだ。 緒川 ああ、そうそう。忘れ物したって言ってた。 火下 別のお婆さんじゃないか、って言えばいいのに。 月島 たしかに。
松木 月島は寝坊で、ピノはゲーセンにでも行ってたんだろ。(緒川に)罰としてお前、主人公な。 緒川 いや、主人公ってもうすでに…って、それは別の話だった。何のだよ。 松木 学園祭の出し物。映画を撮ろうってことに決まった。 緒川 冗談じゃねーよ、面倒くせえ。無理無理。絶対、嫌だ。 松木 借金って言葉、知ってる? 緒川 悪だ。こいつは悪だ。 松木 それはどっちだ。借金踏み倒すほうがよっぽど極悪だ。 月島 (火下に)借金って、どうしたの? 火下 ピノがマツケンに借金してるんだって。 緒川 というか、あのときの約束は何だったんだよ。ムービー消す代わりに借金半額って約束は。(水野に)なあ、 中森。 水野 もう、主役くらい引き受けちゃいなさいよ。男らしく。 緒川 んなアホな。(火下に)ヒゲ。お前ならこの状況、ひどいと思うだろ? 火下 うん、でも断れない状況だよね。 緒川 ぐ…。(月島に)月島、何か言ってくれよ。 月島 ピノは嫌かもしれないけど、この機会にチャレンジしてもいいんじゃない?って、ちょっと思う。 緒川が四人を見回す。 緒川 くそ、わかった、やればいいんだろ。ただ、なるべく楽な役割にしてくれよ。台詞とか少なくしろよ。 松木 わかってるじゃないか。(火下に)書記、書いといて。 火下 はい。(と、書く) 松木 で、ヒロインだが…月島にやってもらおうと思う。 緒川 え? 月島 私?無理だよ無理無理、絶対に無理!
松木 大根役者のピノを支えられるのは月島しかいない。 緒川 ちょっと待て。 月島 別に、他の人でもいいじゃん?この中から決めなくたって… 火下 この中から決めなくちゃダメなんだ! 月島 なんでそんなに必死なの。 水野 やってごらんよ。意外と楽しいかもよ。 月島 だって… 松木 じゃあ、多数決を取ります。ヒロインは月島美羽さんでいいと思う人。 松木、水野、火下の三人が一斉に手を挙げる。 水野 はい決定。書記、書いといて。 火下 はい。(と、書く) 緒川 おい。 月島 ちょっと待ってよ。嘘でしょ? 松木 脚本はどうしようか。 水野 私が書くわ。文章なら任せて。書記。 火下 はい。(と、書く) 松木 監督は、仕方ない俺がやろう。書記。 火下 はい。(と、書く)撮影は僕がするよ。うちにビデオカメラあるから。書記。はい。(と、書く) 水野 エキストラはクラスのみんなでいいか。 松木 順調だな。なんか久しぶりにやる気が出てきた。 火下 楽しみだね。 月島 ねえ、本当に私がやるの?アキのほうがいいよ。 水野 大丈夫。ミュウがやりやすいように書いてあげるから。
緒川 なあ、そもそも、映画って案、出したの誰だよ。 松木 ナイスアイディアを授けてくれたのは、お前の伯父さんだよ。さっきまで来てたんだけど… 緒川 悪い。トイレ行ってくるわ。 緒川が教室を出る。 火下 どうかしたんだね。 松木 ああ、どうかしたんだな。 月島 なんで? 松木 あいつが突然トイレに行く時は、たいてい、何か問題があった時だろ。 明かりが消える。変わりに別の明かりがつく。 そこは学校の男子トイレ。緒川が出てくる。 緒川 いるんだろ?おっさん。 便座に座っている金城が個室の扉を開ける。 金城 なんだ、どうした。 緒川 そこから出てくるのかよ。 金城 ちょっと、もよおしていました。 緒川 あんた、こうなるだろうと思ってただろ。 金城 主人公のことか?いや、まあ「主人公の主人公」って面白いかな、と思って。いいチャンスじゃないか。 緒川 (ため息)全く、好き放題やってくれたな。ここで今、たとえば「マツケンを映画の主人公にしてください」 って言って、ハーモニカ吹いたら、どうなる?
金城 残念ながら叶えてやれんな。 緒川 「中森をヒロインにしてください」も、か。 金城 聞くまでもないだろう。 緒川 あのさ、おかしいよ。絶対おかしい。願いを叶えるハーモニカを持ってるのは俺なのに、あんたの願いのほう が叶ってるじゃないか。 金城 そうか?そんなことないと思うが。大体お前は消極的すぎるんだ。これも運命だと思って、積極的にドーンと 行ってこい。ドーン。 チャイムが鳴る。ホームルーム開始の合図。 金城 ほら、早く行け主人公。これは、物語に必要な要素②『恋』だ。 緒川 (去りながら)…なんだ、それ。 緒川が去る。 金城 あ、紙がない。ピノー、ピノくーん! 明かりが消え、再び教室が照らされる。 三人が必死に、月島を説得していた様子。 緒川が教室に入ってくる。 月島が立ち上がり、緒川に手を差し出す。 月島 せっかくだから、一緒にがんばろう。ね。 緒川 …お、おう。
二人が握手する。 残る三人がそれにやにやしながら見ている。 音楽。 明かりが消え、金城にスポットが当たる。 金城 来た来た来た来た、来たよこの展開!こういうの大好きなんだよね。ヒーローとヒロインの急接近。(時計 を見て、客席に)お客さん、多分あと二十分くらいでキスシーン来ますよ。もうズームで撮っちゃっていいで すよ。たぶん、ちゅって軽いやつじゃなくて、もっとこう、ディープな… 緒川にスポットが当たる。 緒川 そんなシーンねえよ!それに当劇場内は撮影禁止でございます。 金城 (咳払いして)何だ。いたのか。 緒川 俺がこの物語の主人公なんだろ?なんであんたがモノローグしてるんだよ。 金城 お、ようやく主人公としての自覚が芽生えてきたか。よしよし。 緒川 大体、あんたが変なこと言い出すから、妙に意識しちまうじゃないか。 金城 いい傾向だ。教えてやろう。恋というものは、「好き」と言われてそこで始まるものなのだ。 緒川 おっさん、女性と付き合ったことあるの? 金城 …。 緒川 あのさ、おっさん。俺にとっては、みんな友達なんだ。マツケンもヒゲも中森も、もちろん月島も。想像する のは勝手だけど、今の関係を壊すような真似はやめてくれ。 金城 勘違いしているな。今の関係が、ずっと続く保証は、どこにもない。 緒川 そりゃ、そうだけど。 金城 お前が今のままでいいとしても、他の人はそうでないかもしれない。 緒川 え?
金城 あの子も、今のままじゃ不満かもしれないぞ。 緒川 な、何言ってるんだよ。 金城 可能性はゼロじゃない。もしそうだったとしたら、どうするんだ。それでも今の距離のままでいるつもりか。 緒川 それは… 金城 フッ。悩め若造。悩むのが、お前たちの仕事だからな。さ、私は帰っておまえの隠しDVDでも見るか。たし か「OLの禁断の業務後…」(と、去ろうとする) 緒川 やめろおおぉぉぉーーー! 緒川、金城の後を追って去る。 暗転。
《金曜日》
教室の風景。放課後。 五人がいる。明かりつく。 水野 で、これが台本。(と、台本のコピーを四人に渡す) 火下 (表紙を見て)「空色デイズ」 緒川 へー、これ、一晩で書いたのか。すげえな、中森にこんな才能があったとは。 月島 アキは本読むの好きだもんね。 火下 (めくりながら)百八ページもあるんですけど。 水野 授業中もずっと書いてたんだ。松木 全く、そういうやつがいるから教師が困るんだ。 火下 そう言うマツケンはiPodで音楽聴いてなかった? 松木 違います、それは挿入曲の選曲作業です。 水野 ああっ、それ、私やりたかったのに! 松木 ちなみにこの台本、監督による検閲済みだ。安心してくれ。 月島 ちょっと待って!何このラストシーン! 緒川 (同時に)ちょっと待った!何このラストシーン! 水野 ミュウが言ったんじゃない、ラストはラブラブなシーンがいいって。 月島 あ、あれは、私がヒロインやるなんて思ってなかったから…。 火下 映画にはこういうシーンが必要だよね。 松木 これがないとラブストーリーとは言い難いな。 緒川 (松木に)自分が出来ないことを他人にやらせるなよ。 水野 じゃあ、多数決を取ります。このラストでいいと思う人。 松木、水野、火下の三人が一斉に手を挙げる。 緒川 くそっ、トイレに行ってくる。 緒川が教室を出る。 松木 あいつ、しばらく帰ってこないから、先に話進めよう。 明かり消える。代わりに別の明かりつく。 学校の男子トイレ。 緒川が現れる。
緒川 ありえないだろ。月島とそんなこと。だって月島と…そんなこと… 金城がすっと現れる。緒川を後ろから押す。 金城 わっ! 緒川 (驚いて)うおおおう!…何すんだよおっさん! 金城 いま想像していただろう。あんなことやこんなことを。 緒川 してねえよ。 金城 いいや、してた。 緒川 まさかあんた、台本も一枚噛んでいるのか? 金城 残念だが、今回は私は何もしてない。台本を書いたのはすべてあの中森って子だ。 緒川 くそ、あいつ…。 金城 ところで、ひとつ聞いてもいいか? 緒川 何? 金城 どうしてお前は、あの子のことを苗字で呼ぶんだ。みんなはミュウと呼んでいるのに。 緒川 別に…そのほうが呼びやすいから。 金城 本当は、名前で呼ぶのが恥ずかしいからじゃないのか? 緒川 な…。 金城 ミュウなんて、ほとんど名前で呼んでるようなものだからなー。みうみうみうみう…ミュウミュウミュウ! 緒川 ち、違う!呼びやすいからだ。本当に。 金城 まあ、そういうことにしといてやろう。…ところで、話が変わるが、ちょっと聞いてくれないか? 緒川 今後は何だよ。 金城 実は、神様に呼ばれてしまってな。 緒川 神様?
金城 妖精を束ねているお方だ。その方に呼ばれたから、戻らなきゃならん。だからしばらく留守になる。 緒川 何だよ、それ。唐突すぎるだろ。 金城 残念ながら、私も唐突に言われたんだ。 緒川 どれくらい? 金城 一週間かもしれないし、一年かもしれない。一生戻ってこれない可能性もある。 緒川 …。 金城 まあ、そういうわけで、私が帰ってくるまで一人で頑張ってくれ。もちろん、その間もハーモニカを使って願 いは叶えられるけどな。 緒川 何が「頑張ってくれ」だ。あんたが居なくてせいせいする。帰ってこなくてもいいくらいだ。 金城 …。 緒川 何だよ。 金城 …。 緒川 あんたが黙っていると気味が悪いな。何だ?俺と会えないのがそんなに寂しいか。 金城 お前は、どうなんだ。 緒川 俺はあんたが来るまでずっと一人だった。それが元に戻るだけだ。 金城 そうか。ひとつ、言っていいか? 緒川 あんたの「ひとつ」は一体いくつあるんだ。 金城 これはあくまで私の個人的な所感であって、どう捉えるかは人それぞれであり、まして当人にとっては… 緒川 前置きが長い。 金城 お前はずっと一人じゃなかった。いままでも、これからも。 間。 緒川 人間は一人だ。最初から、最後までな。
金城 高校生がえらそうに、何を知っているってんだ。おまえも、いずれわかる。 緒川 …。 金城 それだけだ。では。 金城が去ろうとする。壁にぶつかる。 金城 いてっ。 緒川 雰囲気、ぶち壊しだな。 金城 さらばだ。 金城が去る。 明かり消え、代わりに教室を照らす明かりがつく。 緒川が帰ってくる。四人は話し合っていた様子。 松木 遅かったな。大か。 緒川 特大だ。 水野 ちょっと、やめなさいよ。 火下 ピノがいない間に、ミュウはこの台本に賛成したよ。 緒川 うそだろ!(月島を見る) 月島 (顔を伏せて、うなずく) 緒川 えっ、いや、でも… 松木 そういうわけだ。これで行こうと思う。 緒川 俺の意見は? 水野 ミュウがやるって言ってるのに反対するわけ? 緒川 うっ…。
松木 さ、じゃあ早速だけど撮り始めよう。カメラもあることだし。(台本をめくって)そうだな…今できるのはシ ーン六か、あとは十二くらいか… 火下 シーン十二って、ラストだよね。 月島 六にしよう!シーン六にしよう。 緒川 (月島に)奇遇だな!俺もそのほうがいいと思ってた。 松木 仕方ない、シーン六でいくか。 緒川 何だよ、仕方ないって。 水野 (松木に)いいじゃん、楽しみは後にとっといたほうが。 火下 (松木に)カメラはこの辺りでいいかな? 松木 いいだろう。さあ位置について。いくぞ、ピノがガラスをぶち破って月島に会いに来るシーン。実際にガラ ス、ぶち破ってみよう。よーい、はいっ! 緒川 無理だろ! 緒川を除く四人が笑う。 暗転。 緒川にスポットが当たる。 緒川 こんな感じで、突然現れたおっさんは突然いなくなってしまった。神様に呼ばれたとか、もう戻ってこれない かもしれないとか、それもどうせ嘘だろ。…そう思って、俺はハーモニカを使いまくった。まずは手っ取り早 く金を手に入れようとしたが、それは無理だった。そこで、願い事のレベルを下げることにした。たとえ ば、今日の帰り道で。 別のスポットがつく。そこはラーメン屋。 松木と緒川が入ってくる。
松木 たしかに俺もここのラーメンは有名だし、食べてみたかったけどさ、お前金持ってんのかよ。 緒川 (椅子に座って)まあな。 松木 もうこれ以上貸さないからな。 緒川 わかってるって。 店員がラーメンを持ってくる。 店員 お待たせしましたー。 松木 おっ、来た来た。 緒川 (こっそりハーモニカを出して)「このラーメンを無料で食べたい」 松木 ん?何か言ったか? 緒川がハーモニカを吹く。 松木 あれ、髪の毛入ってるな。ピノ、お前のも入ってるぞ。 緒川 本当だ。 松木 (調理場に)すみませーん。 店員がやってくる。 店員 はい。 松木 これ髪の毛入ってたんですけど。こんな長い髪の毛、俺たちのじゃないですよね。 店員 大変失礼致しました!すぐに取り替えてきます。 店員がラーメンを下げる。すぐに戻ってくる。
店員 失礼致しました。お代は結構ですので、すぐに新しいラーメンをつくります。もう少々、お待ちいただけます か? 緒川 いいですよ。 店員 ありがとうございます。(と、去る) 松木 良かったなピノ。無料で食えて。 緒川 まあな。(客席を向いて)…こんなこともあったし、その後も。 ラーメン屋のスポット消え、別のスポットつく。 そこに緒川と松木が移動する。帰り道を歩いているようだ。 緒川 あー、帰り道歩くの、だるいな。ラーメン食ったし、腹いっぱい。 松木 おまえの家、駅から遠いもんな。じゃあ、また明日。 緒川 じゃあな。 松木が去る。緒川がそれを見届ける。 緒川 (ハーモニカを取り出して)ラクして帰りたい。 緒川がハーモニカを吹く。 すれ違うように走り去る男性が財布を落とす。それに気付き、財布を拾う緒川。 緒川 (男性を追いかけて)ちょっと、財布落としましたよ! 男性 (財布を受け取り、状況を理解して)ありがとうございます!助かりました!すみません、今急いでいて… (財布から二千円を取り出し)現金、これしかないんですけど、よかったら(と、二千円を緒川に押し付け て、去って行く)
緒川 え、ちょっと、いいんですか(と手を伸ばす) そこに、緒川の手を合図だと勘違いしたタクシーが停まる。 運転手(声) どちらまで?あの、お客さん? 緒川 え?(自分の腕を見て)いや、あ、乗ります。 暗転。 緒川にスポットが当たる。 緒川 おっさんがいないからか、言ったことのほとんどが叶う。なんだ、いないほうがいいじゃん!…でも正直、 あいつがいないと思うと、どこか寂しい気持ちはあった。そういえば、おっさんがいると、良くも悪くも、 息つく暇がなかった。遠くを見つめる暇がなかった。でも今夜は、俺は一人で月を見上げている。 暗転。
《土曜日》
学校の近くの公園の風景。 五人が、休日に撮影に来たところ。 明かりつく。 帽子をかぶった松木が鳩の動きをしながら出てくる。松木 クルックー、ポッポー。クルックー、ポッポー。 鳩が飛び立つ。 そこに緒川を除く残り三人が現れる。 火下はカメラを持っている。 全員が台本を持っている。 火下 あーあ、鳩、逃げちゃったね。 水野 (松木に)変なものでも食べたの? 松木 俺は今、鳩の気持ちになっていたんだよ。監督たるもの、あらゆる立場の気持ちを理解する必要がある。 水野 意味がわからない。 月島 (通行人に)あ、なんでもないです。お構いなく。 松木 じゃあ、ここらで撮るか。 火下 ところで、なんでマツケンはそんな恰好なの? 松木 監督っぽいだろ。 月島 ADっぽいね。 水野 似合ってないのは確実ね。 松木 今日はひどいな、おまえたち。 水野 今日はあんたがひどいのよ。 火下 ピノ、遅いね。何しているんだろうな。 そこに緒川が現れる。 緒川 ごめんごめん、セブンイレブンの近くの歩道橋で、通りかかったお さんの荷物持ってあげてたら、遅くなっ た。
火下 同じような言い訳を聞いたような気がする。 水野 前回はローソンで、お婆さんだったような。 月島 まあ、いいじゃない。全員 ったわけだし、始めよ、ね。 松木 月島の言う通りだ。よし、まずシーン八から始めよう。 五人が台本をめくる。 松木 あっ! 火下 どうしたの? 松木 大事なアイテムを忘れていたよ。椅子だ。俺が座る椅子。 水野 そんなもの、なくてもいいでしょ。 松木 だめだ、あれがないと「監督感」が出ない。 緒川 なんだよ「監督感」って。 松木 そしてモニターも必要だ。実は昨日、ピノと別れた後に椅子とモニターを思いついて、ドンキホーテに買いに 行って、んで、わざわざ教室に置きに戻ったんだよ。 水野 無駄なことに全力投球ね。 火下 行動力はすごいと思うよ。 松木 誰か、一緒に来てくれない? 緒川 うわあ、面倒くさい。 月島 私、行こうか? 松木 さすが月島。あ、でも力仕事だから、男のほうがいいかも。(火下に)ヒゲ、悪いけど一緒に来てくれない? 火下 いいよ。 緒川 いいのかよ。 松木 (残る三人に)じゃあ、行ってくるわ。大丈夫、すぐそこだ。十分くらいで戻るから。 水野 ちょっと、本当に?せっかく全員 ったのに。
松木 (去りながら)アディオス! 松木と火下が走り去る。 緒川 あーあ、本当に行っちまったよ。 月島 本当に行っちゃったね。 残された三人。 水野が二人の顔を交互に見る。何かに気付く。 水野 あ、私も忘れ物。 月島 何を忘れたの? 水野 え、うん、その…バナナ。 月島 バナナ? 水野 そう、おやつのバナナ。 月島 アキちゃん、今日は遠足じゃないのよ。 水野 いや、ほら、ちょっとね。十分くらいで戻るから。じゃ。 緒川 ちょっと… 水野が足早にその場を去る。 緒川 なんなんだよ。 残された二人が顔を合わせ、背ける。
なんとなく落ち着かない様子の二人。 月島 エクアドルかな、フィリピンかな。 緒川 それ、どうでもよくない? 月島 あのさ、せっかく時間あるし、練習しない?シーン八の。 緒川 ああ、いいけど。ちょっと待って(と、ページをめくる) 月島 六十四ページね、いい? 緒川 セリーヌの台詞の<なんだか、久しぶりね>から? 月島 うん。じゃあ、いくね。 緒川と月島にスポットがあたる。 月島 <なんだか、久しぶりね、アルバートと、こうやって公園を歩くのは> 緒川 (棒読みで)<セリーヌ、いつも苦労をかけてすまない。俺がもっとしっかりしていれば、おまえにフィッシ ュ&チップスを好きなだけ食べさせてあげられるのになあ>……なんで舞台がイギリスなんだろう。 月島 <ううん。いいの、アルバート。私はこういう時間が一番好き。何でもない、公園を散歩するような時間が。 今は貴重な時間になってしまったわ> 緒川 (棒読みで)<この戦いが終わったら、いやというほど、のんびり出来るさ。あと少しだけ、この苦しい暮ら しを、我慢していてほしい> 月島 (緒川に向いて)<信じてるわ、アルバート> そこで緒川が吹き出す。 全体に明かりつく。 月島 (慌てて)ええ、私、台詞間違えちゃった?
緒川 (笑いながら)いや、俺がアルバートかよ、って思ったらおかしくて。 月島 そんなこと言ったら、私もセリーヌだよ。(と、笑う) 緒川 中森先生、ひどい設定だよ、全く。 月島 「フィッシュ&チップス」って、言いたかっただけだよね、絶対。 笑い合う二人。和やかな雰囲気。 全体の明かりが消え、陰から二人の様子を覗くような仕草の松木、水野、火下にスポットが当たる。 松木 うわあ、いい雰囲気じゃん。ひと芝居打った甲斐があるってものよ。 火下 マツケンはこういうところ、気が利くよね。 水野 こういうところだけね。 松木 失礼な。 火下 ところで、中森は話の設定つくるの、下手だよね。 水野 失礼な。 再び、全体に明かりつく。 緒川 でもさ、この台本じゃないけど、戦争の時代の人たちって、なんでこんな必死に戦うんだろうな。俺にはちょ っとわからない。 月島 正義のためじゃない? 緒川 正義ってのは絶対的なものじゃない。立場によって変わるものさ。 月島 うーん…あ、きっと、愛する人のためだよ。 緒川 愛する人? 月島 家族とか、恋人とか、仲間のために。大切な人たちのためなら、命がけで頑張れるんだよ。